【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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206 誰と行く?

 

 

 

ソフィアとハーマイオニーは2人で数占い学の本を借りるために図書館を訪れた。クリスマス休暇前にわざわざ図書館に来て勉強をする生徒など、それほど多くはない。

今、四年生以上の生徒たちは皆クリスマスのダンスパーティのことで頭がいっぱいでありそれどころではないのだろう。

いつも以上に図書館は閑散としていて人気が少ない。

 

 

「あっ、これね!」

 

 

ハーマイオニーがようやく目当ての分厚い本を見つけ出しぺらぺらと中を確認するように捲る。ソフィアは隣から覗き込み、複雑な数式を見て少し「難しそうね…」と呻くが、ハーマイオニーは難解であればあるほど嬉しいのか、「面白そうね!」と不敵に笑った。

 

 

「あの…」

 

 

突如、やや遠慮がちに声をかけられたソフィアとハーマイオニーは声が聞こえた方を振り向き、驚いたように目を開く。

 

 

「クラム…?」

 

 

ハーマイオニーはいきなり話しかけてきたクラムを見て怪訝な顔をし、つい周りにいつもの取り巻きがいるのではないだろうかと辺りを見渡した。

しかし、彼の周りにいるファン達は今日は1人も居ない。クラムの友人であるヴェロニカも居ない。クラムは、たった1人で──いつも周りに人がいるのが普通であり、ソフィアは何だか少し不思議な感じがした──ハーマイオニーに声をかけた。

 

 

「私に何か用かしら」

「あ…あー。…えっと」

 

 

ツンとしたハーマイオニーの言葉に、クラムは少し言い淀んだが、すぐにしっかりとハーマイオニーの目を見て、ゆっくりと言葉を間違えないように伝えた。

 

 

「ゔぉ…僕と…ダンスパーティに、行きますか?」

「………え?」

 

 

ハーマイオニーはぽかんとして口を開きクラムを見上げる。ハーマイオニーは驚きのあまり、手に持っていた本を落としてしまったが──なんとかソフィアが床に衝突する前に慌てて掴み上げた。

ソフィアは視線を交わすクラムとハーマイオニーが2人とも真っ赤な顔をしているのを見て、あっと小さな声を上げると一歩後ろに下がった。

 

 

「私、この本借りてくるわ!」

「えっ、ソ、ソフィア!」

「入り口で待ってるわ、ハーマイオニー!」

 

 

ハーマイオニーは1人で残され、クラムと話をするのが何だが気恥ずかしかった。まさか、クラムが自分をダンスパーティに誘うなんて、考えもしなかったのだ。

ソフィアにそばにいて欲しかったが、ソフィアはすでに駆け出していて書棚の角を曲がり見えなくなってしまった。

 

ハーマイオニーは、ソフィアに向かって伸ばしていた手を下ろし気まずそうに、少し微笑みながらクラムをチラリと見る。

 

 

「それで…なんで、私を誘ってくれるの?よくここでは会ってたけど、話した事もないのに…」

「…僕、ずっとあなたと、話したいでした。…だから、毎日ここ来てました」

 

 

クラムの言葉は途切れ途切れであり、文脈も怪しい。だが必死に気持ちを伝えようとする真剣な表情と低い声に──ハーマイオニーはさらに顔を赤くした。

 

 

「僕と、一緒に…行ってくれませんか…?」

 

 

ハーマイオニーは一瞬、ロンの事を考えた。だがロンは──すぐそばに私がいるのに、全く私のことを女の子だと、認識していないのか誘おうともしない。もうダンスパーティの事が発表されてからかなり時間が経つと言うのに…それに、可愛い子じゃないと嫌だ、だなんて。

 

ロンは、クラムの事を尊敬している。

そんなクラムが私と踊ると知れば──ロンは、どう思うだろうか。

 

 

ハーマイオニーの心の中に、じわりと黒い何かが浮かび上がる。

きっと、それは好きな人を嫉妬させたい、そんな感情だったが──ハーマイオニーはその気持ちに気がつかないフリをして、一度深呼吸をした後、頷いた。

 

 

「……ええ…わかったわ。喜んで」

SANN!?(本当に!?)…ありがとう!嬉しいです!」

 

 

クラムはぱっと頬を染め、向日葵のように明るく笑ったが、ハーマイオニーは少しだけ胸が痛み──取り繕うように、笑った。

 

 

クラムと別れたハーマイオニーは、図書館を出てすぐのところで目を輝かせ、早く結果を聞きたいとばかりうずうずとしながら待っているソフィアを見て、また頬を赤く染めた。

 

 

「な、何よ…」

「オーケーしたの?クラムと、ダンスパーティに行くの?」

「…ええ、オーケーしたわ。でも…誰にも言わないで」

「え?…えぇ、わかったわ!」

 

 

有名人であるクラムと一緒に行くなんて知られれば、きっと周りからの嫉妬の視線はとんでもない事になるだろう。

ソフィアはこくこくと頷いたが、ふと──ロンのことを思い出した。

 

 

「でも…良かったの?…ハーマイオニーは…その…ロンが…」

「いいの。誘われるとは思ってないわ。マクゴナガル先生も言っていたでしょう?外国の人との交流の場だって!…それに…。──あの人ったら!私のこと女の子だって知らないのよきっと!」

 

 

ハーマイオニーの声は怒りが多かったがどこか悲しみも含んでいた。

ソフィアはハーマイオニーが誰を想っているのかを知っている。だからこそロンとハーマイオニーが一緒に踊れば素敵だと思ったが──たしかに、ロンは他の女の子ばかり気にして、ハーマイオニーを少しも意識していなかった。

 

 

「…楽しいダンスパーティにしましょうね!」

「ええ…そうね。…ソフィアはまだ誘われてないの?」

 

 

誰に、とはハーマイオニーは言わなかったが、この場においてそれを表すのは1人しかいない。

ソフィアは苦笑しながら頷き「私の思い上がりで、みんなの勘違いだったのよ!」と明るく告げた。

 

ハーマイオニーはそれが思い上がりでも勘違いでもない事を知っていた為、何故ハリーが早くソフィアを誘わないのか──やきもきする気持ちを飲み込み曖昧に笑った。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

魔法薬学の授業は急に決まった解毒剤の調合具合を見るテストだったが、勿論ソフィアの出来は最悪であり、点数は間違いなく最低点だっただろう。

 

 

「ミス・プリンス。3点の減点と補習だ、この後残りたまえ」

「…はい、先生」

 

 

魔法薬学が苦手なソフィアは度々補習を受ける羽目になった。学期末だというのに、ついていない。とソフィアはため息をこぼし、終業ベルが鳴りすぐに教室から出て行く同級生達を見送った。

セブルスの魔法薬学の授業は生徒からの人気は無い。間違いなく理由はスリザリン寮を贔屓し、グリフィンドール寮を冷遇するからだろう。そんなセブルスがいる所には1秒たりとも居たくないのだ。

 

 

少しバツの悪そうな表情で俯くソフィアをちらりと見たハリーは、今がチャンスかもしれない、と思った。

補習の内容はわからないが、そこまで長いものではないだろう。教室の外で待っていれば2人きりになれる。それなら、誘えるかも──。

そう思ったハリーは、階段を登り大広間に続くホールのところでロンとハーマイオニーに「夕食の時に会おう」と告げた。

ハーマイオニーはハリーが何をするのかわかったため、真面目な顔で頷き「幸運を」とジェスチャーをして、不思議そうな顔をするロンの腕を引っ張り大広間に向かった。

 

ハリーは地下室から階段を上がりきった場所で、ソワソワとソフィアが上がってくるのを待っていた。

いつだろう、30分、はかかるのだろうか。どんな補習なんだろう──。気がつけば緊張からドキドキと心臓が高鳴り、ハリーは何度もごくりと生唾を飲んだ。

 

 

 

 

 

一方ソフィアは、誰もいなくなった魔法薬学の教室でセブルスが杖を振り扉の鍵を魔法で閉めたのを見て──これがただの補習では無いのだと気がついた。

 

部屋の奥にある教卓の後ろに立つセブルスは、ソフィアを見る事なく、授業で使った材料の余りを片付けていた。

 

 

「…先生?」

「……ソフィア、もう…誘われたのか?」

 

 

セブルスは低く、蚊の鳴くような小さな声でソフィアに聞いた。

名前を呼ばれているという事は、父親として会話をしたいのだ。ソフィアはすぐに駆け寄ると、机の上を見つめるセブルスの顔を下から覗き込み、ニヤリと悪戯っぽく笑った。

 

 

「あら、父様…気になるの?」

「…、…誘われたのか」

「誰に?」

「………ポッターだ」

「父様はハリー大嫌いだものね」

 

 

セブルスの顔はその名前を言うのも嫌だと言うほど苦痛で歪み、眉間の皺は今まで見た事が無いほど深い。顔色もいつもより悪く見える。

それほど、自分がハリーと踊る事が耐えられないのか。とソフィアはセブルスの心の奥底に残る怨恨の根が深いのだと気付いたが、ただ小さくため息をつくだけだ。

何を言ってもセブルスはハリーを嫌い恨む事を辞めないだろう。その気持ちも、理解できなくはない。ただ──妻と息子が死んだ事で、罪のない息子にまで憎しみを抱くのはどうかと思うが。

 

セブルスがこの世で最も恨んでいるジェームズとシリウスであり。

片方は死に、片方はどこにいるのかわからない。きっとジェームズとそっくりのハリーが普通に生きている事が──耐えられないのだろう。

 

 

「ハリーには、誘われてないわ。…他の男の子4人くらいには、誘われたけど」

「何?…そうなのか」

 

 

セブルスは2つの意味でつぶやく。

本当に誘われていないのか、という安堵と、4人に誘われたのかという驚愕。

 

見るからに安堵感が強いセブルスの緩んだ表情を見て、ソフィアはなんだか面白くなくてぷくりと頬を膨らませ、机の上にある魔法薬の材料であるドライフラワーを手に取りくるくると回した。

 

 

「誰に、誘われたんだ」

「…教えてもいいけど、クリスマス休暇明けに…彼らを厳しい目でみたりしないかしら」

「…そんな事は、しない」

 

 

ソフィアは疑い深い目でじとりとセブルスを見据えながら手の中にあるドライフラワーをくるくると回し続けた。──乾燥しきった花弁がはらり、と机の上に落ちる。

 

 

「ジョージと、ネビルと、アルファルドと、ニークよ」

「……あいつらか」

 

 

セブルスはソフィアが告げた名前の生徒を絶対忘れてはならぬと心に刻んだ。

愛娘につくかもしれない悪い虫は早めに処理しなければならない。

四年生になってからソフィアは少し化粧をし、振る舞いも少々──まだ御転婆なところはあるとは言え──女性らしく、大人っぽくなってきている。

 

ソフィアもルイスも──セブルスの子どもとは思えないほどに──人から嫌われる事なく、沢山の笑顔に囲まれている。

きっと影でソフィアを想っている男子は居るだろうとセブルスは考えてはいたが、どの4人もセブルスにとって許容出来る男では無かった。

 

いや、そもそもセブルスが認める男など、このホグワーツには存在しないのかもしれない。

 

 

「でも、みんな私がルイスと踊るって言ったら諦めたわ」

「…そうか。…ルイスの事は、聞いたのだろう?」

「ヴェロニカの事よね?ええ!勿論聞いてるわ!」

 

 

ソフィアは片割れの恋が実った事が純粋に嬉しく──勿論、少々寂しくもあったが──にっこりと笑うと優しいヴェロニカと、誰よりも大切なルイスが今後幸せに過ごせればいい、そう心から思った。

 

 

「父様。私──今は恋とか、愛とかまだよくわからないの。だから…そんな、心配しないでいいわよ?」

 

 

ソフィアはドライフラワーに向かって杖を振り、綺麗な白いアリッサムに変えるとセブルスに差し出した。

 

 

「でも、私はいつか…父様みたいにずっと愛する事が出来る──大切な人を見つけるわ」

「……ああ…そうだな。…楽しみだ」

 

 

セブルスはそっとその花を受け取ると、僅かに微笑む。

ソフィアがにっこりと笑い「補習はもう終わりですか?スネイプ先生?」と悪戯っぽく言えば、セブルスは頷き、優しくソフィアの頭を撫でた。

 

 

ぱたぱたと教室から出て行くソフィアを見送ったセブルスは、受け取った白いアリッサムに視線を落とす。

 

 

「…子どもたちの成長を、私は…喜ぶべきなのかな。…アリッサ…」

 

 

ソフィアとルイスの世界は、もはや小さく狭いものではない。

そこにあるただ少しのものだけを愛し慈しむ2人ではない。

沢山の事を経験し、心身共に成長した2人は──いわば、親の加護から片足をもう踏み出しているのだろう。

いつの間にか、恋をして、大切な人を作る。そして、新しい家族を作り上げていくのだろう。

 

 

セブルスは2人の──特に、ルイスの──成長が嬉しくもあったが、ソフィアと同様少し寂しさも感じていた。

 

 

 

 

 

ソフィアは地下室の寒い階段を上がり、夕食を食べに大広間へと行こうとしたが、階段を上がり切ったところで近くの廊下にハリーが立ち、壁に背中を預け待っている事に気が付いた。

 

 

「ハリー!どうしたの?」

「ソフィアを待ってたんだ」

 

 

ハリーは辺りを見渡し近くに誰もいない事を密かに確認する。

この先にあるのは魔法薬学関係の教室だけであり、わざわざその前の廊下を訪れる者はいない。

 

 

──やっと2人きりになれた。願ってもないチャンスだ。

 

 

頬が熱く、熱を持つのを感じる、それに、なんだか、喉が酷く乾く。

ハリーは一度深呼吸し、収まりかけていた胸の高鳴りが再度激しさを増すのを感じながら、一息に言い切った。

 

 

「ソフィア、僕とダンスパーティに行かない?」

 

 

ソフィアは目を見開き驚くと、少し沈黙した後困ったように笑った。

 

 

「私、ルイスと行く約束をしてるの。…この前言わなかったかしら?」

「でも、ルイスはヴェロニカとも踊るんでしょ?じゃあ…その間だけでも、ダメかな?」

 

 

ハリーは何としてでもソフィアと踊りたかった。ソフィア以外は考えられなかったし、他の誰かを誘うつもりもなかった。

 

 

「…いいけど、私…ダンス踊った事ないから…下手かも知れないわよ」

「本当!?ありがとう!大丈夫、僕も踊った事ないから!」

 

 

ハリーは体が空に浮かんでいるのではないかと思うほど、ふわふわとした温かい気持ちで包まれた。ソフィアと踊れる!これ以上ない幸福感に、ハリーは自然と頬が緩みにっこりと笑う。

 

ソフィアは今でも、ハリーが何故自分を誘ったのかはっきりとは分からなかったが──それが親愛だとしても、男女の愛情だとしても、何も言わないのなら、私も何も聞かないでおこうと考え、ただ同じように笑った。

 

 

ハリーに誘われて、嬉しいのは、確かだった。

だがソフィアにとってハリーはまだ少し気になる友達でしかなく、それ以上の感情はない。

ハリーが自分を誘うまでにかなり日数が経っていた。もしかしたら、誘いたい人は他にいて──その人のパートナーは既に決まっていて、だから私に声をかけたのかもしれない。

 

 

ヴェロニカに言われた『隣に立ちたい』という相手がハリーなのか──ソフィアにはまだはっきりとはわからなかった。

 

 

「僕、代表選手だから…初めに踊らないといけないんだ。ソフィア、踊ってくれる…?」

「えっ…責任重大ね…練習、頑張りましょう!」

「うん!」

 

 

ハリーは初めに踊るという何とも気まずい行動を、もしかしたらソフィアは嫌がり踊ってくれないかもしれないと思ったが、それは杞憂に終わった。

ソフィアは真剣な顔で「多分、ワルツだとは思うけど…」と呟き、その横顔を見ながらハリーは四年生以上の全生徒の前でソフィアと踊れる。──その事を考えると初めに踊る事も、何だか悪くない気がしてきたから不思議だった。

 

 

 

 

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