【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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263 アンブリッジの罰則と査察!

 

ソフィアは夕食後、教職員テーブルにいるマクゴナガルの元へ向かった。まだ沢山の生徒が残り、教師達もほとんど残っていた──勿論、アンブリッジもまだ席についていた──が、気にせずマクゴナガルの前に立つ。

 

 

「マクゴナガル先生、少しよろしいでしょうか?」

「どうしましたか?」

 

 

マクゴナガルは口を布巾で拭くとデザートのプディングを食べていたスプーンを置いてソフィアを見る。ソフィアは手に持っていた申請書をマクゴナガルに手渡した。

 

一体なんだろう、と片眉を上げていたマクゴナガルは封杖でトンと叩き封を切り、くるくると巻かれていた紙を開く。そこに書かれていた文字を読み、マクゴナガルは目を大きく見開いた。

 

 

「罰則!あなたがですか?ミス・プリンス」

 

 

驚愕のあまり声を顰める事を忘れていたマクゴナガルの声は良く響き、アンブリッジはにこりと笑みを深め、セブルスはぴくりとフォークを掴んでいた手を止めた。

 

教師達はソフィアの優秀さを知っている。勿論過去に友人が侮辱された怒りのあまりとんでもない魔法を放った事もあるが、ここ数年は大人しい優等生だと思っている。──いや、毎年校則を幾つか破っているが、それは表に出ない事ばかりであり、彼女と近しくない教師はそれを知らないだけだといえるかもしれないが。

 

教師だけではなく生徒達も何事かと首を伸ばして盗み見る中、スリザリン生がひそひそと意地悪げな視線を交わしソフィアを笑う。ただルイスとドラコだけが少々心配そうな表情をしていたが。

 

 

「はい」

「……何が──いえ、聞かないでおきましょう。……真摯に向き合う事です」

「ええ、勿論です」

 

 

マクゴナガルは沢山の視線に気付くとこほんとわざとらしく咳をし、くるくると紙を丸めた。

 

 

 

 

ソフィアの罰則は次の日の5時から行われた。ハリーは書き取り罰だというアンブリッジの言葉を信じきれず本当に心配し何度もソフィアを不安げに見たが、ソフィアは全く気にせず5時10分前に4階にあるアンブリッジの部屋へ向かった。

 

腕時計を見つつ、5時ちょうどに扉を叩けば中から「お入りなさい」と甘ったるい声が響く。

 

 

「失礼いたします。ソフィア・プリンスです。罰則に来ました」

 

 

ソフィアは部屋の中に入り、一瞬目を見開く。その部屋は壁や机、全てがふわりとしたレースのカバーで覆われ、やや悪趣味で少女趣味な物に覆われていた。特に目を引くのは、壁一面にかけられた無数の飾り皿のコレクションだろう。どれも愛らしい猫の絵が描かれ、丸々とした目でソフィアを迎え入れたのだ。

 

 

「こんばんは、ミス・プリンス」

「こんばんは、アンブリッジ先生」

 

 

ソフィアとアンブリッジはにこやかに挨拶を交わす。しかし、2人の間には言葉に出来ぬぴりりとしたものが流れていたのは言うまでもないだろう。

 

 

「さあ、お座りなさい」

 

 

アンブリッジはレースの掛かった小さなテーブルを指差した。その側には座り心地の悪そうな硬い木の椅子が用意されており、ソフィアは何も言わず座る。

 

 

「さあ、『私は真相の分からぬ妄言を吐き他人を惑わさない』と書きなさい」

 

 

ソフィアは妄言ではない、と心の奥で呟いたがそれを言葉に出す事はなく、小さく頷くと鞄の中から羽ペンと羊皮紙とインク壺を出し、カリカリと書き始めた。

反抗する事のないソフィアに、アンブリッジは少し意外そうな目をしたがすぐに満足気に微笑むと自分の花柄のテーブルクロスが敷かれている机の奥に行き、柔らかいクッションがついた椅子に座る。身を乗り出し、机の上に両肘を乗せ身を絡ませた指で顎を支える。パチパチと瞬きをし、にっこりと笑ったままアンブリッジはソフィアが文字を書いているのを眺めた。

 

何時間そうしていたのかわかりないが、窓の外は暗くなり夜空に星が輝いている。時々痛んだ手首を押さえ、ふう、と小さくため息をついてはいるが、ソフィアは泣き言一つもらさず淡々と書き取り罰を行った。

 

 

「──見せなさい」

「……はい、わかりました」

 

 

ソフィアは羽ペンを置き、積み上がった羊皮紙の束を全て保つとアンブリッジが待つ机まで移動した。流石に何時間も書き取りをしていたために腕はかなり痛み指先がびりびりと痺れたが、その痛みを読み取らせないほど、ソフィアは平然とした表情を崩さなかった。

 

 

「……ええ、いいわ。また明日5時にいらっしゃい。きっとこの文がより心に刻まれるでしょう」

「わかりました」

 

 

ソフィアは鞄の中に羽ペンやインク壺を片付けたようとしたが、指先が倦怠感と痛みで細かく痙攣し、インク壺がつるりと手から滑り落ち──あっと思う前にガシャン、と大きな音を立てて割れてしまった。

 

 

「何です?」

「……すみません、落として割ってしまいました」

 

 

ソフィアは鞄の中から杖を出すと割れたインク壺に向けて振るう。すぐに真っ二つになっていたインク壺は直ったが、流れ出たインクを戻す事は出来ない。

激しいピンク色のカーペットにその黒々とした汚れは良く目立ち、インクのツンとしたかすかな匂いが広がる。

このまま放置したい気持ちもあったが、流石に人の私物を汚して見て見ぬふりは出来ず、ソフィアはもう一度杖を振るいインクの汚れを綺麗さっぱり清めた。

 

 

「また明日、よろしくお願い──アンブリッジ先生?」

 

 

ソフィアはすぐに鞄の中に物を詰め帰ろうとしたが、アンブリッジは驚愕の目で自分を見つめ呆気に取られている。何だろうか、とソフィアは首を傾げたが、そういえばこの人は生徒が魔法を使うのを嫌がっている。レパロもスコージファイも呪文学で教わるレベルの魔法であり、アンブリッジにとっても忌避する魔法では無いはずだが、目の前で魔法を使われたくなかったのだろうか。

 

 

「あの──」

「あなた、無言呪文を何故使えるの?」

「え?……あぁ…」

 

 

硬い声のアンブリッジに、ソフィアはようやく何故アンブリッジがこんな奇妙な顔をしているのかを理解した。

 

無言呪文はまだこの学年では学ばない。いや、無言呪文はそもそも難しく、かなりの修練が必要である。そして無言呪文の習得はホグワーツでは大抵6年生のときに学ぶが──勿論、アンブリッジは今の6年生に無言呪文の方法を教えていない。

何故ならどのような魔法を発現させているかわからない無言呪文は魔法省に対しては驚異的である、そのため新しい教科書には初めから載っていないのだ。載っていなければ、学ばない。余計な事を知る必要はない。それがアンブリッジの、そして魔法省の決定だ。

 

 

ソフィアは鞄の紐を肩にかけ直しながら、にっこりと笑う。

 

 

「ジャック・エドワーズ。ご存じですか?魔法省にも出入りしてよく力添えする事がある、とジャックから聞いていますが…ファッジ大臣とも、親しいとか?」

「──ええ、それは、勿論。ですがあなたがジャックと何の関係が──」

 

 

ジャック・エドワーズ。

魔法省に勤務する魔法使いではないが、類稀な能力により様々な助言や助力をしてくれる。とくに去年のクィディッチ・ワールドカップでは大の魔法使いが思わず唸るほど正確なポートキーを作成した。ファッジとの交友もあり、ファッジは本当ならば自分の直属の部下にジャックを招きたいのではないかと噂されるほどに、ジャックが魔法省を訪れればすぐに顔を見せ側に置いていた。

本職は孤児院の経営だが、何でもできる優秀な魔法使いであるのはファッジに近しい者なら知っているのだ。そして、優秀であり人脈が広く人から好かれる性格である優しいジャックに気に入られたいと企み媚びへつらう魔法使いや魔女が多いのもまた、仕方の無い事だろう。

 

 

「ジャックは私の育て親(パパ)なんです──失礼します」

 

 

笑顔でそう言ったソフィアはアンブリッジが何かを言う前にすぐに扉へ向かい、振り返る事なくグリフィンドール寮へと向かった。

 

 

グリフィンドール寮の談話室に入れば、暖炉前のいつものスペースを陣取っていたハリーとハーマイオニーとロンがすぐに立ち上がりソフィアの元に駆け寄る。

 

 

「ソフィア!大丈夫だった?普通の書き取りだった?」

 

 

ハリーは心配そうに眉を下げ、ちらちらとソフィアの右手を見る。

 

 

「ええ、長時間書き取りさせられて手首は痛いけどね」

 

 

ソフィアは手を上げ、甲の部分をハリーに見せながら手をひらひらと振った。

目に見えて安堵の色を顔中に浮かべたハリーは小声で「良かった…」と呟く。

ハーマイオニーはソフィアの右手を取ると用意していた鎮痛薬入りのガーゼをソフィアの手首にぴたりと貼った。

 

 

「かなり長かったわね……どんな書き取りだったの?」

「『私は真相の分からぬ妄言を吐き他人を惑わさない』だったわ」

 

 

さらりと言ったソフィアに、ハーマイオニー達は顔を歪め「酷い!」と憤慨した。

ソフィアが言った言葉に一つとして妄言は含まれていない。だが、アンブリッジは誰が何を言っても決して認めようとしないだろう。

悔しさを滲ませるハーマイオニー達に、ソフィアは「思ってもない事をずっと書くのって、凄く馬鹿馬鹿しいわ」とおどけたように言い肩をすくめる。

 

 

「私、今日は疲れちゃったからもう部屋に戻るわね。おやすみなさい」

「あ、それなら私も戻るわ!おやすみなさい、ハリー、ロン」

 

 

ふわ、と欠伸をこぼしたソフィアがそう言えば、ハーマイオニーは直ぐに暖炉前の机に置いていた教科書を鞄の中に詰め込み、宙に浮いていた編み物をむんずと掴むと寝室へと向かうソフィアを追いかけた。

 

 

 

次の日、ソフィア達は呪文学を終え変身術へ向かった。教室に入った途端、この教室で異彩を放つピンク色の花柄ローブを着たアンブリッジがいることに気付く。アンブリッジは教室の隅の席に座り、クリップボードを持っていた。初めてのアンブリッジの査察を見るのが厳格なマクゴナガルの授業である事に、いつもの席に着くや否や、ロンが「いいぞ。アンブリッジがやっつけられるのを見てやろう」と小声でソフィア達に囁く。

 

授業開始のベルがなる数分前、既に教室の中には生徒達が着席する中、マクゴナガルはアンブリッジが教室にいることなどまったく意に介さない様子でいつも通り背筋を伸ばし粛々と教室に入ってきた。

 

 

「静かに」

 

 

マクゴナガルの一言でアンブリッジを見てこそこそと囁いていた生徒はたちまち黙り込み、しん、としたいつもの緊張感と静けさが教室を満たす。

 

 

「ミスター・フィネガン。こちらに来て宿題をみなさんに返してください。──ミス・ブラウン、ネズミの箱を取りに来てください。……馬鹿な真似はよしなさい。噛み付いたりしません、一人一匹ずつ配って下さい」

 

 

名を呼ばれたシェーマスとラベンダーがマクゴナガルの前に向かい言われた通り生徒達に宿題とネズミを配る中、アンブリッジは今学期最初の夜にダンブルドアの話を中断させたわざとらしい咳を数回こぼしたが、マクゴナガルはそれを無視した。

 

ソフィアはシェーマスから受け取った宿題を開く。左上に大きくO()と書かれており、ソフィアは最高点が取れた喜びに頬が緩んでしまった。

 

 

「さて、それではよく聞いてください。カタツムリを消失させるのは、ほとんどのみなさんが出来るようになりましたし、まだ殻の一部が残ったままの生徒も呪文の要領は飲み込めたようです。今日の授業では──」

「ェヘン、ェヘン」

 

 

アンブリッジのわざとらしい咳が静かな響き、今まで無視していたマクゴナガルは初めてアンブリッジを見た。その視線が友好的なものでないのは、仕方のない事だろう。

 

 

「──何か?」

「先生、わたくしのメモが届いているかどうかと思いまして。先生の査察の日時を──」

「当然受け取っております。さもなければ、私の授業に何の用があるのかとお尋ねしていたはずです」

 

 

マクゴナガルは冷ややかな声できっぱりと言うとアンブリッジに背を向けた。

生徒の多くが清々しい程の言動に歓喜の目を見交わす。このクラスにおいて、アンブリッジのことが好きな者など誰一人として存在しないのだ。

 

 

「先程言いかけていたように、今日はそれよりずっと難しい、ネズミを消失させる練習をします。呪文は──」

「ェヘン、ェヘン」

「──いったい。そのように中断ばかりなさって、私の通常の教授法がどんなものか、お分かりになるのですか?いいですか。私は通常、自分が話している時に私語は許しません」

 

 

マクゴナガルはアンブリッジに向かって明確な冷たい怒りを放った。アンブリッジは尤もな言い分と生徒達の歓喜の視線に横面を張られたような──衝撃的だという表情をした。しかし、これアンブリッジもマクゴナガルに口では敵わないと悟ったのか何も言わずに背筋を伸ばし、クリップボードの上で何かを猛烈に書き込みはじめた。

 

そんな事は歯牙にも掛けない様子で、マクゴナガルは再び生徒達に向かって話しかける。その表情がいつもより堂々としどこか勝ち誇ったように見えたのはソフィアの勘違いでは無いだろう。

 

 

変身術の授業は、それからアンブリッジは静かなものだった。

消失呪文を繰り返す生徒たちを観察し、時々羊皮紙にメモをとる。他の授業では生徒たちに質問したと聞いていたが、アンブリッジは誰にも声をかけなかった。それはマクゴナガルが許さないと悟ったのだろう。

しかし、もしマクゴナガルが生徒への質問を許したとしてマクゴナガルの授業は確かに厳しくふざけることを許さないが、わかりやすい授業であり生徒からの信頼も厚く、きっとアンブリッジが生徒たちに望んでいたような返答を得る事は出来なかっただろう。

 

 

「ミス・プリンス。こちらに」

「え?──はい、マクゴナガル先生」

 

 

ネズミを一度で消失させたソフィアはハリーに呪文の唱え方を説明していたが、授業の終盤になり教壇に立つマクゴナガルに手招きされた。

殆んどの生徒がネズミを消失させる事に苦戦する中──消失されなかった尻尾や前足がびちびちと机の上で跳ねていた──ソフィアは教壇に向かう。

 

 

「ミス・プリンス。あなたにネズミは簡単過ぎるでしょう。──サラマンダーを消失してみなさい」

 

 

マクゴナガルは杖を軽く振るう。

突如教卓の上に太い枯れ木に乗ったサラマンダーが現れ、ぼう、と口から炎を吐いた。近くにいた生徒は驚き、ネズミに放った消失呪文が全く別方向に飛び、教室にあった椅子を一つ消したが、皆の視線は巨大なサラマンダーに釘付けであり、誰も気付かなかっただろう。

 

 

「はい、分かりました」

「──少々よろしいですか?」

「一体何です?」

 

 

ソフィアは杖をサラマンダーに向けたが、いつのまにか近くに来ていたアンブリッジがわざとらしい咳をするのも忘れソフィアとマクゴナガルの横に立った。

 

 

「カリキュラムで魔法生物の消失は組み込まれていないはずでは無かったかしら?」

「ええ、ですがミス・プリンスには変身術の類稀な才能があります。足並みを揃えた授業だけでは彼女の才能を伸ばす事は出来ません」

「しかし──」

「ミス・プリンス。どうぞ」

 

 

ソフィアはネズミであっても一度で消失させ、勿論現し呪文も使用する事が出来た。

一度短い息を吐し集中したソフィアはアンブリッジが何かぐちぐちと文句を言っている声も聞こえなくなり──そして、凛とした声で唱える。

 

 

エバネスコ(消失せよ)!」

 

 

枯れ木の上にいたサラマンダーは吐いていた小さな炎ごとパッと消えた。

見事な消失呪文に生徒たちは大きな歓声を上げ拍手を送る。マクゴナガルもいつもより優しく誇らしげな目でソフィアを見つめて頷き、「次は、現し呪文です」と伝えた。

 

 

アパレシウム(現れよ)!」

 

 

消えていたサラマンダーは再び現れ、きょとんとした不思議な顔でソフィアを見つめ首を傾げる。

更に拍手が大きくなる中、アンブリッジだけは引き攣ったような目でソフィアを見ていた。

 

 

「大変見事でした。もう少し大型の魔法生物に挑戦してもいいかもしれませんね。──グリフィンドールに10点加点します」

「ありがとうございます!」

 

 

マクゴナガルはサラマンダーに向かって杖を振り、周りに四角い籠を出現させる。籠に入れられたサラマンダーはふわふわと浮かび、教室の後方にある棚にきちんと収まった。

 

 

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