ホグズミード行きの日は、明るく風の強い朝から始まった。
ハリーはシリウスがまた犬の姿になり現れたらどうしようかと心配になり、ソフィア達に相談もしたが、流石のシリウスもあれだけハリーにダメだと言われたら来ないだろう、とソフィア達は慰めた。シリウスもきっと、本心ではわかっているはずなのだ。ただ、2年以上も逃亡生活の上に今はあの場所で1人軟禁されている。嫌になり愚痴の一つも言いたいところだが、それに付き合ってくれる者もいないのだろう。
シリウスがいなかったら、シリウスの無実を知らなかったらこうしてホグズミードに行ける事もなかったのだと思うとハリーの胸はちくりと痛んだが、今どれだけ心を痛めようが仕方のないことなのだ、きっとシリウスは一言会いたいと言えば喜んであの場所から飛び出すだろう。だからこそ、ハリーはシリウスに会いたいとは口が裂けても言えなかった。
「ところで、どこに行くんだい?3本の箒?」
ソフィア、ハリー、ロン、ハーマイオニーはホグズミード村のすぐそばまでやってきた。
事前にロンとハーマイオニーがまともな闇の魔術に対する防衛術を学びたいと思っているだろう何人かに声をかけて回り、興味を持った者が何人かいる事は聞いていた。
「違う。あそこはいつもいっぱいで騒がしいし、みんなにホッグズ・へッドに集まるように言ったの。ほら、もう一つのパブ。知ってるでしょ?表通りには面していないし、あそこはちょっと……胡散臭いわ。だから生徒は普通あそこには行かないから、盗み聞きされることも無いと思うの」
ハーマイオニーの言葉にソフィア達は頷き、大通りを過ぎて横道に入った。
その道の突き当たりに小さな旅籠が建ち、ドアの上に張り出した錆びついた腕木にボロボロの木の看板がかかっていた。その看板には切られたイノシシの首が周囲の白布を真っ赤に染めた悍ましい絵が描かれ、風に煽られてギィギィと不吉な音を奏でた。
流石に4人とも入るのを躊躇い、暫く顔を見合わせていたが、ついにハーマイオニーが「さあ、行きましょうか」と少しおどおどしながら言った。
頷いたハリーは、ハーマイオニーに目配せをして真っ先に扉を押し開けた。
ホッグズ・ヘッドは、三本の箒と全く異なっていた。
三本の箒は明るく暖かく、何よりも清潔で笑顔と楽しげな声で満たされていたが、ホッグズ・ヘッドは小さく見窄らしく、ひどく汚い店内でありヤギのようなキツイ獣臭がした。出窓は煤けて陽の光が殆ど差し込まず、木のテーブルはざらつき床は何世紀もそのままなのではないかという埃が踏み固まれ、石畳のようになっていた。
一年生の時に、ハグリッドが「ホッグズ・ヘッドにはおかしなやつがうようよしとる」と言い、どう見ても怪しい人間から酒を奢られドラゴンの卵を受け取ったと聞いた時、そんな馬鹿な話あるのか、何故怪しまないんだ。とソフィア達は思っていたが、店内にぽつぽつといる人たちを見る限り、確かにこれは怪しむ怪しまないの問題ではない。
店内にいる人──か、どうかは不明だが──はみんな顔を隠していた。包帯でぐるぐる巻きにしていたり、フードを深く被り顎の下しか見えなかったり。ここでは顔を隠すのが当たり前なのだろう。暖炉脇にいる分厚く黒いベールに身を包んだ魔女なんて、尖った鼻先が僅かに見える程度だ。
ソフィアはそっとハーマイオニーの腕を掴みながら、少しだけ、不安に思った。
「本当に、ここでいいの?」
「もしかしたら、あのベールの下はアンブリッジかもしれないって、そんな気がしないか?」
ソフィアとハリーはひそひそと呟き、不安げで居心地悪そうな顔をした。だがハーマイオニーは魔女のベールの姿を探るように見ながら「アンブリッジはもっと背が低いわ」と落ち着いて言う。
「それに、アンブリッジがもしここに来ても、私たちを止めることは出来ないわよ。校則を何回も確認したし、フリットウィック先生にも聞いたけど、生徒がホッグズ・ヘッドに来ることは校則違反じゃないの。ただし、自分のコップを持参しなさいって忠告されたけどね。それに、勉強の会とか宿題の会とか、考えられる限り全て調べたけど、間違いなく許可されているわ。私たちがやっていることを派手に見せびらかすのは、あまりいいと思わないけど」
「…ただでさえ、ファッジ大臣は戦う訓練をさせたくないみたいだものね…バレたら……また面倒な法令を出すわ、きっと」
ソフィアが囁けば、ハーマイオニーは少しだけ心配そうな顔をした。しかしここまできてしまったのだ、何より発案者の自分が怖気付くわけにはいかない。とハーマイオニーは表情を引き締める。
こそこそと話していると店主が裏の部屋から出てきて4人にじわりと近付いた。長い白髪に顎髭を伸ばした不機嫌そうな顔をした老人が現れ、「注文は?」とぶっきらぼうに聞いた。
「バタービール。4本お願い」
ハーマイオニーがきっぱりと言えば、老人はカウンターの下に手を入れ、埃を被った汚らしい瓶を4本引っ張り出しカウンターの上に強く置いた。
「8シックルだ」
「僕が払う」
ハリーが銀貨を渡しながら急いで言い、店主は一瞬ハリーの額の傷痕を見たが、何の反応も見せずハリーの銀貨を古臭い木製のレジの上に置いた。木箱の引き出しが自動的に開き銀貨を受け入れたのを見ながらハリー達はバーカウンターから一番離れたテーブルに移動し、腰掛けて辺りを見回した。
「あのさあ。ここなら何でも好きなものを注文できるぞ。あの爺さん、何でもお構いなしに売ってくれるぜ。ファイア・ウィスキーって、僕、一度試してみたかったんだ」
ロンがカウンターの方を見ながらうずうずと言うが、すぐにハーマイオニーはしかめ面をして「あなたは監督生です」と低い声で制する。ハーマイオニーの静かな軽蔑と怒りの眼差しに、ロンの顔から笑いが消え「そうかぁ…」と呟き、ガッカリと肩を落とした。
「それで、誰が僕たちに会いに来るって言ってたっけ?」
「ほんの数人よ」
ハーマイオニーは時計を確かめ、心配そうにドアの方を見ながら前と同じ事を繰り返す。何度かハリーとソフィアが誰が来るのかと聞いたが、ハーマイオニーは「数人よ」と曖昧にしか答えなかった。
「あっ、ほら、今来たかもしれないわ」
パブの扉が開き、一瞬、埃っぽい店内に陽の光が帯状に差し込んだが、次の瞬間には入ってきた人々の影によりそれは遮られて消える。
先頭にネビル、続いてディーンとラベンダー、その後ろにパーバティとパドマ、そしてチョウと、チョウの友人であるマリエッタ・エッジコム、ルーナ、ケイティ、アリシア、アンジェリーナ、コリンとデニスの兄弟、アーニー、フレッドとジョージ、リー・ジョーダン──その他にもまだぞろぞろと店内に入り、狭い店内は一気に人で溢れた。
「数人?」
「これが、数人なの?」
ハリーとソフィアは掠れた声で呟き、呆然と入ってきた見知った顔を眺めた。
「ええ、そうね、この考えはとても受けたみたい」
ハーマイオニーは嬉しそうだったが、ソフィアは少々嫌な予感がした。
たしかに、アンブリッジの授業に不満を持ち、闇の魔術に対する防衛術を学びたいと考える人たちなのだろう。だがここまで多く──その人の性格や内面を知らぬ人まで居るとなると、いつか間違いなくアンブリッジに知られることになるだろうと思った。
いや、まだ今日はハリーと自分の考えを言うだけであり、全員が参加するわけではない。そうソフィアは思い直し、言いたい事を飲み込んだ。
「ロン、もう少し椅子を持ってきてくれない?」
ハーマイオニーの指示に、ロンはすぐ誰もいないテーブルから椅子を持つと人混みをかき分けてきたが、おそらくこの店内にある全ての椅子を持ってきても全員が座ることは出来ないだろう。
店主は一度も洗ったことがないような汚いボロ衣でコップを拭きながら、目を見開き固まっていた。間違いなく、店内が満員になったのを見たのは初めてなのだろうとハリーは思った。
「やあ。──じゃあ、バタービールを25本頼むよ」
フレッドがカウンターに近づき店主に話しかけ、素早く人数を数えバタービールを注文した。
苛つきながらカウンターに置かれたバタービール瓶を配りながらフレッドとジョージは手分けして1人2シックル回収していく。
ソフィアはそれを眺めながら「25人…」と呟いた。
「君はいったい、みんなに何て言ったんだ?みんな何を期待しているんだ?」
ハリーはまさかこの集団が自分かソフィアの演説を期待しているのではないかと思い、低い声で聞いた。
「言ったでしょ。みんな、あなたとソフィアの考えを聞きにきたのよ。──勿論、はじめは私が話すから、あなたは何もしなくていいわ」
ハリーが怒りを滲ませたまま見つめるのをやめなかったため、ハーマイオニーは慌てて最後の言葉を早口で付け足した。
椅子が足りなかった生徒は立ったままでハリーたちの周りに集まり、ガヤガヤとしたお喋りが自然と鎮まり、その代わりに視線はハリーと、そしてその隣にいるソフィアに注がれた。
「えー」
流石のハーマイオニーも緊張し、いつもより声を上ずらせながら話のきっかけを作る。ハリーとソフィアに向いていた目はハーマイオニーを注目したが、時々、また2人に視線が戻っていた。
「さて……えーと…じゃあ、みなさん。何故ここに集まったか、わかっているでしょう。えーと──じゃあ、ここにいるハリーとソフィアの考えでは……あー……つまり、私の考えでは、とてもいい考えだと思うんだけど……闇の魔術に対する防衛術を学びたい人が──つまり、アンブリッジが教えるようなクズじゃなくて、本物を勉強したい人、という意味だけれど」
話しているうちに落ち着いてきたのか、アンブリッジに対する怒りを思い出したのか、ハーマイオニーの声は徐々に自信に満ち、力強くなる。
「何故なら、あの授業は誰が見ても闇の魔術に対する防衛術とは言えません。──それで、いい考えだと思うのですが、私は……この件は自分たちで自主的にやってはどうかと考えました。そして、つまりそれは適切な自己防衛を学ぶという事であり、単なる理論ではなく、本物の呪文を──」
「だけど、君は闇の魔術に対する防衛術のOWLもパスしたいんだろ?」
マイケル・コーナーが聞き、ハーマイオニーはすぐに頷いた。
「もちろんよ。だけど、それ以上に、私はきちんも身を護る訓練を受けたいの。自分の命を守るために──何かあった時の、生存率を上げるために。なぜなら……なぜなら……──ヴォルデモート卿が戻ってきたからです」
ハーマイオニーは大きく息を吸い込んで最後の言葉を言った。その途端、そこかしこで小さな悲鳴が上がり、数人が肩を震わせたが、全員が今度はソフィアでもハーマイオニーでもなく、ハリーを爛々とした目で見つめた。
「じゃ……とにかく、そういう計画です」
ハーマイオニーは言いたい事を全て言うと椅子に座り、すっかり乾いた喉をバタービールで潤した。
「あの人が戻ってきたっていう証拠がどこにあるんだ?」
ザカリアス・スミスというハッフルパフ生がハリーを睨みながら食ってかかるように言う。
ソフィアは知らなかったが、彼はクィディッチの選手であり、そして──セドリックとも、仲が良かった。
「まず、ダンブルドアがそう信じていますし──」
「ダンブルドアがその人を信じてるって意味だろ」
ハーマイオニーがすかさず理由を説明しかけたが、ザカリアスは彼女の言葉を途中で遮り、ハリーの方を顎で指した。
「君、いったい誰?」
「ザカリアス・スミス。──それに僕たちはその人が何故例のあの人が戻ってきたなんて言うのか、正確に知る権利があると思うな」
怪訝な顔をしたロンの言葉にザカリアスはぶっきらぼうに答え、ハリーからの返答を待つ。こんな展開になるとは思ってなかったハーマイオニーは狼狽え、どうしたらいいのかと助けを求めるようにちらちらとソフィアを見た。
「…この会合は、ハリーに去年あった事を聞くために開いたわけではないわ。私は、そもそも例のあの人が戻ってきたから、という理由であなたたちに魔法を教えるつもりはないの。ただ、外にいる死喰い人や人攫い、他の魔法生物達から襲われた時のための対処法と、生存率を上げるための訓練を行う。そのつもりで、ハリーと私はここに来ているの」
今まで黙っていたソフィアの言葉に、一瞬静寂が落ちた。ソフィアの事をよく知らない人たちは「そもそも何故こんな少女がハリー・ポッターと同格なんだ?」という懐疑的な目を隠さずソフィアを見る。
「いいよ、ソフィア」
ハリーは自分の中で沸々と煮えたぎるような怒りを何とか鎮める。おそらく、彼らの殆どは真剣に魔法を知りたいのではなく、自分から去年何があったのかを直接聞ける事を期待してやってきたのだろう。
「僕が何故例のあの人が戻ってきたって言うかって?僕はやつを見たんだ。だけど、先学期ダンブルドアが何が起きたのかを全校生に話した。だから、君がその時ダンブルドアの事を信じなかったのなら、僕の話も信じないだろう。僕は誰かを信用させるために、午後いっぱいを無駄にするつもりはない」
ハリーが話している間、全員が息を殺しているようだった。集まった生徒たちだけではなく、この店に居る名も知らぬ魔法使いや魔女、そして店主でさえこちらに聞き耳を立てているような気がして、ハリーは一瞬、店主をチラリと見た。
「ダンブルドアが先学期話したのは、セドリック・ディゴリーが例のあの人に殺された事と、君がホグワーツまでディゴリーの亡骸を運んだ事だけだ。詳しいことは話さなかった。僕たちみんなそれを聞きたいと思うな──」
「ヴォルデモートがどんなふうに人を殺すのかはっきり聞きたくてここに来たのなら、生憎だったな。僕は、セドリック・ディゴリーの事を話したくない。わかったか?だから、もしみんながそのためにここに来たのなら、すぐ出て行った方がいい」
なおも食い下がるザカリアスにハリーはキッパリと言い、扉を指差した。
しかし、出て行くものは誰もいなかった。ザカリアスでさえ、ハリーをじっと見つめたまま口を真一文字に結び沈黙していた。
ソフィアは小さくため息をつき、机に手を置いて静かに立ち上がる。
だが、沈黙が落ちる店内にソフィアが椅子を動かした音はやけに大きく響き、みんながソフィアを見つめた。
「──さて、本気で私とハリーから防衛術を学びたいと思っているなら──多分、ここにいる何人かはどうして私が?と疑問に思っていると思うの」
「ソフィアは僕より優れた魔女だ」
すぐにハリーがそう言うが、殆どの生徒は「本当なのか?」とやや疑いながらソフィアを見ていた。
ソフィアの今までの試練は、殆ど誰も知ることのない試練なのだ。全てを知っているのはハリーとロンとハーマイオニーだけであり、一部の生徒がソフィアの魔法の強さの片鱗を2年生の時の決闘クラブで見た──たった、それだけである。
「まず──何から言えばいいのかしら…自分の力を誇示するようで、ちょっと、気が進まないんだけど……私も、自分の魔法がハリーより優れているとは思わないの。ただ、少し他の人より魔法を知っていて、少し危険な試練を経験して、そして──少し、人に攻撃魔法を掛けることに躊躇がないだけよ」
ソフィアは最後の言葉は少し悪戯っぽく伝えた。何人かは冗談だろうと思ったが、ソフィアとルイスの決闘クラブでの様子を知ってる何人かは神妙な面持ちで頷く。
「私が教えるのは、攻撃魔法と守護魔法の精度を上げること、自分の生存率を上げる方法。そして、無言呪文と守護霊魔法の習得方法。最終的には本格的な対人訓練もしたいわ」
「えっ!ソフィア、あなた守護霊を創り出せるの?」
ハーマイオニーが思わず叫び、ソフィアの言葉を聞いていたザカリアス達もざわめいた。
「あれ、言ってなかったかしら?」
「知らなかったわ!」
「まぁ…会合に参加するのなら、見せる機会があると思うわ。──話が脱線したけど、私ができる事はそのくらいね」
ソフィアはニコッと笑い、再び椅子に座る。隣に居る友人とコソコソと話す者もいたが、ソフィアも守護霊を創り出せるということが決め手になったのか、誰もソフィアがハリーと共に教えることに異論はなさそうだった。──少なくとも、誰もソフィアを疑うことなく尊敬の眼差しで見つめている。
「あの、ハリー・ポッター。あなたも守護霊を創り出せるって本当?」
長い三つ編みを一本背中に垂らした女子生徒がおずおずとハリーに聞いた。会合の頻度や日程を決めようと声を上げかけていたハーマイオニーは言葉を飲み込み、その女生徒を見つめる。
「うん」
「有体の守護霊を?」
何を言われるのかと身構えていたハリーは、その言葉で記憶が蘇り、彼女の面影にピンとくるものがあった。
「あ、きみ……マダム・ボーンズを知ってるのかい?」
「私のおばよ。私、スーザン・ボーンズ。おばがあなたの尋問の事を話してくれたわ。それで──本当なの?牡鹿の守護霊を創るって?」
「ああ、そうだよ」
ハリーが答えた途端、リーが「すげえぞハリー!それに、ソフィアも!全然知らなかった!」と心底感心したように言った。
そのリーの明るい賞賛の声に、今まで微妙な緊張を孕んでいた空気はふっと緩和したのをソフィアは肌で感じた。
その後は口々に今まで聞けなかったハリーの功績を確認し──バジリスクをグリフィンドールの剣で倒した事や、賢者の石を守った事、そして去年の三校対抗試合での事だ──皆が賞賛と感心の目をハリーに向けた。
ハリーは勿論全てが自分1人の力ではなく、沢山の人に助けられた事を言ったが一度盛り上がった雰囲気は収まらず一転して誰もがハリーを褒め称えた。
「さあ、じゃあ、先に進めましょう。要するに、ハリーとソフィアから習いたいということで、みんな賛成したのね?」
場が荒れてきた雰囲気に、ハーマイオニーが慌てて手を叩き自分に目を向けさせた。
同意を示す声が次々と上がり、誰もが頷くなかザカリアスは腕組みしたまま沈黙していたが拒否はしなかった。
ようやくひとつ決定したことにハーマイオニーはほっとした顔で皆を見回す。
「いいわ。それじゃ次は何回集まるかね、少なくとも週に一回は集まらなきゃ意味がないと思います」
「待って、私たちのクィディッチの練習とかち合わないようにしなきゃ」
「もちろん、私たちの練習とも」
「僕たちのもだ」
アンジェリーナとチョウとザカリアスが口々に言う。ハーマイオニーはクィディッチの方が大切であり、この集まりの目的に本気ではないのかと少々苛ついたがここで反論すれば全てが水の泡だと、自分に言い聞かせ言いたい事を半分は飲み込んだ。
ソフィアもまた、この中で本気なのは一体何人なのだろうか、と内心でため息をつく。
「どこか、みんなに都合が良い夜が必ず見つかると思うわ。だけど、いい?これはとても大切なこと事なのよ。ヴォ──ヴォルデモートの死喰い人から身を護る事を学んですからね」
ハーマイオニーがキッパリと言えば、クィディッチの選手達は不服そうにはしたが、文句は言わなかった。きっとハーマイオニーが先にどのチームも練習が被らない日時にすると言わなければ沢山の文句が吐き出された事だろう。
「そのとおり!」
アーニー・マクミランが突如大声を上げた。彼のことを目立ちたがり屋だと思っているハリーは、むしろここまでよく黙っていられたものだと思った。
「個人的には、これはとても大切なことだと思う。今年僕たちがやることの中では一番大切かもしれない。たとえOWL試験が控えていてもだ!──個人的には、なぜ魔法省があんな役にも立たない先生を我々に押し付けたのか理解に苦しむ。魔法省が、例のあの人が戻ってきたと認めたくないために否定しているのは明らかだ!しかし、我々が防衛呪文を使う事を積極的に禁じようとする先生をよこすとは──」
「魔法省が、私たちに闇の魔術に対する防衛術の訓練を受けさせたくない理由はね」
アーニーの演説に応えるために、ソフィアは静かに口を開いた。
「それは、アンブリッジやファッジ大臣が、変な考えを持っているからよ。ダンブルドア先生が私設軍隊のようなものに生徒を使おうとしているとか──アンブリッジと魔法省は、ダンブルドア先生が私たちを動員して魔法省に楯突くと思ってるの。だからこの会合は絶対、誰にも言ってはいけないわ。友達や親にもね、このメンバーだけ。会合について外で話すのも気をつけないとダメよ。勿論、この会合にはダンブルドア先生は一切関わりはないわ。けれど、これが見つかったとき、間違いなくアンブリッジは喜ばないし、私たちを監視すると思うの」
誰もが思ってもみない言葉に愕然とした。ダンブルドアの人となりを知っていれば、彼がそんなことを企むなどあり得ないと分かりそうなものだ。
「さて、じゃあ次は──集まる場所はどうするの?ハーマイオニー。こんなに大勢が魔法を使ってもバレない場所を探さないといけないんじゃない?」
「そうね…場所はどこか探すとします。最初の場所と、日時が決まったらみんなに伝言を回すわ」
ハーマイオニーは場所の問題を脳の端に引っ掛けながら、鞄の中を探り羊皮紙と羽ペンを取り出した。それから少し躊躇ったが──すぐに決意に満ちた顔をして、机の上に紙を置いた。
「私、考えたんだけど。ここに全員名前を書いて欲しいの。誰がきたかわかるように。それと──ソフィアが言っていたように、絶対にバレてはいけない。だから、私たちのしていることを言いふらさないって約束するべきだわ。名前を書けば、私たちの考えていることを、アンブリッジにも、誰にも知らせないと約束した事になります」
ソフィアがすぐに名前を書き、その後に嬉々としてフレッドとジョージが続いた。しかし何人かは名前を書くことに躊躇っているようでちらちらと周りの様子を伺っていた。
ジョージは隣にいたザカリアスに羽ペンを渡したが、ザカリアスは受け取らずに視線を彷徨わせる。
「えーと……まあ、アーニーがきっと、いつ集まるかを僕に教えてくれるから」
そう言いながらアーニーを縋るように見たが、アーニーもまた乗り気ではないようで羽ペンと羊皮紙を見て顔を引き攣らせた。
すぐにハーマイオニーが苛立ちから──先程の言葉はなんだったのかと──眉を吊り上げアーニーを睨む。
「僕は──あの、僕たち、監督生だ。だから、もしこのリストがばれたら……つまり、ほら、アンブリッジに見つかったら──」
「このグループは、今年僕たちがやることの中で一番大切だって、君、さっき言っただろう」
「僕──うん、ああ、僕は信じてる、ただ──」
ハリーは煮え切らないアーニーに先ほどの言葉を思い出させるように念を押したが、アーニーはしどろもどろになりながら何とか書かずに済む方法は無いかと探しているように見えた。
「アーニー、私がこのリストをその辺に置きっぱなしにするとでも思ってるの?」
「いや、違う。もちろん違うさ。僕──うん、もちろん名前を書くよ」
ハーマイオニーの言葉に、アーニーは少し安心したのか表情を緩め、結局書くと決心したようだった。
その後は誰も意義を唱えなかったが、チョウの友人であるマリエッタが名前を書く時に恨みがましい目でチョウを睨み、チョウは肩をすくめ曖昧に微笑んだ。
最後にザカリアスが署名し終え、ハーマイオニーは全員が署名した事をしっかりと確認すると羊皮紙を慎重に鞄の中に入れた。
グループ全体に奇妙な感覚が流れる。それは、まるで一種の盟約を結んだかのようであり──ソフィアはハーマイオニーの表情と全員の名を連ねなければならない意味をようやく理解した。
──多分、あの羊皮紙にはハーマイオニーが魔法をかけてるわね。
全員が名前を書いたことで、ようやく緊張が解かれ、フレッドは「さあ、こうしちゃいられない」と明るく言うとジョージとリーを連れて再びゾンコへ戻った。
他の全員もそれぞれの友人とどこか興奮したように話しながら店を出ていく。
最後に残されたソフィア達は、顔を見合わせ、少しだけ疲れたように──何とかなって良かったと苦労を讃えあうように笑った。