午後3時過ぎ、ソフィアはハーマイオニーと共に飛行訓練が行われる校庭へ向かった。ハーマイオニーは飛行訓練の時間が近付くにつれ表情を険しくさせぶつぶつとクィディッチ今昔の内容を反芻していた。
「ハーマイオニー、そんなに一生懸命にならなくても…」
「ごめんなさいソフィア、今は集中したいの、話しかけないで」
「………」
きっぱりと言い切られ、ソフィアは肩をすくめた。
既に校庭には数名のスリザリン生が並べられた箒を見ながら飛行訓練の開始を今か今かと待っていた。魔法族の生まれであっても、広い庭がなければ箒に乗った事の無い者もいるのだろう、珍しく、どのスリザリン生も楽しそうにひそひそと会話をしていた。
その中で一際大きな声で話しているのはドラコだった。彼はこんなボロい箒じゃ自分の本来の力見せられない事や家にはもっと優れた箒があり、それを持って来られなかった事が残念な事、そしてもう同じスリザリン生は何十回も聞いたのだが、一年生がクィディッチの選手に慣れないのはとても残念で絶対来年は選手になる事を自慢げに、朗々とした声で話す。
ルイスはもう耳にタコができる程聞かされた話に興味はなく、禁じられた森をぼんやりと見ながら、時々ドラコの「なぁ?そうだろう?」の言葉に適当に返事をしていた。
「ドラコ!やっと箒に乗れるわね!」
ソフィアは何も気にする事なくスリザリン生の輪の中に入りドラコに話しかけた。ハーマイオニーは目前に控えた飛行訓練を気にするあまり、箒の前に立ち自分の世界に入り込んでしまって全くその事には気が付かなかった。
ソフィアが近づき嬉しそうにしたのはルイスとドラコだけであり、他のスリザリン生は嫌なものを見る目でソフィアを見つめる。
「プリンス、あなた何ドラコに馴れ馴れしく話してるの?」
パンジーが薄く笑いながらソフィアとドラコの間に立ちはだかる。ソフィアは少し首を傾げ、自分より背の高いパンジーを見上げた。
「私がドラコに話しかけるのに、あなたの許可が必要だとは知らなかったわ!…ドラコったらメイドまでホグワーツに連れてきたの?」
不思議そうに言うソフィアの言葉に何人かのスリザリン生が思わず吹き出せば、パンジーは顔を赤くして憤慨した。
「なっ…違うわよ!」
「あら、そうなの?じゃああなたは誰?」
「パンジー・パーキンソンよ!パーキンソン家の長女よ!ドラコと同じスリザリン生の!」
「私はソフィア・プリンス!よろしくね!」
「誰が!あなたと!…っ話かけないでちょうだい!」
ソフィアが満面の笑みで差し出した手をパンジーは叩き落とし、ぎろりと睨みつける。
だが、ソフィアは大人の怒りを買った時に、彼女よりも強烈な眼差しに射抜かれた事が何度もあり、同じ同級生の少女がする威嚇など、可愛らしいものだと思い少しも怖がる事はなかった。
「可笑しな人ね!あなたから私に話しかけたんじゃないの!」
「…っ!」
くすくすと楽しげなソフィアに、パンジーは言葉に詰まるように口を閉ざす。それでも何か言おうと口を開きかけたが、自分から話しかけるなと言った手前憎々しげにソフィアを睨みつける事しか出来なかった。
「ソフィア、そんなにからかわないの。…ごめんねパンジー…僕の妹なんだ、ドラコとはここに来る前から…僕らは友達なんだよ。ドラコのお父上もそれはよくご存じだ。──その意味が、賢い君にはわかるよね?」
ルイスはパンジーとソフィアの間に割って入り、優しく諭すように話しかけたが、その言葉の端々には微かな脅しのような物が含まれていた。パンジーはドラコの父親が許す程、彼らの家柄が良いとは思えず──プリンス家なんて聞いた事が無かった──信じられずにドラコを振り返る。
暫く黙っていたが、ドラコはルイスにちらりと視線を移し、彼の意味ありげな目配せに深くため息をついた。
「ああ、ルイスの言う通りだ。父上もルイスと…ソフィアの事はよくご存知だ。何度も家に招待した事もある」
「パンジー。…ルシウスさん…ドラコのお父上は、ソフィアがグリフィンドール寮になったからと言って、ドラコとの友人関係の解消を望むほど心の狭い人ではないよ」
「っ…そ、それなら良いのよ!私は、その…ドラコの事を考えて…ねえ、ドラコ?分かってくれるわよね?」
ドラコの父親が認めているのならば、パンジーは遂にソフィアに文句を言う事を諦め、わざとらしくドラコに甘えたような声で擦り寄った。
ドラコは少し鬱陶しそうにパンジーを見たが、「わかってるさ」とだけ呟いた。
パンジーがドラコの隣でどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべているのを見たソフィアは、この子はきっとドラコの事が好きなのだろうと考えた。その予想は──今はまだ──正解だとは言えないだろう。パンジーが今惹かれているのはドラコではなく、マルフォイ家なのだから。
「なら私がこれからドラコと話していても、何も言わないわね?」
「っ…ええ…」
絞り出すようにパンジーは呟く。パーキンソン家にとって、マルフォイ家との不仲は避けなければならない。マルフォイ家の当主やその息子が友人だと認めているのなら、それを無碍にするのは賢い行動ではない、そう、純血一族として育てられてきたパンジーは瞬時に判断した。
──いや、むしろ…。
「…ごめんなさい、私、あなたのこと勘違いしていたみたい…。ソフィアって呼んでもいいかしら?」
パンジーは先程自分が叩き落としたソフィアの手を両手で包み込み、眉を下げて謝った。
あまりの変わり身にルイスとドラコは顔を見合わせ苦笑した。
2人は、先程までの憎悪を微塵も感じさせぬ振る舞いに至ったパンジーの心情の変化を、何となく察した。
ソフィアは少し彼女の変わりように驚いたが、それでもぱっと表情を明るくするとその手を引き、飛び付くように抱きつく。
その瞬間パンジーの顔は笑みの形を作ったままビシリと強張ったが、幸運にも誰にも見られる事はなかった。
「ええ!勿論よパンジー!」
心の底から嬉しそうなソフィアの声に、パンジーは動揺したがそれをなるべく表情には出さず、かと言って抱き締め返す事もできず、曖昧に無理矢理微笑んだ。
「ソフィア、ほら、もうパンジーを離して上げて?彼女困ってるよ。…うーん、ソフィアのその癖はちょっと直さないといけないね?」
やんわりとルイスはソフィアの肩を掴み、2人を引き離す。パンジーは心の中でルイスに感謝しながら、何のことか分からないと言うような顔をするソフィアをちらりと見た。
──ドラコとドラコのお父上が認められているのだから、この女には何か利用価値があるに違い無い。
そうパンジーは考え、無理矢理笑みを取り繕った。
「そう?私ハグって好きよ!温かい気持ちになるもの!」
「うーん、まあそうだけどね、僕もソフィアとハグするのは大好きさ!」
ルイスはぎゅっとソフィアを抱き締め、ソフィアもまた嬉しそうに抱き締め返した。
何を見せられているのだろうか。パンジーはそう心の中で吐き捨てた。
「ねぇ、パンジーは箒で飛ぶの得意?」
「え?…まぁ少しは…飛べるわ」
「そう!今日の飛行訓練楽しみね!」
「…ええ、そうね。…ソフィアは得意なの?」
「ええ!ドラコといい勝負するわよ?──ね?ドラコ!」
ソフィアはドラコを見て、悪戯っぽく微笑んだ。
実際、ソフィアの箒の腕前は中々のものだ。ドラコと共に空を駆け巡り、そのスピードに着いていける程には乗りこなす事が出来ている。
「はっ!…僕に勝とうだなんて10年は早いぞソフィア」
「あら!じゃあ今日の飛行訓練で…どっちが上手く飛べるか勝負ね!勝った方が負けた方の命令を何でもひとつだけきく…どう?」
「…良いだろう、今から何を命じるのか考えておくとしよう」
ドラコはニヒルに笑い、ソフィアの挑戦を受けた。
2人ともかなり負けず嫌いなのを知っているルイスは、この後の飛行訓練が何事もなく終わる事をこっそりと願った。自分は飛行術が得意では無い、何があっても止めに行く事は出来ないのだから。
「あ!もうそろそろ時間かしら?みんな集まって来たわ!」
授業開始の3時半ギリギリにまだ来ていなかったグリフィンドール生がバタバタと校庭に駆け込んで来たのが見え、ソフィアはこっちこっち!とでも言うように手を降った。
ハリーとネビルはその手に振りかえしたが、ロンはソフィアがスリザリン生に囲まれているのを見て嫌そうに顔を見て顰め、ぷいとそっぽを向く、あの日から2人は顔を合わせても喋る事は一切無かった。
全員が揃ったとほぼ同時にマダム・フーチが颯爽と校庭に現れた。
「何をぼやぼやしているんですか!皆箒の側に立って。さあ、早く」
開始の合図もなく、フーチの厳しい叱責の声から飛行訓練はスタートした。
皆は慌ててそれぞれ近くの箒のそばに立ち、それを確認したフーチはすぐに次の指示を出した。
「右手を前にも突き出して、そして…上がれ!と言う。さあ!はじめなさい!」
「──上がれ!」
フーチの掛け声に、皆が手を出し「上がれ!」と叫んだ。
だが一度の掛け声で箒が手に収まった者は少なかった。ソフィアとルイス、ハリー、そしてドラコは一度の掛け声で箒を手にする事が出来たが、他の箒は地面を転がり、少し浮いたが直ぐに落下し、そして全く動かない物もあった。
フーチは生徒の間を見廻りながら箒の乗り方や、箒の握り方を指導した。魔法族の子どもは幼少期から箒に乗る事があるが、間違った癖をつけやすい、正しく乗らなければ、大きな事故に繋がる事もある為フーチは細かく少しの間違いも許さなかった。
「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように抑え、2メートルくらい浮上して、それから少し前屈みになって降りて来て下さい」
ソフィアとドラコはこっそり視線を交わし、ソフィアは悪戯っぽく、ドラコは挑発的にニヤリと笑い合った。
約束していた勝負を行うのなら今だ。2人はそう考えていた。
「良いですか?笛を吹いたらですよ?──1、2の──」
ソフィアは箒を持つ手に力を入れて込め、訪れる3の掛け声と笛の合図を待ったが。
「──こら!戻って来なさい!」
フーチの笛を待たず、緊張からか強くネビルは地面を蹴り、そのまま高く高く浮上した。
出鼻を挫かれたソフィアはぽかんとぐんぐん伸びるネビルを見上げる。
あれは、上手くいっているのではない、箒に振り回されている。
乗り手の恐怖心とパニックがうつった箒はめちゃくちゃに空高くを飛ぶ、ネビルは顔を見て蒼白にさせ悲鳴を上げながら必死に振り落とされまいとしがみついた。
スリザリン生から嘲笑が漏れるが、笑っていられる状況ではない。
「フーチ先生!止めないと!」
地上でおろおろとしているばかりのフーチにソフィアは咄嗟に叫ぶ。フーチはハッとしてポケットから杖を出したが、既に遅く、箒に振り回されたネビルはついに箒から手を離し真っ逆さまに落ちた。
「──っ!
ソフィアは杖を抜き出すとネビルが落ちるだろう地面に向かって呪文を放つ。
10メートルほどの高さから地面に叩きつけられたネビルは一度その身体を大きくバウンドさせゴロゴロと転がった。
悲鳴が上がり、誰もが最悪の結果を覚悟した。あの高さから落ちたのだ、骨折程度では済まない。ぴくりとも動かないネビルを見て、皆がーー先程まで嘲笑っていたスリザリン生も、流石に笑えなかったーー表情を硬らせた。
「「ネビル!」」
「…っ…う…」
ソフィアとルイスは直ぐにネビルに駆け寄った、表情は苦悶に歪められているが、血は出ていない、頭を打ったかもしれない、動かさない方がいいだろう。
フーチも顔を青くしてネビルにさっと駆け寄りネビルの上にかがみ込むようにして怪我の具合を確認した。
「手首が折れているわ。…あの高さから落ちてこの程度で済むなんて…ミス・プリンス、あなたが地面を変化させたのですね?」
「え?あ、はい…柔らかいものに、咄嗟に…」
「瞬時に良く動けましたね、グリフィンドールに10点。あなたが地面を変えていなければ…」
フーチは一度言葉を切り、ぶるりと身体を震わせた。
「…きっと、もっと大怪我をしていたでしょう。…さあさあネビル、大丈夫。立って」
「…う…い、痛い…」
フーチは無理矢理ネビルを立たせると他の生徒の方へ向き合う。
「私がこの子を医務室に連れて行きますから、その間誰も動いてはいけません。箒もそのままにして置いておくように。さもないと、クィディッチのクを言う前にホグワーツから出て行ってもらいますよ」
ルイスはその忠告を聞きながら、ネビル頭を打っているかも知れないのに、何故不要に動かすのかと眉を顰めた。
もしかして、この先生は箒の扱いのスペシャリストでも、魔法はあまり得意では無いのだろうか。
「フーチ先生、ネビルは頭を打っているかも知れません。その、あまり無理に動かさない方が…浮遊魔法で浮かせて運ぶべきでは…?」
「…そうですね、よく気がつきました。スリザリンに5点加点します」
フーチは杖を出すと浮遊魔法を唱えた。ルイスはそれを見て、やはりこの先生は魔法が得意では無いのだと確信する。普通の大人の魔法使いなら、初歩中の最も簡単な魔法である浮遊魔法の呪文を唱えなくとも使える筈だ。
横向きになり地面から数センチ上をゆらゆらと危なかしげに浮遊するネビルは、涙と泥で顔をぐちゃぐちゃにしながら手首を抑え、フーチに付き添われるようにして医務室へ運ばれていった。
「
ルイスはこっそりとネビルに浮遊魔法を掛け直した。途端ネビルの揺れていた身体は安定し、滑るように空を浮いていた。
二人が校庭を離れ、城の中へ向かうのを見送り、ルイスはため息をこぼす。散々な飛行訓練になってしまった。ドラコはこんな不完燃焼で満足する事は出来ないだろう。
きっと、ソフィアとの勝負も出来ず内心苛立っている筈だ。
「あいつの顔を見たか?あの大間抜けの」
後ろから聞こえて来たドラコのからかいの声と、スリザリン生の囃し立ての声に、やっぱり、とルイスは額を抑える。
「やめてよ、マルフォイ」
「へー?ロングボトムの肩を持つの?パーバティったら、まさかあなたが、チビデブの泣き虫小僧に気があるなんて知らなかったわ」
ドラコを咎めたパーバティに、パンジーが揶揄うように噛み付けば、パーバティはかっと頬を紅潮させ怒りを滲ませながら強くパンジーを睨んだ。
「もう!ドラコ!ネビルは初めての箒に触ったのよ!誰だってミスはあるし貴方だって昔──」
「ソフィア!」
ソフィアもまたドラコとパンジーの言葉には黙っていられず、つい昔、まだ幼いドラコが高いところから同じように落ちた時泣いていたじゃ無いと言いかけたが、ドラコの強い叫びに、続きの言葉は飲み込まれた。
「ほら、見てみろよ!ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ」
ドラコはソフィアがそれ以上なにも言わなかった事に安堵すると気を取り直すかのように草むらからネビルの思い出し玉を拾い上げた。
「そのバカ玉が赤く光った僕も馬鹿ってことかな?」
「そういえば私も光ったわ」
ルイスとソフィアは冷ややかな目で意気揚々と思い出し玉を掲げるドラコをじっとりと見た。
だがドラコは少しぐっと言葉を詰まらせたものの、2人の棘のある言葉を無視する事に決め、スリザリン生に思い出し玉を見せびらかせた。
「マルフォイ、こっちに渡してもらおう」
ハリーの静かな声に、皆が注目した。
「それじゃ、ロングボトムが後で取りに来られる所に置いておくよ。そうだな──木の上なんてどうだい?」
「こっちに渡せったら!」
ハリーはつよい口調で言ったが、ドラコはせせら笑ったままヒラリと箒に乗り、空高く飛び上がった。
「ここまで取りに来いよポッター。それとも…ルイスが取りに来るか?…怖くて来れないか?」
「……ドラコ……あとで覚えておけよ」
ルイスが飛行術が得意で無い事を良く知っているドラコは勝ち誇ったように笑う。ドラコが、ルイスに唯一勝てるものと言えば今のところ飛行術くらいだった。
ここで、ソフィアの名前を出さない所が、狡賢いドラコらしさ、だろう。
地上で悪態をつくルイスの小さな呟きを聞いたのは隣にいたソフィアだけで、彼女は後に来るドラコの惨劇を思い、少しいい気味だと思った。
ハリーはドラコの言葉にカッとなり、箒を掴む。
「ダメよ!フーチ先生がおっしゃったでしょう?動いちゃいけないって!私たちみんなが迷惑するのよ」
ハーマイオニーは叫ぶようにハリーを咎めたが、ハリーはそれを無視し箒に跨り、じめんを強く蹴った。
初めての飛行術とは思えない箒使いに、思わずソフィアは歓声を上げる、地上で見守っていた他の女の子達も黄色い声を上げ声援を送った。
「ハリー!やるじゃない!初めてなのに、凄いわ!」
「本当だよね!初めてだって思えないよ!」
ロンとソフィアは思わず顔を見合わせ興奮しながら頷き合う、だが先日まで喧嘩をしていた事を思い出し、ロンは罰の悪そうな顔でちらちらとソフィアを見る。
ソフィアは、少し苦笑しながらロンの側に近寄る。ロンはまた殴られるかと少し身をひいたが、ソフィアは何も言わずロンの隣で空高く舞うハリーを見上げた。
「本当に…私たちの友人は凄いわね、ロン?」
「うん…本当に、凄いよ…ソフィア。…その、酷いことを言って…本当にごめんね…後でルイスにも謝るよ」
「──何のことか、忘れちゃったわ」
ソフィアはロンをちらりと見上げ、悪戯っぽく笑った。
その可愛らしく、どこか小悪魔的な微笑みにロンは僅かに頬を紅潮させながら、ありがとう、と呟いた。
ソフィアとロンが喧嘩を終え仲直りをしている間に、ハリーにより追い詰められたドラコは苦し紛れに思い出し玉を高く放り投げ、すぐに地上に逃げ帰った。
取れるわけがない、ビー玉のように小さいんだ。そうドラコは思っていたがハリーは一直線に急降下し必死に小さな玉へと手を伸ばす、下で見ていた生徒が悲鳴を上げ、ぶつかる!と叫んだが、ハリーは地上ギリギリで玉を掴むと体勢を立て直し草の上に鮮やかに着陸した。
わあっ!と歓声が沸き起こり皆がハリーの元へ駆け寄り目の前で起きた神業とも言える箒使いを口々に褒めた。
「ハリー!凄いわ!貴方シーカーになれるんじゃない!?」
「本当だよ!僕はあんなに上手く飛ぶ人を見た事ないよ!ドラコよりずーっと上手だね!」
ソフィアは歓声を上げたままハリーに抱きつき、身体全体で興奮と喜びを露わにし、ルイスもまた駆け寄るとハリーの背中を嬉しそうに何度も叩いた。
「ソフィア!ルイス!見た?僕、なんだろう、どうすればいいのか、どう飛べばいいのかわかったんだ!」
ハリーも魔法界に来て初めて自分に誇れるところがあったのだと、自慢の出来る事が一つでもあったのだと嬉しくて顔を見て輝かせ、興奮しながら叫んだ。
「ハリー・ポッター…!」
だが、ハリーの喜びや興奮はマクゴナガルの登場により、風船のように萎んでしまった。
「まさか──こんな事はホグワーツで一度も…よくもまあ…大それたことを…首の骨を折ったかも知れないのに…」
「先生、ハリーが悪いんじゃないんです」
「お黙りなさい、ミス・パチル」
「でも…先生、マルフォイが…」
ロンもハリーだけが減点や罰則を受けるのは割に合わないと思い、果敢にも加勢しようとしたが、マクゴナガルの鋭い目つきで睨まれてしまい口を閉ざした。
「くどいですよ。ミスター・ウィーズリー…。ポッター、さあ、一緒にいらっしゃい」
マクゴナガルは足早に城に向かって歩き出し、ハリーはとぼとぼと俯いたままその後ろをついて行った。
「ソフィア、どうしよう!ハリー退学になるのかな…?」
ロンはおろおろと連れて行かれたハリーの後ろ姿を心配そうに見つめていた。ソフィアは少しだけ笑いながら首を振る。
「んー大丈夫だと思うわ、だって…マクゴナガル先生、あんまり怒ってなかったような気がするもの」
「え?…嘘だろ?めちゃくちゃ怒ってたように見えたけど…」
ロンは信じられないと言ったようだったが、ソフィアはそれ以上何も言わずに、どこか楽しげな目でハリーを見送った。
その後ネビルを医務室へ送り届けてきたフーチが校庭に現れたが、もう今回の飛行訓練は終わりだと言って解散を命じた。
皆がぱらぱらと城へ戻る中、ルイスは勝ち誇ったような上機嫌なドラコにそっと近付き、後ろからもたれかかるようにして抱きつく。
「──っル、ルイス?」
「──さて、空では僕は確かに君には敵わないけど…地上でなら…どうかな?」
甘く囁くような楽しげな声に、ドラコはぞわりとした寒気を感じ表情を引き攣らせた。
ソフィアはハーマイオニーと城へ戻っていたが、後ろからドラコの悲鳴が混じる笑い声が小さく聞こえ、少し後ろを振り返った。
「どうしたの?」
「──いいえ、何でもないわ、行きましょう」
ハーマイオニーの声になんでもないと首を振り、ソフィアは素知らぬ顔で城の中へ入る。
後ろではルイスにより擽り魔法をかけられたドラコが草の上を転げ回り腹を捩りながら笑っていたが、ソフィアは何も見なかった事にした。