飛行訓練があった日の夕食時、ソフィアはハーマイオニーと共に食事を取っていた。ハーマイオニーはハリーの表情が憂鬱なものでは無いと分かると、退学は免れたようだとわかり少しほっと表情をゆるめた。
しかし、あれだけ止めたにも関わらず、教師の忠告を無視し箒を使い空を飛んだ事を、他人にも自分にも厳しいハーマイオニーは許せず、少し不機嫌そうでもあった。
「ハリー、退学では無さそうね」
「ええ…でも、先生の言い付けを守らなかったのは良くないわ!ソフィア、あなたもそう思うでしょう?」
「うーん、それ、私に聞く?」
「……」
ハーマイオニーはソフィアも規則を遵守する性格ではなかったと思い出しむっつりとした表情で閉口した。
ソフィアはどこか夢心地でぼんやりとした表情のハリーを見る。ロンにだけ何かを耳打ちし、ロンは驚興奮しながら何やら囁いていた、きっと悪い事は起こっていないのだろう。
フレッドとジョージもハリーを見つけるとすぐに駆け寄り何か楽しげに話していたようだし、一部にだけ何かが伝えられているのだろうか。
ソフィアはまだハリーと赤毛の双子の共通点──クィディッチに関わっている事──を知らなかった為、後でこっそり2人に聞こうと決めた。
デザートのチョコケーキを食べながらそんな事を考えていると、スリザリンの机からドラコがクラッブとゴイル、そしてルイスを連れてこちらへ向かってやってきているのが見えた。
ドラコと子分の2人はいつもの意地悪そうなニヤニヤとした笑いを浮かべていたが、ルイスは何度言ってもハリーに自分からちょっかいをかけに行くドラコに少し呆れているのか、面倒臭そうな顔をしていた。
ソフィアは何故それ程までドラコがハリーに対し異常なまでに執着するのか分からなかった。お互いに嫌いあっているのなら、関わらなければいいのに。
「ポッター、最後の食事かい?マグルの所に帰る汽車にいつ乗るんだい?」
「地上ではやけに元気だね、小さなお友達もいるしね」
ドラコの揶揄いにハリーは冷ややかな声で返す。クラッブとゴイルはハリーを睨み、威嚇しながら指をごきりと鳴らしたが、上座に先生達が並んでいるこの場でハリーに掴み掛かる度胸はない。
ソフィアはフォークを噛み、机に肘をつきながら彼らの静かなる戦いを詰まらなさそうに見ていた。そんなネチネチとするんじゃなくて拳で語りあえばいいのに、と衝動的にすぐ手が出るソフィアは思ったが、誰も拳を振るうことも杖を出す事もなかった。
「僕1人でいつだって相手になろうじゃないか。ご所望なら今夜だっていい。魔法使いの決闘だ。杖だけだ。──相手には触れない。どうしたんだい?魔法使いの決闘なんて聞いたことも無いんじゃないの?」
「勿論あるさ。僕が介添人をする、お前のは誰だい?」
ロンはすぐさま口を挟みドラコを睨む。
ドラコの言葉にソフィアは口をぽかんと開き、咥えていたフォークは皿の上に音を立てて落ちた。
ドラコが決闘?自分から面と向かって立ち向かう事は決してない、影からちくちく嫌らしい攻撃しかしないドラコが?
少し不思議には思ったが、陰湿な口喧嘩よりはよっぽどソフィアの好みでもあり、楽しそうに立ち上がった。
「なら、私が審判員をするわ!」
「──いいだろう。僕はルイスを介添人にする。真夜中でいいね?トロフィー室にしよう、いつも鍵が開いているんでね」
「…僕を勝手に介添人にしないでよ…まぁソフィアが審判員なら…公平だしいいけどさぁ…」
なんの相談もなく勝手に決闘の介添人となってしまったルイスはため息をつく。だが、ソフィアが審判員なら、まぁ酷い事にはならないだろうと考え拒否する事はなかった。
ドラコはふんと鼻で嘲笑し、ローブをはためかせながら足早に大広間をでて行った。
「魔法使いの決闘ってなんだい?君が僕の介添人で、ソフィアが審判員って…どういう事?」
ハリーはドラコ達がいなくなった後、不安げにロンとソフィアに聞いた。2人は顔を見合わせ、やっぱりマグルの世界で生きていたハリーは魔法使いの決闘を知らなかったかと思った。
「審判員は、そのままね。2人が同時に倒れた時、どちらが勝ったか勝敗を告げるのよ」
「介添人っていうのは、君が死んだら代わりに僕が戦うという意味さ」
死、という物騒な言葉にハリーは言葉を無くして顔色を変えた。それを見て、ロンは慌てて首を振り気軽に告げる。
「死ぬのは、本当の魔法使い同士の本格的な決闘の場合だけだよ。君とマルフォイだったらせいぜい火花をぶつけ合う程度だよ。二人とも、まだ相手に本当のダメージを与えるような魔法なんて使えない、マルフォイは君が断ると思ってたんだよ」
「もし、僕が杖を振っても何も起こらなかったら?」
ハリーは心配そうに眉を下げてソフィアとロンの顔を見る。二人は顔を見合わせにやりと笑った。
「杖なんか捨てちゃえ、鼻にパンチを喰らわせろ!」
「私みたいにね!」
「ああ、ソフィアの右ストレートは強烈だったな」
ハリーは顔を合わせて笑う二人を見て、二人がいつの間にか仲直りをしていた事に気付いた。
「ちょっと、失礼」
「あらハーマイオニー」
「…全く、ここでは落ち着いて食べる事も出来ないんですかね?」
ロンはすっかり冷めた食べかけのパイを口の中に放り込みながら嫌味っぽく呟いたが、ハーマイオニーはちらりと一瞥しただけで無視をした。
その代わりにソフィアとハリーを睨むように見る。
「聞くつもりはなかったんだけど、あなたとマルフォイの話が聞こえちゃったの。…夜、校内をうろうろするのは絶対にダメ。もし捕まったらグリフィンドールが何点減点されるか考えてよ。それに、捕まるに決まってるわ。ソフィアもよ!貴方前に抜け出してスネイプ先生に見つかって罰則を受けた所でしょう?あれから抜け出す事は無くて改心したのだとばかり思っていたわ!」
ハーマイオニーは少し軽蔑が滲む目でソフィアを見下ろす。比較的仲のいいソフィアに対しても、ハーマイオニーは決して甘く見る事はなく、むしろ友人だからこそ厳しくあたった。
「まったく、なんて自分勝手な人たちなの!」
「まったく、大きなお世話だよ」
「バイバイ」
憤慨するハーマイオニーへハリーとロンは冷めた言葉で突き放す。ハーマイオニーは酷く傷ついたような目をしていたが、きっと睨むようにソフィアを見た。
「あなたは、どうなの、ソフィア?」
一言一言区切るように言われたソフィアは黙って肩をすくめた。
「私、審判員なの、ハーマイオニーは魔法使いの決闘知ってる?審判員はどんな事情があっても途中放棄は出来ないのよ」
「──ええ!ああそうですか!ならもういいわ勝手になさい!」
叫ぶようにハーマイオニーは言うと、その背中に強く怒りを表しながら踵を返す。
「ハーマイオニー!待ってよ!…ハリー、ロン、後でね!」
「バイバイ」
「うっかり寝ないようにね」
ソフィアは2人の声を後ろに聞きながら、怒るハーマイオニーの後を慌てて追いかけた。
「ハーマイオニー!待って!」
背の低いソフィアは必死に走って何とか追いつくと、弾む呼吸を抑えながらハーマイオニーの前に回り込むと通せんぼをするように両手を広げた。
しかしハーマイオニーはツンとそっぽを向き何も答えず、その手を退かしながら隣をするりと通り抜ける。
「──ああ、もう!私はあなたと喧嘩したいわけじゃないの!」
「喧嘩?喧嘩ですって?そんなのしてないわ!」
「怒ってるじゃない!」
「あなたが規則を守らないからよ!」
「ハーマイオニー!規則より大切なものだってあるわ!」
ツカツカと足早に歩くハーマイオニーと並行しながらソフィアは必死にハーマイオニーに話しかけたが、ハーマイオニーは一切ソフィアの目を見ようとせずそのまま図書室へ向かった。
「ねえ、ハーマイオニー!ちょっと待ってったら!」
ハーマイオニーは図書室の入り口でくるりと振り返り、ソフィアはその目を見て口に出かけていた言葉を飲み込んだ。
酷く傷ついたその目には、怒りと確かな悲しみが映っていた。
ソフィアが規則を破る事に酷く傷ついたわけではなかった。
ハーマイオニーは自分の考えが正しいのに、誰もわかってくれないことが辛かったのだ。
いつもそうだ、一人として味方をしてくれない、それどころか鬱陶しそうに思われている。なんで、こう、うまくいかないんだろう。私はただみんなの為を、寮の為を思って言っているのに。
「ハーマイオニー…」
「ソフィア、私は間違ってないわ」
ハーマイオニーはそれだけ伝えると、ソフィアが何かを言う前に扉を開き図書室の中へ消えた。
「ハーマイオニー!待ってよ!」
「何事ですか!?この神聖な場所で大声を出すなんて…!ここから出て行きなさい!」
ソフィアは慌ててその後を追ったが、ソフィアの大声にすぐにイルマ司書が気付き飛んでくるとソフィアが弁解する間も与えず背中を強く押して図書室から追い出した。
「…ハーマイオニー…わかってて図書室へ行ったのね…」
ソフィアは小さく呟き、しばらくハーマイオニーが出てこないかと入り口でうろうろしていたが諦めたかのようなため息をつくととぼとぼと自室へ向かった。
「ドラコ、本当に決闘なんてするの?君がするなんて珍しいね」
「するわけないだろう。フィルチに言いつけてやるのさ」
得意げにいうドラコを、ルイスはなんとも言えない目で見つめた。ソフィアはきっとドラコの思惑には気付かないだろう、あの子はあまり人を疑わない。友人のドラコの言葉なら、尚更そうだ。むしろ決闘という選択をしたドラコを見直しているかもしれない。
「あのさ…ソフィアを巻き込んでるの、わかってる?」
「……、…あんな奴らと仲良くするからだ」
「…はぁ…ソフィアに嫌われるよ」
「ふん!ソフィアは僕を嫌いになんてならないさ」
どこからそんな自信が現れるのだろう、ルイスは頭を押さえながらつぶやいた。
「まぁ幻滅はされるだろうね」
「……」
ドラコはそれを否定せず、ルイスの責めるような目から逃れるようにぷいとそっぽを向いた。