はじめての飛行訓練の日。
箒に乗り空を駆けるのが好きだったソフィアはその日をとても楽しみにしていた、何よりスリザリンの合同訓練だ、ルイスと少しでも一緒にいる時間がある事は何よりも嬉しかった。
ハーマイオニーと共に大広間に来たソフィアはグリフィンドール生が集まる席についていた。
入学当初はルイスと離れ難く、少しでも一緒にいる為に、ソフィアは周りの状況をあまり理解していなかった。
学校生活の経過と共に次第に仲の良いグループが出来ていた。
自然と同じ寮の、同じ部屋で暮らす人と固まって楽しそうに過ごす彼らを見た時、ハーマイオニーがいつも1人だと気付いた。ネビルはよく勉強を教えてもらう為に話しかけていたが、それでも用事が終わるとシェーマス達の方へ駆けていく。
ソフィアはスリザリン生の多い場所からハーマイオニーが1人黙々と分厚い本を読みながら食事をしているのを何度も見ていた。
ハーマイオニーは優しい少女だと、ソフィアは思っている。少し口うるさく規則に厳しい所があるが、それは寮の為や、本人の為に言っているのだろう。だがそれをよく受け止めない人が多いのも事実であり──…彼女は、ハーマイオニーはやや孤立していた。
今日も1人で大広間にやってきたハーマイオニーは本を片手に持ちながら硬く口を結び、どこに座るべきか悩んでいるようだった。
その横顔は、どこか心細そうで、悲しみが滲んでいた。
それをスリザリン寮の机で見てソフィアは駆け出し、後ろからハーマイオニーに突撃するように抱きついた。
驚いたハーマイオニーは硬い表情のままぱっと振り返り、自分に抱きついているのがソフィアだと知ると、ほっとしたように表情を緩めた。
「どうしたの?」
「ハーマイオニー!一緒に食べましょう?」
「えっ?…でも、私…スリザリンの所に行くのはちょっと…その…」
ハーマイオニーはソフィアの誘いにぱっと目を輝かせたが、すぐに思い出したようにちらりとスリザリン生が多い場所を見て表情を陰らせ首を振った。
「わかってるわ!私、今日はハーマイオニーとお話ししながら食べたいの!どう?」
「え!?…も、勿論よ!行きましょう!」
ハーマイオニーの嬉しそうな、安堵がちらりと見える笑顔を見てソフィアはぱっとハーマイオニーの前に回ると手をつなぎグリフィンドール生の集まる場所へと向かった。
途中で後ろを振り返り、ルイスにごめん、と無言でジェスチャーを送れば、ルイスは微笑んだまま小さく首を振った。
ルイスもソフィアと一緒に過ごしたい気持ちは強くあった。
だが、それでも同じ寮の生徒と交流しようというソフィアを止めるつもりはなかったし、優しいソフィアをどこか誇らしく、嬉しく思っていた。
それからソフィアはハーマイオニーと食事を時々共にしていた。ハーマイオニーにはどうしてもルイスと会って話したい事もあり、毎回は一緒にいられない事を伝えてあり、ハーマイオニーも2人の仲の良さは知っていた為、無理に一緒に居ることを強要しなかった。
「ソフィア、あなたは箒に乗ったことある?私、クィディッチ今昔を何回も読んだの!それによるとね、箒にうまく乗るには恐れちゃダメらしいの、あと毛先が整っていて歪みが少ないものがいいらしいの!」
「あーそうかもしれないわね、新品の方がクセが少ないから…」
「ハーマイオニー!僕にも箒の乗り方教えて?」
「ネビル!いいわよ、あのね──」
食事をしながらハーマイオニーは高々に本で得た知識を披露し、ネビルは一言も聞き逃さんとばかり必死な形相で真剣に話を聞いていた。
ソフィアは内心で飛行術はどれだけ本を読んでいても、乗りこなす事ができるかどうかは才能に左右される部分がある事を知っていたが、今この2人に言うとパニックになるだけだと判断し黙ってフレンチトーストを食べていた。
その時大広間にふくろう便が届き、何百というフクロウやミミズクが生徒たちの頭上を飛び交う。鳥達はそれぞれ届け先に手紙や小包を落とすとトーストの端やポテトを啄みながらまた高く飛び立って行った。ソフィアはそれを見上げ、フレンチトーストの上にひらりと落ちた羽毛を指先で少し嫌そうに摘むと後ろに捨てた。
ネビルは自分の目の前に落ちた小さな包みを嬉しそうに開け、中から綺麗なガラス玉を取り出した。
「思い出し玉だ!ばあちゃんは僕が忘れっぽい事を知っているから──何か忘れてると、この玉が教えてくれるんだ。見ててごらん。こういう風にぎゅっと握るんだよ。もし赤くなったら──あれれ…何か忘れてるって事なんだけど…」
ネビルが握った思い出し玉は真っ赤に光り輝いた。何を忘れているのかネビルが思い出そうと唸っていると、ソフィアはふと、ネビルの忘れ物に気付いた。
「私、ネビルが何を忘れているかわかったわ!」
「え?」
ネビルがきょとんとし、思い出し玉からソフィアに意識を向けたとき、そばを通っていた人がネビルの手からぱっと思い出し玉をひったくった。
「へえ?これが思い出し玉か。ロングボトムには必要ないんじゃ無いか?毎日何かを忘れているから、赤色以外になりはしない」
「マルフォイ!」
ニヤニヤと意地悪げな表情でドラコは思い出し玉を手の上で転がして遊ぶ。ハリーとロンは瞬時に立ち上がり睨むようにドラコを見た。ドラコの後ろにいたルイスは少し興味深そうに思い出し玉を見る、本で読んだ事はあるが実物を見たのは初めてだった。
「ねえネビル、僕にも思い出し玉…見せて?」
「え?…い、いいけど…」
「ありがとう」
ルイスはちゃんとネビルに確認した上でドラコの手から思い出し玉を取ると──ドラコは少しつまらなさそうにしていた──しげしげと見つめる。ぎゅっと手のひらで握れば透明な思い出し玉はほのかに赤く光った。
「ん?…僕も何か忘れているのかなぁ」
「…淡い赤色は、ずーーっと昔からの忘れ物っていう意味だよ」
スリザリン生であってもネビルはルイスにだけは恐怖心を抱かなかった。ホグワーツ特急で共にヒキガエルのトレバーを探してくれたとてもやさしい人だと分かっていた。
ネビルの言葉にルイスは少し眉を顰め首を傾げながら考えたが、何かを忘れていると言うことも、思い出せなかった。
「ネビル!私もいい?」
「うん、良いよ」
ぴょんと跳ねるように立ち上がったソフィアはルイスから玉を受け取ると手で包み込む。
すると、玉は先ほどのルイスのようにほのかに赤く光った。
「あら…私も何か忘れているのね…」
「うーん。なんかもやもやするね、忘れていることなんてあるかなぁ?」
「せめて、この思い出し玉が何を忘れているのか教えてくれたらいいのに…はい、ネビルありがとう」
ソフィアはネビルに思い出し玉を返し、喉の奥に小骨が刺さったような微妙なもやもやを感じていた。忘れている事があるのに、それが何なのかわからない。それも昔から忘れ続けている事のようだが、それならいっその事忘れているという事実を知りたくはなかった。
忘れていても何も気にせず生きているのだから、きっとその程度の事なのだろう。そう、ソフィアとルイスは思い、忘れている事が何なのか、考える事をやめた。
「どうしたんですか?」
騒ぎを聞きつけたのか、グリフィンドール生とスリザリン生がにこやかに会話をしているとは思わなかったのか、マクゴナガルがサッと現れソフィアに聞いた。
「先生、マルフォイが僕の思い出し玉を勝手に取ったんですけど…ソフィアとルイスが取り返してくれました」
「…そうですか、ならいいんです」
「…見ていただけですよ。…ルイス、行くぞ」
ドラコはしかめ面でつまらなさそうに言うと直ぐにその場を離れた。1人先に行ってしまったドラコにルイスはため息を一つ零したが、ソフィアにはにこやかに微笑み、頬に軽くキスを落とした。
「はいはい、じゃーねソフィア!」
「また飛行訓練でね!」
ソフィアもお返し、とばかりに頬にキスをし、ドラコの後を追いかけるルイスを見送った。
そしてくるりと振り返り、悪戯っぽい顔でネビルの服をちょんと突いた。
「そうそうネビル、あなたローブを忘れてるわ!」
「え?──あ、本当だ!」
ソフィアの指摘にネビルはハッとした表情で自分の服を見た。するとネビルの手に収まっていた思い出し玉は赤い光を消し、透明なガラス玉に戻った。