【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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188 誰が選ばれる?

 

ハロウィーンの飾り付けがなされた大広間は、昨日の豪華絢爛さとはがらりと違った雰囲気になっていた。

空を沢山の蝙蝠が飛び、何百というジャック・オ・ランタンが大広間の隅で不気味に笑っていた。

 

 

ホグワーツでは誰が立候補するだろうか、という話題がそこかしこで話し合われ、誰もが自分の寮の生徒が立候補し、できるなら選手に選ばれることを望んでいた。

17歳以上で、勇気のある者──といえばそれ程多いわけではない。

スリザリンからはどうやら体格は良いが少々鈍間なワリントンが出るらしい、ハッフルパフではセドリック・ディゴリーが候補になるだろう、そんなディーンとシェーマスの会話を聞きながらソフィアは沢山の料理の中からパンプキンパイを掴み美味しそうに食べていた。

 

 

「ソフィアは誰が出ると思う?」

「ん?…さあ、誰でしょうね。私はあんまり上級生の友達がいないもの…フレッドとジョージは別だけど…。…そうね、アンジェリーナは?」

 

 

ソフィアはもぐもぐと口を動かしながら、グリフィンドールのクィディッチチームの一員であるアンジェリーナを思い浮かべた。

彼女は勇敢で、溌剌とした気持ちのいい笑顔を見せる人だ。ソフィアは時々彼女と談話室でクィディッチの話をする事があったが、年下の自分に対しても気さくでとても楽しい人だと思っていた。クィディッチは危険なスポーツでもあり、それの選手なのだからきっと勇敢に違いなく、さらにとりわけ成績も優秀だと聞いている。

 

 

ハーマイオニーはぱっと表情を明るくさせ、「確かに!アンジェリーナが立候補してくれないかしら?」と目を輝かせた。

 

 

その時、玄関ホールの方で歓声が上がった。

ソフィア達が椅子に座ったまま振り向くと、ちょうど話題に上がっていたアンジェリーナが少しはにかんだように笑いながら大広間に入ってくるところだった。

 

アンジェリーナは自分を見ているソフィア達に気がつくとぱっと駆け寄り、ハリーの隣に腰をかけるなり溌溂とした笑顔と真っ白な形のいい歯を見せた。

 

 

「わたし、やったわ!今名前をいれてきた!」

「わー!本当?アンジェリーナならいいなって、ちょうど話していたところなの!」

「まあ!ありがとうソフィア!」

「私、グリフィンドールから誰かが立候補してくれて嬉しいわ!あなたが選ばれるといいな、アンジェリーナ!」

「ありがとうハーマイオニー!」

 

 

アンジェリーナは嬉しそうに頬を染め、ソフィアとハーマイオニーに笑いかけた。

 

 

「ああ、かわい子ちゃんのディゴリーより、君の方がよっぽど良い」

 

 

シェーマスの揶揄いまじりの言葉に、側を通っていたハッフルパフ生が怖い顔でシェーマスを見たが、彼は全く知らぬふりをしてトーストを齧った。

 

 

 

 

 

「じゃ、今日は何して遊ぼうか?」

 

 

朝食が終わり、大広間を出る時ロンがソフィア達に聞いた。

今日は土曜だ。まだ宿題は残っていたが、明日は休みだし急いで終わらせる事もないだろう。ロンの言葉にハリーは「まだハグリッドのところへ行ってないね」と答える。

既に授業で何度もハグリッドとは顔を合わせているが、ハグリッドの小屋にはまだ遊びに行っていない。

 

 

「オッケー。スクリュートに僕たちの指を二、三本寄付しないでいいなら行こうか」

 

 

ロンはハグリッドの指に巻かれていた包帯を思い出し、にやりと笑う。ハリーはその冗談に楽しげに笑ったが、ハーマイオニーはとんでもない!と顔を顰めた。──何せ、あり得ると思ってしまったのだ。

 

しかしソフィアは「んー」と言い淀むと、小屋に向かおうとしていたハリー達に向かって申し訳なさそうに肩をすくめた。

 

 

「私、ジャックのところに行きたいの。久しぶりに会ったし…ちょっと話してから後でハグリッドの小屋に行くわ!」

「そう?…うん、わかった、じゃあまた後でね」

 

 

ハリー達と別れたソフィアは、すぐにまた大広間に戻った。

ソフィア達が朝食を終える少し前にジャックが何人かの生徒と共に大広間に入り、笑顔で別れを告げた後──生徒達はきっと、ジャックのことが好きなのだろう、残念そうにため息をついていた──教職員テーブルの椅子に座ったのを見ていた。

 

 

ソフィアはすぐにジャックの元に駆け寄る。ジャックはオートミールを食べていたが、すぐにこちらへ一直線に向かって走ってくるソフィアに気がつくと立ち上がり手を広げた。

 

 

「ジャック!」

「ソフィア!久しぶりだな!…あれ?なんか可愛くなった?」

「そうでしょう?私、今ハーマイオニー達に教えてもらってちょっとお化粧の勉強をしているの!」

 

 

ソフィアを笑顔で抱きとめたジャックは、まじまじとソフィアを見つめた。すぐに気が付いてくれたジャックに、ソフィアは彼から離れると披露するようにくるりとその場で周り、悪戯っぽく笑う。

その化粧はそれほど濃い化粧では無く、ソフィアの元々の愛らしさを際立て、今日はたまたまラベンダーに髪の簡単なアレンジの仕方も教わっていたためハーフアップにしていた。勿論、ハーマイオニーからもらったバレッタで上品に留められている。

 

 

「そうか、うん。似合ってる!…あーでも、 育て親(パパ)としては…ソフィアに変な虫がつかないか心配だ」

「え?虫なんていないわよ?」

 

 

少し見ない間にいつの間にか女性らしくなったソフィアに、ジャックは喜びつつも複雑そうに苦笑したのだが──ソフィアはきょとんと目を瞬かせ首を傾げる。

虫なんて近くにいないし、髪や肩についていることもない。

ジャックは勿論そんな意味で言ったのでは無く、ソフィアにこの言葉の意味が伝わらなかったことになんとも言えず沈黙した。

 

 

「ソフィア。何か困った事があったらすぐに俺に言えよ?ルイスでもいいし。ハーマイオニーでもいい。…俺の親友でもいいしな。──とくに、男子関係で」

「…?…ええ、わかったわ」

 

 

男子関係で困った事とは?とソフィアはよくわからなかったが、ジャックがあまりにも真面目な顔をしているためとりあえず頷いた。

 

 

「プリンスとエドワーズは、知り合いかね」

「あ、おはようございますムーディ先生」

 

 

低い嗄れた声が静かに響く。

ちょうど朝食をとりに来たムーディはコツ、コツと義足を鳴らしながら2人の側に近付き、そして無遠慮に──どこか楽しげに2人を見た。青い目はぎょろぎょろと2人の間を激しく行き交い止まる事はない。

 

ムーディは、ソフィアの挨拶に、少し虚が突かれたように黒い目を見開いたがすぐに「ああ、おはよう」と挨拶をする。

その言葉を久方ぶりに言ったのか、どこかぎこちない言葉だった。

 

 

「ジャックは私の育て親なんです。暫く孤児院にいたので…」

「ほう…?ならば、魔法も勿論、エドワーズから学んだのかね?」

「ええ、そうです。…ねえ、ジャック?」

「──ん?ああ、そうだな」

 

 

ジャックは少し遅れて反応すると、にっこりと微笑みソフィアの頭を撫でる。

 

 

「アラスター、ソフィアは俺の大切な子どもだ。…ソフィアは、授業をまじめに受けているのか?」

「──ああ、優秀な魔女になるだろう」

「へえ!お前がそういうなんてなぁ…すごいじゃないか、ソフィア!」

 

 

ソフィアは少し驚いた。

ジャックがムーディに対する対応が、かなり気さくなものだったからだ。基本的にジャックは歳上のものにはそれ相応の敬いを見せ許されない限りは言葉も丁寧で、どこか一線を引いている。今までジャックがそのように話すのは父であるセブルスか、先輩であったルシウスのみだ。アーサーに対しても、彼からの許しを得て初めて言葉を崩していた。

ジャックとムーディの年齢の差は親子ほどに大きく、偉大な闇払いであるムーディを親げにファーストネームで呼び、柔らかな表情を浮かべるジャックに──ソフィアはつい、首を傾げて聞いた。

 

 

「ジャックは、ムーディ先生と友達なの?」

「ん?…だってさ、アラスター?」

 

 

ジャックは意味深に悪戯っぽく笑いムーディを見たが、ムーディは肩をすくめ何も言わなかった。

 

 

「ま、色々あって──」

「邪魔だ」

 

 

第三者の冷たい声が割り込んできた。

ソフィアたちが振り向けば、苦々しい表情をし、いつもより眉間の皺を深くさせたセブルスが、腕を組みソフィアを見下ろしていた。

 

 

「あーごめんごめん」

 

 

ジャックは自分達のせいでセブルスが奥にある自分の席に向かえないのだと分かると直ぐに軽く謝りセブルスに道を開けた。

だがセブルスはその後ろを通る事なくじっとソフィアとジャック、そしてちらりとムーディを見て冷たい微笑を浮かべる。

 

ソフィアは、どうやら父の機嫌は何故かあまり良くないようで、自分がここにいることを望んでいないのだと分かるとすぐにジャックに向き合い「じゃあ、またねジャック」とだけ短く言うとセブルスに小言を言われる前にさっさとその場を後にした。

 

どうせ、生徒が教職員の席に来るのはダメだとか適当な理由を告げて追い返すつもりだったのだろう。ジャックは今は教師でもないし、そこまで目敏くチクチクと言わなくてもいいのに…とソフィアは小さくため息をつき、大広間の扉を通りながらちらりと後ろを振り返る。

 

セブルスとムーディの間にジャックが立ち、何やら話しているようだったが流石にこの距離では何を言っているのかわからなかった。

 

 

 

 

ソフィアはすぐにハグリッドの小屋へ向かおうと玄関ホールを抜け校庭へ出る。

湖にはダームストラングの船が昨日と変わらない場所に泊まっていた。明るい場所で見る船は、昨夜ほどの不気味さや恐ろしさは無く、少々古くはあるが、ただの豪華な黒い客船に見えた。

 

その湖から離れた場所には昨年にかなり──痛い目にあった暴れ柳があり、それを物珍しげに見物するダームストラング生の中に、ルイスとドラコが居ることに気がつく。ソフィアはぱっと笑顔を浮かべるとハグリッドの小屋に行く前に2人に挨拶をしようと彼らに駆け寄った。

 

 

「ルイス、ドラコ、おはよう!」

「おはよう」

「おはよう、ソフィア。…今日は一段と可愛いね?」

「ありがとう!」

 

 

ルイスとドラコは声をかけられ振り向きながら朝の挨拶をする。隣にいたダームストラング生であるヴェロニカと、クラムもくるりと振り返り自分の頭一つ分以上小さなソフィアを見下ろした。

 

 

ルイスはソフィアを優しく抱きしめるとその頬にキスを落とし、ソフィアもまたいつものように頬にキスをする。

 

ソフィアはルイスから離れながらそばに居るダームストラング生がクラムであると気がつくとびしりと体を硬直させ、白い頬を赤く染め興奮したように目を輝かせた。

 

おはようクラム!と、すぐに挨拶をしようとしたがそういえば彼はジャックから翻訳魔法をかけてもらっていないのだと思い出し、古い記憶を呼び起こし…ダームストラングがあると言われているスウェーデン語とアイルランド語を話した。

 

 

God morgon(おはよう!)!…えーと、それとも… maidin mhaith(おはよう!)!かしら…」

 

 

伝わっているだろうか、と不安げなソフィアを見て、クラムとヴェロニカは顔を見合わせ口先だけで微笑む。体が大きく身長も高い2人は威圧的な雰囲気を纏っていたが、そのかすかな微笑みだけで十分すぎるほど雰囲気は柔らかくなった。

 

 

God morgon(おはよう)。…英語で、大丈夫です。…ゆっくりなら、聞き取る、ます」

God morgon(おはよう)。心遣い感謝する。だが、英語で構わない。──ビクトール…聞き取るます。ではなく、聞き取れます。だ」

「ありがとう!私はソフィア・プリンスよ。…よかった!実は挨拶しか出来ないの」

 

 

安堵しながらソフィアは明るく笑う。

孤児院で暮らしていた時代は沢山の外国の子どもたちが居た。ルイスは言葉で彼らと交流しようとし、ソフィアは身振り手振りで子どもたちを引っ張り遊びに誘っていた。言葉が伝わらなくてもなんとかなるもので、──勿論、ソフィアの雰囲気が彼らの心と緊張をとかしていたのだろう──ソフィアの周りにはいつも楽しげな笑顔が溢れていた。

 

 

「僕は…ビクトール・クラムです」

「私はヴェロニカ・アールストレーム。…ソフィアは、ルイスの妹か?」

「ええ、そう!双子なの」

 

 

ソフィアはルイスの隣に立ち、腕を組みにっこりと笑う。

もうすぐ14歳になるソフィアとルイスは、昔ほどよく似ている双子では無かった。成長期をむかえた2人はそれぞれ性差が現れ、身長もルイスの方が5センチは高くなっているだろう。ドラコの方がルイスよりも高いとはいえ、今ではそれ程差は大きくない。

一年時に同じようにくるくると変わっていた表情も、ルイスはかなり落ち着き、いつも優しげな微笑みを浮かべ朗らかな雰囲気を纏うようになってきている。

 

一方ソフィアは少しずつ女性らしくなり、体つきも曲線を描きつつあった。…勿論、まだまだ初めの一歩を踏み出したところだが。

 

双子、というよりは兄妹のような見た目になった2人だったが、それでも、笑顔やふと真剣な目をした時の横顔はとてもよく似ていた。

 

 

「クラム!私、あなたのファンなの!」

「ありがとう」

「この前の試合、本当に凄かったわ!これからも応援してるわね」

 

 

本当ならサインの一つでも欲しかったのだが、今日は休日だ。羽ペンや羊皮紙は鞄の中にあり部屋に置いてきてしまっていた。

ソフィアは自分よりも身長が高く、凛とした立ち姿が美しいヴェロニカを見ると小さな感嘆にも似た吐息を吐き、目を輝かせた。

 

 

「ヴェロニカ、あなたってとっても素敵!…私もあなたみたいに背が高くなって、かっこよくなりたいわ…」

「そうかな?ありがとう」

 

 

すらりとした身長だが出るとこはしっかり出ているなんとも女性らしい曲線に、ソフィアは何を食べればあんな風に胸が大きくなるのだろう、あと数年経ったとしても、どう考えても自分はこんな女性にはなれない──そう思った。

 

 

「僕たちはクラム達にホグワーツの案内をしているんだ。ソフィア、君も来るか?」

 

 

ドラコはクラムを独占できる事がなによりも嬉しいのだろう。いつもより頬は血色が良く、誇らしげに胸を逸らす。

行きたい気持ちはあるが、ハリー達に後でハグリッドの小屋へ向かうと約束しているソフィアは残念そうに「ごめんね、先約があるの」と答えた。

 

 

「クラム、ヴェロニカ。あなた達がホグワーツを気に入ってくれたら嬉しいわ!また、私とも話してくれる?」

「はい」

「ああ、勿論だ」

 

 

ソフィアは2人の優しい表情に嬉しそうに笑う。外国の魔法使いと交流し、可能なら仲良くなりたいという願いが早くも叶えられそうな予感にソフィアは胸を躍らせた。

 

 

「じゃあ、またね!」

 

 

大きく腕を振り、ソフィアはルイス達と別れハグリッドの小屋へ向かった。

小屋の扉をノックするとすぐに重い足音が響き、扉が開かれる。目線を合わせるために上を見上げれば、にっこりと笑ったハグリッドと視線があった。

 

 

「おはよう、ハグリッド!」

「ああ、おはようソフィア」

「…あら、なんだかおめかししてるわね?」

 

 

いつもの学校ではなく、毛がモコモコとした茶色い背広に、派手な黄色と橙色の格子縞のネクタイが浮きだって目立っている。

ハグリッドはハリー達が決して触れなかった自分の服装の変化に──それも、悪くない反応に──照れたように鼻の下を指で擦りながら「まぁ、ほら、お客さん方がおるからな」と曖昧に言葉を濁した。

 

 

 

 

 

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