【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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245 勘違いは正さないと!

 

 

次の日からソフィア達は騎士団本部であるブラック家の大掃除をしていた。

屋敷中に住み着いているドクシーを駆除する薬品を噴射し、汚れた床や壁を拭き、箒で掃いた。これだけ大人がいるのだから、とソフィアは魔法を使い掃除をしていたが、すぐにモリーに知られ「未成年は魔法の使用は認められていません!」と強めに叱られてしまい、仕方なくそれからはマグル式で掃除をしていた。

 

途中、マンダンガスが本部にこっそりと盗品を運び、モリーの怒りを買い雷が落ちたり、ハウスエルフのクリーチャーがぶつぶつとハリー達を侮辱しながら通り過ぎたり、ブラック家の家系図を見たりしたが──それを除けばソフィア達は殆ど掃除をしていたと言えるだろう。

 

そうこうしているうちに、ハリーが魔法省で尋問にかけられる日がやってきたが、ソフィアとハーマイオニーとロンがそれに気がついたのは朝食の席になってからだった。

 

 

「あれ?──ふぁ…あ──ハリーは?」

 

 

ロンは部屋のベッドも空だった事から、早めに目が覚めて朝食を食べているのだろうと思ったが、厨房にハリーの姿はない。

トーストを齧り欠伸をこぼしながらロンがモリーに聞けば、モリーは人数分の目玉焼きを作りながら「もう出たわ」とあっさりと答える。

その答えに、暫しソフィア達は固まったが──ようやく、今日が尋問の日だと思い出した。

昨夜は遅くまで掃除や片付けをしていて、疲れ切りぐっすりと眠ってしまったのだ。時刻はもう8時を指している。

 

 

「ああ!すっかり忘れてたわ…どうしよう、励ましたかったのに…」

「ハリー、大丈夫かしら?まさか、退学だなんてないわよね?」

 

 

ソフィアはうっかりしていた自分自身を責めるかのように唸りながらトーストを噛みちぎり、ハーマイオニーは心配そうに指先でトーストのカリカリとした耳を削った。

 

 

「大丈夫だよ。未成年でも命の危機があれば魔法を使う事は許されているんだ」

 

 

落ち着かないソフィアとハーマイオニーに、リーマスが紅茶のカップに角砂糖を4つほど入れながらのんびりと告げる。

ゆったりとしたその語り口調に込められた確信を持った響きに、ソフィアとハーマイオニーは少し表情を緩め「そうよね、大丈夫よね」と顔を見合わせ頷き合った。

 

しかし、その日午前中に行われた階段の掃除は、誰も身が入らなかったと言えるだろう。

ロン、ソフィア、ハーマイオニーだけでなく、モリーも手すりを磨いてはいたがどこか上の空で同じ所を汚れた雑巾で何度も拭いていた。

そんな掃除をしていては、いつもならモリーが目敏く見つけすぐに雷を落としたが、今日は彼女自身もそうであった為「だめ!早めに休憩にしましょう」とため息混じりに言い、濁った水が張られているバケツに雑巾を突っ込んだ。

 

 

 

ハリーがアーサーと共に帰ってきたのは、尋問が開始される9時過ぎだった。

尋問の開始は9時だと言っていた、それほど早く尋問が終わるわけがない、まさか日程が変更になったのかと思ったが、何のことはない、尋問の時間が大幅に変更になったのだ。

偶然かなり早めに目覚めたハリーを落ち着かせる為に、尋問の時間よりも3時間は早く出発していてなんとか、遅刻の悪印象を与えずに済んだのだ。

ソフィアは急に変更となった時間に少し悪意を感じだが、それでも満面の笑みのハリーとアーサーを見てホッと胸を撫で下ろす。

 

 

「無罪だった!」

「思った通りだ!君はいつだってちゃんと乗り切るんだから!」

「ああ、良かったわ!まぁ当然だけど!」

「そうね、無罪で当然よ!」

 

 

数日続いていた暗い表情がすっかり晴れ渡る笑顔になったハリーを囲み、ロンとソフィアとハーマイオニーは喜びの声を上げる。

 

 

「あなたには何の罪も無かったんだから、なーんにも!」

「僕が許されるって思っていたわりには、みんなずいぶんホッとしてるようだけど?」

 

 

ハリーはニヤリと笑ってソフィア達の表情を見てそう言い、3人はにっこりと嬉しそうに笑い「まぁね!」とハリーの背を労うように叩いた。

無罪を信じてはいたが、やはり不安は不安であり、モリーはエプロンで目元を拭い、ジニーとフレッドとジョージは戦いの踊りのような仕草をしながら「ホーメン、ホーメン、ホッホッホー!」と陽気に歌い厨房をぐるぐると回る。

 

 

「やめなさい!──ところでシリウス、ルシウス・マルフォイが魔法省にいたんだ」

 

 

アーサーは馬鹿馬鹿しくも陽気に踊る3人を注意したが、その表情はにっこりと笑っている。しかし、ルシウスの事になると少し声を顰め席に着き紅茶を飲んでいたシリウスに真剣な目で囁いた。

 

 

「なに?ルシウス・マルフォイだと?」

「そうなんだ、地下9階でファッジと話しているのを私たちが目撃した。それから2人は大臣室に行った。ダンブルドアに知らせておかないと」

「その通りだ、知らせておく。心配するな」

 

 

シリウスは真剣な顔で頷き、アーサーはモリーから濃い紅茶を一杯貰い、そのまま仕事へと向かってしまった。

 

ソフィア達は大きなテーブルの席に着き、紅茶と少しの茶菓子を摘みながらハリーがどのような尋問を受けたのかを聞いた。

 

 

「勿論。ダンブルドアが君の味方に現れたら、奴らは君を有罪にできないよ」

「うん、ダンブルドアのおかげで僕が有利になったんだ」

 

 

話を聞きながら、ソフィアはハリーがそのダンブルドアに対して喜びと感謝だけでは無く別の感情を抱いていることに気づく。どこか、ダンブルドアと名を口にした時に、いつものように純粋なキラキラとした尊敬や敬愛だけが込められてはいなかったのだ。

 

そうか、ハリーはダンブルドア先生本人からの説明を求めているんだわ。私たちは一度はあっている。けれど、ハリーの元には来ていない。

ここに来る事はあるらしいけれど、夜中にしか来ないらしいし……たしかに、誰よりも忙しいとはいえ、今までのダンブルドア先生ならハリーと会って激励の一つ弁解の一つしそうなものなのに。

 

 

ソフィアがそう思っていると、ハリーが小さく呻き額をぱちんと手で押さえる。

 

 

「どうしたの?」

「傷が…でも、なんでもない。今じゃ…しょっちゅうだから」

 

 

ソフィアが心配そうにハリーの顔を覗き込めば、ハリーは首を振り、全く無問題だと言うようににっこりと笑い、紅茶を飲んだ。

 

 

 

ハリーが無罪になってから数日。

ハリーは自身がホグワーツに戻る事を心底喜んではいない人物がいることに気づいた。──シリウスだ。

 

シリウスは初めこそ他の人と同じようにハリーの無実を喜んでいたが、日が経つにつれ以前より塞ぎ込み、不機嫌になり、ハリーともあまり話さなくなった。シリウスの母親の部屋にバックビークと共に長時間閉じこもるようになってしまったのだ。

 

それに気付いた数日後、ハリーは四階のカビだらけの戸棚を擦りながら思いの一端をソフィア達に打ち明けた。

 

 

「やっぱり、シリウスは僕が有罪になって退学になる事を望んでいたんだ」

「自分を責める事はないわ!あなたはホグワーツに帰るべきだし、シリウスはそれを知っているわ。個人的に言わせてもらうとシリウスは少しわがままよ!」

 

 

すぐにハーマイオニーが憤慨しながら小声で叫び、ゴシゴシと戸棚を擦る。

 

 

「それはちょっとキツイぜハーマイオニー。君だって、この屋敷に独りぼっちで釘付けなってたくないだろう?」

「独りぼっちじゃないわ!ここは不死鳥の騎士団の本部よ?シリウスは高望みして、ハリーがここにきて一緒に住めばいいと思ってるのよ!」

「そうじゃないと思うよ。僕がそうしてもいいかって聞いた時、シリウスははっきり答えなかったんだ」

 

 

ハリーは雑巾を絞りながら呟く。

シリウスなら自分をダーズリー一家から遠ざける事をよしとすると思っていた。三年生の時、無実が証明されたら一緒に暮らさないかと持ち掛けたのはシリウス本人だったからだ。たしかにあの時とは色々変わってしまったが、ハリーはきっとここで暮らせると──少なくとも来年の夏休みは戻ってきても良いのだと思い込んでいた。

だが、シリウスは曖昧に笑い肩をすくめただけで、両手を上げて喜ぶ事は無かった。

 

 

「自分であんまり期待しちゃ駄目だって思ったのよ。それに、きっと少し罪悪感を覚えたのね。だって心のどこかであなたが退学になれば良いって願っていたと思うの。そうすれば2人は追放された者同士になれるから」

 

 

ハーマイオニーは単純明快だと言うように言ったが、ハリーとロンは同時に「やめろよ!」と叫ぶ。ハーマイオニーは自分の考えに自信があり、反論こそしなかったが肩をすくめただけだった。

 

 

「聞けばいいじゃない。シリウスに」

 

 

ハーマイオニーとロンとハリーの会話を聞いていたソフィアが指先についたカビをこっそりと魔法で清めながら当たり前のように呟く。

その言葉にロンとハリーとハーマイオニーは顔を見合わせ、「それは…」と口籠った。

 

今は予想の範囲を出ないが、もし本当に退学になる事を望んでいたと言われたら──ハリーはホグワーツに帰るまでのあと数日、どんな顔をしてシリウスと会えばいいのかわからない。何より、そんな事を思うシリウスに失望してしまいそうだ。

 

 

ソフィアは汚れた雑巾をバケツの中に放り込むと立ち上がり、シリウスが今日も篭っている彼の母の部屋に続く階段を見上げた。

 

 

「私、聞いてくるわ」

「えっ!?ちょ、ちょっと!」

 

 

ハリー達は慌てて立ち上がると先に階段を昇って行ったソフィアを追いかける。

 

 

「本気で?やめた方が──」

「今まで疑問に思ってた事があって、その答え合わせもしたかったの。今ならわかるかもしれないわ」

「答え合わせって?」

 

 

後ろからのハリーの言葉に、ソフィアは階段を上がりきり、くるりと振り返ると不敵に笑った。

 

 

「すぐにわかるわ」

 

 

そのままソフィアはトントンとシリウスがいる部屋の扉をノックした。

すぐに返事は来なかったが、バックビークのぐるぐるという鳴き声が聞こえ、ソフィアがもう一度扉をノックすれば「…どうぞ」とくぐもった返事があった。

 

 

「入るわよ、シリウス」

「ああ…何だ?ハリー達まで…」

「あ、ジャックもいたのね?騎士団の話をしてたの?」

「いや、ただの世間話さ」

 

 

シリウスはカビと埃臭い部屋の中で大きなベッドの上に伏せているバックビークの側でその体を優しく撫でていた。

一つある椅子に座り、シリウスのそばに居たのはジャックだ。彼はあまり長時間騎士団に滞在する事はないが、たまに時間が合えば昼食や夕食を食べて行くこともある。

 

ソフィアは特に何も思わず部屋の中に入ったが、ハリー達はどこか気まずさを感じながら部屋に入り、薄暗い室内を見回す。こんなところに閉じこもるだなんで、それだけで精神が参ってしまいそうだ。

 

 

「聞きたい事があるの。シリウス、騎士団の事じゃなくて私の事なんだけど」

 

 

ソフィアはバックビークにお辞儀をし、バックビークもそれに答えた後、バックビークの頭を撫でながら辺りを見渡す。

座る椅子がない事を知るとすぐに杖を振り、近くに落ちていた置物を丸椅子に変えた。ハリー達が座る分も出現させたため、3人は顔を見合わせとりあえず、その椅子に座った。

未成年が魔法を使っていることに、シリウス──勿論、ジャックもだが──は特に注意する気は無いのか何も言わずに「何だ?」と首を傾げる。

 

 

「シリウスは、私とハリーがいとこだって知ってるでしょう?母様──アリッサと、シリウスは仲良かったの?」

「え?──いや、アリッサはスリザリンだったからな、仲が良いかと言われると…どうだろうな」

 

 

シリウスはまさかアリッサの事を聞かれるとは思っていなかったのか、面食らったような表情をしたが、当時を懐かしむように遠い目をした。

 

 

「悪くは無かった。普通に話す事もあったな…。アリッサは…スリザリンでも異質だったからな。良くも悪くも目立っていた」

「それは、マグル生まれだから?」

「ああ、そうだ。スリザリン寮の馬鹿げた思想は知ってるだろう?──入学当初は、かなり大変だっただろう。だが、まぁ、アリッサは中々に優秀で強かな女性だったからな…実力で黙らせていた、なぁ?ジャック?」

「ああ、今でも思い出せるよ。…いやー…本当、すごかったな」

 

 

ホグワーツでのアリッサの過去を思い出し、シリウスとジャックは喉の奥でクツクツと低く笑う。何があったのかは分からないが、少々過激な悪戯が好きなシリウスが当時を思い出し笑うほどだ、()()ことがあったのだと想像に難く無い。

久しぶりに見たシリウスの笑顔に、ハリーはホッとした。最近はずっとムッツリしていて、不機嫌だった。何も答えてくれないかと思っていたが──思ったより今日は機嫌が良いのかもしれない。ジャックがいるからだろうか?

 

ソフィアは(アリッサ)がホグワーツで何をしたのか少し気になったが、深く突っ込んで聞く事はなかった。この中で自分の父親の事を知っているのはジャックとハーマイオニーだけだ。もし、何かの話でそれを読み取られては困る。

 

 

「それに、ジャックがいたからな…スリザリンだったが、入学する前から俺とは知り合いで──」

「え?そうなの?」

 

 

シリウスの言葉にソフィアは驚き目を瞬かせる。シリウスもまた、ソフィアがその事を知らなかったのだと分かると意外そうな顔でジャックを見た。

 

 

「言ってなかったのか?」

「言うタイミングが無かったからな。…ほら、シリウスは少し前までお尋ね者だったし?」

「ああ、確かにそうだな」

 

 

ニヤリと笑ってジャックが言えば、シリウスも同じように笑う。

数年前まで、シリウスは凶悪犯だった。いや、今も魔法族の大多数にとってシリウス・ブラックは12人もの命を奪った犯罪者であり、アズカバンの脱獄囚だ。だが、それは冤罪であり、ジャックもダンブルドアから去年の末にそれを聞かされ、会う事が出来て、ようやくシリウスの冤罪を信じる事が出来た。──何より、ジャックは既に死喰い人の集会でピーター・ペティグリューと会い、その生存を確認している。

 

 

尤も、セブルスと同じくシリウスを心から許している、というわけではない。間接的にアリッサ達を死なせる原因になったのはシリウスと、ジェームズの企みによるのだから。

 

表面的には以前と同じような付き合いをしているジャックに、シリウスはそれに気付いているのか、気付いていて何も…それが贖罪だとわかっていて、言わないのか──兎に角、2人は以前のように気軽に話す間柄になっていた。

 

 

「ジャックは俺の又従兄弟だからな。家系図にも載っていたが、気がつかなかったか?」

「えっ…ぜ、全然気がつかなかったわ!」

「俺の家は…エドワーズ家は純血なんだ。ブラック家と同じく由緒正しい純血主義を掲げる純血魔法族様ってやつだな。…まぁ、俺もシリウスも、それを馬鹿馬鹿しいと思っているけどな?」

 

 

再びジャックとシリウスが喉の奥で笑うなか、ソフィアはジャックを見て、たしかに純血という括りにこだわっていなさそうだと思った。

しかし、それならジャックが交友関係が広いのも理解出来る。それは彼個人の力では無く、今日まで続くエドワーズ家の功績の一部なのだろう。

 

 

「ジャックは早くからアリッサと仲が良かった。だから──まぁ、スリザリンでも悪いやつばかりじゃ無いって事は知ってたさ。リリーの姉だったしな」

「へぇ…やっぱり母様はホグワーツで有名だったのね?ハリーのお母さんのリリーさんと姉妹だって事は、知られていたのでしょう?まぁ、双子でそっくりだったから隠しようも無かったとは思うけれど」

「そうだな、2人は鏡のようにそっくりだった」

「それなら、やっぱり騎士団員は私とハリーがいとこだって知ってるのね」

「ああ──あ」

 

 

シリウスは頷いた後、まずい、という表情をしたが今更否定しても疑われるだけだろう。頭を指先でぽりぽりと掻きながら、「まあ、そうだな」と再度頷く。

 

 

「やっぱりね。…私は1ヶ月間、ハリーの元に向かうようにダンブルドアに言われたの。何でかわからなかったんだけど、シリウス達は知っているのね?──それに、シリウス、あなたハリーがこの家で過ごすことに複雑な反応だったらしいわね?おかしいわ、あなたならすぐに過ごしたいと思うはずよ。来年からここで過ごすように言うはずだわ、つまり、それが出来ない…自分の心情よりも大切な理由があるのね」

「何を──」

「私がハリーの元に行く理由は、血縁だから。ダーズリー家と私の繋がりはそれだもの。ダーズリ家は私にとっても、いとこだから──やっぱり騎士団だけが知っている何か理由があるのね、例えば、血による強固な守りとか?」

「……ジャックから何か聞いたのか?」

 

 

シリウスは真剣な顔をし、一瞬ジャックを見た後低い声でソフィアに聞いたが、ソフィアはくすりと小さく笑うとバックビークの嘴を撫でた。

 

 

「シリウス。あなたのそれが、答えだわ」

 

 

シリウスがそれを聞く。

つまり、それは全ての解であると言っているのと同じだ。

不敵に笑うソフィアに、シリウスは「やられたよ」と肩をすくめ、ジャックもまた「やられたなぁ」と苦笑した。

 

 

「…俺からも、一つ聞いていいか?」

「え?ええ」

 

 

シリウスは一瞬、居心地が悪そうにしているハリー、ロン、ハーマイオニーを見た後、口をゆっくりと開く。

 

 

「ソフィア、お前の父親って──ジャックか?」

「え?それは…ジャックは私の育て親(パパ)だけど…?」

 

 

ソフィアはきょとんとして不思議そうに首を傾げ、シリウスは「やっぱりそうか」と大きく頷き、ジャックはまたもすれ違いが起きている、と頭を押さえた。

 

ソフィアの言葉は、たまに言葉が足りず誤解を招く事がある。セブルスに対してもそうだったが、他人のことはとても聡い子だが──自分に対してその能力は発揮されないようだ。

どう考えても、この解答ではシリウスはありもしない誤解を抱き続けてしまう。

 

 

「そうか!まぁ、そうだと思ったよ。なぜ黙ってるのかわからないが…まぁ、色々とあるからな。…アリッサと学生時代仲が良かったのなんて、ジャックか──アイツしかいないが、アレはあり得ないからな」

「…何のこと?」

 

 

ソフィアは何だか噛み合っていない気がする、と首を傾げたが、シリウスは1人納得しうんうんと頷きつつ「いや、いいんだ」と手を振り話を中断させた。

シリウスがいいならいいけど、とソフィアは小さく呟ききょとんとしたままジャックを見る。

ジャックは苦笑するだけでシリウスとソフィアの間に起きている勘違いを正す事はない。

 

 

シリウスがソフィアとルイスの父親を俺だと思っているのなら、今後のためにそう思わせた方が良いだろう。この中で彼女たちの父がセブルスだと気付く可能性があるのは、当時自分達の関係をよく知るシリウスだけだ。

アーサーやモリーは年齢が離れていて、俺たちの仲までは詳しくは知らないはず。リーマスは元から関係性を知っていたようだが、他人の家の問題を勝手に漏らす事はないだろう。

 

 

「ソフィアとルイスは俺の大切な子どもさ」

「ふふっ!嬉しいわ!」

 

 

ジャックは優しい目でソフィアを見つめ、頭を撫でた。ソフィアは何だかこそばゆいような気持ちになったが、育て親からそう言われて嬉しくないわけもなく、くすぐったそうに身を捩った。

 

 

「あ、そうそう。──それと、シリウスって意外と寂しがり屋さんなの?」

 

 

ソフィアがおどけて言えば、シリウスは脈略のない話題にぱかりと口を開け、彼にしては珍しく少々間抜けな表情をし首を傾げる。

 

 

「寂しがり屋?…何を──」

「ああ、でも、寂しがり屋さんなら、ハリーと過ごせる数日間、こんな薄暗くて埃臭いところに引きこもらないわよね」

 

 

直接的なシリウスへの苦言に、シリウスはぐっと口篭り気まずそうに俯き──ハリーからの強い視線を感じていたのだ──バックビークの体を撫でる。

 

 

「それとも、本気でハリーが退学すれば良かったって思ってるのかしら?どうみても不機嫌だもの」

「何?いや、そんな事思うわけがないだろう!」

「…え、そうなの?」

 

 

シリウスはソフィアの皮肉が滲む言葉をすぐ否定したが、それに反応したのはハリーだった。

思わず、ぽろりと口から溢れてしまい慌てて口を手で押さえたが、一度吐き出した言葉を無かったことにするのは難しい。

シリウスは怪訝な目でハリーを見て、「当たり前だ!」と少々気を害したように唸るように叫んだ。

 

 

「俺が君の退学を望むと思うか?ハリーはホグワーツに戻らなきゃならない。そりゃ、側に居られないから…不安はあるのは事実だが…俺にはどうする事も出来ないからな」

 

 

自分の無力さを嘆く自嘲混じりの言葉に、ハリーは大きく目を見開き息を飲み込んだ。

本当に望んでいないのか?そんな事僕に言えないから、嘘をついているだけじゃなくて?──だって、明らかに不機嫌だったのに。

 

 

「あ。──成程なぁ、ハリー。シリウスはソフィアが言うように寂しかっただけさ。学生時代の時から、コイツはこう見えて()()()()()()()()()()()が嫌いでね。待てないし寂しいし駆けつけたい…躾のなってないわんちゃんなんだよ」

 

 

ジャックはハリーが何に悩んでいるのか、そしてシリウスとハリーの2人の間にも勘違いがあることに気付くと、笑いながらシリウスの肩をぽんぽんと叩いた。

 

 

「はあ?俺ほど躾の良い犬は居ないぜ?」

「地図を使って抜け出すわんちゃんの何処が躾がいいのか、全く聞いてみたいな」

「そりゃあ──仲間の元に向かうのは、帰巣本能だろ?」

 

 

犬と言われても特に嫌がる事もなく、シリウスはジャックの揶揄いに、同じように揶揄いで返す。にやり、と悪戯っぽく笑えば、ジャックは降参だと言うように手を挙げた。

 

 

「まぁ、パッドフットの躾については置いといて。──つまり、ハリーは、シリウスの態度から…自分が退学になるのを本当は望んでいて、無罪になったから今怒ってて…不機嫌なんだと思ってたんだろ?」

「は?…そ、そうなのか?ハリー?」

「う…うん」

 

 

そんな事思いもしなかったシリウスは、うっすらと口を開いたまま暫し呆然とハリーの悲しそうな顔を見て──ようやく、自分の態度がハリーを悲しませ、苦しめていたのだとわかると顔を手で覆いがくりと項垂れた。

 

 

「違う!…ただ、やはり…その、俺は──ソフィアとジャックが言う通り、寂しくてな。折角ハリーと会えて、話したい事が山ほどあるのに…そんな時間は無いし、君のために騎士団として、何かしてあげられる事も無い。──自分自身に腹が立ってね、9月1日がくればハリー達が居なくなってしまうと思うと、この屋敷で楽しい事も力になれる事も何一つ無くなってしまう。──自分の無力さに、落ち込んでな」

 

 

シリウスは、ハリーとハーマイオニーが思っているほど幼稚な性格をしていない。

ハリーが退学にならなかった事に、素直に安堵していた。

ヴォルデモートが復活した今、ハリーはダンブルドアの側にいる事が一番良いのだと、シリウスは勿論理解している。

 

ただ、理解と本音はまた別の話である。

 

久しぶりにハリーと会い、短い時間に色々と話すのはなによりも楽しかった。

ハリーはジェームズとリリーの忘れ形見であり、大切な自分の名付け子なのだ。──この世界で、唯一の家族だと、シリウスは思っている。

そんななによりも大切なハリーとの別れは、やはり寂しいものだった。

9月1日が近づくにつれ、シリウスは落ち込んでしまう。ぼんやりとしているとモリーがまた煩く言うだろうし、落ち込んでいるなんて情けない姿を誰にも見せたくなくて、バックビークの元に引きこもり「また暫く会えないのか…」と辛い気持ちを吐いていたのだ。

 

そんな自分の態度がまさか思ってもいない誤解させていたとは思わず、シリウスは顔を覆っていた手を下すと、真剣な眼差しでハリーの緑の目を見つめた。

 

 

「誤解するような態度をとって、悪かった…。ハリー、俺は君が退学になればよかったなんて、考えた事は無い」

「シリウス…うん、信じるよ」

 

 

ハリーはシリウスの心からの苦しそうな言葉に、本当に自分が退学し、ここに留まることを望んでいたわけではないのだとわかり、安堵したように眉を下げた。

ハリーも、シリウスと話したい事はたくさんある。勿論、騎士団に関わる事は聞けないとわかっているが、それ以外に──そう、シリウスと、そしてジェームズ(父親)との思い出について聞きたかった。

 

 

「学生時代と変わらないな?ジェームズとリリーが付き合って、2人で過ごす時間が多くなった時も、寂しくて自室に引きこもっていたってリーマスが──」

「お前っ!──それは言うな!」

「ぷっ…ははっ!」

 

 

シリウスは慌ててジャックの言葉を遮ったが、思いもよらないシリウス(名付け親)のいじらしい過去に、ハリーは吹き出すようにして笑った。

ハリーの楽しそうな笑顔に、そんな顔を初めて見たシリウスは目を瞬かせ、驚いた顔をしてハリーを見つめる。

 

 

「ハリー…君は──顔はジェームズそっくりだけど、笑った顔はどこか、リリーに似ている」

「えっ、そう?そうなら、嬉しいな…」

 

 

似ているのは目だけだと言われているが、この笑顔も母の面影があるのなら嬉しい。──ハリーは何だか胸につかえていたものがぽろりと取れたような気になり、座っていた丸椅子を持ち上げ数歩シリウスに近づくと、キラキラとした目で見つめた。

 

 

「シリウス、僕に父さんと母さんの事を教えて?」

「あ、ああ!勿論だ!──そうだな、何から話そうか。まずジェームズとリリーは、元々はかなり仲が悪くてな」

「え?そうなの?」

「ああ、けど3年生の時にジェームズがリリーに惚れる出来事があって、それからはジェームズの長い片思いの日々だったな」

 

 

懐かしむように笑いながら話すシリウスと、目を輝かせ頬を赤く染めながら聞くハリーを見たソフィアは、これで2人が9月1日に暫くの間離れ離れになったとしても、蟠りが残る事はないだろうと思った。

これから何が起こるかわからないのだ、少しも気になる事は解消していかないと、立ち止まって振り返る暇も無いのだから。

 

 

ジャックは何も言わずに立ち上がると、久しぶりに楽しげに話すシリウスとハリーのそばを離れ、ソフィア達に「出よう」と手で合図をした。

ソフィアとロンとハーマイオニーは無言で頷き静かに部屋を後にし、ぱたん、と扉を閉める。

 

 

「…まさか、寂しかっただけ、だなんて」

「まぁ、シリウスは勘違いされやすいんだよ。カッとなりやすいし、何よりも親友の事が大切だ。だけど裏表のない良い性格をしてると、俺は思う」

 

 

 

階段を降りながらハーマイオニーがぽつり、と呟き、ジャックは苦笑しながらシリウスを思い答えた。

ハーマイオニーはちらりと今までいた部屋を振り返った後、声を顰め、どこか落ち着きなく指先でふわふわとした毛をいじりながら呟く。

 

 

「…私、シリウスは…ハリーがハリーなのか、ジェームズなのか、時々分からなくなってるような気がしたの。ハリーの面影にジェームズを必死に探しているというか…」

「あー…まぁ、うん。…アイツはずっとアズカバンに居ただろう?アズカバンで心は成長しない。あそこでは何の刺激もない、ただ屍のように無気力なまま…日々が過ぎるだけだからな。シリウスは見た目こそもういい歳だが、中身は…多分、21歳程度で止まってるんだよ。

だから、まだ…俺たちほど、ジェームズ達を失った記憶が過去の話ではないんだ。シリウスにとって、ジェームズ達は2年前に死んで、ハリーはまだ赤子だと──…今の成長したハリーが、どうしてもジェームズに見えてしまうのはあるだろうな。──アズカバンでの暮らしが長すぎて、頭では理解していても、心の奥ではまだ…割り切れていないのかもな。

…ま、ああやってハリーと話してたら、いやでもハリーとジェームズは別人だって理解するさ、どっちかっていうと、ハリーの中身はリリーに似てるからなぁ」

「そうだと良いわね」

 

 

ソフィアも閉じられた扉をチラリと見たがハーマイオニーほど不安そうな顔をする事はない。

シリウスはハリーがジェームズの外見に生写しだが、中身は全くの別人であり、ハリー・ポッターなのだと、いずれ本当の意味で理解するだろう。

そうした時、2人は本当の意味で家族になれるのかもしれない。

 

 

「あら、もう掃除は終わったかしら?」

 

 

階下から階段を降りるソフィア達を見上げ声をかけたのはモリーだった。

そういえば、掃除がまだ途中だった。そう思い出したソフィア達はバケツに突っ込んでいた雑巾を手に取り「あと少し!」と、叫んだ。

 

 

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