デザートやご馳走が全て生徒たちの腹の中に消え、金の大皿が再びピカピカになると、ダンブルドアが改まって立ち上がった。
ついに、対抗試合についての説明と開催が告げられるのだろう事は簡単にわかり、大広間に心地よい緊張感が広がる。
「時は来た。三大魔法学校対抗試合はまさに始まろうとしておる。『箱』を持ってこさせる前に、二言、三言説明しておこうかの。今年はどんな手順で進めるのかを明らかにするためじゃが。そのまえにまだこちらのお二人を知らない者のためにご紹介しよう。国際魔法協力部部長、バーテミウス・クラウチ氏」
ダンブルドアは隣にいるクラウチに向かって片腕を広げる。
にこりとも、手を振りかえすことも無いクラウチに対しての拍手は儀礼的なやや素っ気ない者だったが、クラウチはとくに表情を変えることなく、瞬きすらせずに気難しい顔をしたままだ。
「そして、魔法ゲーム・スポーツ部部長、ルード・バグマン氏じゃ」
クラウチの時よりも遥かに大きな拍手が起こる。クィディッチのビーターとして有名だった事と、人好きのする少年のような笑顔のせいかもしれない。
「クラウチ氏とバグマン氏はこの数ヶ月というもの、三校対抗試合の準備に骨身を惜しまず尽力されてきた。そしてお二人はカルカロフ校長、マダム・マクシーム、それにこのわしと共に代表選手の健闘ぶりを評価する審査委員会に加わってくださる。そして、こちらが──」
ダンブルドアは言葉を止めジャックを見た。ジャックは立ち上がり、懐かしい生徒たちを見渡し優しく微笑んだ。
「ジャック・エドワーズ氏じゃ。二年生以上の者は彼を知っているじゃろう。本業は孤児院経営じゃが、ジャックは外国からの客人たちが円滑なコミュニケーションを取る為に通訳魔法をかけてくださる。この他にも対抗試合を行うにあたり、様々な手助けをしてくださった。この素晴らしい交流が終わるまでは常にホグワーツに滞在してくださる」
ジャックを知る者中心に大きな拍手が起こり、歓声が上がる。ジャックは想像以上の歓迎振りに驚いたが、それでも嬉しそうに微笑むと軽く頭を下げ席に座り直した。
「それでは、フィルチさん。箱をここに」
大広間の隅にひっそりと立っていたフィルチはダンブルドアに呼ばれ、大きな宝石が散りばめられた木箱を掲げ恭しく前へ進みよる。
生徒たちは何が入っているのだろうかと口々に興奮しながら囁く、あまり大きな木箱では無いようだ。
「代表選手たちが今年取り組むべき課題の内容は、既にクラウチ氏とバグマン氏が検討し終えておる。さらに、お二方はそれぞれの課題に必要な手配もしてくださった。課題は三つあり、今年度を通して間をおいて行われ、代表選手はあらゆる角度から試される──魔力の卓越性、果敢な勇気、論理、推理力…そして言うまでもなく、危険に対処する能力などじゃ」
フィルチがダンブルドアの前にそっと木箱を置いた。
その木箱を飾る宝石が蝋燭の灯りに照らされ、キラキラと幻想的に輝く。
「皆も知っての通り、試合で競うのは三人の代表選手じゃ。参加三校から各1人ずつ。選手は課題の一つひとつをどのように巧みにこなすかで採点され、3つの課題の合計点が最も高い選手が優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者──炎のゴブレットじゃ」
ダンブルドアは杖を取り出し、木箱の蓋を3度叩いた。
蓋は軋みながら開き、ダンブルドアはその中に手を入れ…中から荒削りの大きなゴブレットを取り出す。木箱の装飾とは異なり、それは一見すると見栄えのない変哲もないゴブレットだったが、ただ、その縁からは溢れんばかりに美しい青白い炎が踊っていた。ダンブルドアは木箱の蓋を閉めると、その上にそっとゴブレットを置き、大広間の全員によく見えるようにした。
「代表選手に名乗りを挙げたい者は、羊皮紙に名前と所属校名をはっきりと書き、このゴブレットの中に入れなければならぬ。立候補の志のある者は、これから24時間の内に、その名を提出するよう。明日、ハロウィンの夜にゴブレットは各校を代表するにもっとも相応しいと判断した3人の名を返してよこすであろう。このゴブレットは、今夜玄関ホールに置かれる。我と思わん者は、自由に近づくがいい。──年齢に満たない生徒が誘惑に駆られんように、ゴブレットの周辺にわしが年齢線を引くことにする。17歳に満たない者は、何人もその線を越える事はできぬ」
ダンブルドアは静かに言い、一度生徒たちを見渡した。
何人か──特に、フレッドとジョージを青い瞳が見ていたが、2人はにやりと顔を見合わせ意味ありげに笑った。
「最後に、この試合で戦おうとする者にはっきり言うておこう。軽々しく名乗りを上げぬ事じゃ。炎のゴブレットが一度代表選手と選んだ者は、最後まで試合を戦い抜く義務がある。ゴブレットに名前を入れると言うことは、魔法契約によって拘束される事じゃ。代表選手になったからには、途中で気が変わる事は許されぬ。じゃから、心底、確信を持った上で、ゴブレットに名前をいれるのじゃぞ──さて、もう寝る時間じゃ!皆、おやすみ」
ダンブルドアはにっこりと微笑み手を叩く。
生徒たちは口々に選考方法──炎のゴブレットについて話しながら大広間から各寮へと戻った。
ソフィアもハリー達と共に大広間を横切り、興奮が冷めない生徒達でごった返す扉へ向かって歩きながらあの青白い炎を上げるゴブレットを思い出していた。
「年齢線か!」
そばにいたフレッドは目をキラキラとさせながら悪戯っぽく笑う。
もし、立候補の方法が各校長に宣言する事ならば、よく知られているフレッドは年齢をごまかす事は出来ないと思っていた。だが、相手は自分の事を知らないただのゴブレットだ。それならば、幾らでも抜け道はありそうだとジョージもフレッドと同じようにニヤリと笑う。
「それなら、老け薬で誤魔化せるな?いったん名前をゴブレットにいれちまえば、こっちのもんさ!17歳かどうかなんて、ゴブレットにはわかりゃしないさ!」
「老け薬ねぇ…2人はそれを使って立候補するつもりなの?」
「勿論!」
ジョージは悪戯っぽく笑い、目を輝かせる。ソフィアはダンブルドアのしいた年齢線が、果たして老け薬で誤魔化す事が出来るのかと首を捻ったが──まぁ、この2人には止めても無理だろうと思い何も言わなかった。
「でも、17歳未満じゃ、危険じゃない?まだ勉強が足りないもの…」
ハーマイオニーが不安そうに言ったが、フレッドとジョージは闘志を燃やしていた心に水をさされてしまい、嫌そうに眉を顰める。
「君はそうでも、俺は違うぞ!」
「あと少しで17歳だものね。ゴブレットに選ばれて…代表選手になったら、応援するわ!」
ぶっきらぼうに言ったジョージに、ソフィアは悪戯っぽく笑い励ますように笑う。すぐにジョージは機嫌を取り戻し、嬉しそうにソフィアの肩を叩き何度も頷いた。
「さっすが!俺たちの運命はよくわかってる!」
「ハリー、君はやるな?立候補するんだろ?」
フレッドに聞かれたハリーは、即答する事ができなかった。勿論、もし──年齢線を越える方法がわかったのなら、ゴブレットに名前を入れてみたい気持ちはある。だが、それをすれば…ダンブルドアは怒るだろうか?17歳どころか、自分はまだ14歳だ。
ハリーは自分を見ているソフィアの視線に気がつき、何かを言おうと口を開いたが──その前に、ロンがハリーの肩をとんとんと叩いた。
「ねえ、どこへ行ったのかな?ダンブルドアは、ダームストラング生がどこに泊まるか、言ってなかったよな?」
ロンはこの会話を一切聞かず、キョロキョロと辺りを見渡し、人混みの中からクラムを探し出そうとしていた。
しかし、その答えはすぐにわかった。ちょうどソフィア達はスリザリンの机の側を通り過ぎたところであり、近くからカルカロフが生徒を掻き立てる声が聞こえてきた。
「それでは、船に戻れ。ビクトール、気分はどうだ?十分食べたか?厨房から卵酒でも貰ってこさせようか?」
クラムは毛皮を着ながら首を横に振り、カルカロフの近くにいた男子生徒が物欲しそうな声で「校長先生、僕、ワインが欲しい」と言ったが、カルカロフはクラムを見ていた優しい眼差しをすぐに消し冷たい目でその男子生徒を睨む。
「お前に言ったわけではない、ポリアコフ。お前は、また食べ物をベタベタこぼしてローブを汚したな?しょうのない奴だ」
クラムには父親のような優しい眼差しと気遣いを見せていたが、どうやらそれはクラムが特別だかららしいと、ソフィアはすぐにわかる。
ポリアコフと呼ばれた生徒はつまらなさそうに口を尖らせ、ローブの汚れに向けて杖を振りすぐに清めた。
カルカロフはドアのほうに向きを変え、生徒を先導した。扉のところでちょうどソフィア達とかち合い、4人が道を譲った。
「ありがとう」と、何気なくカルカロフは言うとちらりと先頭にいたハリーを見た。
途端にカルカロフは凍りつき、ハリーに向き合うとまじまじと探るように見つめる。カルカロフの後ろについていたダームストラング生達も、ぴたりと足を止め息を呑んでハリーを見る。
ハリーは、久しぶりにその視線を受け少し気まずそうにちらちらとカルカロフを見る。彼の視線が自分の顔から、額にある傷痕に移動するのは初対面であり、自分の事を知っている魔法使いなら、誰だってそうだった。
ポリアコフが隣にいた候補生唯一の女生徒であるヴェロニカの腕を突き、こそこそと囁きながらハリーの額を指差した。ヴェロニカはその指先を視線で辿り、興味深そうにまじまじとハリーを見つめる。
ハリーは居心地の悪さを感じ、せめて名乗った方が良いのだろうか?と考えていたが、ハリーが名乗る前に後ろから声が低い轟いた。
「そうだ、ハリー・ポッターだ」
カルカロフがくるりと後ろを振り向き、ステッキに体を預け魔法の目をギラギラと見据えるムーディを見た。途端に、カルカロフの顔から血の気が失せ、怒りと恐れの入り混じった激しい表情に変わる。
「お前は…!」
「わしだ。ポッターに何も言う事が無いのなら、カルカロフ、退くがよかろう。出口を塞いでおるぞ」
カルカロフは亡霊でも見たような目でムーディを見ていたが、唇をつぐんだまま何も言わず、ダームストラングの生徒達を連れてその場を去った。
ムーディはその姿が見えなくなるまで両眼でじっと見据えていた。傷だらけのその顔には、激しい嫌悪感が浮かんでいた。
「…私たちも、帰りましょう?」
「あ…うん」
ソフィアはハリーの腕を引き、ハリーは今見たカルカロフとムーディの表情が忘れられず胸にざわりとした物を感じながらグリフィンドール塔へと向かった。
ーーー
翌日は土曜日であり、普段ならソフィア達はたっぷりと睡眠を取った後、遅めの朝食を取っていたがいつもよりもうんと早起きをし、玄関ホールへと向かった。
早起きだったのはソフィア達だけではなく、既に20名ほどが炎のゴブレットの前でうろうろとその青い炎を煌々と燃やすゴブレットを見ていた。
ゴブレットはホールの中央に置かれ、いつもなら組分け帽子を載せる丸椅子の上に置かれていた。
ゴブレットを中心に細い金色の線が半径3メートル程の円を描いている。
「これが年齢線ね…」
ソフィアは線のギリギリまで近づくとその場にしゃがみ込み、物珍しそうに金色に輝く線を眺めた。
年齢線は、時たま見かける事がある。本屋などには年齢制限がかされている書物もあり──ソフィアは勿論入った事は無かったが、その奥には17歳を越えるまで入ることの出来ない、様々な本が陳列されていた。勿論、中には危険な魔法書もあるが…一般的な本屋にあり、年齢制限がある本といえば、まぁ、一つしかないだろう。
「もう誰か名前をいれた?」
「ダームストラングが全員。だけど、ホグワーツからは…私は見てないわ」
ロンがうずうずしながらトーストを齧っていた名も知らぬ女生徒に聞けば、女生徒はすぐに答えた。
ダームストラングと、ボーバトンの生徒はきっと全員名前を入れるのだろう。その為に、最終候補生として残りここに来たのだ。
「昨日の夜のうちに、みんなが寝てしまってから入れた人もいると思うよ。僕だったら、そうしたと思う…。みんなに見られたくないもの。ゴブレットが名前を入れた途端吐き出したりしたらいやだろ?」
「うーん、確かにそうね」
ハリーの言葉にソフィアはくすくすと笑いながら立ち上がる。ソフィアは老け薬を飲んでいないし、立候補するつもりはもう無かった。年齢制限がなければ勿論立候補したのだが、ダンブルドアがしいた年齢線を越えられる事はないだろうとソフィアは思っていた。
それならば、ホグワーツ代表選手になったものを応援し、数々の課題にわくわくと胸を高鳴らせる方がよっぽど良い。と、ソフィアは思っていた。
「やったぜ!」
突然後ろから興奮したような声と共にフレッド、ジョージ、リーが急いで階段を降りながらゴブレットの元へと駆けてくる。その目は興奮から輝き、頬は赤く高揚している。
「いま、飲んできた」
フレッドが勝ち誇るように言い、ソフィア達の耳にこっそりと耳打ちをしたが、「何を?」と、昨日の話を全く聞いていなかったロンがきょとんとして首を傾げる。
「老け薬だよ。鈍いぞ」
「1人一滴だ。俺たちはほんの数ヶ月分、歳を取ればいいんだからな」
「3人のうち誰かが優勝したら、一千ガリオンは山分けにするんだ」
ジョージは有頂天になり、両手を擦り合わせ、リーはにやにやと笑いフレッドとジョージに目配せをする。一千ガリオンを3人で山分けしたとしても、かなりの金額になり──3人はまだ名前を入れてもいない、選ばれてもいないにも関わらず勝利を確信しているかのような含み笑いを見せる。
「でも、そんなにうまく行くとは思えないけど。ダンブルドアはきっとそんなこと、考えてるはずよ」
ハーマイオニーの尤もな警告をフレッド達は少しも気に留める事なく聞き流し、頭を突き合わせ、最終確認をするように楽しげに笑いながら声を顰めた。
「いいか?」
「ああ、勿論だ!」
「よし、それじゃあ行くぞ…俺が一番乗りだ!」
フレッドは武者震いを一つしたが、大声でそう宣言すると年齢線ギリギリに近づき、ポケットから名前と所属校を書いた羊皮紙を取り出した。
玄関ホールにいる生徒たち全員が、期待と不安が入り混じった目でフレッドを見る中、フレッドは爪先立ちになり、前後に体を揺すり──そして、大きく息を吸って線の中に足を踏み入れた。
何も、起こらなかった。
うまくいったのだと思ったジョージが「やった!」と歓声を上げながらフレッドの後に続いて線の中に飛び込んだ。
ハーマイオニーは信じられないと目を見開き、ソフィアも、まさか本当に年齢線を越えられるとは思ってもみず、目を瞬かせる。
が、ジョージがフレッドに抱きつき喜びを示そうと手を広げた瞬間、ジュッ!!と大きな音が響き、フレッドとジョージは見えない手で振り払われるかのように線の外へに放り出された。
「あっ!──あー…」
ソフィアは悲鳴を上げ心配そうに2人が吹っ飛んだ先を見たが、すぐに苦笑を浮かべた。
2人は2メートル程も吹っ飛び、冷たい石の床に叩きつけられる。呻き声を上げ、痛む頭や腰を抑えながら体を起こした2人は──ポン!と大きな音と共に白煙に包まれ、それが晴れた頃には2人とも全く同じ白くて長い顎髭が生え、真っ赤な髪も白髪混じりに変わる。
その姿に見守っていた生徒たちは爆笑し、フレッドとジョージでさえ立ち上がってお互いの立派な髭と老いた姿にげらげらと腹を抱えて笑った。
「忠告したはずじゃ」
面白がっているような、深みのある声が大広間の入り口から響く。
現れたダンブルドアは目をキラキラと輝かせ、フレッドとジョージの姿を鑑賞しながら自分の髭を撫でる。
「2人とも、マダム・ポンフリーのところに行くがよい。既に何人かが彼女の世話になっておる…もっとも、君たちの髭ほど見事な者はおらんかったのう」
身を捩り涙を浮かべながら爆笑するリーに付き添われ、フレッドとジョージは医務室に向かい、ソフィア達も2人のインパクトのある姿を忘れられずくすくすと笑いながら朝食へと向かった。