【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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212 半巨人とヒト!

 

 

 

一月半ばにホグズミード行きが許可された。

ハリーが行くつもりだという事に、ハーマイオニーは驚き、それよりもせっかく生徒がいなくなるのだから監督生専用風呂場へ行くチャンスでは無いかと何度も言ったがハリーは頷かなかった。

 

まだ、課題まで5週間もある。それまでにヒントは必ず解けるだろう。それよりもハリーはハグリッドの事が気がかりだった。

 

 

「ハグリッドに会いたいんだ。ホグズミード村に居るかも…三本の箒に来てるかもしれないだろ?」

「え?ああ…たしかに、そうね…」

「…やけ酒してなかったら良いけど…」

 

 

ソフィアの言葉に、ハリー達は顔を見合わせた。たしかに、ハグリッドは嫌な事や悲しい事があるとよく酒を飲む。三本の箒で沢山の空のジョッキに囲まれ小山のようになり、カウンターに伏しているハグリッドの姿を、ハリー達は簡単に想像することができた。

 

 

 

土曜日、ソフィア達はホグズミードへ行き、ハグリッドの姿を探した。

半巨人であるハグリッドを見逃すなんて、あり得ない。どの店を回っても大人の頭三つ分は大きなハグリッドのもじゃもじゃとした頭は見つけられなかった。

 

最後の望みをかけて三本の箒に行ったが、テーブルを一渡りざっと見回しただけでハグリッドの姿がない事が分かると、ハリーはがっくりと肩を落とした。

 

意気消沈するハリーを連れてソフィア達はカウンターまで行き、マダム・ロスメルタにバタービールを注文した。

 

ハグリッドはどこにもいなかった。これなら、監督生の風呂場に行った方がよかったかもしれない。──と、ハリーが暗い気持ちになって居たとき、ハーマイオニーが呆れたような口調でソフィア達に囁いた。

 

 

「あの人、一体いつ、お役所で仕事をしているの?見て!」

 

 

ハーマイオニーはカウンターの奥の鏡を指差していた。ハリー達が覗くと、ルード・バグマンが沢山の小鬼に囲まれ薄暗い隅の方に座っているのが写っていた。

 

 

バグマンは小鬼に向かって早口で何かを捲し立てていたが、小鬼は腕組をしたまま厳しい目でバグマンを見据えている。どうみても、友好的ではない雰囲気だ。

 

たしかに、今週は三校対抗試合はなく、審査の必要もない。

週末にバグマンがホグワーツ近くの三本の箒にいる事は、どこか違和感がある。

 

 

ふとバグマンがカウンターの方に目を向けた。ハリーがいる事に気づいたバグマンはすぐに立ち上がり、先ほどの緊張した表情を一瞬で消し、少年のような笑顔でハリーの方へやってきた。

 

 

「ハリー!元気か?君にばったり会えると良いな、と思っていたよ!全て順調かね?」

「はい。ありがとうございます」

「ちょっと2人だけで話したいんだが、どうかね、ハリー?──君たち、少しだけ席を外してくれるかな?」

「あ…オッケー」

 

 

バグマンは笑っていたが、有無を言わせぬ何かがあった。

ロンはぎこちなく頷くとソフィアとハーマイオニーを連れて3人で空いているテーブルを探しに行った。

 

 

「一体、何の用なんだろうね?」

「さあ…わからないわ」

「うーん…」

 

 

ロンは店内の中程の空いているテーブルにつきながら、カウンターの隅に行ってしまったハリーとバグマンを見て囁く。

しかし、ソフィアとハーマイオニーも何の用事なのか分かるわけもなく、首を傾げた。

 

 

ロスメルタが持ってきたバタービールをちびちびと飲みながらソフィア達は課題の事やハグリッドの事を小声で話し合った。

そうしているうちに、ようやくバグマンに解放されたハリーが困惑したような複雑な表情を浮かべながらロンの隣に座った。

 

 

「何の用だったんだい?」

「金の卵の事で、助けたいって言った」

 

 

ハリーは泡が半分ほどに減ってしまったバタービールを飲みながら答えた。

その言葉を聞いたロンはぽかんと口を開き、ハーマイオニーとソフィアも驚きに目を見開いた。

 

 

「そんな事しちゃいけないのに!審査員の1人じゃない?バグマンがハリーにヒントを与えるなんて…ダンブルドアが知ったら許さないわ!」

「そうね…審査員が贔屓するなんて、違反もいいところだわ。バグマンが全員に卵のことを教えてるとかなら…セドリックにも教えてホグワーツ生を優勝させたいのなら…まぁ、わかるけど…」

「それが、違うんだ。僕も同じ質問をした」

 

 

ハリーはバグマンと何を話したかの詳細をソフィア達に伝えた。セドリックではなく、ハリーにのみ卵の秘密を伝えようとするなんて贔屓もいいところだろう。

──まぁ、第一の課題でハグリッドはハリーだけを贔屓しドラゴンの事を伝えたのだが、ハグリッドは審査員ではない。勿論、教師として、課題に関わる大人として褒められた行動ではないのは確かだ。

 

 

次に話題はバグマンの八百長疑惑から、小鬼の事へと移る。和気藹々という雰囲気ではなかった彼らがクラウチを何故探すのかとハーマイオニーは首を捻ったが、ハリーはクラウチに通訳を頼むためだと思い特に気にしなかった。

 

 

「──うわっ」

 

 

ロンが突然、入り口を見つめて声を上げた。

ソフィア達はロンの視線の先を見て──皆、嫌そうに顔を顰めた。

 

リータ・スキーターがカメラマンを従えて店内に入ってきたところだった。きっと何かネタを探しているのだろう、他の客を掻き分けながらソフィア達の近くのテーブルに座ったが、何か満足げにカメラマンと話しているスキーターはハリー達の強い視線に気がつかない。

 

 

「──あたしたちとはあんまり話したくないようだったねぇボゾ?さーて、どうしてかあんたわかる?あんなに小鬼を引き連れて何をしていたのかしらねぇ。観光案内、だなんて、馬鹿言ってたわ。アイツは嘘が下手ねぇ…。何か臭わない?ちょっとさぐってみようか。──魔法ゲーム・スポーツ部、失脚した元部長。ルード・バグマンの不名誉──なかなかキレのいい見出しじゃないか、ボゾ…あとは見出しに合う話を見つけるだけだね」

 

「また誰かを破滅させるつもりか!?」

 

 

ハリーはそれ以上スキーターの声を聞く事に耐えられず、勢いよく立ち上がり叫んだ。

何人かがハリーを驚いた目で振り返り、スキーターも怪訝な顔をして声のした方を見たが、声の主がハリーだと分かると眼鏡の奥の目を見開きニッコリと笑った。

 

 

「ハリー!素敵だわ!こっちにきて一緒に──」

「お前なんか、一切関わりたくない!3メートルの箒を挟んだって嫌だ。いったい何のために、ハグリッドにあんなことをしたんだ?」

 

 

ハリーの強い怒りに、スキーターは細い眉を吊り上げ、聞き分けのない子どもに言い聞かせるようにハリーを窘めた。

 

 

「読者には真実を知る権利があるのよハリー。あたしはただ自分の役目を──」

「ハグリッドが半巨人だって、それがどうだっていうんだ?ハグリッドは何も悪くないのに!」

 

 

ハリーの叫びが、静まり返った店内に響いた。誰もが驚愕と怪訝な顔でハリーを見つめる。ソフィアとロンはハリーの言葉に「まずい」と思ったが、友達の事を貶されたハリーの怒りは止まらない。

ここは、ホグズミード村にある三本の箒だ。店内を埋めるのは魔法族であり、彼らは巨人がどのような存在であり──大人なら、巨人がヴォルデモートに仕えていた事を知っている。

スキーターはハリーの言葉に動揺したが──流石に、友人だと言え半巨人を擁護するとは思わなかったのだ──取り繕うような笑顔を見せるとすぐに革鞄から自動速記羽ペンを取り出した。

 

 

「ハリー、君の知ってるハグリッドについてインタビューさせてくれない?──筋肉隆々に隠された顔──ってのはどう?君の意外な友情と、その裏の事情についてだけれど。君はハグリッドが親代わりだと思う?」

 

 

ハリーがスキーターに「消えろ!」と言う前にハーマイオニーが立ち上がり、バタービールのジョッキを手にしたまま顔を怒りで染めて叫んだ。

 

 

「あなたって、最低の女よ!記事のためなら誰がどうなろうと何も気にしないのね。誰がどうなろうと、ルード・バグマンだって──」

「……お座りよ。馬鹿な小娘のくせして。わかりもしないのに、わかったような口をきくんじゃない。──ルード・バグマンについては、あんたの髪の毛が縮み上がるような事を掴んでるんだ…もっとも、もう縮み上がってるようだけど」

 

 

ハーマイオニーのふわふわな癖っ毛を舐め回すように見てスキーターが意地悪く笑う。その目が隣に居たソフィアを捉え、ハリーに向けたような取り繕った笑みを浮かべた。

 

 

「あら!あなたはソフィア・プリンスね?ハリーとの愛はどうなっているのかしら」

「え?わ、私は…」

 

 

いきなり声をかけられたソフィアはびくりと肩を震わせ困惑し、視線を彷徨わせる。

 

 

「答える事ないわよ!行きましょうソフィア!ハリー!ロンも!」

 

 

ハーマイオニーはソフィアの腕を掴みそのまま肩を怒りで上げたままずんずんと出口に進む。ハリーとロンもその後に続き、大勢の視線を感じながら扉を押した。

ちらり、とハリーは出て行く途中で振り返り、スキーターの自動速記羽ペンが羊皮紙の上で飛ぶように動き回っているのを見て顔を顰めた。

 

 

「ハーマイオニー、あいつ、次はきっと君を狙うぜ」

 

 

急ぎ足で帰る途中、ロンが心配そうな低い声でハーマイオニーに言う。しかしハーマイオニーはちっとも気にしてないのか、苛々としながら鼻で笑った。

 

 

「やるならやってみろだわ!目にもの見せてやる!馬鹿な小娘?私が?──絶対にやっつけてやる!最初はハリー、次にハグリッド…」

「あんまり、あの人を刺激するのは良くないわハーマイオニー、怒る気持ちは勿論わかるけど…」

「私の両親は日刊預言者新聞を読まないから、私はあんな女に脅されて隠れたりしないわ!」

 

 

ハーマイオニーはソフィアの手を引いたままどんどん進んでいくため、ソフィア達はついていくのがやっとだった。

これ程怒っているハーマイオニーは、かなり珍しいだろう。

 

 

「それに、ハグリッドはもう逃げ隠れしちゃダメ!あんな、ヒトの出来損ないみたいな女の事でオタオタするなんて絶対ダメ!さあ、行くわよ!」

「わっ!ハ、ハーマイオニー!」

 

 

ついにハーマイオニーは走り出し、ソフィアは転ばないように必死について行った。

ハーマイオニー達は帰り道を走り続け、校門を過ぎると校庭を突き抜けハグリッドの小屋へと向かう。

 

 

小屋のカーテンは、今日も閉まったままであり、足音に気付いたファングがけたたましく鳴いた。

ようやく手を離してもらえたソフィアは膝に手をつき、ハアハアと荒い呼吸を必死で整える。ハーマイオニーは走っていた勢いのまま扉に体当たりをするようにガンガンと強く叩いた。

 

 

「ハグリッド!ハグリッドいい加減にして!そこにいるのはわかっているわ!あなたのお母さんが巨人だろうと何だろうと、誰も気にしてないわ!ハグリッド、リータみたいな腐った女にやられてちゃダメ!ハグリッド、ここから出るのよ。こんな事してちゃ──」

 

 

突然、固く閉められていた扉が開いた。

ハーマイオニーは「ああ、やっと!」と言いかけて口をつぐむ。扉を開けて立っていたのはハグリッドではなく、柔和な目をしたダンブルドアだった。

 

 

「こんにちは」

 

 

ダンブルドアはソフィア達に優しく微笑みかけながら、柔らかく言う。今までの言葉全て聞かれているに違いない、悪い事は言っていないが…いや、スキーターをかなり侮辱した、尤もな言葉だと思っているし後悔も無いけれど、流石に注意くらいはされるだろうか──とハーマイオニーは居心地悪そうに視線彷徨かせる。

 

 

「私たち…あの、ハグリッドに会いたくて…」

「おお、わしもそうじゃろうと思いましたぞ。さあ、お入り」

「あの…は、はい…」

 

 

ダンブルドアは扉の脇に移動するとソフィア達に行く手を譲る。

ハーマイオニーは軽く頭を下げて小屋の中に入り、ソフィアとハリーとロンもその後に続いた。

 

ハグリッドは大きなマグカップが二つ置かれた机の前に座っていた。顔色は悪く、泣き腫らした目は腫れ小さな黒い目をほとんど覆い隠していた。髪は何度も苦しみ泣き喚き掻きむしったのだろう、今まで見た中で最も絡まりボサボサだった。

 

悲惨なハグリッドの姿に、どれだけ彼が苦しみ嘆いたのかを理解したソフィア達は息を呑み、一瞬沈黙した。

だが、その沈黙を打ち破ったのは、彼をこの中で最も心配し、愛しているハリーだった。

 

 

「やあ、ハグリッド」

 

 

ハリーはいつもと変わらない、気さくな声でハグリッドに話しかける。

俯き、自身の大きなこぶしを見ていたハグリッドは目をチラリとあげ「…よう」と泣き潰し嗄れた声で答える。

 

 

「もっと紅茶が必要じゃの」

 

 

ソフィア達が入った後に扉を閉めたダンブルドアは杖をくるくると回し何もない空間からティーセットと美味しそうなケーキの乗った皿を出現させた。

 

ソフィアたちが空いている席に着いたあと、ダンブルドアはゆっくりと優しくハグリッドに話しかける。

 

 

「ハグリッド、ひょっとしてミス・グレンジャーが叫んでいた事が聞こえたかね?ハーマイオニーもソフィアもロンもハリーも、ドアを破りそうなあの勢いから察するに、今でもきみと親しくしたいと思っているようじゃ」

「もちろん、僕たち今でもハグリッドと友達でいたいと思ってるよ!あんなブスのスキーターババアの言うことなんか──すみません、先生」

 

 

ハリーはハグリッドを見つめながら感情のままに叫んだが、途中で言葉が汚すぎたと慌てて口を抑え──微塵も悪いとは思ってないが──ダンブルドアをちらりと見る。

だがダンブルドアは朗らかに笑ったまま首を傾げ、たっぷりとした髭を指でくるくると弄んでいた。

 

 

「急に耳が聞こえなくなってのう、ハリー、きみが何を言うたかさっぱりわからん」

 

 

それはどう見てもダンブルドアの茶目っ気たっぷりな言い訳だったが、ハリーは安心したようにほっと息を吐きもう一度、真剣な目でハグリッドを見た。

 

 

「僕が言いたかったのは──その、あんな女が…ハグリッドのことをなんて書こうと、僕たちが気にするわけないだろう?」

 

 

小さな黒い目から、大粒の涙がぽろりと溢れ、髭をゆっくりと伝わって落ちた。ハグリッドの体は小さく震え、唇は硬く結ばれている。大きく広い胸から溢れそうなのは、彼らに対する感謝と──半巨人である事を今まで隠していた自責だろうか。

 

 

「わしが言ったことの生きた証じゃな、ハグリッド。生徒たちの親から届いた数え切れないほどの手紙を見せたじゃろう?自分達が学校にいた頃のきみのことをよく覚えていて──もし、わしがきみをクビにしたら、一言言わせてもらうと、はっきりと書いておった」

「…全部が全部じゃねぇです。みんなが、俺が残ることを望んではいねえです」

「それはの、ハグリッド。世界中の人に好かれようと思うのなら、残念ながらこの小屋にずっと閉じこもっているほかあるまい」

 

 

半月メガネの奥にある青い瞳はじっとハグリッドを射抜いていた。この世界で、誰からも嫌われることの無い人など存在しない──半巨人であれ、ただのヒトであれ、それは皆平等だ。

 

 

「わしが校長になってから、学校運営のことで少なくとも週に一度はフクロウ便が苦情を運んでくる。かと言って、わしはどうすればよいのじゃ?校長室に立てこもって、誰とも話さんことにするかの?」

「そんでも──先生は半巨人じゃねぇ!」

 

 

ハグリッドは苦しげな声で叫ぶ。

ハグリッド自身が、巨人というものがどんな性質を持ち忌み嫌われているか、半巨人が何故受け入れられないのか一番よくわかっている。

勿論、ハリー達のように自分を受け入れてくれるものはいるだろう。だが、それでも──ハグリッドは今まで恐れ、ひた隠しにしていた自分の血のことが世間に晒され、どうしようもなく怖かった。

 

 

「ハグリッド。それじゃ僕の親戚はどうなんだ!ダーズリー一家なんだよ!?」

 

 

ハリーは怒って叫んだが、一瞬ソフィアとルイスの事を思い出したが──ハグリッドが自分と2人が親戚だと知っているのか分からず、黙り込んだ。

 

 

「よいところに気付いた。わしの兄弟のアバーフォースは、ヤギに不適切な呪文をかけた咎で起訴されての。あらゆる新聞に大きく出た。しかしアバーフォースが逃げ隠れしたかの?──いや、しなかった!頭をしゃんと上げ、いつも通りの仕事をした!もっとも、文字が読めるのかどうか定かではない。したがって、勇気があった事にはならんかもしれんがのう…」

 

 

ソフィアはぱっと立ち上がり、背中を丸めその大きな体を出来る限り小さく見せようとするハグリッドの背中を撫で、緑色の目で優しくハグリッドを見つめた。

 

 

「ハグリッド、私たちはあなたが大好きなのよ、知らなかったの?」

「戻ってきて、教えてよハグリッド」

 

 

ソフィアの後にハーマイオニーが静かに言った。

ハーマイオニーは、心からハグリッドが戻り、その少々危険で刺激的な授業を受ける事を望んでいた。確かに、代理教師の授業は素晴らしいものだった。──だが、だからといってハグリッドの授業が劣っていたわけでも、ハグリッドの授業を嫌っていたわけでもない。

 

 

「お願いだから、戻ってきて。ハグリッドがいないと私たちとっても寂しいわ」

 

 

ハグリッドがぐっと喉を鳴らし、大粒の涙が黒い小さな目にみるみる内に溜まった。

 

 

「ハグリッド、あなたが半巨人でも、何でもいいの。あなたは私たちの大切な友達の──ただのハグリッドよ」

 

 

その言葉についにハグリッドの涙は溢れ、頬や髭を伝いぽたぽたと落ちる。ハーマイオニーもハグリッドのそばに駆け寄り、その太い腕を慰めるようにぽんぽんと叩いた。

 

 

 

「辞表は受け取れぬぞハグリッド。月曜日に授業に戻るのじゃ。明日の朝八時半に、大広間でわしと一緒に朝食じゃ。言い訳は許さぬぞ。──それでは皆、元気での」

 

 

ダンブルドアはさっと立ち上がり、一度ファングの耳の後ろを優しく撫でてから小屋を出て行った。

扉が閉まると、ハグリッドは大きな両手に顔を埋めてすすり泣き始めたが──暫くして、両手を下ろすと目を真っ赤にしてハリーを見た。

 

 

「偉大なお方だ…ダンブルドアは…偉大なお方だ……」

 

 

噛み締めるように呟くハグリッドに、ハリー達はにっこりと微笑み頷く。すぐにハグリッドは自分の両隣に寄り添うソフィアとハーマイオニーを泣いて腫れた目で見つめる。

 

 

「ありがとう、ソフィア…ハーマイオニー…俺は…俺は…」

「いいのよハグリッド。友達が泣いていたら寄り添うのは当たり前だわ!」

「ハグリッド、私月曜日が本当に楽しみよ!」

「ああ…月曜日、とびきりの授業をせんといかんな…。…ハリー、お前さんも、ありがとう。──みんなが正しい、俺は馬鹿だった…俺の親父は、俺がこんな事をしているのを見たら、恥ずかしいと思うに違いねぇ」

 

 

目からまた涙が溢れたが、ハグリッドは先程よりもさっぱりと涙を拭い、噛み締めるように呟く。

 

 

「親父の写真を見せたことがなかったな?──どれ」

 

 

ハグリッドは立ち上がり、古びた洋箪笥に向かった。ソフィアとハーマイオニーは顔を見合わせ、もうハグリッドが元気と冷静さを取り戻したのだとわかると微笑みあい元の席に座った。

 

戻ってきたハグリッドの手には、色褪せた小さな──その手が大きすぎてそう思うだけかもしれない──写真があり、そっとハグリッドはソフィア達に見えるように机の上に置いた。

 

 

その写真には、ハグリッドと似た小さな黒い目の小柄な魔法使いが優しい目でにこにこと笑い、ハグリッドの肩に乗っていた。そばのリンゴの木から判断してハグリッドの身長は2メートルは超えているだろう。だが、顔は髭も皺もなく、つるりと丸く少年らしいあどけなさがあった。

 

 

「ホグワーツに入学してすぐに撮ったやつだ。親父は大喜びでなぁ…俺が魔法使いじゃねぇかもしれんと思っておったからな…」

 

 

嗄れた声でハグリッドは懐かしむように呟き、写真に写る父を優しく指先でそっと撫でた。

ハグリッドの父親の話を聞くのは初めてであり、ソフィア達は静かにその言葉に耳を傾ける。

 

父親は、二年生の時に死んだことや、退学してからダンブルドアだけが自分を見捨てず、森番としてやり直しのチャンスをくれたこと。家系にこだわり威張り腐る者もいるが、家柄なんて関係なく、誰もが平等に未来があるという事。──最後にハグリッドはマクシームの事を話したが…ソフィア達はその事には触れる事は無い。

ハリーは、マクシームとハグリッドの会話を盗み聞きしていた事を伝えるくらいならスクリュート50匹を一度に散歩させた方がマシだと強く思った。

 

 

「ハリー、あのなぁ」

 

 

ハグリッドは写真から目を上げ、キラキラと輝く瞳でハリーを見つめる。

 

 

「おまえさんに初めて会った時、昔の俺に似てると思った。父ちゃんも母ちゃんも死んで、お前はホグワーツなんかでやっていけねぇって思っちょった。覚えとるか?そんな資格があるのか、お前さんは自信がなかったなぁ……ところが、ハリー!どうだ、学校の代表選手だ!ハリー。俺がいま心から願っちょるのが何だかわかるか?お前さんに勝ってほしい。──本当に、勝ってほしい。みんなに見せてやれ、純血じゃなくても出来るんだってな。自分の生まれを恥じることはねぇんだ。ダンブルドアが正しいんだっちゅうことを…みんなに見せてやれる。魔法ができる者なら、誰でも入学するのが正しいってな。……ハリー、あの卵はどうなっちょる?」

「──大丈夫、本当に、大丈夫だよハグリッド」

 

 

ハリーの言葉にハグリッドはパッと明るい笑顔を見せた。

ハリーは少しぎこちなく笑い──その笑顔の意味にソフィア達は気付いたが、何も言わなかった。

まだ卵のことは何も解決していない。だがそれを今のハグリッドに告げることはとても出来なかった。それが嘘だとしても、ハリーの胸がどれだけ締め付けられ苦しくても──優しい嘘というものは存在する。

 

 

ソフィア達は夕方になったあと、月曜日に再び会う事を約束して城に戻った。

ハリーは、必ず、何としてでも監督生専用風呂へ行き、卵の謎を解き明かしてみせると強く自分に誓った。

 

 

 





原作のスキーターの口調と、少し変えています。
ざんしょ口調はどうしても…どうしても違和感が強くて…
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