ソフィアは少し1人で考えてみたい事が多すぎて、ハーマイオニーに「ちょっと1人で考えてみるわ」と伝え、夕食も取らずぼんやりと校庭にある椅子に座っていた。
ハリーは好きだ。勿論、ハリーが自分を好きかもしれない、なんて自分の思い上がりで勘違いの可能性も高い。
だが、もし本当にハリーが自分の事が好きだった時に。
今後ハリーと…そして、ジニーとどう付き合えばいいのかわからない。父の問題もある。
もし、本当にハリーが私のことを好きだったら?それで、悲しむ人がいるとしたら?
ソフィアは重いため息を吐いた。
もう12月であり、ちらちらと雪が降っている。ソフィアの考えすぎて熱い頭の熱を冷やすにはちょうどいいかもしれない。
ぼんやりと中央にある噴水を眺めていたソフィアは、突然ふわりと温かな何かが肩にかけられた事に気がつき、驚いて顔を上げた。
「ヴェロニカ!」
「ソフィア、体を冷やす」
「ありがとう…」
自身が着ていた分厚い毛皮を脱いだヴェロニカは、ソフィアの華奢な肩にかけると何も言わずに隣に座った。
ソフィアは温かな毛皮をかけられとても嬉しかったが、ヴェロニカが凍えてしまわないかと思いすぐに少し距離を詰め、ヴェロニカの肩に羽織っていた毛皮を半分掛けた。
ちょうど、2人でひとつの毛皮で包まっているようになり、ヴェロニカは少し驚いてソフィアを見下ろしたが、何も言わずにそのままにさせていた。
「何か、悩み事かな?」
「あー…ええ。そうなの」
「…私でよければ、聞くが?」
ヴェロニカの声は低く、ゆっくりとしている。
ルイスが言っていた「父様みたいで」というその言葉の意味が、なんとなくソフィアにはわかった。醸し出す雰囲気、というのだろうか──静かに包み込むような優しさが、父とよく似ている。
人によっては近寄り難い雰囲気に捉えられてしまうヴェロニカだったが、ソフィアはその優しい夜のような雰囲気が好きだった。
それに、1人で考えることにも煮詰まっていた。大人びた雰囲気のあるヴェロニカなら、きっと何か良いアドバイスをしてくれるかもしれない。
そう思い、ソフィアはぽつぽつと話し出した。
「…恋愛関係、と言うのかしらね。…その、私の事が好きなのかもしれない人がいて。でも、私はその人の事を好きな女の子と友達で…私はどっちにも幸せになってほしくて…」
「……ソフィア、君はどうしたいんだ?」
ヴェロニカはソフィアに視線を合わせず、ただ前を向いたまま優しく問いかける。
ああ、やっぱりこれは私の問題なんだ。自分の気持ちを、考えるしかない。
「わからないの。私は2人とも大切で、好きだから…」
「そうか……。──なら、ソフィア。隣に立ちたいのはどちらだ?」
「…え?」
ソフィアはヴェロニカの言葉に顔を上げ、彼女の洗練された美しい横顔を見る。
ちらり、とヴェロニカはソフィアを見下ろし、優しく目を細めて再度問いかけた。
「どちらだ?」
「隣に立つ……」
「ああ、そうだ。幸せにするのは自分ではなくとも、誰だって、何だって相手を幸せにする事が出来る。ただ、隣に立てるのは…代わりはいない。己だけだ。──私は、その気持ちが愛なのだと思うよ」
隣に立ち、そばに居たい。全てを押しのけ自分がその場に在りたい。それが人を愛する事なのだと、ヴェロニカは思っていた。
一種の独占欲と執着からくる愛、それもまた確かに──やや過激ではあったが、多くの人が想像する通りの愛の形だろう。
誰だって、愛しい存在を独占したいと、一度は思うものだ。
ジャックともハーマイオニーとも違うヴェロニカの言葉に──ソフィアは、ついに、すとん、と納得した。
成程、隣に立ちたい。
それは──それが、愛ならば、まだ自分にもわかる。
「…ありがとうヴェロニカ!私、少しわかった気がしたわ!」
「そうか、力になれてよかった」
ヴェロニカは優しく微笑み、目を細める。
ソフィアは、ヴェロニカの微笑みを見てルイスが気になってしまうのもわかるほど、魅力的な女性だと思った。
年上の余裕かもしれないが、少なくともソフィアの周りには居ないタイプの女性だ。
大人びている雰囲気は、たしかに──ルイスが好むだろう。
「そうだ、ソフィア。ひとつ私の悩みも聞いてくれるかな」
「ええ、勿論よ!」
「ありがとう。──君の兄上をダンスパーティーで誘うのは、無礼かな?」
「…え?」
ソフィアは目を瞬かせ、きょとんとヴェロニカを見上げた。
ヴェロニカは白い頬をほんの僅かに──雪の寒さではなく、赤く染めながら肩をすくめた。
「ああ、まだ聞いてなかったならすまないね。…クリスマスの日にダンスパーティーが開催されるようなんだ。私は、ルイスと踊りたいが…女性から男性を誘うのは些かマナー違反だろう?無礼だと気分を害させるだろうか。…しかし、ルイスは、私を誘ってくれるとは、少々、思えなくてね…それならば、声をかけ…一か八か、私から誘ってみようと思ったのだけれど。どうもね…悩んでいるんだ」
ヴェロニカはつらつらと説明をした。
もし、ここにいるのがソフィアではなく、彼女の事をよく知っているクラムや、ダームストラング校にいる友人であったならば、このヴェロニカの様子を見てかなり動揺し焦っているな、とわかっただろう。
彼女は、どちらかといえば寡黙な方であり、一度にたくさんのことを話さなければ、こんな言い訳じみた事も言わない。
つまり、今、ヴェロニカはかなり──本来の彼女らしく無いのだ。
しかし、ソフィアはヴェロニカの事をよく理解していない。ただヴェロニカの言葉をそのまま受け止めて、ぱっと笑顔を見せると膝の上に置かれ強く握られていたヴェロニカの手を取った。
「ええ!誘っても良いと思うわ。無礼だなんて、そんな事ルイスは思わないわよ!」
「…そうかな?」
「うんうん、大丈夫よ!それに、ルイスもヴェロニカを誘うかもしれないし!……あ、もしかして、ヴェロニカって…ルイスの事が、好きなの?」
ダンスパーティーに誘う意味を、ぼんやりと理解しているソフィアは、ハッとしてヴェロニカの真っ黒な瞳を見上げた。
ヴェロニカは一瞬、言葉に詰まったが──しかし、美しく、少しも偽る事なく堂々と頷いた。
「ああ、そうだね。…うん、ルイスの事が好きだ、隣に立ちたいと思っている」
「…まぁ!」
ソフィアはぱっと手を離し自分の真っ赤になった頬を両手で包み込み、その場でうずうずと足を動かした。きっと今立っていたら興奮のあまり跳ね回っていただろう。
──と言う事は、両想いって事ね!?ああ、ルイスが知ったら、きっと喜ぶわ!それに、ヴェロニカも…!でも、きっと私が言っちゃだめなんだわ…!
ぐっと言いたい気持ちを何とか堪えたソフィアは興奮を何とか鎮め、目をキラキラと輝かせヴェロニカを見つめる。
「ヴェロニカ、私…応援してるわ!」
「ありがとう、ソフィア」
ヴェロニカは、照れたように笑った。その目は、少し前に見た──父が母を思う眼差しとよく似ていた。
──なんて綺麗な笑顔と、優しい目なんだろう。ああ、恋をするって、きっとこんな笑顔ができるようになるのね。とっても、素敵な事なんだわ。
ソフィアはなんだか自分まで照れてしまった。やはり──恋というものは特別な事である、色香がふわりと甘く香るような…そんな表情を作る事が出来るのは、確かな恋をしている証だろう。
ヴェロニカは──強かな女性であった。
何もソフィアのことを心配し1人でぽつんと座り込むソフィアに近付いたわけではない。きっと、ソフィアでない誰かなら、こうしてわざわざ話しかけなかっただろう。
好きな相手の妹であるから、何とかして好印象を持たれたい、その考えは良くあることだ。嫌われるよりは、好かれた方がよっぽど良いのだから。
そして、ヴェロニカは──もしもホグワーツ生ならば、スリザリン寮だっただろう。勇敢だが、狡猾で計算高く、何より願いを叶える為なら手段を選ばない。
奇しくも、ルイスと──そして2人の母であるアリッサと同じような性格をしていた。
ルイスとヴェロニカが両想いだという感動に興奮しきっているソフィアは、勿論、ヴェロニカのそんな企みには一切気が付かなかった。
興奮し一気に体が熱くなり、そして落ち着いた頃にソフィアはぶるりと大きく震えた。
毛皮を着ているが、2人で羽織っているため隙間風はどうしても入ってきてしまう。
「…学舎に戻ろう、ここは冷えてしまうからね」
「ええ、そうしましょう」
ヴェロニカの言葉に、ソフィアは身体を震わせながら頷いた。
城の中に入りヴェロニカと別れた後、ソフィアはグリフィンドール寮へ向かう廊下の途中でハリー、ロン、ハーマイオニーと会った。
「ソフィア!何処にいたの?」
「校庭でヴェロニカと話していたの。──あ、ダームストラング生よ。…ロン、そのケーキどうしたの?」
ロンは大きなクリームケーキを頬張り、もぐもぐと口を動かしていた。夕食のデザートを持ち帰ってきたのかと思ったが、時間はとっくに終わっている。
ソフィアは夕食を食べなかった為──つい、ぐう、と控えめな腹の虫が物欲しそうな声で鳴いた。
「パイあるよ?食べる?」
ちょっと恥ずかしそうにするソフィアに、ハリーはポケットに入れていたパイをすぐにソフィアに差し出し、ソフィアは嬉しそうに笑い「ありがとう!」と受け取った。
ハーマイオニーはグリフィンドール寮へ向かいながら、ハウスエルフが働いている厨房に行き、ドビーとウィンキーと出会った事をソフィアに説明した。
「…ドビーは他のハウスエルフと違うのね。お休みとか、給料とか…」
「でも、当然の対価だわ!」
ソフィアの何とも複雑な声を聞き、ハーマイオニーはすぐに声を上げる。パイを食べながらソフィアはハウスエルフの持つ性質を思い──ハーマイオニーとドビーの行動が果たして本当に、彼らのためになるのかわからなかった。
ケンタウルスが人間とは関わりにならないように、ゴブリンが中立を崩さないように、ディメンターが幸福な気持ちを吸うように、ハウスエルフは主人に尽くす事が、彼らの誇りであり性質なのだ。
「うーん…」
ソフィアの表情を見て心から自分に賛同していないと分かったハーマイオニーは、少しムッとしたがそれ以上何も言わなかった。