ソフィアとハリーの予想通り、シーズン最初のクィディッチ試合が近づいてくるとアンジェリーナはやる気に満ち溢れ毎日クィディッチの練習をすると宣言し、DAの会合は暫く延期になってしまった。
アンジェリーナだけではなくマクゴナガルもクィディッチに対しては並ならぬ熱意を燃やし、打倒スリザリンを掲げ試合の1週間前から宿題を出さず、選手達に空いている時間は練習に使うようにと言うほどで、グリフィンドールの選手達は毎晩ヘトヘトになるまで練習に明け暮れた。
いや、グリフィンドールの選手だけではなくスリザリンの選手達もセブルスが無理矢理ねじ込み獲得した練習時間を使いほぼ毎日練習している。グリフィンドールの選手と違うのは、彼らは廊下でグリフィンドールの選手に呪いをかけ練習を妨害しようとするという姑息な点だろう。
しかし、幾ら目撃者が多くともセブルスは全く聞く耳を持たず追い返してしまい──グリフィンドールの選手は「打倒スリザリン、打倒スネイプ」を心の奥底で唱えつつ猛特訓した。
ロンのキーパーとしての技量はまだウッドには及ばないがかなり上達し、絶好調の時は見事にゴールを守っている。
好守備にフレッドとジョージも感心し、初めてロンを家族と認めようかと考えている、など揶揄いながら称賛したのだった。
彼の一番の弱点は、一度ミスをすると焦ってしまいミスをしてしまうという悪循環に陥る点だろう。
まだ一度も試合を経験したことのないロンは、スリザリン生達の本気の侮辱や嫌がらせを受けた事がない、試合の時に周りの言葉に耳を貸さず冷静になり集中さえ出来ていれば練習の力を出せる、そのはずだが、スリザリン生はロンの精神状態をまともにするつもりは毛頭もないだろう。
ロンは猛特訓し、とても上手くはなっているがやはりスリザリン生からの侮辱や嫌がらせには免疫が無く、試合が近づくにつれ言葉少なくなり、顔色が青くなっていった。
いくらハリー達が励まそうとも、日々熾烈になるからかいや失敗した時の真似を見せられてしまい、ロンはかなり参っているようだった。
ついに試合の日の朝、ソフィアはハーマイオニーと共に談話室を降りてハリーとロンを探したが見当たらない。
もう先に行ったのかと辺りを見回しているとジニーが2人のそばに駆け寄った。
「おはようハーマイオニー、ソフィア」
「おはようジニー」
「おはよう。ねぇロンとハリー見なかった?」
「私が降りてきた時、肖像画から出ていくのを見たわ。…ロンの顔色がちょっと、ヤバかったかも」
ジニーは肩をすくめ、ハーマイオニーとソフィアは心配そうに眉を下げた。
連日のからかいや侮辱と初試合のプレッシャーがきっとロンの肩に重くのしかかっている事だろう。──何せ、ウッドは名キーパーだったのだ、スリザリン生に「ウッドと比べたらアリみたいなもんさ」と比べられ笑われるのも仕方のないことかもしれない。
ハーマイオニー、ソフィア、ジニーはすぐに大広間に向かった。
大広間はいつもより活気に溢れ、至る所で今日の試合を楽しみにしている生徒たちの声が聞こえた。
スリザリン生はにやにやと笑いながら背中を丸め縮こまってコーンフレークを食べるロンを指差し、自分の胸につけている銀色の王冠のバッジを周りに見せびらかした。
その動作はいつものからかいよりも、なぜか嫌な予感がしてソフィア達はスリザリンの集団とすれ違いざまに、胸につけているバッジを凝視した。
「──悪趣味」
「最低だわ」
「これ、ロンが見たら…もっとやばいわね」
ソフィア、ハーマイオニー、ジニーはそのバッジに書かれた『ウィーズリーこそ我が王者』という文字を読み、苦々しく吐き捨てる。
それをグリフィンドール生がつけているのならとてもいい声援だが、つけているのはスリザリン生だ。どう考えても皮肉であり、いい意味であるわけがないだろう。
ソフィア達はハリーとロンの向かい側に座り、真っ青を通り越して真っ白なロンの顔を見た。
「調子はどう?」
ジニーはオートミールのボウルを引き寄せながら何気なく言ったが、ロンはじっと空になったコーンフレーク皿に僅かに残る牛乳を見つめ、これに飛び込んで溺れ死んでしまいたいと言うような思い詰めた表情をしていた。
「ちょっと神経質になってるだけさ」
「あら、それはいい兆候だわ。試験だってちょっとは神経質にならないとうまくいかないものよ」
唇がくっついてしまったのか、一向に返事をしないロンの代わりにハリーが伝えれば、ハーマイオニーは屈託なくいった。
ちょっと、だけにしては気絶しそうなほどの顔色に、ソフィアは眉を寄せる。
ロンは、技術はともかく、やはり精神面がまだ鍛えられていない。それもそうだ、他の選手達は何年もスリザリン生からの侮辱を受け軽く流せるようになったが、ロンは今年がはじめてだし、キーパーのミスは相手の得点に繋がり、試合に大きく影響を及ぼす──キーパーは、責任重大なのだ。
「ロン、ひとつとってもいいことを教えましょうか」
「な──何だい?ゴールを勝手に守れるようになる魔法とか?」
「ううん、違うわ。──その魔法はクィディッチの試合で禁じられてるでしょう?──あのね……」
ソフィアは必死な目をするロンに、明るく笑うと立ち上がり身を乗り出した。
何でもいいから違反でなければなんでも縋りたいロンは、期待を込めてソフィアを見つめる。
「ロン、あなたは最高のキーパーよ」
「……お世辞はよしてくれよ」
いい魔法か何かかと思ったロンだったが、ただの励ましの言葉でありがっくりと項垂れた。その俯いてしまった赤毛の頭をソフィアは優しくぽんぽんと撫でる。
「本当に、そう思ってるわ。辛い練習を頑張ってたし、あなたは本当に上手くなったわ!」
「いや……」
「──そうよ、ロン。あなた本当に上手くなったわ!少しのミスが何よ、実力でカバーしなさい!」
「そんな……」
ハーマイオニーもソフィアと同じように立ち上がり、ロンのがっくりと落ちた肩をぽんぽんと叩く。
「そうよ、試合は1人でやっているわけじゃないのよ?みんなで守りあってるんだもの」
「でも……」
2人からの激励に、ロンは少しずつ顔色を取り戻していったが、それでもやはり本調子にはまだまだ遠かった。緊張し神経質になるのはどの選手だってそうだろうが、ロンほど顔色が悪い者は居ない。
「おはよう」
ソフィアとハーマイオニーの後ろで、夢見るような眠たげな声が聞こえた。ルーナがレイブンクローの机からふらりと移動してきたのだが、その頭にはどこで手に入れたのか、実物大の巨大な獅子の頭の形をした帽子が乗っていた。
「あたし、グリフィンドールを応援してる。これ、よく見てて……」
ルーナが帽子に手を伸ばし、杖で軽く叩くと、獅子頭がカッと目を見開き大口を開け本物顔負けに吠えた。腹に響くような低音の鳴き声に、近くにいた生徒たちは驚いて飛び上がってしまった。
「いいでしょう?スリザリンを表す蛇を、ほら、こいつに噛み砕かせたかったんだぁ。でも、時間がなかったの。まあいいか……がんばれ、ロナルド!」
ルーナはにっこりと笑うともう一度獅子頭を吠えさせ、そのままふらりと行ってしまった。
いきなりの事でハリー達が耳を抑えながらぽかんとしているとアンジェリーナが急いでロンとハリーの元へやってきた。
「準備ができたら、みんな競技場に直行だよ。コンディションを確認して、すぐ着替えるんだ」
「すぐ行くよ。──ロンはもう少し食べないと」
ハリーはアンジェリーナにすぐに行くと約束したが、ロンは10分経ってもこれ以上何も食べられないようだった。
固く口を閉ざし、ソフィア、ハーマイオニー、ハリーの根気強い励ましに表情を緩めては、スリザリンからの野次に肩を震わせこわばってしまう。──その繰り返しに、ハリーはロンを更衣室に連れて行くのがいいと判断し、立ち上がった。
「ハリー、ちょっといい?」
「え。う──うん」
ソフィアはハリーと共に立ち上がり、テーブルを周るとそのままハリーの腕を引き脇に連れて行った。
今から試合に向かう自分へ、ようやく激励を送ってくれるのだろうかと──ロンに少しだけ嫉妬していたのだ──ハリーは期待したが、ソフィアはチラチラとロンとスリザリン生の軍団を見て心配そうな顔をしている。期待はどうやら外れそうだ。とハリーはかなり残念に思った。
「あのね、スリザリンのバッジに書いてあることを出来るだけロンに見せないでほしいの」
ソフィアは困り顔でそう囁いたが、ハリーが何が書いてあったのかと聞く前にハーマイオニーに支えられながらロンがよろよろと2人の元にやってきてしまった。
「頑張ってね、ロン」
ハーマイオニーは爪先立ちになってロンの頬にキスをした。
彼女は滅多に他人の頬にキスをしない。──ソフィアはハーマイオニーの言葉のない告白に内心でドキドキとして今すぐにでもキスの意味を聞きたかったが、ぐっと堪えてハリーに向き合う。
「ハリー、頑張ってね!」
ソフィアはハリーの首元に腕を回し、ぎゅっと優しく抱きしめるとそのまま頬にキスをした。
「ありがとう、ソフィア」
ハリーも緩くソフィアの背中に手を回し、強く抱き返すと、同じように頬にキスをした。
ばちりと近い距離で目があった2人は、照れたように笑う。ハグや頬にキスなんて、友人の間に何度もしていたが──やはり、恋人同士となった今、その意味はかなり異なってくる。
ロンはハーマイオニーにキスされた頬を手で触り、不思議そうな顔をしながらハリーに連れていかれるままに大広間を出た。
ソフィアは横目でハーマイオニーを盗み見る。ハーマイオニーはソフィアの視線に気付くと頬をぽっと染めて、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
「…親愛のキス?」
「まぁ、広い意味でね」
「……ロンはずるいわ!私、ずっとハーマイオニーに親愛の証を欲しいって思っているのに!」
ソフィアはわざとらしく嘆きながらハーマイオニーの腕にもたれかかり、ちゅ、と頬にキスをした。
ハーマイオニーは暫くそっぽを向いていたが、くるり、とソフィアの方を見ると勢いよくソフィアの頬を両手で掴み、驚いているソフィアに向かって身を屈めた。
「──これで、いいかしら」
ハーマイオニーはニヒルに笑いながらそっとソフィアから離れる。
キスされた額に触れたソフィアは「最高!」と嬉しそうに笑った。
スリザリン対グリフィンドールの試合が始まった。
歓声や足を踏み鳴らす音に混じり、いつもはない微かな歌声が響く。
解説者であるリーは、どちらかのチームの応援歌かと、その歌に耳を傾けてしまった。
「──観客が沸いています。お聞きください、この歌は何でしょう?」
リーが歌を聞くのに解説を中断したとき、スタンドの緑と銀のスリザリン陣営から大きくはっきりと歌声が立ち上がった。
『──ウィーズリーは守れない
万に一つも守れない
だから歌うぞ、スリザリン
ウィーズリーこそ我が王者
ウィーズリーの生まれは豚小屋だ
いつでもクァッフル見逃しだ
おかげで我らは大勝利
ウィーズリーこそ我が王者──』
「──そしてアリシアからアンジェリーナにパスが返った!」
リーはすぐに叫ぶ。
その歌を掻き消そうとして声を張り上げているのは明らかであるが、スタンドにいた者全てにその歌は聞こえた。──勿論、ロンにも。
グリフィンドールを応援していた生徒達はスリザリンの酷い歌に顔を歪ませ、負けてたまるか、と大声を上げて声援を送る。
ハーマイオニーとソフィアも柵を叩き足を踏み鳴らし、喉が枯れるまで大声を上げて必死にグリフィンドールを──ロンを応援した。
しかし、結果は何とかギリギリ耐えた、と言えるだろう。
ロンは自分を侮辱する歌を聞き、頭の中が真っ白になり体がうまく動かなかった。頭が痺れ脳が溶けたのかと思うほどの焦り、吐き気を覚えながら何とか数回はクァッフルを弾いたが、4回も得点を許してしまったのだ。それも──簡単に止められるような、そんなシュートだった。
最後はハリーがドラコよりも早くスニッチを掴み、グリフィンドールが勝利した。──そのすぐ後、新しく選手になったクラッブがハリーめがけてブラッジャーを強打し、ハリーの腰にまともに当たり箒から投げ出されたがスニッチを掴むために降下していたのが幸いし、大した怪我ではなくて済んだ。
選手達が次々とハリーを囲みピッチに降り立つ中、スリザリン生以外はクラッブの最低なプレイに野次や怒鳴り声を上げ、落下してもスニッチを離さなかったハリーを激励した。
「ああ……とりあえず、良かったわ…」
「…ギッリギリね」
ロンはやはりプレッシャーに負けてしまい、練習ほどの成果を出せなかったが、それでも勝利は勝利である。ブラッジャーと接触したハリーの怪我は気になるが、アンジェリーナがすぐそばに駆け寄り助け起こしていたところを見るとそれほど酷くはないのだろう。
ハーマイオニーとソフィアは大声の出し過ぎで嗄れ声になり、痛みから何度か咳をこぼしながら疲れたように観客席に座り込んだ。
試合のたびに毎回これならば、ロンが試合に慣れ始めるより先にこちらの心臓と喉がもたないかもしれない。
ソフィアとハーマイオニーが青い空を見上げながら同じことを思っていた瞬間、爆発的な喧騒とどよめき、そして叫び声が響いた。
何事かと慌ててピッチを覗き込んだ2人は、ドラコに向かって殴りかかっているハリーとジョージを見て「やめなさい」と叫んだつもりだったが掠れ切っていた声はきっと誰の耳にも届かなかっただろう。
ルール違反をしたクラッブを叱りつけていたフーチはすぐにその喧騒の中に飛び込み、ハリーを妨害呪文でドラコから無理やり引き離すと、ジョージとハリーに鋭く退場命令を出した。
怒りの表情のままピッチを横切り城へ向かうハリーとジョージをクィディッチチームの皆が心配そうに見つめ、何を言ったのか聞いていたメンバーは芝生の上で体を曲げて痛みに泣いているドラコを冷めた目で見下ろし、足元に唾を吐いた。
ルイスはスリザリンの観客席でそれを見ていたが、はあ、とため息をこぼすとピッチに入り、そのままドラコの元へ駆け寄る。
何を言っていたのかは聞こえ無かった。だが、試合に負けたドラコが、ハリーとジョージに何を言うかなど、考えなくても分かり切ったことだ。
いつもの馬鹿馬鹿しい侮辱だろう。きっと、ハリーは自分のことなら我慢ができる、今日の歌といい──多分、ロンの事──ウィーズリー家の事を馬鹿にしたんだろうな。
ドラコは殴られて痛む腹を押さえていた。
スリザリンチームの仲間達は薄情なもので、ドラコがスニッチを取れなかったから負けたとでも思っているのか、誰一人としてドラコに手を貸さない。
ルイスは自分に向けられる大勢の突き刺すような視線を受けていたが、堂々とスリザリンカラーのスカーフを靡かせる。その胸に王冠のバッジはついていなかったが、気が付いた者は少ないだろう。
「フーチ先生。医務室へ連れて行ってもいいですか?」
「え?ああ、そうですね」
ルイスは一応フーチに断りを入れ、自分のローブを脱ぐとドラコに被せ、泣き顔がこれ以上誰にも見えないようにしながらぐっと腕を掴み無理やり立たせた。
「行くよ、ドラコ」
「……っ…く、…ぅ」
呻き声と鼻を啜る音が聞こえ、ドラコの細かく震える肩に気付き、ルイスは内心で「本当に、馬鹿だなぁ」とは思ったが、小言はドラコの怪我が完治してから言おうと決め、とりあえず何も言わなかった。
ーーー
「禁止」
アンジェリーナが虚な声を上げた。
その夜遅く、クィディッチの選手達が揃う──ロン以外で──談話室で、ハリーとジョージとフレッドはアンジェリーナにアンブリッジが自分達をクィディッチ終身禁止にしたことを告げた。
「禁止。……シーカーもビーターもいない……一体どうしろって?」
試合に勝った雰囲気ではなく、まるでお通夜のような陰鬱な空気が落ちていた。
誰もがアンブリッジとドラコへの怒り、絶望、困惑、そして落胆を滲ませている。
ビーターとシーカーが居ないなか、次の試合をどうすればいいのか、誰も何も言えず重々しい沈黙が落ちる。
「絶対不公平よ。クラッブはどうなの?ホイッスルが鳴ってからブラッジャーを打ったのはどうなの?アンブリッジはあいつを禁止にした?」
「ううん、書き取りの罰則だけ。モンタギューが夕食の時にその事で笑っていたのを聞いたわ」
「それに、フレッドを禁止にするなんて!何にもしていないのに!」
アリシアが拳を膝で叩きながら怒りをぶつけたが、フレッドは悔しげに顔を歪め「俺がやっていないのは、俺のせいじゃない」と吐き捨てた。
「君たち3人に押さえつけられていなけりゃ、あのクズ野郎、うちのめしてぐにゃぐにゃにしてやったのに!」
フレッドはギリギリと歯を食いしばる。
暫く誰も何も言う事が出来ず、選手以外の生徒も下手に慰めることも出来ず、ただ、沈黙していた。
「私、寝るわ。全部悪い夢だったってことになるかもしれない……明日目が覚めたら、まだ試合をしてなかったことに……」
アンジェリーナは頭を押さえ、ふらりと立ち上がるとアリシアとケイティに支えられながら女子寮へと向かった。すぐにジョージとフレッドも周囲を誰彼関係なしに睨みつけながら寝室へと去る。ぱらぱらと生徒たちが寝室へ向かう中、談話室に残ったのはハリーとソフィアとハーマイオニーだけだった。
「ロンを見かけた?」
ハーマイオニーが低い声でハリーに聞いた。
ハリーは無言で首を振り、自分の手をしっかりと握ってくれているソフィアの白い手を、ぼんやりと見つめていた。
「私達を避けているんだと思うわ。どこにいると思──」
ちょうどその時、背後で肖像画が開く音がして、ロンが穴を這上がってきた。
頭に白い雪をつけ、顔は蒼白で強張っている。ハリーとハーマイオニーとソフィアを見ると、ロンは固まってしまいその場で動かなくなった。
「どこにいたの?」
ハーマイオニーが勢いよく立ち上がり、心配そうに言った。
「歩いてた」
「凍えてるじゃない!──こっちに来て!」
ユニフォームを着たままだったロンは至る所に雪をつけながらハーマイオニーに手を引かれ暖炉の前へとやってきた。
いつもならハリーのそばに座るが、ロンは出来る限り離れた椅子に身を沈め、ハリーと視線を合わせなかった。──あんなに練習に付き合ってくれたのに、散々だった、合わせる顔もない。
「ごめん」
「何が?」
「僕がクィディッチができるなんて考えたから、明日の朝一番でチームを辞めるよ」
自分などいない方がいい。
ロンはそう思ったのだが、今──クィディッチを終身禁止にされたハリーにとって、その言葉は自分勝手で責任逃れだとしか受け止められず、ぐらりと腹の奥から怒りが沸き起こった。
「君がやめたら。チームには選手が3人しかいなくなる。──僕は終身クィディッチ禁止になった。フレッドとジョージもだ」
「ひぇっ」
息を飲む事に失敗したような叫び声がロンの口から飛び出した。
ハリーはソフィアの手を強く握ったまま黙り込み、もう二度と何故終身禁止になったのか説明したくはなかった。──耐えられなかったのだ。
かわりにぽつぽつとハーマイオニーとソフィアが説明し、2人が話し終えるとロンはますます顔を歪め目に涙の膜を貼り苦悶の表情を浮かべた。
「みんな僕のせいだ──」
「僕がマルフォイを打ちのめしたのは、君がやらせたわけじゃない」
「僕が試合であんなに酷くなければ──」
「それとは、何の関係もないよ」
「──あの歌で上がっちゃって」
「あの歌じゃ、誰だって仕方がないさ」
ハーマイオニーは何も言わず2人の言い争いから離れ、窓際に歩いて行って窓ガラスを撫でていく雪を見つめる。
ソフィアはハリーに手を握られていて離れることが出来ず、言い合う2人の間で視線を振り、困ったように眉を下げた。
「おい、いい加減にやめてくれ!もう十分悪いこと尽くめなんだ。君が何でもかんでも自分のせいにしなくたって!」
ハリーはついに怒りを爆発させる。
いつもと比べてかなり長い間耐えていたというべきかもしれない。ロンはハリーの怒りに、口を開き咄嗟に「ごめん」と言いそうになったが、開かれた口から言葉は溢れなかった。
ただ、ロンは肩を落とししょんぼりと辛そうな顔をして濡れた自分のローブの裾を見つめていた。
ソフィアもなんと言って慰めればいいのかわからなかった。
ハリーはクィディッチが好きで、唯一誰にも負けない事だろう。それに、アンブリッジに没収された箒はシリウスからのプレゼントで、大切なものだ。あの女の部屋にあると思うだけで胃が煮えたぎる思いだろう。
ロンだけならば、慰める方法は幾らでもある。次回に活かせばいい、もうスリザリンの手はわかった。次の試合でどんな侮辱やからかいにも耐えるために心を鍛えましょう。──そういうのは簡単だ。だが、次がないハリーの前で、次がなくなってしまったその日に言うのは酷すぎるというものだろう。
ソフィアはハリーの肩に自分の頭を預けた。ハリーはぴくりと肩を震わせたが、何も言わずにただ繋ぐ手の力をさらに込めただけだった。
「生涯で最悪の気分だ」
「…仲間が増えたよ」
ロンの呟きに、ハリーが苦々しく言った。
「──ねえ」
窓の外を見ていたハーマイオニーが、声を震わせソフィア達に呼びかける。今は何も聞きたくない、と怪訝な顔をするハリーとロンに、ハーマイオニーは声を抑えて囁いた。
「一つだけ、2人を元気付ける事があるかもしれないわ」
「へー。そうかい?」
「ええ、そうよ。──ハグリッドが帰ってきたわ」
ハーマイオニーは顔中で笑い、窓の外にちらちらと光るハグリッドの小屋の明かりを指差した。