【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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219 アニメーガス!

 

 

第二の課題が終わり、翌日の夜。

ソフィアはついにアニメーガスの取得の許可が降りたのだとマクゴナガルから知らされた。

 

魔法者から許可を得る為に何枚もの書類を書き、特に違反をしていない──勿論、実はしているのだが──優等生であり、成績優秀。

そしてマクゴナガルとダンブルドアの推薦があり、魔法省は特に問題はなく、今後アニメーガスを悪用する事もないだろうと決断をくだし、習得の許可を出した。

 

アニメーガスを無事会得できたなら、また魔法省にどんな動物になったのかを報告しにいかなければならないため、それはそれで沢山の複雑な書類を書かなければならないのだが──無事にアニメーガスに変身できるようになってから考えればいいだろう。

 

 

 

「ミス・プリンス。今日は満月です──今日から、次の満月までこのマンドレイクの葉をずっと口に含まねばなりません」

「はい……」

 

 

マクゴナガルはソフィアに緑色の葉っぱを差し出す。中々に大きく、固く──存在感のある葉を受け取ったソフィアはまじまじとマンドレイクの葉を見つめた。

 

アニメーガスについて、ソフィアは予めしっかりと予習し、マクゴナガルにアニメーガスになる魔法薬の作り方を聞いていた。アニメーガスの魔法薬をつくるには、正直──特別な頭脳は必要ない。

 

必要なのは根気と、忍耐力、そして運だろう。

 

 

「食事の時、就寝の時にお気をつけなさい」

「はい……口封じ魔法を使っても大丈夫でしょうか?」

「ええ、かまいませんよ。私も就寝の時はその魔法に頼りっぱなしでしたからね」

 

 

マクゴナガルはにっこりと笑った。

日中に、口の中に葉を入れ続けるのは難しいが、気をつけていれば大丈夫だ。問題はやはり意識を失っている寝ている時と、食事中だろう。

吐き出すことはないにしろ、間違って飲み込む事は有り得そうだ。

 

 

 

「ミス・プリンス。一つ忠告です。──一度目でうまくいくとは思わない事です。私も4.5回ほどやり直しましたので」

「…はい…。今年度中にできるように、頑張ります!」

「そうですね。──さて、もし……あなたが四年生でアニメーガスを会得すれば…イギリス魔法界で最年少記録保持者になる事でしょう」

 

 

マクゴナガルは期待を込めた目でソフィアを見る。その目は優しく細められ、口先もいつもより柔らかい。

ソフィアは、シリウス達がいつアニメーガスになったのかが気になった。──いや、そもそも、アニメーガスは忍耐力があればなんとかなる魔法薬だ。材料もそれほど希少ないものではなく、学生でもぎりぎり手が出る値段である。

 

 

──シリウス達だけじゃなくて、未登録のアニメーガスって、意外と多かったりして。

 

 

ソフィアはそう思ったが、世間的にはアニメーガスはキチンと届出をしなければアズカバンに入れられてしまうほど罪が重い。

マクゴナガルは未登録のアニメーガスがいるなんてきっと、想像もしていないだろうし。

 

 

「頑張ります!」

「ええ、ほどほどに、頑張りましょう。マンドレイクを口に含む期間が終了するまでは、個別授業は無しにしましょう。喋るのも、難しいですからね」

「はい、わかりました」

「1ヶ月後の満月の夜、9時にここに来なさい。曇天で無く──月明かりがある事を、祈ります」

「はい……」

 

 

1ヶ月後に曇天であれば、また一からマンドレイクの葉を含む生活をやり直さなければならない。最も難しいのは、間違いなくここだろう。

ソフィアも深く頷き、ついに青々とした艶やかな葉をぱくりと口の中に含んだ。

噛まないように、上顎に舌で葉を押し付けなんとか居場所を固定したが──なんとも言えぬ、えぐみがある味に、ソフィアは口を抑え眉を顰めた。

 

 

「──ふふ、不味いですよね。ええ、わかります……ですが、すぐになれますよ」

「……はぃ…」

 

 

口を抑え、モゴモゴとソフィアは答えた。

 

 

その後寮に戻ったソフィアは、目を輝かせるハーマイオニーに向かって親指を立て「ついに始まったわ」とジェスチャーをする。自分の事のように飛び跳ねて喜ぶハーマイオニーはすぐにソフィアの手を引いて自分の隣に座らせた。

 

 

「ついに、始まるのね!わぁ…!自分のことのようにドキドキするわ!」

「頑張る──わ」

 

 

なるべく口を動かさないように唇を手で押さえてソフィアは話す。

ハーマイオニー達は勿論ソフィアがアニメーガスになるために、1ヶ月は口の中にマンドレイクの葉を含んでいなければならず、まともに会話が出来ないと聞いていた。

ハリーはいつものようにソフィアと話せない事が残念だったが、ソフィアがシリウスのようにアニメーガスになる──それはとても素晴らしい事のような気がしてにっこりと笑った。

 

 

「いいなぁ、僕もアニメーガス…なってみたいな」

「アニメーガスはね、すっごく大変なのよ!それに、ハリー、あなたはアニメーガスの事を考える余裕なんてきっとないわ!」

「ハーマイオニー、最終課題はまだまだ先だぜ?第二の課題が昨日終わったばっかりだ!」

 

 

既にもう最終課題のことを考えているハーマイオニーに、ロンは呆れたような声を上げた。早めに取り掛かるのは間違いではない。だが、どんな課題なのかが発表されるまで後2ヶ月はある。

 

 

「少しは──休んでも、いいかもね」

 

 

ソフィアは口を動かさないよう小声で言い笑った。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

3月に入れば太陽は春の日差しになってきたが、まだ北風は冷たく外に出れば猛風が露出している頬を突き刺した。

突風によりフクロウが進路を逸らされてしまい、フクロウ便は遅れがちになる中、なんとかシリウスからの手紙を配達した茶フクロウはハリーに手紙を渡すともう二度と配達したくないのか、すぐに飛び去ってしまう。

 

 

 

『ホグズミードから出る道に、柵が立っている。土曜日の午後2時に、そこにいること。食べ物を持てるだけ持ってきてくれ」

 

 

シリウスからの手紙は前回と同じくらい短く、要件が簡潔に書かれていた。

ホグズミード行きは明日だ、なんとか間に合った事への安堵半分、まさかシリウスは本当にホグズミードに来るつもりなのかという不安半分の中、ハリーが複雑な表情で書かれていた文字をそっと指で撫でた。

 

 

「まさか、ホグズミードに帰ってきたんじゃないだろうな?」

「帰ってきたんじゃない?」

 

 

ロンの怪訝な声に、ハーマイオニーは声を顰めあっさりと言った。ソフィアも無言でこくこくと頷き、ちらりと不安げな顔をする。

 

 

「そんな馬鹿な!捕まったらどうするつもりなんだろ……」

「まぁ、これまで大丈夫だったし、あそこにはもう吸魂鬼がうじゃうじゃいるわけではないし…」

 

 

不安と緊張から──万が一、捕まったらきっと吸魂鬼のキスを受ける羽目になるだろう──ハリーは硬い声で呟くが、ロンは心配そうなハリーを励ますように明るく言った。

 

 

ソフィアは今回、ホグズミードには行かないつもりだった。口の中にマンドレイクの葉があるままではきっと楽しめないだろうし、魅力的なチョコやヌガーが並ぶハニーデュークスに行けば、きっと食べたくなってしまう。口の中にマンドレイクの葉を入れて食事を摂る事はかなり難しく、時間がかかってしまう。それに、口の中にあるマンドレイクの葉はかなり独特のえぐみがあり、何を食べても全くもって美味しく無いのだ。

 

 

「ソフィアは明日は行かないのよね?お土産を買ってくるわ!」

「あ──りが、とう!」

 

 

ハーマイオニーの言葉に、ソフィアは嬉しそうに笑った。

朝食を終え──ソフィアはスープしか飲まなかった。よく噛む料理よりも、スープの方が食べやすいのだから仕方がない──一限目の授業へ向かう。

 

ハリーは午前の授業の間、ずっとシリウスの事を考えていた。本当に無事なのだろうか?アニメーガスになれるとはいえ、誰かに気付かれる恐れはないのだろうか?──でも、会えるのは嬉しい。長く会ってないし、第二の課題の事も知らせたい。きっと、一位通過だと知ると、シリウスは喜ぶだろう。

 

 

心配事は山ほどあったが、やはりシリウスと会えるのは嬉しく、ハリーの心は弾んでいた。

午後の最後の授業である、二限続きの魔法薬学への地下牢教室へ向かうときも、この4年間の中で最も幸せな気持ちで階段を降りることが出来ていただろう。

 

 

しかし、そんな気持ちも、教室の扉の前にドラコ達スリザリン生が群がっているのを見て萎んでしまう。

スリザリン生が集団で固まり、くすくすと意地悪げに笑っているなんて──前回もそうだったが、大抵碌な事はない。

 

嫌な予感がする、と怪訝な顔で最後の階段を降りたハリーに気づいたパンジーが、興奮したように目を爛々と輝かせ笑う。

 

 

「来た来た!」

 

 

パンジーの言葉に、固まっていたスリザリン生はぱっと割れ、彼女は手に持っていた『週刊魔女』の雑誌をひらひらと振り「あなたの関心のありそうなことが載ってるわよグレンジャー!」と、ハーマイオニーに投げ渡した。

 

咄嗟のことにハーマイオニーは驚いたような顔で受け取ってしまい、手元にある雑誌と、スリザリン生のニヤニヤとした顔を見比べる。

すぐに返そうとしたハーマイオニーだったが、地下牢教室の扉が開き、いつものように機嫌の悪そうな顔をしたセブルスが皆に入るよう顎で示した。

 

 

ソフィア達はいつものように教室の一番後ろに座り、セブルスが今日作る魔法薬の材料を黒板に書いている隙に、ハーマイオニーは机の下で急いで雑誌を捲った。

 

 

中程あたりで捲っていた手を止めたハーマイオニーに、ソフィア達も身を屈ませながらちらちらと覗き見る。

 

開かれたページにはハリーのカラー写真があり、下に短い記事が載せられていた。タイトルは『ハリー・ポッターの複雑な人間関係』

 

 

 

 

──ハリー・ポッターはホグワーツでソフィア・プリンスというガールフレンドを得て、安らぎを見出していた。2人はホグワーツで開催されたダンスパーティで素晴らしく息が合い、愛に満ちたダンスを見せた。

ハリー・ポッターの人生は両親の悲劇的な死により痛みに満ちた人生だった。やがてまた、一つの心の痛手を味わう事になろうとは思っても見なかっただろう。

ハリー・ポッターと、ソフィア・プリンスの仲を裂こうとする女生徒が現れたのだ。その魔女の名はハーマイオニー・グレンジャー。マグル出身の魔女であり、美しいとは言い難いが魔法族お好みの野心家であるその少女は見事ビクトール・クラムの心を射抜いていた。──しかし、それだけでは刺激が物足りないのか、ミス・グレンジャーはミス・プリンスがいないところでハリー・ポッターに熱烈アプローチをかけているところが目撃されている。

ハリー・ポッターは華麗にアプローチをかわしているが、ミス・グレンジャーは諦めない。三年生以上が訪れる事が出来るホグズミード行きに、ミス・グレンジャーはミス・ソフィアが不在のうちに彼を手中に入れるつもりかもしれない──

 

──クラムが、強かなミス・グレンジャーに首ったけなのは公の事実だが、夏休みにブルガリアに来てくれとすでに招待している。クラムは「こんな気持ちを他の女の子に感じたことは無い」とはっきりと言った──

 

 

──さらにこのミス・グレンジャーは、恋敵であるミス・ソフィアをも懐柔すべく、友人という立場を生かしなんとダンスパーティでは互いに女生徒ながら踊っていたという。ミス・プリンスはうっとりとしていたようで、それを見たミス・パンジーは「私こそがソフィアの友人なのに!あの子ったらみさかいなしだわ!きっと、ソフィアに愛の妙薬を使ったのね」と辛そうに痛む胸の内を吐露した。──

 

 

──ハリー・ポッター、ミスター・クラム、ミス・プリンスの3人は、野心家で有り強かな見境のないミス・グレンジャーに翻弄されていると言えるだろう。ハリーの応援団としては、ミス・プリンスとの愛を深めていく事をオススメとする──

 

 

「だから言ったじゃないか!」

 

 

じっと記事を見下ろしているハーマイオニーに、ロンは歯軋りをしながら低く唸った。

 

 

「リータ・スキーターに構うなって、そう言ったろう!あいつ、君のことを何ていうか─ scarlet woman(緋色の女)扱いだ!」

 

 

記事の内容に愕然としていたハーマイオニーの表情はロンの言葉に崩れ、思わずプッと吹き出した。

 

 

「緋色の女?」

「ママがそう呼ぶんだ。その手の女の人を」

 

 

ハーマイオニーは堪えきれずロンを見ながら身体を震わせ、くすくすと笑う。ロンは顔を髪色のように真っ赤にしてボソボソと呟いた。

しかしハーマイオニーは微塵も気にせず余裕の顔で雑誌を空いた席に放り出し小声で吐き捨てる。

 

 

「せいぜいこの程度なら、リータも衰えたものね。馬鹿馬鹿しいの一言だわ」

 

 

ハーマイオニーはスリザリン生の方を見た。スリザリン生は皆──ルイスはまた面倒な事が起きていると呆れた顔をしていたが──記事の嫌がらせ効果はあっただろうかと、教室の向こうからハーマイオニーの様子を伺っていた。

 

ハーマイオニーは彼らに余裕の──皮肉っぽい微笑を浮かべ、手を優雅に振る。

 

 

記事を眉を顰めて読んでいたソフィアは、少しの意趣返しのつもりでハーマイオニーの肩に甘えるように頭を乗せ、ぴたりと身を寄せスリザリン生の方を見て怪しく微笑む。

ハーマイオニーもまた、ソフィアの考えが分かるとソフィアの髪をそっと一房とり口づけを落としそのまま恋人にするようにソフィアの肩を抱いた。

 

どこか男らしい仕草のハーマイオニーと、悩ましげな表情を浮かべハーマイオニーを見るソフィア──少しイケナイ雰囲気漂う2人に、スリザリン生は顔を引き攣らせた。

 

 

「ソフィア、あなたって最高よ!──私の恋人になる?」

「素敵だわ!」

 

 

ハーマイオニーはソフィアの耳元で甘く囁き、ソフィアはくすくすと笑いながら口を押さえて呟いた。

 

 

ハリーは2人が親友であり、ジョークだと知っている。だが、それでも──自分より先に言われた!と少し悔しい気持ちになってしまったのは事実だ。

 

 

ソフィアとハーマイオニーは2人の仲を充分に見せつけてから身体を離し、頭冴え薬に必要な素材を広げ始める。

ロンとハリーはヒソヒソと話すスリザリン生の事が気になったが、机の上に何も用意していないとなるとスネイプに何を言われるか火を見るより明らかで有り──間違いなく減点だ──同じように準備を始めた。

 

 

「だけど、ちょっと変だわね」

 

 

十分後、タマオシコガネの入った乳鉢の上で乳棒を持っていた手を休め、ハーマイオニーは小声で呟く。

 

 

「リータ・スキーターはどうして知ってたのかしら……?」

「何を?──君、まさか愛の妙薬を調合してないだろうな」

 

 

ハーマイオニーの訝しげな呟きに、ロンが怪訝な顔で聞き返した。

 

 

「馬鹿言わないで、違うわよ。ただ……夏休みに来てくれって、ビクトールが私に言ったこと、どうして知っているのかしら?」

「本当、だったの?」

 

 

ハーマイオニーの顔は緋色になり、ロンの目を意識的に避け、驚いた声を上げるソフィアの方を見た。

 

 

「えーっ!」

 

 

ロンは小声で叫び、乳棒を手から滑り落とした。ガチャン、と小さな音が鳴るが、ロンの口はあんぐりと口を開けていて全く気にしていない。

 

 

「湖から引き上げてくれたすぐあとにそう言ったの。サメ頭をとった後に……マダム・ポンフリーが私たちに毛布をくれて、それから、ビクトールが審査員に聞こえないように私をちょっと脇に引っ張っていって……そこで言ったの。夏休みにとくに計画がないなら、よかったら来ないかって」

「それで、なんて答えたんだ?」

 

 

ロンは乳棒を拾い上げ両手でごりごりと擦っていたが、乳棒は乳鉢から15センチも離れた机の上にあり──ロンは全く気がつかない。

 

 

「その時、たしかに──こんな気持ちを他の人に感じた事はないって言ったわ。だけど、スキーターはどうやってあの人の言うことを聞いたのかしら?あそこにはいなかったし……それとも、いたのかしら?本当に透明マントを持っているのかもしれない。第二の課題を見るのに、こっそり校庭に忍び込んだのかもしれない…」

 

 

ハーマイオニーの顔はみるみるうちに赤くなり、その熱が近くにいるソフィア達に届くようだった。ロンは焦ったそうに「それで、なんて答えたんだい?」と答えを催促しながら机を乳棒で強く叩いた。あまりに力が強く、机が凹んだのをソフィアとハリーは見た。

 

 

「それは──私、ソフィアとハリーが無事か見るほうが忙しくて、とても──」

「君の個人の話は、たしかに目眩くものではあるが、ミス・グレンジャー」

 

 

口籠るハーマイオニーの後ろから被せるように冷ややかな低い声が降る。いつの間にかハーマイオニー達の後ろにいたセブルスが、いつものように腕組みをしてハーマイオニーを見下ろした。

 

 

「我輩の授業では、そういう話はご遠慮願いたいですな。グリフィンドール10点減点」

 

 

クラス中が振り返ってハーマイオニー達の方を見ていた。ドラコはすかさず胸につけている『汚いぞポッター』のバッジを点滅させ見せつける。もうそのバッジをつけているのはスリザリンの一部の生徒のみとなっていて、寧ろつけている方が冷ややかな目で見られるのだが──ドラコは全く気にしなかった。

 

 

「ふむ……その上、机の下で雑誌を読んでいたな?」

 

 

セブルスは置いてあったバッジをサッと取り上げペラペラと捲る。中に書かれている内容を、セブルスは知らなかったが──スリザリン生が朝食の時にこそこそと回し見て笑っていたのは知っている。きっとまたポッター関連の記事だろう、と予想していた。

 

 

「グリフィンドール、もう10点減点……ふむ、しかし──なるほど、ポッターの記事を読むことに忙しいようだ…」

 

 

セブルスはスキーターが書いた記事に目を止め、薄く笑う。ハリーとロンは憎々しげにセブルスを睨んだがハーマイオニーはムッとしながら──ソフィアの父(スネイプ先生)が、この記事を読んだらどうなるのか気になり、雑誌を無理に取り返すつもりはなかった。

 

地下牢にスリザリン生の笑い声が響く中、セブルスはハリーの怒りの表情を横目で見ながら声を出して記事を読み始めた。

 

 

「ハリー・ポッターの複雑な人間関係──…ああ、ポッター、今度は誰との関係をかかれているのかね?……。……」

 

 

セブルスは、その先の文を直ぐには読めなかった。

雑誌を掴む手に力がこもり、表紙に深い皺が刻まれる。スリザリン生からのくすくす笑いが止まり、続きは読まないのだろうかと小声で期待を込めて囁かれる声を聞いたセブルスは──苦々しい顔で無理矢理、引き攣った歪んだ笑いを浮かべ、ゆっくりと文を読み進めた。

 

 

「──…ハリー・ポッターは、ホグワーツでソフィア・プリンスという…ガールフレンドを得て、安らぎを見出していた──……」

 

 

ハリーは顔から火が出そうだった、ソフィアをガールフレンドにしたいのは、間違いない。だが、それをセブルスに揶揄われるのだけは、耐えきれなかった。

 

セブルスは一文読むごとに間を取り、スリザリン生が散々笑えるようにした。

スリザリン生はハリーを揶揄い笑っていたが──ルイスは唯一セブルス(父親)の心情を察していて、それ程嫌な顔をするのなら読まなければいいのに、本当にこの人は自分の首を苦しめているなぁ、と内心で苦笑いしていた。

 

 

 

「── ハリーの応援団としては、ミス・プリンスとの愛を深めていく事をオススメとする──……ふん、馬鹿馬鹿しい」

 

 

スリザリン生の大爆笑が響く中、セブルスは雑誌を丸めながら吐き捨て、ハリーを今まで以上に憎しみを込めて睨む。

ハリーは、セブルスの目に憎しみがこもっているのはいつもだが──どこかいつもと違う強い眼差しに、ごくりと固唾を飲んだ。

 

 

「ポッターとミス・プリンスがそのような仲だったとはな。──ふん、減点トップランカー同士、お似合いではないかね?」

 

 

刺々しいセブルスの言葉に、スリザリン生はまたしても笑った。

ルイスは1人、これは間違いなく今日の授業は荒れる、そう思い──せめてこれ以上父親の機嫌を損ねないよう、魔法薬作りに集中した。

 

 

「──さて、4人を別々に座らせた方がよさそうだ。もつれた恋愛関係より、魔法薬の方に集中できるようにな。ウィーズリー、ここに残れ。ミス・グレンジャー、ミス・パーキンソンの横に。ミス・プリンスはミスター・プリンスの隣に。ポッター──我輩の教卓の前の机へ移動だ。──さあ」

 

 

怒りに震えながらハリーは材料と鞄を大鍋に放り込み、空席になっている地下牢教室の一番前の机に大鍋を抱き上げ運んだ。ソフィア達も同じように嫌々ながら移動する。

 

セブルスはハリーの後をゆっくりと歩き、教卓の前に座るとハリーが大鍋の中身を出すのをじっと見ていた。

わざとセブルスと目を合わせないようにしながら、ハリーはタマオシコガネをセブルスの顔だと思い込み、荒々しい手つきで潰す。

 

くすくすと笑っていたスリザリン生も、ようやく落ち着きを取り戻し調合を進める中、セブルスはハリーにだけ聞こえるような低く小さな声で語りかける。

 

 

「マスコミに注目されて、お前のでかい頭がさらに膨れたようだなポッター……魔法界全体がお前に感服してるという妄想に取り憑かれているのだろう…」

 

 

ハリーはセブルスの挑発に乗らず、ただ乳鉢の中をじっと見つめ、口を結び、タマオシコガネをすり潰し続けた。

 

 

「しかし、我輩はお前の写真が何度新聞に載ろうと、何も思わん。我輩にとって、ポッター…お前は単に規則を見下している性悪の小童だ。女生徒と恋愛など……馬鹿な妄想に取り憑かれているのはさぞ、居心地良かろう?」

 

 

ハリーはタマオシコガネの粉末を大鍋に入れ、根生姜を刻み始めた。怒りで手が震えていたが、目を伏せ、セブルスの言葉が聞こえないフリをした。

 

 

「きちんと警告しておくぞ、ポッター。有名人であろうがなんだろうが、今度我輩の研究室に忍び込んだところを捕まえたら──」

「僕、先生の研究室に近づいたことなどありません」

 

 

聞こえないフリも忘れ、ハリーは視線を上げ怒ったように言うとセブルスを睨む。だがセブルスは低く嘲笑うと「嘘は通用しない」と底知れぬ暗い目でハリーを見据える。

氷のように冷たい眼差しの奥に、危険な何かが蠢いているのを、ハリーは見た。

 

 

「毒ツルヘビの皮。鰓昆布。どちらも我輩個人の保管庫のものだ。誰が盗んだかはわかっている」

 

 

ハリーはじっとセブルスを見た。瞬きもせず、後ろめたいことは何もないと表し──視線を逸らしたら負けだ、逸らしてたまるか、と、何故か強く思った。

 

事実、どちらもハリーが盗んだものではない。

鰓昆布はドビーが盗んだのだろう、魔法使いしか研究室には入れないと思っていたが、ハウスエルフは対象外だったんだ。それに、毒ツルヘビの皮は、二年生の時にハーマイオニーがポリジュース薬を煎じるために盗んだものだ。

 

 

ハリーは、セブルスが言う毒ツルヘビの皮が、2年前の事を蒸し返しているのだと思った。──実際は、先日侵入者の騒動があった時に、盗まれていたのだ。

 

 

「何のことか、僕にはわかりません」

「お前は、我輩の研究室に侵入があった夜、ベッドを抜け出していた。わかっているぞポッター。今度はマッド・アイ・ムーディがお前のファンクラブに入ったらしいが、我輩はお前の行動を許さん!もう一度我輩の研究室に夜中に入り込む事があれば──ポッター、相応のツケを払う羽目になるぞ」

「わかりました。どうしてもそこに行きたいという気持ちになることがあれば、覚えておきます」

 

 

ハリーは冷静にそう言うと、根生姜を刻む作業に戻った。これ以上、セブルスとは話したくなったし、顔も見たくなかった。

 

セブルスの黒い目が凶悪に光り、ローブに手を突っ込んだ。ハリーはまさか杖を取り出し呪いをかけるのではないかと一瞬ドキリとしたが、セブルスが取り出したのは透き通った液体が入った小さなクリスタルの瓶だった。

ハリーは目の前に見せつけるように出された瓶を、無言で見つめる。

 

 

「…何だかわかるかね、ポッター」

「いいえ」

真実薬(ベリタセラム)だ。強力で、三滴あれば…お前は心の奥底にある秘密を、このクラス中に聞こえるように喋るようになる。──さて、この薬の使用は、魔法省の方針で厳しく制限されている。しかし、お前が行いに気をつけていなければ──我輩の手が滑ることになるぞ」

 

 

セブルスは口先に不敵な笑みを浮かべ、クリスタルの瓶をゆっくりと振った。

 

 

「──お前の夕食のかぼちゃジュースの真上で。そうすればポッター……そうすれば、お前が我輩の研究室に入ったかどうかわかるだろう……。恋人が居るなどという、哀れな妄想も──虚偽だと露見してしまうかもしれんがな…」

 

 

ハリーは耐えきれなかった。一泡吹かせてやりたい、その気持ちが止まらず、ぐっと強い目でセブルスを見ると、挑発的に笑いセブルスにだけ聞こえるように低く囁く。

 

 

「僕は、研究室に入ってません。それに、ソフィアの事は──真実です。でも、先生は僕が誰と恋人関係だろうが……関係ないですよね。まさか、恋人がいると減点対象なんですか?」

「──貴様、」

 

 

ハリーはさらりと少し嘘をついたが。その嘘は誰よりもハリー自身が事実にしたい事であり──きっと、かなり真実味があった声音で言うことが出来ただろう。

セブルスはぐっと唇を噛み、唸るような低い声で呟く。もはや目は狂気に満ちていて、瓶を持つ手に力がこもっていた。

ハリーは減点されてもいい、どうせ、何らかの理由をつけて減点されるんだ。それなら言い返したという最高な気持ちで、減点されたい。──そう思い、セブルスを睨んだまま次の言葉を待ったが、セブルスが口を開くよりも前に教室の扉をノックする音が響いた。

 

 

「──入れ」

 

 

セブルスはローブに瓶をさっと戻すと、いつも通りの声で言った。──目だけは、怒りに震えながらハリーを見ていたが。

 

ハリーは教師に言い返した自分に対する怒りだと思っていたが──勿論、セブルスの怒りはそんなことではない。

 

 

 

 

扉が開き、現れたのはカルカロフだった。クラス中が振り返り、何の用事だろうかと首を傾げちらちらとカルカロフとセブルスとを盗み見る。

 

 

カルカロフは大股でセブルスに近づくと、会話を生徒に聞かれないように唇を出来る限り動かさず低い声でセブルスに囁いた。

 

 

「話がある」

「……授業が終わってから話そう、カルカロフ」

「今、話したい。セブルス、君が逃げられない時に。君は私を避けている」

「授業の後だ」

 

 

カルカロフは食い下がろうとしたが、セブルスの確かな拒絶を含む言い方にぐっと唇を噛み、不安げに目を揺らせ、心持たないというように髭を撫でていた。

 

 

カルカロフは授業が終わるまで教室から出る事なく、ずっとセブルスの教卓の後ろでうろうろとしていた。授業が終わった時、セブルスが逃げ出すのを何としてでも阻止したいのだろう。

 

 

ハリーは2人が何を話すのかどうしても知りたくて──もし、スネイプの弱味を握れる話ならば、ぜひ知りたい──授業終了2分前にわざとアルマジロの胆汁の瓶をひっくり返し大鍋の陰にかがみ込みながら床を拭いた。

これで、居残っていても口実は出来たし──カルカロフとスネイプから、僕の姿は見えないだろう。

 

 

終業のベルと同時に生徒達がガヤガヤと扉へと向かう。ソフィアとロンとハーマイオニーも、バラバラに座っていた3人はひとまず教室から出て互いを待とうと思ったのか、すぐに扉へ向かった。

ハリーは、布巾を持ち、床をこっそりと拭いていた。

 

 

「何がそんなに緊急なんだ?」

「これだ!」

 

 

ほとんど聞こえないほど、小さな囁き声でセブルスはカルカロフに問いかけ、カルカロフは左腕のローブを捲し上げ、腕の内側の何かを見せながら切羽詰まった声で言う。

 

 

「どうだ?見たか?こんなにはっきりとしたのは初めてだ。あれ以来──」

「しまえ!」

 

 

セブルスは唸り、注意深く教室全体を見渡した。見る限り、人影はないように見える。

苛々とした気持ちを隠さず、セブルスは舌打ちを零しカルカロフを非難めいた目で睨んだが、焦燥感と不安感から、カルカロフは狼狽え動揺し、セブルスの苛立ちには気付けない。

 

 

「君も気付いている筈だ──」

「後で話そう、カルカロフ。──ポッター!何をしているんだ!?」

 

 

ハリーが床に落ちた瓶を拾ったその僅かな物音にセブルスは大鍋の陰に隠れるようにして床を拭いていたハリーにようやく気がつき、大声で叫んだ。

 

 

「アルマジロの胆汁を拭き取ってます、先生」

 

 

ハリーは何事もなかったかのように立ち上がり、汚れた布巾を見せた。カルカロフも初めてハリーがこんなに近くにいたことに気がつき顔を蒼白にし、驚愕した目でハリーを見たがすぐに踵を返し大股で地下牢を出て行った。

ハリーも、セブルスと2人きりになるのは願い下げであり、教科書と材料を鞄の中に詰め込むと猛スピードでその場を離れた。

 

 

 

ソフィア達は地下階段を上がった先の広いスペースでハリーを待っていた。

すぐにハリーは真剣な顔でソフィア達に駆け寄ると、周りに人がいない事を確認し、声を顰めてカルカロフとセブルスの会話を話した。

 

 

「…なんだろう」

「……カルカロフの様子、おかしかったわよね」

「左腕に、何があったのか見えなかったんだ」

「……、…何を──隠して、いるのかしら」

 

 

カルカロフの左腕。

そこに何があるのか、隠された左腕の意味を、ソフィアもロンもハーマイオニーもわからなかった。

 

 

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