ソフィアの怪我は夜には回復し、グリフィンドールの談話室に戻る事が出来た。
強い薬の副作用で少し倦怠感はあったが、夜にゆっくり眠ればマシになるだろう。
ソフィアは太ったレディに合言葉を告げ、もう少し身長の低い生徒のことを考えた作りにしてほしいと内心で思いながらなんとか額縁を掴み這い上がった。
談話室に降り立った途端、身体に強い衝撃的と圧迫感、そして暖かさを感じソフィアは目を丸くした。
「──ジョージ?」
自分を強く抱きしめるジョージの腕の中でソフィアは驚きながらくぐもった声を上げた。
「ソフィア!大丈夫かい?かなりの怪我だってきいたよ!?」
「俺らすぐに様子を見に行ったんだけど、ポンフリーに面会謝絶だって言われて…」
ジョージは身体を離すと心配そうにソフィアを見つめる、隣に立つフレッドも怪我は残っていないかと頭の先からつま先までじっと見ていた。
二人の心配そうな顔にきょとんとしていたソフィアは嬉しさと、何だか2人に似合わないその表情に思わず吹き出してしまう。
「あははっ!大丈夫よ!…でも、面会謝絶なのは知らなかったわ」
ソフィアは2人に促され談話室のソファに座った。2人はまだソフィアを心配していたが、いつものように笑う彼女を見てほっと安堵の息を吐く。
「んー多分、怪我が背中で…治療のために上は裸だったの、だから人を入れなかったんじゃないかしら」
ソフィアは何でもないように言うが、双子はその言葉に彼女の裸体を想像しかけて慌てて首を振り自分の想像をもみ消した。年頃の男子なのだから、つい想像しても仕方のない事だろう。
「まぁ、無事で良かったよ」
「ああ、本当にな!快気祝いに…1つ良い話があるんだ!…聞いてくれるかい?」
「ええ!勿論よ!」
双子の悪戯っぽい笑みに、ソフィアも同じように笑う。3人は頭を合わせるようにして身を屈め、他の誰かに聞かれないよう声を顰めながら彼らの言う良い話、をし始めた。
「──で、これを成功させるにはソフィアにも協力して欲しいんだ!」
「無理にとは言わない、病み上がりだろうし、…間違いなく減点されるからな」
ジョージはソフィアの身体を気遣ったが、ソフィアは楽しげに笑うと迷う事なく頷いた。
「大丈夫よ!是非協力させて!」
双子は顔を見合わせ、にやりと笑うと同時に立ち上がり演技かかった動作でソフィアに手を差し出した。
「それならば!我らが姫様の快気祝いに!」
「素晴らしい余興を演じましょう!」
「ふふっ!光栄だわ!」
ソフィアはそれぞれ差し出されたジョージの右手とフレッドの左手をとり、しっかりと握った。
ーーーー
土曜日の朝、ルイスは大広間でいつものようにスリザリンの生徒が集まる長机の席に座りながら、どこか不安気な顔で何度も入り口を見ていた。
人が入るたびにその人物が探している人ではないとわかると肩を落とす。
「…ソフィア…どこ行ったんだろう…」
昨日の夕方、ドラコと別れ医務室に行った時にはまだ会う事が出来なかった。それでも諦めきれず自由時間の終わりぎりぎりに医務室に向かえば、もう回復して寮へ戻ったという。
それなら朝に迎えに行こう、と予め聞いていたグリフィンドールの寮塔の前で待っていれば出てきたハーマイオニーに「朝早くに出て行ったの、てっきりあなたに会いに行ったと思ってたわ!」と驚かれた。
驚きたいのはこっちの方だった、一体、僕の片割れはどこへ消えてしまったのだろうか。まさか、スリザリン生にちょっかいを出されているのかとも思いスリザリンの談話室で様子を伺ってみたが、いつもソフィアの事を疎ましく思い陰口を叩いていた主犯格達はもう呪いが発動したようで、姿を消していた。
図書室や、もしや、と思い父の研究室へ行ってみたがそこには誰もいなかった。
捜索できるところは全て探しても、ソフィアを見たという情報も得ることが出来ず、ルイスは不安そうに表情を陰らせながらとぼとぼと大広間へやってきたのだった。
流石に、朝食の時間には現れるだろう。そして、いつものようにここに来るに違いない、そう思っていた。
だがその期待は打ち砕かれる。朝食の時間になってもソフィアは現れる事はなかった。
がやがやとした生徒の楽しげな会話が大広間の至る所で交わされる。ホグワーツの新年度が始まって、今日は初めての休日だ、きっと新入生達はこの後ホグワーツの探検に出かけるのだろう。
楽しげな声を聞いていても、ルイスの心はちっとも晴れなかった。
「…少しは食べた方がいいんじゃないか?」
「ドラコ…」
見るからに元気のないルイスに、ドラコはそっと目の前にあるプディングを薦めた、確かこれは彼の好物だったはずだ。
ルイスは肩を落としたままスプーンを掴み、少しだけ掬って口元に運んだ。カラメルソースのほろ苦い味が口の中一杯に広がる、美味しい、とても、でも何故か物足りない。
ルイスが何度目かのため息をついた時。
──バァン!
大きな音を立てて大広間の扉が開かれた。
生徒たちは皆何事かとそちらを一斉に振り返る。
「ヒャッホーー!」
「我らが姫様の復活だー!」
「きゃー!あははは!!」
それぞれの箒に乗ったフレッドとジョージが生徒達の頭上ぎりぎりを物凄い速さで飛び交う、慌てて生徒達は机の下に潜り込み避難したが、ルイスは思わず立ち上がった。
「ソフィア!?」
楽しげな声を上げ、ジョージの背中にしがみつくようにして箒に乗っていたのは今まで探していたソフィアだった。
速いスピードで空を駆けるジョージを煽るかのような「もっと!もっと速く!」と楽しげな叫びが聞こえる。ちらりと見えたその頬は赤く染められ、風に髪を靡かせ満面の笑みを浮かべていた。
「ウィーズリー!ミス・プリンス!降りなさい!」
マクゴナガルが三人に向かって叫ぶが、三人は聞こえていないのか、それとも無視しているのか──おそらく、後者だが──高い位置で止まると赤毛の双子はポケットに手を入れ、何かを高く放り投げた。
「それっ!」
それは天井ギリギリまで上がると眩い光と共に破裂音を響かせる。
色とりどりの美しい花火に、机の下で怖々と見ていた生徒達は思わず歓声を上げて机から顔を出した。
「最後の仕上げだ!」
「ソフィア!頼んだぜ!」
「ええ!──いくわよ!」
ソフィアは杖を出すと花火に向けて魔法を放つ、それは彼女が得意とする変身魔法だった。
「花よ!鳥よ!蝶よ!──
その言葉に反応するかのように花火から出た無数の火の粉は沢山の花弁を散らす花になり、空を優雅に飛ぶ小鳥になり、ひらひらと美しい蝶になった。
銀色に輝くそれらは大広間中を駆け巡り、生徒達の側を掠めた。
「綺麗…」
幻想的な魔法に誰かがぽつりと呟けば、それを皮切りに皆が興奮したように歓声を上げ手を叩く。マクゴナガルでさえも、一瞬怒りを忘れてその美しい魔法に魅入ってしまっていた。
ダンブルドアは椅子に座り、楽しげに笑いながら目の前にくるくると落ちてきた銀色の花をそっと手に取る。それは暫く繊細なガラス細工のような輝きを見せていたが、時間の経過と共に空気に溶けるようにして消えた。
三人は大歓声の中、堂々たる態度で地面に降り立つと、割れんばかりの喝采に手を上げ笑顔で答えていた。
「ウィーズリー!ミス・プリンス!!」
だがそれもマクゴナガルの怒号により直ぐに消え、三人を取り囲んでいた生徒達は怒れるマクゴナガルにさっと道を開けた。
三人は顔を見合わせると、悪戯っぽく笑い、そして──。
「「逃げるぞ!」」
「お待ちなさい!!」
「マクゴナガル先生!ごめんなさーい!」
フレッドはソフィアを肩に担ぐようにして抱き上げそのまま三人はマクゴナガルの静止も聞かず、逃げ出した。
その後、三人はあっさりとマクゴナガルに捕まり──そもそも、本気で逃げるつもりは三人には無かったのだった──長時間の説教とグリフィンドールからの五点減点、そして一週間のホグワーツ清掃の罰則を言い渡された。
この一件からソフィアはよくフレッドとジョージと共に行動し、悪戯を行うようになる。
今まで双子は2人で作った魔法道具を使い悪戯をしていたが、それにソフィアの変身魔法が加わることによりさらに大胆で強烈な悪戯へと進化したと言えるだろう。
ただでさえ教師達はフレッドとジョージに手を焼いていたと言うのに、それに優秀な変身術使いが加わった事に、皆頭を抱えていた。
しかし、生徒達の中には、また幻想的な魔法を見たいと思った者も少なくはなかったようで、彼らの悪戯は肯定的に受け入れられていた。──勿論、スリザリン生を除いて、だが。