【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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249 ルーナという少女!

 

 

ソフィアとハリーは空いているコンパートメントを探したが、どこも満員であり2人が──それに後で合流するだろうロンとハーマイオニーを足して4人が──入る事のできるコンパートメントは無かった。

ハリーは通路を歩きながら、自分を見つめる視線がいつもより多いことに気付く。その目は、いつもの生き残った男の子を見る好奇心の視線ではなく、どこか疑心が含まれていることに、ハリーは嫌でも気付かされた。あの目は、二年生の時に自分がスリザリンの後継者では無いかと思われた時に感じた視線と、去年選手に選ばれてしまった時の視線に似ている。

 

 

空いているコンパートメントが見つけられないまま、ソフィアとハリーは最後尾までたどり着き、ネビルと出会った。

まだ手にトランクとしょっちゅう逃げ出すヒキガエルのトレバーを持っていることから、彼もコンパートメントを見つけられていないのだろう。

 

 

「やあ、ハリー、ソフィア。……どこもいっぱいだ、僕、席が全然見つからなくて…」

「あら…私たちもなの──って、ここは?1人しかいないわよ?」

 

 

ソフィアは残念そうにしたが、ネビルの後ろのコンパートメントを覗き込み首を傾げる。

 

 

「えっ…あー…邪魔したくなくて…」

「…?誰かと待ち合わせしているのかしら?──こんにちは、ここいいかしら?」

 

 

ソフィアはコンパートメントを開け、中に1人で座っている少女に声をかける。

雑誌を読んでいた少女は驚いたように目を見開いていたが「ええ、どうぞ」とすぐに答えた。

 

 

「ありがとう」とお礼を言ったソフィアは中に入りトランクと籠を荷物棚に上げる。ネビルは少し悩んだが、他のコンパートメントは全て埋まっているため仕方がないと諦め居心地悪そうに中に入り、ハリーもその後に続いた。

 

ハリーはその中にいる少女を見て、何故ネビルがここに入るのを渋ったのかを理解した。

くすんだブロンドの長髪、目は驚いているかのように少々飛び出しているが、おそらくこれが彼女の普通なのだろう。

左耳に杖を挿して保管し、バタービールのコルクをいくつも繋いだネックレスをしている。それに、先ほどから熱心に読んでいる雑誌は逆さを向いている。──かなり、変人だ。

 

 

ネビルとハリーはトランク三個とヘドウィグの入った籠を荷物棚に上げて腰をかけた。瞬きの少ない目で見つめられたハリーは、彼女の正面に座るんじゃなかったと後悔した。

 

 

「私はソフィア・プリンスよ、五年生で、グリフィンドールなの。あなたは?」

「ルーナ・ラブグッド。後数時間で四年生」

「ルーナ、よろしくね」

「僕は──」

「知ってる。ハリー・ポッターだ」

「──うん、そうだよ」

「あんたが誰だか、知らない」

「えっ、あ…ぼ、僕はネビル・ロングボトム…」

「ふぅん」

 

 

ルーナはぎょろりとした目のままハリーとネビル、そしてソフィアを見ていたが興味がなくなったのか逆さまの雑誌を顔が隠れる高さまで上げ、そのまま真剣に雑誌を読み耽った。

 

ソフィア達は顔を見合わせたが何も言わず、ぽつぽつと夏休みに何をしたのかを話し合った。尤も、ソフィアとハリーは騎士団のことを言うわけにもいかず、ネビルの話の聞き手になっていただけだが。

 

 

「誕生日に何をもらったと思う?」

「また、思い出し玉?」

「違うよ。でも、それも必要かな。前もらったのはとっくに無くしちゃったから……。これ、見て」

 

 

ネビルはトレバーを握りしめていない方の手で学校の鞄の中を探り、小さな灰色のサボテンが植えられている鉢植えを取り出した。

針ではなく丸い出来物が表面を覆っているソレを自慢するように掲げるネビルに、ハリーは怪訝な顔をしたが、ソフィアはぱっと目を輝かせた。

 

 

「何それ?」

「ミンビュラス・ミンブルトニア」

「わぁ!これ、すっごく貴重でしょう?良かったわね!」

「うん!これ、きっとホグワーツの温室にもないよ、スプラウト先生に見せたくて持ってきたんだ。アルジー大叔父さんがアッシリアから僕のために持ってきてくれたんだ。繁殖させられるかどうか、僕やってみる」

「うわぁ…頑張ってねネビル!あなたならきっとできるわ!」

 

 

ネビルはソフィアの言葉に嬉しそうに微笑み、大きく頷いた。ネビルは同級生の中でソフィアとハーマイオニーを凌ぐほど、薬草学が得意だった。知識量においては三者ともそれ程差はないが、ネビルは魔法植物に対する扱いが2人よりも上手く、実技の点でスプラウトも一目を置いていた。

 

 

「これ…何の役に立つの?」

 

 

ハリーはどうやらこの気味悪く脈打つ内臓のような見た目の植物が希少なものだとは分かったが、果たして何の役に立つのかはさっぱりだった。

 

 

「いっぱい!これ、びっくりするような防衛機能を持ってるんだ。──ちょっとトレバーを持ってて」

 

 

ネビルはトレバーをハリーの膝の上に落とし──ハリーはトレバーが逃げ出さないよう、ぬるりとしたその巨体を両手でしっかりと掴んだ──鞄から羽ペンを出す。

ルーナもネビルが何をするのか気になったのか、逆さまの雑誌の上から目を出し眺めていた。

 

 

「待ってネビル。──ガラスに変われ(タスフォグラス)──はい、これを持ってて、一応ね」

 

 

 

ソフィアは自分のカバンの中から取り出した3枚の羊皮紙を薄いガラスで出来た大きな盾に変身させると、ハリーとルーナに手渡し、自分もその後ろに隠れた。

 

ルーナは雑誌を膝の上に置くと興味深そうにガラスをコツコツと指で突きながらその後ろに隠れる。

ハリーは片手で持つにはなかなか大きすぎる盾に、苦闘しながらもなんとかトレバーを片腕で抱くように持ち変え、盾の裏からネビルを見た。

持ち手をつけて持ちやすくした方がよかったかしら、とソフィアが思った頃に、ネビルがミンビュラス・ミンブルトニアを目線の高さに掲げ、羽ペンの先でちょん、と突いた。

 

植物の出来物からドロリとした暗緑色の臭い液体が勢いよく噴出し天井や窓に飛び散る。勿論ソフィア達にもその液体はかかったが、盾により直撃は免れた。

ただ、ネビルは全く無防備な状況だった為、顔や体にべっとりと臭液が付着し、呻きながら目にかかった部分を払い除けた。

 

 

「ご、ごめんなさい。ネビルにも盾を渡せば良かったわ…」

「う──ううん、僕もこんなに飛び散ると思わなかった。臭液に毒がないから良かったよ…」

 

 

ソフィアはミンビュラス・ミンブルトニアの特性を知っていたため、念のため盾を出したがまさかここまで飛び散るとは思わず床や窓、そして暗緑色になってしまったネビルを見て肩をすくめた。

 

 

清めよ(スコージファイ)

 

 

ポケットから杖を出し、ソフィアが杖を振るうとコンパートメント内をべとべとにしていた臭液は綺麗さっぱりと消え、ネビルは安堵したように大きく息を吐き出した。

 

 

「ありがとう、ソフィア」

「いいのよ。──あ、臭液は魔法薬の材料になるんだった…集めて瓶詰めにすれば良かったわね」

 

 

まぁ、私は調合なんて出来るわけないけど。と苦笑しながらソフィアはガラスの盾を元の羊皮紙に戻し、ルーナとハリーから受け取るとくるくると丸め鞄の中に入れた。

 

 

 

ロンとハーマイオニーはソフィア達が車内販売員の魔女からかぼちゃパイや蛙チョコを購入し、それを食べ終わっても戻ってくることはなかった。2人が現れたのはそれから1時間以上経過し、ハリーとネビルが蛙チョコのカードを交換し始めた時だ。

 

 

「腹減って死にそうだ…」

 

 

ロンは疲れ切った表情で呟くと、ピッグウィジョンの籠をヘドウィグの隣に押し込み、ハリーが差し出した蛙チョコを受け取り包み紙を剥がしながらハリーの隣にドサリと座りこむと目を閉じて椅子の背に寄りかかる。

ハーマイオニーは荷物棚にトランクを押し込み、ソフィアの隣に座ると頭を押さえ大きなため息を吐いた。

 

 

「あのね、五年生は各寮に2人ずつ監督生がいるの、男女1人ずつ」

「それで、スリザリンの監督生は誰だと思う?」

 

 

いきなり話し出した不機嫌そうなハーマイオニーの言葉をロンが目を閉じたまま引き継ぐ。ハリーはすぐにその不機嫌さの意味を理解し、嫌そうな顔で「マルフォイ」と吐き捨てた。

 

 

「大当たり。それに、あのいかれた牝牛のパンジー・パーキンソンよ」

「牝牛って…」

「だって、脳震盪を起こしたトロールよりバカなのに、どうして監督生になれたのかしら…」

「まぁ、スリザリンは女子が少ないから…とか?」

 

 

ハーマイオニーの辛辣な言葉に、ソフィアは肩をすくめる。確かにパンジーは他のスリザリン生と同じく純血を誇りにし、マグル生まれをバカにするが、少し交流があったソフィアには、彼女にも年頃の少女らしい一面があるのだと知っている。

スリザリンとグリフィンドールが仲良くなれないのは最早仕方のない事だ、スリザリン生にかなりの原因があるのも事実。何故、ここまで仲良くなれないのか、生まれにこだわるのか──ソフィアにはわからなかった。

 

 

「ハッフルパフは誰?」

「アーニー・マクラミンとハンナ・アボット」

「それから、レイブンクローはアンソニー・ゴールドスタインとパドマ・パチル」

 

 

ハリーの疑問にロンとハーマイオニーが答える。ソフィアはぼんやりとそれぞれの顔を思い出しながら、たしかに各寮の中で優秀な生徒が選ばれているのだと感じる。確か、どの生徒も成績優秀者だ。

 

 

「あ、ハーマイオニー。魔女カップケーキ食べる?」

「わぁ!いいの?ありがとう、私もお腹ぺこぺこで…」

 

 

ハーマイオニーは嬉しそうに笑い、ソフィアの手からピンク色のカップケーキを受け取ると大きな口で頬張った。

 

 

「僕たち、一定時間ごとに通路を見回ることになってるんだ。それから、態度が悪い奴には罰則を与える事ができる。クラッブとゴイルに難癖をつけて罰則を与えるのが待ちきれないよ…」

「まぁ、ロン。立場を乱用するのはよく無いわよ?」

 

 

ソフィアが片眉を上げロンを諭したが、ロンは「ああ、そうだとも。マルフォイは絶対乱用しないだろうからな」と皮肉っぽく言いカエルチョコの足を口の中に押し込む。

ソフィアはムッとして黙ったが、ソフィアもきっとドラコは何かと理由をつけてハリーに罰則や原点を言い渡すだろう、と思っていた。

 

 

「ソフィアの言う通りよ!あいつらと同じところに身を落とすわけ?」

「違う。こっちの仲間がやられるより絶対先に、あいつの仲間をやってやるだけさ」

「まったく、もう!」

「ゴイルに書き取り100回の罰則をやらせよう。あいつ、書くの苦手だから死ぬぜ?──僕が…罰則を…受けたのは……ヒヒの尻に…似てるから…」

 

 

ロンが声を低くし顔を顰め苦しい表情を作り、ゴイルの真似をした。セブルスの真似の時もそうだったが、ロンのモノマネは微妙に似ている為ハリーとハーマイオニーとネビルは大笑いし、ソフィアも思わずくすくすと笑った。

 

しかし、この中で1番笑ったのはルーナだろう。

ルーナは引き攣ったように大きく高笑いし、身を屈め腹を抱えて大爆笑した。

 

 

「そ、それって、お、おかしぃ!!」

 

 

大きな目に涙を溜め息も絶え絶えに笑うルーナは、手に持っていた雑誌を落とし、ついに座席の上に横になり足をばたつかせた。

 

ロンはそこまでウケるとは思わず呆然としていたが、ルーナはそのロンの表情すら愉快だとゲラゲラと止まる事なく笑う。

 

 

「ふっ──あははっ!」

「ははっ!」

「きみ、僕を馬鹿にしてるのか?」

「ヒヒの尻っ…あはははっ!」

 

 

ルーナの笑いにつられ、ソフィア達はまた笑った。

みんなが腹を抱え笑っている中、ハリーは目に浮かんだ涙を指で拭きながら足下に落ちた雑誌を拾い上げた。

ルーナが逆さに読んでいる時にはわからなかったが、ファッジの風刺画が書かれている事に気付くとハッとして見出しを読む。

 

 

「これ、読んでもいい?」

 

 

ルーナはむっつりとしたロンを見たまま、笑いながら頷く。ハリーはその見出しにあった『シリウス・ブラックは有罪か?無罪か?』と書かれていた記事が気になり、急いで目を通す。

 

しかし、そこに書かれていたものは荒唐無稽な物ばかりであり──シリウスが歌う恋人だと書かれていたり、ファッジが小鬼をパイに入れて焼いたり──流石にこれを信じる気にはならず、ぱたんと雑誌を閉じた。

 

 

「何か面白いのあったか?」

「あるはずないわ。『ザ・クィブラー』ってクズよ、みんな知ってるわ」

「そうなの?私読んだことないわ」

 

 

ハリーの返事を聞く前にハーマイオニーがバッサリと言い切る。

ソフィアはハリーとルーナが読んでいるその雑誌を読んだことは無かったが、ハーマイオニーの声がリータの書いた記事を酷評する時と同じく嫌そうな声だったことに、それ程ひどい雑誌なのかと首を傾げた。

 

 

「あら。あたしのパパが編集してるんだけど」

 

 

ルーナの声が急に夢心地ではなく冷ややかなものになり、ハーマイオニーを見据える。

ハーマイオニーもまさかルーナが編集長の娘だとは思わず、しどろもどろに「あっ、でも、その──ちょっと面白いのも……」と言い訳をしたが、ルーナはそんな言葉で騙されることは無く、身を乗り出しハリーの手から雑誌をひったくり、また逆さにして読んだ。

 

少し気まずい沈黙が流れたが、それを打ち消すようにコンパートメントの扉が開く。

 

今度は誰だろうか──ソフィア達が振り向いた先にいたのは、ドラコとルイスだった。

ドラコの胸には監督生のバッジが輝き、ニヤニヤと意地悪く笑いながらハリーを見つめている。

 

 

「なんだい?」

 

 

ドラコが何か言う前に、ハリーが先に突っかかる。ドラコは余裕のある笑みを浮かべ腕を組みながらハリーを見下した。

 

 

「礼儀正しくだ、ポッター。さもないと罰則だぞ。おわかりだろうが、君と違って僕は監督生だ。つまり、君と違って罰則を与える権限がある」

「ああ。だけど君は僕と違って卑劣な奴だ。だから出て行け、邪魔するな」

 

 

低いハリーの声に、ロン、ハーマイオニー、ネビルが笑った。ソフィアは笑う事も出来ず、ただハリーとドラコの言い合いを見て悲しそうに眉を下げるだけだ。

 

 

「…ドラコ、もういいでしょ?…コンパートメントに戻ろう」

 

 

ルイスはため息をつきながらドラコの肩を叩く。

ソフィアはこの時、初めてルイスと目が合っていない事に気付いた。ルイスは少し俯き、いつものような笑顔を見せていない。ただ、無表情なままドラコの影のように立っているだけだ。

 

 

「そうだな…ああ、最後に教えてくれポッター。ウィーズリーの下につくというのは、どんな気分だ?」

「黙りなさい、マルフォイ」

「どうやら逆鱗に触れたようだねぇ、まぁ、気をつける事だなポッター、何しろ僕は、君の足が規則の一線を踏み越えないように、犬のように付け回すからね」

「出て行きなさい!」

「ドラコ。行こう」

「ふん、そうだな」

 

 

ルイスはいつもならドラコの言動を咎め、ハリー達に謝るが、今回はそうする事なく、ただ誰とも目を合わせないようにその場から離れる。ドラコは最後、ハリーに嘲笑の一瞥を送りながらルイスの後を追った。

 

 

ハリーは胸の奥にちくり、としたかすかな痛みを感じた。

ルイスはいつまで友達だ、それは変わらない。だが──あの態度を見ると、どうしようもなく辛く、悲しかった。

 

 

ハーマイオニーは立ち上がりコンパートメントの扉を勢いよく閉じ、ハリーを見た。

その視線が何を意味するのか──ハリーはすぐに悟る。ロンはドラコの言葉を気にしていない様子だったが、ソフィアもまたハーマイオニーとハリーのように真剣さと不安を滲ませる目をしていた。

 

ドラコが何故わざわざ『犬のように』と言ったのか、それは偶然だったのか。それとも何かを知っていて真綿で首を絞めるように精神的に追い詰めていきたいのか──判断が難しかった。

 

 

ハリーはすぐにでもドラコや犬──シリウスの事をソフィア達と話したがったが、このコンパートメントにはネビルとルーナが居る。無関係の人達の前でそれを言うことはできず、心配そうなハーマイオニーとソフィアと目配せをし合い、窓の外を見つめた。

 

 

 

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