その夜の大広間での夕食は、ハリーにとって楽しいものではなかった。
ホグワーツでは噂話が回るのが風のように早い。特に、色々な意味で注目されているハリー・ポッターの事となれば、噂話の回りかたも通常の5倍は早かっただろう。
ハリーはソフィアとロンに挟まれ、その前方にハーマイオニーが座っていたが──おそらく、噂話をしている人たちはハリーに囁き声が聞こえてもいいと思っているのだろう。
「セドリック・ディゴリーが殺されるのを見たって言ってる…」「例のあの人と決闘したって言ってる」「誰がそんな話に騙されると思ってるんだ?」などなど、聞こえてくる沢山の言葉にハリーの怒りはふつふつと溜まっていく。
「僕にはわからない。2ヶ月前にダンブルドアが話した時は、どうしてみんな信じたんだろう…」
ハリーは怒りで手が震え、ナイフとフォークを持ち続ける事が出来ず机の上に置いた。
絞り出すようなその言葉は、怒りと悲しみで微かに震えていて、ロンとソフィアとハーマイオニーは心配そうな顔をして眉を下げた。
「ハリー。多分、みんなが本当に信じたかどうかはわからないわ」
ソフィアがぼそりと呟き、フォークとナイフを机に置き勢いよく立ち上がる。
周りが一瞬静かになったが、すぐにざわざわひそひそと、好奇心と僅かな悪意が含むいやらしい囁きで満たされた。
「出ましょう。こんなところに居ても、嫌な気持ちになるだけだわ」
「ええ、そうね!」
ハーマイオニーはソフィアの言葉にすぐに同意してがちゃん、と乱暴にフォークとナイフを置いた。ロンはまだ半分残っているアップルパイを未練たっぷりに見つめていたが、1人残る事はせずソフィア達の後を着いていく。4人が大広間から出て行くのを、みんなが好奇心を滲ませる目で見送った。
「ダンブルドアを信じたかどうかあやしいってどういう事?」
ハリーは二階の踊り場まで来た時にソフィアに聞いたが、ソフィアは難しそうな顔をすると「うーん」と言葉に詰まった。
「何て言えばいいのかしら…」
「ハリー、あの出来事の後がどんなのだったか、あなたにはわかっていないのよ。芝生の真ん中に、あなたがセドリックの亡骸をしっかり掴んで帰ってきたわ…迷路の中で何が起こったのか、私たちにはわからない。ダンブルドアが例のあの人が帰ってきてセドリックを殺し、あなたと戦ったという言葉を信じるしかない」
「それが真実だ!」
ソフィアの代わりにハーマイオニーが説明するが、ハリーはまさかハーマイオニー達も信じてくれないのかと怒り大声を出す。
すぐにハーマイオニーは首を振り、少々苛立ちながら「わかってるわよ」とうんざりしたように答えた。
ソフィアは怒りに満ちるハリーの顔を覗き込み、少し心配そうに眉を下げながら「わかってるわ」と落ち着かせるために優しく伝えた。
「ハリー、勿論私たちはわかってるわ。だってほら…夏休みの間あそこに居て、大人達が動いているのを知っているでしょう?でも、他の人は勿論知らないわ。──それに、真実を本当に理解する前に、夏休みが来てしまったでしょう?信じたくない大人達の言葉を聞いていたみんなは…信じられなくなってしまったの」
「それに、夏休み中ダンブルドアが老いぼれとか、あなたが狂ってるとか新聞で読まされたわ!」
ソフィアとハーマイオニーの言葉を聞いたハリーは苦々しい表情をしながら黙り込んだ。
日刊預言者新聞にそんな力があるとは思っていなかった、だが、他の生徒達の反応を見る限り──ヴォルデモートが復活したと思っている人は限りなく少数派なのだろう。
ソフィア達は談話室に入ったが、まだ大部分の生徒が大広間で夕食を食べているためにそこにはまだ誰もいなかった。
寄り添うように丸くなって寝ていたクルックシャンクスとティティが主人達の帰宅に目覚め、とことこと歩いてハーマイオニーとソフィアの足に擦り寄る。
ハリー、ロン、ハーマイオニー、ソフィアが暖炉前のソファに座れば、クルックシャンクスはハーマイオニーの、ティティはソフィアの膝の上に飛び乗り、また丸まった。
4人は椅子の背に体を預け、暫くぼんやりとしていたが不意にハーマイオニーががばりと身を起こし激しい口調で叫んだ。
「ダンブルドアはどうしてこんなことを許したの!?」
突然の大声にソフィアとロンとハリーは跳び上がり、ハーマイオニーの膝に乗っていたクルックシャンクスも膝から飛び退くと気分を害したような顔でじろりとハーマイオニーを睨み上げた。
ハーマイオニーは怒ってソファの肘掛けを強く叩き、空いていた穴から詰め物がはみ出してしまった。
「あんな酷い女にどうして教えさせるの?しかもOWLの年に!」
「でも、闇の魔術に対する防衛術じゃ、素晴らしい先生なんて殆ど居なかっただろ?──ほら、なんていうか、ハグリッドが言ったじゃないか。誰もこの仕事に就きたがらない。呪われてるって」
「そうよ。でも、私たちが魔法を使う事を拒否する人を雇うなんて!ダンブルドアは一体何を考えているの?」
「しかも、あいつは生徒を密偵にしようとしてる。覚えてるか?誰かが例のあの人が戻ってきたって言うのを聞いたら話しに来てくださいって、そう言ってた」
ロンが暗い顔をして呟く。
流石のロンも、もし今後アンブリッジの言葉に騙され乗せられた生徒が見張るようなことになれば、さらに内部での不和が生じると理解していた。
「そうね…もし、誰かが素直にアンブリッジに言えば、間違いなく…罰則だわ。…ああ、多分アンブリッジはそうしたいのよ。見せしめのつもりなのと…内部からホグワーツを見張りたいのね」
ソフィアはティティを撫でながら真剣な目でハリー達を見つめた。
ハリーとダンブルドアに不信感が強い今、アンブリッジに対しても嫌な感情を持つ生徒は多いだろう、だが、それでも先ほどの授業のようにアンブリッジの嫌な本性が露呈した場合に限る。そうでなければ素直な生徒は何かあったときに報告しに行くだろう。──それに、今は魔法省の方がハリーやダンブルドアよりも生徒達からの支持を得ているのは事実だ。
「手っ取り早くダンブルドア先生とハリーを認めさせる方法も、無いわけでは…ないんだけどね」
「えっ?何!?」
ソフィアの言葉にハリーが身を取り出す。ホグワーツに来てまだ少ししか経っていないが、既に暗雲が立ち込めている状況をなんとかしたいハリーは目を輝かせたが、ソフィアは難しそうな顔で口を閉じかなり悩んだ後──ハリー、ロン、ハーマイオニーの期待の篭る目を見て、おずおずと口を開いた。
「全ての授業で、先生方に聞くの。ダンブルドアを信じていますか?って」
「なるほど!そりゃいいや!」
ロンはぱちんと膝を叩き、ハリーも興奮し何度も頷くが、ハーマイオニーはソフィアと同じように難しそうな顔で黙り込んでしまった。
「でも、多分…この方法は駄目なの。少なくともダンブルドア先生は望んでいないと思うわ」
「えっ?どうして?騎士団員のマクゴナガルは…絶対認めるだろ?」
「そうだけど…もし全ての先生達がダンブルドア先生を信じている、例のあの人が復活した。って認めるとするでしょう?きっとアンブリッジはすぐに魔法省に──ファッジに報告するわ。監視の目がさらに強まってしまって……何か結束して企んでいるんじゃないかって思われたら最悪よ。騎士団が上手く動けなくなる可能性があるわ。騎士団が動いている事は秘密にしなければ駄目だから…」
「そうね。だってダンブルドアがそのつもりなら、昨日全校生徒が揃っている時にもう一度例のあの人の復活を言ったはずよ。先生達も同じ思いだって…。でもそれをわざわざ言わなかったって事は、やっぱり……そうしない理由があるのね。企みを知られたくないんだわ、アンブリッジが居るから…」
ハリーとロンはそこまで考え無くても良いのではないか、と思ったが──ソフィアとハーマイオニーの考えが外れる事は少ない。どの生徒よりも賢い2人は周りをよく見て先々のことを考えるのが得意だ。
その2人が言うのなら、やはり得策ではないのだろう。
「まだ1日目だし…少し、様子を見ましょう。──課題、しましょうか」
話している内に夕食を終えた生徒が談話室に戻り始め、ソフィアは話を打ち切ると鞄を机の上に置く。ロンとハリーは課題をする気持ちになれなかったが、仕方がなくのろのろと課題の準備を始めた。