ソフィアがアンブリッジからの1週間の罰則を終えた最終日、ソフィアはグリフィンドール寮に戻らず魔法薬学の研究室へと向かっていた。
夕食の時にセブルスから「罰則後に待つ」といういつも通りの短文の手紙を受け取ったからだった。
呼び出される事に心当たりは全く無かったが、久しぶりに親子として会話できるかもしれないと思うと自然と頬は緩み、足取りは軽くなる。
「先生、ソフィア・プリンスです」
「入りたまえ」
ソフィアは扉を開け、後ろ手にきっちりと扉を閉じる。部屋の中央に椅子とローテーブルがあり、その上にはティーセットが用意されていた。
セブルスは杖を振るい扉に防音の魔法とくっつき魔法をかけ、ソフィアに椅子に座るよう促した。
「どうしたの?父様」
ソフィアは椅子に座ると2つのカップに紅茶を注ぎ、いつも通りの美味しそうな匂いを楽しみながら首を傾げた。どうやら何かに対する罰則や苦言ではなく、ただのお茶会のようだ。
セブルスは対面側に座ると熱い紅茶を飲み、暫く沈黙したが、ややあって口を開いた。
「……何故罰則を受ける事になった?」
「ああ、その事ね」
何故呼び出されたのか合点がいったソフィアは、大した事が無いというようにアンブリッジと自分との間でどのような会話があったのかを話した。
全て聞いたセブルスは小さくため息をつき納得する。ソフィアは教師がどのような教師であれ、反抗的な態度を見せる事は無い。ソフィアが怒り反論するのは、親友であるハーマイオニーが愚弄された時だけだ。セブルスは自分が受け持つ魔法薬学の授業で何度もソフィアがハーマイオニーの為に反抗的な態度を見せた事を思い出した。
「罰則の内容は普通の書き取りだったわ」
「そうか……」
「アンブリッジ──先生の授業では、まともな事は学べないわ。私たちに魔法を全く使わせずにOWL試験に臨めって言うのよ?論理を深く理解しただけで魔法が発現するのなら、魔法学校なんて必要ないわ!」
ソフィアはセブルスの手前、一応アンブリッジの事を先生と呼んだが、わざとらしくつけられたその言葉にセブルスは気付き、少し眉を寄せる。勿論セブルスもアンブリッジの事は良い教師だと思っていないが。
ソフィアが敬意を払わない、という事が引っかかるのではなく、ただ単にアンブリッジにソフィアが目をつけられるのは厄介だと思ったのだ。
「だが、既に5年生の魔法は使えるだろう。いや…この学校で学ぶ全ての魔法を使えるのではないか?」
「まぁ、そうだけど……みんながそうだというわけじゃないでしょう?ねぇ、父様。どうにかならないかしら?」
「…難しいな。他の科目に口出しは出来ん。アンブリッジは魔法省の人間でもある」
「そうよね……はぁ、闇の魔術に対する防衛術の先生は中々まともな教師に恵まれないわね…」
「……ソフィア。今年も異変があればすぐに私に言いなさい。…わかっているな?」
「わかってるわ!」
ソフィアはセブルスの懐疑的な視線から逃れるために紅茶を一口飲んだ。
毎年忠告されているが、なんだかんだ言えない事が多く、心配させたり怒らせてしまう事が多いとソフィア自身理解していた。
しかし、流石に今年は例年とは異なる。ヴォルデモート卿が復活した今、もし少しでも異変があればすぐに騎士団員であるマクゴナガルかダンブルドア、そしてセブルスに言うつもりだった。──言える範囲内で。
「あ!そういえば、父様に相談があるんだけど……」
「何だ?」
「大した事じゃないの、そろそろ将来の職業の事を考えないといけないでしょ?その相談をしたくて……今日は遅いし、今じゃなくていいからまた時間をとってほしいの」
ソフィアは時計を見て夜の9時がすぎている時間に話す内容では無いとすぐに手を振った。将来の事だ、じっくりと父の話が聞きたかったし、その為の勉強法も知りたかった。
セブルスはソフィアの真剣な目に、もうそんな事を考える歳になったのかと思うと、何だか感慨深い思いがした。子どもだとばかり思っていたが、もう将来の事を真剣に考える時なのか。
「ああ……近々、時間をつくろう」
「ありがとう!私、今年は魔法薬学で……実技でもOを取ってみるわ!」
魔法薬学を苦手としているソフィアからすればそれは高すぎる目標に思えた。しかし今年になってソフィアは調合が上手くなり、出来上がった薬も100点とはとても言えないが、60点くらいにはなっている。今まで10点レベルだった事を思えば大きな進歩だろう。このまま集中を切らさず、最後まで集中して調合を行えばいつか100点の薬を作れるようになるだろうとセブルスは思っている。
セブルスは目元を緩めると、「期待していよう」と優しく言った。
一時の楽しいお茶会を終えたソフィアは暗い廊下を歩き、グリフィンドール寮へと戻る。ふと、もしハリーと共に闇の魔術に対する防衛術の自習をするとなれば、父にその事を報告するべきなのか悩んだ。
しかし、悩んだのは僅かな時間であり、ソフィアはすぐに頭の中からその疑問を消す。
これは特に異変ではないだろう。それに、自習は校則で禁止されている訳ではない。もしアンブリッジが知ればそれはそれで面倒な事になるだろう、しかし、ソフィアは勿論ハーマイオニー達もアンブリッジにわざわざ伝えるなんて事は考えていない。
異変でもないし、父様が知らなくても問題ないわ。──と、ソフィアは考えた。
闇の魔術に対する防衛術をハリーとソフィアが教えるという提案をした後、ハーマイオニーは丸々二週間、全くそのことに触れなかった。
そして、9月も終わろうとしている荒れ模様の夜、ソフィア達が図書館で魔法薬の材料を調べているとき、再びその話題が持ち出された。
「どうかしら。闇の魔術に対する防衛術の事、あなた達、あれから考えた?」
突然ハーマイオニーが切り出し、ハリーは難解な魔法薬学の参考書に目を落としていたがハーマイオニーの声音の真剣さにゆっくりと顔を上げる。
ロンはまたハリーが爆発しないかと顰めっ面をしてハーマイオニーとハリーをちらちらと見る。その目は「もうその事には触れるな」と言っているようであった。
「……考えたよ」
「それで?」
ハーマイオニーはハリーが不機嫌にならないと分かると身を乗り出し意気込みながら次の言葉を促す。ハリーは自分だけが考えを言って良いものか特に悩みソフィアを見たが、ソフィアは少し微笑むだけで何も言わなかった。
「あれから、ソフィアと少し相談したんだ。それで──外の世界の脅威と戦うためじゃなくて、脅威に遭ったときの生存率を上げるためなら……いいんじゃないかって」
「生存率?」
「うん。僕は今まで一人で完璧に勝てた事なんてない。いつだっていろんな奇跡とか、幸運とか──そんなもので生き延びる事が出来たんだ。戦って、相手を倒すんじゃなくて…どうやれば生き残れるのか、その生存率を上げるための方法なら……多分、教えられる」
「ソフィアも、同じ意見なの?」
「ええ、そうよ。それなら私も少しは教えられるもの」
ソフィアは読んでいた参考書をぱたんと閉じて微笑む。ハーマイオニーは2人からの前向きな言葉に嬉しそうに笑うと「良かったわ!」と目を輝かせた。
「生存率を上げる──うん、とっても良いわ!2人とも、闇の魔術に対する防衛術はとても優れてるもの!ソフィアは教え方も凄く上手いし、2人とも服従の呪文を退けられるし、ハリーは守護霊も創り出せる。きっととても身につく自習になるわ!」
「でも、君とロンだけだ、いいね?」
ハリーの言葉に、ハーマイオニーはまた少し心配そうな顔をした。
「うーん…ハリー、お願いだからまたキレたりしないでね?…私、習いたい人には誰にでも教えるべきだと、本当にそう思うの。だって、問題は死喰い人や…ヴォ、ヴォルデモートに対して──ああ、ロン、ソフィア、そんな顔をしないで!──私たちが自衛するって事だもの。こういうチャンスを他の人にも与えないのは、公平じゃないわ」
ハリーとソフィアは顔を見合わせ、少し悩んだ。
ハーマイオニーとロンにだったら幾らだって練習に付き合い、教える事が出来る。だが他の人も参加するとなると、後々ややこしい事になるのではないかという漠然とした不安がソフィアにはあった。
ハリーの不安は、そこまで考えているわけではなく──単純に、今の自分に魔法を教わりたいという人がいるとは思えなかったのだ。
「うーん……ハーマイオニーの言うこともわかるわ。でも……人が多くなると、後々問題が出そうな気がするわ…」
「そもそも、君たち2人以外に魔法を習いたいなんて思うやつはいないと思う。ソフィアはともかく、僕は頭がおかしいんだ、そうだろ?」
「さあ、あなたの言う事を聞きたいって思う人がどれだけたくさんいるか──あなた、きっとびっくりするわよ。それに、ソフィアの魔法の優秀さは2年生の時の決闘クラブで沢山の人が見ていたわ」
ハーマイオニーは真剣な声で自信たっぷりに言うが、ハリーとソフィアはそうとは思えず肩をすくめる。
「それじゃ、10月の最初の週末はホグズミード行きでしょ?関心のある人は、あの村で集まるって事にして、そこで討論したらどう?」
「どうして学校の外でやらなきゃいけないんだ?」
黙って聞いていたロンが不思議そうに聞けば、ハーマイオニーはやりかけの『噛み噛み白菜』の図の模写に取り組みながら「アンブリッジが私たちの計画を嗅ぎつけたら、あまり嬉しくないだろうと思うからよ」と声を潜めて言った。