【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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192 呪い呪われ!

 

 

昼食後の後、2限続きの魔法薬学に向かうためにソフィア達は地下牢への階段を降りていた。

 

少し早く着き過ぎるかも知れない、とソフィアが思った時階段を上がってくるルイスとばったり会った。

 

 

「あ、…あー」

 

 

ルイスは何とも歯切れの悪い気まずそうな表情を浮かべ、ハリーを見る。その視線を見たハリーはまさかルイスも他の生徒と同じで自分の事を信じてくれていないのかと思い、すぐに「僕、ゴブレットに名前入れてない!」と叫んだ。

 

階段にハリーの叫びがこだまし、ルイスは驚いたように目を開いたがすぐにいつものような優しい目で笑うと頷く。

 

 

「勿論、それはわかってるよ。ハリーが自分で入れたんじゃないって」

「え?…じゃあ…なんで、そんな…」

 

 

何故そんな複雑な表情をしているのか、とハリーは呟いたが、ルイスは少し言い淀んだ後大きなため息をついた。

 

 

「…ハリー、この先にスリザリン生が君を待ち構えている。…僕は出来る限り止めたんだけどね。ごめん、無理だった。…見たくなくて、逃げ出してきちゃった」

「…そんなに?まぁ、ドラコがハリーに噛み付くのは趣味だけれど…」

 

 

スリザリン生がハリーを目の敵にしているのはいつもの事だ。先週の魔法薬学の授業だって、中々に酷かった。ソフィアとハーマイオニーとロンが、暴言を吐かれ苛立ちが抑えきれず爆発しそうなハリーを必死に宥めていたのだ。

 

そして、ルイスはスリザリン生の暴言を聞き、嫌な顔をしながらも──なんだかんだ言ってドラコの隣にいた。勿論何度かルイスは調子に乗り過ぎたドラコの頭を叩き、背を鞄で殴っていたが。

 

そんなルイスが逃げ出すほど酷いなんて、一体この下はどうなっているのだろうか。

 

 

「…僕は、時間ギリギリに…あー、ここにくるスネイプ先生と一緒に教室に入ろうかなって思って。ハリー達はどうする?」

 

 

ハリー達は顔を見合わせた。

この下でスリザリン生が何かを企み待ち構えている。流石のスリザリン生もセブルスの前ではハリーを表立って陥れる事はしない──かもしれない。

だが、ハリーにとってはセブルスもイヤな奴で嫌いな人間である事には変わらず、それに──スリザリン生に怖気付いていると思われるのも嫌で、首を振った。

 

 

「下に行くよ。…忠告ありがとう、ルイス」

「んー…。うん、ハリー…本当に、ごめんね」

 

 

ルイスはドラコ達の行動を止められず、心から謝った。

だが、この数日間のストレスからハリーはルイスと視線を合わせず、吐き捨てた。

 

 

「君はスリザリン生だからね」

 

 

その言葉は、ハリーが思っていたよりも冷たく響き、ルイスは傷付いたような目をしたが──何も言わず隣を通り過ぎ階段を登っていった。

 

 

「…ハリー…ルイスは──」

「わかってる!」

 

 

ソフィアは流石に、ハリーの言葉を咎めようとしたが、ハリーは大声で叫ぶとそのまま階段を駆け降りた。

 

わかっている。ルイスは僕たちも立ち位置が違う。

友達だとしても、ルイスにとって1番の友達はあのマルフォイで、どうしても強く止められなかったんだろう。それに、スリザリン生の中1人だけ違う事をし、場を乱す事もきっと難しいんだろう。

 

それでも、ハリーは自分にとって完全に味方ではないルイスのことを思うと、どうしようもなく悲しかったのだ。──友達なのに。

 

 

ソフィアとハーマイオニーとロンは顔を見合わせため息をつくと、すぐに先に行ってしまったハリーを追いかけた。

 

 

ルイスの言うように教室の前にはスリザリン生がハリーの到着を待ち、ニヤニヤと意地悪く笑いながら胸につけた大きなバッジが良く見えるように胸を逸らせた。

 

薄暗い廊下に、赤い蛍光色の文字が燃えるように輝いている。

 

派手に点滅する『セドリック・ディゴリーを応援しよう!ホグワーツの真のチャンピオンを!』の文字を見て、ハリーはぐっと唇を噛み締める。

 

 

「気に入ったかい?ポッター?それに、これだけじゃないんだ──ほら!」

 

 

集団の中から前に躍り出たドラコがニヤリとほくそ笑み、バッジを胸に押しつける。

すると赤い文字は消え、緑色に光る別の文字が浮かび上がってきた。

 

 

『汚いぞ、ポッター』

 

 

スリザリン生全員がバッジを押し、緑色の文字が光る。

ハリーの顔が怒りからカッと赤くなったのを見て、彼らはげらげらと大声で笑った。

 

 

階段を降り切ったソフィア達は、すぐにそのバッジに気付き、ルイスが言っていたのはこれだったのか、と察するとハリーの隣に並びじろじろとその文字を見た。

 

 

「とっても面白いじゃない」

 

 

ゲラゲラと笑うパンジーに向かって、ハーマイオニーが皮肉たっぷりに言う。

ソフィアもパンジーの胸に光るバッジをじっくりと見た後、真面目な顔で首を傾げた。

 

 

「うーん。パンジー、あなた髪が黒くて綺麗だから、赤とか緑の蛍光色のバッジをつけるよりも、淡い色のバッジの方が似合うんじゃない?そんな派手なの、私は変だと思うわ。文字も馬鹿馬鹿しいし…」

「…これはこれでいいのよ!」

「ええ?…うーん、私にはわからないわ…おしゃれって難しいのね?」

「あら、すっごく馬鹿馬鹿しくて、おしゃれだわ」

 

 

ハーマイオニーの言葉にパンジーは顔を赤くし強く睨む。だがハーマイオニーは勝ち誇ったように「フン!」と鼻で笑った。

教室に入ることが出来ず壁にもたれて見守っていた他のグリフィンドール生も、ハーマイオニーの反撃にくすくすと笑う。

 

やられっぱなしでは面白くないドラコは、内ポケットからバッジをひとつ取り出し、意地悪く笑ったままハーマイオニーに差し出した。

ドラコはハリーを苦しめる事しか考えていない、それに、今はいつもなら止めてくれる筈のルイスも側に居なかった。

そして──ドラコは、2年生の末にソフィアと交わした約束を忘れていた。熱いものでも、喉元を通り過ぎればその痛みと熱を忘れてしまうものだ。

 

 

「ひとつあげようかグレンジャー?沢山あるんだ。──だけど、僕の手に今触らないでくれ。手を洗ったばかりなんだ。穢れた血でべっとりにされたくないんだよ」

 

 

ハリーの内で何日も溜まっていたストレスが一気に溢れ出し、無意識のうちに杖を掴んだ。

周りにいた生徒達は慌てて飛び退き廊下で遠巻きにする。スリザリン生一人として、ドラコを庇おうとするものは居なかった。

 

 

「撤回しなさい、ドラコ」

 

 

いや、ハリーだけではない。

ハーマイオニーに対する侮辱に最も反応するのは、彼女の親友であるソフィアだ。

 

 

「ハリー!ソフィア!」

 

 

ハーマイオニーが引き止めようとしたが、ハリーとソフィアは杖を降ろさず強い目でドラコを睨んだままだった。

 

 

「…2対1は卑怯だぞ、ソフィア」

 

 

ドラコは低い声で呟く。

ハリーと対峙するのはいい、だがソフィアに杖を向けられてしまえば勝ち目はないと、ドラコはわかっていた。

暫くドラコを睨んでいたソフィアだったが、杖を降ろすと自分を落ち着かせる為に長い息を吐いた。

 

 

「……、…確かにそうね」

 

 

ソフィアが杖をおろした途端、ドラコはハリーを見据えせせら笑う。

ドラコはこれでソフィアはもう自分に何もしないだろうと思ったが──勿論ソフィアは微塵もドラコを許していない、後でドラコに杖を振る気満々であり、杖は握ったままだった。

 

 

「やれよ、ポッター。今度は庇ってくれるムーディもいないぞ、やれるもんならやってみろ」

 

 

ハリーとドラコの目に火花が散り、それから全く同時に叫んだ。

 

 

鼻呪い!(ファーナンキュラス!)

歯呪い!(デンソージオ!)

 

 

2人の杖から飛び出した呪いが光線となり突き進む、空中でぶつかった呪いは折れ曲がって跳ね返り──ハリーの呪いはゴイルの顔を直撃し、ドラコの呪いはハーマイオニーにぶつかった。

 

 

「ハーマイオニー!」

 

 

ロンとソフィアが叫び、ハーマイオニーに駆け寄る。

ハーマイオニーは座り込み口元を押さえ、おろおろとした声を上げていた。

 

 

「ハーマイオニー…」

 

 

ソフィアは泣きそうに歪むハーマイオニーを落ち着かせるように優しく彼女の名前を呼び、そっと腕を掴んで手を口から離させた。

ハーマイオニーの前歯がにょきにょきと伸び、下唇を通過し、顎下にまでかかりはじめていた。

 

 

「──っ!!」

「ああ…すぐ医務室に行かないと…」

 

 

ハーマイオニーは自分の伸びる歯をぺたぺた触り、悲鳴を上げ、ソフィアは慰めるようにハーマイオニーの肩を撫でた。

 

 

「この騒ぎは何事だ?」

 

 

低い、冷え冷えとした声がした。

セブルスがルイスと共に到着し、怪訝な目で辺りを見渡す。スリザリン生が口々に説明する中、セブルスはドラコを指名し、「説明したまえ」と低く呟いた。

 

 

「先生、ポッターが僕を襲ったんです──」

「僕たち同時にお互いを攻撃したんです!」

 

 

ハリーはドラコにだけ説明させてたまるものか、と必死にセブルスに向かって叫んだが、セブルスは微塵もハリーを見る事はなかった。

 

 

「ポッターがゴイルをやったんです、見てください──」

 

 

ドラコはゴイルを引っ張りセブルスの前に立たせた。

ハリーの鼻呪いにより、ゴイルの鼻は毒キノコのぶつぶつのような醜い吹き出物が出来上がっていた。

 

 

「医務室へ、ゴイル」

「マルフォイがハーマイオニーをやったんです!見てください!」

 

 

歯が見えるようにとロンはハーマイオニーをセブルスの方に向かせた。

ハーマイオニーはこんな姿を誰にも見られたくなく、必死に手で隠そうとしたが、既にハーマイオニーの前歯は喉元程まで伸びていて、隠しきれず、それを見たスリザリン生達が声が漏れないよう口を抑えながら指差し身を捩って笑っていた。

 

羞恥心からハーマイオニーの顔がどんどん赤くなるが、セブルスは冷たい目でハーマイオニーを見て言った。

 

 

「いつもと変わりない」

 

 

ハーマイオニーは目から大粒の涙を漏らした。

ハリーとロンはセブルスが放った言葉が信じられず、唖然と口を開く。

 

 

「──はぁ?」

 

 

ハーマイオニーの啜り泣きの中しか聞こえない空間に、大きな軽蔑の声が混じる。

ハーマイオニーの肩を支えていたソフィアは、強い目でセブルスを睨み上げる。ぐっと、肩を掴む手に力が篭り、ハーマイオニーはそのあまりの強さにびくりと体を震わせ泣きながらソフィアを見た。

 

 

「本気で──本気で言ってる?」

 

 

ソフィアは怒りに震え、気がつけば、生徒という立場を忘れていた。

娘として信じられなかった。いくらグリフィンドール生の事が──ハリーを取り巻くハーマイオニー達のことが嫌いだとしても、これは酷過ぎる。あり得ない。

 

強いソフィアの怒りに、セブルスは眉を寄せる。──勿論、セブルスとてハーマイオニーの歯がいつも通りだとは思っていない。

 

 

「本気で言ってるの?ねえ、ハーマイオニーを見てよ!ちゃんと見て、それでも変わりないって言うの!?」

「…ミス・プリンス。教師にそのような粗暴な言葉遣いは認められん」

 

 

セブルスは牽制の意味を込めて静かにソフィアに言ったが、ソフィアは気付かずセブルスに詰め寄り叫んだ。

 

 

「何があったのか教えてあげるわ!ドラコがハーマイオニーの事を穢れた血って言ったのよ!それでハリーとドラコがお互いに呪いを掛け合って跳ね返ってゴイルとハーマイオニーにあたったの!ハーマイオニーのはどう見ても歯呪いでしょう!?ねえ、本気でいつもと変わらないって言うの!?」

 

 

セブルスに対して──誰よりも恐れられているスネイプ先生に対しての叫びに、見守っていた生徒達は間違いなくソフィアは減点と罰則を受ける事だろうと思った。

 

ルイスは何があったのか、ようやくこの説明で悟り──ちらりとセブルスを見上げる。

 

 

セブルスは苦虫を噛み潰したような表情で、無言のままソフィアを見下ろすだけだった。

 

 

場に重く張り詰めた沈黙が流れ──ソフィアは大きくため息をつくと、くるりとドラコを見て、誰もがソフィアの剣幕に動けない中ドラコに歩み寄ると杖先を向け、叫んだ。

 

 

変身せよ!(タスフォーマニー!)

「っ!?」

 

 

ドラコはソフィアの変身術の腕前を思い出し、まさかまた白いケナガイタチに変身させられるのではないかと顔を引き攣らせた。

しかし、前回のような体が歪み縮む感覚はない。

ただ、自分の体の前で破裂音と共に白煙がもうもうと上がり、つるりとした冷たいものが肌の上を何度も掠めた。

 

 

「う、うわっ!?」

「言ったでしょう?次にハーマイオニーを穢れた血って呼んだら──服もパンツも蛇に変えてやるって!」

 

 

ドラコはぼたぼたと自分の皮膚を滑る蛇の山を見て顔を青くしたが、ひやりとした風が肌を撫でたのを感じ、身体を見下ろし──素っ裸なのを見て顔を真っ赤にするとその場にしゃがみ込んだ。

 

女生徒が悲鳴を上げ目を手で覆い隠す──中にはちらちらと指の隙間から見ている生徒も居たが──グリフィンドール生はセブルスの手前、声を出して爆笑することは出来ないが、それでも目に涙を浮かべ口を押さえて必死に笑い声を殺していた。

 

 

「──終われ!(フェニート!)…ミス・プリンス、グリフィンドール30点の減点と、放課後に罰則だ」

 

 

セブルスはドラコの周りで蠢く蛇に向かって解呪魔法を唱える。すぐに蛇は元の服となり、さらにセブルスが杖を振るえばその服は1人でにドラコの頭や腕を通った。

 

ようやく裸ではなくなったドラコだったが、白いケナガイタチにされるよりよっぽどの屈辱にぎりぎりと歯を食いしばりソフィアを睨む。

だがソフィアは、それ以上に冷たい目をしてドラコを見下ろしていた。

 

ソフィアはくるりと踵を返しセブルスに向き合うと、何度か深呼吸をし、彼にとって尤も聞きたくない言葉を放った。──それほど、ソフィアは激怒していた。

 

 

「大っ嫌い!!」

 

 

ソフィアは大声で叫ぶと、座り込んでぽかんとソフィアを見ていたハーマイオニーの手を取り、身体中で怒りを表現するようにずかずかとセブルスの隣を通り過ぎ、かなり煩い足音を響かせて階段を駆け上がった。

 

 

しん、と教室前が静まり返った中、セブルスが憎々しげに「教室に入りたまえ」と呟き、見守っていた生徒達は慌てて教室に飛び込んだ。

 

 

ルイスはいつもより眉間の皺が深く、目に狼狽の色が見えるセブルスをちらりと見上げ、大きくため息をついた。

 

 

「自業自得だね──2人とも」

 

 

その小さな呟きはセブルスとドラコにしか聞こえず、2人は苦い表情で奥歯を噛み締めた。

 

 

 

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