その部屋は広々としていて、地下牢教室のように揺らめく松明の灯りで照らされていて明るい。
壁際には木の本棚が並び、椅子の代わりに大きな絹のクッションが床に置かれている。一番奥の棚にはかくれん防止器、秘密発見器、敵鏡などいろいろな道具が並べられていた。
「うわぁ!凄いわハリー!」
「これ、失神術を練習する時にちょうどいいな」
「見て!この本!──通常の呪いと逆呪い概論…自己防衛呪文学……うわーっ!」
ソフィアとハーマイオニーは数百冊はあるだろう闇の魔術を防衛する教科書や、呪文集の数々に目を輝かせる。今までどこか不安げにしていたハーマイオニーは、ついに自分達は正しいことをしていると確信したのだろうとハリーはその表情を見て思った。
「ハリー、素晴らしいわ。ここには欲しいものが全てある!」
「この本、読み直したかったのよね…図書館ではいつも上級生が借りてたから……」
ソフィアとハーマイオニーは本棚から本を抜くと近くのクッションに座り込み夢中になって読み始め、ロンとハリーはさまざまな魔法道具を興味深そうに見ていた。
数分後には扉を叩く音が聞こえ、ハリーとロンが振り返るとジニー、ネビル、ラベンダー、パーバティ、ディーンが緊張した顔を覗かせていた。
目が合うとジニー達はほっとして部屋の中に入り、その部屋の素晴らしさに「わぁー!」と歓声を上げる。
「ここは一体何だい?」
「ここは──」
目を輝かせるディーンに、この部屋の仕組みを説明しようとしたハリーだったが話の途中で他のメンバーが現れ、最初から話し始めることとなった。
8時までには全員集合し、全てのクッションが埋まり、ハリーはしっかりと人数と顔を確認して扉の鍵穴にぶら下がっていた鍵を閉めた。
ソフィアとハーマイオニーはそれぞれ読んでいた本を閉じ、ハリーに目配せをする。
てっきりホッグズ・ヘッドでのようにハーマイオニーが仕切ると思っていたハリーは、少し緊張してごくりと唾を飲み喉を濡らし、28人の顔を見渡した。
「えーと。ここが、練習用に僕たちが見つけた場所です。それで、えー……みんなはここでいいと思ったみたいだし」
ハリーの言葉にチョウが「素敵だわ!」と言うと、他の何人もそうだと呟き頷いた。
「変だなぁ。俺たち、一度ここでフィルチから隠れたことがある。ジョージ、覚えているか?だけどその時は単なる箒置き場だったんだぞ?」
「ああ、確かにそうだった」
フレッドとジョージは部屋を眺めまわしながら首を傾げる。きっと、その時はフィルチから隠れるためだけに現れた部屋だから箒置き場だったのだろう。──もしくは、どちらかが新しい箒を渇望していたか、だ。
「おい、ハリー。これは何だ?」
「闇の検知器だよ。基本的には闇の魔法使いとかが近づくと、それを示してくれるんだけど…あまり頼っちゃいけない。道具が騙されることがある」
ハリーはディーンが指差した『かくれん防止器』と『敵鏡』に歩み寄りながら言う。ひび割れた敵鏡の中には自分の姿は映らず、中に影のようなものが蠢いている。どの姿にもはっきりと見えないこれをあまり見ない方がいいだろうとハリーは去年のことを思い出した。
「えーと……」
ハリーは敵鏡に背を向け、クッションに座ったままのソフィアを見た。ソフィアはすぐに立ち上がり、そのままハリーの隣に並ぶ。
「僕たち、最初に何をやらなければならないのは何なのか、ずっと考えていたんだけど、それで──あ、ハーマイオニー、何だい?」
「ハリーとソフィア、どちらをリーダーにするか決めるべきだと思います」
ハーマイオニーは授業で当てられた時のようにハキハキと言う。リーダー、の言葉を聞いてハリーとソフィアは顔を見合わせた。
「ハリーで良いんじゃないかしら?」
「えっ」
あっさりとリーダーをハリーに選出したソフィアに、ハリーは目を丸くした。ハリーは確かに自分はヴォルデモートと戦う機会が多かったが、それでも闇の魔術に対する防衛呪文や他の呪文はソフィアの方が詳しく適任だと思っていたのだ。
しかし、ハリーの思想とは裏腹にソフィアの一声に他のメンバーは「他に誰がいるんだ?」と賛同し、ハーマイオニーを訝しげな目で見る。
「ちゃんと投票すべきだと思うの。2人がリーダーでもいいけど。これで正式なものになるし、ハリーに権限が与えられるでしょう?じゃあ──ハリーがリーダーで、ソフィアは副リーダーになるべきだと思う人」
ハーマイオニーの呼びかけに、みんなが──ザカリアスでさえ──手を挙げた。ハリーは顔に熱が集まるのを感じながら「わかった、ありがとう」と呟く。
「それじゃあ、まずは、えっと──」
「魔法の訓練の前に、この会合の正式名称を決めるのはどうかしら?そうすればチームの団結精神も上がるし、一体感が高まるわ。出来るだけ、何の会合かわからない名前が良いわね。──ね、リーダー?」
何を話すべきか悩んでいたハリーに、ソフィアが助け舟を出した。ハリーは会合の名前を決めたかったわけではないが、他のメンバーは目を輝かせどの名前にしようかと近くにいる友達と話し合う。
「反アンブリッジ連盟ってつけられない?」
「アンジェリーナ…それだと、どこかで誰かに聞かれた時にちょっと面倒な事になるわ」
アンジェリーナは悪戯っぽく半分以上本気でそう言ったが、ソフィアは苦笑して首を振った。
「じゃなきゃ、魔法省はみんな間抜け。MMMはどうだ?」
「うーん、MMMは確かに言いやすいわね…」
「
考えていたチョウが挙手をしながら言った。フレッドのMMMも悪くはないが、確かにDAならば闇の魔術に対する防衛術の授業の頭文字と同じであり、誰かに聞かれたとしても授業の話をしていると思われるだろう。
「うん、DAっていうのはいいわね。ダンブルドア・アーミーの頭文字もDAだし。だって、魔法省が一番恐れているのはダンブルドア
ジニーもDAに賛成し、それを皮切りにほぼ全員の「いいぞ!」と呟く声や笑い声が響いた。
「じゃあ、リーダー?可決をとってくれますか?」
ソフィアはハリーを覗き込み、笑いながら言う。ハリーはリーダーという特別な響きにドキドキとしながら大きく頷き、メンバー達をぐるりと見回した。
「DAに賛成の人?」
ハリーが声を上げ、挙手した人の人数を数えようとしたが──数える必要のないほど、賛成多数なのは歴然だった。
「決まったわね!」
「動議は可決したわね!──じゃあ、副リーダーはこの羊皮紙の上に軍団名を書いてくれるかしら?」
「あら、責任重大ね!わかったわ!」
ハーマイオニーが立ち上がりソフィアに皆が署名した羊皮紙を差し出す。
ソフィアはかしこまった風に頭を下げ両手で羊皮紙を受け取ると、そのまま近くの机に移動し鞄の中から羽ペンを取り出した。
「…ダンブルドア軍団でいいのよね?」
魔法連盟の方か、ダンブルドア軍団か。どちらを書くか悩んだソフィアはメンバーを振り返る。
すぐに口々に「ダンブルドア軍団!」という声が響き、ソフィアは羊皮紙の一番上に「ダンブルドア軍団」と書き加え、杖を振りピンを出してそのまま壁に止めた。
「それじゃ、練習しようか?僕らが考えたのは、まず最初にやるべきなのは『エクスペリアームス』──そう、武装解除術だ。かなり基本的な呪文だっていうことは知ってる。だけど、本当に役に立つ──」
「おいおい頼むよ。例のあの人に対して、武装解除が僕たちを守ってくれるのか?」
ハリーの言葉を遮ったのはザカリアスであり、彼は腕組みをして呆れたように目を天井に向けた。その声には馬鹿にしたような響きがあったが、ハリーは冷静にザカリアスを見据える。
「僕はやつに対してこれを使った。6月に、この呪文が僕の命を救った。だけど、これじゃ君には程度が低すぎるって思うなら、出て行ってもいい」
ハリーは扉を指差した。
ザカリアスはポカンとしていたがすぐに口を閉ざし黙り込む。メンバーの中にはザカリアスのように今更武装解除術を学ぶなんて、とチラリと思った人もいたが、ハリーの一声で黙り込んだ。
誰も出ていかなかった事を確認し、ハリーは緊張から喉が渇いてきているのを自覚しごくりと唾を飲み込む。
「オーケー。じゃあ──全員2人ずつ1組になって練習しよう」
「確実に呪文を当てられる自信がある人は良いけど、そうじゃないなら周りと距離をとった方が良いわ」
ハリーの指令にソフィアが付け足し、皆はそれぞれ友達とペアになり離れた場所に移動した。
人数的にペアを作れなかったのはネビルであり、不安そうに体を縮こまらせキョロキョロと辺りを見回す。彼は魔法全般が苦手であり、簡単な武装解除でもどこへ飛ぶかわかったものじゃない。──誰も、ネビルとは組みたく無かったのだ。
「ネビルは僕と練習しよう。ソフィアは全体を見てくれる?」
「ええ、わかったわ」
「よーし──3つ数えて、それからだ。──いーち、にー、さん!」
部屋中に「エクスペリアームス!」の叫びが響く。四方八方に飛んでいったのは杖だけではなく、本も宙を飛んでいた。相手に的確に呪文を当てられたのは半数程度であり、本棚や床、壁、など狙いの外れた者も多かったようだ。
ソフィアは全体を見回し、ハリーの基本から始めるべきだという考えは正しかったと知る。相手に当たったとしても呪文が弱すぎて杖を奪うことは出来ず、相手を少し後ろに下げる程度の者もいる。これが実戦ならば、武装解除に失敗した時点で半数は死ぬだろう。
「交代してやってみて!それで、一度で成功した人は──私から見て──部屋の右側、失敗した人は左側に移動してね!」
ソフィアの声に皆頷き、再びハリーが「3.2.1」の号令を出す。先程と同じように成功率は半分程だろう。
成功した者は右側に移動し、失敗した者はがっかりと肩を落としながら左側へと移動した。
先にソフィアは右側──成功した者達の集まる方へと向かった。
武装解除を成功させたのは、ジニー、チョウ、マリエッタ、アンジェリーナ、ディーン、パドマ、ケイティ、アーニー、ジャスティン、ハンナ、そしてハーマイオニーの11人だった。
「後2回ずつ武装解除をして、それが成功したなら、別の人と。相手が誰であっても武装解除が的確に出来るかどうかを知りたいの。──最終的にはプロテゴで防ぐ事ができるようになるのが目標よ。今、プロテゴを使える人はいるかしら?」
ソフィアの問いかけに手を上げたのはハーマイオニーとアンジェリーナだけだった。
プロテゴは6年生の中盤に呪文学で学ぶ魔法であり、殆どの生徒がまだ使えなかった。チョウとマリエッタ、ケイティは6年生だったが、まだ授業でプロテゴを学んでいなかった。ハーマイオニーが使えるのは、彼女が勤勉すぎる所以だろう。
「わかったわ、今回は…まだ早すぎるわね、次回からプロテゴの練習してみましょうか」
「はい!」
皆同時に頷き、今度は誰とペアを組もうかと視線を見合わせる。ソフィアは一旦その場を離れ、失敗した人たちが集まる場所へ向かった。
「ハリー!ここに来てくれないかしら?」
「うん、わかった!」
ハリーはネビルと共に失敗した人の集まる左側に移動する。簡単な武装解除術を成功させる事が出来なかったメンバーは、皆少し気まずそうしながらぞろぞろとソフィアとハリーを囲むように集まった。
「ラベンダー、パーバティ、マイケル、コリン、デニス、アンソニー、ルーナ、ロンは呪文が弱かったわ。好きにペアを作ってもらったから自然と仲が良い人と組んで──呪文をかけるのを躊躇ったのでしょう。だから、今からその中でペアを組んで、もう一度やり直して。もし躊躇したわけでもなくて上手くいかなかったなら……思いの込め方が足りて無いわ。今度はしっかり相手の武器を奪うという強い気持ちを持つのよ。魔法はどれだけ思いを込めるかで威力が強くなるから。──大丈夫、一対一の武装解除術では余程の事がないと怪我をしないわ」
名を呼ばれたロン達は、ソフィアの言葉に納得し頷いた。
確かに、先程ペアを組んだものは仲が良い相手であり、僅かだが躊躇してしまったのだ。すぐにロン達はそれぞれペアを組み直し、他の者と練習を始めた。
ソフィアはその後に残っていたメンバーを見て、少し悩むように顎に手を当てていたが、数歩離れハリーの前に立った。
「フレッド、ジョージ、ザカリアス、ネビル、テリー、スーザン、アリシアは魔法の発現はしっかりしていたけど、当たってなかったわね。杖先がぶれていたように見えるわ。魔法は基本的に杖先から直線的に飛んで行くから──ハリー、杖を構えてくれるかしら?……うん、見ていてね?──エクスペリアームス!」
ソフィアは杖を構えたハリーに向かって武装解除を唱える。ソフィアの魔法は一直線にハリーの手に当たり、ハリーの杖は宙を舞い、床の上に落ちた。
「──振り方は、今のようにしてね。みんなの振り方に少しだけ癖があったように見えたわ。──えっとね、杖腕が右なら、どうしても最後、前に──こう突き出した時に手首に力がこもって──」
ソフィアは身振り手振りで説明していたが、ハリーが落ちた杖を拾ったのを見て一度説明を止め、ハリーの元に駆け寄り後ろに回った。
武装解除術の杖の振り方を教えるように、ハリーの後ろから腕を取り、前に突き出させる。──急に近づいたソフィアに、ハリーは練習のためだとわかっていたがドキドキと胸を高鳴らせた。
「エクスペリアームスでは左斜め上から手を下ろして円を描くでしょう?こうした時に──少し左に逸れてしまいがちなの。真っ直ぐ向けてるつもりでも、手首に力が入ると右手は内側に巻き込まれるから。杖腕が反対の人は、反対に右に逸れるわ。それを意識して、手首を柔軟に──だけど、鋭く、相手の杖に狙いを定めてやってみてほしいの。杖先の向きは武装解除術だけじゃなくて、全ての魔法を学ぶにあたってとても重要な事だわ」
ソフィアの説明を聞いたメンバーはまじまじと自分の杖を見て、一度その場で軽く振ってみた。
──確かに、全く意識はしていなかったが正面を突き刺したように見えて、僅かに内側に外れている。
的確な指摘に、誰もが感心したようにソフィアを見た。
「ワォ!初めて気付いたな!」
「これさえ気をつければ俺たちの悪戯の成功率も上がるぜ!」
フレッドとジョージは意気揚々と言ったが、ソフィアは「フリットウィック先生が1年生の時の初めの授業で言ったはずよ」と苦笑した。
「振り方の癖を無くすようにね、それぞれペアになって。ハリー?ここの人たちを後はお願いしても良いかしら?」
「うん、わかった」
ハリーは失敗した方を監督する事になり、ソフィアは成功したメンバーの元へと戻った。
成功したメンバーは先に色んな人と練習を開始していたが、優秀な者が多くミスをする事なく武装解除術を成功させていた。
「うん!とっても凄いわ!──じゃあ次のレベルね。敵と戦う時は、一対一だとは限らないわ。だから、次は複数を相手する場合の武装解除術を会得する必要があるわ。3人で1組を作って、2人に向けて1人が武装解除術をしてね。出来る限り素早く──武装解除術は瞬発力が物を言うわ。だから、出来れば、1秒以内に、ほぼ同時に杖を奪う事が目標よ。そうね──一度、やってみせるわね、ちょっとコツがいるんだけど……ジニー、ハーマイオニー。前に来てくれるかしら?」
ソフィアから指名されたジニーとハーマイオニーは11人の中から数歩前に出た。
ソフィアは2人から距離を取り、杖をハーマイオニーにへと向ける。
ハーマイオニーとジニーも、ソフィアに杖先を向けた。
「さて。──よく見ててね、一瞬だから──エクスペリアームス!」
ソフィアは左上から杖を素早く振るい、そのまま流れるように回す。杖先から赤い光線が走り、左側にいるハーマイオニーに向かった次の瞬間には、右側にいるジニーに当たっていた。ほぼ同時に杖を失ったハーマイオニーとジニーは痺れる手と、遠くに落ちた杖を何度も見て「どうやったの!?」と驚き叫んだ。
「うわー!何で?呪文は一回しか言ってなかったのに!」
「魔法がまっすぐじゃなくて、斜めに向かったように見えた!どうして?」
観戦していたチョウとアンジェリーナは興奮したように叫び、手を叩いた。ソフィアは胸を張ると「今から説明するわね?」と少し得意げになりながらの遠くに落ちたハーマイオニーとジニーの杖を呼び寄せ、それぞれに手渡した。
「エクスペリアームスの振り方の、最後。──こう、回して指すように突き出す時に──私はまず、左側にいるハーマイオニーへ向けたの。そのままなら武装解除術はまっすぐハーマイオニーへ向かって、1人だけの杖を奪うわ。けど、魔法が杖先から出ているそのごく僅かな時間に……こうやって、杖先から魔法が出た瞬間、ジニーがいる右側に向けるの。エクスペリアームスは線上に魔法が働くから……魔法がハーマイオニーからジニーへ向かって斜めに飛ぶ──魔法の始まりでハーマイオニーの杖を、終わりでジニーの杖を奪ったの。これを応用すれば線上にいる敵なら……魔法が放たれている間ならば、数に制限なく武装解除させる事が出来るわ」
ソフィアは簡単そうに言うが、かなり難易度が高いものなのは間違いない。
何故なら学校でこのような魔法の使い方を学ぶことは無いからだ。そもそも教師達は戦闘する事を考えて生徒達に魔法を教えているわけではない。
本来ならば闇払いになった後、師匠の元で学ぶ方法だが、ソフィアは家にある少々危険な本を読みこの方法を知っていた。
それを応用し、ソフィアは一度の魔法で複数の石を狼などに変えていたのだ。
「これは、習うより慣れよ。とも言えるわね。──さあ、やってみましょう!みんなとっても優秀だからきっと出来るようになるわ!コツは敵と敵を線で結ぶようなイメージね!」
ソフィアはぱん、と手を叩き、にっこりと笑う。
チョウ達は早くやってみたいと興奮と期待で目を輝かせ、すぐに近くにいる者と3人1組をつくった。11人だったため、ハーマイオニーとジニーはそのままソフィアと組を作り、それぞれ交互に武装解除術を唱えていく。
しかし、この方法はやはり難しく、1人目を上手く武装解除させる事が出来ても2人目への狙いがずれてしまい、壁や本棚に呪文が直撃する事が殆どだった。
難しさに唸るメンバーに、ソフィアは「外れたとしても、一度の魔法で複数の狙いを定められている証拠よ!凄いわ!」と飛び出た本を元に戻しながら褒め称える。
ソフィアは魔法を教える事だけではなく、人を褒めることも特別にうまかった。やる気を上げる事に適した言葉掛けが得意であり失敗したとはいえ、誰も落ち込む事なく生き生きと武装解除術を練習していく。
「エクスペリアームス!──ああ!惜しいっ!」
ハーマイオニーは悔しそうに叫び「もう一回!」と杖先をジニーとソフィアに向ける。
ハーマイオニーは4回中1回は2人から杖を奪うことに成功していたが──今まで、ハーマイオニーにとって完璧に成功しなかった魔法は無いのだ。4回の内1回だけではとてもではないが成功率が良いとは言えないと、久しぶりにメラメラと闘志を燃やしながらハーマイオニーは興奮に目を輝かせた。
ジニーは落ちた杖を拾い「次は私の番よ──あ、でも、そろそろ時間じゃないかしら」と壁にかけられている時計を見る。
その針は8時55分を指していて、そろそろ解散しなければ見回りの教師が廊下を歩き出す時間になってしまうだろう。
「あっ!本当ね。──ハリー!そろそろ時間よ!」
ソフィアは喉に杖を当てハリーに呼びかけた。
増幅魔法で大きくなったソフィアの声は部屋の反対側にいたハリーまで届き、ハリーはもうそんなに時間が経ったのかと驚いて時計を見る。
ハリーが見ていたメンバーもかなり成功率が上がっていた。数年間の癖はなかなか消せるものではないが、意識しているのとしていないのとではやはり成功率に差が出るだろう。
ソフィアの大声は沢山のエクスペリアームスの声の中でもよく響き、皆が驚いた顔で時計を見つめたおかげで一瞬、部屋の中が静まり返った。
その隙を逃さず、ハリーはぐるりとメンバーを見ながら声を張り上げる。
「──みんな、とっても良かった!そろそろ帰らないとね。来週、同じ時間に同じ場所でいいかな?」
「もっと早く!」
ディーンは複数への武装解除術を早く成功させたくてたまらず、うずうずしながら言った。そうしよう、と頷くメンバーも多かったが、アンジェリーナがすかさず「クィディッチ・シーズンが近い。こっちも練習が必要だよ!」と声を上げる。
「それじゃ、今度の水曜日だ。練習を増やすなら、その時決めればいい。──さあ、早く出よう」
ハリーは忍びの地図を使い、近くの廊下に誰かいないかと注意深く慎重に調べ、皆を3人から4人の組にして外に出し、全員が無事に寮に着いたか確認するのを緊張しながら見守った。
最後に残ったのはハリー、ソフィア、ロン、ハーマイオニーの4人であり、4人は他に誰もいなくなった部屋で顔を見合わせ、満足げに笑い合い興奮しながら今日の感想を言い合った。
「すごく良かったわよ!ハリー!ソフィア!ああ、次の練習が待ちきれないわ!」
「僕、かなり命中率が上がったんだ!ハーマイオニー、見た?僕がマイケルの武装解除したの!」
「見る余裕なんて無かったわ!2人同時に武装解除するのって、本当に難しくて…!ソフィアは教え方はうまいし…あんな方法、教科書にも図書館の本にも無かったわ!」
「対人魔法の極意、っていう本よ──閲覧禁止の棚にしか無いかもしれないわ」
「えっ!?2人同時に武装解除?ねぇ僕にも教えて!」
「うわー!僕も見たい!」
ハリーとロンが目を輝かせソフィアを見つめ、ソフィアは悪戯っぽくにやりと笑った。
「そうね──ハリー、透明マント持ってきてるわよね?──延長戦よ!」
ソフィアは高らかに宣言し、その場から素早く数歩後退すると杖を前に構える。先程まで武装解除術を練習していたハリーとロンとハーマイオニーの意識は研ぎ澄まされており、すぐにソフィアの動きに反応し、3人ともソフィアに杖を向けた。
「──エクスペリアームス!」
ソフィアの楽しげな声と、3人の歓声が響き、またしばらく必要の部屋には「エクスペリアームス」の言葉が響いたのだった。