クリスマス休暇が始まった。
低学年の生徒も、今年のクリスマスパーティはかなり規模が大きく豪華らしいと聞き、家に戻らず残る選択をした者が多かった。
そのため、ホグワーツのどの寮も通常通り寮生で溢れかえっていた。いつもよりも騒がしいのは、クリスマスの期待に胸を膨らませる若き男女がおしとやかにその日を待つことなど出来ないのだから──仕方がないだろう。
その中でも祭ごとや馬鹿騒ぎが大好きな生徒が多いグリフィンドール寮は、いつも以上の賑わいを見せていた。
フレッドとジョージが発明したカナリア・クリームはたくさんの生徒に買われ大盛況であり、休暇中が始まって2.3日は突然でカナリアに変身する者が増えた。
休暇中はホグワーツのハウスエルフもかなり力を込め料理を作っているのか、毎回の食事も特別なものになり温かくこってりとしたシチューやピリッと刺激的なプディングが並んだ。少々胃に溜まる料理ばかりだったが、猛烈な雪が降るこの寒さの中ではどれも有難かった。ただ、フラー・デラクールは自身の美しい体を保つために普段から食事に気を使っている為、不機嫌だったが。
「ホグワーツの食べ物は、重すぎます!私、パーティローブが着られなくなります!」
ある晩、いつものように豪華な夕食を食べ終わり大広間を出るとき、フラーとその友人達が不満げな表情でぶつぶつ言うのがソフィア達の耳に届いた。
「あーらそれは悲劇的ですこと!」
フラーの事をよく思っていないハーマイオニーは、その言葉を聞いて嫌そうに顔を歪め吐き捨てる。
ハーマイオニーは、ただフラーが高飛車だからそう思っているのではなく、ロンがフラーの事を可愛い可愛いと言い魅了されているからだ──当然、嫉妬し面白くないのも仕方がないだろう。
その事でフラーに対しキツイ目で見てしまうのはきっと、彼女の普段は隠している子どもっぽさの現れだろう。
「あの子、まったく何様だと思っているのかしら」
「ほら、美しさを保つためには食事にも気をつけないといけないって…この前ラベンダーから借りた本で書いてあったわ、きっと努力してるのよ」
「ハーマイオニー、君、誰とパーティに行くんだい?」
ハーマイオニーとソフィアがフラーの事で話してる中、ロンが脈絡無くハーマイオニーに問いかける。ロンはハーマイオニーが予期せぬ時に聞けばうっかりとそのパートナーの名前を言うのではないかと思い、こうして何度も出し抜けにこの質問を繰り返していた。
「教えないわ。どうせあなた、私をからかうだけだもの」
「冗談だろウィーズリー」
ハーマイオニーは繰り返される質問にぷいっとそっぽを向いたその背後から、ドラコの驚愕とせせら嗤いが聞こえた。
ソフィア達がパッと振りかえれば、後ろにはいつもの嘲笑を浮かべたドラコと、そんなドラコを冷ややかな目で見るルイスが居た。
「誰が、こんな奴をダンスパーティに誘った?出っ歯の──」
ドラコはソフィアの冷たい眼差しを見て一度言葉を止めた。
脳裏にルイスと先日交わした会話と、ソフィアの魔法により衣服──下着までも──が全て蛇に変えられてしまった事を思い出したのだ。
「こんばんはムーディ先生!」
ドラコの一瞬の沈黙を見逃さず、ハーマイオニーは笑顔でドラコの背後に向かって大声をかけ手を振る。
白いケナガイタチに変えられた事はドラコにとって耐え難い苦しみと痛みであり真っ青になって飛び退くと、キョロキョロと辺りを見渡しムーディを探した。
「小さなイタチがビクビクしてるわね、マルフォイ?」
だが、ムーディはまだ大広間で食事を取っていてここには居ない。
ドラコがからかわれた、と理解するより早くハーマイオニーが痛烈に言い放ち、顔を屈辱で真っ赤に染めたドラコを見てハリーとロンと共に笑いながら大理石の階段を駆け上がった。
ソフィアは笑う事はなかったが、その場に留まることもせず、ハリー達の後を追いかける。
その場に立ちすくみ拳を震わせるドラコを、一度ちらりと振り返って見たが──何も言わなかった。
ソフィアの胸に、なんとも言えないちくりとした小さな痛みが現れる。
ドラコは友人だ。それもホグワーツに来る前からの付き合いである。
だが、ここに来て長い時を共に生活をするようになり、彼の強い差別思想に──失望していた。
穢れた血だと、その耐え難い言葉を聞くたびに胸が張り裂けそうになる程痛み、苦しい。
何故なら──ソフィアとルイスの母親も、彼の言う穢れた血であるからだ。
──ドラコは、私たちの母様の事を知らないから言えるとしても…ルイスはその事に気付いているはずなのに、何故…ドラコの言葉を本気で止めないのかしら。
ソフィアは悲しげに目を揺らしながら、とぼとぼとハリー達の後ろを歩く。
大広間前の玄関ホールでソフィアが去っていくのを見つめていたドラコは苛々と舌打ちをこぼす。
「…ソフィアを誘うために声をかけたんじゃなかったの?」
「…、……」
不器用であり、さらに考え無しのまま暴言を吐いてしまうドラコに、ルイスは呆れながら言うが、ドラコは何も答えない。
大広間から出てきたパンジーを見たドラコは、特に感情の籠らない声でパンジーに話しかけた。
「パンジー、僕とダンスパーティに行け」
「え?──ええ!勿論よ!嬉しいわ!誘われるのを、待ってたの!」
パンジーはぱっと頬を赤らめ嬉しそうに飛び跳ねる。すぐにドラコの腕に甘えるように抱きついたが、ドラコは鬱陶しそうに見ながらも振り払う事は無かった。
「……はぁ…馬鹿だねぇ」
「…うるさい」
ルイスは小さく呟き、ドラコは苦い表情で答えた。
ーーー
大理石の階段を上がり、グリフィンドール塔に向かう廊下を進みながらロンは横目でハーマイオニーを見る。ふと、その横顔に何か違和感を覚えた。
「あれ、ハーマイオニー、君の歯…」
「歯がどうかした?」
ドラコに出っ歯だと言われていたハーマイオニーだったが、何かがおかしいとロンはジロジロとハーマイオニーの口元を見て首を傾げる。
「うーん、何だか違うぞ…たった今気づいたけど…」
「あれ?本当だ」
「今気がついたの?私はその日に気がついたのに…」
ロンとハリーは首を傾げながらハーマイオニーの歯を見た。ソフィアは2人が気付いていたが、黙っていたのではなく…本当に今まで気が付かなかったのかと──少々、呆れた。
「勿論違うわ。マルフォイの奴がくれた牙を、私がそのままぶら下げてると思う?」
「ううん、そうじゃなくて、あいつが呪いをかける前の歯となんだか違う…つまり、真っ直ぐになって、普通の大きさだ…」
ハーマイオニーは足を止め、くるりとハリーとロンを振り返り悪戯っぽくにっこりと笑う。その前歯は過去のように出っ歯でも、前に少し出ても居ない。
美しく口の中に収められ──どう見ても白く綺麗な普通の歯だ。
「マダム・ポンフリーのところに歯を縮めてもらいに行った時に、ポンフリー先生が鏡を持って、元の大きさまで戻ったらストップと言いなさい、とおっしゃったの。だから私…少し、余分にやらせてあげたのよ」
ハーマイオニーは歯を見せるようにニッとさらに大きく笑った。
「パパやママはあんまり喜ばないでしょうね。もう随分前から、私が自分で短くするって2人を説得していたんだけど、2人とも私に歯列矯正のブレースを続けさせたがっていたの。…ほら、2人とも歯医者じゃない?」
ハーマイオニーは肩をすくめながら笑った。
両親はマグルであるがハーマイオニーは魔女である。最も効果的であり簡単に歯を縮める事が出来るのであれば、そうしたかった。
今まで歯を縮めなかったのは、歯医者である親が魔法を使い歯を縮める事を嫌がっていたからだ、だが…たまたま魔法で歯を短くする機会が訪れたのだ。そのチャンスを逃す彼女ではない。ハーマイオニーは、歯医者の娘であるが──魔女だ。
「あっ、あそこにいるの…ピッグウィジョンじゃないかしら?」
ソフィアは氷柱の下がった階段の手すりの頂上に、ピッグウィジョンが歌うように囀っているのを指差した。
脚に丸められた羊皮紙がくくりつけられているピッグウィジョンは、ホーホーと行き交う生達一人ひとりに話しかけ、そばを通り過ぎた生徒はそんなピッグウィジョンを指差し、口々に「可愛い!」と笑った。
すぐにピッグウィジョンを捕まえたロンは、受取人のところまでまっすぐ戻ってこないピッグウィジョンに腹を立て文句を言いながら脚の手紙を解き、ハリーに渡した。
「ハリー、はい。──受け取って」
この人の多いところでは見るわけにはいかないと、ハリーは手紙をポケットにしまい込む。それからハリー達は手紙を読むために急いでグリフィンドール塔に戻った。
談話室にいる生徒は迫り来るクリスマスパーティに浮かれ、いつ談話室の中に入ってもお祭り騒ぎで賑やかだった。
この賑やかさなら、他の人が何しているかなど気にしないだろう。
ソフィア達はみんなから離れて窓のそばに座り、ハリーが注意深く辺りを見渡しながらそっと開く。ソフィアとハーマイオニーとロンは顔を突き合わせながら覗き見た。
シリウスからの手紙には、うまくドラゴンを出し抜く事ができて安心した事、それと結膜炎の呪いはいいアイディアではなく申し訳なかった事、最後には油断せずよう過ごすように、と切々と書かれていた。
「ムーディにそっくりだ、油断大敵!だなんて…僕が目を瞑ったまま歩いてるとでも思ってるのかな?」
ハリーは返事が来た事が嬉しかったが──無事に、隠れ暮らす事ができているのだろう──一方でかなり心配している言葉が並び、拗ねたようにぶつぶつと呟いた。
「まぁ油断は禁物だわ。第二の課題が何なのか…また考えないといけないわね」
「そうよ!あの卵がどう言う意味なのか調べないと!」
「ハーマイオニー、ソフィア、まだずーっと先じゃないか!──チェスをしようか、ハリー?」
ソフィアとハーマイオニーの言葉をぴしゃりとロンが拒絶し、ハリーをチェスに誘う。
確かに、まだ二ヶ月程度はあるが…それでも、早めに始めるに越した事はない。代表選手達はみんなこの卵を持っているのだ。中の耳をつんざくような不快な音の意味を理解しただけではヒントにならない可能性だってある。
前回の第一の課題のように時間に追われ、ギリギリまでかかるなんて──ハーマイオニーは懲り懲りだった。
「うん、オッケー。…ほら、こんな騒音の中じゃ集中できないだろう?」
「…それもそうね」
「まぁ、確かに…」
ハリーは顎で爆竹のような音を鳴らし花火を上げる生徒を顎で指した。
それを見たソフィアとハーマイオニーは、確かに…クリスマスが終わるまではこの騒ぎが収まる事は無さそうだと肩をすくめた。