【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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238 必要とする場所!

 

 

ソフィアとルイスは次の日、セブルスとの一日をゆっくりとして過ごした。次会えるのはいつかわからない。もうホグワーツでしか会えない可能性も高いだろう。

 

 

セブルスは別れ際に何度も2人にくれぐれも気をつけるように、万が一何か危険な事があれば、躊躇う事なく魔法を使うように告げ、名残惜しむように、2人を強く抱きしめ、安息の地から去っていった。

 

 

次の日、ソフィアは鞄の中に杖と、少しのガリオン金貨、入るだけの食料、そしてティティを連れてダンブルドアから受け取ったポートキーを手にしていた。

 

壁にかけられた時計は9時58分を指している。あと少しで──どこに行くのかはわからないが、自分を必要とする場所に向かう事になる。

 

 

「ソフィア、もし…危険な場所なら、すぐに逃げるんだよ」

 

 

ルイスは心配そうに眉を下げる。ソフィアがどこに飛ばされるのかはわからない。ダンブルドアが渡したポートキーなのだ、万が一にも危険なものではないだろう、そうルイスと──ソフィアも思っていたが、見知らぬ場所に向かう緊張はあった。

 

 

「ええ、大丈夫よ。何かあったらすぐにナイトバスを呼んで漏れ鍋に運んでもらうわ。それにティティもいるし」

「きゅ!」

 

 

ティティはソフィアの肩に乗り、「お任せあれ!」と言うように胸を逸らし目を輝かせた。

ソフィアは魔法を緊急事態でない限り使う事は出来ないが、ティティは妖狐の血を引き何にでも姿を変えることが出来る。何かあればれっきとしたボディーガードになるだろう。

 

 

「──もう、時間だわ。行ってきます!」

「行ってらっしゃい、本当に、気をつけてね」

 

 

ルイスは一度ソフィアを抱きしめ、頬にキスをするとそっと離れた。

ソフィアはにっこりと笑い──そして、鳩尾からぐい、と引っ張られるようにその場から姿を消した。

 

1人残ったルイスは、暫くソフィアが消えた場所を見ていたが、小さくため息をつくとリビングのソファに座り、祈るように指を組んだ。

 

 

「母様…兄様…。どうか、ソフィアと、父様を守って…」

 

 

切々とした呟きは、広い家の中に響いた。

 

 

 

 

 

ソフィアは2度目のポートキーの感覚に、ぞわぞわとした奇妙な吐き気を感じながらもなんとか地面に足がついた瞬間踏ん張った。少し前屈みにはなってしまったが、そのまま一回転するように転んでしまう事はなかった。

 

 

目に飛び込んできたのは、──なにか、暗いザラザラとしてそうな物で、ソフィアはそれが何なのか分からず、警戒したまま体を起こした。

 

 

「──痛っ!?」

 

 

ゴツン、と頭をぶつけてしまい、ソフィアは悲鳴を上げ目の前に散った白い星々にくらりとしながらも、頭を押さえつつ辺りを見回す。

 

 

「…木の…虚の中…?」

 

 

薄暗く、狭いそこはどうやら木の虚の中らしかった。

足元には雑草に混じり枯れ葉が数枚落ちていて、所々菓子のゴミ袋が散乱しているのが見える。

細く白い光に誘われるまま、ソフィアはそっとその隙間から身を乗り出した。

 

 

「ここは……?」

 

 

広い芝生に、少しの遊具。

見覚えのあるそれらにソフィアは目を瞬かせ、暫し呆然としていた。

 

 

「ソフィア!?」

 

 

直ぐに聞き覚えのある声が響き、ソフィアがそちらを見れば、ブランコに座っていたハリーが驚愕の中に喜びを溢れさせてソフィアに駆け寄ってきたところだった。

 

 

「ハリー?」

「今年も遊びに来てくれたんだね!うわぁ!嬉しいなぁ!あ、ティティも久しぶり!」

 

 

ハリーは嬉しそうにソフィアににっこりと笑う。ソフィアは目を瞬かせていたが、とりあえず危険は無さそうであり、肩に入っていた力を抜き「まだ数日しかたってないわよ」と笑った。

 

 

「ルイスは?」

「んー…私だけなの」

 

 

ハリーは背伸びをしてソフィアの後ろを覗き見た。最後、ホグワーツ特急で気まずく別れたものの、ハリーにとってルイスは大切な友人の1人である。たとえ、彼が自分にとって憎いマルフォイと仲が良くてもそれは変わらない。

──勿論、良い気はしないが。

 

ハリーはすぐに虚の中からルイスが現れると思ったが、いくら待ってもその姿が見えない事に首を傾げる。ソフィアは困ったような顔をしながら、ハリーの手を取るとそのまま虚の中に引き入れた。

 

 

「ソフィア…?」

「私が何でここに来たのか…。その、私も良くわからないの」

 

 

ソフィアは座り込み、ティティを膝の上に置くとその白い毛並みを撫でつつ言葉を探すようにゆっくりと伝える。てっきり遊びに来てくれただけだと思っていたハリーは、「どういうこと?」と怪訝な顔をした。

 

 

「私を必要とする場所に行かなければならないって、ダンブルドア先生に言われて、このポートキーを貰ったの」

「ダンブルドアから?」

「ええ、夏休み中、出来る限り多く…ここにくるようにって──多分、ハリーと会えって事だと思うわ」

「僕に?……でも、どうして?」

 

 

ソフィアと頻繁に会えるのは何よりも嬉しいが、何故ダンブルドアがそれを望むのか、ハリーは分からず首を傾げる。

しかし、ソフィアも明確な答えを持っているわけではなく、同じように首を傾げた。

 

 

「さあ、わからないわ。──このポートキー、夜の6時まで発動しないの。…うーん、とりあえずそれまで遊びましょうか!」

 

 

考えてもわからないものは仕方がない。ソフィアは気を切り替えるように笑い、頭をぶつけぬよう注意して立ち上がる。

ハリーは喜びを溢れさせ、ぱっと輝く笑顔を見せて「うん!」と大きく頷いた。

 

 

その日、ソフィアとハリーは広い公園でポートキーの時間が来るまで遊んだ。

時々ソフィアが持ってきていたお菓子を食べ、温かな陽だまりの中微睡む。猛暑のせいで枯れかけてきている芝生の上に寝転び、目を閉じているソフィアの横顔をハリーはチラリと見て、ここ数日のストレスや不安が軽減されていくのを感じた。

 

 

ヴォルデモートが復活した。

 

しかし、購読するようになった日刊預言者新聞ではその事に一切触れていない。ファッジのあの反応から仕方がないとはいえ、何故信じず周知しないのかと酷くもどかしかった。

それに、すぐに行動に起こすのだろうと思っていたシリウス達からの手紙も無い。

 

まだ夏季休暇が始まり2日目だったが、ハリーは早くも魔法界が恋しくなっていたのだ。

 

 

──確かに、僕はソフィアを必要としていたのかもしれない。魔法界との繋がりを求めていたし……ソフィアは、好きな人だし…。

 

 

ハリーは頬が胸がトクンと変に大きく跳ねたのを感じた。

 

 

白いカッターシャツを着たソフィアの腹の上にはティティがすやすやと気持ちよさそうに眠っている。

芝生の上には真っ黒で、美しく艶やかな髪が広がり、閉じられている瞼の下にはキラキラと光るようなエメラルドグリーンの瞳がある。

いつも白い頬は、この暑さのせいなのか少し桃色に染まり、まつ毛は微かに震えている。

 

 

久しぶりにソフィアの寝顔を見たハリーは、ソフィアはこんなにも可愛かっただろうか、と不思議な気持ちになった。

 

いや、ソフィアは可愛い。けれど、学年一の美女ではない。──だけど、何だか…今までとは少し、違うような。

 

 

ハリーがじっと見つめていると、ソフィアの瞼が一際大きく震え、ふ、と開いた。

微かな木漏れ日の光を反射し、ソフィアの緑色の目がハリーを見つめる。

 

 

「ハリー?」

「──え?」

「どうしたの?」

「え、あー。ううん、なんでもない。なんだか、暑いよね。記録的猛暑なんだってさ」

 

 

ハリーは慌てて目を逸らすと、パタパタと手で熱くなった頬を扇いだ。

 

 

 

ーーー

 

 

ソフィアがハリーの元へ行くようになり、4週間ほどが過ぎた。

流石に毎日向かう事は難しかったが──何せ、一度ハリーの元へ行ったら夜の6時まで戻ってくることが出来ないのだ──それでも2日に一度は必ずハリーが待つ公園へ行っていた。

 

 

ソフィアとハリーは夏の茹だるような灼熱から逃れるため、日中は公園にある古木の虚の中で過ごしていた。

ここなら魔法界の話をしても誰かに聞かれる心配はなく、暑さも凌げる。2人の隠れ場所としてはちょうど良かった。

 

 

この夏1番の猛暑であり、外に出ている者は殆どいない。ソフィアはティティが暑さにバテてはいけないと途中から連れてくる事はなく、ただハリーと何の変哲もない日々を過ごしていた。

そのうちに、ソフィアはハリーが日を重ねる毎に苛つき、そわそわと落ち着かなくなっている事に勿論、気が付いていた。

 

 

「ソフィア。ソフィアは何か聞いてない?ほら──ダンブルドアとかシリウスとかハーマイオニーとかロンから何もない?」

 

 

このハリーの問いは、2人が会うようになり、2週間が過ぎた頃から毎日、続いていた。

ソフィアは「またこの話ね」と思い、少し呆れたようなため息をつき、首を振る。

 

 

「何もないわ。私も手紙は送ったけれど…ハーマイオニーとロンは多分、騎士団の隠れ家にいるのね、忙しいって書いてたわ」

「何で、僕たちは行けないんだろう」

「ダンブルドア先生に何か考えがあると思うの。私にも、然るべき時に。…としか教えてくれなかったし…夏休み初日に少し会って以来、何の連絡も無いわ」

「何で、教えてくれないんだろう。だって、僕が──僕が、ヴォルデモートに唯一、立ち向かったのに!」

 

 

ハリーはここ数日我慢していた鬱憤が溢れてしまい、大きな声で叫んだ。

ソフィアは息を飲み、ヴォルデモートと言う言葉に凍りついたような目でハリーを見たが──少し悩むように唇に手を当て、木の虚の内側をぼんやりと見つめた。

 

 

「それは……。そうね、ハリーは当事者だもの、秘密にする理由も…ここに縛り付ける理由も…よくわからないわ。何故、ハーマイオニーとロンは隠れ家に行けるのに、私とハリーはここでその時を待たなければならないのかしら…。……いえ、違うわ。きっと──それには、とても深い理由があるのよ、そうに違いないわ。隠れ家よりも、ここが…ダンブルドア先生は安全だと考えている…?」

「ここが安全?まぁ、魔法界の情報がなーんにも入ってこないからね、確かに安全だよ、なーんにも、知れないから!」

 

 

ソフィアの言葉に臍を曲げたハリーはむしゃくしゃとした気持ちのまま足元の落ち葉を手で粉々にした。

ソフィアに当たるのは間違っている、ソフィアも何も知らないんだ。──だが、どうしても今の現状に納得がいかず、その答えを唯一魔法界について話せるソフィアに求めてしまう。

 

 

「……、…ハリー。ダンブルドア先生は不死鳥の騎士団を再結成していて、隠れ家を作っているの」

「ああ、なんか、…そう言ってたね」

「おそらく、守り人を立てて隠れ家自体を守っているんだわ。けれど…だからといって安全かどうかはわからないと、ハリーと私はよく知っているでしょう?」

 

 

ハリーは思いもよらぬ言葉に驚いてソフィアを見る。

ソフィアは真剣な眼差しのまま、悲しそうに目を揺らしたが──その言葉にはどこか確信が込められていた。

 

 

「ハリー、例のあの人はあなたを狙ってる。ダンブルドアは再結成した不死鳥の騎士団員が全員本当に同じ志を持つのか、裏切り者がいないのか、この場所が第三者に漏れる事はないのか……多分、色々対策をとってるんだと思うわ。だから私たちは、ここで待たなければならない」

「…そうだとしても。何で?…僕は、まだわかるよ。その予想ならね。…何でソフィアまで?」

「…それは……」

 

 

ソフィアは言葉を切り、薄暗い中でも分かるほど頬をぽっと赤く染め、困ったように視線を彷徨わせた。

真剣な空気は一気に拡散し、ハリーもつられるように──何だか無性に気恥ずかしくなり、視線を逸らす。

 

 

「それは、ほら。…ダンブルドア先生の言葉を借りるなら──あー──ハリーにとって、私が必要だからとか?…その、精神的に?」

 

 

ソフィアは照れたように悪戯っぽく笑い、視線を逸らしたハリーの顔を覗き込む。

ハリーはその表情を見て、今まで感じていた苛つきや怒りが遠い何処か彼方へ飛んでいったのを感じた。

その代わりに胸を占めたのは、甘酸っぱい感情だろう。

間違いなく、ソフィアがいる事により精神的に落ち着いている。

何も知らされないことへの怒りは日々大きくなるが、ソフィアがまた来てくれるんだと思うと──同じように何も知らない、大好きな人だ──まだ心は落ち着いた。

 

 

「うん。ソフィアがいなかったら…僕、箒に跨って漏れ鍋に行ってたかも」

「あら、私が少しでも役に立てたなら光栄だわ」

 

 

ソフィアは鞄の中から棒付きキャンディを取り出し、1つハリーに手渡す。包みを開ければ七色のキャンディが顔を出し、ソフィアはぱくりと咥えた。

 

 

「これ、味が変わるの、すっごく美味しいわよ」

「ありがとう。──ん?苺味かな?」

「ええ、途中でバタービール味にもなるわ」

 

 

暫くは甘い飴を口の中で転がしていたハリーだったが、今度は落ち着いた声でソフィアに訪ねた。

 

 

「でも……でも、どうして、何も起こらないんだろう。もうヴォルデモートが復活してかなり経つのに」

 

 

ヴォルデモート、という言葉にソフィアは再びぎくりと肩を震わせたが、誤魔化すようにキャンディの棒をくるくると指先で弄びながら膝を抱えた。

 

 

「マグルの大量殺人が起こると思った?」

「…うん」

「多分だけどね。……例のあの人は復活したけれど、あの墓場で──あの日に集まった支持者はそれほど多くなかったんでしょう?本当に有能で、あの人に忠実な部下はアズカバンに投獄されているわ。今はあの人も、勢力を蓄えているのよ。たしかに、あの人は驚異的な力を持つ……けれど、全てを1人で行う事は不可能よ。地盤を固めるために…あの人も密かに動いているのね」

「…そうか…。どっちも、お互いにバレないようにしてるんだね」

「ええ、手の内を明かすのは愚かだわ。対策がとられてしまうもの。今二つの勢力は互いに負けないように…水面下で戦ってるのよ。仲間を増やしたり──スパイを送ったりね」

 

 

ソフィアは低く暗い声で呟くと、心配そうな眼差しでじっと青色に変わった飴を見つめた。

 

夏季休暇が始まって1か月が経つが、あれからセブルスは一度も家に帰って来なかった。勿論、ジャックも姿を見せない。

一度ルイスと共にエドワーズ孤児院に向かおうとしたが──煙突飛行ネットで行くことができなかった。つまり、外部から切断されているのだ。

心配になりジャックに手紙を送ったが、その返事もまだ来ていない。

 

 

「…魔法界でも、不穏なニュースとかはないの?」

「うーん。特に聞かないわ。でも、不穏なニュースがない、というのもニュースなのよ」

「…、…なんだか、ソフィアの言い方、ハーマイオニーみたいだ」

 

 

すぐに答えを言わないところなど、ハーマイオニーにそっくりだとハリーは嫌そうに顔を歪めたが、ソフィアは光栄だというように笑った。

 

 

虚に差す光が弱くなっている事に気づいたソフィアはふと腕時計を見た。

 

 

「あ!もうすぐ時間だわ」

 

 

慌てて鞄の中からポートキーである小瓶を取り出し、ほっと息をつく。

ハリーはもうそんな時間かと残念に思いながら口の中に残っていた飴を噛み砕いた。

もし、さまざまな色に変化する飴をバーノンやペチュニアの前で見せびらかすように舐めることができれば、きっと彼らはこの飴のように顔色を変化させかなり愉快だろう。

 

だが、その後一切家から出してもらえなくなるかもしれない。今、ハリーにとって魔法界との繋がりはソフィアの存在だけである。ソフィアに会えなくなるのは何よりも耐えられなかった。

 

 

「またね、ハリー」

「うん、またねソフィア」

 

 

ソフィアはにっこりと笑い、軽く手を振り──そして、ぎゅっとその小瓶に引き込まれるようにして消えた。

 

 

ハリーは飴の棒をぽいっとその場に捨て、大きなため息をこぼし──後、最悪4週間もここで耐えなければならないのだと考えると、せっかくソフィアと会って落ち着いていた気持ちが、またぐらぐらと煮えたぎるような気がした。

兎に角何かを知りたい一心で、ハリーはダーズリー家へ戻り──そして、マグルのニュースを聞くために外の花壇の影に隠れた。

 

 

 

 

 

「ただいま。…ルイスー?」

 

 

ソフィアは家のリビングに現れ、ルイスの名を呼びながら辺りを見渡した。何度もポートキーでの移動を行なっているソフィアは、独特の浮遊感による吐き気やバランスを崩し倒れそうになることはもう無かった。

 

 

 

「──ああ、お帰りソフィア」

 

 

ルイスはキッチンからひょこりと顔を出し、手に持っていたフライ返しを少し上げながら「もうちょっとでご飯できるから!」と伝え、再び顔を引っ込めた。

 

魔法を使わずに過ごすのは面倒だったが、ルイスはマグル式で家事をすることは慣れていた。いつも夏休みの間、父親がいなければこうしてマグル式で行っていたのだ。それに、料理に関してはなんとなく──魔法で作るよりも、マグル式で作る方が魔法薬の調合のようで、好きだった。

 

ソフィアも手洗い場で手を洗った後、すぐに夕食の支度を手伝った。机の上に食器を浮遊させる事なく、両手でキチンと運び、2人分並べる。──料理があまり得意ではないソフィアは、基本的に料理以外のことをしていた。去年までは当番を決め、交代で料理を作っていたが、ルイスが「もう少し料理のレパートリーを増やしたいから」と2人きりの生活が始まった頃にソフィアに告げ、それからはルイスがほぼ毎食の料理当番になっていたのだ。

 

 

「あ、ソフィア!今日お皿とカトラリーは3つね!」

 

 

そう言いながら、ルイスは大きなボウルに入ったサラダと、丸々と大きなローストチキンが乗った鉄板プレートを浮遊させながらリビングへ運んだ。

 

 

「え?──あっ!まさか!」

 

 

嬉しそうに弾んだルイスの言葉と、魔法を使っている様子に、ソフィアはぱっと顔を輝かせると運んでいた水差しを机の上に置き、すぐに二階への階段を駆け上がり、とある扉を開いた。

 

 

「──父様!」

 

 

その部屋は研究室のように壁に沿って本棚や薬草棚があり、様々なものが並んでいた。持ち主の性格を表すかのように、それらはキチンと整理整頓されている。

中央には大きく広い机があり、1か月の間不在だったが──今は、セブルスが座り、沢山の書類を見ながら周りにふわりと本や羊皮紙を浮かせていた。

 

 

「帰ったのか、ソフィア」

「えっ!そ、それは私のセリフよ!父様、いつ帰ってきたの?もう!わかってたらハリーのところに行かなかったのに…!」

 

 

ソフィアは心から残念そうに叫び、セブルスのそばに寄るとその頬にキスを落とした。

特にやつれている様子もないし、怪我もしていなさそうだ。少し目の下に隈があるが──許容の範囲内だろう。

 

 

「今日の昼ごろに帰ってきた」

 

 

セブルスは自分の顔を覗き込むソフィアの髪を優しく撫でる。

ソフィアは嬉しそうに目を細め、期待を込めて聞いた。

 

 

「いつまで、ここに居るの?」

「招集があれば、行かねばならん。おそらく…まぁ、3日程だろう。新年度の準備もせねばならんからな」

「そうなの…3日だけでも、嬉しいわ!」

 

 

もう新学期が始まるまで会えないのだろうと思っていたが、こうしてわずかな時間でも会える事は何よりも嬉しい事だった。

セブルスもまた、沢山の事務作業が残っていたが──流石に手を止め、久しぶりの再会を噛み締めながらしっかりとソフィアと向かい合い、母親譲りの美しい目を見つめた。

 

 

「──ソフィア!父様!夕食の時間だよー!」

「はぁい!今行くわ!」

 

 

階下からルイスの呼ぶ声が聞こえ、ソフィアはセブルスの腕に自分の手を絡ませて引っ張った。

セブルスも特に抵抗する事なく椅子から立ち上がり、嬉しそうに笑うソフィアに引かれて部屋を出る。

扉を開けた途端、ふわりと良い匂いが漂い、ソフィアとセブルスを優しく包んだ。

 

 

久しぶりの家族揃っての食事は、嬉しさが抑えられないのか、ソフィアはニコニコと笑い上機嫌で話した。ルイスもまた、ヴェロニカとの文通の内容を、ほんの少しだけセブルスとソフィアに伝え、楽しそうに話す。

 

 

「ソフィア、おそらく──1週間以内に、ジャックが迎えにくるだろう」

「え?ああ!ようやくなのね?」

 

 

ソフィアはマッシュポテトを食べながら、大きく頷く。一瞬何のことかと思ったが、そういえば隠れ家にいつ行けるのかと気になっていたのだ──セブルスの帰宅という何よりも喜ばしいニュースにより、すっかり忘れてしまっていた。

 

 

「そっかぁ、じゃあ僕は暫く一人暮らしだね」

 

 

ルイスは少し残念そうだが、今でも2日に一回はほぼ、一人で過ごしている。

この家にはまだ読みきれていない本が沢山あり、五年生になればOWL試験が待っている。読書や試験勉強をしていれば、自然と時間が経つのは早く、寂しく思う事はなかった。それに──ソフィアがハリーの元へ行った後、こっそりとヴェロニカと暖炉越しに話をするのも、楽しかった。

 

 

「スピナーズエンドの家から持ってきた新しい本を書斎に入れてある。暇つぶしには、なるだろう」

「わぁ!ありがとう、父様」

「1週間以内ねぇ…。それって、ハリーもなの?…ハリーに言っていい?ハリー、誰からも何も聞かされてないって…すっごく不貞腐れてるわ」

 

セブルスはハリーの名前にぴくりと眉を跳ねさせたが、何も言わず──掬っていたスープを静かに飲み、かちゃんと皿の中にスプーンを置いた。

 

 

「いや。何も教えるな。──何故だか、わかるだろう?」

「…んー…ハリーが、死喰い人に狙われていて、万が一今でも監視されているのなら。…変化に気付かれてしまうから、かしら?」

「…まぁ、それも間違いではない。──ソフィア、ルイス。今年は…今年も、一層困難な事に巻き込まれるかもしれん。何か異変があったらすぐに言いなさい」

「はい、父様」

「わかった」

 

 

ヴォルデモートが復活した今、9月1日からダンブルドアの加護があるホグワーツ城で過ごすことが出来るとはいえ、何も無いとはもう──考えられない。この4年間、毎年何らかしらの事が起こっているのだ。これで今年は何もないと考える方が不自然だろう。

 

セブルスは2人が異変があったらすぐに自分を頼る事が無いと──わかっている。

毎年返事だけはいい双子だが、友の秘密を守る為に、どんな危険な事があったとしてもこの2人は自分に何も言わずに突き進むのだろう。

 

 

ソフィアとルイスは「今年も大変だろうね」と言い合い──無性に可笑しくてくすくすと笑い合う。

 

 

セブルスは楽しげに笑うソフィアとルイスを、一瞬真剣な目で見つめたが、すぐに柔らかく緩めると、明るく賑やかな雰囲気を楽しむかのように口先で微笑んだ。

 


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