ついに三校対抗試合の日がやってきた。
その日、授業は午前中で終了し、ハリーは昼食中にマクゴナガルに呼ばれて先に競技場へと向かった。
ソフィア達は口々に「頑張って!」と何度も応援したが、ハリーの表情は強張り、どこか動きもぎこちなかった。
ハリーや他の代表選手達も大広間から退出し、少し経った後、ダンブルドアが生徒達に競技場へと向かうように告げる。
すぐにソフィア達は立ち上がり他の生徒達と混ざって競技場へ向かったのだが、ソフィアはどの生徒達もグリフィンドール生以外は胸に「セドリック・ディゴリーを応援しよう」のバッジをつけているのを見て気が滅入ってしまった。
「ああ、ハリー大丈夫かしら…」
「きっと、大丈夫さ!そうだろ?」
「ええ…大丈夫に決まってるわ!」
ソフィア達は自分に言い聞かせるようにそう言ったが、自分自身でもわかるほど声は不安の色に染まっていた。
競技場の側には大きなテントが立ち、中が見えないようにしっかりと入口は閉じてあった。きっとここが選手の控え室なのだろう。ソフィアはそのテントの中に入ってハリーを応援したい気持ちに駆られたが、何度も応援すれば、きっとその分ハリーは緊張し不安に思ってしまうだろう。
ソフィアはグッと堪え、ハーマイオニーとロンの後に続いて競技場の門をくぐった。
観覧席には既に沢山の生徒達がガヤガヤと興奮しながら楽しげに話している。
笑い合い、課題は何だろうかと予想しあう声を聞きながら、ソフィア達はぐっと唇を噛み、心からハリーの無事を祈った。
「これより、三大魔法学校対抗試合、第一の課題を開始する。選手達に与えられた課題は──勇気と、知恵、そして魔法のセンスを見極めるに相応しい──ドラゴンとの対峙じゃ。選手達はドラゴンが守る金の卵を手に入れなければならぬ」
ダンブルドアの声が魔法で拡大され、競技場中に響いた。生徒達は口々に「ドラゴン?」「あの、凶暴な?」と興奮し囁き合う。
ドラゴンを見た事がない者でも、その凶暴性は十分理解している。選手達はどのようにドラゴンと対峙し、金の卵を手に入れるのか──課題の開始を今か今かと心待ちにし生徒達は足を踏み鳴らす。
競技場の中央に金の卵が数個配置された途端、すぐに課題開始のホイッスルが鳴り響き、誰もが首を伸ばし固唾を飲む中、青みがかった灰色のスウェーデン・ショートスナウト種が地響きを立てながら現れ、すぐにその金の卵に近づきぐるぐると唸り声を上げた。
「さぁ!1人目の選手を紹介しましょう!ホグワーツ所属、セドリック・ディゴリー!」
解説者であるバグマンの大声と共に、セドリックがテントから飛び出した。
大声援が上がる中、セドリックは大きなドラゴンを見上げ表情を引き締めるとすぐに杖を振るい側にある大きな岩を犬に変身させた。
茶色い毛並みのラブラドールはドラゴンの周りを走り回り注意を引き、卵を取られると思ったドラゴンがその犬を捕らえるために大きく羽を広げゆっくりと歩き出す。
セドリックは岩山の後ろに隠れつつ金の卵へと近付き、犬を反対側の遠くへ誘導した。
しかし、ドラゴンは犬から視線を逸らすと隠れているセドリックを見つけ、口から炎を吐いた。
呻き声と叫び声が上がる中、セドリックはなんとかギリギリで炎を避け、新たに岩を犬に変えドラゴンの意識を逸らし、その隙に別の岩山へと身を隠した。
そうして少しずつ金の卵に近づいたセドリックは火傷を負ったものの無事に一つの金の卵を手に取るとすぐに大きく天に掲げた。
大きな歓声と拍手で沸く中、ドラゴン使いが颯爽と現れ怒れるドラゴンを沈めるために失神魔法をかける。
「セドリック、うまいわね…!」
「ええ、火傷は大丈夫かしら?」
「犬に変えるなんてね!たしかに、すごいよ」
ソフィア達も拍手をしながらセドリックの健闘を讃えた。少々時間はかかり、派手な魔法では無かったが慎重でありなによりも確実な方法で──ハッフルパフ生のセドリックらしい、といえるだろう。
次に現れたのはフラー・デラクールであり、フラーはドラゴンに魅惑の呪文と眠り魔法をかけその脅威の無効化を試みた。
彼女の作戦はうまくいったのだが、すっかり眠ってしまったドラゴンが大きないびきをした途端、鼻から炎が噴き出し、そろそろと近づいていたフラーのスカートに火をつけた。慌てて水魔法を使い火を消したフラーはすぐに金の卵を掴み、空高く掲げた。
3番目はビクトール・クラムだった。
彼はドラゴンと対峙するとすぐに結膜炎の呪いを放った。ドラゴンは苦しみのたうち回ってしまい、ドラゴンの足元にあった卵の半数は無残に割れ、潰れてしまった。クラムは苦しみもがくドラゴンを避けながらなんとか無事だった金の卵の元に辿り着き、ひとつを空高く掲げる。
「ああ…ハリー、最後なのね…しかも…ホーンテール…!」
ソフィアは心からハリーの無事を祈った。
ついにハリーの名前が呼ばれ、テントの中から硬い表情をしたハリーが現れる。
競技場の端には既にホーンテールが金の卵をしっかりと抱えて伏せていた。
ドラゴンは両翼を半分開き、鋭い黄色い目でハリーを睨む。
黒く固い鱗に覆われたドラゴンはその棘だらけの尻尾を強く地面に打ち付け、固い地面に幅1メートルもの溝を作り上げた。これ以上近付くなと威嚇するドラゴンを見た観衆達はどう見てもこのドラゴンが1番凶暴だと気がつき、興奮し大騒ぎしながらドンドンと足を踏み鳴らす。
「アクシオ!ファイアボルト!」
ハリーは杖を振り上げて叫んだ。
全神経を集中させた渾身の叫びだった。群衆達は何も起こらない様子を見て怪訝そうな顔をしたが──少しして、空気を切り裂くような鋭い音を聞いた。
「──やったわ!」
ソフィアは思わず叫んだ。ソフィアだけではない、ロンもハーマイオニーも同じ言葉を叫んだだろう。
ハリーの脇には飛んで来たファイアボルトがぴたりと止まり、主人が自分の背に乗るのを待っていた。
ハリーはすぐに箒に跨り、強く地面を蹴り──空高く舞い上がった。
きっと、誰もこの展開は予想していなかっただろう。生徒だけではなく、教師達も──ムーディを除き──ハリーがアクシオでファイアボルトを呼び寄せるとは思わなかった筈だ。
誰もが巧みなハリーの飛行術に大声援を送り、手を叩いた。ソフィア達も喉が枯れる程ハリーを応援し、時には悲鳴を上げ、指が白くなるほど手を握り見守った。
ハリーの肩をドラゴンの尾の棘がかすめ、パッと赤い血が舞った時には観衆はどよめき悲鳴を上げ、ソフィア達もまた、叫んでいた。
だが、ハリーは驚くほど冷静だった。
彼には今周りの観衆達の声は何も聞こえない。ただ、ドラゴンと自分だけがその世界に居た。
卵を守るためにそばを離れず飛び上がろうとしなかったドラゴンが、ついに足を上げた瞬間をハリーは見逃さず急降下し、無防備になった卵目掛けて一直線に突き進むとそのままファイアボルトから両手を離し、金の卵を掴んだ。
すぐにハリーは猛烈なスパートをかけその場から離れスタンドの遥か彼方に高く舞い上がる。
観衆は声のかぎりに叫び、惜しみない拍手喝采をハリーに送った。
「やった!!ハリー!!やったわ!!」
「ああ!なんて、なんてことなの!」
「凄い!ハリー!凄いや!!」
ソフィア達は喜びのあまりその場を飛び跳ね、強く抱きあった。互いに何度も「やった!!」と叫び、自分の事のように喜び、満面の笑みを浮かべる。いや、ハーマイオニーは感激のあまりその目に涙を溜めていた。
「ハリーのところへ行こうぜ!」
ロンはハーマイオニーとソフィアの背を叩き、興奮したまま叫ぶ。勿論、ソフィアとハーマイオニーは何度も頷き、3人は転がるようにしてまだ興奮が冷めやまない生徒たちの間を抜いながら競技場脇のテントへ走った。
テントの周りには、既に何人かの生徒が集まっていた、きっと代表選手の友人たちだろう、ソフィアはそう思いながらテントの中に勢いよく飛び込んだ。
「ハリー!」
ちょうど外の様子を見ようとしていたハリーと会い、ソフィアは感激と興奮のままハリーに抱きついた。ハリーもまた興奮が冷めず、いつもならしなかっただろうが──強く、ソフィアを抱きしめた。
「ソフィア!ねえ、見てくれた!?僕、やった!!」
ハリーはその腕の中にぎゅっとソフィアを抱きしめたまま上擦った声で聞いた。──温かい、それに、何だかとっても良い匂いがする。
「勿論よハリー!あなた、凄かった!本当に、1番凄くて、かっこよかったわ!」
ソフィアも強くハリーを抱きしめたままくすくすと笑い、ハリーの頬に軽くキスを送った。
ハリーは嬉しさと興奮から、ぎゅっと強くソフィアを抱きしめたまま「うん、うん!」と何度も頷き、無事に課題を終える事が出来た喜びを噛み締めていたが、ふとロンとハーマイオニーがいる事に──ようやく──気がつき、一気に恥ずかしくなりパッとソフィアを離した。
「ロン!ハーマイオニー!来てたの?」
「うん、ずっといたけど」
「ハリーはソフィアしか見えてなかったわね。──まぁいいわ!ハリー、あなた素晴らしかったわ!本当に!」
「そう!ハリー、まじで1番凄かったぜ!」
「ありがとう!」
ハリーは照れながらも、ハーマイオニーとロンの惜しみない賞賛ににっこりと笑う。こんなに晴れ晴れとした清々しい気持ちは久しぶりだった。
「ほら、もうすぐハリーの点数が出るんじゃない?見に行きましょう!」
ソフィアはハリーの背中を押し、待ちきれないというように楽しげに頬を紅潮させる。
ハリー達はすぐに頷きテントをくぐり、外に出た。
ソフィア達が点数が見えるところまで移動する間、ロンは興奮しながらハリーにセドリック達がどうやってドラゴンに立ち向かい卵を手に入れたのかを早口で語った。
高い囲いのある競技場の1番高い席には金色のドレープがかかり、審査員である5人が座っていた。
今ソフィア達がいる場所の丁度真向かいであり、かなり遠く米粒のようにしか見えなかったが、ソフィア達は目を凝らし審査員が掲げる点数を見守った。
「10点満点で採点するんだ」
マクシームが杖を上げると、長い銀色のリボンのようなものが杖先から噴き出し大きな8の字を書いた。
「なかなか悪くないわね!」
「もうちょっとあるかなって思ってたけど…ハリーの肩の事で減点したのかな…」
ハーマイオニーは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねたが、ロンは9点は行くだろうと思っていたため小さく呻く。
「そうよ!ハリー、肩はもう治してもらえたの?」
「うん、治療してもらったよ。大した事なかったんだ」
「良かったわ…!」
心配そうに肩を見ていたソフィアに、ハリーはにっこりと肩を叩きぐるぐると腕を回した。ソフィアがほっと胸を撫で下ろしたとき、クラウチが9の数字を高く上げた。
「いけるぞ!」
ハリーの背中をロンが興奮したままバシンと強く叩き、ハリーはよろめきながら審査員達に視線を戻した。
ダンブルドアも9の数字を上げれば、観衆が一層大きく歓声を上げる。ソフィアとハーマイオニーは手を取り合いきゃあきゃあと黄色い声で叫んだ。
バグマンが上げた数字は──なんと、10点だ。
「10点?だって…僕、怪我したし…何の冗談だろう?」
「文句言うなよハリー!」
「そうよ!だって素晴らしかったもの!」
信じられず呆然と呟くハリーに、ロンとソフィアはそんな事気にしてられないと興奮して叫ぶ。
そして最後はカルカロフが杖を上げた。──しかし、数字はなかなか上がらず、ようやく上がった数字は4というものだった。
「なにあれ?!」
「酷いわ!」
「卑怯者!えこ贔屓のクソッタレめ!クラムには10点やったくせに!」
ソフィア達が怒り不満を叫ぶ。いや、ソフィア達だけではなく観衆も同じで大きなブーイングと野次が飛び交った。
しかし、ハリーはたとえカルカロフが0点を上げていたとしても気にしなかっただろう。
ソフィア達がカンカンになって憤慨してくれている、それだけで十分嬉しかった。
それに、ハリーに歓声を送るのはグリフィンドール生だけではなかった。全校生徒の大部分がハリーの勇敢さと素晴らしさを讃え、ハリーの味方になったのだ。
ハリーはもう、スリザリンの事はどうでも良かった。今なら、スリザリンに何を言われようが我慢できる。空気よりも軽やかで清々しい心地に、ハリーは1度目を閉じ幸福感を噛み締めた。