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ハリーとロンは真夜中になっても図書館から借りてきた本を山のように積み上げ読んでいた。
ソフィアとハーマイオニーはこんな時間になってもまだ戻ってきていない、2人で何度か「どうしたんだろう」と首を傾げ心配そうに時計を見たが、針は止まることなく進んでいた。
賢い頭脳を持つ2人がいないことにハリーは今まで以上の焦燥感を感じ、膝の上にソフィアのペットであるティティが乗っているのも忘れて、居ても立っても居られず立ち上がった。微睡んでいたティティはハリーの膝から転げ落ち、怒ったようにシャーっと威嚇の声を上げる。
本を読みながら半分寝ていたロンと、その膝の上にいるクルックシャンクスは驚いて目を瞬かせた。
「ど、ど──どうした?」
「僕、図書館に行く」
「え?こんな時間に──僕も行くよ」
ハリーは寝室へと戻りかけていた足を止めて、目を擦るロンを見た。
「いや、君は寝室に戻って寝たほうがいい」
「そんなこというなよ、1人で探すより2人で探した方がいいに決まってる」
ロンはぐっと腕を上に伸ばし頬を手でぱちぱちと叩き眠気を振り払った。
にっこりと笑うロンに、ハリーは本当に──喧嘩せず、ロンがそばに居てくれてよかった、そう思い心から「ありがとう」と言うとすぐに透明マントを取りに行った。
ロンとハリーは二人で透明マントの中に隠れ、足音を立てないよう気をつけながら図書館へ行き、杖先をルーモスで光らせながら沢山の本を抱え、必死にページをめくった。次こそ──次の本こそ、何かあるに違いない──こんなに必死に探しているんだから──。
ハリーとロンはお互いにもたれかかるようにして寝てしまっていた。
「ハリー・ポッター!」
ぽん、と姿を表したドビーは胸の前で指を組み暫くハリーはの前でウロウロとしていたが、意を決してハリーの脇腹をツンツンと突いた。
「ハリー・ポッター!起きなければなりません──起きるのです!」
「う──んん──い、いたいよ…やめて……」
ドビーの指は細く尖っていて、ハリーは脇腹への痛みで眉を寄せ身をよじった。
だがようやく起き始めたハリーを見て、ドビーは先程よりも強く脇腹に人差し指をめり込ませた。
「ハリー・ポッターは起きなければなりません!」
「突っつくのはやめて──」
「ドビーはハリー・ポッターを突っつかないといけません!ハリー・ポッターは目を覚さなければなりません!」
ハリーはようやく、目を覚ました。
湖にいて、人魚が自分を揶揄い脇腹をファイアボルトで突いていたと思ったが──まだここは図書館だった。
いつの間にか寝てしまったらしい。ロンと寄り添うようにしていたからか、透明マントは頭からずり落ちてしまっていたようだ。
ハリーはずれた眼鏡を掛け直し、眩しい日差しに目を細める。
「う──な、なんだ…?」
ロンもようやく目を覚まし、自分がどこで寝たのかまだ理解してないのか大きな欠伸をしながら不思議そうに周囲を見渡した。
「ハリー・ポッターは急がないといけません!あと10分で第二の課題が始まります!そしてハリー・ポッターは──」
「じゅっ──10分!?」
「何だって!?」
ハリーとロンはドビーの声に跳び上がり、自分の腕時計を急いで見た。9時20分すぎ──あと、10分で課題の開始時刻だ。
寝てしまった、徹夜しなければならなかったのに!使える魔法も、わからなかった。泡頭魔法だけで、課題をこなせるだろうか。
「急ぐのですハリー・ポッター!ほかの代表選手と一緒に、湖のそばに行かなければならないのです!」
「もう遅いんだドビー、僕、第二の課題はやらない。どうやっても泳げないんだ──」
「ハリー・ポッターはその課題をやります!ドビーは、ハリー・ポッターがわからなかったと知っています!それで、ドビーは代わりに見つけました!」
「えっ?だけど、君は第二の課題が何かを知らない──」
「ドビーは知っております!ハリー・ポッターは、湖に入って、探さなければなりません。あなたさまのプリンセスを──」
「僕の、何だって?」
「──水中人から、あなたさまのプリンセスを取り戻すのです!」
「プリンセスって、何のこと?」
「あなたさまのプリンセスでございます。一緒に、ダンスを踊られた──」
ドビーはその場で軽くタップを踏んだ。ダンスに見えなくもないその動きに──ハリーは息を呑む。
「何だって?水中人がとっていったのは──まさか、ソフィア!?」
「ハリー・ポッターが一番失いたくないものでございます!そして、1時間を過ぎると──」
「『もはや望みはあり得ない。遅すぎたなら、そのものは、二度とは戻らない』……ドビー、僕、僕どうしたら…!?」
ハリーは打ちのめされ、何度も聞いたあの歌を呟き恐怖に顔を引き攣らせた。
何としてでも、ソフィアを失いたくない。だが、1時間でソフィアを取り戻す術がハリーには、無い。
「あなたさまはこれを食べるのです!」
ドビーは金切り声で言うとショートパンツのポケットに手を突っ込み、ネズミの尻尾を団子にしたような、灰緑色のぬるぬるとした不気味なものを取り出した。
「まさか!そ、それ、鰓昆布!?」
「そうでございます!知っていましたか!ああ、よかった!湖に入るすぐに食べるのです!」
両手に押し付けられた鰓昆布を見て、ハリーは困惑した。
──これは、きっとルイスが言っていた鰓昆布だ。だけど、どうしてドビーが?スネイプは魔法使いじゃないと研究室には入れないって言ってた……何処かに生えていたのかな…?
「ドビーは耳利きでございます。ドビーはハウスエルフでございます。火をくべ、床にモップをかけ──城の隅々まで行くのでございます。ドビーはマクゴナガル先生とムーディー先生が職員室で次の課題を話しているのを耳にしたのでございます!ドビーは、ハリー・ポッターにプリンセスを失わせるわけにはいかないのでございます!」
「ハリー!いけ!僕はここを片付けてすぐに行くから!」
「ありがとう、ドビー、ロン!」
ハリーはポケットに鰓昆布を突っ込むと、すぐに肩にかかっていた透明マントをロンに押し付けるようにして渡した。飛ぶように図書館を出て走るハリーの背中に向かって、ロンとドビーが叫ぶ。
「ハリー!頑張れよ!すぐ見に行くから!」
「ドビーは戻らなければなりません、ハリー・ポッター、どうぞがんばって!」
「後でね!ロン、ドビー!」
ハリーは振り返らず叫び返した。
全速力で廊下を駆け抜け、階段を3段飛ばしで降り、課題観戦へ向かうために玄関ホールにいる生徒のそばを矢のように走り抜けた。
なんとかギリギリ時間に間に合ったハリーは、肩で息をしながら他の代表選手の隣に並んだ。
ハリーは全速力で走ったために、脇腹と喉がキリキリと痛んだが、その痛みが治るのを待つ時間はなかった。
ハリーの到着を喜んでいたバグマンは、すぐに審査員席へ行くと喉に杖を向け声を拡張し、観客たちへ声を張り上げる。
「さて、全選手の準備ができました。第二の課題はわたしのホイッスルを合図に始まります。選手たちは、きっちり1時間のうちに奪われたものを取り返します。──では、3つ数えます!──いち──に──さん!」
ホイッスルが冷たく静かな空気に鋭く鳴り響いた。
ついに、第二の課題が始まった。