【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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274 今はそれで充分よ!

 

 

ソフィアにとって運命の日がやってきた。

 

ハーマイオニーと談話室で宿題をしていたソフィアは何度も宿題の手を止め壁にかけられている時計をちらちらと見る。

先ほど見た時間から5分と経たず何度も時刻を確認するソフィアに、ハーマイオニーはため息をつきながらソフィアを見た。

 

 

「大丈夫?」

「……あそこに向かうのに、こんなに気が重いのは初めてよ……」

 

 

ソフィアは全く進んでいない宿題をする事を諦めて羽ペンを投げ出し、肘掛け椅子に深く背を預け天井を見上げる。

ハーマイオニーには事前に今日の14時からセブルスの元へ向かうことは伝えてある。勿論、その目的はただのお茶会ではないとも。

ハーマイオニーはソフィアの憂いと不安な気持ちを理解すると励ますためにポケットに入れていたキャンディを取り出し、包みを開くと「ソフィア」と言いながら差し出す。

 

 

「スッキリするわよ」

「ありがとう……」

 

 

口を開けば、ハーマイオニーがポイとソフィアの口にキャンディを放り込む。すっとした爽快感のあるハッカ味に肩に重くのし掛かる気持ちが少しだけ軽くなった気がした。

 

ハリーとロンはクィディッチの練習に向かっていて夕方までは戻らないため、どこかへ行ってしまったソフィアを探してハリーが忍びの地図を見る心配もない。きっと理由なくセブルスとソフィアが一緒の空間にいる事が知られればきっとハリーは訝しみソフィアに「何故スネイプなんかと一緒にいたの?」と聞くだろう。

ソフィアは今、補習を受けるほど授業で失敗をしていない。かと言って、ルイスのように個人授業を受けられる成績でもなく、第三者から見れば気軽に話しかけられる間柄では無いのだ。

 

──つまり、怪しまれずにセブルスと会う事は中々に困難になってしまっている。

 

 

今回のチャンスを逃せば、いつセブルスと長時間2人きりになれるかわからないのだ。ハリーの事だけではなく将来の仕事の相談をしたい気持ちもあり、ソフィアは重いため息を吐きながら時計の針が13時45分を指したのを見た。

 

 

「……行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」

 

 

ソフィアはふらりと立ち上がると、いつもより重く感じる脚を動かしつつ談話室の肖像画をくぐり抜けた。

 

 

──父様と親子として話せるのは嬉しい。将来の仕事についての相談もしなければならないし……ああ、せめてもう少し父様とハリーの仲が良ければ……。

 

 

ソフィアはセブルスが待つ地下研究室へ向かいながら2人が普通に談笑する場面を想像してみたが、そんな場面どう考えてもあり得ないとすぐに首を振る。

お互い憎み合わず話をしているなんて──間違いなく2人ともポリジュース薬で誰かが変身しているか、妙な薬を盛られたとしか考えられないのが悲しいところだ。

 

 

「ソフィア・プリンスです」

「入りたまえ」

 

 

セブルスの研究室の扉を叩けばすぐに返事があり、ソフィアは静かに扉を開く。

研究室の中にいつもの紅茶セットが用意されていないところを見ると、この奥に続く彼の自室にあるのだろう。──本当に、ハリーがこの時間クィディッチの練習に行っていてよかった。と、ソフィアは思いながらセブルスに連れられるままに久しぶりに彼の自室へ足を踏み入れた。

 

 

セブルスはソフィアが入った事を確認するとしっかりと扉に鍵と防音魔法をかける。

部屋の中央には黒い革張りのソファがあり、ソフィアは机の上に用意されている紅茶を見下ろしつつ、静かにソファに座った。

 

 

「……どうした?」

「え?」

 

 

じっと紅茶を見ていたソフィアは自分の対面側に座ったセブルスに視線を移す。

 

 

「…体調が悪いのか?」

 

 

 

セブルスはソフィアの顔を見た途端、いつもと違う雰囲気を感じ取っていた。酷く疲れているような、何かに思い悩んでいるような暗い表情はソフィアには似合わず、何かあったのかと心配したのだ。

心配そうに眉を寄せるセブルスに、ソフィアは無理に微笑むと「何でもないわ」と嘘を吐きながらポットに手を伸ばした。

 

 

「ちょっと宿題が多いから、それで」

「今年はOWL試験を控えているからな。……栄養薬と疲労回復薬を持って帰りなさい」

「ありがとう、父様」

 

 

成程、顔色が悪いように見えたのは宿題の多さに流石のソフィアも参っているのか。確かに毎年、五年生は精神的に追い詰められる者が後をたたない。

セブルスは納得すると杖を振り、机の引き出しから小瓶を2つ引き寄せるとソフィアに手渡した。

 

 

──本当に、私とルイスには優しいのよね、父様って。

 

 

ソフィアは小瓶を受け取ると鞄の中に大切そうに入れ、気を引き締めるために熱い紅茶を一口飲んだ。

 

 

「父様。私──魔法生物の研究者、変身術の教師、呪い破り…で、悩んでいるの」

「…そうか」

 

 

どの職業もかなりの成績が必要であり、さらに並ならぬ努力と探究心がいる。セブルスは机の上に用意していたソフィアの成績が書かれている羊皮紙を引き寄せ、じっくりと見ながらしばらく黙り込んだ。

 

将来の職の話をするにあたり、セブルスは教師達からソフィアの成績が細かく書かれた羊皮紙を受け取っていた。勿論、ソフィアとセブルスの関係を知る教師は多くない為、彼女の寮監であるマクゴナガルに頼んだのだが。

 

 

「イースター休暇が終わった後、例年通りなら寮監から進路指導を受ける。その時に言われるとは思うが──この成績を維持するのならば、どの職業でも選択することが出来るだろう」

「本当?──良かった!」

 

 

授業中とは違い、かなり優しいセブルスの声音にソフィアは──今は、ハリーの事は忘れほっとして胸を撫で下ろした。自分自身でもどの職業を選択出来るレベルの成績は収めているだろうと思っていたが、こうしてセブルスから明言されるとやはり胸が軽くなる。

 

 

「しかし、もう五年生だ。そろそろ職を一つに絞る必要があるな」

「そうよね……。1番好きなのは変身術だけど、興味があるのは魔法生物なの。……それで、魔法生物の研究者になるなら──沢山の魔法生物と会う必要があると思うの。本に書かれているだけでは、きっと理解できないこともあるわ……。だから、まずは数年は世界中を旅する必要があるのかなって、思って……」

 

 

ソフィアは言葉を切り、紅茶を一口飲みセブルスの答えを待った。

成人した魔法使いや魔女が見聞を広めるために世界を旅する事はよくある事だ。だが、それを今の世界の状況を考えて保護者が許可するかどうかはまた、別の問題だろう。

 

事実、セブルスはソフィアの考え通り眉間に皺を刻み、気難しい表情をして沈黙した。

 

 

「……一種を専門するわけではなく、魔法生物全てのエキスパートになりたいのか」

「ええ、魔法生物はその生態がまだよくわかってない子も多いわ。だから、危険が無くても魔法生物は全て危険で野蛮だと誤解されるし……私は世界中を見て回りたいの。イギリスだけじゃなくて、中国やロシアやエジプトや日本…世界には沢山の固有の魔法生物がいるでしょう?世界が今、安全でない事はわかっているわ。でも、だからといって私の世界を狭める事はしたくないの」

「……」

 

 

教師として、ソフィアの言葉に頷くのは簡単だ。学校を卒業した後に起こった事は成人したその本人の問題であり、教師はその後に関与する事はない。

しかし、父として、世界の状況を知っているセブルスとしてはあまり──その道は選んで欲しくなかった。

だが、ソフィアの眼差しは真剣そのものであり、自分の力を過信しているわけではない、危険を理解した上で世界を回りたいという我が子の気持ちも、セブルスはわかっている。だからこそ、なかなか言葉を出す事ができなかった。

 

 

「……ならば、呪い破りを数年経験する事だな」

「呪い破り?」

 

 

確かに、呪い破りも素敵だけど。とソフィアは呟き首を傾げる。

 

 

「呪い破りは世界中を巡る。…長期の任務になる事も多く様々な魔法生物と出会う事も出来るだろう。旅の資金を貯める事も可能だ」

「ああ!確かにそうね!」

 

 

ソフィアはぱっと顔を輝かせ、呪い破りとして世界中を巡り、宝物や遺物の呪いを解きながらその地域に生息する──もしくは、宝を守っている魔法生物の事を考えた。

確かに、資金も得ることが出来て、世界を見る事が出来る。勿論呪い破りとしての仕事を疎かにしない範囲での話だが──現実的なのはその方法だろう。

 

 

「ありがとう父様!」

「今すぐに答えを出さなくても良い。進路指導までには、よく考えておくように」

「ええ!」

 

 

笑顔のソフィアを見て、セブルスも微かに微笑んだ。

数年間呪い破りとして働く内に、世界がどう変わるのかわからない。ヴォルデモートの脅威が広がるのか、それとも、不死鳥の騎士団が──ダンブルドアがヴォルデモートを討つのか、まだ未来は不確定だ。

 

 

──何よりも大切な子どもたちが幸せな世界を見る事ができるように、世界を守ろう。

 

 

セブルスは輝かしい未来を想像し頬を興奮で赤らめるソフィアを見て、強く心にその思いを刻んだ。

 

 

 

「──あ、そうそう。父様に報告しておくわね」

 

 

何でもない事のような軽い口調で言いながら

、ソフィアは茶菓子のクッキーを一つつまみもぐもぐと食べた。

他に何かあるのか、とセブルスは紅茶を飲みながらソフィアの言葉の続きを待つ。

 

 

「私──好きな人と恋人になれたの」

「……、……そうか」

 

 

あっさりと告げられた内容に、セブルスは内心では動揺していたが何とか平静を保ってカップを受け皿の上に置いた。──そうしなければカップを割ることになっていただろう。

脚の上で手を組んだセブルスは、何故かクッキーに夢中になり視線を合わせようとしないソフィアを見下ろす。

 

ルイスは去年恋人が出来ていた。勿論、ソフィアももう15歳であり年齢的には恋人がいてもおかしくは無い。何せ自分はアリッサと13歳の時には恋人関係だった。人として、愛しい者と結ばれるのは喜ぶべき事なのだろう。

 

しかし、……しかしだ。自分の娘となるとやはり胸の奥からジリジリとした名の付け難い感情が溢れてしまう。

喜び、嫉妬、憂い、悲しみ──さまざまな感情に蓋をして、とりあえずセブルスは祝福すべきだろう、と考えルイスに去年告げたように「おめでとう」と言うつもりであった。

 

口を開きかけて、ふと、その相手は一体どこの誰なんだ、と自問し──視線を合わせず何故か毛先をくるくると指で遊ぶことに一生懸命になっているソフィアを見て、嫌な予感に口先を引き攣らせた。

 

 

この様子はおかしい。

ソフィアの性格なら笑顔で幸せそうに言うはずだ。

目を合わせず、よそよそしさと気まずさを感じるなど──まさか。

 

 

「──相手の、名はなんだ」

 

 

セブルスの硬い声に、ソフィアは暫く視線を自分の指で弄んでいた髪に向けていたが──ついに、ちらりとセブルスを見上げた。

 

セブルスを見つめるソフィアの目は思い詰めたような真剣そのものであり、セブルスは無意識の内に息を呑んだ。──亡き妻(アリッサ)と、同じ目だ。

 

 

「…父様は、私が幸せなら、幸せ?」

「…それ、は…」

「私が、その人の隣にいる事でしか、愛を知れないのなら……?」

「…ソフィア……待て──」

「誰よりも、ずっと隣にいたい人なの」

「──言うな!」

 

 

セブルスは反射的に拒絶し叫ぶと勢いよく立ち上がった。

ガタン、と机が揺れ、カップが高い不協和音を奏でる。心臓が、嫌な音を立て冷や汗が流れた。

 

ソフィアは瞳を揺らす事なくセブルスを見上げ──彼にとって何よりも受け入れ難い言葉を吐く。

 

 

「私、ハリーの事を愛しているの」

 

 

聞きたくなかった言葉に、セブルスは嫌悪とも狼狽とも取れぬ複雑な表情を一瞬見せたが、すぐにぎゅっと眉を寄せ唇を強く結んだ。

無意識のうちに強く握りしめていた拳は震え、ぐらぐらと心の奥が煮えたぎっている気さえする。

自分の爪で手のひらを傷つけた痛みで何とか僅かながらに冷静さを取り戻したセブルスは、一度長く深いため息をつくと、冷めた目でソフィアを見下ろす。

 

 

「何故。わかっている筈だ、あいつの父親は──」

「ええ、母様と兄様の死の原因になった。けれど、その罪はハリーが背負うものではないわ。もし、親の罪を子どもが背負わなければならないのなら……父様は、私とルイスに、罪を、背負えというの?」

「──っ…。私は、許せんのだ!」

「わかってるわ、父様」

 

 

セブルスとて、ハリーに責任がない事はわかっている。だが、ジェームズに似たその顔を見るとどうしても心の奥から憎しみが湧き出て収まる事はない。

ソフィアは立ち上がるとすぐにセブルスの元へ駆け寄り、その固く握られ血の滲む拳を自分の手で包み込んだ。

 

 

「父様、私は──父様の思いを知っても……父様に何を言われようとも、ハリーを愛する気持ちを抑える事は出来ないわ。……祝福されないのは、とても悲しいけれど、でも……お願い父様……」

 

 

許して。とソフィアは囁き、セブルスの胸元に頭を寄せた。

 

セブルスは今すぐにでもハリーを昏睡させるべきかと薬棚にある強力な眠り薬の居場所を確認し、どうにかして食事に混ぜなければ──と、一瞬脳裏でぐるぐると考えていたが、ソフィアの肩が小さく震えているのを見て、ふっと力を込めていた己の拳を開いた。

 

 

わかっている。──いや、去年、覚悟をしていた筈だ。あの時、クリスマス・ダンスパーティーの時に幸せそうに踊るソフィアとポッターを見て、()()()()()()()という予感はあった。

人を愛する気持ちを止められない事も、その人のためならば、何だって出来る事を、私はよく知っている。

 

ここで拒絶したとして、許せないと言ったとして。ソフィアは悲しむだけで別れる事はないだろう。もう、聞き分けのいい子どもでもないだろうし、何より私に言われたからといって諦める程度ならば──こうして、報告に来ない筈だ。

 

 

「…ソフィア」

「……はい、父様」

 

 

ソフィアは身を引き、セブルスを見上げた。その目には悲しみと覚悟が写っている。何よりも美しい、瞳だった。

 

 

「…私は──認められない」

「父様……」

「──だが、…ソフィア、お前は…私の愛しい子であり──」

 

 

セブルスはソフィアの白い頬を指先でそっと撫でた。年齢を重ねるにつれ、記憶に鮮明に残るアリッサの姿と似てきている。きっと、髪が赤毛ならばの彼女の生写しとなっているだろう。

 

 

「──その幸せを願わないわけでは、ない。祝福は──今は、まだ、私には出来ん。だが……ソフィアが選んだ幸せを、私が踏み躙る事はしない」

 

 

それは絞り出すような声であり、優しさというよりは苦々しさが込められていたが、それでもソフィアは目を大きく見開くと嬉しそうに破顔し、セブルスに抱きついた。

 

 

「ありがとう父様!充分よ!」

「……」

「よかった…私、父様はハリーに毒を盛ると思ったわ。流石の父様も、いくらハリーの事が嫌いでもそんな事しないわよね?私の考え過ぎだったわ!」

 

 

考え過ぎでも何でもなく、セブルスも実際その事を考えていたが、ソフィアがあまりにも嬉しそうに自分の胸に頬を擦り寄せるため──何も言わずにそっと抱きしめた。

 

 

「……ソフィア……節度は、守ってくれるか」

 

 

ぽつりと呟かれた言葉に、ソフィアは何のことかよくわからず首を傾げたが、苦渋に満ちたセブルスの目を見て何を言いたいのかが分かるとみるみるうちに顔を赤く染め「父様に言われたくないわ!」と叫んだ。

 

 

 

 

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