次の日も雨は止む事はなくその勢いを増し、ただの雨模様ではなく荒れ狂う嵐となっていた。午後の魔法生物飼育学は校庭ではなく一階にある空き教室で行われる事となった。
この雨の中はどのクィディッチ・チームも練習は出来ず、アンジェリーナもまた選手達を探し回り夜に予定していたクィディッチの練習は中止だと伝えて回る。
「今日の練習はとっても残念だけど、中止」
「良かった。場所を見つけたんだ。最初の防衛術の会合は夜の8時、8階のバカのバーナバスがトロールに棍棒で打たれている壁掛けの向かい側。ケイティとアリシアに伝えてくれる?」
昼食の時にハリーが練習中止を伝えに来たアンジェリーナにそう言えば、アンジェリーナは少し顔をこわばらせたが伝えると約束した。
ハリーはこのあとソフィアと共にマクゴナガルの元へ行く用事があり、早く昼食を済ませてしまおうと食べかけのソーセージを頬張る。
かぼちゃジュースを飲もうと顔を上げると、ハーマイオニーが見つめていることに気づいた。
「何?」
「うーん、ちょっとね……。ドビーの計画っていつも安全とは限らないでしょう?覚えてない?あなたドビーのせいで腕の骨が全部無くなったのよ」
ハーマイオニーはもう会合中止の考えをハリーとソフィアに言う事はなかった。決まらなかった場所の予定地が決まったと言うこともあり、計画を進めることにしたのだろう。
確かにドビーは3年前、ハリーを守るために手紙を届けなくしたり、ホグワーツ特急に乗れなくしたり、ブラッジャーを狂わせたが──しかし、ハリーにはハーマイオニーを説得させる切り札があった。
「この部屋はドビーの突拍子もない考えじゃないんだ。ダンブルドアもこの部屋のことは知ってる。クリスマス・パーティのとき、話してくれたんだ」
ハリーはダンブルドアがトイレに行きたい時に現れた不思議な部屋の話を聞いていた。聞かされた当初は冗談か何かかと思ったが、あれは紛れもない事実であり──必要の部屋の事だったのだろう。
「ダンブルドアが、そのことをあなたに話したのね?」
「ちょっとついでにだったけど」
「ああ、そうなの、なら大丈夫」
ハーマイオニーは悩みが晴れたのか、それ以上は何も反対しなかった。
昼食を食べ終わったハリー達は会合のメンバー全員にそれを伝えるために手分けして城中を探すことになり、ソフィアとハリーはあらかじめ待ち合わせをしていた職員室前で落ち合った。
「よし。…じゃあ、行こうか」
「ええ、そうね」
ソフィアは肩にかけていた鞄のベルトをぎゅっと掴む。この時間ならマクゴナガルは職員室か、自分の研究室にいるはずだ。ソフィアは先にマクゴナガルの研究室を覗いてみたが中には誰もいなかった。ここにいなければ、ハリーが持っている忍びの地図で探さなければならないだろう。
そっと扉を開ければ、職員室の中央あたりにある机にマクゴナガルがいるのが見えた。机の上には沢山の本や羊皮紙が置かれ、脇には湯気が上がったカップがある。きっと生徒達の宿題を採点しているのだろう。
しかし、職員室にはマクゴナガルだけではなく数名の教師、そして居てほしくなかったアンブリッジも部屋の端にある席に座っていた。自室ではなくここにいるのは、教師達を見張るためなのかとソフィアとハリーは思った。
「マクゴナガル先生、少し質問がありまして…今、お時間よろしいですか?」
「ええ、構いませんよ。…ミスター・ポッター、あなたもですか?」
「はい、そうです」
2人はなるべく何気ない顔をしてマクゴナガルだけを見て、アンブリッジを見ないように努めながらマクゴナガルの元へ駆け寄った。幸運にもマクゴナガルとアンブリッジの席はかなり離れている。教科書に仕込んだ手紙はアンブリッジからは見えないだろう。
ハリーは視界の端でアンブリッジがじっとこちらを見ている事に気付き、緊張から煩く打つ鼓動を落ち着かせるため深呼吸をしつつ、何とか平静を保っていた。
「──ここなんですけど」
ソフィアは用意していた教科書を開く。
マクゴナガルはそれを覗き込み、微かに目を見開いた。
『ハリーの傷跡の痛みの件で、ダンブルドア先生に報告して頂きたい事があります』
短く書かれた文を静かに読んだマクゴナガルは、顔を動かす事なく目だけを上げ、じっとソフィアとハリーを見つめる。
「この解釈は、私が前回提出したレポートと同じと考えていいのでしょうか?」
「……ええ、そうです」
しっかりとマクゴナガルが頷いたのを見て、ソフィアはいくつかページを捲った。
「ここから──ここまでの解釈ですよね?すみません、気になったら居ても立っても居られなくて」
次に開いたページにはハリーが傷跡の痛みや感じた事について詳細に書いた手紙が挟まっていた。
マクゴナガルは暫くじっと手紙を読んでいたが、身を乗り出すと本の文章を指で示すふりをして、その手紙をそっと手に取りローブの袖の中に隠した。
「──ええ。あなたの考えは合っていますよ」
「良かった!ハリーと昨晩考えていて、ちょっとわからなくて……ハーマイオニーは寝てしまっていたので、とりあえずマクゴナガル先生に聞こうと思って。ね、ハリー?」
ソフィアがハリーに目配せをすれば、ハリーはすかさず「そうなんです、昨日ソフィアと考えていて、早く聞きたくて」と何度も頷いた。
ソフィアの言うように何があったかを伝える事はできた。しかし、本当にこれで良かったのだろうか、些細な事と思われないか、とハリーは少し気にしていたが、マクゴナガルはふっと表情を緩めると、ハリーにとっては珍しいと思ってしまうほど優しく誇らしいというような優しい表情をハリーに向けた。
「…たくさん考えたのでしょう。ミス・プリンス、ミスター・ポッター。あなた達が自己完結せず、私に聞きに来る判断をしたのは──変身術教師として──とても喜ばしく思います。いつでも、何か疑問に思った事があれば今回のように、聞きに来なさい」
ハリーはその言葉を聞いて、自分が行った行動は間違いでは無かったのだと思い、ほっと胸を撫で下ろした。
冷たくされるかと思ったが、自分が思っていたよりも──暖かく受け入れられた。
「ありがとうございます、マクゴナガル先生」
ハリーは心からそう言い、ソフィアと共に頭を下げる。
視界の端に写り続けていたアンブリッジはこちらを見てはいるが、ただの質問だと思ったのか動く事はない。
ソフィアとハリーが言った言葉は、第三者がどう聞いてもただの質問にしか思えなかっただろう。
アンブリッジを出し抜く事が出来た最高な気持ちで職員室を出たソフィアとハリーは、扉を閉め2人で顔を見合わせて声もなく笑い合った。
「ハリー、最初の呪文は何がいいと思う?」
ソフィアは大広間に向かう階段を上がりながら小声でハリーに問いかけた。
後数時間後に第一回目の会合が行われるのであれば、その時に訓練する内容を決めなければならないだろう。
メンバーに集合場所と時間を伝える事で必死だったハリーは深く内容まで考えていなかったが、すぐに「そうだな…」と呟いた。
「武装解除呪文かな」
深く考えては居なかったとはいえ、実際もし教えるならば何の魔法を強化するのがいいのだろうか、と寝る前のベッドの中で何度か思案していたハリーは、すぐに一つの呪文を告げる。
それはかなり基本的な呪文だが、ハリーはこの呪文に何度も助けられているのだ。
「エクスペリアームスね。ええ、いいと思うわ」
「本当?ソフィアも同じだった?」
「…本音を言えば、プロテゴかなって思ってたの。でも、プロテゴは少し難易度が高いからまだ学んでいない人がほとんどだと思うし…。自分を守る前に、相手の攻撃力を激減させる。──うん、悪くないわ。出来ればみんな無言魔法でエクスペリアームスができるくらいにはなってほしいわね…」
「無言魔法か…うん、僕も頑張らないと」
数時間後に何の魔法を練習するのかを決めた2人は、その後ロンとハーマイオニーのように休み時間ギリギリまで会合のメンバーを探し歩いた。
昼休みの間だけでは難しく、夕食が終わる頃に今日の夜集まるということがメンバー全員に伝えることが出来ただろう。
7時半になり、ハリー、ロン、ハーマイオニー、ソフィアはグリフィンドールの談話室を出た。ハリーは忍びの地図を持ち目的地近くの階段でソフィア達に素早く「止まって」と伝える。
地図を広げたハリーは注意深くアンブリッジ、フィルチ、ミセス・ノリス、そしてスネイプが近くにいないかを確認する。
五年生以上は9時まで自由行動が認められているが、性根の悪い彼らに会うことは避けなければならない。こんな場所に29人が向かっているのがバレてしまえば、厄介な事になるだろう。
「大丈夫。──行こう」
ソフィア達はドビーがハリーに伝えた場所へと急いだ。大きな壁掛けタペストリーにバーナバスが愚かにもトロールにバレエを教えようとしている絵が描いてあるその向かい側の壁──そこは、何の絵もない、ただの石壁だった。
「オーケー。ドビーは、気持ちを必要な事に集中させながら壁のここの部分を3回行ったり来たりしろって言ってた」
ハリーの緊張した声に、3人とも真剣な面持ちで頷く。すぐに4人は石壁の前を通り過ぎ、窓のところできっちり折り返して逆方向に歩き、反対側にある等身大の花瓶のところでまた折り返した。
ロンは集中するのに眉間に皺を寄せ、ハーマイオニーは低い声で何かぶつぶつ言い、ソフィアは腹の前で祈るように指を組み、ハリーは真っ直ぐ前を見つめて両手の拳を握りしめた。
──戦いを学ぶ場所。どこか練習する場所。どこか、連中に見つからないところを──。
「あっ!」
3回目に石壁を通り過ぎて振り返ったとき、ソフィアが驚愕の声を上げた。
何もなかった石壁に、磨き上げられた美しい扉が現れていた。ロンとソフィアは少し警戒するような目で扉を見つめていたが、ハーマイオニーは興奮を抑えきれずじろじろと興味深そうに扉を見る。
ハリーはすぐに真鍮の取手に手を伸ばし、扉を引いて開け、先に入った。