ソフィアは夕食の時間、大広間に行く事なくグリフィンドールの談話室に戻っていた。
もし大広間でセブルスと会えば、この後に受けなければならない罰則について声をかけられるだろうと思っていたのだ。
ジャックの言うように、何かあったのなら本当に頼れるのは
「ソフィア!君、罰則は?」
暖炉近くにあるソファの前で座っていると、夕食を食べ終わったハリーとロンが驚いたような目をしたままソフィアの元に駆け寄り隣に座った。
ソフィアは机の上に数占い学の宿題を広げ教科書に目を落としたまま当然のように応える。
「行かないわ」
「えっ…それは…。…罰則が伸びるだけじゃあ…」
「いいのよ!別に!だってスネイプ先生酷いもの!今は、顔も見たく無いし、従いたくないわ!」
ばしん、と教科書を閉じたソフィアは怒り顔のままロンを睨む。
ロンは「まぁ、ソフィアがいいなら…」ともごもごと答えたが、自分ならどれだけ嫌でも──罰則の期間が伸びる方が耐えられないだろう。
「あー…ハーマイオニーはまだ医務室かな?」
「ええ。多分ね…」
ハリーはこれ以上ソフィアの怒りに触れる話題を出してはならないと感じ、それとなく話題を変えた。
ソフィアはため息をついたまま静かに答える。ハーマイオニーの歯はかなり伸びていた、治療するのに時間がかかるのかもしれない。
ハーマイオニーの事を心配しながらも宿題の手を止めないソフィアを見たロンとハリーは、自分達も沢山の宿題がある事を思い出しいそいそと空いている机の上に鞄の中から占い学の教科書を出した。
ソフィア達が宿題を始めて1時間ほどたった頃、コンコンと窓の外から小さな音が響く。宿題に飽き飽きしていたロンが──既に羊皮紙の端に落書きを始めていた──すぐに立ち上がり窓に駆け寄りぱっと開く。
「フクロウだ。誰のだろう?」
「あっ!僕が使ったフクロウだ!──返事が来たんだ!」
ロンは見慣れないフクロウに首を傾げたが、ハリーはすぐにシリウスへ手紙を送った時に使ったフクロウだとわかり慌てて駆け寄る。
小さな灰色のメンフクロウはハリーの腕に止まると足についている汚れた紙をハリーに差し出した。
「ありがとう!」
ハリーは礼を言うとそのメンフクロウの頭を撫で、すぐに窓へ向かって放った。
メンフクロウは一度「ほう」と鳴いたがそのまま夜空へと飛び上がる。仕事を終えたフクロウは、フクロウ小屋へと戻るのだろう。
ハリーはあたりを見渡し、近くに他のグリフィンドール生がいない事を確認すると──それでも用心深く声を顰めて「シリウスからだ」とロンとソフィアに伝えた。
ロンとソフィアは息を飲み、真剣な目でハリーの持つ手紙を見つめる。
ハリーはソファに座り直し、ロンとソフィアも周りから隠すように身を寄せ合い開かれた手紙を読んだ。
そこにはハリーの安否を心配する言葉と共に、11月22日の午前1時にグリフィンドール寮の暖炉の側で待っていて欲しいと書かれていた。
「暖炉?…なんでだろ…」
「…
「えっ!?こ、ここにくるつもり?」
「ここには…流石に来ないだろ、バレたらやばいし…顔だけ出すんじゃ無いかな?ほら、セドリックのパパが顔だけ僕の家の暖炉から出したのを見ただろ?」
「あ…そういえば…」
魔法族であるロンとソフィアは煙突飛行を行う際、身体全てを入れなければ顔だけが別の場所に行くと知っている。
ハリーはクィディッチ・ワールドカップが終わった後、ロンの家である隠れ穴で過ごしていた時にエイモスが首から上だけを暖炉から現わし、アーサーを仕事に引っ張っていった事が──そういえばあったと思い出した。
「でも…ここの暖炉って、登録されてるのね…知らなかったわ。移動できなくても、顔だけ見せれるようになってるのかしら?もし、飛行ネットワークに組み込まれてるなら…ちょっと、不用心じゃない?」
「どうだろうね…確かに、そうかも…?」
怪訝な顔をするソフィアだったが、ハリーはその意味がよくわからないのか首を傾げた。
もし、外から幾らでも自由に寮の暖炉へ行き来出来るのなら、外部からの侵入を簡単に許してしまう。確かにセブルスは飛行ネットワークを使い出勤しているが、確か──わざわざホッグズ・ベッドに一度向かってからホグワーツへ戻っていた。
外部からの侵入を防ぐために姿現しが出来ないようになっているホグワーツが、飛行ネットワークに組み込まれているのは──何だか奇妙な矛盾を感じる。
ソフィアは眉を顰めたまま考え込んでいたがハリーとロンはそもそもあまり疑問に思っていないのか気にせず、どうやってその日に談話室を無人にするか考え込んでいた。
ちょうどその時ぱっと談話室の肖像画が開き、いつも通りの歯になった機嫌の良さそうなハーマイオニーが現れた。
「ハーマイオニー!歯、戻ったのね、良かったわ!」
「ええ、ちょっと時間がかかったけど、問題ないわ」
ソフィアはぱっと笑顔を見せるとハーマイオニーに駆け寄り、元に戻った前歯を見て安心したように胸を撫で下ろした。
ハーマイオニーは歯を見せて、にっこりと微笑む。
ソフィアはすぐに彼女の──通常よりも大きな前歯がいつもより縮んでいる事に気が付いたが、ハーマイオニーの悪戯っぽい笑顔を見て自ら望んで少し縮めたのだと分かると同じように笑った。
ハーマイオニーがソフィアに手を引かれてハリーとロンの元へ座った後、ソフィアはシリウスからの手紙が来たのだと知らせ、4人はどうやってその日時に談話室を無人にするのかを話し合った。
「まあ、最悪…眠り魔法を使いましょう。眠気を誘って、自室に行くようにするのよ」
クソ爆弾でも投げれば誰も居なくなるよ!というロンの提案をソフィアはそれとなく却下し、手を叩く。
ハリーとロンとハーマイオニーはソフィアが言う眠り魔法を使えなかったが、それが1番いいと頷いた。
きっと、クソ爆弾を使えば談話室は憩いの場ではなくなり、大きな減点と罰則が待っているだろう。管理人のフィルチは喜んで罰則だといって生皮を剥ごうとするかもしれない。
それに、ハリーはこれ以上目立つ事をしたくは無かったのだ。ただでさえ目立っているのに──課題前にそんな事をしてしまえば、また調子に乗り目立とうとしていると揶揄われてしまうだろう。スリザリン生達に自分から餌を与えるようなものだ。
「…ソフィア、そういえばスネイプ先生の罰則はもう終わったの?」
ハーマイオニーはふと思い出したようにソフィアに聞いた。
心優しいソフィアが自分に対するドラコとセブルスの行動と侮辱に耐えられずドラコに魔法をかけ、父であるセブルスに対して「大っ嫌い!」と言い放ち──罰則内容はどんなものだったのか、大丈夫だったのかとハーマイオニーは治療中もソフィアの事を気にしていた。
「行ってないわ」
「えっ!…そ、そんな…罰則の期間が長引くわよ?それに──それに、スネイプ先生、凄く怒るんじゃあ…」
「いいのよ、別に」
キッパリと言うソフィアに、ハーマイオニーは押し黙る。
この中でハーマイオニーだけが、ソフィアとセブルスの関係を知っている。
確かにセブルスの言葉は酷いもので、ハーマイオニーも思い出すだけで胸の奥から失望と怒りが込み上げてくるが──だとしても、罰則に行かず、後で困るのはソフィアだろう。
それに、ソフィアは本当はセブルスの事を心から愛している。
長く
ハーマイオニーにだって、親と喧嘩することはあった。
両親と喧嘩した時に、ハーマイオニーは怒りつつも、悲しくて、胸が痛んでいた。きっとソフィアも同じ気持ちだろう。そう思ったからこそ、ハーマイオニーは真面目な顔でソフィアの手を握り、真剣に伝えた。
「行った方がいいわ、ソフィア」
「でも…」
「ソフィア。行きなさい」
「……」
窘めるようなハーマイオニーの言葉に、ソフィアは項垂れると「…ハーマイオニーがそこまで言うなら…」と呟き立ち上がった。
育て親や友人達がいくら言っても動かなかったソフィアだが、呪いをかけられた張本人であり、1番の親友に言われてしまえば──行くしかない。
肩を落とすソフィアに、ハリーとロンは本人が行きたくないのなら──後でかなり厳罰を与えられるとしても──今は行かなくてもいいのではないかと思い気遣うようにソフィアを見たが、ソフィアは曖昧に笑うととぼとぼと談話室から出て行った。
「…無理に行かせなくても良かったんじゃない?」
「…行った方が良いのよ。…もっと罰則が厳しくなったかもしれないし、それに──」
ハーマイオニーは肖像画を降りていったソフィアの背中を見ながら呟く。
「それに?」
「──何でもないわ。…ほら、ハリー?返事を書かないと!」
ハーマイオニーは首を振り、鞄の中から新しい羊皮紙を取り出すとハリーに早く返事を書くように促した。
ーーー
ソフィアはセブルスの研究室の前に立っていた。
魔法薬学の教室には居なかったことから、きっとこの時間はここか──自室だろう。
重いため息を吐き、ソフィアは暫くその場から動かなかった。
──だって、父様酷いんだもの…。
セブルスがハーマイオニーに放った言葉は許されるものではない。
それを思い出すたびに胸が怒りでざわつき、そして──チクチクと痛んだ。
怒りと、悲しみと、失望だろう。いくらグリフィンドール生が嫌いだとしても、あの言い方は酷すぎる。仮にも、ハーマイオニーは娘の親友であり、自分達の秘密を守ってくれている恩人では無いのだろうか。
何故、こうもグリフィンドール生の事を冷遇するのか。
聡いソフィアは、勿論その理由に思い当たる事があったが、だとするならば──…。
──父様は心が狭いし、子どもっぽいわ。
と、ソフィアは胸の奥で悪態を吐き、ようやく重い手を上げてトントンと扉を叩いた。
「…誰だ」
「ソフィア・プリンスです。罰則に来ました」
「…入りたまえ」
扉の奥から低い声が聞こえ、ソフィアはもう一度ため息をつき、静かに扉を開けた。
研究室に入り、奥にある椅子にセブルスが座っているのをチラリと見たソフィアは何も言わず後ろ手で扉を閉める。何か事務作業をしているのか、机の上には羊皮紙が広げられていた。
すぐに苦い表情をしたセブルスが杖を振るい、防音魔法と鍵をかけたのを見て、ソフィアはこれがただの罰則ではないのだと思った。
わざわざ、他者が入らないようにしている。
つまり──親子として話したいのだろう。
「罰則は、何でしょうか。…スネイプ先生」
だが、ソフィアはツンとした表情を崩さず、いつもならすぐに笑顔で駆け寄るか、娘として父に苦言の一つでも訴えるが──あくまで、一生徒としてセブルスに接した。
セブルスはソフィアの冷ややかな声と視線に、内心で動揺した。
大嫌いだと面と向かって言われた時の衝撃を──情けない事に、セブルスはまだ引き摺っていた。
それも仕方ない事だろう、セブルスにとってソフィアは最も大切に思う1人だ。心から慈しみ愛している。そんな愛娘に面と向かって大嫌いだと言われた時の衝撃といったら無かった。
その後ルイスに自業自得だと言われた時も、ぐうの音も出ず沈黙してしまったのだ。
「…罰則は──」
セブルスはソフィアが授業をサボるとは思っていなかった為、居残りさせ使用した大鍋を清掃させようと思っていた。
流石に、ドラコに向かって魔法を放った現場を目撃して罰則を与えないわけにはいかない。
だが、ソフィアは激怒したまま授業に現れなかった。ソフィアからの衝撃発言──大嫌いという言葉だが──を受けたセブルスは思い悩むあまりうっかり大鍋の清掃も魔法で済ませてしまった。──ソフィアは今こうやって遅い時間に罰則を受けに訪れたが、どう見ても反省している目をしてはいない。
「──罰則は無い」
「…そうですか。なら私はもう帰っても?」
「…、…ソフィア、私を軽蔑したか…?」
セブルスは静かにソフィアに聞いた。
ソフィアは無言でセブルスを見ていたが、その瞳がいつもの父らしくなく、雨の日に捨てられた子犬のような目をしていて、ちくりと胸が痛んだ。
「…そんな捨てられた子犬みたいな目で私を見るのはずるいわ…父様」
ソフィアは大きくため息をつくと、椅子に座るセブルスの元に近づき、そのまま足の上に座り、その広い胸にぽすんと額をつけた。
昔同じような事をアリッサにも言われた事を思い出したセブルスは、なんとも言えない気持ちになりながらソフィアの背に手を回す。
「…でも、私はまだ許せないわ。何であんな酷い事を言えるの?」
「それは……」
「あのね、父様。──ハリーはジェームズでは無いわ。父様が、母様と兄様の事で、ハリーのお父さんを恨んでいるのはわかっているわ。でも…だからといって、八つ当たりをするのは間違ってるわ」
「……」
「それに、ハーマイオニーは何も悪い事をしてないし…私たちの秘密を、ずっと守ってくれているのよ?普通は感謝すべきで、冷遇なんてしないわ」
「……」
「父様。私、間違った事を言ってるかしら」
「……」
一向に何も返事を返さないセブルスに、ソフィアは真剣な目で見つめる。
これでは、どちらが大人であり、どちらが諭されるべき子どもなのかわかったものではなく、セブルスは再度自分の情け無さを実感し沈黙した。
──間違いは微塵もない。
セブルスもいい大人だ、自分の振る舞いが人として誉められたものではないと理解している。だが、どうしてもハリーの姿を見ると憎いジェームズを思い出し、どろりとした黒い感情が抑えられず何としてでも虐げてやりたいと、思ってしまうのだ。心が狭く大人げないとはわかっているが──セブルス・スネイプという人物は、わりと短絡的であり、カッとなった衝動に突き動かされてしまう。
「……いや、間違っていない。…すまない、ソフィア」
セブルスは低い声で苦々しく呟いた。
自分に対して謝るのではなく、ハーマイオニーに謝って欲しかったが──ソフィアはセブルスの性格は十分に理解している。何があっても謝ろうとはしないだろう。そしてまた、父はグリフィンドール生にさらに嫌われるのだ。
まるで自ら進んで悪役になっているかのようなセブルスの振る舞いに、ソフィアはため息をこぼしセブルスの首元に手を回してぎゅっと抱きついた。ふわり、とセブルスの独特の薬草の匂いが──ソフィアにとって最も好きな落ち着く香りがふわりと漂う。
「すごく、嫌だったの」
「…すまない」
見る限りでは父様は反省しているみたい。きっと、これからは──少しはマシになる…わよね?
項垂れるセブルスを見たソフィアはそう信じ、寄せていた顔を離すと表情を緩め悪戯っぽい顔でセブルスを見た。
「…父様。次、グリフィンドール生を冷遇したら…私、父様の恥ずかしい写真を学校中にばら撒くわ、わかった?」
「…待て。何でそんな写真を──持っているわけがないだろう」
「あら、私の
「……」
セブルスは苦い表情で黙り込んだが、ソフィアはくすくすと笑い手を伸ばしてセブルスの頬を両手で包み、そのままぐーっと強く押した。
「父様?…お返事は?」
「……わかった」
頬を押されながらセブルスは口の奥でもごもごと呟く。
もし第三者が今の状況を見れば、セブルスの頬を無遠慮に押し、まるでふざけたキスをするような顔にさせているソフィアに対し、それだけで退校処分ものだと顔を青ざめただろうが──2人は本来は、仲の良い親子である。
ソフィアは満足そうに笑うとセブルスの頬から手を離し、もう一度強く抱きしめた。
「…父様、大嫌いなんて…嘘よ、ごめんなさい」
「……ああ、わかっている」
「大好きだから、悲しかったの…」
「ああ…すまない」
セブルスは優しくソフィアの背中を撫で、頬に謝罪を込めてキスを落とした。
明日からは、ソフィアに嫌われないように、せめてグレンジャーに対する言動は少し気をつける事にしよう。
そう、セブルスはソフィアの温もりを感じながら思ったが、果たしてそれが短絡的であり衝動的な彼に可能な事なのかどうかは──今はわからないだろう。