昨夜のパーシーの手紙にあった記事を見つけるには、きっと日刊預言者新聞をくまなく読まなければならないだろうとソフィア達は思っていたが、新聞を受け取り机に広げるまでも無くハーマイオニーは「あっ!」と小さく叫び、そのままバシンと新聞を机の上に置いた。
そこにはアンブリッジの写真がでかでかと載っていた。にっこりと笑い、大見出しの下からソフィア達に向かってゆっくりわざとらしく瞬きをする様子にハリーは朝から嫌なものを見た、というように苦々しい表情をする。
『魔法省、教育改革に乗り出す──ドローレス・アンブリッジ、初代高等尋問官に任命』と書かれている派手な見出しを読んだハリーは怪訝な顔をして「いったいどう言う事だ?」と呟く。
ハーマイオニーは小さく咳をすると、その記事の内容を小声で読み始めた。
「『魔法省は、昨夜突然新しい省令を制定し、ホグワーツ魔法学校に対し、魔法省がこれまでにない強い統制力を持つようにした──』」
新聞には何故アンブリッジがホグワーツの教職につくことなったかが初めに書かれていた、誰も知らなかったが8月30日に新しい教育令が密かに発令され、その関係でアンブリッジが教師になったのだ。
そして、高等尋問官とは、他の教師を査定することが可能だという。教育水準の低下を不安視する父兄から強い指示を受けたと書かれているが、そこに挙げられている名前はルシウス・マルフォイであり──仕組まれたものだとすぐ理解ができる。
最後の方にとってつけたように高等尋問官という制度を批判する者もいると書かれているが、それはわずか数行のそっけない文章だった。
ハーマイオニーを記事を読み終わり、納得した表情でソフィア達を見回す。
「これで、なんでアンブリッジなんかが来たのかわかったわ。ファッジが教育令を出して、あの人を学校に押し付けたのよ!そして今度はアンブリッジに他の先生を監視する権限を与えたんだわ!信じられない!こんなこと、許せない!」
鼻息荒く、目をギラギラとさせて叫ぶハーマイオニーにソフィア達も同意する。
ハリーは自然と右手の甲に視線を向けていた。テーブルの上で拳を握っている右手に、アンブリッジがハリーの手に無理矢理刻ませた文字がうっすらと残っている。
怒りを滲ませるハリーとハーマイオニーだったが、ロンだけはにんまりとわくわくとした笑顔を浮かべていた。
「何?」
「ああ、マクゴナガルが査察されるのが待ち遠しいよ。アンブリッジのやつ、痛い目にあうぞ」
嬉しそうに言うロンに、ソフィア達は顔を見合わせ教職員テーブルに座るマクゴナガルを盗み見る。まだ教師達はこの事を知らないのだろうか、しかし、査察が入るのならそれを知るのも時間の問題だろう。
ソフィアの脳裏にいつもの調子で淡々と答えるマクゴナガルの姿が浮かんだ。たしかに、彼女なら平然と査察をクリアするだろう、嫌味の一つくらい、こぼすかもしれない。
「さ、行きましょう」
「そうね、早く行かなくちゃ…もしビンズ先生のクラスを査察するなら遅刻するのはまずいわね」
ハーマイオニーとソフィアが立ち上がり、鞄を手に持つ。ロンとハリーも頷きすぐに立ち上がり、4人は1時間目の授業である魔法史の教室へ向かった。
しかし、居るだろうと思われたアンブリッジは魔法史の授業に姿を見せなかった。
良く考えれば当然の事だ。アンブリッジは一人しかいないが、この時間は7人の教師が授業を行っている。ビンズの査察ではなく他の教師の査察へと向かっているのだろう。
その後の魔法薬学の授業でもアンブリッジの姿はなく、セブルスがいつも通り淡々と──時々グリフィンドール生に対する嫌味も忘れずに──授業を進める。
まず始めに、先日提出した月長石についてのレポートが生徒たちに返却され、ソフィアのレポートは右上に『
「諸君のレポートが、OWLであればどのような点をもらうかに基づいて採点してある。試験の結果がどうなるか、これで諸君も現実的にわかるはずだ」
黒く長いマントを翻し、薄ら笑いを浮かべながら低い声で言うセブルスの声が静かな地下室に響く。
ソフィアは正直『
セブルスはレポートを全員に返却すると教壇の前に戻り、生徒たちと向き合った。
「全般的に、今回のレポートの水準は惨憺たるものだ。これがOWLであれば、大多数が落第だろう。今週の宿題である『毒液の各種解毒剤』については、何倍もの努力を期待する。さもなくば『
それを聞いたドラコがフフンと鼻で嘲笑し、これ見よがしに「へー!Dなんか取ったやつがいるのか?」と言い、セブルスは意味ありげに笑った。
「今回の『月長石の用途について』のレポートにおいて、最高点であるOを取った生徒は一人だ。──ルイス・プリンス。スリザリンに10点」
教室中の目がルイスを見つめた。
当の本人はまさか名指しで成績を言われると思わず、少し気まずそうにしながらもたった一人だけ、という言葉に照れたように笑う。
ハリーは隣にいるハーマイオニーが横目で自分の点数を見ようとしていることに気づき、急いで月長石のレポートを鞄の中に入れた。これだけは、誰にも見せたくなかった。
その後行われた強化薬の調合で、ハリーは「これ以上スネイプに自分に落第点をつける口実を与えてなるものか」と、黒板の説明書きを3度は読み、集中して作業に取り掛かった。ハリーの強化薬はハーマイオニーのような澄んだトルコ石色とまではいかなかったが、少なくとも青色でありネビルのようなピンク色ではなかった。
ソフィアは今回も1番前の作業机に向かい、ハーマイオニーが前回教えてくれた魔法薬色見本に書かれていた色を思い出しながら集中して調合する。ハーマイオニーやルイスほど完璧な薬ではなかったが、完成した薬はトルコ石とほぼ同じ色でありソフィアは満足気に頷き授業の最後に薬を詰めたフラスコを提出した。
授業終了のベルが鳴り、ソフィアはハリー達と合流して昼食をとるために階段を上がる。
玄関ホールを横切った時、今まで我慢していたハーマイオニーはついに口を開いた。
「まあ、先週ほど酷くはなかったわよね?それに、宿題もそれほど悪い点じゃなかったし、ね?」
ハーマイオニーはソフィア達の点数が知りたくて、この後点数をそれぞれ公開する事を期待したが、ロンとハリーは黙っていた。
「つまり、まあまあの点よ。最高点は期待してなかったわ。OWL基準で採点したのなら本当に難しいの、ルイスは凄いわよね……後でレポートを見せてもらおうかしら…。まあ、今の時点で合格点なら、かなり見込みがあると思わない?もちろん、これから試験までの間にいろいろなことがあるでしょうし、成績を良くする時間は沢山あるわ。でも、今の時点での成績は一種の基準でしょ?そこから積み上げていけるし……」
ロンとハリーは示し合わせた訳ではないが、ハーマイオニーの言葉を無視して足を進め、4人は一緒にグリフィンドールの机に座った。
「そりゃ、もしOを取ってたら私、ぞくぞくしたでしょうけど……」
「ハーマイオニー、僕たちの点数が知りたいんだったらそう言えよ」
ロンは声を尖らせ、面倒臭そうにスープの器を引き寄せた。ハーマイオニーは僅かに顔を赤くし、視線を彷徨かせながら慌てて取り繕う。
「そんな──そんなつもりじゃ──でも、教えたいなら──」
「僕はPさ、満足かい?」
スープを自分の器に取り分けたロンはため息混じりに言い、ハーマイオニーをじろりと見る。
ハーマイオニーは言われた合格範囲内ではない成績に、なんとも言えない顔をした。
「そりゃ、何も恥じる事はないぜ」
フレッドがジョージとリー・ジョーダンと連れだって現れ、ハリーの隣に座った。
「Pなら立派なもんだ」
「でも、Pってたしか……」
「『
リーがハッシュドポテトをぱくりと食べながら答える。
「でも、Dよりは良いよな?『
ハリーはDを取っていた。顔が急激に熱くなるのを感じて、ロールパンが詰まって咽せたふりをした。顔を上げた時、もう採点の話が終わっている事を期待したが──残念ながらまだハーマイオニーはOWL採点の話の真っ最中だった。
「最高点はOで『
「え?」
身を乗り出しジョージ達に聞くハーマイオニーの言葉に、ベーコンを食べていたソフィアは思わず声を上げた。
みんなの視線が集まる中、ソフィアはもぐもぐとよく咀嚼し、首を傾げる。
「次は『E』でしょ?ハーマイオニー、Eじゃなかったの?」
「あー……Aだわ」
「そうさ。『E』は『
みんな笑ったが、ハーマイオニーは真剣な顔でソフィアの方を向いた。
「なら、Eの次がAで『
「そうよ」
「その下に『良くない』のPが来て──そして、『最低』のDが来る」
フレッドがAの下の説明をしながらロールパンをスープに浸して口の中に入れる。ロンは万歳の格好をして茶化したが、ハリーは苦笑しか出来なかった。
「いや、『T』を忘れるな」
ジョージが茶化すように言い、ハーマイオニーは「T?」と首を傾げソフィアを見る。しかし、ソフィアも最低点はDだと思い、それ以上下があるとは知らず、わからないと首を振った。
「Dより下があるの?いったい何なの?Tって?」
「トロール」
ジョージが悪戯っぽく笑いすぐに答える。
ハリーとロンは笑ったが、それが冗談かどうかはわからなかった。
ハリーは笑っていたが、OWL試験で全科目Tを取ったのをソフィアに隠そうとしている自分の姿を想像し、これからはもっと勉強しようとちょっとだけ、思った。
誰だって、好きな人に最低点を取ったと知られたくはないだろう。
その後フレッドが授業査察の話に切り替え、ハリーはようやく話題が変わったことに内心でほっと安堵の息をつきながらその話を聞いた。
査察は思ったよりも大したことはなく、アンブリッジが教室の隅の方でクリップボードにメモを取り、生徒にいくつか質問をする、ただそれだけだという。
「さあ、いい子にして今日はアンブリッジに腹を立てるんじゃないぞ」
「君がクィディッチの練習に出られないとなったら、アンジェリーナがブチ切れるからな」
フレッドとジョージはそう言うと、リーと共に昼食を素早く食べ終え、ソフィア達より先に大広間を出た。最近忙しくしているのは、きっと商品開発か商品の売り込みをしているのだろう。
「ソフィア、あなたは──その──」
「Eよ」
さらりと答えたソフィアにハーマイオニーは飲んでいたかぼちゃジュースを半分吐き出した。
「──ええっ!?ほ、本当?ねぇ、レポート見せて!」
「え、ええ、いいわよ」
あまりの勢いに少し驚きながらソフィアは鞄の中からレポートを取り出し、ハーマイオニーに手渡した。ハーマイオニーは受け取った瞬間鼻がつきそうな程顔を寄せ、真剣に読み込んでいく。そして「こんな使用方法、見たことないわ!」と小さく悲鳴を上げる。
「どこ?」
「ここよ、『月長石は満月の光に6時間浴びさせた後、黒星草の朝露を垂らす──』」
「ああ…そこは家にあった本に書いていたの、たしかに、教科書には載ってないわね……」
ソフィアはスープを飲みながら何でもない事のように言うが、ハーマイオニーは尊敬の眼差しの中に確かな闘争心をメラメラと燃やしソフィアを見た。
魔法薬学に対するソフィアとハーマイオニーの知識は同レベルだ。レポートの得点の差は、単純にソフィアの家には魔法薬学に関する専門書籍が山のようにあり、ソフィアは暇潰しのためによく読んでいたからだろう。
「私、次は絶対Eを取るわ!」
「きっとハーマイオニーなら取れるわよ。それに…レポートは得意でも、私は調合が苦手だもの……実際のOWL試験では合計点がどうなるかわからないわ」
「まあ!ソフィア最近頑張ってるじゃない!私も負けてられないわ!」
ハーマイオニーはやる気に満ち、ごくごくと勢いよくかぼちゃジュースを飲む。
ハリーとロンは無言だったが、2人ともこれ以上知識を得てどうするのだろうか、と同じことを思っていた。