【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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221 ウィンキー!

 

 

ハリー達はホグズミードから戻ってすぐにシリウスとの会話をソフィアに伝えた。

クラウチの過去の事を聞いたソフィアは、ハリー達と何故クラウチがこの場に姿を全く見せないのかまた話し合ったが──やはり、これと言った冴えた意見は出てこない。

 

 

「シリウスの言う通り、本当に病気だとしても…隠れて夜中にスネイプ先生の研究室に忍び込むだなんて……何を考えているのかしらね…」

「さぁ…最終課題には、流石に出てくると思うけど」

 

 

ソフィアは大広間で声を顰めながら大きなステーキ肉をぱくりと食べる。数日ぶりにスープ以外の物を食べているソフィアに、ロンとハリーは首を傾げる。ソフィアがマンドレイクの葉を口の中に入れている間はスープくらいしか食べられないと嘆いていたのはついこの間の話だ。

2人の不思議そうな視線に気付いたソフィアは少しバツの悪そうな苦笑いを浮かべた。

 

 

「実は、うっかりマンドレイクの葉を吐き出しちゃって……次の満月からやり直しなの」

「そうなんだ…大変だね」

「めんどくさそうだなぁ」

 

 

ハーマイオニーはホグズミードから帰宅して、一度荷物を置きに自室へと戻った際に何があったのかを聞いていたため、特に驚く事も無くその話題には触れずにマッシュポテトを静かに食べる。

 

 

──スネイプ先生に対するソフィアの言い方だと、…変に誤解してそうね。

 

 

恋人同士では無いのだが、ソフィアがセブルスに言った言葉はまるで恋人との関係を口煩く言う父親に対する苦言であった。

 

 

「マクゴナガル先生は気にするなっておっしゃったけど……1ヶ月無駄にしたわ…」

 

 

ソフィアは大きなため息をつき、ソテーした野菜をもぐもぐと食べる。マンドレイクの葉を口に含む期間は満月から満月までの間と決められている。一度失敗してしまえばそのチャンスが来るまで辛抱強く待つしかないのだ。

 

 

 

次の日の日曜日、ソフィア達はフクロウ小屋に行き、シリウスに言われた通りパーシーへと手紙を送った。仕事には出れなくても、クラウチを敬愛し、右腕としてクラウチの代わりに仕事をしているパーシーならばお見舞いには行っているかも知れない。

 

 

久しぶりに手紙の配達を任され嬉しそうに空へ飛んでいったヘドウィグを見送った後、ソフィア達はドビーに新しい靴下をプレゼントする為に厨房へ向かう。

 

初めてハウスエルフが暮らす厨房へ入ったソフィアは、物珍しそうに辺りを見渡した。

ハウスエルフ達は訪問者を熱烈に歓迎し、お辞儀をしたりすぐにお茶を出そうと目を輝かせて走り回る。

 

ハリーが来たと分かり、すぐにやってきたドビーはプレゼントの靴下を受け取り、喜びで大粒の涙を流した。

 

 

「ハリー・ポッターは、ドビーに優しすぎます!」

「ドビーの鰓昆布のお陰で、僕は助かったんだ。本当にありがとう!」

「はじめましてドビー、私はソフィア・プリンスよ。あなたってすっごく度胸があるのね!スネイプ先生の研究室から盗むなんて!」

「ああ!それは──それは言わないでくださいまし!」

 

 

ドビーは恍惚としていた表情をさっと青く変えるととんでもない事をしてしまった自覚はあるのか、恐怖からぶるぶると大きく震えた。

 

 

「責めてるわけじゃないわ!困ってるハリーを助けるためだったんでしょう?誰にも言わないから、安心してね」

 

 

ドビーは複雑な表情でウロウロと視線を彷徨わせ、首を縦に振ろうか横に振ろうか迷っていた。

盗みはとんでもない事だ、だが、誰より大好きで、自分をマルフォイ家から助けてくれた大恩人であるハリーの窮地を、どうしても救いたかった。

ドビーはハリーに鰓昆布を渡した後何度も壁に頭を打ち付け、火挟で手を挟み、自分に罰を与えたが──盗みをした罪悪感は、まだ残っていた。

 

 

「この前のエクレア、もう無いかなぁ?」

 

 

落ち込むドビーの事など視界に入っていなかったロンは周りにいるハウスエルフを期待のこもる目で見つめる。ハーマイオニーは「さっき朝食を食べたばかりじゃない!」と呆れた顔で言ったが、その頃には既に銀の大皿に沢山のエクレアを積み上げてハウスエルフ達がロンの元に笑顔で運んできていた。

 

 

「スナッフルズに何か送らなきゃ」

 

 

ハリーは思い出したように言った。

前回ホグズミードでシリウスと会った時、彼は自分のことを話す時はスナッフルズと呼べ、とハリー達に伝えていた。逃亡者であり、世間的にはまだ罪が晴れていないシリウスは名前を呼び話し合っている場面を他の誰かに聞かれてしまい、ハリー達が危険な目に遭うことを恐れたのだ。──パッドフッドの名は学生時代に使用していたため、誰かにその意味を知られてしまう恐れがあった。

 

 

「そうだよ。ピッグにも仕事をさせよう。──ねぇ、食べ物を少し分けてくれるかなぁ?」

 

 

ロンはエクレアを食べながら、初めからそのつもりだったというように──ハーマイオニーは訝しげな顔をしたが──言う。

 

 

「カロリーが高くて、お腹に溜まる物が良いわ」

 

 

ハウスエルフはみんな喜んでお辞儀をして急いでまた食事を取りに行った。

人の世話をし、願いを叶え、快適に過ごして貰える事が何よりの喜びであるハウスエルフ達の嬉しそうな後ろ姿に、ソフィアはにこにこと笑う。

 

ハーマイオニーはハウスエルフの中に彼女が気にかけているウィンキーの姿が見えない事に気付くと、きょろきょろと辺りを見ながらドビーに聞いた。

 

 

「ドビー、ウィンキーはどこ?」

「ウィンキーは、暖炉のそばです。お嬢様」

 

 

ドビーは長い耳を下げ、そっと声を顰めて答えながらちらりと近くにある暖炉を手で指し示す。近くにいたにも関わらずウィンキーの存在に気が付かなかったのは、身体や服がかなり汚れていて──ウィンキーの後ろにある黒く煤けた煉瓦と同化し見分けがつかなかったのだ。

 

 

「まぁ…」

「クィディッチ・ワールドカップで見た時よりも……かなり、汚れてるわね」

 

 

ハーマイオニーは心配そうな声を上げウィンキーに駆け寄る。ソフィアはこっそりハリーに耳打ちをし、ハリーは「この前ここで会った時よりも汚れてる」と同じように小声で答えた。

 

ウィンキーはハーマイオニーに声をかけられても、椅子に座り込んだまま虚な目で暖炉の火を見つめ、身体を前後に揺らしている。バタービールの瓶を握り、時折「ヒック」としゃくり上げる様子から──かなり酔っているのだろう。

 

 

「ウィンキーはこの頃1日6本も飲みます」

「でも、あれはそんなに強くないよ」

 

 

ドビーの囁きにハリーは少し眉を顰める。バタービールのアルコールは未成年が飲む事を許される程度であり、風味づけレベルのアルコール分しか入っていない筈だ。しかし、ドビーは悲しそうに首を振った。

 

 

「ハウスエルフには強すぎるのでございます」

 

 

ウィンキーは何度もしゃくり上げ、エクレアを運んできたハウスエルフ達が非難がましい目でウィンキーを睨みながら持ち場に戻った。ハウスエルフとして、前の職場に戻りたい気持ちはわかる。前の主人が好きだという感情は理解できる。だが、だからといって毎日酒に溺れ職務を放棄するのは、同じハウスエルフとして許し難い行為だ。

 

 

「ウィンキーは嘆き暮らしているのでございます。ハリー・ポッター。ウィンキーは家にいる帰りたいのです。ウィンキーは今でもクラウチ様をご主人だと思っているのでございます。ダンブルドア校長が今のご主人様だと…ドビーがどんなに言っても聞かないのでございます」

 

 

──そうか、ウィンキーはクラウチのハウスエルフだった。

 

 

「やぁ、ウィンキー」

 

 

ハリーは突然それを思い出し、ウィンキーの側に寄ると身を屈めて話しかけた。

 

 

「クラウチさんがどうしているか知らないかな?三校対抗試合の審査をしに来なくなっちゃったんだけど」

「ご──ご主人様が──来なくなった?」

 

 

虚だったウィンキーの目に光が戻り、大きな眼がハリーをしっかりと捉えた。

 

 

「ご主人様が──来ない?──来なくなった?」

「うん、第一の課題の時からずっと姿を見てない。日刊預言者新聞には病気だって書いてあったよ」

「ご主人様──ご病気…?」

 

 

ウィンキーは時折しゃっくりを零しながら、信じられないと目を見開き下唇を震わせる。一気に悲しみと動揺漂う目になってしまったウィンキーに、ハーマイオニーが「だけど、本当かどうか私にはわからないのよ」慌てて言った。

 

 

「ご主人様には──必要なのです!この、ウィンキーが!──ご主人様は──1人では、お出来になりません!」

「他の人は、自分の事は自分で出来るのよ、ウィンキー」

 

 

涙声になり悲痛に叫ぶウィンキーに、ハーマイオニーは厳しい声で言った。

 

ウィンキーを含めハウスエルフは盲目なまでに主人に支えてしまう。どれだけ嫌な命令でも、主人の為に奴隷のように従ってしまう。そんなハウスエルフを助けたいと──ハーマイオニーは善意から思っているが、ウィンキーや他のハウスエルフは勿論、それを望んでいない。

 

 

「ウィンキーは──ただ──クラウチ様の家事だけをやっているのではありません!クラウチ様は──ウィンキーを信じて、預けています──一番大事な──1番の秘密を!」

「何を?」

 

 

怒り叫ぶウィンキーに、ハリーが何かの手がかりになるかもしれないと素早く聞いたが、ウィンキーは激しく頭を振り、服にバタービールを沢山零しながら「ウィンキーは守ります!──ご主人様の秘密を!」と反抗的に叫ぶ。

 

 

「あなたは──お節介なのでございます!」

「ウィンキーはハリー・ポッターにそんな口をきいてはいけないのです!ハリー・ポッターは勇敢で気高いのです、お節介では無いのです!」

 

 

ハリーを睨むウィンキーに、ドビーは同じように大きな声で叫び怒る。バチバチと火花を散らすようなドビーとウィンキーに、ソフィアはそっと駆け寄るとウィンキーの丸まった背中を優しく撫でた。

 

 

「ウィンキー、貴方は今でもクラウチさんが大好きなのね?」

「そんな──畏れ多い!ウィンキーは──ウィンキーは──」

 

 

ウィンキーは耳を垂れ下げるとふるふると首を振り、耐えられず涙を流した。

ソフィアはにっこりと笑ったままさりげなくウィンキーが掴むバタービールの瓶を取ると石畳の床に置き、ポロポロと涙を流しているウィンキーの大きな涙を指で掬う。

 

 

「貴方にとっては、クラウチさんは良いご主人様だったのね?」

「も──勿論でございます!ウィンキーは──ウィンキーの母も、その母もずっと、ずっとクラウチ様のハウスエルフでございます!ああ、ウィンキーは──戻りたい──ウィンキーは、クラウチ様が困る事を何も──何も──」

「ええ、そうね。きっと貴方の無実は晴らされるわ。──ウィンキー、あなた、もう休んだ方がいいわ」

 

 

ソフィアがウィンキーの広い額を指で撫でれば、ウィンキーの瞼が下り、そのまま体が斜めに傾く。ソフィアは倒れそうになるウィンキーを支え、辺りを見渡した。

 

 

「お嬢様!それをここに置いてください!」

 

 

6人のハウスエルフが申し訳なさそうにソフィアに駆け寄り、大きなテーブルクロスを石畳の上に広げる。石畳の上よりはまだマシだろうとソフィアはそっとウィンキーをテーブルクロスの上に寝かせた。

 

するとハウスエルフ達はさっとウィンキーをテーブルクロスで覆い隠し、その姿を見えないようにした。

 

 

「お見苦しいところをお見せして、あたくしたちは申し訳なく思っています!」

「お嬢様方、お坊ちゃん方。ウィンキーを見てあたくしたちが皆そうだと思わないようにお願いします!」

 

 

これがハウスエルフの全てだとは思って欲しくない。主人が変わったことを受け入れられないとは言え、泣き暮らすのは許されない、今のご主人様に対する冒涜である──ハウスエルフ達は頭を振り、恥ずかしそうな顔で叫んだ。

 

 

「ウィンキーは不幸なのよ!隠したりせずに、どうして元気づけてあげないの?」

「お言葉を返しますが、お嬢様」

 

 

ハーマイオニーの言葉にハウスエルフは深くお辞儀をしながら言う。

 

 

「ハウスエルフにはやるべき仕事があり、お仕えするご主人がいるときに不幸になる権利がありません」

 

 

仕える事ができる、それはハウスエルフにとって誇りであり、幸福な事だ。不幸であってはならない。

 

 

「なんて馬鹿げているの!みんな、よく聞いて!みんなは魔法使いと全く同じように、不幸になる権利があるの!賃金や休暇、ちゃんとした服をもらう権利があるの。何もかも言われた通りにする必要は無いわ!ドビーをご覧なさい!」

 

 

ハーマイオニーは怒りドビーを前に押しやる。

しかし、ドビーは息を呑み「お嬢様、どうぞドビーの事は別にしてくださいませ」と恐々と呟く。

 

その瞬間、厨房中のハウスエルフから笑顔が消え、ハーマイオニーの事を狂った危険人物を見る目で見据える。

 

 

「食べ物を余分に持ってきました!」

「さようなら!」「さようなら!」

 

 

ハリーに大きなハムや果物を押し付けたハウスエルフはソフィア達に群がりそのまま小さな手で外へと押した。

これ以上、この人たちにここにいて欲しく無い。その現れにハーマイオニーは傷付いたような目をしたが、何も言えずそのまま出口まで進む。

 

 

「靴下を、ありがとうございました、ハリー・ポッター!」

 

 

ドビーが情けない叫びを最後に、ソフィア達の後ろで扉がバタンと閉まった。

 

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