【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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233 永遠の別れ

 

 

観客達は何も起こらない時間が長すぎて、飽きたようにどちらが勝つだろうか、今何をしているだろうか?と楽しげに想像し話し合う。

ソフィア達も少し緊張は解れ、ハリーの無事を祈りながら迷路を見つめていた。

 

 

それは、何の前触れも無く起こった。

 

 

 

「──あっ!ハリー・ポッターだ!」

 

 

 

叫んだのは誰だっただろうか。

ハリーが突如迷路の入り口にパッと現れた。

手には優勝杯の取手を持ち、そして反対の手にはセドリックを抱き抱えている。

芝生の上に倒れ、動かないが──観客達は優勝杯を持っているハリーが、三校対抗試合の勝者なのだろうと思い爆発的な歓声を上げ手を叩いた。

 

 

「ハリー!やった!ハリーが優勝だ!」

「凄いわ!四年生なのに!信じられない!」

「本当凄いわ!ああ、なんてこと!」

 

 

ソフィアとロンとハーマイオニーは嬉しい悲鳴を上げ、喜びのあまり強く抱き合い、ばしばしとそれぞれの背中や腕を叩いてその場に飛び跳ねた。

 

 

しかし、手を大きく叩いていた観客も、迷路の周りを巡回していた教師達も、時間が経つにつれ違和感に気付く。

 

 

ハリー・ポッターが起き上がらない。

そして、セドリック・ディゴリーは、薄らと目を開けているが蒼白な顔をして──まるで、死んでいるかのようだ。

 

 

すでに、ダンブルドアはハリーの元に駆け寄り、ハリーを起こすべく何度も声をかけていた。

 

その険しい表情を見た観客達は漠然とした不安を覚え、首を長くして一体どうしたんだろうかとハリーとセドリックを見る。

ソフィアとロンとハーマイオニーは喜びを消すと、不安そうに顔を見合わせすぐに観客席を飛び出しハリーの元へと急いだ。

 

 

ハリーの元に駆け寄ったのはソフィア達だけでは無い、グリフィンドール生や、チョウ・チャンやセドリックの友人達が大勢駆け寄り、そしてその先頭に居た生徒は、セドリックの顔を覗き込んでいたコーネリウス・ファッジの叫びを聞いた──聞いてしまった。

 

 

「死んでる!セドリックが──死んでるぞ!」

 

 

その叫びは騒めきの中にも良く通り、皆は息を飲み、口々に「セドリックが死んだ?」「死んでるだって?!」と叫ぶ。

漣のようにその事実は後方へと伝播し、そして──全ての者に広まった。

 

 

「セ、セドリックが…?死んでるだって?」

「そんな!う、嘘…!」

「どうして!?」

 

 

ロンとハーマイオニーとソフィアも、混乱した生徒たちに押されながらその言葉を聞いた。沢山の生徒がセドリックとハリーの様子をよく見ようと押しかけ、なかなかハリーの元へ近寄ることが出来ない。

 

 

「ハリー!ハリーは無事なの!?」

「くそっ!どけよ!僕たちを行かせてくれ!」

「ハリー…!」

 

 

3人はハリーの無事を願い、叫んだ。

 

 

 

ーーー

 

 

セブルスとジャック含め、教授達もすぐに騒ぎの中心に向かった。

生徒たちの嘆きや悲痛な叫び、そして啜り泣きが響く中、2人は駆け付けた教師たちと共に、地面に倒れ虚な目をしたセドリックを見下ろした。

 

 

「セドリック…!そんな…!」

 

 

セドリックの寮監であるスプラウトは蒼白な顔でセドリックの側にがくんと膝をつき、ぐっと唇を噛み締め震える手で杖を振るう。

虚な目を開け、ぼんやりと虚空を見ていたセドリックの瞼と、そして半分開いていた口はゆっくりと閉じた。

まるで、ただ眠っているだけのような死顔に、誰もが沈黙しセドリックの死に心を強く痛め、歯を食いしばる。

 

 

「セド──セドリック!!わ、私の息子だ!な、何故!?」

「あああっ!セドリック!!いやああっ!!」

 

 

静寂を切り裂くような悲鳴が轟く。

セドリックの両親がダンブルドアによりこの場に現れ、土気色の顔をしよろよろと息子の死体に縋り付いた。

信じたくない、信じられない。何故、どうして、なによりも優しく勇敢な息子が、死んでしまったのだ。

 

 

「──ハリーはどこじゃ」

 

 

ダンブルドアは鋭い目で辺りを一瞥すると低い声で群衆に問いかける。殆ど全員がセドリックの死に心をとられ、ハリーがいなくなったことに気がつかなった。

そういえばどこに行ったのだろうか──。

 

 

「あの…ムーディ先生が、医務室に、引っ張っていったのを見ました」

 

 

恐る恐る、ハッフルパフ生の青年が涙を流ししゃくりたげながら呟いた。

彼はセドリックの友人だった、なによりも、セドリックが優勝するのを心から願い、それを心待ちにしていた。

真っ先にセドリックの元へたどり着いたその青年は、混乱しながらも──ムーディがハリーを連れて行くのを目撃していた。

 

 

ダンブルドアはその言葉に表情を険しくすると、直ぐに「ポモーナ、セドリックの両親に付き添うんじゃ。──セブルス、ジャック、ミネルバ、来なさい」と硬い声で呟き、その場を離れる。

 

名を呼ばれた3人は困惑しながらも──頷き、すぐにその背を追った。

 

 

ホグワーツ城の玄関ホールを通ったダンブルドア達は、医務室に向かうことはなかった。

向かう先は、ムーディに与えられた自室だった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

ソフィア達は必死に人を押し退け隙間に体を押し込んだが、思うように進めず、何とか人混みを押し退け先頭に進んだ時には、ハリーが迷路の入り口に現れてからかなりの時間が経っていた。

それに、ハリーやセドリックだけではなく、ダンブルドアの姿も無い。

 

 

「ハリーは!?」

「…医務室!医務室に行ったのかも!」

「行ってみましょう!」

 

 

もし、大怪我をしているのなら医務室にちがいない、ソフィア達は蒼白な顔で頷き合い、医務室へと走った。

 

 

 

 

ソフィア達は医務室に到着すると勢いよく扉を開けた。だが、ハリーの姿はなく、驚いた目をしたポンフリーが大きな瓶を持ちソフィア達を見た。

 

 

「あなた達!?い、一体、何ですか?」

「ハリーはここにいますか!?」

 

 

ソフィアはポンフリーの元に駆け寄ったが、ロンとハーマイオニーはすぐにベッドに向かい「ハリー!?」と一つ一つのカーテンを開けながらハリーがいないかと探し回った。

 

 

「こ、ここには、まだ──」

「まだ?どこにいるのですか?」

「それは…」

 

 

しどろもどろになったポンフリーに、ソフィアは詰め寄るが、ポンプリーは何もいう事が出来ず、困ったように眉を寄せた。

 

 

「ム、ムーディ!?」

「あっ!こ、こら!勝手に開けてはいけません!」

 

 

一つのカーテンを開けたハーマイオニーが驚愕し、動揺したように叫ぶ。ポンフリーはハッとして慌ててその開かれていたカーテンを閉めたが、ソフィアはベッド上に力なく寝ている人をたしかに、見た。

記憶のムーディとは大きく異なっていた風貌に、ソフィアとハーマイオニーとロンは呆然として、今見たものの意味を考えた。

窪んだ眼窩を閉じ眠っていたムーディの髪は所々切り取られ、顔色がかなり悪かった。それに、義足や義眼も無く、別人のようにやつれ、痩せ細っていた。

 

 

「ムーディのやつ、どうしたんだろ。別人みたいだったよな?」

 

 

ロンが不気味そうに、声を顰めソフィアとハーマイオニーに囁いた。

 

 

 

ソフィアの脳内に、今年一年の事が駆け巡る。

 

 

ムーディの家から警報が入りアーサーが駆け付けた。

ムーディは自分の携帯酒瓶からしか、飲み物を飲まない。

その魔法の目は、透明マントを見通す。

ハリーに第一の課題についての助言をした。

セブルスの研究室から無くなった素材は、毒ツルヘビの皮。

 

 

「──わかった!ポリジュース薬よ!今まで私たちが見ていたムーディは偽物だったんだわ!」

「えっ?」

「そんな!そんな事、本当に!?」

「あり得るわ、だって今ここに寝ているムーディ先生と、私たちが今まで見ていたムーディは全く別よ!数時間でここまで憔悴する事なんてないわ!」

「なら──どうして、誰が…?」

「それは…わからないわ」

 

 

ソフィアは必死に考えたが、混乱した中でその正解を導き出すにはまだ時間が足りなかった。だが、間違いなく敵だ、ヴォルデモートの為に何かをしていたに違いない。

つまり、ムーディだと思っていた人物がハリーの名前をゴブレットに入れたのだ。先ほど行われた最終課題では、セドリックが死んだ──もし、課題中の事故ではなく、殺されたのだとすれば、その犯人はまさか…?

 

 

 

ガチャリと扉が開き、ソフィア達はハリーが入ってきたのかと扉を急いで振り返った。

しかし、現れたのは蒼白な顔をしたビルとモリーであり、2人はソフィア達と同様セドリックの死を知り、ハリーの無事を確認するために生徒達を掻き分け医務室へとやってきたのだった。

 

口々に「ハリーは無事ですか?」と叫ぶビルとモリーに、ポンフリーは困りきった顔で「私からは言えません!」と叫ぶ。ポンフリーも何があったのかはわからない、ただ険しい表情をしたジャックが昨日までの面影もないムーディを抱え医務室まで運んで来たのだ。

ムーディは衰弱していたが命の危機があるわけではない、十分な休息と栄養剤で事足りるだろう。

ポンフリーは後でダンブルドアから説明があるとだけジャックに伝えられ、今何が起きているのか彼女にもわからなかった。

ただ、とんでもないことが起こっているのだということは漠然と理解していた。

 

ソフィア達がポンフリーに詰め寄り、口々に「ハリーはどこなの?」「ハリーの身に何が起こったの?」と問い詰めていると、ガチャリと医務室の扉が開き、ダンブルドアと黒い犬になったシリウスと、疲れ切り暗い表情をしたハリーが現れた。

 

 

皆が振り返り、一瞬、誰もが動けずハリーを見つめ息を呑んだ。

 

 

「ハリー!」

 

 

ソフィアは叫びハリーに駆け寄るとぎゅっと強く抱きしめた。

ハリーはふらりとよろめき、虚な目で涙を溜めているハーマイオニー達をソフィアの肩の向こうから見ていた。

 

 

「ソフィア…」

 

 

ぽつり、と吐息のような小さな声でハリーは呟き、重い腕を上げてソフィアの背中にそっと回し、ローブをきゅっと掴んだ。

 

温かい、柔らかい、いい匂いがする。

あの時──トム・リドルの墓場でヴォルデモートが復活した時に感じた冷たさも、恐怖も、血や泥の匂いでも無い。

 

生きている、優しい人の匂いにハリーは鼻の奥がツンと熱くなり、そのままソフィアの肩に自分の顔を押し付けた。かちゃん、とメガネが上に押し上がりずれる音が微かに響く。

 

 

「ハリー!──ああ!一体──」

「モリー」

 

 

モリーが声を詰まらせソフィアに抱きしめられるハリーに駆け寄ろうとしたが、ダンブルドアがその間に立ちはだかった。

 

 

「ちょっと聞いておくれ。ハリーは今夜、恐ろしい試練をくぐり抜けてきた。それをわしのためにもう一度再現してくれたばかりじゃ。今、ハリーに必要なのは、安らかに、静かに眠ることじゃ。もしハリーがみんなにここにいてほしければそうしてよろしい。しかし、ハリーが答えられる状態になるまでは、質問してはならぬぞ。今夜は、絶対に質問してはならぬ」

 

 

モリーはダンブルドアの言葉に、顔を蒼白にしながら何度も頷き、ロン、ハーマイオニー、ビルを振り返り「シーッ!」と唇に指を当て言った。

 

 

「校長先生。いったい、この犬は…?」

 

 

ポンフリーは清潔な医務室に、薄汚れた黒犬が居ることが耐えられないのか怪訝な目でシリウスを見下ろす。

シリウスは呻く事もなく、大人しく尻尾をゆらりと一度揺らめかせた。

 

 

「この犬はしばらくハリーのそばにいる。わしが保証する、この犬はたいそう躾が良い。ハリー──わしは、君がベッドに入るまでここにおるぞ」

「…ハリー、こっちよ」

 

 

ソフィアはそっとハリーの肩を押し、体を離すと心配そうに目を覗き込みながら優しく手を繋ぎ、ベッドまで連れて行った。

ハリーは無言のまま重い足を動かし、ダンブルドアがみんなに質問を禁じてくれた事に、言葉に言い表せない感謝をしながらソフィアに手を引かれるまま白いベッドに近づいた。

 

 

ハリーは1番奥のベッドに、ムーディが死んだように眠っていることに気付く。痩せ衰えた顔、微かに胸が上下していることから、死んではいないのだろう。

 

 

「…あの人は、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ」

 

 

ハリーとソフィアの後ろをついてきていたポンフリーがベッド脇のテーブルから白い清潔なパジャマを渡す。

ソフィアはそっと手を離し、ベッドの周りのカーテンを閉めた。

 

 

閉じたカーテンを掴み、額を薄いカーテンに押し当てながらソフィアは詰まっていた息を吐いた。

 

ハリーは、生きている、ちゃんと歩いていた。かなり疲れていたようだが、大怪我を負っているわけでもない。──良かった。

 

 

ごそごそとハリーがベッドに横になった衣擦れの音と小さなスプリングの音が響く。

ソフィア、ハーマイオニー、ロン、モリー、ビル、そして犬になっているシリウスがカーテンを回り込みベッドのそばにある丸い小さな椅子に座った。

 

ハリーの頭側にソフィアとロンとハーマイオニーが両側から心配そうに──恐る恐る、ハリーの顔を望み込む。

 

 

「僕、大丈夫。──疲れているだけ」

 

 

ハリーは小さな声で、心配そうに見つめるソフィア達に言った。

大きな怪我は無い、ただ、疲れているのだ。心も、体も。

 

 

「ハリー、これを全部飲まないといけません。この薬で、夢を見ずに眠ることができます」

 

 

一度事務所に戻っていたポンフリーが手にゴブレットを持ち現れる。そのゴブレットの中には紫色の薬が並々と入っていた。

 

ハリーは気怠げに体を起こすと、そのゴブレットを受け取り二口、三口飲んでみた。

途端に周りのものがぼやけ、ハリーは力なくポンフリーにゴブレットを突き返すと柔らかいベッドの上にもう一度体を沈めた。

 

全てがぼやける中で、ソフィアの緑色の目だけがキラキラと不思議な輝きを見せている。

 

ハリーは半分眠りにつきながら、薄く口を開いた。

 

 

「ソフィア……手を、…握って…」

 

 

今にも眠りに落ちそうな、ゆっくりとしたハリーの言葉に、ソフィアはすぐにハリーの右手を両手で優しく包み込んだ。

 

 

「おやすみなさい、ハリー」

 

 

そのままソフィアは身を屈め、ハリーの額におやすみのキスを落とす。

ハリーは一度ソフィアの手をきゅっと握ったが、すぐにその手から力は抜け──眠りに落ちた。

 

 

 

 

ハリーが寝た後、モリーはそっとハリーの顔からメガネを外し、ベッド脇のテーブルに置いた。

 

 

ダンブルドアはファッジに全ての説明をする為に一度医務室から出て行き、残されたソフィア達はみんな沈黙したままハリーを見つめていたが、ふと顔をあげ視線を合わせると──どことなく安堵の色が皆の顔に映っていることに、曖昧な笑みを浮かべた。

 

 

「…この子が無事で、良かったわ」

 

 

ハリーを起こさぬようモリーは小声で囁き、ソフィア達は無言で頷く。しかし、ビルは混乱と苦痛に満ちた表情に変わり、ソフィアたちを見て呟いた。

 

 

「…セドリック・ディゴリーが亡くなったって、本当かい?」

「多分。…そう言ってる声が聞こえたから」

「私達が、駆けつけた時には…もう、誰もいなくて」

 

 

ビルはセドリックとさして交友があったわけでは無いが、在学中、まだ幼かったセドリックを知っている。

それほど目立つ生徒ではなかったが、友人たちと楽しそうに校庭で遊んでいる姿を見た事があった。

優しい笑顔を見せていたあの少年が、今はもういないのだと思うと──どうしようもなく、悲しかった。

 

 

「…そうか…」

 

 

この中で誰もセドリックの死を確認してはいなかった。ただ、口々にセドリックの死を嘆き悲しむ叫びが聞こえて来たこと、そしてこの場に──医務室にセドリックは居ないこと、ハリーが大きな試練を乗り越えたのだというダンブルドアの言葉から、何かがありセドリックは死亡したのだと誰もがわかっていた。

 

暫くの間はみんな、話す事なく無言だった。

何がハリーに、そしてセドリックにあったのか知りたかったがハリーは疲弊しきり眠っている。その眠りを今夜は、妨げるわけにはいかない。

 

 

静かな時間が流れていたが、突如遠くから喧騒の声が聞こえソフィア達は怪訝な顔をしてベッドカーテンの向こう側にあるだろう扉を見つめる。

 

 

「あの人たち、静かにしてもらわないと、この子を起こしてしまうわ」

「いったい何を喚いているんだろう?また何か起こるなんて…ありえないよね?」

 

 

不安げなビルの声に、モリーは居ても立っても居られず立ち上がると胸の前で指を組み、そわそわと忙しなく動かした。

 

ソフィアは繋がれているハリーの手がぴくひと動いたことに気付き、1人視線をハリーに向けた。

ハリーは薄らと目を開け、ぼんやりと瞬かせている。

まだ眠ってから1時間も経っていない、ソフィアは驚いたがポンフリーから受け取った薬を全て飲まなかったからだと気付き、心配そうにハリーを見る。顔の疲れは全く取れていない、もっと沢山休まないとならないはずだ。

 

ソフィアがハリーの名前を呼ぶ前に、ハリーは疲れた顔でソフィアに少し微笑みかけ、自分の唇に人差し指を当て「何も言わないで」とジェスチャーで伝えた。

ソフィアは開きかけていた口を閉じ、少し困惑しながらこくりと小さく頷く。扉の向こうで交わされる会話を聞きたいのだろうと察したが、それでも今は何も聞かずに──休んで欲しかった。

 

 

扉の向こう側からは、ファッジとミネルバの怒鳴り合いがはっきり聞こえるほど大きなものになり、足音からこちらへ向かって走ってきているのだとわかる。

 

 

「残念だが、ミネルバ、もう仕方がない」

「絶対に、あれを城の中に入れてはならなかったのです!ダンブルドアが知ったら──」

 

 

医務室の扉が轟音を立て勢いよく開いた。

ビルがさっとカーテンを開ければ、医務室に入ってきた怒り心頭のマクゴナガルと苛ついているファッジの姿が見えた。その後少し遅れて硬い表情をしたジャックとセブルスが現れる。

ハーマイオニー達は突然入ってきたミネルバ達を困惑し見つめていて、ハリーが目を覚ましている事に気付いたのはソフィアだけだった。

 

ハリーは静かに体を起こすと机の上にあるメガネを片手で持ち上げ顔にかけた。

 

 

「ダンブルドアはどこかね?」

「ここにはいらっしゃいませんわ」

 

 

ファッジはこの中で年長者であるモリーに詰め寄り低く硬い声で詰め寄り、モリーは胸の前で組んでいた指にぐっと力を込め、怒りを滲ませながら答えた。

 

 

「大臣、ここは病室です。もう少しお静かに──」

「何事じゃ」

 

 

その時、再び扉が開き険しい表情をしたダンブルドアが現れた。ダンブルドアは鋭い目でファッジとマクゴナガルを見据え、静かに2人に近づく。

 

 

「病人達に迷惑じゃろう?ミネルバ、あなたらしくもない。──バーティ・クラウチを監視するようにお願いしたはずじゃが」

「もう見張る必要がなくなりました、ダンブルドア!大臣がその必要がないようになさったのです!」

 

 

マクゴナガルの叫びが静まり返った病室に響く。ソフィアはここまでマクゴナガルが声を荒げ取り乱したところを初めて見た。

いつも冷静である彼女からは想像もできないほどに怒りと失望を目の奥に揺らせ、怒りのあまり顔が赤く染まり、両手の拳を握りわなわなと体を震わせている。

 

言葉を続けることができないマクゴナガルの代わりにセブルスが苦渋に満ちた顔で低く呟いた。

 

 

「今夜の時間を引き起こした死喰い人を捕らえたと、ファッジ大臣にご報告したのですが。すると、大臣はご自身の身が危険だと思われたらしく、城に入るのに吸魂鬼を一体呼んで自分に付き添わせると主張なさったのです。大臣は、バーティ・クラウチのいる部屋に、吸魂鬼を連れて入った──」

「ダンブルドア!私はあなたが反対なさるだろうと、大臣に申し上げました!──申し上げましたとも。吸魂鬼が一歩たりとも城内に入ることは、あなたがお許しになりませんと、それなのに──」

「失礼だが!魔法大臣として、護衛を連れて行くかどうかは私が決めることだ!」

 

 

マクゴナガルとファッジの激しい言い合いに、ソフィア達は何もいうことが出来ず黙り込んでいた。大人の強い怒りに、ハーマイオニーとロンは不安げに体を縮こまらせ、気がつけば身を寄せ合っていた。

 

ソフィアは2人の会話、そして──去年、シリウスに吸魂鬼が何をするつもりだったのかを思い出し、思わず強くハリーの手を握った。

間違いない、きっと、今回の犯人だったバーティ・クラウチは──何故、彼が犯人なのか全くわからないが──吸魂鬼の接吻を受けたのだ。

 

 

「尋問する相手が危険性のある者ならば──」

「あの──あの物が部屋に入った瞬間、クラウチに覆いかぶさって、そして──そして…!」

 

 

マクゴナガルはわなわなと震える指でファッジを指差し叫ぶ。その先の言葉を探すように何度か口を開閉させていたが、どうしても、その言葉を彼女は言えなかった。ダンブルドアからちゃんと見ておくようにと言われた約束を守れなかった──何より、全ての証人であるクラウチを失ってしまったのだ。

 

 

「止める間も無く、吸魂鬼がクラウチに吸魂鬼の接吻を施しました。──申し訳ありません、ダンブルドア、間に合わず……」

 

 

マクゴナガルの言葉の続きをジャックが悲痛な声で絞り出すように伝え、ぐっと唇を噛み締め項垂れた。

ジャックはムーディを医務室まで運んだ後すぐに再びクラウチのいるところへ戻った。だが、自分よりも先に吸魂鬼を連れたファッジがマクゴナガルの静止を振り切り部屋に入り、そして嫌な予感に守護霊魔法を唱えながら部屋に入った時には既にもう、全てが終わり、マクゴナガルは悲痛な叫びを上げていた。

 

 

「どのみち、クラウチがどうなろうと何の損失にもなりはせん!どうせ、奴は何人も殺しているんだ!」

「しかし、コーネリウス、もはや証言ができまい。──なぜ何人も殺したのか、クラウチは何ら証言できまい」

 

 

ダンブルドアは静かな目で怒鳴り散らすファッジを見つめる。

 

 

「何故殺したか?ああ、そんな事は秘密でも何でもないだろう?あいつは支離滅裂だ!ミネルバとセブルスとジャックの話では、やつは全て例のあの人の命令でやったと思い込んでいたらしい!」

「たしかに、ヴォルデモート卿が命令していたのじゃ。コーネリウス。何人かが殺されたのは、ヴォルデモートが再び完全に勢力を回復する計画の布石にすぎなかったのじゃ。計画は成功した。ヴォルデモートは肉体を取り戻した」

 

 

ダンブルドアの静かな声に、ファッジは頭を殴られたかのような衝撃に、呆然とダンブルドアの目を見つめ、一歩、後ろに下がった。

 

 

「例のあの人が……復活した?馬鹿馬鹿しい。──おいおい、ダンブルドア……」

 

 

信じ難い、いや、信じたくない。

ダンブルドアは根気強く、真実薬を飲まされたクラウチとハリーの話に矛盾はなく、去年の夏からの奇妙な出来事が複雑に絡み合っていた事や、優勝杯を掴みハリーがセドリックと共にヴォルデモートの元に飛ばされた事を伝えたが、ファッジはハリーを見て口元にバカにするような笑みを浮かべ首を振った。

 

 

「ダンブルドア、あなたは──あー…──本件に関して、ハリーの言葉を信じるというわけですな?」

 

 

その言葉の隠された蔑みの響きに、誰もが気付く。一瞬沈黙が落ちたが、シリウスが低い声で唸り毛を逆立て、ファッジに向かって牙を剥いた。

 

 

「勿論じゃ、わしはハリーを信じる」

「あなたは、ヴォルデモート卿が帰ってきたことを信じるおつもりらしい。異常な殺人者と、こんな少年の──しかも……いや……」

 

 

奇妙な冷笑を浮かべたまま、ファッジはちらりとハリーを見た。

その視線を受け──ハリーは突然、何故こんな目を向けられ懐疑的なのかがわかった。

 

 

「ファッジ大臣、あなたはリータ・スキータの記事を読んでらっしゃるのですね」

 

 

ハリーの静かな声に、ハーマイオニー、ロン、ビル、モリーは跳び上がり勢いよくハリーを見た。

目の前で繰り広げられる衝撃的な会話に気を取られ、ハリーが起き上がっていたことに全く気が付かなかったのだ。

 

ファッジはハリーの言葉を受け、少し頬を赤めたがすぐに挑戦的で、意固地な表情を浮かべ「ふん、」と鼻息荒く一蹴した。

 

 

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