ルイスは自室のベッドの上でダンスパーティの事を考え、どうしようかと頭を捻っていた。
ふと、ドラコは誰を誘うのか気になり体を起こし、宿題を黙々とこなしているドラコに向かって声をかけた。
「ドラコは、ダンスパーティに誰か誘うの?…ソフィア?パンジー?」
「……いや…ソフィアを誘っても、きっと…断られるだろう」
ドラコは動かしていた羽ペンを止める事なく呟き、ため息を溢す。
パンジーに反応しないところを見ると、本当はソフィアを誘いたいのだという気持ちがすぐにルイスにはわかった。
しかし、断られる──まぁ、それもそうだろうなとルイスは思いながらベッドに腰掛けドラコを見た。
「何でドラコって、ソフィアが嫌がる事をするの?好きなんでしょ、ソフィアの事」
「……」
ドラコは無言だったが、今までの彼のソフィアへの接し方を見ると一目瞭然だ。ただの異性の友達にしてはソフィアへの接し方は特別であり、少々優しすぎるだろう。実際、パンジーに対してはソフィアほど心を許しているようには見えない。
羽ペンを机の上に転がしたドラコは、椅子の背に背中を預けてだらりと足を伸ばすと、少し自嘲するように笑う。
「…多分、受け入れてほしいんだ」
マグル生まれを穢れた血だと思う純血思想を持つドラコは、それを含めて自分であり──ソフィアに、それを受け入れて欲しかった。嫌われないように自分を隠して生きる事は、不器用なドラコにはどうしてもできなかったし、純血である事になによりも誇りを持っているのだ。偽る事のない自分を受け入れ、認めてほしい──そう思うのは、叶わぬ願いだとしても仕方のない事だろう。
それに、簡単に思想というものは変えられるものでは無い。
「…ソフィアは僕じゃ無いからね、難しいんじゃない?ハーマイオニーと仲良いし」
「……ああ、そうだな。…ルイスは、誰を誘うんだ?最近よく共に居る…ヴェロニカか?」
「んー…でも、僕の方が背が低いし、何か…釣り合わないんじゃないかなって…」
ドラコはこれ以上ソフィアの話題を続けるつもりはなかった。どうしてもソフィアを大切にしたい気持ちはあるのに、傷つけてしまう。これ以上関係を先に進めることを、ドラコは半ば諦めていた。
ルイスはドラコの気持ちを読み取り、話題を変えた事に何も言わずに手に持っていた枕を抱きしめ、ぽすんと顎を乗せるともごもごと口籠る。
ドラコはルイスの親友だ、勿論、彼はルイスの気持ちに気づいている。
ルイスはドラコ以上に人との間に壁を作り、それを悟らせないようにする事が上手かった。優しく笑うルイスが、人と一定の距離を保っているという事に気がつける者は中々いないだろう。
ドラコはルイス以外の前では、マルフォイ家の次期当主として振る舞う、本音を吐き出すのはルイスと2人きりである時だけだ。
無理にそうしているのではなく──最早幼少期からの癖だと言えるだろう。
ルイスもまた、悩みを相談し、本音を言うのはドラコに対してだけだった。それ以外の人とは薄い壁を作り、人の良い笑顔を作ったまま本音を漏らす事はない。
「…ヴェロニカの事が好きなんだろう」
「…そうだね」
ルイスは少し頬を赤らめていたが、素直に頷いた。ドラコは初めて見るルイスの表情に、本当に好きなんだな、と呟く。
まだ出会ってそこまで時間が経っているわけではないルイスとヴェロニカだったが、昔からの友人のように2人の周りには柔らかな雰囲気が流れ、ヴェロニカと話している時のルイスの表情は、ソフィアやドラコと接する時とはまた違った笑顔を見せ、とても幸せそうだった。
「それなら、誘えば良いだろう。身長なんて…気にしなくて良いと僕は思う」
「えー…うーん…。…父様は身長が高いのに、なんで僕の身長は伸びないんだろう…」
「…それは…まあ…これからじゃないか?」
「そうだと良いけど…」
ドラコは長身のセブルスを思い出す。確かにルイスは男にしては小柄な方であり、身長も低い。いつかは伸びるだろうと下手な慰めをしたドラコだったが、ルイスは大きなため息をつくとのろのろと立ち上がった。
「僕、これから魔法薬学の個人授業なんだ…行ってくる」
「ああ。…ダンスパーティの間だけでも身長が伸びる薬を飲んだらどうだ?」
鞄に上級魔法薬学書を入れているルイスにドラコはふと思いつきで言ったが、ルイスは何とも言えない複雑な顔をして「それは…うーん…」と、ドラコの問いには明確に返事をしなかった。
ルイスは談話室を横切り、魔法薬学の研究室へ向かっていたが、セブルスに次の個人授業で使用する図鑑を図書館で借りてくるようにと言われていたのを思い出し、一度図書館へ向かった。
「…ヴェロニカ」
「ああ、ルイス」
ルイスが図書館に入ろうとした時、ちょうどヴェロニカが出てきて2人は足を止めた。
目線を合わせようとするとどうしても上を向いてしまう。10センチの差は大きく、せめて同じくらいならば誘いやすいのに、とルイスは今ほど自分の身長の低さを恨んだ事は無かった。
「ルイス、今少し時間はあるか?」
「え?…うん、少しなら…」
ヴェロニカは図書館の入り口にいては他の人の通行の邪魔になるだろうと廊下の端へと移動し、ルイスはその後を追いかけた。
「どうしたの?」
「…ルイス、クリスマスにダンスパーティがあるのは…知っているかな」
「──え」
ルイスは息を呑んだ。
ヴェロニカの頬が少し赤い事に気が付き──そして、聡いルイスは、その後ヴェロニカが何を言おうとしているのかもわかってしまった。この時期に、ダンスパーティの事をわざわざ口にするのだ。間違いなく、そういう事だろう。
「私と──」
「ヴェロニカ」
私と行かないか。そう告げようとしていたヴェロニカの言葉をルイスは無理矢理遮ると、一度深呼吸を置いて優しく微笑んだ。
「僕と、ダンスパーティに行ってくれないかな?」
ヴェロニカから誘われるのではなく、ルイスは自分から誘いたかった。
その気持ちが伝わったのだろう、ヴェロニカは少し目を見張ったが、すぐに嬉しそうに頷く。
「──ああ、勿論。誘ってくれて、ありがとう」
ヴェロニカの頬は赤く、照れているのか恥ずかしげに微笑んでいた。
その綺麗な微笑みを見たルイスは自分の頬に熱が集まるのを感じる。
胸の中には温かく──しかし、きゅっと締め付けられるような不思議と落ち着かない気持ちが溢れてくる。
「──僕、君が好きだ」
つい──言うつもりはあまり無かったのだが、ぽろりと感情が言葉になってこぼれた。
流石のヴェロニカもそれを言われるとは思わず固まり、言葉を無くす。
ルイスは「早まったかな」とは思ったが、一度言った言葉を取り消すつもりはなく、無言でヴェロニカを見つめる。
「──嬉しいよ。…先に言われてしまったね」
「…僕も、男だからね。ヴェロニカより身長は低いけど、ちょっとは格好つけさせて?」
ヴェロニカの反応を見て、ルイスはほっと胸を撫で下ろし、じわじわと幸福感が広がってくるのを感じた。
いや、幸福感だけではなく、おそらく──愛しさ、だろうか。
「…これからよろしく、と言うべきかな。私は…誰かと付き合ったりした事が無いから…どうも、わからないね」
ヴェロニカは照れながら肩をすくめる。
こんなに綺麗な人が誰とも付き合った事がなかったとは、ルイスは少々信じられなかったが、それを今口にするほど無粋な男では無い。
「僕も無いからわからないや。…これからよろしくね、ヴェロニカ」
「…ああ、よろしく、ルイス」
ルイスが手を差し出せば、ヴェロニカは優しく手を握る。
思いが通じ合った今、こうして手を握るのはなんとなく気恥ずかしくて、2人は顔を見合わせて笑い合った。
「…あ、ダンスパーティなんだけど、僕ソフィアとも踊りたくて…それでもいい?」
「ああ、構わない」
「本当?ごめんね、ありがとう」
ルイスはヴェロニカが少しも嫌がる素振りを見せなかった事に安堵して、ぱっと手を離した。
名残惜しい、本当はこの後も時間の許す限り話したかったが──個人授業開始の時刻が迫ってきている。
「僕、この後魔法薬学の個人授業があって…2時間後に終わるんだ、夜…もし少し会えるなら、校庭で話さない?」
「勿論。…待っている」
ヴェロニカがしっかり頷いたのを見たルイスは嬉しそうに笑い、何度も振り返り手を振りながらセブルスの研究室へ向かった。
心臓がドキドキとうるさく、今ごろ実感が湧いてきたのか顔が熱い、熱に浮かされた足取りは軽やかに階段を駆け降りる。
ルイスはすぐに研究室の扉を開けると、中にセブルスしかいないのを確認してしっかりと扉を閉めて駆け寄った。
「父様!」
「…なんだ、ルイス。…ここでは先生と──」
目を輝かせ興奮したようなルイスを見て、セブルスは今は2人きりだとはいえ、個人授業なのだからしっかりと先生と呼ぶように、と伝えようと思ったが、ルイスはその前に幸せそうにはにかみ口を開いた。
「僕、ヴェロニカと付き合う事になった!」
「──何?」
「さっき、告白してきた!オッケーだって!」
「…それは……。…よかったな」
顔を赤らめ嬉しそうに言うルイスに、セブルスは目を細め優しく言う。確か数週間前はまだ自分の明確な気持ちに気が付いていないようだったが…子どもの成長とは早いものだ。
「うん!…それで、ヴェロニカにも…父様の事は言わない方がいいんだよね?」
「…そうだな。別の学校だとはいえ、秘密にしておいた方がいいだろう」
「そうだよね…うん、わかった。──あ、ごめん、授業だよね」
「…ようやく思い出したか。…本は借りてきたか?」
「……あ、忘れてた」
浮かれすぎていたルイスは、すっかり図書館へ行った理由を忘れてしまっていたが──セブルスはため息をついたが、珍しく咎める事は無かった。