ただ、魔法薬学の授業は何故か2週間前から熾烈さを増し、今まで以上にセブルスはネチネチとハリーを攻撃していたが、それでもハリーはダンブルドア軍団と、ソフィアの事を思えば耐えることが出来た。
むしろ、自分にだけ些細なことで減点をし、追加課題が出されたなら──腑が煮え繰り返るほど腹が立つが──その後、真夜中までソフィアと肩を寄せて宿題をする事が出来るのだ。
ハリーはソフィアが優しいから──何より恋人だし──ハリーにだけ出された宿題を手伝ってくれると思っていたが、本当は少し意味が異なる。
ソフィアがハリーを愛し、恋人同士となったとセブルスに伝えに行った日、セブルスは2人の関係を認める事は出来なかったが、ソフィアの幸せを踏み躙ることはしないと言った。
しかし、だからといって今まで通り振る舞う事は出来ず、どうしても授業でハリーの顔を見るたびに「よくもソフィアと」と憎い気持ちが抑えられずハリーが調合した薬の粗を探してネチネチと攻撃してしまっているのだ。
それを知っているソフィアは、ハリーがこうも酷い扱いなのは自分の責任でもあるから、とハリーに伝えてはいないが甲斐甲斐しく宿題を手伝っていた。──セブルスはまさか、自分の行いが敵に塩を送っているとは夢にも思わないだろう。
DA集会の3回目が終わった時には、全員が武装解除術をミスすることなく出来るようになり、何人かは複数への武装解除も会得した。
2回目、3回目には実戦に使える粉々呪文や妨害の呪文、そして盾の呪文を練習した。
集会は三寮のクィディッチ練習と被らないようにする為に決まった曜日の夜に設定するのは困難だったが、決まっていない方が誰かがメンバーを見張っていたとしても行動パターンを読むのは難しく好都合だとハリーとソフィアは判断していた。
しかし、やはり全員に練習日を伝えるのはなかなかに難しく時間がかかる。3回目の練習を終えたソフィアとハーマイオニーは同室のパーバティとパドマを起こさないように手元だけを明るくし、色々な本を読み探していた。
「うーん。私が変身術でフクロウを作って文を飛ばす──ダメね、怪しまれるわ」
「そうね……離れている人に合図を送る……誰にもバレないように…」
ハーマイオニーのベッドの上で色々な本を捲るソフィアとハーマイオニーの2人は、ふと、手を止め顔を見合わせた。
「……離れた人に、合図──」
「──例のあの人が、死喰い人を集合させる時……」
「左腕の印…!そうよ、この前本で読んだあの呪文が使えるかも!」
ハーマイオニーは山のように積み重なる本の一冊を抜き取り、物凄いスピードでページを捲る。目が左右に素早く動いていたが、ついにぴたり、と手と目が止まった。
「あった!──これよ、変幻自在術!」
「対象を変化させるものね。たしかにこれなら上手くいくかもしれないわ!問題は、何にするかね……常に持っていてもおかしくなくて、バレないもの…羊皮紙──は、間違えて使ってしまうかしら…?」
「そうね、ポケットに入れて持ち運べるものがいいわよね……」
ソフィアはハーマイオニーの言葉にベッドの隅に置いていた自分のローブを手繰り寄せ、何か入っているだろうかとポケットを探る。
中にはいつも食べているヌガーや、メモした羊皮紙の切れ端。それと前回ホグズミードへ行った時に使い、お釣りとして返された通貨が無造作に入っていた。
「通貨!──これは?」
「ああ!いいアイデアね、丁度周りに鋳造番号が書いてあるわ。これを変幻自在術で日時にすればいいわね!」
小声だったが興奮したように囁くハーマイオニーに、ソフィアはにやりと笑い指先で1シックル銀貨を弾く。
「通貨の製造と通貨への魔法は勿論違法だけれど?」
「魔法省に歯向かっているもの、今更少しの事よ」
校則どころか、通貨の製造は法律に触れる。だがハーマイオニーはソフィアと同じように笑うと、早速変幻自在術の論理をぶつぶつと読み出した。
「せっかくなら、金貨の方がいいわね、シックルだと間違えて使ってしまうかもしれないし。──29枚の偽金貨を作るのは大したことはないけれど、変幻自在術は大変そうだわ……」
「あら、ソフィアと私なら──きっとすぐに使えるわよ」
「ふふ、それもそうね」
ホグワーツで最も優秀である2人は悪戯っぽく笑い合うと、明け方まで変幻自在術の訓練をした。
変幻自在術は7年生のNEWT試験にもよく出題される魔法であり、流石の2人でも一昼夜で習得する事は出来なかったが、何とか4回目の会合の日までには習得し、メンバー全員分の偽ガリオン金貨に変幻自在術をかけることに成功した。
4回目の会合は木曜日の午後に行われ、全員が必要の部屋に揃い、今日の訓練は前回の復習から始めよう。──そう、ハリーが皆を見渡して言おうとした時、ソフィアとハーマイオニーは得意げな顔をして勢いよく手を上げた。
「ソフィア、ハーマイオニー、どうしたんだい?」
「始まる前に少しだけ良い?」
「うん、勿論」
ソフィアとハーマイオニーは一歩前に出ると後ろに隠していたバスケットを机の上に乗せ、かけていた布をさっと外した。
一体何が入っているのか、と覗き込んでいたメンバー達は沢山のガリオン金貨を見て「うわぁ!」と驚嘆の声を上げる。
「この会合は開催される日時が決まっているわけではないでしょう?それを伝えるためにみんなが大広間で頻繁に他の寮の机に行けばいずれ怪しまれるわ」
ソフィアは話しながらバスケットの中の金貨を摘み上げ、皆に見えるように掲げた。まだ何のことがわからないメンバー達は首を傾げながら金貨をまじまじと見つめる。
「金貨の縁に、数字があるでしょう?本物のガリオン金貨には、それを鋳造した小鬼を示す続き番号が打ってあるだけです。だけど、この偽金貨の数字は、次の集会の日付と時間に応じて変化します。日時が変更になると、金貨が熱くなるからポケットに入れておけば感じ取れます。一人一枚ずつ持っていて、ハリーが次の日付を決めたら、ハリーの金貨の日付を変更します。私とソフィアで全てに変幻自在術をかけたから、一斉にハリーの金貨を真似て変化します」
ハーマイオニーが話し終えても、しんとして何の反応も無かった。
皆の反応の無さにソフィアとハーマイオニーは流石に偽通貨の製造はやり過ぎたか、と少し狼狽える。
「アンブリッジにポケットの中身を見せなさいと言われても、これなら怪しまれないって、ハーマイオニーと考えて、良い案だと思ったんだけど……」
「まあ……みんなが使いたくないなら──」
「君たち、変幻自在術が使えるの?」
静まり返った部屋にテリーの呆然とした声が響く。
てっきり金貨の製造を咎められると思っていたハーマイオニーとソフィアはちらりと視線を合わせ、同時に頷いた。
「だって、それ……それ、NEWT試験レベルだぜ。それって」
信じられない、と息を飲むテリーに、他の何人かも唖然としたまま頷いた。
「ああ……ええ、まあ……うん、そうでしょうね」
「そうだったの?どうりでややこしい理論だったわけだわ」
ハーマイオニーはなるべく自慢げに聞こえないように控えめに頷いたが、ソフィアは難解な理論だったが、まさかNEWT試験レベルだったとは、と納得したように頷いていた。
「君たち、どうしてレイブンクローにこなかったの?その頭脳で?」
「ええ、組分け帽子が私の寮を決めるとき、レイブンクローに入れようかと真剣に考えたの。でも、最後はグリフィンドールに決めたわ」
「私は特に迷われなかったわね。──じゃあ、その、この方法でいいかしら?」
ざわざわと賛成の声が上がり、みんなが前に出てバスケットから一枚ずつ金貨を取りポケットに入れた。
ハリーは感心したようなメンバーの声を聞きつつ、ほっと安堵するハーマイオニーとソフィアを横目で見る。
「あのね、僕これで何を思い出したと思う?」
「死喰い人の印──でしょう?あの人が誰か一人の印に触ると、全員の印が焼けるように熱くなる」
「でも、私とソフィアは日付を金貨に刻んだわ、メンバーの皮膚じゃなくてね」
「ああ……君たちのやり方の方がいいよ。一つ危険なのはうっかり使っちゃうかもしれないってことだな」
ハリーはニヤリと笑い、ガリオン金貨をポケットに滑り込ませた。
「残念でした。間違えたくても本物を持ってないもの」
自分の偽金貨を弄りながら少し悲しそうにロンが言えば、ハリーとソフィアとハーマイオニーは苦笑し肩をすくめた。
ロンのこの自虐には、あまり触れない方がいいというのがこの3人の中で暗黙の了解となっているのだ。
「よし、みんな金貨は持ったね?間違えて使わないように!──じゃあ前回の復習から始めよう。時間は10分」
ハリーの一声に、メンバー全員が頷きばらばらと移動する。
ソフィアは比較的優秀なメンバーに
ソフィアが個人のレベルを上げ、ハリーが全体のレベルを上げていく。魔法の発現にはどうしても個人差があり、この方法はかなり理にかなっているだろう。
事実、メンバー全員がこの会合に参加する前と比べて通常の授業で行う変身術や呪文学の授業で、かなり良い結果を残せるようになり成長を自覚していた。
ソフィアはハーマイオニーとアンジェリーナに加え、フレッド、ジョージ──彼らはメキメキと上達しついにプロテゴを習得するまでになった──チョウ、マリエッタがかなりの精度でプロテゴを発動出来るようになった事を誇らしく思いながら見る。
他の何人かもプロテゴの発動は出来るが、強い魔法をぶつけられるとすぐにその盾が砕けてしまうのだ。武装解除術を防げたとしても、粉砕魔法や失神魔法を防げなければ意味はない。
「ハーマイオニーはアンジェリーナとジョージと組んで、3人ともすごくプロテゴの精度が上がっているから、もう一つレベルを上げましょう。2人からの失神呪文をプロテゴで防げるように、交代でやってみてね。──あ、後ろにクッションの準備は忘れないでね、一応」
「オーケー。んじゃレディーファーストだ。どっちからする?」
「レディーファーストなら、ジョージ、あなたが私たちから呪文を受けるべきね」
アンジェリーナが揶揄うようにいえば、ジョージは参ったとばかりに肩をすくめて部屋の端にあるクッションを取りに行き自分の後ろに置いた。
「チョウ、ジニー、ハンナの3人。パドマ、アーニー、フレッドの3人も、ハーマイオニー達のようにやってみて。ただ──そうね、失神呪文より、先に2人の武装解除術を防げるようになりましょう」
ソフィアは他のメンバーの元へも周り、個々のレベルに合った指導を続ける。時々ハリー達の元へ向かい、早くプロテゴを学びたくて羨ましそうに見るメンバーを励まし、前回と比べての魔法の上達具合を確認した。
魔法というものは、どれだけ研ぎ澄まされ練られたが肝心なのだ。同じ魔法を何度も真剣に繰り返すことにより、その威力と精度は上がっていく。
この分なら年明けには、全員がプロテゴを訓練する事が出来るかもしれない。
部屋の至る所で沢山の魔法が飛び交う中、ソフィアは8時50分になったのを確認しネビルに粉砕呪文を教えていたハリーの肩を叩き、自分の腕時計の文字盤を指差した。
「ハリー、もうそろそろ時間よ」
「ああ──もうこんな時間か。そっちはどうだった?」
「フレッドとジョージの上達スピードがすごく速いわ。少しムラがある気もするけれど、本当に筋はいいの。というよりも、人に魔法を使うことに凄く──変な言い方かもしれないけれど──慣れてるのね。多分兄弟喧嘩で魔法を使う事が多かったから……。うん、そろそろ模擬戦をしてみてもいいかもしれないわね」
「そうだね、こっちもみんなミスは減ってきてる。ネビルも凄いんだよ!きっと少しずつ自信がついてきて、落ち着いて魔法が使えるようになったんだと思う」
ハリーとソフィアは今日のメンバーの上達を軽く共有し、後でじっくりと次の会合内容について2人で話し合おうと決め、いつものようにソフィアが増幅魔法で皆を一箇所に呼び集めた。
「今日はここまで!みんな、本当に凄く良くなってる。次の会合は金貨で知らせるから、気をつけて寮に戻ってね」
皆は物足りなさそうな顔をしていたが、残念ながら終了時間が決まっているのはいつものことだ。ガヤガヤと楽しげに今日の成果を友人に話しながらそれぞれの寮へ戻った。
「よし、どうする?今日ももう少し練習する?」
ハリーがロンとハーマイオニーに聞けば、2人とも直ぐに頷く。透明マントがあるため、彼らは毎回9時半頃まで追加で練習をしていた。
「僕も早くプロテゴの練習がしたいなぁ」
ロンが並んでいたクッションを魔法で引き寄せ、自分の後ろに置きながら言う。ハリーは会合の後の練習で既にプロテゴを習得していて、この中でまだプロテゴが使えないのはロンだけだった。
「うーん、じゃあロンはプロテゴの練習をしてみる?ハーマイオニーはもう私と同じレベルで使えるし、教え方も上手だもの」
「やった!うん、やってみる!」
「ならクッションは2つは用意しなさい。私はスパルタよ?」
ハーマイオニーが不敵に微笑めば、ロンはすぐにあと3つのクッションを呼び寄せ自分の後ろにせっせと並べると「望むところだ!」と挑戦的な目でハーマイオニーを見た。
ハーマイオニーとロンがプロテゴの練習をしている間、ハリーとソフィアは少し離れた場所に座り全体の進み具合を確認する。
ソフィアは会合が始まってから一冊のノートを用意し、メンバー全員の進捗を細かく書き残していた。メンバーの中でやや遅れているのはネビルとコリンとデニスの3人だが、どれだけ失敗しても挫けず、辛い練習にも根を上げる事なく必死に食らいついている。1人だけ遅れる事がないようにそれとなく助言しコントロールする事は難しかったが、彼らの魔法が成功し、顔を輝かせるたびに、ソフィアとハリーは自分の事のように嬉しかった。
「そろそろ、一度みんなプロテゴを練習していってもいいかなってかなって思うの。プロテゴを習得できれば模擬戦の幅も広がるし…」
「そうだね、もうすぐクィディッチの試合があるから……会合の日をうまく嵌め込めればいいんだけどなぁ」
「うーん…なかなか難しいかもしれないわね」
試合が近づけば、やはりどのチームも毎日のように練習する事になる。
第一戦目はグリフィンドール対スリザリンであり、まだハッフルパフとレイブンクローの選手たちは余裕があるが、グリフィンドールチームのキャプテンであるアンジェリーナは打倒スリザリンのために毎日練習すると言う可能性が高い。
「せめてクリスマス休暇までに一度はしたいわね。休暇中は会合を開けないから3週間は空くもの。そのあと模擬戦と──そろそろ、彼らが待ち望んでいる魔法を教えてもいいかもしれないわね」
ソフィアは杖を振り、杖先から銀色のフェネックを出現させると愛おしげに見つめそっと撫でた。
ハリーも頷き、守護霊を出現させる。現れた牡鹿は悠々とソフィアの守護霊へ近付くと、挨拶をするように頭を下げた。
2人の守護霊はふわりとハリーとソフィアの周りを飛び跳ねると、ふっと銀色の光の粒になり空気に溶ける。
「──うん、今度みんなに伝えよう」
守護霊魔法は大人でも習得が難しいものだが、彼らのモチベーションを保つためにはとても良い魔法だろう。
「プロテゴ!──うわっ!」
「もう!ロン、発動が遅いわ!──
「う──うぅん、頭がくらくらする…」
ソフィアとハリーは5度目の失神をしたロンの叫びを聞き、顔を見合わせて楽しげに笑い合った。