ついにボーバトン校とダームストラング校がホグワーツを訪れる10月31日を迎えた。
その日を迎えるためにホグワーツはいつもより清掃に力が入り、フィルチは少しでも生徒の靴裏が泥で汚れていれば顔を真っ赤にして怒鳴り散らし怒ったほどだ。
教授達も朝からどこかピリピリと緊張し、生徒たちはそわそわと浮き足立つ。この日の授業はホグワーツ史上最も身の入らなかった授業になってしまったが、仕方のない事だろう。
金曜日最後の魔法薬学の授業がいつもより30分も短く終了し、ソフィア達はすぐに鞄と教科書を置きにグリフィンドール寮に戻り、マントを着て他の生徒達と共に玄関ホールへと向かった。
各寮の寮監が生徒達を整列させる中、服装に乱れがある者はすぐに厳しく注意されていく。
ソフィア達は四年生だ。一年生を先頭に整列した中の中程に並び、マクゴナガルの指示に従い並んだまま正面の階段を降り、城の前に再びきちんと整列した。
寮監では無い教師は既に城の前に集まり、にこやかに話しながら到着の時を待つ。
ソフィアはその中に、見慣れた銀髪の男──ジャックがいる事に気付いた。
「ジャック!?」
ソフィアだけでは無い。
2年前にジャックの授業を受けた事のある生徒達はすぐに気がつき、口々に「ジャック先生!」」「何でここに?」「わぁ!また会えて嬉しいです!」と嬉しげに叫ぶ。
ジャックは生徒達を見ると悪戯っぽく微笑み、手を振った。だがすぐに人差し指を口に当て「しーっ」と鎮まるようにジェスチャーし、生徒たちは慌てて口を閉ざす。
大人しくなった生徒たちに、ジャックは茶目っ気たっぷりなウインクをすると、今度は隣にいるダンブルドアと何か話していた。
「何故ここにいるのかしら?」
ハーマイオニーは驚愕と嬉しさを滲ませながら首を傾げる。ソフィアは「わからないけど、嬉しいわね!」と囁いた。
天候にも恵まれ、心地の良い寒さがソフィア達の体を包む。夕闇が迫り、空は茜色から群青へと変わっていく中、ちらちらと白い星が淡く瞬く。
「もうすぐ6時だ」
「どうやって来るのかしらね?…汽車かしら?」
ロンは自分の腕時計を見て、そわそわと背伸びをしたが──すぐにマクゴナガルから厳しい目で睨まれてしまい踵を地面につける。
ソフィアは自分の心が高鳴り落ち着く様子がないのを感じていた。クィディッチ・ワールドカップでちらりと他の国の魔法使いや子どもは見たが、交流は出来ていない。他国の生徒と交流する機会なんてきっと滅多にないだろう。他の国では、どんな魔法を使うのだろうか?カリキュラムや授業は、どんなものなのだろうか?
「多分、違うと思うわ」
ハーマイオニーはソフィアの言葉を否定したが、彼女にも答えはわからなかったが、きっと外国から直接くるのだろうとは予想してた。
「じゃ、どうやってくる?箒かな?」
「箒は違うんじゃ無い?だってずっと遠いし…」
「移動キーか?それか、姿現し術か。きっと外国では17歳未満でも姿現しを学べるんだよ…」
ハリー、ソフィア、ロンはこそこそと囁き合い、生徒達が沢山の箒に跨り空を駆ける姿や、クィディッチ・ワールドカップのように移動キーを使い目の前にパッと現れる姿を想像し、楽しげに笑い合う。
ただ、ハーマイオニーはロンの「姿現し術」という言葉にムッとしたような顔をし、「ホグワーツの校内では、姿現し術はできません」と、ぴしゃりと言い切った。
誰もが興奮して小声で囁き合いながら他国からの訪問団を心待ちにしていた。
6時を過ぎ、さらに闇が深まり──そして一層寒くなった時、ダンブルドアが教授達が並ぶ最前列で声を上げた。
「ほう!わしの目に狂いがなければ、ボーバトンの代表団が近づいてくるぞ!」
喜びに満ちた声に、生徒達は一段と興奮し目を輝かせ何処にいるのだろうかと校庭や空を見渡し、「どこ?どこ?」と熱い声を上げる。
「あそこだ!!」
1人の生徒が興奮しながら森の上空を指差して叫んだ。
皆がその指の先を辿り、空を見上げ──そして、巨大で黒い物がぐんぐんとこちらに近づいて来るのを見た。
「ドラゴンだ!」
「馬鹿言うなよ!あれは──空飛ぶ家だ!」
空飛ぶ家、それが最も近い予想だっただろう。
巨大な黒い影が森の梢を掠め、ホグワーツ城の灯りにより照らされたとき、ソフィア達はその全貌を見た。
巨大な、パステル・ブルーの豪華な馬車だった。大きな館ほどもあるその馬車は象ほどこ大きさの12頭の金銀に輝く毛を持つ美しい天馬に引かれて、こちらに飛んでくる。
馬車がぐんぐん高度を下げ、こちらに向かってくる。その迫り来る巨大な天馬と馬車に、生徒のうち前方三列は一気に後ろに下がった。地響きを伴う轟音と共に馬車は着地し、大人よりも大きな車輪が数回地面の上を跳ねる。
ソフィアは馬車の中の人の状態が少々気になりつつ、興奮したように目を輝かせ叫んだ。
「何て大きい
あれほど大きな種類の天馬はアブラクサンしかいない。ソフィアは駆け寄りたい気持ちをグッと堪え、胸の前で手を合わせその場でぴょんぴょんと跳ねた。
馬車の戸が開き、中から淡い水色のローブを着た少年が飛び降りる。前屈みになり馬車の底から金色の踏み台を引っ張り出すと、そっと戸口の下に置き、恭しく頭を下げ飛び退いた。
すると、馬車の中から黒く艶やかなヒールが片方現れ、すぐに女性が身を屈め姿を表した。
その女性は小麦色の肌に大きな潤んだ瞳、鼻筋は美しく通り、黒い髪は低い位置で一つにまとめられていた。黒繻子を纏い、何個もの見事なオパールが首元とさらりと長い指を飾る。
美しい女性だった。ただ、ソフィア達がその女性を見て驚きに息を呑んだのは美しさからではない、その女性が今まで見た中で最も大きかったのだ。
ハグリッドと身長は少しも変わらないだろう、だが、ハグリッドよりも大きく見えるのはソフィア達が彼に見慣れたからか、それともその女性がさらりとした細身だからだろうか。
ダンブルドアが笑顔で大きな歓迎の拍手を送る。それにつられて生徒達も一斉に拍手した。
温かい歓迎に、女性──マダム・マクシームは表情を和らげ、優雅に微笑んだ。ダンブルドアの元へ静かに近づいたマクシームはきらめく片手を彼に差し出す。
ダンブルドアはにっこりと笑ったまま身を屈めることなくその手の甲に口付けた。
「これはこれはマダム・マクシーム。ようこそホグワーツへ」
「ダンブリー・ドール。おかわりーありませーんか?」
「おかげさまで、上々じゃ」
やや訛りのあるイギリス英語だった。
いや、きっと英語を話す国では無いところから来ているのだろう。
しかし、それでも翻訳魔法を使う事なく自らの力で英語を話す事は英国圏の魔法族に対しての礼儀と深い親愛を示す。
マクシームの美しいアルトの声も相まって、その言葉はちっとも聞き苦しいものではなかった。
「わたーしの、生徒でーす!」
マクシームは大きく長い腕を後ろに広げる。マクシームにばかり気を取られていたソフィアは数十人もの男女生徒が馬車から現れ、マクシームの背後に立っていたことに気が付かなかった。
皆、身を寄せあい体を震わせていた。彼らが着ているローブは薄い水色の絹のようなさらりとしたローブだが、防寒性は無いように見える。不安げな表情でマクシームと、その先にあるホグワーツ城を見上げていた。
「通訳まほーうを使う人は?」
「ここに。──ジャック」
「はい」
ダンブルドアの言葉に、隣に立っていたジャックは胸に手を当て頭を下げた後マクシームににこりと微笑んだ。
「わたーしの生徒たちを、よろしくおねーがいします」
「かしこまりました」
ジャックはマクシームの後ろにいる生徒たちの元へ行くと、聞きなれない言葉──おそらく、フランス語だろう──で生徒たちに話しかけ、おずおずと生徒たちが頷いたのを見て杖を掲げる。銀色の光が一人一人の口元に伸び吸い込まれ、そしてふわりと消えた。
「終わりました。ここに滞在している間は、解けないように数日おきにかけ直す事となります」
「ありーがとうございまーす!」
マクシームが手を差し出し、ジャックは微笑んだままその手を取り手の甲に口付ける。
それを見ていたハーマイオニーは「わぁ!」と小さな歓声を上げた。
「通訳魔法士なのね!あの魔法、言語をちゃんと理解してないといけなくて、すっごく難しいの!市販の魔法器具は硬い言葉にしか訳されないから…」
「そうなのね…ジャックって、本当なんでも出来るのね…」
ハーマイオニーが感心したようにソフィアに囁く。ソフィアはクィディッチ・ワールドカップでの手伝いといい、この三大魔法学校対抗試合での仕事といい、もしかして、ジャックが孤児院経営者としてではなく、別の仕事につくことを望んでいる人は多いのでは無いかと、少し不安になった。
勿論、それはジャックの能力が認められているということであり、誇らしい気持ちもあったが、何故か──漠然とした寂しさも感じたのだ。
「カルカロフはまだきーませんか?」
「もうすぐ来るじゃろう。外でお待ちになってお出迎えなさるかな?それとも城中に入られて、ちと、暖をとられますかな?」
マクシームの言葉に答えながらダンブルドアは彼女の後ろにいて寒さから凍える生徒たちをちらりと見た。
「温まりたーいです。でも、ウーマは…」
「こちらの魔法生物飼育学の先生が喜んでお世話をするじゃろう。別の仕事で少々面倒があってのう。片付き次第すぐに」
「わたーしのウーマの世話は、あー…ちから、いります。ウーマたちは、とても強いです」
マクシームは眉をひめ、果たしてその魔法生物飼育学の教師がしっかりと大切な天馬を世話できるのかと少し不安そうな目をしたが、ダンブルドアはにっこりと微笑む。
「ハグリッドなら大丈夫。やり遂げましょう。わしが請け合いますぞ」
「それはどーも」
ダンブルドアがこれほど信頼している相手なら、任せても良いかもしれない。とマクシームは頭を下げ後ろにいる生徒たちに「おいで」と威厳たっぷりに告げた。
ホグワーツの生徒たちがさっと道を開け、その真ん中をマクシームと、ボーバトンの生徒たちが体を震わせながら通り城内に向かう。
「ダームストラングの馬は、どれくらい大きいと思う?」
シェーマスがわくわくしながらハリー達に話しかけ、ハリーとロンは顔を見合わせ目の前にいる大きな天馬を見上げる。
「うーん、こっちの馬より大きいなら、ハグリッドでも扱えないだろうな。それも、ハグリッドがスクリュートに襲われてなかったらの話だけど。何があったんだろうね」
「もしかして、スクリュートが逃げたのかも!」
そうだといい、あんなよくわからないスクリュートを育てる事がなくなるのだから。とロンはくすくすと笑いながら言ったが、ハーマイオニーは「そんなこと言わないで」と身を震わせた。
「あんな連中が、校庭にうじゃうじゃしてたら…」
「可愛い子だけど。…医務室は大繁盛ね」
ソフィアの言葉に、ハーマイオニーはその様子を簡単に想像してしまい、「最悪」と一際大きく身震いして苦く呟いた。
また空から現れるのだろうか、と暫くソフィア達ホグワーツ生は、少し凍えながら真っ暗になってしまった空を見上げ、ダームストラングの到着を待っていた。
「何か聞こえないか?」
突然、ロンが隣にいたハリーに囁いた。
ハリーは耳を澄ませ──そして、闇の中から何かがこちらに向かってくる不気味な音が聞こえていることに気づく。
他の生徒達もその音に気付くと、その不気味な音が大きくなるにつれ不安げに身を寄せあい空を見上げた。
「湖だ!湖を見ろよ!」
リーが叫ぶ。
空を見ていた生徒達はあの不気味な音──巨大な掃除機が何かをぼこぼこと吸い込むような音が、ようやく上からではなく、下方から響いているのだと気づく。
生徒達は芝生の小高い上、校庭を見下ろす位置に整列していたため、少し離れた場所にある広い湖を一望する事が出来た。
湖の黒く滑らかな水面が突如、乱れる。ぼこぼこと何かが溢れるように奇妙に揺れ、それが広がるにつれ不気味な音が大きく、激しくなっていく。
大きな泡は徐々に渦を巻き、中心に向かって下がる。そして──帆柱が現れた。
「あれは帆柱だ!」
ハリーが湖の中心に現れたものを指差し、ソフィアとロン、ハーマイオニーに向かって叫んだ。
堂々と、湖から船は水面に浮上した。その勢いで湖が大きく波打ち、岸が泥を被る。
その船はボーバトンの馬車と並ぶほど大きく、荘厳であり、どこか難破船を思わせる黒々とした帆が靡いていた。
丸い船窓からぼんやりと白い光が見え、まるで幽霊船の目のようだと、ハリーは思った。
風の無い中、船は水面を波立たせながら岸へと滑る。浅瀬に錨が降り、船が固定されると中からパタパタと階段が降り、それを踏みしめながらゆっくりとダームストラング一団が芝生の上に降り立つ。
ソフィアは、彼らにもジャックは翻訳魔法をかけるのだろうか、と期待を込めてジャックを見た。
ダンブルドアの少し後ろに立っていたジャックは、先程まで見せていた柔和な笑顔を消し、静かに──無表情で先頭に現れた男を見ていた。
もこもことした分厚い毛皮のマントを着ている生徒たちの先頭を歩く男は、1人だけその髪と同じ滑らかな銀色の毛皮のマントを着ていた。その男──カルカロフは生徒全員を率いて来ながら坂道を上がり、ダンブルドアの前に立つ。
「ダンブルドア!やあやあ。しばらく。元気かね」
「元気一杯じゃよ。カルカロフ」
カルカロフの声は耳に心地よい深みを持ち、とても愛想が良かった。ダンブルドアと同じ痩せた体で背が高く、先の縮れた顎髭は貧相な顎を隠しきれていない。
カルカロフはダンブルドアの手を両手で掴み、強く握手をすると「懐かしのホグワーツ城」と噛み締めるように呟いた。
そして、カルカロフはダンブルドアの少し後方に立っていたジャックに気がつくと一瞬、顔を硬らせたが瞬き一つする間ににっこりと微笑んだ。
「やあ、ジャック。この前君が来た時はゆっくり話も出来なかったな。君は…ゲストか?」
「いや、俺は関係者だ。この試合が終わるまで、ここに滞在する」
「そうか!…いやはや、それは良い」
カルカロフはジャックに手を差し出し、ジャックもそれを握った。
2人は微笑んではいたが──その目は笑っていない。どちらも愛想のいい作り笑いを貼り付けているだけなのだとソフィアは気づくが、何故そんな笑顔を見せるのか分からず、何となく──もやもやとしたものが胸をざわつかせた。
「俺は、客人達に通訳魔法をかける事になっているんだ。…かまわないか?」
ジャックは杖を掲げたが、カルカロフは少し黙り込み、首を振った。
「いや、大丈夫だ。最終候補生達には英語を教えたからな。君の手を煩わせる事はない」
「…そうか、ならいい。必要になったらいつでも言ってくれ」
「ああ、わかった。…ここに来れたのは嬉しい。実に嬉しい。…ジャック、君とも会えたからな。…さて、ビクトール。こっちへ、暖かいところへ来るがいい…ダンブルドア、かまわないかね?ビクトールは風邪気味でね…」
カルカロフは手を離し、生徒の1人を招いた。
その青年が通り過ぎた時、彼が何者かなのか知るホグワーツ生──特に、クィディッチの熱狂的なファン──は、はっと息を呑んだ。
「ハリー、クラムだ!」
「ビクトール・クラムよ!」
ハリーはロンに強く腕を殴られずとも、ソフィアの興奮した声を聞かずともわかっていた。その横顔は紛れもない、クィディッチ・ワールドカップで見た、ビクトール・クラムその者だった。
アンケートありがとうございます!
想像以上にルイスが多く、まさかの一位で私が一番驚いています!
てっきりハリーかドラコだと思っていました…。
この結果をもとに、お話を進めていきたいと思います。
本当にありがとうございました!
ソフィアはダンスパーティ、誰と踊りますか?
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ドラコ
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ハリー
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フレッド
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ルイス