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第三の課題が行われるまで、ハリーはロンとソフィアとハーマイオニーと沢山の魔法を特訓した。代表選手であるハリーは期末試験が免除されているが、ソフィアとロンとハーマイオニーはそうではない。第三の課題が始まる日に試験は終わる予定だが、3人とも勉強する事なく──いや、ソフィアとハーマイオニーは深夜に自室で勉強していたが──ハリーの練習に付き合った。
ハリーは流石に3人とも自分に気を使わず試験勉強をした方がいいと言ったのだが、3人は笑って「気にしないで」と言った。
期末試験よりも、大切なものがある。そう、3人は思っていた。
ハリーは妨害の呪い、粉砕呪文、四方位呪文
を習得することが出来たが──
最終課題の日が近づくにつれ、ハリーの神経が昂り少し不安があるのは事実だが、今までの課題よりも十分に備える事ができたし、何よりハリーは毎年さまざまな試練を乗り越えてきている。これまでの課題より、上手くいくんじゃないだろうかという自信があり、前回のような辛い焦りは無かった。
最終課題の日の朝、大広間のグリフィンドールの机は大賑わいで誰もがハリーを応援し、すれ違いざまに肩を叩いた。
シリウスからの応援の手紙も届き──ただ羊皮紙に肉球の足型が押してあるだけだったが──ハリーは心の底から嬉しさが込み上げ、それを大切そうにポケットにしまった。
朝食を食べているとハーマイオニーの元にコノハズクが舞い降り、いつものように日刊預言者新聞の朝刊を届けた。
ベーコンエッグを食べながら朝刊の一面に目を通していたハーマイオニーは、ごくり、とかぼちゃジュースを飲み──たまたま目に入った記事に驚き、口に含んでいたかぼちゃジュースを吐き出しかけた。
「──っ!──げほっ!」
「だ、大丈夫?」
吹き出すまいと必死に飲み込んだせいで気管に入り、盛大に咽せるハーマイオニーの背中をトントンとソフィアが優しく叩く。
ロンが怪訝な顔で「どうしたの?」と聞いたが、ハーマイオニーはてと顔を振り「何でもないわ」と慌てて新聞を机の下に隠そうとした。
しかし、その前にロンが素早く新聞を奪い、見出しを見て驚いたように目を丸くし、次の瞬間には苦虫を噛み潰したかのように嫌そうな顔をした。
ソフィアも何が書いてあるのか気になり、上から覗き込み──眉をきゅっと寄せてため息をついた。
「何てこった!よりによって今日かよ、あのババア!」
「本当、いつも嫌なタイミングね」
「何だい?また、リータ・スキーター?」
ハリーがロンに聞き、ロンは見え見えの嘘をつき新聞を机の下に隠した。
そもそも、日刊預言者新聞を購読するようになったのは事前にスキーターの侮辱が込められた記事を読み、他者から──スリザリン生から──揶揄われないようにするためだ。
いつもなら、きっとロン達は見せていたが、今日は最終課題の日だ。そんな日に、ハリーの気持ちを落としたくはない──そう思い、ハリーの目に届かないよう隠したのだ。
ハリーはロンの態度に、どう見ても嘘だと確信し、眉をぐっと寄せて手を差し出し、もう一度「見せてよ」と言った。
ソフィアはスリザリン生が座る席をチラリと見て、ドラコがニヤニヤと意地悪げに笑いながら食い入るように日刊預言者新聞を広げていることに気付き、ため息をついた。
「ま、いいんじゃない?どうせすぐ誰かさんがご丁寧に教えてくれる事だわ」
ソフィアは机の上に肘を乗せ、顎を支えながら嫌味っぽく言うとチラリとドラコの方を見た。
ハリー達がその視線を追っていると、ちょうどこちらを見てニヤリと笑ったドラコとハリーの目がパチリと合った。
「おーい、ポッター!頭は大丈夫か?気分は悪くないか?まさか暴れ出して僕達を襲ったりしないだろうね?」
ドラコも日刊預言者新聞を手にしていた。スリザリンのテーブルは端から端までくすくすと笑いながら、座ったままで身を捩りハリーの反応を確認しようとしている。
ふと、ソフィアはその中にルイスの姿がないことに気がついたが、特に気にする事なくフルーツを食べた。
ここ数週間、ルイスは大広間に現れないことがよくあった。
ドラコはつまらなさそうにはしているが、取り巻きであるクラッブやゴイル、パンジーと共に過ごしていたため特に寂しそうにはしていない──ように見えた。
ルイスは、恋人のヴェロニカとの別れが近付いている。
別の学校である2人は、後数ヶ月で──所謂、遠距離恋愛になってしまう。その前に少しでも共に過ごしたいという気持ちになるのは自然な事だろう。
休み時間や休日、ソフィアはよく校庭で一つのベンチに座り楽しげに話しているルイスとヴェロニカの姿を見かけていた。幸せそうな2人を見るのは、嬉しくもあり──何となく、寂しくなったのは、仕方がない事だろう。
ハリーはロンの手から日刊預言者新聞を取るとすぐに開き──大見出しの下に、自分の写真が載せられているのを見た。
『ハリー・ポッターの危険な奇行』という見出しと共に、占い学の時に額の傷が痛み倒れた事、それは
さらに蛇語を使うことや、狼人間とや半巨人と親交があり、褒められたことではなく邪悪なことを考え、本日行われる三校対抗試合の最終課題の時に、闇の魔術を使用するのではないかと言う言葉で締めくくられていた。
今まではハリーを応援するような記事を書いていたが、ここに来て突如方向転換をしたらしい。しかしハリーは少しも気にすることなく新聞をぱたりと畳んだ。
「僕にちょっと愛想が尽きたみたいだね」
ハリーは気軽に言ったが、スリザリンテーブルの方ではドラコがルイスが居ないのをいいことに、クラッブやゴイル達とハリーに向かって馬鹿にするようにゲラゲラと笑い、侮蔑的な目を見せていた。
「あの女、占い学で傷痕が傷んだこと、どうして知ってたのかなぁ?どうやったって、あそこには居たはずないし…絶対あいつには聞こえたはずがないよ」
ロンが不思議そうにぼんやりと言いながらソーセージを食べる。ハリーは当時の教室の様子を思い出し、「窓が開いていた。息苦しかったから開けたんだ」とゆで卵を食べながら答えた。
しかし、たしかに痛みで叫んだとは言え、ハリーが居たのは北塔の頂上だ。流石に校庭までその叫びが届くことはないだろう。とソフィアは思い、あの場所にどうやって姿を見せず入る事ができたのかをじっと考え込んだ。
「あなた、北塔のてっぺんにいたのよ?あなたの声がずーっと下の校庭まで届くはずないわ!」
ハーマイオニーもソフィアと同じ事を思い、新聞を鞄の中に入れながら強い目でハリーを見る。
「まあね。魔法で盗聴する方法は、君が見つけるはずだったよハーマイオニー!あいつがどうやったか、僕もわからないんだ、君が教えてくれよ!」
考えたところで、わからないものは仕方がない。ハリーは苛々とした口調で太いソーセージにフォークを突き刺した。
「ずっと調べてるわ!でも私…でもね…」
ハーマイオニーはじっとソフィアを見つめながら、ゆっくりと手をあげ指で髪を撫で、そのまま一房掴むとトランシーバーに話しかけるように、口元に近づけた。
真剣だが、どこかぼんやりとした目で見つめられたソフィアは不思議そうに首を傾げ、ハーマイオニーの動作を真似するように自分の口元に手を当てた。
それは、いつだっただろうか。校庭でドラコとその取り巻きが行っていた行動によく似ていた。
「──もしかしたら…。そうよ、それだったら誰にも気付かれないし、ムーディだって見えない……それに、窓の桟にだって乗れる……でも、あの女は絶対許されてない、許可されてないはずだわ…!」
「……まさか?でも──そうね、十分あり得るわ、前例があるもの!」
ソフィアとハーマイオニーは確信めいた光を目に宿し、同時に立ち上がった。
「あの女を追い詰めたわよ!」
「図書館に、確かめに行きましょう!」
「ちょ、ちょっと!」
「おい!」
ぽかんとしたロンとハリーが2人を止め何かわかったのかと聞く前に、ソフィアとハーマイオニーは鞄を掴むと大広間を飛び出した。
「ソフィア、あれってかなり難しいの?」
「根気と材料、後は運さえあれば誰だって可能よ!」
2人は猛スピードで廊下を走り、図書館へと飛び込むとすぐにアニメーガスの登録者について書かれている本を探した。
「…やっぱり、名前は無いわ!」
「アニメーガス…小さな小鳥だとすれば、たしかに…気付かれずに窓に乗れるわ」
「小鳥……いいえ、違うわ。──そう、虫よ!」
ハーマイオニーは声を抑えて叫ぶ。
ソフィアは「虫?」と怪訝な顔をしたが、じっとハーマイオニーの目を見つめ「…あり得るわね」と頷いた。
アニメーガスは動物になる事が殆どだが、虫や魔法生物になる前例もごく稀にあった。
ソフィアはすぐに20世紀の登録者のページから戻り、18、19世紀の登録者のリストを調べ、名前の横に「蝿」と書かれている箇所を興奮しながら指差した。
「虫にもなれるのよ!ほら、前例があるわ!」
「本当に、スキーターは私たちに虫をつけていたのね」
ハーマイオニーの言葉に、ソフィアは一瞬何のことかわからなかったが、マグル界の盗聴器の事を思い出し、ハーマイオニーと同じようにニヤリと笑った。
「問題は、どんな虫かって事ね」
「そうね…スキーターは、必ず今日も現れるわ。絶対、ハリーの近くに!怪しい虫がいたら、全て捕まえましょう!」
ハーマイオニーは強く本を握っていたが、闘志が燃える目を輝かせると本をパタンと閉じ、すぐに本棚に片付けた。
「さあ、試験に行きましょう!」
「え?──ああ、そうだったわ」
そういえば、あと数分で試験開始時刻だと思い出し、ソフィアは頷くと先に走り出してしまったハーマイオニーの後を追いかけた。
午前中の期末試験が終わった後、ソフィアとハーマイオニーは「もうすでにホグワーツに入り込んでいるかもしれない」と思い、玄関ホールや校庭を怪しい虫がいないかと探していた。
「でも…どうやって見極めるの?」
「…そうね…去年、ペティグリューのアニメーガスを無理矢理リーマス達は解いていたわ。…多分、フィニートで──やってみましょう!」
ソフィアはハーマイオニーの手を引き、人気のないハグリッドの小屋の裏手に回ると、注意深く辺りを見渡し、さっとフェネックへと変身した。
ハーマイオニーは初めて見たソフィアのアニメーガスの姿を見て驚いて目を瞬かせていたが、すぐにしゃがみ込むと興奮が滲む目で「成功してたのね!」と囁き、フェネックのふわふわとした毛並みを撫でた。
「きゅーん」
「本当に、凄いわ!どこからどうみてもフェネックそのままよ!…わぁ!ふわふわしてて、気持ちいい…」
「くぅん…」
ハーマイオニーは夢中になって
「あっ!そうだわ、フィニートね。──
ハーマイオニーはハッとしてポケットから杖を出すと、ソフィアに向かって解呪魔法を唱える。
ソフィアはアニメーガスから人へと戻る時のようにトクンと心臓が小さく跳ね──そして、人の姿へと戻った。
「やっぱり、フィニートで強制的に解呪できるんだわ!」
「そうね…。…それより!ソフィア、いつ成功していたの?」
言ってくれたら、お祝いしたのに!とハーマイオニーは頬を膨らませソフィアの両手を握る。ソフィアは嬉しそうにパッと笑顔を見せたが、悪戯っぽく声を顰めくすくすと笑いながら言った。
「あのね…本当は、マクゴナガル先生の前以外でまだやっちゃダメなの」
「え?そ、そうなの?」
「ええ、アニメーガスにはなれるけど、アニメーガスの使用許可がまだ降りて無いのよ。もう書類は送ったから…夏休み中には、許可が降りるはずよ!それから言おうと思っていたの。私が変身した事…内緒にしてね?」
「勿論よ!許可が降りるのが楽しみね、本当におめでとう!」
「ありがとう、ハーマイオニー!」
自分の事のように喜んでいるハーマイオニーを見ると、ソフィアは嬉しそうに笑いハーマイオニーに抱きついた。ソフィアからのハグに慣れてきているハーマイオニーは、照れる事なくぎゅっと強く抱き返す。
「──さあ!フィニートが効くってわかったし、探しましょう!」
「ええ、そうね!」
それから昼休憩の時間が半分過ぎるまで探したが、やはりどんな虫なのか分からないまま探すのは困難であり、それらしい虫を探しフィニートを唱えても虫はただ怯えたように2人の掌から飛び立つだけだった。
「うーん、なかなか見つからないわね…」
「仕方ないわ、課題の時は必ず居ると思うの。身体的特徴が現れやすいから──私は髪色と瞳が同じだから──似ている虫を、その時に、探しましょう。捕まえた時のために…瓶も用意しないとね」
「…そうね、…ああ!お腹ぺこぺこだわ!」
ソフィアの言葉にハーマイオニーは頷き、2人は昼食を取るために大広間へと向かった。
すでに大広間には沢山の生徒がいつもより少し豪華な──おそらく、今日が最終課題の日であり、試験の最終日だからだろう──料理を食べていた。
ハリーの近くには、ウィーズリー家の面々が揃っていた。在学中であるロンとフレッドとジョージとジニーが近くに座っていることに特に違和感は無いが、ジニーの隣にロン達の母であるモリーと、長男のビルがいることにソフィアは目を瞬かせ驚く。
「モリーさん?ビル?どうして?」
「ああ、ソフィア!久しぶりね!」
「久しぶり!代表選手は家族が観戦に招待されるから。その代わりに僕たちが呼ばれたんだよ」
よく見れば大広間の机に、私服を着た見慣れぬ大人がちらほらと座っていた。おそらく他の代表選手達の家族なのだろう。
たしかに最終課題ともなれば、招待されていてもおかしくはない。しかし、家族──確かに、マグル界で過ごし、魔法を何よりも嫌うダーズリー家が来るわけがない。その代役としてモリーとビルが呼ばれたことは、なんとなく不思議だった。──ハリーにとって、隠れ穴で過ごした日々が、第二の家のように素晴らしいものだったのだろう。
──まぁ、後見人のシリウスは呼べないし、私たちはいとこだけど、周りは知らないものね。
ソフィアはあまり気にすることなく空いていたハリーの隣に座ったが、ハーマイオニーは気まずそうにソフィアの隣に座ると、何か言いたげな表情でモリーを見つめた。
モリーはその視線に気づくと、今まで浮かべていた笑顔をどこか、ぎこちなく引き攣らせた。
「こんにちは、ハーマイオニー」
「…こんにちは」
モリーの声は、ソフィアに対しての声と比べてかなり硬く、表情もどこか冷ややかだった。ハーマイオニーは笑顔で挨拶をしたが、その目は揺れ表情は強張っている。
ハリーは食べていたポテトを急いで飲み込むと、モリーとハーマイオニーを見比べて言った。
「ウィーズリーおばさん。リータ・スキーターが週刊魔女に書いたあの馬鹿な記事を本気にしたりしてませんよね?だって、ハーマイオニーは僕らの中を裂こうなんてしてませんもの」
「そうですよ、モリーさん。ハーマイオニーは私の1番の親友です!そもそも、ハリーと私は恋人同士ではありませんし…」
「あら!そうなの?──もちろん、本気にしてませんよ!」
ハリーとソフィアの言葉に、モリーはパッと表情を明るくさせるとほっと胸を撫で下ろし、ハーマイオニーに「ごめんなさいね。ちょっと、不安で…」と謝りながらハーマイオニーの皿に沢山のミートパイを置いた。
モリーは、自分の娘が──ジニーがハリーに対し憧れに近い愛を持っている事を知っている。時々、恋愛相談のような手紙が届いていたのだ。ジニーが今、ハリーとの関係や悩みについて相談出来る相手といえば母であるモリーしかいなかった。
ダンスパーティの一件も、もちろんジニーはモリーに伝えた。ハリーはソフィアの事が好きなのかもしれない、本人から誘ったようだ。ソフィアはまだ恋愛感情を抱いていないが、それも時間の問題かもしれない──ハリーの事は好き。ただ、私はソフィアの事も、好きなの。──そう、ジニーはモリーへ伝えていた。
モリーも、ソフィアに対しては好印象を持っている。両親とも亡くなっているらしいが、礼儀正しく、優しく愛嬌がある。とてもいい子だ──ジニーの事は、親として応援したいが、どうやらジニーは悩みや胸の痛みを抱えていても、ハリーとソフィアの中を邪魔する気はなく、応援される事を望んでいないらしい。
静かに見守ろう。初恋は、甘酸っぱいものだから。──と、モリーは考え、ジニーの淡い恋心をそっと優しく見守っていた。
そんな中、スキーターの記事により、ハリーとソフィアが恋人である事や、その中を裂こうとしているハーマイオニーの事を知ってしまい。かなり──憤っていたのだ。
しかし、それが間違いならばあの記事を見て、かなり大人げない事をしてしまった。イースターエッグは小さなものを送ってしまったし、きっと、聡いハーマイオニーは小さな悪意に気づいただろう。
モリーは自分の行いを恥じ、安堵の表情を浮かべるハーマイオニーに、心からもう一度「ごめんなさいね」と謝った。
しかし、ハーマイオニーは疑惑が解消されたのなら、それ以上責める事はなく、ただにっこりと笑って「来年のイースター楽しみにしてますね!」と悪戯っぽく言った。
悪いのはモリーではない、あんな記事を書いたスキーターだ。必ず、今日決着をつけてみせる──と、密かに胸の中に炎を燃やしていた。