最終課題の翌日の夜に、ハリーはグリフィンドール寮に戻った。
その日の朝食時にダンブルドアがハリーをそっとしておくよう、迷路で何があったのかと質問したり、話をせがんだりせぬよう諭していた。
そのため、ハリーは好奇と──一部の生徒はリータ・スキーターの記事を信じているのだろう──怖々とした目で見られ、すれ違うだけでひそひそと嫌な内緒話をされたが、ハリーはあまり気にならなかった。
ロンとハーマイオニーとソフィアは片時もハリーの側を離れなかった。4人で他愛もないことを話したり、ロンとハーマイオニーが魔法チェスをしているのを黙って見ているのがとても心が安らぎ、好きな時間だった。
ハリーは翌日の夜には、ロンとハーマイオニーとソフィアには、何があったのか、何を見たのかを話していたが──それ以来、3人がハリーにもう一度話をせがむ事も、その件で自論を言う事も無かった。
4人とも、言葉に出さずとも、ホグワーツの外で起こっているなんらかの便りや知らせを待つほかないのだと感じていた。
ヴォルデモートはホグワーツには居ない、ヴォルデモートに対抗するため、数々の大人が外で密やかに動いている。
4人は、今この場で闇雲に動き回るのは良くないのだと、はっきりとわかっていた。
一度だけ、4人がこの話題に微かに触れたのは、モリーが家に帰る前にダンブルドアと会った時のことを、ロンがハリーに話したときだった。
「ママは、ダンブルドアに聞いたんだ。君が夏休みに、まっすぐ僕の家に来ていいかって。でも、ダンブルドアは──君が少なくとも最初だけはダーズリーのところに帰って欲しいんだって」
「どうして?」
「ママは、ダンブルドアにはダンブルドアなりの考え方があるって言うんだ。──信じるしかないんじゃない?」
ロンはやれやれと言うように首を振り、肩をすくめた。
ハリーがロンとハーマイオニーとソフィア以外に話が出来るのは、ハグリッドとルイスだけだった。
しかし、ルイスには──ハリーは何も言わなかった。毎年何かあれば陰ながら助けてくれるルイスは、ハリーが退院したと分かるとすぐに駆けつけ、何も言わずにただハリーを抱きしめた。
ハリーはルイスにも何があったのかを伝えようかとしたが──ルイスの後ろにいるヴェロニカを見て、言うのをやめた。
ルイスは今、暇な時間があればヴェロニカとの思い出を作っている。後数日しか一緒に居ることが出来ない恋人との時間を、自分のために使わせるのがなんとなく──申し訳なかったのだ。
闇の魔術に対する防衛術の教師はもう居ない為、その授業の時間は自由時間となっていた。ソフィア達は木曜日の午後、その時間を利用してハグリッドに会いに行った。
ハグリッドの小屋に近づけば、ソフィア達の訪れを大歓迎したファングが吠えながら尻尾を千切れんばかりに振り、開け放されていた扉から飛び出しハリーに飛びかかると顔中を舐めた。
「誰だ?──ハリー!よう来たな。おい、よう来た!」
ハグリッドは扉から顔を覗かせると、すぐにハリーに駆け寄り片腕で抱きしめ、髪をくしゃくしゃと撫でた。
ソフィア達が中に入ると、暖炉前の木のテーブルにはバケツほどの大きなカップと、それに合う受け皿が2組置かれていた。
「オリンペと茶を飲んどったんだ。今帰ったばかりだ」
「誰と?」
「マダム・マクシームに決まっておろうが!」
ロンの興味津々な言葉に、ハグリッドはカップや受け皿を片付けながら言い、新しくソフィア達の大きさにちょうどいいカップを四つ棚から出した。
ソフィア達に座るよう促し、茶を入れ、生焼けのビスケットを一渡り進めた後、ハグリッドはじっとハリーの目を見た。
「大丈夫か?」
「うん」
「いや、大丈夫なはずがねぇ。──そりゃ当然だ、だがじきに大丈夫になる」
ハリーも、ソフィア達も何も言わず机の上に置かれた生焼けのビスケットを見つめた。
「やつが戻ってくると、わかっとった」
ハグリッドの静かな言葉に、ハリー達は驚き顔を上げ彼の小さな黒い目を見た。
「何年も前からわかっとったんだ、ハリー。あいつはどこかにいた。時をずっと待っとった。いずれこうなるはずだった。──そんで、今、こうなったんだ。俺たちゃ、それを受け止めるしかねぇ…戦うんだ。あいつが大きな力を持つ前に食い止められるかもしれん。とにかく、それがダンブルドアの計画だ。偉大なお人だ、ダンブルドアは…俺たちにダンブルドアがいるかぎり、俺はあんまり心配してねぇ」
ソフィア達が唖然として、信じ難いという目をしていることに気付き、ハグリッドはボサボサの眉をぴくぴくと動かした。
「くよくよしても始まらん。来るもんは来る。来た時に受けて立ちゃええ。ダンブルドアがお前さんがしたことを話してくれたぞ、ハリー。お前さんは、お前の父さんと同じくらい大したことをやってのけた。これ以上の褒め言葉は、俺にはねえ」
ハグリッドは胸を膨らませ、誇らしげにハリーを見る。
ハリーはにっこり微笑み返した──ここ何日かで、はじめての笑顔だった。
「ダンブルドアはハグリッドに何を頼んだの?ダンブルドアは、マクゴナガル先生に、ハグリッドとマダム・マクシームに会いたいって伝えてたけど…」
ハリーが聞けば、ハグリッドは少しも考える事なくこの夏に少し仕事を頼まれた事を伝えた。おそらく、マクシームも同行してくれると教えたが、仕事の内容は決してハリーにも話さなかった。
「さて、俺と一緒に最後の1匹になった爆発スクリュートを見に行きたい者はおるか?──いや、冗談だ、冗談!」
場を明るくしようと思ったハグリッドの思いつきは、むしろハリーとロンとハーマイオニーの表情を翳らせた。ソフィアだけが目を輝かせ「見に行くわ!」と言いかけたが、ハグリッドがすぐに撤回したためその言葉は口から出ることはなかった。
夜になり、いつものように人がまばらになった大広間で少し遅い夕食を食べていると、ふわり、とソフィアの目の前にルイスのペットであるシェイドが現れた。
「…?こんな時間に……」
ソフィアはシェイドの足に括り付けられていた羊皮紙を解き、その中に書かれている短文を読むと、すぐにローブの内ポケットの中にいれた。
差出人の名前も何もない手紙には、ただ『今日の夜8時に』とだけ書かれていた。見覚えのある、文字に、ソフィアはそれだけでどこに行くべきか、誰の手紙なのかを察した。