日曜、ハリーとロンは今までのツケを払わなければならない時が来た。
全く宿題に触れていなかった2人は朝早くから談話室の暖炉前の1番心地よいソファを陣取り沢山の本を机に山のように積み重ね、幾つもの宿題を唸りながら片付けていく。
「この本を読んでみて、肥料について詳しく書いてあるわ」
時々ソフィアが宿題の進み具合をチェックし、躓いている箇所に気付くと的確なヒントを与えた。ハリーとロンは本音を言えば完成した宿題を見せて欲しかったが、流石の優しいソフィアであってもそれは良しとしなかった。
ソフィアとハーマイオニーは談話室でジニー達と楽しくお喋りに花を咲かせながら日曜日を満喫する。談話室の一角で呪詛のようにうんうん唸っている声が大きくなればハーマイオニーかソフィアが宿題を覗き込み、ヒントを与え、宿題の間違いを訂正する。
ハリーとロンはこんな量の宿題が終わるわけがない、と窓の外が暗くなるにつれ思い、じわじわとした焦燥感が脳の後ろを痺れさせた。
長時間机に齧り付いている2人の集中力は最早限界に近く、書き間違いが頻発し、さらに頭痛までしてきた。
「ねぇ……ソフィアに、やり終えた宿題、ちょっと見せてくれないかってもう一度頼んでみない?」
ロンは少し充血した目を擦り、書き損じたレポートを暖炉の火の中に投げ入れながら声を顰めてハリーに言う。
ハリーはちらり、と離れたソファに座りハーマイオニーとジニーと楽しげに話しているソフィアを見た。ハーマイオニーの前では宙に浮いた2本の編み棒が形のはっきりとしないハウスエルフの靴下を編み上げていた。──楽しげに話すハーマイオニーはまだ寝るつもりは無いらしい。
「ハーマイオニーがいる限り、無理だね」
「あぁあ……ねぇ、僕の手首折れてない?」
ロンは羽ペンを放り出すと右手首を揉みながらぷらぷらと軽く揺らす。ハリーも手首の突き刺すような痛みに大きくため息をつきながら羽ペンを机に置いた。
「大丈夫、折れてないよ」
「……今なら手首の骨を抜いてもいいかもな」
「ああ、骨生え薬を飲めば目だって冴えるしね」
ニヤリと笑ったロンに、ハリーも同じように笑い返す。
ソフィアから勉強のお供として置かれていたヌガーを口の中に放り込み、ぐっと伸びをした2人は時計を見て、今日は徹夜かもしれない。と憂鬱な気持ちになった。
それからも2人は脳をフル回転させなんとか知識を捻り出し羊皮紙に向き合う。夜が深まるにつれ、談話室から少しずつ人が減り、時計が夜の11時半を指した時には、ついにハリーとロン、ハーマイオニーとソフィアだけになった。
「もうすぐ終わる?」
「君が手伝ってくれても無理だ」
ハーマイオニーが欠伸を噛み殺しながらロンの隣に座り、まだ終わっていない天文学のレポートを見た。
「木星の1番大きな月はガニメデよ。カリストじゃないわ。それに、火山があるのはイオよ」
「え?どこ?」
「もう……ここよ、ここ」
ハーマイオニーは身を乗り出すと、指の先で間違っている箇所をトントンと叩く。ロンは眉を寄せながら新しい羊皮紙を取り出し、荒れた文字だったが、きちんと言われたところを訂正したレポートを書き始めた。
「ハリー、土星の惑星の綴りが間違ってるわ。それじゃあタイタンじゃなくてタイターよ」
「あー……本当だ、誤魔化せないかな……」
ソフィアはハリーの隣に座り、ハーマイオニーと同じようにレポートに目を通し間違っている箇所を伝える。
もうレポートは最後の方まで書いてしまった。また新しく書き連ねるのは気が進まず、ハリーはなんとか綴りを誤魔化せないかと羊皮紙に顔を近づけ慎重にわずかなスペースに文字を書き込んだ。
「あ、ロン──」
「まだ間違ってる箇所があるのか!?もういいよ、このまま出すしかない、いつまで経っても終わらない!」
「違うわ、ほら見て!」
ロンは途中まで書き進めていたが、また何処かで間違ってしまったのかと唸りながら頭をぐしゃぐしゃとかき乱す。
しかしハーマイオニーはロンのレポートを見ずに、1番近くの窓を指差した。
ハリーとロンとソフィアは同時に示される先を見る。そこにはきちんとしたコノハズクが窓枠に止まり、部屋の中にいるロンをじっと見つめていた。
「ヘルメスじゃない?」
ハーマイオニーが驚いたように言い、ロンは「ひぇー!本当だ!」と小声で叫ぶと羽ペンを放り出し立ち上がった。
「ヘルメス?」
見慣れないコノハズクにソフィアは首を傾げるが、すぐにロンが信じられない、というようにコノハズクをじろじろと見ながら「パーシーのコノハズクなんだ」と答えた。
「でも、パーシーがなんで僕に手紙なんか…?」
ロンは不思議そうに呟き、窓際に行き窓を開ける。ヘルメスがすう、と談話室の中に飛び込み、ロンのレポートの上に着地すると片脚を上げた。
片脚には手紙がくくりつけられていて、ロンが手紙を外すとすぐにヘルメスは飛び上がり、殆ど音を立てずに夜の中へ消えてしまった。
「間違いなくパーシーの筆跡だ」
ロンは椅子に戻り、深く腰掛けて巻紙の宛名書き見つめながら言った。今までパーシーから手紙が送られてくる事なんてほとんど無い。それに、パーシーは彼が尊敬する人を信じて魔法省側につき、両親とダンブルドアを侮辱し家を飛び出しているのだ。そんなパーシーが、何故自分に手紙を寄越したのか──ロンは検討もつかず、首を傾げた。
「どういうことだと思う?」
「開けてみて!」
ロンの言葉にハーマイオニーは待ち切れないというように言い、ハリーとソフィアも頷いた。
ロンは巻紙を開いて読み出したが、先に進むほどに表情は強張り険しくなる。
ソフィアとハリーとハーマイオニーは顔を見合わせ、どうやらあまり良くないことが書いてあるようだ、と思ったが、流石に無遠慮に覗き込む事はしなかった。
手紙を読み終わったロンは口をぎゅっと結び辟易とした顔でソフィア達に手紙を突き出す。3人は机の上に置いてあったレポートや教科書をぐいっと端に寄せ、空いたスペースに手紙を広げ、顔を寄せ合わせて一緒に読んだ。
パーシーからの手紙の内容は──ロンのその表情が全てを物語っていた。
監督生就任を喜び、褒める文章だけはやや上から目線の肯定的なものだったが、その後に続く文字は到底受け入れられるものではない。
今後の輝かしい未来のために、ハリーとの繋がりを断ち切ることを何度も文章を変えて書かれていた。
親友を侮辱する言葉の羅列に、ロンは胸の奥がぐらぐらと煮えるような怒りを覚え、ぐっと奥歯を噛み締めていないと何かが爆発してしまいそうだった。
全てを読み終えたハリーは、ふっと薄く笑いロンを見る。
「さあ、もし君が──えーっと──なんだっけ?……ああ、そうそう──僕との繋がりを断ち切るつもりでも、僕は暴力は振わないと誓うよ」
笑ってしまうほど馬鹿馬鹿しい内容に、ハリーは「ハ、」と小さく嘲笑する。
ロンは唇を結んでいたが、みるみるうちに顔が燃えるような怒りで赤くなり、机の上に置いてある手紙を乱暴な手つきで掴む。
「あいつは──」ロンは手紙を半分に破いた。
「世界中で──」そのまま、四つに破いた。
「一番の──」八つに破いた。
「大馬鹿野郎だ!!」
怒りで声を震わせながら手紙を破いたロンは、そのまま勢いよく暖炉の中にばらばらになった手紙を投げ入れる。
肩で息をする程の激しい怒りと──そして、僅かな狼狽と悲しみに、ソフィア達は何も言えずロンを心配そうに見つめた。
どしん、と椅子に座ったロンは両手で顔を覆い、身体中のモヤモヤとした気持ち全てを吐き出すような大きく長いため息を一つ吐き出すと、ぱたん、と力なく手を脚の上に下ろした。
「……さあ、夜明け前にこいつをやっつけなきゃ」
ロンは天文学のレポートを再び手元に引き寄せながら軽い口調でハリー達に言った。
何でもない風を取り繕おうとするロンに、ソフィア達は何も言わずにただ頷く。
止まりかけていた宿題の手を再開させたハリーとロンを横目に、ハーマイオニーとソフィアは終わっているレポートのチェックをする。
真夜中を過ぎ、暖炉の炎が爆ぜる音と、ソフィアとハーマイオニーがレポートを確認しつつ参考書を捲る微かな音が響く中、ハリーとロンは黙り込んだまま椅子に深く腰掛けていた。
ハリーは長時間宿題と向き合った疲労感とは別の、体内の奥で何かが暴れているかのような嘔吐感を感じていた。その原因は、今暖炉の火の中でチリチリと燃えている手紙にある事は間違いないだろう。
今、ホグワーツでは過半数以上の生徒が自分のことを嘘吐きで気狂いの目立ちたがり屋だと思っている。日刊預言者新聞では毎日のように中傷され、廊下ですれ違う時にはあからさまにヒソヒソと小声で囁かれ避けられる。
自分の立場は知っていたが、それでもパーシーの手書きの中傷を見ると、どうしても胸が痛み気が沈んだ。
パーシーは自分の事を知らない赤の他人では無い、少なくとも4年間の付き合いがあり、夏休みには家に遊びに行っていたし、クィディッチ・ワールドカップでは同じテントに泊まった。去年の三校対抗試合では二番目の課題でパーシーから満点さえもらった。
──それなのに、パーシーは僕のことを情緒不安定で暴力を振るうかもしれないと思っている。
急に、ハリーはシリウスの事を哀れに思う感情が込み上がってきた。今の自分の気持ちを本当に理解できるのは、似た境遇であるシリウスしかいない。シリウスは、誰からも信じられず中傷されていた、魔法界の殆ど全ての人がシリウスを信じずヴォルデモートの強力な支持者だと思い込んでいた。そんな誤解に、彼は14年もたった一人で耐えていたのだ。
シリウスの事を思いながら暖炉を見ていたハリーは、目を瞬く。
一瞬、その炎がシリウスの顔を形取ったように見えたのだ。──馬鹿な、あり得ない。シリウスの事を考えていたからだ。
そう思ったが、胸が奇妙にドキドキと脈打ち、ハリーは身を起こしてじっと炎を見つめた。
「オーケー、清書して。それから、私が書いた結論に書き換えて」
長い時間ロンのレポートを見ていたハーマイオニーが自分が書いた羊皮紙をロンに手渡す。疲労感から半分寝かけていたロンは薄く開いた口から垂れかけていた涎をぐいっと拭くと微かに微笑みそのレポートを受け取った。
「ハーマイオニー、君って本当に、今まで僕が出会った中で最高の人だ。もし、僕が再び君に酷い事を言ったら──」
「──そしたらあなたが正常に戻ったと思うわ」
ハーマイオニーは机の上にあるヌガーを手に取り口の中に放り込みながら軽く笑った。
「ハリー、レポートの訂正は無いわ。これなら大丈夫だと思うの。もう少し深く掘り下げて書いてもいいけどそんな時間はなさそうだし……──ハリー?」
ハリーのレポートの確認が終わったソフィアは怪訝な声でハリーの名を呼んだ。ハリーは椅子から床に滑り降り、両膝をついて暖炉の前にあるマットに四つん這いになり食い入りながら炎を見つめ出したのだ。
ソフィアとロンとハーマイオニーはいきなりのハリーの奇行に怪訝な顔をし、どうしたのかと顔を見合わせる。
「あー……ハリー?なんでそんなところにいるんだい?」
「たった今、シリウスの顔が火の中に見えたんだ」
ハリーはロンの疑問に冷静な声で答えた。
去年もこの暖炉の火に現れたシリウスの頭と話をしている。しかし、今度は本当にシリウスの顔だったのか、幻覚だったのかは自信がない。瞬きほどの一瞬しか、見ることができなかったからだ。
「シリウスの顔?──でも、今は……あっ!」
ソフィアが火を見つめて息を呑んだ。
ハーマイオニーとロンも、火の中に見間違えではなく見えたその顔に、唖然として口を開く。
ちらちらと踊る炎の真ん中にシリウスの首かは上が現れ、黒い黒髪に縁取られた顔はにっこりと笑みの形をつくっていた。
「みんなが居なくなるより前に、君たちが寝室に行ってしまうんじゃないかって思い始めたところだった。1時間ごとに様子を見ていたんだ」
「1時間ごとにあらわれていたの?」
ハリーが半分笑いながら聞けば、シリウスはニヤリと悪戯っぽく笑い「ほんの数秒だけ、安全かどうか確認するためにな」と言う。
「誰にも見られなかった?」
ソフィアはハリーの後ろからシリウスを覗き見て心配そうに言う。今ここにいるのは自分達だけだが、いつ寝室から他の生徒が降りてくるとは限らない。ハーマイオニーもそれを心配しているのだろう、ちらちらと寝室へと続く階段を見ながら不安げに眉を寄せた。
「まぁ、女の子が1人……ちらりと見たかもしれない。──だが心配しなくていい。その子がもう一度見た時には俺はもう消えていたからな、変な形をした炎だと思ったに違いないさ」
ハーマイオニーがあっと手をで口を覆い、不安げで批難的な目でシリウスを見下ろしたため、慌ててシリウスが付け加える。
「でも、シリウス、こんな危険を冒して──」
「君、モリーみたいだな。ハリーの手紙に暗号を使わずに答えるにはこれしかなかった。暗号は破られる可能性がある」
心配ゆえに口うるさく言ってしまうハーマイオニーに、シリウスは苦々しく呟く。
ハリーの手紙、という言葉を聞いた途端ハーマイオニーとロンは勢いよくハリーを見た。
そういえば、あの後ロンのクィディッチや宿題にばかり意識がいってしまい、シリウスへ手紙を送った事を2人に伝えるのをすっかりと忘れていた事をハリーは思い出した。
「シリウスに手紙を書いたこと、言わなかったわね」
「忘れてたんだ。──そんな目で僕を見ないでくれよハーマイオニー。あの手紙からは誰も秘密の情報なんて読み取れやしない。そうだよねシリウス?」
「ああ、あの手紙はとても上手かった。とにかく、邪魔が入らないうちに急いだ方がいい──君の傷痕だが……」
「それが何か──?」
ロンがシリウスの言葉をつい遮ってしまったが、ハーマイオニーがロンの腕の服を掴み首を振った。今は黙って全てを聞くべき、だろう。
「痛むのはいい気持ちじゃない事はよくわかる。しかし、それほど深刻になる必要はないと思う。去年はずっと痛みが続いていたんだろう?」
「うん。それにダンブルドアは、ヴォルデモートが強い感情を持った時に必ず痛むと言っていた。だから、わかんないけど、たぶん、あの罰則を受けていたあの夜、あいつが本当に怒っていたとかじゃないかな」
ヴォルデモート、という言葉にソフィアとロンとハーマイオニーはぎくりと肩を震わせ顔を硬らせたが、いつものようにハリーは無視をした。
「そうだな。あいつが戻ってきたからにはもっと頻繁に痛むようになるかもしれない」
「それじゃ、罰則を受けていたとき。アンブリッジが僕に触れたことは関係がないと思う?」
「ないと思うな。アンブリッジの事は噂でしか知らないが、死喰い人ではない事は確かだ──」
シリウスはハリーの悩みをキッパリと否定する。
「でも、死喰い人並みにひどいやつだ」
「そうだな。──だけどなハリー、世の中は善人と死喰い人の二つに分かれるわけじゃない」
アンブリッジの事を思って怒りを滲ませ苦々しい表情をするハリー達を見てシリウスは苦笑する。
世の中は善人と死喰い人だけではなく、死喰い人では無いからといって、善人ではない。
それはハリーにもよくわかる事だったが、だとしてもアンブリッジは間違いなく悪い魔女だろう。
「あの女は確かに嫌なやつだ。リーマスがあの女の事を何と言ってるか聞かせたいな」
「リーマスと何かあったの?」
苦笑するシリウスの言葉にすかさずハリーが反応する。アンブリッジが最初の授業でリーマスの事を危険な半獣だと言っていた事をハリーは勿論覚えていた。
「いや、しかし2年前に反人狼法を起草したのはあの女だ。それでリーマスは就職が殆ど不可能になった」
苦々しく告げるシリウスに、ハリーは一層アンブリッジのことが嫌いになった。
ハリーだけではなく、ソフィア達も気難しい顔をして黙り込んでしまう。
シリウスはアンブリッジが半獣を怖がり、去年は水中人を一網打尽にしようとしていた事をくつくつと笑いながら言う。それは──アンブリッジにしてはだが──残念ながら良い成果が得られなかったのだ。
水中人の事を碌でなしのクリーチャーのようだと嗤うシリウスに、すぐハーマイオニーが苦言を告げたが、シリウスとハリーはさらりと無視をしてアンブリッジの授業について話を進める。
「それで?アンブリッジの授業はどんな具合だ?半獣を皆殺しにする訓練でもしているのか?」
「ううん、あいつは一切僕たちに魔法を使わせないんだ」
「ああ、それで辻褄が合う。魔法省内部の情報によれば、ファッジは君たちに闘う訓練をさせたくないらしい」
「闘う訓練?ファッジは僕たちがここで何をしていると思ってるんだ?魔法使い軍団が何かを組織していると思っているのか?」
ハリーは信じられず、揶揄うように言ったがシリウスは深く頷き、真剣な目でハリーを見つめる。
「まさにその通り。そうだと思ってるんだ。──むしろダンブルドアがそうしていると思っている、と言うべきだろう。ダンブルドアが私設軍団を組織して、魔法省と抗争するつもりだとな」
一瞬、みんなが黙り込んだ。
ダンブルドアが魔法省と抗争するために、私設軍団を組織するなんて有り得ない。
そうだと思うならば、ファッジはダンブルドアの事を一切理解できていないだろう。ダンブルドアは、子どもにそのような愚行を頼む人間では無いのだ。
「こんな馬鹿げた話、聞いたことがない。ルーナ・ラブグッドのホラ話を全部ひっくるめてもだぜ?」
「それじゃあ…ファッジは、私たちが魔法省に呪いをかける事を恐れているのね…ダンブルドア先生は、そんな危険な事を子どもには任せないのに……」
私でもわかる事なのに、とソフィアが憤慨しハリー達も頷いた。
もしダンブルドアが私設軍団をホグワーツで組織するつもりならば、ハリー達は既に不死鳥の騎士団に属することが出来ているだろう。
「そうだ。ファッジは、ダンブルドアは権力を握るためにはあらゆる手段を取るだろうと思い込んでいる。ダンブルドアに対して日に日に被害妄想になっている。でっちあげの罪でダンブルドアが逮捕されるのも時間の問題だ」
ハリーはふと、パーシーの手紙のことを思い出した。
「明日の日刊預言者新聞にダンブルドアの事が出るかどうか知ってる?ロンの兄さんのパーシーが何かあるだろうって──」
「知らないな。この週末は騎士団のメンバーを一人も見ていない。みんな忙しい。この家にいるのはクリーチャーと俺だけだからな……」
シリウスの声にはっきりと何もできない自分に対する憤りと悲しみと、やるせない辛さが滲み出ていた。
ハリーはすぐに他の話題に変えなければと思い「それじゃ、ハグリッドの事も何も聞いてない?」
シリウスは頷き、本当ならハグリッドはもう戻っている予定だったと呟く。
何かあったのかと不安な顔をするハリー達に、ハグリッドにはマダム・マクシームが一緒であり、何も心配する事はない。それに、ダンブルドアは心配せず大丈夫だと言っているのだからと慰めた。
ハリー達がこれ以上ハグリッドの事を詮索して回ると、騎士団ではない別の存在にハグリッドの不在を──ハリー達が何も知らないのだと強く印象づけてしまう。何も行動を起こさないように強く伝えた。
それでも険しく不安げな表情をするハリー達を見たシリウスは、暗い話題はこれで終了とばかりに意識して明るい声を出した。
「ところで次のホグズミード行きはどの週末かな?駅では犬の姿でうまくいっただろ?だから多分今度も──」
「ダメ!」
ハリーとハーマイオニーが同時に大声を上げ、シリウスは言いかけていた言葉を飲み驚いたように目を見開いた。
「シリウス、日刊預言者新聞を見なかったの?」
「ああ、あれか。連中はしょっちゅう俺がどこにいるか当てずっぽうで言っているだけだ、本当は全くわかっちゃ──」
「うん。だけど、今度こそ手掛かりを掴んだと思う。マルフォイが汽車の中で言っていた事を考えたんだけど、あいつは犬がシリウスだって見破ったみたいなんだ。シリウス、あいつの父親もホームにいたんだ、ルシウス・マルフォイだよ!だから、来ないで。どんなことがあっても、マルフォイがまたシリウスを見つけたら──」
ハリーにとってシリウスは唯一自分と共に暮らせる可能性がある家族だ。名付け親であり、後見人。そして父親であるジェームズのたった一人の親友。そんな彼をもし失うことがあればきっと耐えられない。
早口になり必死に話すハリーだったが、シリウスは目に見えてがっかりとし、ハリーの言葉を遮るように首を振った。
「わかったわかった!言いたい事はよくわかった。ただ、ちょっと考えただけさ、君が会いたいんじゃないかと思ってね」
「会いたいよ、でも、シリウスがアズカバンに放り込まれるのは嫌だ」
真剣に伝えるハリーに、シリウスはつまらなさそうに唇を尖らせ眉間に一本縦皺を刻んだが、暫く黙ってから大きくため息をついた。
「そう、だな。……わかった、残念だが我慢するさ」
「シリウス、会いたいのは本当なんだ。…他に良い方法があれば良いんだけど……こんな危険な方法じゃなくて」
「他の方法か……少し考えてみる」
「うん…今日、顔を見て話せてよかった、ありがとうシリウス」
ハリーは熱さを我慢し出来る限り炎に近づく。むっつりとしていたシリウスは表情を和らげると、優しい眼差しでハリーを見た。
「君が喜んでくれて嬉しいよ。──さあ、もうそろそろ時間だ。クリーチャーが戻ってくるかもしれないならな。…この次に火の中に現れる事ができる時間を手紙で知らせるよ。そのくらいの危険ならいいだろう?」
シリウスはパチンと一つ悪戯っぽくウインクをすると、ハリーとハーマイオニーが二度目の「ダメ!」を言う前に姿を消した。
ポン、と軽い音がした後、シリウスの首があった場所にはいつものような赤い炎が揺らめいていた。
暫くソフィア達は無言だったが、ゆっくりと顔を見合わせると大きくため息をこぼす。
「間違いなく、また来るわね」
「ああ!危険だって事をなんでわかってくれないのかしら?!」
「まったく、とんでもない名付け親だなハリー?」
ソフィア、ハーマイオニー、ロンのやや棘がある言葉に、ハリーは「まぁ、うん」とぎこちなく返事をした。