4年生といえば、学生生活の折り返し地点であり──来年には
どの授業でもそうなのだが、特に闇の魔術に対する防衛術の授業は苛酷そのものだろう。
初めての授業から2週間程度たったある授業の時、ムーディは唐突に「生徒一人ひとりに服従の呪文をかけ、抵抗力を調べる」と言い出した。
流石に教室内が不穏にざわついたが、ムーディは気にすることなく杖を一振りし机や椅子を片付け、教室の中央に広いスペースを作った。
生徒達が不安から自然と教室の端に固まる中、どうしようかと迷いながらハーマイオニーが小さく手を上げた。
「でも…でも、それは違法だとおっしゃいました…同類であるヒトにこれを使用する事は──」
「ダンブルドアが、これがどういうものかを、体験的にお前達に教えてほしいと言うのだ」
ムーディの魔法の目がぐるりと回ってハーマイオニーを見据え、瞬きもせずハーマイオニーを凝視した。ハーマイオニーは居心地の悪さを感じ、隣にいたソフィアに少し、近づいた。
「もっと厳しいやり方──いつか誰かがお前にこの呪文をかけ、お前を完全に支配する…その時に学ぶというのであれば、わしは一向にかまわん。授業を免除する、出て行くが良い」
ムーディは静かに言うと、節くれだった指で出口を指した。ハーマイオニーは顔を赤くし、「出て行きたいと言うことではありません…」と口の奥でモゴモゴと呟いた。
ついに、服従の呪文をかける実践が始まった。
呼ばれたものは震えながら部屋の中央に行き──そして、誰も抗えず呪いのせいで次々とおかしな事をした。
「プリンス」
「…はい」
ソフィアは、ハーマイオニーが呪いにより猫の真似をし、ようやく解呪された後我に返りキョロキョロとあたりを見渡しているのを横目で見ながらムーディの前に立つ。
ムーディは杖をソフィアに向け、唱えた。
「
ソフィアはその呪文がかけられる瞬間、目を閉じた。
心地よい空間に投げ出されたような感覚がした。
胸の奥から多幸感が溢れ、とろんと脳がとろけるような──何も考えられないような、そんな気持ちになる。
すると、ムーディの低い声が虚な思考の奥底から響くように、聞こえてきた。
手を広げて回れ…。
ソフィアは、手を横に広げ──ようとした。
だが、ソフィアの脳に、ムーディの声ではない、別の声がぼんやりとした思考の中に響く。
──何故、そんな事をしなくちゃならないの。
その声は、紛れもない自分の声だった。
手を広げて回れ…。
──嫌よ。回りたくないもの!
はっきりとしたその声が、ムーディの低い声と、虚な思考を飛ばし奇妙な多幸感が霧が晴れるように拡散する。
「──嫌です。ムーディ先生」
ソフィアは目を開き、挑戦的な目でムーディに向かって笑いかけた。
杖を向けていたムーディは、大きく目を見開き初めて、手を叩いた。
「完璧だな!プリンス!──見たか?プリンスは見事服従の呪文を打ち破った!まさか一度で成功するとは…!もう1人のプリンスといい、なかなかどうしてこの双子は面白い!」
上機嫌になったムーディはソフィアのそばによると労うようにぽんぽんと背中を叩いた。
ソフィアは「ルイスにも、効かなかったんですか?」と思わずムーディに聞いた。
ムーディは「ああ、アイツは良い闇祓いになれる。お前達を支配するのは手こずるだろう」としみじみと頷き、両眼でソフィアを優しく見た。
「よしよし。次はポッター、準備はいいな?」
「はい…」
ソフィアは沢山の目に見られて少し居心地の悪いような、誇らしいような、なんとも言えない気持ちになりながらハーマイオニーの隣に戻り、ハリーが服従の呪文をかけられる様子を見ていた。
「ソフィア…どうして、効かなかったの?」
「…んー…嫌だって言う自分の声が聞こえたの。それが本音だから…それをしっかりと、聞いたの」
「…ムーディ先生の声しか聞こえなかったわ…」
「まあ、呪いに対する相性もあると思うわ」
ソフィアはちらりと解呪された後もスキップが止まらないロンを見て肩をすくめた。
ロンの足は一歩動くたびにスキップし、止まる様子が今のところは無い。きっとロンは呪いにかなり、弱いのだろう。
がっしゃん!!と大きな音が響き、こそこそと話していたハーマイオニーとソフィアは驚いて前を見た。
ハリーが机にぶつかり、その場に倒れ、痛そうに顔を顰めている。
何が起こったのかわからない、という顔をするハリーだったが、ムーディはまたも唸り声に似た歓声を上げ、ハリーの手を引き無理矢理立たせ背中を叩いた。
「よし!それだ!それでいい!あと少しで打ち負かすところだった!もう一度やるぞ!ポッター!後の者はよく見ておけ──ポッターの目をよく見ろ、その目に鍵がある!」
ソフィアとハーマイオニーは、再び、顔を見合わせた。
目。ソフィアとハリーはよく似た目をしているが、それと呪文に抗える事と…何か関係があるのだろうか?
あれからハリーは3度服従の呪文をかけられ、4度目にしてようやくハリーはソフィアのように完全に呪文を破る事が出来る様になった。
生徒達が興奮し教室を後にするなか、4回も服従の呪文をかけられたハリーは疲れ切りふらふらになりながら教室を何とか出た。
「ムーディの言い方ときたら…まるで、僕たち全員が今にも襲われるんじゃないかと思っちゃうよね…」
「うん、その通りだ…被害妄想だよな」
ロンは一歩ごとにスキップをしながら頷く。昼頃には解けると言われているが、呪いにめっぽう弱かったロンは忌々しげに自分の足を見ながら呟く。
「まぁ、でも抵抗があるか無いか…分かったのは良かったわ」
「ソフィア一度で破ってたよね、ルイスもなんでしょ?」
「私たちの共通点といえば……」
ちらりとソフィアは辺りを見渡し、周りに誰もいない事を確認して悪戯っぽく笑い、声を顰めて言った。
「血が繋がってるって事ね」
「あーそういえばそうだったね」
ロンは思い出した、というようにしみじみと呟く。そういえばムーディはハリーの目に秘密があると言っていた、それとよく似た目を持つソフィアとルイスも、だから防げたのだろうか?
「私、本で読んだ事があるわ。魔法への抵抗は…魂に起因するって…つまり、3人は似てるから…って事ね」
ハーマイオニーは空を見つめながら思い出すように呟いた。
ハリーとソフィアは顔を見合わせ、同じような目で少し、微笑んだ。
玄関ホールに着くと、生徒たちが群れをなしておりそれ以上先に進めなくなった。
どうやら掲示板の前に張り紙があり、それに人が群がっているようだが──ソフィア達は何度も爪先立ちになったが見えるのは人の頭だけであり、その先にある掲示物などとても読めなかった。
4人の中で最も長身のロンが背伸びをして前の生徒の頭越しに掲示物をソフィア達に読んで聞かせる。
「えーと…三大魔法学校対抗試合について。ボーバトンとダームストラングの代表団が10月30日、金曜日、午後6時に到着する。授業は30分早く終了し──」
「いいぞ!金曜日最後の授業は魔法薬学だ!スネイプは僕たち全員に毒を飲ませたりする時間が無い!」
「まぁ!ハリー、スネイプ先生のあれは、多分…冗談よ」
歓声を上げるハリーの言葉に、ソフィアは少し機嫌を損ねて反論したが──正直、それを思っているのはソフィアだけだろう。
魔法薬学の授業で解毒剤が研究課題に出され、誰か1人に毒を飲ませ解毒剤が効くかどうか試すと、セブルスは生徒達に仄めかしたのだ。
それを聞いた生徒達はいつもより真剣に授業に取り組んだが──流石にソフィアは冗談だろうと思っていた。
「でも、ペットに飲ませる事くらいはするかもね。前例があるし」
「あー……そうね」
ロンの言葉をソフィアは否定できなかった。自分のペットのティティが縮み薬を飲まされる事になったのを、ソフィアは勿論忘れていない。…まぁ、それはソフィアが自ら飲み、結局ティティは無事だったのだが。
「たった1週間後だ!セドリックのやつ、知ってるかな?僕、知らせてやろう…」
パップルパフのアーニーが目を輝かせ群れから出ると足速に寮へと向かう。
ロンはそれを怪訝な顔で見ながら「セドリック?」と呟いた。
「セドリック・ディゴリーでしょ?この前、クィディッチ・ワールドカップで会ったじゃない」
「きっと、対抗試合に名乗りを上げるんだ」
「あのウスノロが、ホグワーツの代表選手?」
興奮したように話す生徒達の群れをかき分けながらロンが嫌そうに言う。ロンはクィディッチの選手であるセドリックに対して良い印象を持っていない。まだ、去年のクィディッチでハッフルパフがグリフィンドールを破った事を忘れていないのだ。
「あの人は、ウスノロじゃないわ。クィディッチでグリフィンドールを破ったものだから、あなたはあの人が嫌いなだけよ。あの人、とっても優秀な学生だそうよ。その上、監督生です!」
ハーマイオニーは優秀であるのならきっと代表選手になるだろう、と胸を張って言うが、ロンはじろりと睨むと「はん!」と鼻で笑った。
「君、あいつがハンサムだから好きなだけだろ」
「お言葉ですが、私、誰かがハンサムだというだけで好きになったりいたしませんわ」
ハーマイオニーは憤然とし、つんとそっぽを向いた。ソフィアはハーマイオニーが誰を想っているのか知っていた為──慌てて話題を変えようと「えーと」と会話の切り口を探した。
「まあ、でも、セドリックってかっこいいわよね!なんでも、女子人気がかなり高いらしいってジニーが言ってたもの」
ソフィアが男の子の外見を褒めるのを聞いたのは初めてであり、ハリーは表情をこわばらせ、ハーマイオニーは「あちゃー」と言う顔をし、ロンは怪訝な目で「ジニーが?」と呟いた。
「ソフィア、…その…セドリックみたいな顔が好きなの?」
ハリーはどうか違うと言ってくれ、と心の奥で叫びながらソフィアに聞いた。
ソフィアはセドリックの顔を思い出しながら「うーん」と唸り、首をかしげる。
「私の好みでは無いわ」
「へー?ソフィアってどんな人が好きなの?」
ロンとしては、何気なく聞いただけである。
別にソフィアに好きな人がいるのかどうか気にしているのではなく、流れでなんとなく聞いただけだ。全く他意は無かったが、ハリーはどきりと自分の鼓動が緊張からうるさくなるのを感じた。
もし、もし──自分じゃない人の名前が挙げられたらどうしよう。
「え?うーん…あんまり、考えた事が無いわ……そうねぇ…でも、そうね…笑顔が優しい人、かしら」
「へえ?」
「ロンは?」
「え?僕?…うーん。僕も笑顔が優しい人がいいかな」
ロンは特に照れた様子も、誰か1人を思い浮かべることもなくあっさりと答えた。
ロンとソフィアの恋愛偏差値は、残念ながら同じレベルなのである。──鈍さにおいても、同等だ。
ハリーは特に名前が出なかったことに安心したような、自分の名前が出なかった事が残念なような──複雑な気持ちになりつつ、これからソフィアに優しい笑顔をアピールしていこう、と決めた。
ソフィアはダンスパーティ、誰と踊りますか?
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ドラコ
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ハリー
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フレッド
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ルイス