【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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236 四年目終了!

 

 

ハリーがプリベット通りに帰る前夜──つまり、今年度ホグワーツで過ごす最終日を迎えた。

ハリーは自室でトランクの中に荷物──服や山ほど出た宿題だ──を詰めながら、気が重かった。例年なら学年末の晩餐会は、寮対抗の優勝が発表される素晴らしい祝いの宴だった。

 

しかし、ハリーは最終課題後、大勢の生徒がいるだろう時間を避けて大広間に向かっていた。仕方がないとはいえ、好奇の眼差しや言われのない噂話が耳に入ると、やはり少し気が滅入ってしまうのも事実だ。

 

ハリーは机の引き出しの中を整理していたが、ふと、奥の方にファッジから受け取った対抗試合の勝者に送られる一千ガリオン金貨の入った袋を見つけ、ずっしりと重いそれを手に取った。

 

 

──僕は、優勝したわけじゃない。これは僕が持つべき物じゃない。

 

 

ハリーは瞼の奥に焼き付いて離れないセドリックの悲惨な死に顔を振り払うかのようにトランクの中にその金貨の袋を突っ込み、上から服を被せ見えないようにした。

 

 

──ソフィアに告白だなんて、とても出来ないや。

 

 

ハリーは深い溜め息をこぼすとトランクを閉じ、既に支度を終え扉の前で待っていたロンの元に駆け寄った。

 

 

 

ハリー、ロン、ハーマイオニー、ソフィアが大広間に入ると、すぐにいつもの飾り付けが無いことに気がついた。

最後の晩餐会では、優勝した寮の色で飾り付けがなされている。しかし、今夜は教職員テーブルの後ろの壁に黒い幕がかかっていた。

 

ソフィア達は、すぐにそれがセドリックの喪に服している印だと気付いた。

 

すでに到着していた生徒達も、いつものような楽しげな表情ではなく、悲しみに染まり表情が暗い。賑やかな大広間は、鬱々とした重い空気が満たされていた。

 

 

ダンブルドアは生徒皆がそれぞれの席に座ったのを見ると椅子から立ち上がる。その表情はいつものような優しさと楽しさが含まれたものではなく、風のない湖面のように静かなものだった。

 

 

「今年も、終わりがやってきた」

 

 

ダンブルドアは皆を見回していたが、その視線をハッフルパフのテーブルで止めた。ハッフルパフ生は、どの生徒よりも沈み、悲しげな青い顔が並んでいた。──無理もない、セドリックはハッフルパフの光だったのだ。

 

 

「今夜は皆に色々話したいことがある。しかし、まずはじめに、1人の立派な生徒を喪った事を悼もう。本来ならここに座って──皆と一緒にこの宴を楽しんでいる筈じゃった。さあ、みんな起立して、杯をあげよう、セドリック・ディゴリーのために」

 

 

全員がその言葉に従った。

椅子が床を擦る音のみが響き、誰も一言も話すことなく盃を持つ。

 

 

「セドリック・ディゴリー」

 

 

ダンブルドアの声に合わせ、皆が低い声で彼の名前を呼ぶ。

微かな啜り泣きの声が、暗い大広間に広がった。

 

ソフィアはセドリックの事とはさして交流があったわけではなく、よく知らない。ただ、クィディッチでは誰よりもフェアなプレイを望み、優しい人だったという事だけは、知っている。

 

 

「セドリックはハッフルパフ寮の特性の多くを備えた、模範的な生徒じゃった。忠実な良き友であり、勤勉であり、フェアプレイを尊んだ。セドリックをよく知る者にも、そうでない者にも、セドリックの死は皆それぞれに影響を与えた。それ故、わしはその死がどのようにもたらされたものかを、皆が正確に知る権利があると思う──セドリック・ディゴリーはヴォルデモート卿に殺された」

 

 

大広間に恐怖に駆られた騒めきが走る。誰もが不安げな顔で友人と「嘘だろう?」と囁き合い、恐ろしそうにダンブルドアを見つめた。ソフィア達は、一言も言葉を交わす事なく、ダンブルドアの話の続きを待った。

 

 

「魔法省は、わしがこのことを皆に話す事を望んでおらぬ。皆のご両親の中には、わしが話したという事で驚愕なさる方もおられるじゃろう──その理由は、ヴォルデモート卿の復活を信じられぬから、または皆のようにまだ年端もゆかぬ者に話すべきではないと考えるからじゃ。しかし、わしは大抵の場合、真実は嘘に勝ると信じておる。さらに、セドリックが事故や、自らの失敗で死んだと取り繕う事は、セドリックの名誉を汚すものだと信じる」

 

 

驚き、恐れながら、今や大広間の顔という顔がダンブルドアを見ていた。

しかし、ドラコは近くにいるクラッブとゴイルに何かひそひそと話しかけており、ハリーはそれを目にし、言いようのない怒りが込み上げてきた。──今は、マルフォイなんかに構ってられない。ハリーは無理矢理視線をダンブルドアへと戻した。

 

 

「セドリックの死に関連して、もう1人の名前を挙げねばなるまい。──もちろん、ハリー・ポッターの事じゃ」

 

 

大広間に先ほどとは異なる漣のような騒めきが広がった。何人かがハリーの方を見て、そして慌てて視線をダンブルドアへと戻した。

 

 

「ハリー・ポッターは、辛くもヴォルデモート卿の手を逃れた。自分の命を賭して、ハリー・ポッターはセドリックの亡骸をホグワーツに連れ帰ったのじゃ。ヴォルデモート卿と対峙した魔法使いの中で、あらゆる意味でこれほどの勇気を示した者はそう多くはない。そういう勇気を、ハリー・ポッターは見せてくれた。それが故に、わしはハリー・ポッターを讃えたい」

 

 

ダンブルドアは厳かにハリーに向き合い、真っ直ぐに見つめ杯を上げる。

大広間の殆どの者が先程と同じようにハリー・ポッターの名前を唱和し、杯を上げた。

 

ハリーは起立した生徒達の間からドラコ、クラッブ、ゴイルをはじめとした数多くのスリザリン生が頑なに席についたまま、杯に触れずにいるのを見た。

ただ、ルイスはじっとハリーを見つめ杯を上げていた──スリザリン生の中で、その行動は異質でありかなり目立っていただろう。ドラコが嫌そうな顔でルイスのローブを掴み、着席させようとしたがルイスはそんなドラコを無視していた。

 

 

ハリーには、それだけで十分だった。

ハリーは少し顔を伏せ、皆が着席し出したのと同じタイミングで席についた。

 

 

ダンブルドアは皆が席に着くと、再び静かに話を続ける。

 

三大魔法学校対抗試合の目的は魔法界の相互理解を深め、絆を強固にしていくものだった。ヴォルデモートと対抗するためには、強い友情と信頼の絆が必要不可欠であり、これから待ち受けるだろう困難を乗り越えて行くために、──正しき事と、易し事への選択を迫られた時には、セドリック・ディゴリーという、一つの尊い命が失われた事を忘れてはならぬと、強く伝えた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

翌日、ソフィア達は混み合った玄関ホールで他の四年生達と共に馬車を待っていた。

 

フラーとクラムが代わる代わるハリーの元を訪れ、最後の挨拶にやってきたのだ。クラムは最後、ハーマイオニーと話したかったのだろう。2人きりで話したい、その言葉にハーマイオニーは少し頬を赤く染めながら、頷きクラムに続いて人混みの中に姿を消した。

 

最後の別れをしているのはハリー達だけではない。この一年弱の間に、他校の生徒と交友を深めた者は多く、誰もが別れを惜しみ、再び会う事の約束を取り付けていた。

 

 

「ヴェロニカ」

 

 

ルイスは恋人であるヴェロニカの手を取り、悲しそうに微笑む。ヴェロニカもまた、ルイスと離れるのは寂しく──胸が締め付けられるようだった。

 

 

「ルイス、私はあと1年で卒業する。──イギリスで、仕事を探そうと思う。待っていてくれるかな?」

 

 

ヴェロニカは真剣な目でルイスを見つめ、その手を取った。

ルイスは目を見開き驚き、嬉しそうに笑ったが──彼女にそれを言わせる自分が、何故かとても情けなく思ってしまった。

 

 

「勿論!…夏休み、手紙を書くし──会いに行くよ」

 

 

ルイスは強くヴェロニカの手を握り返し、そのままぐっと強く下へ引く。片手でヴェロニカの頬に手を伸ばし、身長差を埋めるように背伸びをして、そっと掠める程度のキスを送った。

 

 

「僕が、迎えに行くからね」

 

 

ルイスは甘く囁き、ぱさりと流れたヴェロニカの髪を一房掴むと、その髪にも口づけを落とす。ヴェロニカはルイスからのはじめてのキスに白い頬を赤らめ、幸せそうに微笑んだ。

 

 

ルイスはヴェロニカがダームストラングの生徒達と船へ登るのを、その黒髪が見えなくなるまで見つめていた。

 

熱を持った頬を手で押さえ、ふう、と小さく溜め息を零す。

 

 

「…せめて、同じ身長になりたいな」

 

 

ルイスは遠くから自分の名を呼ぶドラコの声が聞こえ、名残惜しそうに船を見ながら到着した馬車の方へゆっくりと向かった。

 

 

 

 

 

ハリー、ロン、ハーマイオニー、ソフィアは4人で1つのコンパートメントに座った。

ピッグウィジョンは煩く鳴き続けていた為に、1年前のように、またロンのドレスローブで覆い隠されていた。

空いている席にクルックシャンクスとティティがふわふわとしたクッションのように丸まり、身を寄せ合って仲良く微睡む中、ソフィア達はここ1週間は無かったほど自由に、沢山の話をした。

 

別れの宴でのダンブルドアの話が、ハリーの胸の奥に詰まっていたものを拭い去り、ハリーは前ほど、あのときの出来事を話すのが苦痛ではなかった。

 

4人は、ダンブルドアがヴォルデモートを阻止するのに今もどんな措置をとっているのだろうかとランチのカートが回ってくるまで顔を寄せ合いコソコソと話し合った。

 

 

ハーマイオニーがカートから戻り、お釣りを鞄にしまうとき、鞄に挟んであった日刊預言者新聞がぱさりと床に落ちた。

ハリーは読みたく無いような、読みたいような複雑な気持ちで日刊預言者新聞を見下ろし、その視線に気づいたハーマイオニーが落ち着いた声で言った。

 

 

「何にも書いてないわ。自分で見てごらんなさい。セドリックの事も書いてないの、多分、ファッジが黙らせているのよ」

「ファッジはリータを黙らせられないよ。こんな話だもの、無理だ」

「あら、リータは第三の課題以来、何にも書いてないわ。──実はね、リータ・スキーターはしばらくの間、何も書かないわ。私に自分の秘密をバラされたくないならね」

 

 

ハーマイオニーは得意げな顔をしたが、少しその声は震えていた。

ソフィアは「あっ!」と叫び、今まで忘れていたが第三の課題の時にスキーターを捕まえようとしていた事をようやく思い出した。

 

 

「捕まえたのね!?」

「どう言う事だい?」

「学校の敷地に入っちゃダメなのに、どうしてあの女が個人的な会話を盗み聞き出来たのか、私たち突き止めたの!」

 

 

ハーマイオニーはここ数日、これが言いたくてうずうずしていたが、他に起こった出来事の重大さから判断してずっと黙っていた。今なら、それを言っても大丈夫だろうと目を輝かせ、悪戯っぽく笑う。

 

 

「君たち、どうやって突き止めたの?」

「そうね、実は──ハリーとソフィアがヒントをくれたの」

 

 

ハーマイオニーは結論を直ぐに言うことは無く、その結論に至った過程から全てじっくりと説明するつもりだった。

 

 

「僕とソフィアが?」

「ええ、盗聴器、つまり──虫よ」

「だけど、それは出来ないって言ったじゃないか」

 

 

ハリーは困惑し、ハーマイオニーがマグルの機械は正常に動かないのだとはっきりと自分に教えた事を思い出した。

 

 

「ああ、機械の虫じゃないのよ。──つまり、リータは無登録の、アニメーガスなの。あの女は変身してコガネムシになるの」

 

 

ハーマイオニーの声は勝利の喜びに震えていた。鞄を探り、中から密封した小さな広口のガラス瓶を取り出し、よく見えるようにハリー達の前に掲げた。

 

 

「嘘だろ?まさか──あの女が、まさか……君、冗談だろ?」

 

 

ロンは信じられず、小声で呆然と言いながら瓶の中に枯れ葉や枝と一緒に入っているコガネムシをまじまじと見つめる。

 

 

「私、アニメーガスになれるようになったんだけど。あれって根気と運が有れば出来るのよ。アニメーガスは動物だけじゃなくて、虫になれるのは、図書館で調べて知ったのよ。──ほら、スキーターの前に…私たちは前例を知ってるでしょ?」

「病室の窓枠のところで捕まえたの、よく見て。触覚の模様があの女がかけていた眼鏡にそっくりだわ!」

 

 

ハリーとロンはじっとコガネムシを見つめ──確かに、似ていると感じた。

唐突にハリーはハグリッドの母親の事を聞いた時、近くにこのコガネムシが石像にとまっていた事を思い出し、ソフィア達に伝えた。

 

ハーマイオニーはにっこりとした笑顔で、第二の課題の時クラムが自分の髪にゲンゴロウがついていると言ったが──あれはきっと、コガネムシの間違いだったのだと説明した。

 

 

「僕たちが木の下にいるマルフォイを見かけた時……」

「マルフォイは手の中にいるリータに話しかけていたのよ。マルフォイは勿論知ってたんだわ。だから、リータはスリザリンの連中からあんなに色々おあつらえ向きのインタビューが取れたのよ」

「まぁ!そんな、酷いわ!……まさか、ルイスも…知ってたのかしら…」

 

 

ソフィアはハーマイオニーの言葉に、表情を翳らせた。ルイスはスキータがアニメーガスだと知っていて、それを黙認し自分達のあらぬ噂を書かれるのを、良しとしていたのだろうか。

 

 

「さあ…そこは、ルイスに聞かないとわからないわ。──知っていて、黙っていたのなら、少し…その、悲しいわね」

 

 

ハーマイオニーは声を落とし呟くと、気を取り直すように瓶を軽く振った。

 

 

「私、ロンドンに着いたら出してあげるってリータに言ったの。ガラス瓶に割れない呪文をかけたの。ね、だからリータは変身出来ないの。それから私、これから1年間はペンを持たないようにって、言ったの。他人の事で嘘八百を書く癖が治るかどうか見るのよ」

 

 

落ち着き払って微笑みながら、ハーマイオニーは鞄の中に瓶を戻した。

 

 

「なかなかやるじゃないかグレンジャー」

 

 

コンパートメントの扉が静かに開き、冷たい声が響く。ドラコがいつものような嘲笑いを浮かべコンパートメントの扉にもたれ掛かり、その隣にはルイスが目を瞬かせながら立っていた。

 

 

「それじゃあ──」

「ハリー!──僕、僕はスキーターがアニメーガスだったなんて、知らなかった!僕にインタビューに来た時は、普通の姿で、校庭にいて……」

 

 

ルイスはドラコを押し退けコンパートメントに入るとすぐにハリーの足元に座り込み、困惑し不安げな顔でハリーを見上げる。

 

 

「…本当に?」

「……うん、嘘じゃ無い。ソフィアに誓うよ」

 

 

ハリーはほっと胸を撫で下ろし、笑った。

ルイスの真剣な眼差しを見て嘘はなかったのだろうと思ったが、そのルイスの言葉は、なによりも信じられた。

 

 

「信じるよ、だって、君は友達を貶める事なんてしないから」

「…!うん、ありがとうハリー」

「まあ、ルイスはヴェロニカとずっと一緒で最後の方はドラコと居なかったものね」

「あー…まぁね」

 

 

ルイスはソフィアの言葉に少し頬を赤らめ肩をすくめる。

1人蚊帳の外になったドラコはぐっと眉を寄せるとコンパートメントに少し入り込み、薄笑いを浮かべ中を見回した。

 

 

「お前達は哀れな新聞記者を捕らえたってわけだ。それで、ポッターはまたしてもダンブルドアのお気に入りか。結構な事だ。──考えないようにすればいいってことかい?何も起こらなかった、そういうフリをするわけかい?」

「出ていけ」

 

 

ハリーは低い声ではっきりと伝えた。

その短い言葉には怒りが込められており、ルイスはぱっと立ち上がると毎度のことながら何故ドラコはここまでハリーに食ってかかるのかと内心で溜め息をつき、ドラコの肩を掴んだ。

 

 

「ドラコ、もう──」

「君は負け組を選んだんだ、ポッター!言ったはずだぞ、友達は慎重に選んだ方がいいと、僕が言ったはずだ!覚えてるか?ホグワーツに来る最初の日に、列車の中で出会った時の事を?間違ったのとは付き合わない事だって、そう言ったはずだ!」

 

 

ドラコはルイスの言葉を遮り、青白い顔を歪め叫んでいた。

ルイスとソフィアは目を見開き、ドラコを見つめる。その言葉は、ハーマイオニーとロンを侮辱しているようでもあるが──紛れもなく、ドラコの苦い願いが込められているように思えた。

 

つまり、ドラコは──本当は、ハリーと友達になりたかったのだ。打算的に、ヴォルデモートを退けた奇跡の子だから友人に相応しいという思いがあったのだろう。いや──だが、彼は代々スリザリン生を排出するマルフォイ家の人間だ。その上で、ハリーと友達になりたかった、それは、つまり──。

 

ルイスは何も言えず、口を閉ざした。

ルイスだけが、今のドラコの心の中にある複雑な思いを読み取ることが出来た。ソフィアには、それは出来なかっただろう。何故ならソフィアはドラコと離れている時間が長すぎた、友人──だった。

 

 

興奮したドラコは、自分が何を言ったのかを理解し、自分自身に腹を立てるかのように顔を歪め舌打ちを溢したが、頭を振るとすぐにまた、冷笑を浮かべた。

 

 

「もう手遅れだポッター!闇の帝王が戻ってきたからには、そいつは最初にやられる!穢れた血やマグル好きが最初だ!いや──2番目か、ディゴリーが最初──」

「──プロテゴ・デュオ」

 

 

誰かがコンパートメントで花火を一箱爆発させたような音がした。四方八方から発射された呪文の目の眩むような光、連続して耳をつん裂く爆発音。

 

それが収まり、上がった煙が晴れた時。

現れたのはドラコを守るようにハリー達の間に立つ、暗く苦しげな表情を浮かべたルイスと、驚き顔を引き攣らせているドラコだった。

 

 

「なんでそんな奴を守るんだ?」

「…フレッド…」

「そんな価値があるか?」

「…ジョージ……」

 

 

真剣な表情をして現れたフレッドとジョージは2人とも杖を持っていた。いや、2人だけではなくハリーとロンとハーマイオニーも杖を持ち、各々別の魔法をドラコに向けたのだった。しかし、ドラコは蒼白な顔をしていたが、ルイスに守られ傷ひとつ負っていない。

 

ルイスは杖を一振りし、跳ね返った魔法により傷ついたコンパートメントを修復し、ドラコに向き合った。

 

 

「ドラコ。……セドリックの事を侮辱するのはダメだ、それは、人としてやってはいけない」

「……」

「衝動的に馬鹿な事を──ただ傷つけてやろうと思って言う癖、直した方がいい」

「…、…」

 

 

ドラコはルイスに何を言われても俯き唇を噛み、頷くことは無かった。

ルイスは大きなため息をつくと、冷ややかな目で自分達を見るハリー、ロン、ハーマイオニー、フレッド、ジョージを見て──目を揺らせた。

 

 

わかっている、ドラコの言葉は許されるものではない、それに、僕がドラコを庇う程に、僕は彼らの信頼を失っていく。

だけど、ドラコの心を彼らはきっと理解できない。それが出来るのは──僕だけなんだ。

 

僕には、沢山の友達がいる、話を聞いてくれ、時には叱ってくれる優しい人がいる。

だけど、ドラコには、僕しかいない。

 

 

「ルイス、僕は──君を…これからも、友人だと、思いたい」

 

 

ハリーの静かな言葉に、ルイスは拳を強く握った。

 

今後、()()()数々の苦悩が待ち受けているだろう。それを予感し、どちらの手を取るべきかなんて──悩むまでもない。

 

 

「ありがとう、ハリー。僕も君たちの事は、ずっと大好きだし、友達だよ」

 

 

ハリー達は硬らせていた表情を緩める。ドラコはパッと顔を上げ、絶望感が滲む顔でルイスを見つめた。

 

 

「──でも、僕にとっての親友は、ドラコなんだ。何があっても、それは変わらない」

 

 

ルイスは呆然とするハリー達に悲しそうに笑いかけると、ドラコの手を引きコンパートメントから出ていった。

 

 

暫く、コンパートメントに重い沈黙が落ちた。

フレッドとジョージが頭を掻きながらどかりと空いたスペースに座り、ハリーは辛そうな顔で椅子に座り込む。

 

 

「──なんだよ、アイツ!根っからスリザリンになっちまったのか!?」

 

 

ロンは悔しそうに悪態を突き、苛々とした態度で足を揺する。ソフィアはじっと自分の足の上で握られた手を見下ろしていたが、その言葉を否定する事はなかった。

 

 

──ルイスは、父様から何があったのかを聞いた。そして、父様がこれから何をするのかも…だから、ルイスは、ドラコの側にいる事を選んだのね。ドラコを守る為に。

 

 

 

ソフィアとルイスは、学期が終了する前の木曜日の夜。セブルスに呼び出されていた。

セブルスは最終課題でハリーとセドリックの身に何があったのかを話し、そして夏季休暇には──死喰い人への密偵として働かなければならず、殆ど家で過ごす事が出来ないのだと伝えていた。

 

 

 

「ルイスは、多分、易しい道じゃなくて、彼なりの正しい道を選んだのよ」

「はあ?マルフォイが正しい道だって?正気か?」

「……違うわ、自分の心への、正しさよ──きっとね」

 

 

ソフィアの言葉にまだロンは納得できないようでぶつぶつ文句を言っていた。ロンだけではなく、ハリーやフレッドとジョージもまた、悲しく、失望したような顔で黙り込んでいた。

 

彼らにとってルイスは友達だ。

だが、ルイスから告げられた言葉は──決別の言葉のように聞こえたのだ。

 

 

「…ま、ルイスは優しいからな」

「そうだな。──爆発スナップして遊ばないか?」

 

 

フレッドとジョージは場の落ちた空気を変えるように明るく言うとカバンの中から爆発スナップを取り出した。

 

 

 

ーーー

 

 

ホグワーツ特急に揺られながら、フレッドとジョージが誰を脅迫したのかをソフィア達は聞いた。

バグマンを脅迫した理由は──騙されて、彼らの全財産を奪われたからだ。

どうしてもまとまった金が必要だったバグマンは小鬼と賭け事をし、ハリーが優勝する事に莫大な金をかけた、だからバグマンは何度もハリーに有利な助言をしようとしていたのだ。

バグマンは課題が終了後、ハリーが勝ったと小鬼に言ったが、小鬼はセドリックとの引き分けだったと譲らず、そして──バグマンは逃げ隠れてしまった。

 

ジョージとフレッドの深いため息にハリーはだからあの2人があんなにお金に執着していたのかと思った。全財産を失ったが、彼らは悪戯専門店を持ちたいという夢があった、そらを叶える為に必死だったのだろう。

 

 

ホグワーツ特急が9と4分の3番線に入線し、ゆっくりと動きを止めた。生徒が降りる時のいつもの混雑と喧騒が廊下に溢れる。

 

ロンとハーマイオニーとソフィアは大きなトランクを抱え人混みの中を突き進む。

 

ハリーはじっと3人が少し離れるのを待ち、爆発スナップのカードを片付け、コンパートメントを出ようとしていたフレッドとジョージを呼び止めた。

 

 

「フレッド、ジョージ──ちょっと待って」

 

 

ハリーはトランクの中から対抗試合の賞金を取り出し、ジョージの手に袋を押し付けた。

 

 

「受け取って」

「えっ?ハリー、正気か?」

「狂ったか?」

 

 

フレッドとジョージは驚き、流石に受け取れないと押し返したが──ハリーはきっぱりと首を振り、もし受け取ってくれないのであればドブに捨てると脅した。

 

 

「僕、金なんてほしくないし、必要ないんだ。──でも、少し僕を笑わせてほしい。僕たちはきっと、これから笑いが必要になると思うんだ。多分、今よりもずっとね」

 

 

ハリーの真剣な声に、フレッドとジョージは目を見開く。この金は、喉が出るほど欲しい、だが、正当な対価もなくこんな莫大な金を受け取っていいわけがないと、2人は思っていた。

 

 

「ハリー」

「さあ、受け取って。さもないと呪いをかけるぞ。今ならすごい呪いを知ってるんだから!──ただ、一つお願いがあるんだけど、ロンに新しいドレスローブを買ってあげて、君たちからだと言って」

 

 

ハリーは2人が口を開く前にコンパートメントの外に出てソフィア達の元へと向かった。

 

 

ハリーが柵を超えたとき、既にモリーのそばにソフィア達が集まっていた。──ルイスがその中にいないことに、ハリーはちくりと胸が痛んだ。

 

モリーはハリーを見ると、しっかりと抱きしめ耳元で囁いた。

 

 

「夏休みの後半は、あなたが家に来る事をダンブルドアが許してくださると思うわ。連絡を頂戴ね、ハリー」

「じゃあな、ハリー」

 

 

ロンがハリーの背中を叩き、モリーは目に薄ら涙を溜めながら体を離した。

入れ替わりでソフィアがハリーに抱きつき「またね、ハリー!」と優しく頬にキスを落とす。

 

 

「うん、ソフィア、またね」

 

 

ハリーは、はじめて自分からソフィアの頬にキスをした。ソフィアは驚いたが、すぐに嬉しそうに笑う。

 

ソフィアはロンとハーマイオニーにも別れのハグとキスを送り、大きなカートを押し1人人混みの中に紛れた。

 

 

駅の出口には、ルイスが側の柱に背を預けソフィアの到着を待っていた。どこか、寂しげなその横顔を見たソフィアは思わず駆け出すと、勢いよく抱きついた。

 

 

「ルイス!」

「…ソフィア。…さ、帰ろうか」

 

 

今日は、迎えがないから時間がかかるし。とルイスは心配そうなソフィアの顔に微笑みかけた。

 

 

「まぁ、今きた道を戻らないといけないものね。──ルイス…あなた、大丈夫?」

「うん、まぁ…大丈夫だよ」

 

 

ルイスは困ったように笑い、ソフィアの手を取った。

 

 

 

 

 

炎のゴブレット  完

 

 






長かった…!
ようやく終了しました。これからソフィアとルイスは別の道を歩むことになります。
いつも閲覧してくださり、ありがとうございます!
また、誤字報告やコメントも本当にありがたいです…!
励みになります。
今後どんどん闇の中に落ちていく可能性が有りますが、どうなるのか…。ソフィアの恋の行方は…。
不死鳥の騎士団編も、頑張って書いていきますのでよろしくお願い致します。
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