ソフィアは早くルイスと話し合いたかったが、なかなか2人で、それも誰にも聞かれないようにするのは難しい事だった。ホグワーツには沢山の生徒とゴーストがいる、それに壁には肖像画があり、常に生徒たちを見ていた。肖像画がなくゴーストがあまり現れない場所は恋人達の恰好のデートスポットと化していて、いつも何組かが寄り添っているのだ。
ソフィアは夕食時、スリザリンの机の奥でルイスとドラコ、パンジーと座っていた。
最早上級生達もスリザリンの机の奥なら何も言わなくなっていた。ドラコとだけでなく、マルフォイ家と交友がある事がパンジーを通して知った彼らはあまりソフィアを蔑ろにしてマルフォイ家のーールシウスの怒りを買う事を恐れた。
「…ソフィアって思ったより沢山食べるのね」
「え?そうかしら?…うーん、でも大きくならないのよね…」
すでにソフィアはローストビーフ一皿とクラムチャウダー一皿、チキンレッグ一皿、そして山盛りのポテトサラダとオニオンリングを食べた上で更にピザを2枚、デザートにケーキを3つも食べていた。
一般的な女子としては中々に大食らいの分類だろうが、ソフィアは小柄でその小さな身体のどこに全てが収まるスペースがあるのか不思議でならない。
「確かに、細いし…背も低いわね」
「…ちょっと気にしてるのよね…」
「あら、私は可愛らしくて良いと思うわ、ほら…マスコットみたいな?」
くすくすとパンジーが笑えば、ソフィアは少し嫌そうに眉を顰めた。女の子としてすらりとした体型に憧れを抱くのは仕方のない事だろう。胸の膨らみもない幼い身体を見下ろし、ソフィアはため息をついた。
ルイスは2人の話を聞いて苦笑する、自分も、小柄であり一年生の中で1番背が低い事を気にしていた。父は長身の方だから、きっといつか背が伸びるに違いない、そうルイスは淡く期待をしていたが、今のところその兆しは悲しいことに、無かった。
談笑していると鳥達の羽ばたきが聞こえ頭上に何百羽というふくろうが現れる。いつも家から手紙と共に有名な菓子を受け取っているドラコは顔を上げて家のミミズクの到着を待った。
ソフィアとルイスは今までに手紙を受け取った事は無く、今日も何も来ないだろうと思い気にせずデザートを食べていた。
だが、一羽のフクロウが2人の真ん中にポトリと白い手紙を一通落としていった。2人は顔を見合わせ、ルイスがそれを手に取った。
「ジャックからだ!」
「えっ!?何て書いてあるの?」
差出人を見たルイスは驚きながらも歓声をあげ、すぐに封を切り中から手紙を取り出した。
──親愛なるルイスとソフィアへ
ホグワーツでの生活はもう慣れたかな?遅くなったけれど、入学おめでとう。
聞いた話ではルイスはスリザリンで、ソフィアはグリフィンドールだったようだな。
二人はきっと離れてしまって寂しいんじゃないかと思ってね、俺からのささやかな入学祝いとして、ホグワーツの秘密の部屋を教えよう。
誰にも言ってはいけない、二人だけの秘密にするんだよ?
2階の奥、突き当たりに花束を持つ少女の肖像画があるのを知っているかな?
その少女に何でもいい、花を一本渡してみなさい、そうすると扉が開くから。
この部屋は、学生時代俺が親友と──君たちには誰かわかるだろう?──良く使っていた部屋だったんだ、置いてある本や家具は好きに使って構わないよ。
ただ、誰かさんに知られたらきっとものすごく怒るだろうから、バレるまでは秘密にしなさい。
ソフィア、ルイス。俺の可愛い子ども達!
2人の学生生活がとても有意義で楽しく、スリリングなものになる事を期待しているよ。
ジャック・エドワーズより 愛を込めて──
「わぁ…!なんて素晴らしいのかしら!」
横から読んでいたソフィアは歓声を上げ手を叩いた、ルイスもまた嬉しそうにニコニコと笑い何度も頷く。
ジャックーー育ての親からの手紙が来た事が嬉しいのは勿論、書いてある内容も今の2人が丁度求めているものでまさにタイミングを測ったような手紙に喜びが隠しきれなかった。
「早速行きましょう!」
「うん!そうだね!」
「どこに行くんだ?」
立ち上がった2人にドラコは声をかけた、すでに走り始めていた2人は後ろを振り返り、顔を見合わせ悪戯っぽく笑う。
「返事を書きに行くだけさ!」
「返事を書きに行くだけよ!」
2人は同時に答えると大広間を後にした、早速校庭を横切り禁じられた森近くの湖の畔に咲いている野花を一輪取ると、手紙に書かれていた場所に向かう。
「あった!…この肖像画だね」
「こんなところにあるの、知らなかったわ」
1番奥の薄暗い場所に花束を持つ少女の肖像画は確かにあった。
優しそうな微笑みを浮かべ、色とりどりの花に顔を寄せうっとりとその匂いを楽しんでいる。
「僕もだよ、…肖像画に花を渡すって…どうすればいいのかな?」
「うーん、とりあえず、近づけてみる?」
ソフィアはそっとその少女に花を向け、絵の中の彼女に渡すようにくっ付けてみた。
すると少女は花を見て嬉しそうに笑うとソフィアが差し出した花を受け取るような動作をする。にこやかに笑った少女は少し頭を下げるとその場からさっと額縁の向こうに消えてしまった。
少女が居なくなった事で、初めてその後ろに扉があることに気付く、2人は顔を見合わせそっと、その扉に触れた。
「──うわぁっ!?」
突然腕が強く引かれる感覚に、思わず2人は叫び目を閉じる。
怖々と目を開けると、そこには談話室を小さくしたような部屋が広がっていた。
深紅の五人は座れるだろう大きなソファと、木のローテーブルが真ん中にあり、奥には暖炉が静かに火を燃やしていた。
部屋の左右には棚が幾つもあり、中には沢山の本が綺麗に並べられていた。
「わぁ…凄い…!」
「ここ、秘密の話をするには…もってこいの場所だね!」
ソフィアとルイスは辺りを見渡しながらふかふかとした毛並みのソファに座った。
ふと机をみれば一枚の紙がそこに置かれている事に気付く。
──この部屋を発見した者たちへ、本は外には持ち出してはいけない、閲覧はご自由に。帰る時は壁にいる少女に伝えれば扉を開けてくれるだろう。J &S──
「これ、きっとジャックと父様ね」
「うん、そうだと思う。父様も…昔此処に来てたんだ…」
2人は顔を見合わせ、幸せそうに笑った。
大好きな父親が学生時代に居た場所、それも秘密の場所に今2人でいる事が、なんだか特別な事のように感じた。
「此処なら誰にもバレないで話が出来るわ!…私、ルイスに言わなければならない事があるの、父様からの伝言なんだけど…」
ソフィアはこの部屋にはルイスしか居ない、それはわかっていたが声を顰めて父親からの伝言──クィレルには、近づくな──を伝えた。
それを聞いたルイスは何か考え込むように顎に手を当てて黙り込んでしまった。
ソフィアは静かにルイスが話し出すのをまった、このポーズで悩んでいる時のルイスに話しかけても思考にどっぷり浸かっている彼には届かないことを、ソフィアはよく知っていた。
「…クィレル先生って、2年前まではマグル学の先生だったんだ」
しばらく黙っていたルイスが、暖炉の中でゆらめく火を見ながらポツリと呟く。
「…え?そうなの?」
「うん、上級生に聞いたんだけどね、1年間世界中を旅して回るために休暇を取って…帰ってきたら防衛術の先生に変わっていたみたい。まぁ、でもそれは無いわけでは…ないんだけど。
旅行に行く前と後では性格がちょっと違うんだって。…吸血鬼を恐れているとかいうけど…。…その上級生達はマグル学なんてとってないから、そこまで詳しくは知らないみたいなんだけどね」
「そうだったの…吸血鬼ねぇ…私はそれも引っかかってるのよ。だって、吸血鬼よ?彼らは確かに破壊衝動が強いし、人に噛み付く恐ろしい一面もあるわ。けれど弱点も多いわ!銀やロザリオ、ニンニクの匂いに聖水──正直、それほど恐れるものかしら?ケルベロスを恐れるなら…まぁ、わかるけど」
ソフィアは実物の吸血鬼を見た事がない。
吸血鬼はヒトではないが魔法生物でもない。人狼に近い存在であり一見するとヒトとよく似ている。特定の条件下で姿を変貌させ二足歩行する巨大な蝙蝠のような姿になり、獰猛な性格で噛み付いたら血の最後の一滴を飲み干すまでけして離さない。処女の血を好み、主に洞窟や日のささない森の奥に生息しているという。
確かに恐ろしい生き物だが、この魔法界には吸血鬼よりも格段に恐ろしい生き物が生息してしている。大人なら──それに、闇の魔術の防衛術の教師なら、よく知っている事だろう。
そう考えれば、マグル学の教師として戻ってくるのではなく、闇の魔術に対する防衛術の教師として戻ってきている事にも引っ掛かる。
少しの物音にもびくつき、怯えているのだ。
防衛術ではさまざまな魔法生物の退治法やその生態について学ぶ事も多い、それこそ、吸血鬼について上級生に教えることもあるだろう。
それは、怖くないのだろうか?彼の見る限りでの、性格なら…防衛術の授業に恐れ慄き拒絶しそうなものだが。
一方、マグル学はそんな恐ろしい生き物について学ばない筈だ。何故、わざわざ変更したのだろうか。
「…もしかして、父様は昔のクィレル先生との違いを…何か別の吸血鬼を恐れているのではない…別の理由があると思って、怪しんでるのかな?」
「んー…どんな理由かしら…まぁ…考えてみればちょっと…怪しいような…」
「憶測の域を出ないけどね、僕もあまりクィレル先生には近づかないようにするよ。まぁ、とは言っても…クィレル先生って生徒が近づいたら直ぐ逃げるんだよねぇ」
「あー、この前フレッドとジョージがクィレル先生のターバンを外そうとしていたの。ニンニクが入っているか確かめようと思ったんですって。…それからよ、生徒が近付いたらびくびくするようになったの」
「そんな事があったんだ!…へー?…ターバンねぇ…。…まぁ、クィレル先生の事は誰にも言わないようにしよう、父様が僕らだけに言うって事は…そうして欲しいって事だろうし」
「ええ、そうね。…ダンブルドア先生がそんな不審すぎる人を教師として迎え入れるとも思えないもの。父様は心配性だから、きっと色々考えすぎてるのよ」
2人はクィレルの話題は誰にも話さないようにしようと頷き合い、その後この部屋を少し探索した後それぞれの自室へ戻った…ジャックへ返事の手紙を書くために。