【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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222 心無い手紙!

 

 

ハウスエルフの厨房から追い出された後、ロンとハーマイオニーはいつものように激しく口論していたが、月曜日の朝には険悪なムードも鎮火したようだった。

魔法界で暮らしていたロンは、ハウスエルフに対するハーマイオニーの狂気じみた行動が全く理解できない。

ソフィアもどちらかといえばロンの意見に賛成だったが──ハーマイオニーと険悪になるのは避けたく、この話題に関しては無言を貫いた。

 

厨房でのハーマイオニーの振る舞いがハウスエルフを怒らせグリフィンドールの食事だけ粗末な物になったら──というロンの暗い予想もどうやら外れ、いつもと変わらない美味しい料理の数々が並んでいた。

 

ハーマイオニーは沢山の郵便を配達するフクロウ達が頭上に舞い始めると、料理を食べる手を止め熱心にフクロウ達を見上げる。

 

 

「パーシーの返事はまだだよ。昨日ヘドウィグを送ったばっかりだから」

 

 

ロンが太いソーセージを食べながらハーマイオニーに言ったが、ハーマイオニーは「そうじゃないの」とフクロウ達を見上げたまま答える。

 

 

「日刊預言者新聞を新しく購読予約したの。何もかもスリザリン生から聞かされるのは、もううんざりよ」

「良い考えだ!」

 

 

ハリーは何故今までその考えに至らなかったのかと思いながら空を見上げる。たしかに、初めから何を言われるか知っていればスリザリン生から屈辱的な物言いをされる前に防ぐ事だってできるだろう。

 

 

「あれっ、ハーマイオニー、君ついてるかも!もう来たよ」

「でも、新聞を持ってないわ。でも、誰から──」

 

 

一羽の灰色森フクロウがふわりとハーマイオニーの前に降りた。かなり早い配達にロンは喜んだが、そのフクロウの足にあるのは新聞ではなくただの手紙だ。

 

 

彼女の両親はマグルであり、フクロウを使って何か手紙を届ける事はない。マグル界にフクロウのいる郵便局などあるわけもなく、その方法がわからないからだ。

ハーマイオニーが学校のフクロウを使い、両親に手紙を出し、そのフクロウに返事を託す事はあるが──ハーマイオニーは最近、両親に手紙を出していない。

 

誰からの手紙だろうか。そうハーマイオニーが不思議そうに首を傾げる中、次々とフクロウ達がハーマイオニーの机の前に舞い降り、われ先にと足を突き出す。

 

 

「凄い数ね…」

「何部申し込んだの?」

 

 

ソフィアとハリーがフクロウの群れにコップや皿をひっくり返されないように抑えながら呆然とハーマイオニーを見た。

 

 

「わからないわ…なんで──」

 

 

ハーマイオニーも訳が分からず、困惑したまま目の前にいるフクロウから手紙を外し、開けて読み始めた。

 

 

「──まあ!なんて事を……!」

 

 

ハーマイオニーは顔を赤く染め、小さな叫びを上げ手紙を掴む手を震わせた。

ソフィアとロンとハリーは顔を見合わせ「どうしたの?」と聞いたが、ハーマイオニーは言葉も出ないようで唇を噛むとソフィアに手紙を押し付けた。

 

ソフィアは困惑したまま手紙を受け取り、中を見て──すぐに眉を寄せ嫌そうな顔でハリーとロンに手渡す。

 

 

「──、…ひどいわ」

 

 

手紙は手書きの文ではなく、新聞の文字を切り抜き貼り合わせたものだった。

 

 

 

──おまえは わるい女だ ハリー・ポッターと ソフィア・プリンス の邪魔をするな  マグルよ 戻れ もといた 所へ──

 

 

「みんな同じようなものだわ!」

 

 

次々と手紙を開けながらハーマイオニーがやり切れなさそうに叫ぶ、ソフィアは誰より大切なハーマイオニーを侮辱する心無い言葉の数々に、すぐに杖を取り出し差出人達に呪いの手紙を送ろうとしたが──しかし、それはハーマイオニーがしたと思われるかもしれない。火に油を注ぐだけになる。そう思い直すと珍しく舌打ちを零し、開封された手紙の山に向かって杖を振るった。

 

 

燃えろ!(インセンディオ!)

 

 

いきなり机の上に火柱が上がり、周りの生徒達は驚いて立ち上がり何事かとソフィアを見た。火柱はすぐに鎮火したが、机には燃えた手紙の残骸がぷすぷすと黒煙をあげている。

しかし、ソフィアはそんな事気にする余裕も無く燃える中傷の手紙を睨み、まだ残りを開封しようとするハーマイオニーに向かって叫ぶ。

 

「ハーマイオニー!もう開けないで全部燃やしてしまいましょう!」

「でも──いたっ!」

 

 

でも、何が書かれているのか気になるのが当然だろう。ハーマイオニーは全ての手紙を開封し──最後の封筒の中に隠されていた悪意を、受け取ってしまった。

 

 

「ハーマイオニー!」

 

 

強烈な石油臭がする黄緑色の液体──腫れ草の膿の原液だ──がハーマイオニーの手にかかる、両手に大きな黄色いぶつぶつとした腫物が膨れ上がり、ソフィアはさっと顔色を変えた。

 

 

水よ!(アグアメンティ!)

「ああっ…!」

 

 

ソフィアはすぐにハーマイオニーの手に水を出現させ膿を洗い流す。しかし手の腫れは収まらず、ハーマイオニーは痛みに顔を顰め目に涙を浮かべた。

 

 

「最低!卑怯よ!やるなら正々堂々ホグワーツに来なさいよ!──ハーマイオニー、医務室に行きましょう」

「っ…え、ええ……」

 

 

痛みと悔しさで涙を流すハーマイオニーの肩をソフィアは抱きながら立たせると、そのまま足早に医務室へ向かった。

 

 

「ひどいわ、こんなの……こんなの!」

 

 

ソフィアはまた怒りで肩を震わせる。真っ赤に腫れたハーマイオニーの手は大きな手袋をつけているかのように歪であり、腫物がぷちりと膿を吐き出していた。

 

 

「ソフィア……私──私は間違った事をしてない、わよね…?」

 

 

ハーマイオニーの目は揺れていた。

スキーターの記事は嘘ばかりであり、あの時スキーターに噛み付いたのも間違った事をしたとは思っていない。だが、大衆はその嘘ばかりの記事を信じ──悪意をぶつける。

 

初めて匿名の悪意を受けたハーマイオニーは、心を痛め、かなり──参っていた。

 

 

「勿論よ!ハーマイオニー、こんな卑怯な手紙であなたが傷つくなんて…!送ってきた人、みんな呪いたいわ!ナメクジ吐きの呪いを郵送出来ないかしら!?ずーっと、ナメクジを吐き続ければいいんだわ!卑怯な相手には卑怯で返してやるわ!私の呪いは強いわよ!?なかなか解呪できっこないわ!」

 

 

かなりの怒りを見せるソフィアに、ハーマイオニーは一瞬ぽかんとした後、小さく笑った。

こんな時だが、ソフィアがここまで怒りを見せてくれた事がなんだか嬉しかったのだ。

 

 

「…駄目よ、今度はソフィアが標的になっちゃうもの……」

 

 

ハーマイオニーはもう泣いていなかったが、手が腫れてしまい涙を拭く事も出来ない。ソフィアはすぐにポケットから綺麗なハンカチを出すと、優しくハーマイオニーの目元を拭った。

 

 

「…ありがとう、ソフィア」

「いいのよ。……ハーマイオニー、いつでも呪いたくなったら教えて!私、私──父様に最高の呪いを教えてもらうわ」

 

 

声を顰め真剣な顔をするソフィアに、ハーマイオニーは困ったように笑う。

 

 

「それは、かなりヤバそうね」

 

 

 

 

 

ハーマイオニーを医務室まで送り届けたソフィアは遅れて薬草学の授業に参加した。

ハリーとロンがハーマイオニーを医務室に連れて行くために遅れるとスプラウトに告げていた為、注意を受けることなく踊り草の世話をするハリーとロンのそばに座る。

 

 

「どうだった?」

「マダム・ポンフリーはすぐに薬を塗ってくれたから…きっと良くなるわ」

「スキーターに関わるのはやっぱり駄目だったんだ!」

 

 

ロンの言葉に、ソフィアはムッとしたまま何も答えず、枯れた草を剪定鋏で切り落とした。

 

 

 

薬草学の授業が終わり、ソフィアとハリーとロンは温室を出て次の授業である魔法生物飼育学へ向かう。

きっとハーマイオニーは薬草学を一限受けられなかった事で、かなり落ち込むだろう。そう思うと、あんな酷い手紙を送った名も知らぬ相手に対し、一度収まりかけていた苛立ちと怒りがふつふつと沸き起こった。

 

 

途中でスリザリン生の集団が魔法生物飼育学のために城の階段を降りてくるのが見え、ハリーとロンは嫌そうに顔を顰めた。朝食の時の光景はかなり目立っていただろう。きっと何かいつものように煩く言ってくるに違いない。

 

 

「ポッター、あの女を追い出したの?あの子、朝食の時どうしてあんなに慌てていたの?」

 

 

パンジーの意地悪げな大声が響く。後ろで彼女の友人達がくすくすと笑い「ついに四人組も終わりね」なんて囁いていたが、ハリーは無視をした。

 

 

「行こう」

「ああ」

 

 

ハリーとロンは嫌そうな顔をしたが振り返る事なく大股でハグリッドの小屋へ向かった。しかしソフィアはくるりとスリザリン生の集団の方を振り返る。

パンジーは一瞬虚を疲つかれ、にやにやとした笑顔を止めたがすぐにソフィアが何か教えてくれるのかと笑みを深める。

 

 

「ねえソフィア。あの子に──」

「パンジー。私はハーマイオニーのことが大好きなの、誰よりもね。もしこれ以上ハーマイオニーを侮辱するなら、あなたの服を全て蛇に変えるわよ!ドラコみたいにね!」

 

 

ソフィアは強い目でパンジーを睨み、その後ろにいる他の女子生徒に向かって「あなた達も同じよ!」と叫ぶと杖先を向けた。

 

 

「なっ──」

「私は、本気よパンジー」

 

 

ソフィアはパンジーを見据えたまま静かに言うと、ぐっと口籠もり何も言えない彼女達を残して踵を返し、ハリーとロンの後を追った。

 

 

 

 

魔法生物飼育学ではユニコーンの授業が終わり、新しくニフラーという魔法生物の生態について学んだ。

ハグリッドはユニコーンを教えた時の生徒の反応が彼の想像以上に良く──ようやく、牙や爪が無く、爆発しない魔法生物について教える方がいいのかもしれない、と思ったのだ。

 

鼻が長く黒い体毛に覆われふわふわとしたニフラーはかなり可愛い。木箱の中に入ったニフラーは、黒いつぶらな瞳をきょとん、としながら不思議そうに生徒達を見ていた。

 

ハグリッドはニフラーの生態を説明し──キラキラ光るものを収集する性質を持つ──その生態をよく知るために、生徒一人ひとりにニフラーを選ぶよう告げた。

 

 

ソフィアはふわふわとした1匹のニフラーを木箱の中から抱き上げる。ニフラーは「なに?」というように首を傾げ、目をぱちくりとしせていた。

 

 

「か…可愛い…!」

 

 

思わずニフラーを抱き締めたソフィアだが、そう思ったのはソフィアだけではなかったようで何人かの生徒が嬉しそうに頬を緩めニフラーに頬擦りしていた。

ハーマイオニーの一件でかなり不機嫌だったソフィアは、ようやくいつものように楽しげに笑えるようになった。

 

 

ニフラーを使っての授業は、ほとんどの生徒にとって今までの魔法生物飼育学の中で最も楽しい授業だった。危険な事は何もない、ただ可愛いニフラーが土の中を泳ぐように掘り、土の中から金貨を見つけて戻ってくるのを待つだけだった。

ニフラーによって土の中を潜るスピードが異なり、一番多くの金貨を集めることが出来たのはロンのニフラーだった。沢山金貨を集めたニフラーは嬉しそうに小山になった金貨の周りをぐるぐると周り、ロンの足に身体を擦る。

 

 

「こいつら、ペットとして飼えるのかな、ハグリッド?」

「おふくろさんは喜ばねぇぞ、ロン」

 

 

みるみるうちに集まった金貨に、ロンが興奮しながら言えばハグリッドはニヤリと笑った。

 

 

「ニフラーは家の中を掘り返すからな。──さて、そろそろ全部掘り出したな」

 

 

ハグリッドはあたりを歩き回り、生徒達の前に集まった金貨をざっと確認し、ニフラー達が土の中を潜るだけで一向に戻ってこないのを見て、もう目当ての金貨が無くなったのだろう、と判断した。

 

 

「金貨は100枚しか埋めとらん。──おう、来たかハーマイオニー!」

 

 

その時、ハーマイオニーが両手に包帯を巻き、芝生を横切ってソフィア達の方に向かってきた。

肩を落とし沈んだ顔をするハーマイオニーに、ソフィアは「ハーマイオニー!」と心配そうにその名を呼び、腕の中にニフラーを抱いたまま駆け寄った。

 

 

「大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。──その子は?」

「ニフラーよ!可愛いわよね!」

「確かに、可愛いわ…ああ、授業出たかった…」

 

 

ハーマイオニーはふわふんとしたニフラーに触れたくてたまらなかったが、両手には包帯が巻かれている。それに、まだ何かを掴めば痛んでしまうだろう。

残念そうなハーマイオニーに、ソフィアは悪戯っぽく笑い、ニフラーをハーマイオニーの肩に乗せた。

 

 

「きゅ?」

「わっ!──ふふっ!く、くすぐったいわ!」

 

 

ニフラーはきょとん、としながらハーマイオニーの耳あたりに顔を近づけふんふんとにおいを嗅いだ。ふわふわの毛がハーマイオニーの頬や耳に触れ、ハーマイオニーはくすぐったそうに身を捩り、くすくすと笑う。

 

 

 

「さーて!どれだけ取れたか調べるか!さあ金貨を数えろや──盗んでも無駄だぞゴイル。レプラコーンの金貨だ、数時間で消えるわ」

 

 

ハグリッドに言われたゴイルは、盗んだ事を恥じる様子もなくぶすっとしながらポケットの中をひっくり返し、数枚の金貨を地面に散らばらせた。

 

一番多くの金貨を集めたのは、やはりロンのニフラーだった。ハグリッドは賞品としてロンにハニーデュークスの大きな板チョコを与えたが、ロンはどこか複雑な表情でそのチョコを見つめた。

 

 

授業終了のベルが鳴り、他の生徒たちは昼食を取るために城に向かったが、ソフィア達はその場に残り、地面のにおいをふんふんと嗅いで金貨が埋まっていないかとまだ探し続けているニフラー達を木箱に入れるのを手伝った。

 

 

「手をどうした?ハーマイオニー?」

「それが…」

 

 

心配そうに包帯で巻かれたハーマイオニーの手を見下ろすハグリッドに、ハーマイオニーは今朝何があったかを話した。

 

 

「ああー…気にするな。俺も、スキーターが俺のおふくろの事を書いた後にな、そんな手紙だのなんだの、来たもんだ。──お前は怪物だ、やめてしまえ──とか──お前の母親は罪もない人たちを殺した。恥を知って湖に飛び込め──とかな」

「そんな!」

 

 

ハグリッドは軽く言ったが、かなり酷い内容にハーマイオニーは衝撃を受けて叫ぶ。

ソフィアも辛く、心配そうな顔でハグリッドを見たが、ハグリッドは優しい目でソフィア達を見下ろした。

 

ソフィアはきっと──中傷の手紙を受け取っているだろうとは、思っていた。半巨人である事は、魔法族にとって中傷の的になってしまう。

だが、やはり本人からそれを聞くと、どうしようもなく辛く、自分の事ではないのに悲しかった。

 

 

「送ってくる奴らは頭がおかしいんだ。…ハーマイオニー、また来るようならもう開けるな。すぐ暖炉に放り込め。──ああ、ソフィアに燃やしてもらうのも良いかもしれんな」

 

 

ハグリッドはニフラーが入った木箱を小屋の側に運びながら、悪戯っぽく笑った。

 

 

 

 

 

 

「せっかく良い授業だったのに、残念だったねハーマイオニー」

「ええ…後で薬草学もどんな授業だったのか…スプラウト先生に聞きに行かなきゃ…」

 

 

城に戻る道々、ハリーがハーマイオニーに言い、ハーマイオニーはとても残念そうにため息をつく。

 

 

「ニフラーっていいよね、ロン?──どうしたんだい?」

 

 

ハリーはロンがニフラーに対しかなり好意的だった事を思い出し、ロンに話しかけた。だが、ロンは不機嫌そうに顔を顰めてハグリッドが渡した景品のチョコレートを見つめている。

 

 

「嫌いな味だったの?」

「ううん──金貨の事、どうして話してくれなかったんだい?」

 

 

ぶっきらぼうにロンは答え、ハリーをチラリと横目で見る。

ニフラーの事ではなく、急に金貨の事を言われたハリーはその意図が分からず首を傾げた。

 

 

「何の金貨?」

「クィディッチ・ワールドカップで僕が君にやった金貨さ、万眼鏡の代わりに君にやった、レプラコーンの金貨。貴賓席で──あれが消えちゃったって、どうして言ってくれなかったんだ?」

 

 

ロンは、ハリーが自分が貧乏だから内緒にしてくれていたのかと思い、かなり自尊心が傷付けられていたのだ。

傷ついた目を見せるロンに、ハリーはそれを聞いても暫く何のことかわからなかったが、漸く「ああ…」と納得すると当時のことを思い出すように考えながら口にした。

 

 

「さあ、どうしてだか……無くなったことに気が付かなかった。杖の事ばかり心配してたから……そうだろ?」

 

 

ロンはハリーの答えに、本当に気が付かなかっただけで、自分の家の懐状況を考え残酷な気遣いを見せたわけではないと分かると、とりあえず納得はした。

 

 

4人は玄関ホールへの階段を上がり、昼食をとりに大広間に入る。ハリーはロンが何も言わなくなったのを見てこれで話は終わりだと思っていたが──ロンは料理を自分の皿に取り分けながら「いいなあ」と少し、嫌味っぽく呟く。

 

 

「ポケット一杯のガリオン金貨が無くなったことに気付かないくらい、お金をたくさん持ってるなんて」

「あの晩は他の事で頭がいっぱいだったんだって!そう言っただろ?僕たち全員そうだった、そうだろう?」

 

 

ハリーはローストビーフを食べながらロンの言葉に気分を害しながら言う。

確かにハリーはかなりの資産家である。だが、それはそれを受け取るのが自分しか居ないからだ。両親も、他の親族もみんな死んでしまった。沢山の金は、親が残した遺産で有り、確かに何も無いよりはあったほうがいいだろうが──本音を言えば莫大な遺産よりも、家族に生きていて欲しかった。

 

 

「レプラコーンの金貨が消えちゃうなんて、知らなかった。君に支払い済みだと思ってた……ハリーはクリスマスにチャドリー・キャノンズの帽子を僕にくれちゃ駄目だったんだ」

「そんなこと、もういいじゃないか」

「……貧乏って、嫌だな。──惨めだよ」

 

 

ロンはフォークの先で突き刺したローストポテトを睨みつけながら呟く。

単価の安いこのローストポテトは、ホグワーツに来るまではよく食べていた料理だ。

ソフィアとハリーとハーマイオニーは顔を見合わせたが、なんと声をかけていいのか分からなかった。まだ働く事が出来ないロンに、何を言っても慰めにもならないだろう。

 

 

「フレッドやジョージが少しでもお金を稼ごうとしている気持ち、わかるよ。僕も稼げたらいいのに。僕、ニフラーが欲しい」

「じゃあ次のクリスマスにプレゼントするものは決まったわね!可愛いニフラーを探さないと!」

 

 

ソフィアが明るく言うが、ロンはまだ暗い顔でローストポテトを睨みつけ、口をへの字にしたままだった。

 

 

「ロン。いいじゃない。大体指が膿だらけじゃないだけ、マシだわ!あの女、憎ったらしい!何がなんでもこの仕返しはさせてもらうわ!」

 

 

ハーマイオニーは慰め半分、スキーターへの怒り半分に言いながら強張って腫れ上がった手をロンの目前に突き出した。

ロンは驚いて身を引き──少し笑うと睨みつけていたローストポテトをようやく食べた。

 

 

「ハリー、来年の僕へのクリスマスプレゼントはいらないからな。じゃないと、僕は自分を許せないんだ」

「……オーケー、わかったよ」

 

 

それでロンの機嫌が戻り、気が済むのならとハリーは頷く。

ソフィアとハーマイオニーはロンの機嫌が戻ったことにホッと安堵の笑みを浮かべる。

ハーマイオニーはようやくフォークとナイフを持ったが、手が腫れあがっていてなかなか上手く使う事が出来ない。

 

ハリーの隣に座っていたソフィアはハッとして食べる手伝いをしようと思ったが──自分よりもハーマイオニーの隣に座るロンが手伝った方が食べさせやすいかしら、と浮かしかけた腰を戻した。

 

 

「ロン、ハーマイオニーに食べさせてあげたら?ハーマイオニーかなり手が使い難いみたいだし……」

「「えっ?」」

「……?」

 

 

声を揃え驚愕し、頬を染めるハーマイオニーとロンに、ソフィアはそれ程おかしな事を言っただろうかと首を傾げた。

 

食べさせる。つまり、それは「あーん」をする事ではないのか、とロンは思い何故か無性に気恥ずかしくそんな事は出来ないと首を振る。ハーマイオニーも同じように顔を赤く染めて勢いよく首を振った。

 

 

「大丈夫よ!私、1人で食べられるわ!」

「そう…?」

「ええ、ロン、大丈夫だからね」

「あーうん」

 

 

ハーマイオニーは必死にフォークとナイフを使い肉を切ると口一杯に頬張り、ロンにぎこちなく笑いかけた。

 

 

 

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