【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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229 死喰い人の過去

 

 

ハリーは占い学の授業中、うっかりと寝てしまい──その時にまた、ヴォルデモートの夢を見た。傷が激しく痛み、絶叫と共に目を覚ましたハリーは、どんな不吉な夢を見たのかと興味津々のトレローニーを無視し、教室から飛び出すと一直線に校長室へと向かった。

 

傷がまた痛む事があれば、ダンブルドアに報告に行かねばならない。シリウスから言われていた約束を守り、なんとか校長室にたどり着いたが──その先にはダンブルドアだけではなく、コーネリウス・ファッジとムーディが居た。

 

マクシームについて疑いを持っているファッジと、全く疑っていないダンブルドアとの会話を意図せず盗み聞きしてしまい、校長室の前にいる事がムーディによってバラされ──居心地の悪さを感じながらそろそろと校長室に入った。

 

 

ダンブルドアとファッジとムーディの3人はクラウチが最後に居た校庭へ現場調査に向かい、1人残されたハリーは久しぶりに訪れた校長室を見回し──僅かに開いた戸棚のなかに、憂いの篩がある事に気付いた。

ハリーは浅い石造の水盆が何なのかわからなかったが、魅惑的な銀色の光を輝かせ液体とも気体とも取れぬ不思議なものが満たされていて──好奇心に勝てなかった。

 

しかし、ハリーももう四年生だ。魔法道具に警戒心なく触れる事は愚かだと理解している。手で触れてみたかったがなんとか我慢し、ローブから杖を出すと、その銀色に揺蕩うものをつんつんと突いてみた。

すると水面が急激に渦巻き始め、そこに不可思議な景色を映し出した。

戸棚の中でも、ハリー自身の顔でも無い。どこか暗く窓のない地下牢のような景色を映し出し、大勢の魔法使いや魔女が階段状のベンチのような場所に座っている。

どこの景色だろうか、これは一体何なのか──ハリーはもっとよく見ようと身を乗り出し、顔を近づけた。あまりに近付きすぎたハリーの鼻先が水面に僅かに触れた途端、ハリーの体は勢いよくその中に引き込まれてしまった。

 

 

──落ちる!

 

 

ハリーは目を強く閉じ、次に来るだろう衝撃に耐えたが、気がつくと何の衝撃も無くベンチに座っていた。

 

狼狽しながら辺りを見回すが、ハリーが天井から──おそらく、だが──落ちてきたというのに誰も気にする事はない。誰も、ハリーの存在に気がついていないようだった。

 

不安げに周りを見ていたハリーは、自身の隣に座る魔法使いがダンブルドアだという事に気が付き思わず大声を上げ「校長先生!」と叫んだが、ダンブルドアもまた、ハリーの言葉には反応せず前を見たままだった。

 

ダンブルドアが自分を無視するわけがない。ハリーはようやく、はっと気付いた。過去、同じ様な事をトム・リドルの記憶を見た時に経験した。自分の予想が正しいのならば、ここは現在では無く過去なのだ──。

 

ハリーはどうやってここから元の校長室に帰ればいいのかわからず、それにこの先何があるのかも気になり、ダンブルドアの隣で何かが起こるのを待っていた。

 

 

突然扉が開き、吸魂鬼2体に引き連れられ、衰弱したカルカロフが部屋に入って来た。ハリーの驚愕をよそに、カルカロフは中央にある金の鎖のついた椅子に座らされ──鎖がカルカロフを逃すまいと巻きついた──淡々と場が進む。

 

カルカロフは同じ死喰い人だった者の名を魔法省に売り、その名が魔法省にとって有効な情報であるなら釈放の余地があるらしい。

ハリーはこの場に最後見た時よりも健康そうで溌剌としたクラウチと、そして両眼とも普通の目であるムーディがいる事にも気付く。

成程──だから、ムーディはカルカロフの事をあれ程警戒していたのか。

 

 

カルカロフはクラウチに息も絶え絶えにアントニン・ドロホフ、エバン・ロジエールの名を告げたが──両者とも魔法省の把握している魔法使いであり、既に片方は死亡し片方は捕らえられている。魔法省にとって有効な情報を出さなければまたアズカバンに入れられてしまう、カルカロフは身を乗り出し、必死に自身が知る死喰い人の名を次々と吐いた。

 

 

「トラバース──マッキノン一家の殺害に手を貸しました。マルシベール──服従の呪文を得意とし、数えきれないほどの者に恐ろしい事をさせました!ルックウッドはスパイです。魔法省の内部から、名前を言ってはいけないあの人に有効な情報を流しました!」

 

 

カルカロフは今度こそ、魔法省にとって有効な情報を渡す事ができたに違いないと自分でも思ったのだろう。群衆の騒めきを聞き、ようやく少し安堵するかのように表情を緩めた。

 

 

「ルックウッド?神秘部のオーガスタス・ルックウッドか?」

「その者です。ルックウッドは魔法省の内にも外にもうまい場所に魔法使いを配し、そのネットワークを使って情報を集めたものと思います──」

「しかし、トラバースやマルシベールはもう我々が握っている。よかろう、カルカロフ、これで全部ならお前はアズカバンに逆戻りしてもらう。我々が決定を──」

「まだ終わってない!待ってください!まだあります!」

 

 

カルカロフは必死の形相で叫ぶ。目をぎょろぎょろと動かし、額に脂汗を滲ませた蒼白な顔で何度か口を開き、閉じ──そして叫んだ。

 

 

「セブルス・スネイプ!」

「この評議会はスネイプを無罪とした。アルバス・ダンブルドアが保証人になっている」

「違う!誓ってもいい、セブルス・スネイプは死喰い人だ!」

 

 

椅子に縛り付けられている鎖を引っ張るようもがきながらカルカロフは叫ぶが、クラウチは冷ややかな目で見下ろすだけだ。

 

 

「この件に関しては、わしがすでに証明しておる。セブルス・スネイプはたしかに死喰い人ではあったが、ヴォルデモートの失脚より前にわれらの側に戻り、自ら大きな危険を冒して我々の密偵になってくれたのじゃ。わしが死喰い人ではないと同じように、いまやスネイプも死喰い人ではないぞ」

 

 

ダンブルドアが立ち上がり、カルカロフに──いや、沢山の魔法使いと魔女達に静かに告げる。ムーディは異論を唱える事なく黙っていたが。甚だ疑わしいという顔をしていた。

 

カルカロフは今自分が吐き出した情報すらも、自分と魔法省にとって有益なものではなかったと分かると、顔を蒼白にし「まだ──まだいます!」と悲痛な声で絞り出すように叫んだ。

 

 

「ほう、誰だ?」

「ジャック…ジャック・エドワーズ!何人もの死喰い人を、あの人に反する者の元へ送った!」

 

 

その名を聞いてハリーは信じられず狼狽したが──クラウチは微塵も動揺する事なく静かにカルカロフを見下ろした。

 

 

「ジャック・エドワーズは当初からダンブルドアの密偵であり、極秘任務として死喰い人の内に潜り込んでいた。この評議会はエドワーズが死喰い人に扮していた時期に行った全てを無罪としている」

「──そんな!嘘だ!」

 

 

カルカロフの絶望に満ちた叫びを最後に、部屋中の音が遠ざかっていく。

ハリーの周りがぼんやりとしていき、景色が変わる──。

 

 

その後ハリーはルード・バグマンの和やかな裁判と、クラウチの息子の悲痛極まりない裁判を見た。

 

ハリーの耳にクラウチの息子の魂を引き裂くような慟哭が残る中、ハリーはダンブルドアに声をかけられ、長い過去の旅から戻った。

 

 

 

 

ハリーは校長室から出てすぐにシリウスに憂いの篩で見たこと、ダンブルドアから聞いた事を全て手紙に書いて送った。

その後、談話室の隅──誰にも会話を聞かれないように注意しながら、ハリーはロンとソフィアとハーマイオニーに見聞きした全てを話した。

 

 

ロンとソフィアとハーマイオニーは、3人とも呆然と口を開き、ハリーの話を聞いていたが、みるみる内にソフィアの顔から色が無くなり、ついにわなわなと唇が震え出した。

 

 

「嘘──嘘よ。そんなの、あり得ないわ…」

 

 

ハリーは驚愕し震えるソフィアを見て、ジャックが死喰い人だったという事が信じられないのだろうと思い、励ますようにそっと震える手を握った。

 

 

「でも、ジャックは初めから密偵だったって言ってたよ。確かに悪い事はしたみたいだけど──」

「ソフィアは…何も、知らなかったの?」

 

 

ハーマイオニーは硬い声でソフィアに聞いた。ソフィアは呆然としたままハーマイオニーを見て、蒼白な顔でゆっくりと頷く。

 

 

「何も、何も…知らないわ…そ、そんな…」

 

 

ソフィアとハーマイオニーが思っているのはジャックの事ではない。

死喰い人であったという、父親(セブルス)の事だ。ハリーの話が真実ならば、セブルスとジャックの立場はかなり異なる。初めから密偵だった者と、途中から密偵だった者──つまり、セブルスは自らの意思で死喰い人になったのだ。任務を遂行するため致し方なく犯罪行為に手を染めたのではない、自らの意思で──沢山の不幸を招く一因になっていた。

 

言葉が出ないソフィアを見て、ハリーはやはりソフィアには言うべきではなかったのかもしれないと少し、後悔した。

誰だって育て親の罪を──無罪になったとはいえ──知りたくないだろう。

 

 

「ダンブルドアは、スネイプを死喰い人だったって知って信用しているのか?本当に?」

「うん、そうだって。何か二人の間にあったんだと思う──ジャックが取り持ったのかな?友達、らしいし」

「わ──私…」

 

 

ソフィアはよろめきながら立ち上がった。机の角に脚をぶつけたが、ソフィアは脳の奥がチリチリと痺れるような感覚だけを感じていて、何も痛みはなかった。

 

 

「私、聞いて──聞いてくるわ」

「ソフィア!あなた、顔色がすごく悪いわ!」

 

 

ふらつきながら談話室を出ようとするソフィアを見て、ハーマイオニーは慌てて追いかけて、その腕を取って引き留めた。

 

 

「は、離して…私──私、聞きに行かないと…」

 

 

ソフィアはぐっと腕を引くが、あまりに弱々しい動きであり、ハーマイオニーの腕を振り払う事は出来ず、その声は感情を失ったかのように平坦であり、目は見開き談話室ので口を見たまま動かない。

酷く混乱し、狼狽しているソフィアを見てハーマイオニーはぐっと唇を噛み、ソフィアと目を合わせるためにさっと目の前に立ちはだかると、ソフィアの白くなった頬を両手で包み込んだ。

 

 

「わかったわ、なら──ルイスと一緒に聞きに行かなきゃ駄目よ。…スリザリン寮まで…ついて行くから…」

 

 

ハーマイオニーは優しくゆっくりと語りかける。揺れるソフィアの瞳がハーマイオニーの目を見て──強張っていたソフィアの表情はぐにゃりと歪み、一気に泣き出しそうな顔に変わった。

 

 

「ハーマイオニー…!わ、私…!」

「大丈夫よソフィア。──私がついてるわ」

 

 

ソフィアは優しいハーマイオニーの言葉に、胸を詰まらせながらこくこくと頷き、ハーマイオニーに支えられるようにして談話室を出た。

 

 

スリザリン寮に向かう廊下を歩いていると、ちょうど大広間へ夕食を取りに行こうとしていたルイスとドラコと会った。

 

 

ハーマイオニーに支えられていたソフィアはルイスを見ると、パッと駆け出し「ルイス…」と震える声で名を呼んだ。

いつもの様子とかけ離れているソフィアに、ルイスは驚愕しながら今にも倒れそうなソフィアを抱きとめた。

 

 

「どうしたの?何かあったの?」

「──っ…父様…が…」

 

 

ソフィアは掠れた声で囁く。

セブルス(父様)に何かあったのかとルイスは顔色を変えたが、数時間前廊下ですれ違った時にはいつも通りだった筈だ。

ドラコもソフィアのこんな様子を見るのは初めてであり、心配していたが──何と声をかけて良いのかわからなかった。

 

 

「ルイス、ソフィアと二人で──あの人のところに行くの。わかった?」

「え?…あ──うん」

 

 

ハーマイオニーの真剣な眼差し、真っ青な顔で狼狽し今にも泣き出しそうなソフィア。ルイスはどこに行くべきなのかすぐにわかり、ドラコに「ごめん、あとで」とつげて地下牢教室の方向へ足をすすめた。

 

ハーマイオニーとドラコは夕食を心待ちにして楽しげな生徒達に紛れ、見えなくなったソフィアとルイスを暫く見つめていた。

 

 

 

 

小さく震えるソフィアを支え、ルイスはセブルスの研究室の扉の前に来た。研究室に向かう廊下を歩きながらルイスは何度か小声で「どうしたの?」と聞いたが、ソフィアは硬く口を噤んだまま何も言わなかった。今、口を開けば、感情が決壊し、おそらく全てを吐き出してしまう。──周りに人が居ても関係なく。

ソフィアは最後の理性を振り絞り、なんとか家族が揃い、誰も聞かれない所に行くまでは話してはならない、と唇を強く噛み締め耐えていた。

 

 

「スネイプ先生。ルイス・プリンスとソフィア・プリンスです」

 

 

時間的に研究室に居るかどうかは微妙だったが、すぐに「…入りたまえ」といつもの声が聞こえた。

 

 

──父様は何も変わりなさそうだ。…ソフィア…どうしたんだろう。

 

 

ルイスは「失礼します」とセブルスに向けて告げ、ソフィアを支えながら扉を開ける。ソフィアはルイスの胸元の服をぎゅっと手で握りしめ、縋るようにしてなんとか倒れずにすんでいた。足に上手く力が入らず──今、手を離してしまえば、もう立ち上がる事は出来ないかもしれない。

 

 

「…何か──どうした?」

 

 

セブルスは何か用事でもあるのか、と怪訝な顔で始めに入ってきたルイスを見た。その時はまだ教師と生徒として接するつもりだったが──ルイスに抱きかかえられるようにして研究室に入っていたソフィアの顔色を青く、その肩は小さく震え、目から今にも涙が溢れそうなほど潤んでいる。

ソフィアに何かあったのか。セブルスはすぐ扉を魔法で閉め、防音魔法をかけた後でさっと二人の元に駆け寄った。

 

ルイスは困惑したままセブルスとソフィアを何度も見て「わからないんだ、ここにソフィアと行ってって…ハーマイオニーに言われて…」困ったように呟いた。

 

思いもよらぬ名前に、セブルスは眉を顰め、ルイスの胸元に顔を押し付け震えるソフィアと視線を合わせるために少しかがみ込んだ。

 

 

「…どうした?何か、あったのか?」

 

 

セブルスは優しくソフィアの頭を撫でる。

親子で接する時のみ聞くことができる、いつもと変わらず優しさと愛に満ちた低く甘い声。

暫く目を伏せていたソフィアは、キラキラと輝く涙をぽろりと一粒流しながらセブルスを見上げた。

 

 

「父様は──死喰い人だったの?」

 

 

静かな研究室に、ソフィアの震えた声はよく響いた。それは小さな囁き声だったが側に居るルイスにも、セブルスにもしっかりと届いた。

 

 

「…何言ってるの?そんなわけないよ!どこでそんな話を聞いたの?」

 

 

ルイスは苦笑し、そんな馬鹿らしい噂を聞き、ソフィアは心をここまで乱してしまったのか。そんなの少し考えれば嘘だってわかるのに。もし死喰い人だったならこんなところで教師なんて出来ずアズカバンにいれられているはず。それに──それに、母様は、例のあの人に殺されている。

そんな事あるわけがない、そう思いながらルイスはセブルスを見た。

 

 

「──え?……父様?」

 

 

セブルスの表情は狼狽し、怒りや悲しみ、沢山の感情が混ぜられ複雑な表情をしていたが──どう見てもその表情は、セブルスが死喰い人であった事を肯定するようなものだった。

ソフィアとセブルスは見つめあったまま、何も話さない。

ルイスは嫌な予感に、首の後ろが焦燥感でチリチリと焼けるような気がした。──なんで、父様は早く否定しないんだろう。それじゃあ…まるで……。

 

 

「……父様…私、全てが知りたいの…」

 

 

ソフィアの言葉に、セブルスはぐっと眉間の皺を深くする。脳内ではどうにかして違うと──死喰い人ではないと告げるための嘘を組み立ていたが、ソフィアの確信が宿る瞳と、なによりその涙を見て──偽るのは無駄だと判断し、体を起こし杖を振り部屋の中央に向かい合うようにソファを2台出した。

 

 

「…座りなさい。──全て、話そう」

「…え?…えっ、ちょっと待って…父様…ほ、本当に?」

 

 

この場面でソファに座るように促し、全てを話す──という事は、一つしかない。

狼狽し上擦った声でセブルスに聞くルイスに、セブルスは苦い表情のまま頷いた。

 

 

「──過去、私が死喰い人だった事は…事実だ」

 

 

ソフィアはそれを聞いてぐっと表情を険しくしたが覚悟が決まったかのように、決意のこもった目をセブルスに向けてソファに座った。

しかし、ルイスは──衝撃が強すぎて呆然としたまま、「嘘だ…」と呟き、力なくソフィアの隣に座りこむと俯き、顔を手で覆った。

セブルスは2人に向かい合うように座り、静かに問う。

 

 

「何故──どこで、それを知った」

「…ハリーが、校長室で…たまたま、過去のダンブルドア先生の記憶を見て…それが、カルカロフの裁判の時の記憶だったの。減刑を願うカルカロフに、クラウチさんは仲間だった死喰い人の名前を吐き、魔法省にとって有益ならば…釈放するって……そこで、父様と…ジャックの名前を聞いたの。ダンブルドア先生は、父様は確かに死喰い人だったけれど、例のあの人が失脚する前にダンブルドア先生の方へ戻って、密偵として働いていたって…。ジャックは…初めから密偵だったようだけど…」

「……、…そうか。…それに、嘘はない。私は──当初、死喰い人だった」

「なぜ──何で!?何で死喰い人になったの!?」

 

 

静かなセブルスの声に、ソフィアは悲しみに染まった悲痛な声で叫び勢いよく立ち上がりセブルスを見下ろした。

ルイスは顔を上げぬまま「嘘だって、言ってよ父様…」と苦しげに呻き顔を覆う。

 

 

「…当時、闇の帝王の勢いは収まる事なく、世を闇で覆っていた。…帝王が世を統治すればマグル生まれを徹底的に排除し、殺害していくようになる──そうなるのも時間の問題だった…だから、私は……」

 

 

セブルスはソフィアの緑色の目を見つめる。

ソフィアは受けた視線の中に、後悔と苦しみが込められていることに気付き、思わず目を逸らした。

 

 

「──私は、死喰い人になり、確固たる地位を確立するしかないと考えた。……アリッサを守るために…」

 

 

セブルスの呟きは、いつもの彼からは想像もできないほど弱々しく、懺悔に近い響きを持っていた。

ソフィアは口を手で押さえ「そんな…」と呟き、力なくソファに座り込み、縋るようにルイスにしがみつく。ルイスは顔を上げ、ソフィアを強く抱き寄せる──そうしていないと、ルイスも倒れてしまいそうだった。

 

 

「…母様は、マグル生まれだから…父様が死喰い人として、あの人の信頼を得れば…殺されないと…?本当に…?そんな、母様はそれを知ってたの…?」

「ああ、知っていた。……強く反対され、何度も馬鹿な真似はよせと言われたがな」

 

 

ルイスの言葉に、セブルスは自嘲を滲ませ答える。

死喰い人になると決めた時、セブルスはアリッサに心までも闇に染まり、ヴォルデモートの思想に同意しているわけではない。全てはアリッサと生まれてくる子どもを守るためだと何度も説明したが、アリッサは嘆き悲しみ、怒り、辛くセブルスにあたった。だが──アリッサに何を言われても意見を変えず、たとえ軽蔑され嫌われても、大切な者達を守るためならばセブルスは構わなかった。

 

結局、折れたのはアリッサだった。

このままセブルスを一人にしてしまえば、間違いなく死んでしまう。それなら世界中から恨まれる事になろうとも、セブルスの側に居る事を決めたのはアリッサだった。

 

 

「アリッサと私が……夫婦だと広く知られていないのは…私が死喰い人だったからだ」

「…ああ…そうだったんだね。…不思議だったんだよ…」

 

 

ルイスは吐息にも似た言葉で呟く。何故そこまで自分達の関係が親子だと──皆が知らないのか不思議だったのだ。今まで、父は交友関係が広いわけではなく、友人も少ないからだと思っていた。だが母の存在をホグワーツで知る度に、母は多くの人に親しまれていた、それなのに何故、誰も母の結婚相手が誰なのかを知らないのか──何故母と父が夫婦であり、自分達が2人の子どもだと知られていないのか不思議だったのだ。

 

 

「何故…父様は死喰い人をやめたの?何があったの?」

 

 

ソフィアが不安げな目でセブルスを見ながら聞いた。セブルスはその言葉に少し沈黙する。

セブルスが犯した最大の過ちを、2人に告げるべきか最後まで悩み──そして、低い声で答える。

 

 

「…予言がなされた。闇の帝王を打ち破る力を持つ者が、7月に──帝王に三度抗った者達から生まれると」

「それは──それは、もしかして…?」

「ああ、帝王はリリーと…ジェームズ・ポッターの間に生まれる子どもだと結論を出した。それで──私は、ジェームズは兎も角、リリーを見捨てる事は出来なかった。彼女はアリッサの妹であり……私の友人だった。あの頃、ジャックとアリッサだけが、私にとって信じられる者であり……私はジャックにどうすればリリーを助けられるのかを、相談した。その時初めて……ジャックがダンブルドアの密偵だと知った」

 

 

セブルスは苦しみに耐えながらぽつぽつと話す。この時、セブルスはその予言をヴォルデモートに伝えたのが自分である事を2人にいうことがどうしても出来なかった。

 

アリッサ達を殺したのはヴォルデモートだ。アリッサはジェームズとシリウスの友情を信じ──2人を信じたからこそ、殺された。

 

 

だが、セブルスは理解していた。

全ての始まりは、自分自身であると。

 

 

「私は、帝王を裏切り、ダンブルドアに近付き──そして、それからは…密偵として死喰い人の情報をダンブルドアに流していた」

 

 

思いもよらぬセブルスの過去に、ソフィアとルイスは言葉を無くした。

当時のことを知らぬ2人は、セブルスがアリッサを守るために死喰い人になったという結論が──全く理解できない。

死喰い人は忌み嫌われる者であり、憎しみの対象だ。沢山の命を弄び、世界を混乱に陥れた。父がその1人だったなどと…理由があるにしろ、受け入れられる事ではない。

 

 

 

重い沈黙が3人の間に落ちる。

ソフィアとルイスは不安げに身を寄せ合い、今まで見ていたセブルスが、誰よりも大切な父親が──何故か別人のように感じた。

 

 

「父様…本当に、嘘はない?……本当に、母様の為だったの…?」

「……信じられるとは思っていない。私を軽蔑しただろう。──死喰い人として…悪行に手を染めていた事は事実だ。アリッサ達を守る、私はそれが叶えば、他人の命など……軽視していた」

「……、…何人も、殺したの?」

「…私が作った薬により──大勢が苦しみ、何人もの命が奪われた」

 

 

セブルスは直接手を下す事は無かった。しかし、毒や真実薬、腐敗し四肢が落ちる薬。痛覚を何倍にも増幅させる薬──そんな薬が、何の目的で使われていたのか、勿論セブルスは全て知っていた。知っていて、ヴォルデモートに言われるがままに、薬を作り続けていた。

 

 

「…父様……父様は、もう…そんな過ちを犯さないわよね?…ハリーの名前を…ゴブレットに入れてないわよね…?」

 

 

ソフィアは今までセブルスの事を微塵も疑っていなかった。愛する家族を信じ、ハリーやロンに何を言われようが庇い続けていた。

だが、父が過去──愛する者を守るために沢山の犠牲を出した。それを知ってしまった後、無条件でセブルスを信じ抜く事が、今の混乱するソフィアには出来なかった。

 

 

──ダンブルドア先生はヴォルデモートの力が戻りつつあると思っている。それを父も知っているのなら…また、私たちを守る為に、死喰い人として、暗躍していてもおかしくない。

 

 

「そんな事をして何の意味がある。私は──アリッサとリュカの墓前に、ハリー・ポッターを守ると……誓った」

 

 

それは、セブルスの本心だ。

ハリーの事は──どうしようもない憎さがあるのも事実。だが、ハリーはリリーの息子…ソフィアとルイスの唯一の魔法族においての親族である。リリーの命を救えなかった、アリッサとリュカを死なせてしまった後、セブルスはソフィアとルイス、そして──ハリーを守ると決めた。

 

 

「…僕、正直、…混乱してるし、死喰い人になる選択は大きな過ちだったと思う。沢山の命を犠牲に守られても……そんなの…僕は嬉しくない…失望した」

「…ああ、そうだろう」

 

 

ルイスの冷ややかな言葉に、アリッサも何度もそう言っていた事を思い出し、セブルスは悲しげに笑う。認められ、受け入れられなくてもいい。それでも──守れさえすれば、彼らが、生きてくれていれば。

 

 

「父様の選択は間違いだわ。…それでも──私は、今の父様の事を──愛しているわ…」

 

 

ソフィアは目から涙を流し、震える口で囁く。

過去、取り返しのつかない過ちを犯した。数々の命を犠牲にした。今もまた同じことを繰り返しているのかもしれない──それでも、セブルスに対する愛は揺るぎない。

 

セブルスは目を見開き、すぐにぐっと辛そうに顔を歪める。アリッサと同じ言葉を、同じ瞳を持つ愛しい我が子から言われ、胸の奥が締め付けられ、大きな後悔と共に尽きぬ愛情が込み上げ、思わず口を手で覆った。

 

 

「…そうだね。僕も……うん、…父様のした事は許されない。…許せない。けど……父様を、今も愛してるよ」

 

 

ルイスは頷きながら呟き、セブルスを真摯な目で見つめる。

 

 

ソフィアも、ルイスも。セブルスに対する愛は変わらない。不信感や疑問や、やりきれない怒りはある──だが、それでも、2人は変わらずに セブルス()を愛していた。

 

 

「…っ…!」

 

 

セブルスの視界に映るソフィアとルイスが滲み、ぼやける。

肩を震わせるセブルスに、ソフィアとルイスは同時に立ち上がるとひしっと抱きついた。

 

 

「父様…!」

「僕らは、家族だもの。…愛してるよ、父様」

「ソフィア…ルイス…!」

 

 

セブルスは強くソフィアとルイスを抱きしめ、2人に包まれながら涙を流した。

 

 

 

3人はそれぞれ心の内に渦巻く激しくやりきれない感情に涙を流し、身を寄せ合っていた。暫くして冷静さを取り戻したソフィアとルイスはセブルスの隣に座り、セブルスの手に自分の手を重ね、肩に頭を預けていた。

 

 

「…父様が死喰い人だったと知ってるのは、ハリーとロンとハーマイオニーよ。…ハリーはダンブルドア先生を信じてるから…多分、父様を疑ってるけど…言いふらす事は無いと思うわ」

「…そうか」

「父様、もし……例のあの人が復活したら…父様はどうするの?また…死喰い人になるの?」

 

 

ソフィアはセブルスを見上げ、不安げに聞いた。ルイスもまた無言でセブルスを見つめる。

もし、ヴォルデモートが復活したら──それは、考えたく無い事だ。だが、ダンブルドアもまたそれを危惧していると、セブルスは知っている。

 

 

「私は、ダンブルドアの命に従う。…ダンブルドアがそれを望むのなら、密偵として敵の内部に潜り込む事もあるだろう」

「……そうなんだ…」

「…そうするしかないなら…私たちには、教えて…。何も知らないまま守られるのは、嫌よ」

「…、…ああ、わかった」

 

 

セブルスは頷いたが、ダンブルドアがそれを良しとしなければ──きっと、全てを明かす事なく動かねばならないとわかっていた。優しく残酷な嘘を、セブルスは2人のためにつかねばならなかった。

 

 

 

 

ソフィアとルイスは夜遅い時間にそれぞれの寮へと戻った。

ソフィアは寝ずに自室で待っていたハーマイオニーにだけ、話した。

ハーマイオニーに抱きしめられ、優しく背中を撫でられているうちに、ソフィアは再び涙を流しなんどもしゃくりあげながら──全てを、話した。

 

 

「…スネイプ先生は、確かに間違った選択をしたかもしれないわ。…けど、当時は…本当に、誰も信じられなかった時代だってスナッフルズが言っていたでしょう?…きっと、1人で全てを守るために、必死だったのよ」

 

 

ハーマイオニーの言葉に、ソフィアは何度も頷きながら、その優しい胸に抱かれ──気が付いたら眠ってしまっていた。

 

 

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