数占いの授業が終わった後、ソフィアは夕食を取るためにハーマイオニーと共に大広間に向かっていた。
大広間に続く玄関ホールは腹を空かせた生徒たちで溢れかえり、既に行列ができていた。
「ハリー!ロン!」
ソフィアは行列から少し離れた場所で自分達の到着を待っていたロンとハリーを見つけると駆け寄る。
「あら、どうしたの?」
「占い学で、宿題がいっぱい出たんだよ…」
「まじで、週末いっぱいかかるぜ?」
ハリーとロンの不機嫌そうな顔に気付いたソフィアは首を傾げ何があったのかを聞いた。ロンは嫌そうに宿題の量を嘆いたが、ハーマイオニーはそれを聞いてニヤリと笑う。
「私たちには、ベクトル先生はなーんにも宿題を出さなかったわ!」
「じゃ、ベクトル先生ばんざーいだな」
ハーマイオニーのからかうような言葉に、ロンは嫌そうな顔をして吐き捨てる。
いつもは宿題が出ていた数占いだったが、珍しく宿題は無かった。数多くの科目を受講しているソフィアとハーマイオニーにしてみれば、それ程有難いことはないだろう。
「ウィーズリー!おーい、ウィーズリー!」
突然、ロンの名を叫ぶ声が聞こえた。その声音は意地悪く、しかしどこか楽しそうでもあり、聞き覚えのある──聞きたくはないその声に、ロンとハーマイオニーとハリーは嫌そうに顔を顰めたままその声のする方を振り向いた。
生徒達を掻き分けてながら現れたのはドラコであり、その後ろからルイスが同じように現れる。
ドラコの手には何か紙のようなものが握られていて、その目はおもちゃを見つけた子どものように輝いている。
「ドラコ、やめなってば!」
ルイスは厳しい表情でドラコを静止するが、ドラコはそんな言葉で止まるわけもない。
何故なら、ドラコのこれは趣味であるからだ。
「何だ?」
ロンは目の前に現れたドラコに顔を顰めたままぶっきらぼうに聞く。
「君の父親が日刊預言者新聞に載ってるぞ、ウィーズリ!聞けよ!」
ドラコは意地悪く笑いながら、手に持っていた日刊預言者新聞をひらひらと振り、玄関ホールにいる生徒たち皆に聞こえるように大声でその内容を読み上げる。ルイスは頭を押さえ、「まったく、もう…」と大きなため息を呟いた。
「魔法省、またまた失態──」
日刊預言者新聞の記者であるリータ・スキーターにより魔法省のトラブルがスクープされていた。
クィディッチ・ワールドカップの警備の不手際や、職員の失踪事件について書かれ、その中でロンの父であるアーサーの名前が──アーノルド、と間違えられていたが──書かれていた。
マッド・アイ・ムーディとのトラブルについても触れられ、一見するとアーサーが大きな失敗を行ったように捉える事が出来る内容であり、ロンの顔はみるみるうちに怒りから赤く染まる。
「写真まで載ってるぞ、ウィーズリー!君の両親が家の前で写ってる──もっとも、これが家と呼べるかどうか!君の母親は少し減量した方がいいんじゃないか?」
「ドラコ!」
ソフィアはドラコの言葉にかっと顔を赤くし、非難めいた声で強く名を呼んだ。ロンは怒りに震え、言葉も出ずわなわなと口を震わせる。一瞬、ドラコはソフィアを見たが──こんな彼にとって愉快な状況をすぐに止める事など、ドラコには出来なかった。
「
「うわっ!?」
ルイスは杖を振り、ドラコが手に持っていた日刊預言者新聞を燃やし真っ赤な炎がドラコの目の前で高く上がる。ドラコは慌てて日刊預言者新聞を捨てたが、その白い手は火傷を負ってしまった。
ドラコは、まさかルイスが攻撃魔法を自分に繰り出すとは思わず、強くルイスを睨んだが──あまりに、ルイスの目が冷ややかであり、ごくり、と固唾を飲んだ。
また、調子に乗ってしまった。…いや、わかってはいる。ルイスも、ソフィアも彼らを侮辱されるのが嫌なのだと。…だが、それでもアイツらを見ると、何とかして辱めてやりたいという気持ちが抑えられない。
「ドラコ。──いい加減にしろ」
低く呟いたルイスは、まだその杖先をドラコに向けていた。
ソフィアはルイスの怒りがよくわかったが、流石にドラコにインセンディオを向けるつもりは無く──少々やりすぎなのでは、とチラチラとドラコとルイスを見比べてながら一歩後ろに下がりロンのローブを掴んだ。…こうしておかなければ、きっとロンはドラコに飛びかかるだろう。
「マルフォイ早く医務室へいけば?…ロン、行こう」
痛そうに皮膚が赤く引き攣っているドラコの手を見たハリーはいい気味だ、もっと痛めばいい──と思いながら今にもドラコに飛びかかりそうなロンの肩を抑え、ソフィアとハーマイオニーと共に無理矢理大広間へ引っ張った。
ドラコはルイスから視線を外すとヒリヒリと痛む手を抑えながら憎々しげに離れていくハリーを睨み、その遠ざかる背中に向かって噛み付くように叫んだ。
「そうだ、ポッター。君は夏休みにこの連中のところに泊まったそうだね?それじゃ、教えてくれ。ウィーズリーの母親は、本当にこんなに太ってるのか?それとも単に、写真映りかねぇ?」
「マルフォイ、君の母親はどうなんだ?」
ハリーはロンのローブを抑えながら振り返り、冷ややかな目でドラコを睨む。
まさか母親のことを言い返されるとは思わず、ドラコは大きく目を見開いた。
「あの顔つきはなんだい?鼻の下に糞でもぶら下げているみたいだ。いつもあんな顔してるのかい?それとも、単に君がぶら下がっていたからなのか?」
「…僕の母上を、侮辱するなポッター」
「それなら、その減らず口を閉じとけ」
人の母親を侮辱するのだ、自分の母親を侮辱されても仕方のない事だろう。
ハリーはドラコの頬が怒りで赤く染まりその顔が歪んだのを見て愉悦感に浸りながらくるりと背を向ける。
ソフィアとルイスは、ハリーの酷い言葉に驚き、少し悲しそうに眉を寄せた。
ソフィアとルイスにとって、モリーもナルシッサも素晴らしい女性だった。
母を知らない二人は、モリーの包み込むような優しさが大好きだったし、ナルシッサの美しく気品溢れる振る舞いを尊敬していた。
突如、大きな爆発音が響く。
それを見ていたのはルイスだけであり、止める間も無く──母親を侮辱されたことが耐えられず、ドラコは衝動的に杖をハリーに振るい魔法を放った。
白い光線がハリーの頬をかすめ、壁に激突する。
攻撃された、そう理解した瞬間ハリーはローブのポケットに手を突っ込み杖を取り振り返ろうとしたが、それよりも早く再びつんざくような爆発音が響く。
「若造、そんな事をするな!!」
「「ドラコ!!」」
ムーディの吠えるような声と、ソフィアとルイスの悲痛な叫びが重なった。
ハリー達が振り返るより早くソフィアはロンのローブから手を離し、素早く走り出す。
ルイスもまた、顔を蒼白にしてソフィアの元に駆け寄るとすぐにしゃがみ込んだ。
大理石の階段を、ムーディはコツ、コツ、と足音を響かせ降りてくる。険しい表情を崩す事なく、その杖は──ソフィアとルイスに向けられていた。
杖先を二人に向けたまま、ムーディは階段を降り切ると普通の目で、ハリーを見据えた。
「やられたかね?」
「いいえ、外れました」
ムーディーの唸るような低い声に、ハリーは頬を押さえながら首を振る。しかし、ハリーはそれよりも何故ムーディが二人に杖を向けているのか分からず、困惑していた。
周りの生徒達は顔に恐怖の色を滲ませ恐々とムーディとハリー達を見つめる。誰一人として動けないのは、ムーディが出す異常な空気感のせいだろうか。
「触るな!」
突然、ムーディはハリーを見たまま鋭く叫ぶ。
ハリーは手を開き、「触るなって、何に?」と戸惑いながら聞き返したが、ムーディは振り返ることなく親指で背後にいたソフィアとルイスを指した。
「お前ではない──あいつらだ!」
ソフィアとルイスは肩を震わせた。
ソフィアは腕の中で白いケナガイタチを抱きしめムーディを睨む。ルイスはそんなソフィアを自分の後ろに押しやると片手を広げ守るように、ムーディから隠した。
「触るなと、言ったはずだが?」
ムーディはハリーからようやく視線を外し、ソフィアとルイスに向かい合うと凍りつくような静かな声で二人に問う。
だが、ルイスもソフィアも黙ったまま、唇を強く噛んでいた。
ハリーは、その場所が先程までドラコがいた場所だったとようやく気がついた。──しかし、ドラコの姿はない。ムーディを見て逃げ出したのだろうか?
「…ムーディ先生。早く、戻して下さい」
ルイスが硬い声で、呟いた。
その言葉の意味がわかったのは、ドラコがケナガイタチに変身した瞬間を目撃したソフィアと、騒動を見守っていた周りの生徒達だけだろう。ハリー達は背を向けていたために、ドラコに何があったのかを知らなかった。
しかし、ムーディは頷くことは無く無言で杖を振り上げる。
「あっ!──ダメ!!」
ソフィアの悲鳴が響き、必死に止めようと手を伸ばしたが──ソフィアの腕の中からケナガイタチは透明な鎖に引っ張られるように飛び出し、キーキーと怯えたような鳴き声を上げた。
「敵が後ろを見せた時に襲うやつは気に食わん!」
ムーディがそう叫びながら杖を振り下ろし、その動きに合わせるようにケナガイタチが勢いよく落下した。
バシッ、と肉が床に打ち付けられる音と、ケナガイタチの悲鳴が響く。
「鼻持ちならない、臆病で、下劣な行為だ!」
一瞬、目の前で起こる惨劇に動けなかった二人だったが、ケナガイタチの──ドラコの苦しげな鳴き声に、ソフィアとルイスは顔を引き攣らせ、咄嗟にルイスがケナガイタチが下がった瞬間飛びかかり強く胸の中に抱きしめ、ソフィアは持っていた鞄を放り投げ、ムーディに向かって杖を振るい叫んだ。
「
投げられた鞄は瞬き一つする間に灰色の大きな狼に変わりムーディに向かって飛びかかる。一瞬、ムーディは初めてソフィアを普通の目と、魔眼で見たが無言で杖を横に払うように薙ぎ、その狼をいとも簡単に鞄に戻した後「邪魔をするな」と吐き捨て杖を振るう。
「──!!」
ソフィアは声もなく、その場に膝をつき杖を落とした。見えない何かで縛り上げられるかのように、ソフィアの腕は身体にぴったりとくっつき、ローブは歪に凹み縄のような痕を残す。何かを言おうとするが、ソフィアの口は糊付けされたかのように閉じたまま動かなかった。
流石に、最前線で戦ってきた闇払いに攻撃が効くわけがない、とソフィアは悔しさから強く奥歯を噛み締めたが、それでも目だけはムーディを睨み続けていた。
「ソイツを離せ!巻き添えになりたいのか!」
「嫌だ!」
ルイスは片手にケナガイタチを抱きしめ、もう一方の手で素早く杖を持ちムーディに向けた。
ムーディはぐるぐると動く青い目でルイスを見た後、普通の方の黒い目を少し細め、鋭い眼差しで睨む。
まさか、
ムーディは見た目の恐ろしさも勿論のことだが、彼本人のエピソードも有名だ。闇払いとして数多くの死喰い人を捉えた彼は、間違いなく最強の闇払いである。引退したと言ってもその力を知らないわけでは無いだろう。
この少年は自暴自棄になり杖を構えているのではなく明確な意志を持ち、杖を掲げている。恐怖に彩られているのではなく、
この少年だけではなく、見事な変身術で狼を使役させていた少女もまた同じような目をしていた。
──面白い。
ムーディは不敵に、微笑む。
しかしその歪んだ口先を見て、ルイスは警戒を緩めるどころかさらに強めた。
素早くムーディは杖を振るい、先ほどのようにルイスの腕の中から
「
バチッと見えない何かがルイスが出した銀色の盾に阻まれた音が響く。
ルイスは油断なくムーディを見たまま、魔法をかけられ動けないソフィアの元へじりじりと寄ると自分の背に隠す。
緊張と、教師に対して攻撃を──ルイスは正しくは防御魔法だが──した2人に、周りの生徒達は何も言えず、他の教師を呼びに行くことも出来ず、ただ恐々と固唾を飲んで見守っていた。
ハリー達ですら、双方が出す空気に動けなかったが──ただ、床に膝をつくソフィアの状態が気になった。
ルイスが幾ら呪文学が得意であるとはいえ、戦闘経験はそれ程多いわけではない。ムーディはもう一度杖を鋭く振るい、ルイスのプロテゴを破壊すると──ルイスの目の前で何かが弾けるような爆破がした──即座にルイスの杖を武装解除で奪ったのち瞬きも許さぬ速度でルイスごとケナガイタチを宙に浮かせる。
「うわっ!?」
ルイスはぐん、と高く浮かび、そして次に来るだろう衝撃に身体をこわばらせ、しっかりと胸の中にケナガイタチを抱きしめた。
そのまま落下し、バシン、と一度背中を打ち付けルイスはくぐもった声を上げる。
「ムーディ先生!」
誰も、何も話せない中、通りかかったマクゴナガルが異様な空気に厳しい声で叫ぶ。
「やあ、マクゴガナル先生」
ムーディはルイスとケナガイタチを再び浮かせたまま落ち着いた声でマクゴナガルに挨拶をした。
マクゴガナルは両手一杯に教科書を持ちながら肩で生徒達を押し退け中央に躍り出たが、その異様な状況にバサバサと持っていた教科書を落とした。
ぽっかりと空いた空間で、宙に浮かんでいるとルイスと、それに抱きしめられている何か白い生き物と、そして地面に膝をつき必死な目で何かを訴えているソフィアを見た。
マクゴナガルはすぐにソフィアに杖を向け「
急に身体を強く締め上げていた束縛が解かれたソフィアはバランスを崩し思い切り前向きに倒れたがすぐに杖を拾い立ち上がるとルイスに向かって杖を振るった。
「
ムーディの魔法が解かれたルイスはすぐに落下を始めたが、地面に落ちる前にふわりと体が浮き、すとん、と静かに石畳の上に落ちた。
「ルイス!!」
「いったい。何をなさっていたのですか?ムーディ先生」
「教育だ」
当然のようにいうムーディに、マグゴナガルはきっと強い目でムーディを睨む。
ルイスとソフィアが何をしたのかはわからない。だが、それでもこのホグワーツで体罰は行ってはいけないと規則で決められているのだ。
「教育?生徒を吊り上げ、魔法で拘束する事が、教育ですって?このホグワーツでは体罰は禁じられ──」
「マクゴナガル先生、ドラコを…戻して下さい…!」
ルイスはすぐに身体を起こし、ぐったりとしているケナガイタチをマクゴナガルに見せた。
マクゴナガルは、一瞬何を言われているのかわかなかったがあまりに必死なそのルイスの声と、今にも泣きだしそうなソフィアの瞳に顔をこわばらせる。
「ムーディ、これは、…マルフォイなのですか」
「さよう!」
「そんな…!」
マクゴナガルは、愕然としながらもすぐに杖を振るう。バシッという大きな音が響き、ケナガイタチはドラコへと戻った。
ドラコの顔は真っ赤に紅潮し、いつもは整えられているプラチナブロンドの髪がばらばらと顔にかかり、顔を引き攣らせたままルイスの腕の中に抱きしめられていた。
「ドラコ!ルイス!ああ…大丈夫!?」
ソフィアはすぐに二人のそばに駆け寄り膝をつくと心配そうに2人の身体に大きな怪我はないかと忙しなく視線を動かした。
「僕は、大丈夫」
「ルイス…!何故、僕を庇った…!」
ドラコはルイスの胸元をぎゅっと掴み、ムーディへの怒りと恐怖、そして辱めを受けた屈辱感に震えながら悲痛に叫ぶ。
ルイスは困ったように笑うと、ドラコの背中をぽんぽんと軽く叩いた。
「だって、親友でしょ?」
「…っ……」
ドラコはぐっと言葉に詰まると、ルイスの胸に頭をつけて肩を震わせた。
マクゴナガルはドラコのとルイスの様子を見て大きな怪我は無さそうだと胸を撫で下ろした後、強い非難の眼差しでムーディを睨んだ。
「ムーディ。本校では懲罰に変身術を使う事は絶対、ありません!ダンブルドア校長が、そうあなたにお話ししたはずですが?」
「そんな話をされたかもしれん、ふむ。…しかし、わしの考えでは一番厳しいショックで──」
「ムーディ!本校では居残りの罰を与えるだけです!さもなければ規則破りの生徒が属する寮の寮監に話します!」
「ならば、そうするとしよう」
マクゴナガルに強い口調で言われ、ついにムーディはめんどくさそうに吐き捨てた後、ドラコを嫌悪の眼差しで睨んだ。
ソフィアはムーディに対するする強い怒りから──拳をぎゅっと握ると立ち上がり、マクゴナガルを追い越しムーディの前に立ちはだかる。
「お言葉ですが、ムーディ先生。貴方はドラコが敵が後ろを見せた時に襲うやつは気に食わんと言っていましたよね?」
「…そうだが?」
「ですが!──私は!生徒を牙の持たない弱き生き物に変身させ、一方的に痛ぶるそれこそが!臆病で!下劣な行動だと思います!なぜ、面と向かってやりあわないのですか?騎士道を重んじるのなら、正々堂々の決闘が好きなら、そのように罰を与えるべきです!」
ソフィアの叫びは玄関ホール中に広まった。
ムーディは両方の目でじっとソフィアを見ていたが、「…ふむ」と顎を掻く。青い眼球がじろじろとソフィアを舐め回すように見たがソフィアは臆する事なく果敢にその場に立っていた。
「お前、名前は?」
「…ソフィア・プリンスです。あなたの攻撃魔法に巻き込まれ傷ついたあの少年…ルイスは──私の双子の兄です」
「ああ…マルフォイを庇うからだ、離せばそんなことにならなかったものの…」
「他者を巻き込む罰は、既に教師が行っていい懲罰を超えています。…私は、…その、ムーディ先生に杖を向け魔法を…繰り出しましたので…締め上げられるのも、当然でしょう。…ですがルイスには、謝ってくれますよね?彼は何も悪いことをしていません。止めようとしただけです!」
「…ふむ」
ムーディは暫く沈黙したが、ふっと歪な口で笑みの形をつくると、くつくつも喉の奥で笑う。
いきなり笑われた事に、ソフィアは目を見張り訝しげにムーディを見たが、今までの硬く凶暴な空気を少し和らげたムーディは普通の方の目でルイスを見た。──青い目は、まだソフィアを見続けていたが。
「──すまなかったなルイス、だったか。少々頭に血が上っていたようだ」
「え?…あ、…いえ、僕…勝手に、したので…」
ルイスはまさか素直に謝罪が聞けるとは思わず、しどろもどろに答える。
「マルフォイ、お前の寮監はスネイプだったな?」
「…そうです」
ドラコはようやくルイスから離れ、よろめきながら立ち上がると悔しそうに呟いた。
ルイスもまた打ち付けた背中を抑えながら立ち上がり、ドラコにそっと寄り添いムーディを見る。
「やつも古い知り合いだ。懐かしのスネイプ殿と口を聞くチャンスをずっと待っていた…さあ、来い」
「…僕も、スリザリン生です。…僕の怪我の説明も、してくれますよね?」
「ああ、話さないとならんな」
ムーディはドラコの腕を掴み、地下牢へと引っ張っていく。ルイスはソフィアに「後でね」と小声で声をかけ、腕を抑えたまま2人の後を追いかけた。
マクゴナガルは暫くの間心配そうに3人の後ろ姿を見送っていたが、やがてソフィアの方を向き、手を差し出した。
ソフィアは、険しくしていた表情を弛緩させ、きょとん、と首を傾げる。
「何でしょう…?」
「腕を、見せなさい…ミス・プリンス」
「え?…はい」
ソフィアはマクゴナガルの手に、自分の手を重ねた。マクゴナガルは杖を振るいソフィアのローブの袖を肩口まで捲り上げ、その白い腕を露出させると──「ああ、やはり…」と辛そうにため息をついた。
ソフィアの腕には赤黒い痕が付き、白い肌を痛々しげに染めていた。
「…まったく。ムーディはあなたにどれほど強力な魔法をかけたのか…本当に、信じられません!…直ぐに、医務室に向かいましょう」
「…はい」
この分だと、身体中に締められた痕があるに違いないとソフィアは思った。
あの時は必死でそれほど痛みを感じなかったが──安心した今になって、身体中がぎしぎしと痛んだ。
「…ハリー、ハーマイオニー、ロン。…また後でね」
「ほら──はやく行きましょう」
ソフィアはハリー達にそう声をかけたが、ハリー達は何も言えずただ小さく頷いた。
マクゴナガルはソフィアを先導し、きびきびと医務室に向かう。
マクゴナガルとソフィアがいなくなったあと──つまり、騒ぎの中心人物達が消えたあと、ようやく玄関ホールに居た生徒達はざわざわと騒めき口々に今起こったことを話しながら興奮した面持ちで大広間に向かう。
「ケナガイタチだったね!」「あの男の子、友だちを庇ったってことか?よくやるよなぁ」「ほら、あの子はスリザリン唯一の良心の──」「それに、あの女の子、見た?あの狼!凄いわよね」「ムーディ先生によく言えたよね?僕なら何も言えないよ!」
生徒たちの言葉を聞きながら、ハリー達は顔を見合わせ、静かに大広間の扉を通り料理が並ぶ席に着いた。
「ソフィア…ああ、あんなに、赤くなって…私、後ですぐにお見舞いに行くわ!」
「うん、僕も行くよ」
「ルイス…マルフォイなんて庇わなくてもよかったのになぁ…」
ハーマイオニーは蒼白な顔で叫び、慌てて料理を食べ始める。はやく食べてソフィアの怪我の様子を見に行きたかったのだ。
ハリーもすぐにフォークを掴み、大きな肉に突き刺しかぶりつく。
ロンはどこかつまらなさそうに呟いてマッシュポテトをぱくりと食べた。
親を侮辱した、大嫌いな人間が苦しむのは正直なところ──胸がすっきりとする。最高の光景だった。
だが、それを庇って傷ついたのは友人の1人であるルイスだ。
それを考えると──なんとなく、モヤモヤとしたものが残ってしまった。
ソフィアは身体中に残った赤黒い痕を消すために『痕消し薬』を塗られていた。
内出血しているその痕は、ソフィアの元々の白い肌も相まってかなり痛々しいものだったが、ポンフリーの適切な処置によりすぐにその色はうっすらとピンク色程度に戻っていった。
ミントのような爽やかな匂いがする薬を飲んで塗られたソフィアは、少々肌へのベタつきを気にしながらも脱いでいた服を着る。
「この小瓶を渡しておきます。夜のシャワー後、塗るように。背中はルームメイトに塗ってもらいなさい、いいですね?」
「はい、ありがとうございます」
ソフィアはしっかりと小瓶を受け取り、頭を下げる。
早く行かなければ夕食の時間が無くなってしまう、とベッドから降りたとき、ガラガラと医務室の扉が開いた。
「マダム・ポンフリー。背中を打っちゃって…何か塗り薬ありませんか?」
「まぁ、ありますよ。貴方は付き添いですか?」
「僕も…体を、床にぶつけてしまって」
「わかりました。2人ともベッドに座って待っていてください」
背中を押さえたまま現れたのはルイスであり、その後ろには何やら落ち込んだ様子のドラコがいた。
ポンフリーはすぐに打撲に効く薬を飲んで持って来るために医務室の奥にある部屋へきびきびと向かった。
「ルイス、ドラコ…大丈夫?」
「あれ、ソフィア…どうしたの?怪我…ムーディ先生の魔法で?」
ルイスはベッドの側にソフィアが居ることに気がつくと心配そうに駆け寄り、怪我はどこだろうかと身体中を見渡す。
ソフィアはすこし服の袖を捲り、ピンク色の痕を見せたが「大丈夫、明日には治るわ」と明るく答えた。
ドラコは罰が悪そうな顔をしてソフィアの元に近付き、彼にしては珍しく「すまない」と素直に謝った。
ドラコはケナガイタチに変えられている間、人間としての思考がかなり不明瞭になっていた。
獣そのものになってしまったかのように、ただ自分に害を与えるムーディが恐ろしく、逃げ出したい衝動と、強い恐怖が思考を占めていた。そんな中自分を守るルイスの存在にも気がついていたが、それがルイスだとも分からず──庇われ、守られたとわかったのは人間に戻り、ルイスの上で思考を取り戻してからだ。
そのため、ドラコはソフィアがムーディにより強く束縛されていた記憶が無い。
寮監であるセブルスに何があったのかをムーディが説明している中で、初めてソフィアがムーディに対し魔法を放ち、彼に束縛されたのだと知ったのだ。
「大丈夫よ、ドラコ。痕も明日には消えるわ!それに、身体の痛みもポンフリーからもらった薬ですっかり治ったもの」
「…そうか。……でも…」
「まぁ、これに懲りたら…あなたの趣味をすこしは控える事ね」
ソフィアはくすくすとからかうようにドラコの顔を覗き込む。
ドラコは僅かに微笑んだが──彼らしく、頷く事はなかった。
ソフィアはダンスパーティ、誰と踊りますか?
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ドラコ
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ハリー
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フレッド
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ルイス