【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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257 キーパーの選抜試験!

 

 

ソフィアとハーマイオニーは毎晩談話室の暖炉前の机を陣取り、その日に出た宿題をしっかりと終わらせていた。やる気のないロンはなんとかして2人の宿題を盗み見ようとしたが、監督生に選ばれたのだから模範的な行動をしなければならない、とハーマイオニーは強く言い答案を写すことも、手助けする事も良しとしなかった。

ハリーは金曜日まで続くアンブリッジの罰則に手が取られ談話室に戻ってくるのはいつも夜遅くの時間だ。ソフィア達は書き取り罰だとハリーに教えられていた為とくに気にする事なく自分の課題に勤しんでいた。

 

大体、ソフィアとハーマイオニーがすぐに課題を終え片付けをして自室に引き込んでも、ロンはまだ終える事ができず1人談話室に残っていたが仕方のない事だろう。

遅くまで残っても宿題が終えられている事はなかったが──その事に関してソフィアとハーマイオニーの関心は薄い。どうせ、いつものようにさぼっていたのだろうと思ったのだ。

 

しかし、ただ宿題をサボっているだけではないとわかったのは金曜日の夕方5時前だった。ハリーが最後の罰則へ向かった後、ロンはそそくさと隠れるようにして談話室を出ようとして──ハーマイオニーに捕まったのだ。

 

 

「ロン!どこへ行くの?まだ宿題終わってないでしょ?」

「え、あー……」

 

 

こっそりと出ようとしていたロンはしどろもどろになりながら視線を宙に彷徨わせる。後ろ手に箒を隠してはいるが、どれだけロンが高身長であっても頭の先から彼の箒が見えていた。

 

 

「キーパーの選抜を受けに行くのね?」

 

 

後ろに隠しきれていない箒を覗き込んだソフィアが聞けば、ロンは顔を髪色のように赤く染めて小さく頷く。

ハーマイオニーは驚きに目を見張っていたが、腕を掴んでいた手を離すとじろじろとロンと箒を見比べ、ようやく最近遅くまで談話室に残っているのに宿題が全く終わっていない理由に気付いた。隠れてキーパーの練習をしていたのだろう。

 

 

「なら早く行きなさい!5時からでしょ?」

「君たちが止めなきゃもう行ってたよ……」

「頑張ってね、ロン」

「しっかりね!」

「うー…。うん、頑張る、まぁ、無理かもしれないけど」

 

 

ソフィアとハーマイオニーの励ましに、ロンは緊張した面持ちのままぶつぶつと喉の奥で答え、大切そうに箒を抱え直しそそくさと談話室を出て行った。

 

 

「ロン、練習のために…最近遅くまで残っていたのね」

「クィディッチの練習ばかりで宿題が終わってないなんて…監督生になった自覚はおありなのかしら」

 

 

ハーマイオニーはいつものように小言を言うが、その表情は心配そうに眉が寄せられている。ロンの飛行術は贔屓目に見ても──正直、上手いとは言い難い。魔法族の平均レベル、と言えるだろう。

ソフィアはロンが消えた肖像画をじっと見つめ、やはり自分もチャレンジすれば良かっただろうかと僅かに後悔した。

 

 

「さ、ロンとハリーが帰ってくるまでに宿題を終わらせましょう。あの2人が泣きつくのが見えてるわ」

「…そうね」

「……ソフィア、あなたも選抜を受けたかったんじゃないの?」

「うーん…今年じゃなければ受けていたわ。クィディッチ好きだもの…でも、今年は…OWLがあるし…」

 

 

残念そうに肩をすくめるソフィアに、ハーマイオニーは「学生の本分をよく理解しているわね」と満足げににっこりと笑い、ソフィアの肩を叩いた。

 

 

 

ソフィアとハーマイオニーがいつものように談話室で宿題を終わらせた頃、グリフィンドール・クィディッチチームの選手達がわらわらと談話室に駆け込んで来た。ロンは真っ先に肖像画をくぐり、ハーマイオニーとソフィアに気付いた途端パッと顔を輝かせ駆け寄ると顔中に笑顔を貼り付け興奮しながら叫ぶ。

 

 

「やった!僕、受かった!キーパーだ!」

「わぁ!おめでとう!」

「すごい!良かったわね!」

 

 

自分でも合格が信じられないのか、ロンはうずうずと体を揺らしながら2人に言うと、今度は少し離れた場所で友達と雑談していたジニーの元に駆け寄り嬉しそうに合格を告げる。

 

 

「まさか合格するなんて、意外と本番に強いのかしら…」

「そうね、ロンって頑張り屋さんだもの。意外とね」

 

 

喜び、クラスメイト達に「合格した!」と言って回るロンを見ながらハーマイオニーが感心したように呟く。

ロンは優秀な友人達に囲まれ、やや卑屈になりがちだが、彼は全くの無力だというわけではない。窮地に立たされた時に何よりも勇敢な心を持ち友人のために勇気を奮い起こす事ができると、ソフィアとハーマイオニーは知っている。

だが、それがクィディッチに生かされるかどうかは──今後の試合で明かされるだろう。

 

 

遅れて談話室に帰ってきたフレッドとジョージが腕に大量のバタービールの瓶を持って現れ、談話室は新しいキーパー決定の宴が始まる。

誰もが片手にバタービール入りのゴブレットを掲げ楽しげに話す中、ソフィアとハーマイオニーもロンの肩を叩き合格を讃えつつゆっくりとバタービールを飲んでいた。

 

選手たちと共にがやがやと騒ぐロンの声をBGMに、ハーマイオニーは暖炉脇のソファに座るとうとうとと船を漕ぎ出す。

 

 

「ハーマイオニー、眠いの?」

「ん……ええ、昨日も、遅くまで……帽子を……」

「まぁ、それは…お疲れ様」

 

 

ソフィアが隣に座るとハーマイオニーは危なっかしく両手でゴブレットを持ちながらソフィアの肩に頭を預け、大きな欠伸を漏らした。そのまま目を閉じてしまったハーマイオニーにソフィアは目を細め優しく微笑むと、彼女の手にある今にも溢れそうなゴブレットをそっと手に取り机に置いた。

 

温くなったバタービールを飲みながらクィディッチチームの中心で嬉しそうに顔を綻ばせるロンを見ていたソフィアは肩に感じる僅かな重みと、暖炉の温かな炎に自然と思考がぼんやりと虚ろになり、目は細められていく。

ソフィアもハーマイオニーと同様、夢の世界に旅立ちかけていたが隣に感じた微かな揺れにふっと目を覚ました。

 

 

「ああ、ハリー、お帰りなさい。ロン合格したのよ、良かったわね」

「うん、さっきアンジェリーナから聞いた」

 

 

ソフィアが目を覚ましたのは、ハリーがソフィアの隣に鞄を置いたからだった。僅かな揺れだったがソフィアを目覚めさせるには十分だっただろう。

ハリーはちらりと眠っているハーマイオニーを見た後、ソフィアの隣に座ると彼女を起こさないように声を顰めながら先程自分に起こったことを話した。

 

 

「僕、今アンブリッジの部屋にいたんだ。それであいつが僕の腕を触って……その時、傷が強く痛んで…なんだか変な感じがしたんだ。あんなに痛むのは久しぶりで…そう、クィレルを見た時みたいだった」

「例のあの人が…クィレルにしたみたいに、アンブリッジに取り憑いてるんじゃないかって思うの?」

「うん…可能性はあるだろう?」

 

 

話の内容を考えソフィアとハリーは声を顰め誰にも聞こえないように囁く。

ソフィアは暫く考え込み口を閉ざしていたが、「うーん…」と悩むように唸った。

 

 

「でも、あの時…例のあの人は体を持っていなかったからクィレルに取り憑いたんでしょう?今、復活して実体はあるから…取り憑く必要はないんじゃないかしら?」

「あー…まぁ、そうかも…」

「去年、誰も触ってないのに傷痕が痛むことはあったわよね?確か…ダンブルドア先生は例のあの人がその時に感じている事に関係している、って言ってなかったかしら?──だから、たまたまアンブリッジが触った時に痛んだのかも…」

「あいつは邪悪なやつだ。根性曲がりだ」

「そうね、私もそう思うわ。…ハリー、痛んだ事をダンブルドア先生に話してみたら?」

 

 

ソフィアが知ることでは無いが、ハリーがダンブルドアのところに行けと忠告されたのはこの二日間で2度目だった。昨日アンブリッジの罰則が終わり、グリフィンドール寮に戻ってくる際、たまたまこっそりとキーパーの練習をしたいたロンと出会い──手につけられた傷について、話してしまったのだ。罰則の内容が書き取り罰でないと知ったロンはすぐにマクゴナガルかダンブルドアに言いに行くように言ったが、ハリーは首を縦に振る事はなかった。

 

 

「このことでダンブルドアの邪魔はしない。大したことないよ、この夏はしょっちゅう痛かったし──ただ、今夜はちょっと酷かった、それだけさ」

「邪魔とかじゃなくて…言った方がいいわ」

「ダンブルドアは、僕のその部分だけしか気にしてないんだろ?僕の傷痕にしか」

 

 

ハリーはつい、今まで考えていた不満の一端が口から零れ落ちてしまった。ソフィアはその言葉を聞いて驚いたように目を見開き、怪訝な顔をする。

 

 

「そんなことないわ。ハリーのために夏休み中、ダンブルドア先生は色々と行動なさっていたでしょう?騎士団を作って守ったり…私をあなたのところに送ったりね」

 

 

ソフィアは言い聞かせるようにゆっくりと言ったが、ハリーは煩わらしそうに首を振り、ソフィアの真剣な眼差しから逃れるように目を伏せた。

 

 

「僕、シリウスに手紙を書いてこの事を教えるよ。シリウスがどう考えるか知りたいんだ」

「うーん…書く内容に気をつけてね?ふくろうが途中で捕まるかもしれないし…。まぁ、シリウスというよりも…騎士団員に伝えるのは悪く無いと思うわ。…本当は、マクゴナガル先生とか…安全に伝える方がいいと思うけど。その傷の強い痛みが何か原因があるとしたら…騎士団員に報告はするべきだもの」

「でも、マクゴナガルに伝えたって…どうせいつものことだって言われるだけだ」

「それを判断するのは私たちじゃないわ。情報は共有すべきだし、あなたが騎士団の力になりたいのならば…伝えるべきだって思ったの」

 

 

ソフィアの言葉にハリーは暫く誤魔化すように視線を逸らしたままフレッドとジョージがバタービールの空瓶でジャグリングをしている様子を見ていたが、ついに沈黙に耐えきれず小さく頷いた。

 

 

「……、…シリウスへの手紙が難しかったら、そうするよ」

「ええ、手紙…本当に気をつけてね。内容、一緒に考える?」

「うーん…うん。…でも、ハーマイオニーには内緒にしてて、絶対ダメだって言うから」

 

 

ハリーは苦笑しながら眠りについているハーマイオニーを見る。ソフィアはその視線を追い、視界に映るふわふわとしたハーマイオニーの髪をそっと撫でると悪戯っぽく笑い「そうね」と、頷いた。

 

 

「バタービール飲む?まだ沢山あるみたいだけど」

「あ、さっきジョージからもらったのがあるよ」

 

 

ハリーはずっと手に持っていたバタービールの瓶を持ち上げソフィアに見せた。

それならいいわ、とソフィアは言いかけたが、ハリーの袖が赤く濡れている事に気付き険しい目でじっと右手を見つめる。ハリーはすぐにその視線の意味に気付き慌てて反対の手で持ち替え右手を背に隠したが──ソフィアはそれでも、隠された手をじっと見つめ続けた。

 

 

「ハリー、手を出して」

「なんでもない」

「ハリー」

「──多分、フレッドとジョージの鼻血ぬるぬるヌガーを食べた子の血がついたんだ」

「……ハリー」

「……本当に、なんでも無いんだ」

 

 

ハリーは必死に言い訳をしたがソフィアの強く低い言葉に抗うことが出来ず、何故か情けなさを感じながらそろそろと隠していた手を出した。

 

 

ソフィアは両手でそっとハリーの手を握ると手の甲が隠れている袖を捲る。

『僕は嘘をついてはいけない』の文字が傷痕として残り、もう血は止まっているが傷口は赤く、先程まで血を流していた事がすぐ見てとれた。

 

 

「…罰則、書き取りじゃなかったのね」

「……うん」

「酷い…こんな…!……ダンブルドア先生かマクゴナガル先生に言うつもりは──」

「無い」

 

 

ソフィアはきっぱりとしたハリーの拒絶に、大きく息を吸い込み眉を吊り上げたがすぐに長く細い息を吐き出すと、床に置いていた自分の鞄を探り中から小さな小瓶を取り出した。

そのまま数滴ハリーの傷口に垂らせば、傷口はしゅうしゅうと小さな音をたて、薄い緑色の煙を上げながら閉じていく。あれほどズキズキと感じていた痛みが急激に引いていき、ハリーは驚いて治癒していく傷口とソフィアが垂らした薬を見比べた。

 

 

「ハナハッカ・エキスよ。薄めているものだけど…これで少しはマシになるでしょう?」

「うん、ありがとう!」

 

 

まだハリーの手の傷は赤く痛々しいものだったが、傷口は盛り上がり薄い皮膚が覆っている。完全に癒えたわけではないが、応急処置にはなるだろう。

ソフィアは仕上げにポケットから杖を出すとハリーの手に向かって「フェルーラ」と唱え白い包帯で手を巻いた。

 

 

「…言ってくれれば、すぐに傷を治したのに…」

「あー…言うつもりは無かったんだ、だって、ほら──なんとなく」

 

 

アンブリッジに傷を負わされた事なんて、誰にも言いたくは無かった。誰かに言えばアンブリッジに負けたような、そんな気持ちになるとハリーはわかっていたのだ。奇しくもロンとソフィアにはバレてしまったが、ハリーはできるなら──ソフィアには、知られたく無かった。

好きな女の子に自分の情けない姿を見せたく無いのは、この年頃の男の子にとって当然だろう。

 

 

「あー…その、手紙…明日の朝ここで書くから」

「わかったわ」

「僕、もう寝るよ。疲れたし…ロンにそう言っといてくれる?」

 

 

ハリーは誤魔化すようにソフィアの手からそれとなく自分の手を外すと鞄を持って立ち上がった。

 

 

「私ももう寝るわ、ハーマイオニーも寝ちゃったし…ハリーが部屋に戻るなら、私たちももう戻ってもいいでしょう?だから、ロンには自分で言ってね。…ハーマイオニー、部屋に戻るわよ」

「ん──ぅうん、うん?ああ、ハリー…戻ったのね…ああ、私、寝ちゃってた…」

 

 

ソフィアはハーマイオニーの肩を優しく揺すり、眠っていたハーマイオニーは眠たそうに目を擦りながらあくびを噛み殺す。

ハリーはハーマイオニーが完全に目覚める前に「おやすみ、ソフィア」とだけ呟くとそそくさとロンの元へ向かった。

 

 

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