12月も半分は過ぎもうすぐクリスマス休暇がやってくる。冬は厳しさを増したくさんの雪がホグワーツにやってきた。
いや、雪だけではなく五年生には雪崩のような宿題が押し寄せ、ただでさえ通常の宿題の量だけで手一杯なハリーとロンは毎晩遅くまで唸りながら宿題をする羽目になってしまった。
さらに、ロンとハーマイオニーには、クリスマスが近付くにつれ監督生としての役目がのし掛かる。城中の飾り付けの監督や生徒の見張り、フィルチと共に交代で廊下の見回りなど沢山の仕事がのし掛かり、流石のハーマイオニーもハウスエルフ解放の為の帽子を編む事をやめてしまった。
「まだ解放してあげられない可哀想な妖精たち。ここでクリスマスを過ごさなきゃいけないんだわ!帽子が足りないばかりに!」
──と、ハーマイオニーが宿題をしながら嘆く声を聞き、ハリーはハーマイオニーが作った帽子や手袋は全てドビーが回収しているということをとても言い出せず、魔法史のレポートに深々と覆いかぶさった。
「ソフィア、本当に私とスキーしに行かないの?パパとママは大歓迎なのに!」
「うーん、スキーって…何だか難しそうだし」
ハーマイオニーはクリスマス休暇に両親とスキーに行く予定でありソフィアを誘っていたが、ソフィアはあまりその提案には惹かれないようでいつものように学校に残る選択をしていた。
今年はロンは家に帰るようだし、ハーマイオニーはスキー旅行だ。──ソフィアと2人きりで過ごすことが出来る!
今、ハリーにとってホグワーツでは思い悩むことが多く──クィディッチやアンブリッジ、それにハグリッドの停職の危機など様々な問題がある──楽しい場所ではなかったが、それでもソフィアと初めて長期間、ロンとハーマイオニー抜きで過ごすことができるのは何よりも嬉しかった。
「そういえば、ロンはどうやって家に帰るんだ?」
他の生徒と同じようにセストラルの馬車に乗り、ホグワーツ特急で帰るのだろうか、とハリーは何となくロンに聞いた。
するとロンは「多分ママがキングズ・クロス駅まで僕たちを迎えに来るんじゃないかな?」と首を傾げる。
「僕たち?──あ、そうだね、ウィーズリー家のみんなも帰るんだ。フレッドとジョージが居ないとなると静かになるなぁ」
「え?ハリー、君も僕の家に来るだろう?──あれ?言わなかったかい?何週間も前にママが手紙でそう言ってたんだ!君を招待するようにって!」
「…初めて聞いたな」
ロンの言葉に、ハリーは眉を寄せた。
もう休暇まであと少しだ、隠れ穴でロンやウィーズリー家のみんなとクリスマスパーティをして過ごすのは魅力的だが、そこにソフィアが居なければ意味が無い。
「うーん。……ソフィアは、残るんだよね?」
「ええ、ルイ──彼も、残るって言ってたし」
ソフィアはルイス、と言おうとしたがロンの眉が上がったのを見てその名を呼ぶのをやめた。今年もセブルスは──当然だが──家に帰る事は出来ず、ホグワーツに残ると秘密の手紙のやりとりで聞いていたし、クリスマス当日に一度だけでもルイスとセブルスに「メリークリスマス」と伝えたかった。
「──僕はいかない、残る。元々そのつもりだったし」
「ええっ!?隠れ穴で過ごそうぜ!」
ロンは驚愕し、家に来て欲しそうにハリーを見つめた。ハリーも、きっとロンとウィーズリー家の人達と過ごすクリスマスは楽しいのだろうとわかっている、だが、はじめての恋人とのクリスマス──やはりソフィアと一緒に過ごしたい。多分、そうするべき、なんだろう。
ソフィアは特に気にしていなかったが、ハーマイオニーはハリーがソフィアと2人で過ごすと結論づけた事に満足げに頷いていた。
それでもロンは残念そうに何度もチラチラとハリーを見て気をひこうと「パーティ楽しいぜ?」「こっそりワインが飲めるかも」「ソフィアもおいでよ」と囁いたが、ハリーとソフィアが首を縦に振る事はなかった。
クリスマス休暇前の最後のDAの日、ソフィアは今日もまた「少し用事」があり、1人競技場へ向かっていた。
「アンジェリーナ!ごめんなさい、遅れちゃったかしら?」
「いや、まだ開始時間じゃない。私も今来たところ」
ソフィアの手は入学前にドラコ──マルフォイ家からプレゼントで貰った箒を掴んでいる。時間的にはまだ夕方だが、分厚く黒い雲が空を覆っていてかなり暗い。ちらちらと雪が降り、頬に張り付く中、ソフィアは寒そうに体を震わせた。
競技場に立っていたのはアンジェリーナだけではなく、少し離れたところにケイティとアリシアがいた。アンジェリーナの前にはジニーと何人かの下級生が手に箒を持ち、寒そうに身を寄せ合っていた。
「じゃあ──最後の試験だ」
アンジェリーナの声に、ソフィア達は表情を引き締め、箒に跨りながら頷いた。
アンジェリーナは用意していた鞄の留め金を外す。
中には練習用のスニッチが収められていて、彼女は新しいシーカーに志願しているジニーとソフィアに向かい合った。
「──よし、ここに練習用スニッチがある。先にとった方が、新しいシーカーだ。2人はとても筋がいいから…シーカーになれなかった方は、できたら、ビーターになって欲しいんだ。少し筋力をつけて欲しいけど…テクニックは十分だからね」
「ええ、わかったわ」
「じゃあ、私がスニッチを放つ──3秒後、捕まえに行って。私が数えるからね」
「うん」
ソフィアとジニーは頷き、真剣な目で鞄を見る。
アンジェリーナは神経質そうにぺろりと唇を舐めると、さっと鞄を開けた。
小さな羽音と共に金色のスニッチが飛び上がり、ソフィアとジニーの周りを一周しものすごいスピードで空をかける。
「カウント開始だ!──いーち──に──さんっ!」
アンジェリーナの号令を聞いた2人は空に駆け上がった。
ーーー
ソフィアはジニーと共に箒置き場へ向かい、服を着替え、そのままDA会合の場所へと向かった。
「ソフィア、頑張ろうね!」
「勿論よ!」
「──あ、鼻の頭に泥がついてるわよ」
ジニーからくすりと笑いながら指摘されたソフィアは、少し恥ずかしそうに笑い袖で鼻の頭をぐいと拭う。「取れたかしら?」と聞けば、ジニーは面白そうに笑いながら「広がっちゃったみたい」と言い、自分の袖でソフィアにつく伸びた汚れを綺麗に拭った。
必要の部屋に入れば既に半数以上が到着していた、その中にはハリーとロンとハーマイオニーと、そして先についていたアンジェリーナの姿もある。ハリーはソフィアが来た事に気づくと驚きで目を見開きながら駆け寄った。
「ソフィア!きみ、シーカーになったの?」
「ええ、実は…。その、選抜試験を受けていたの、飛行術には自信があったけど…受かるかどうかはわからなくて、秘密にしてたの」
「そうなんだ……」
ハリーは喜ぶべきか、悲しむべきか、複雑な表情で曖昧に笑った。誰よりも飛行術に優れ、シーカーとしてクィディッチが好きだったハリーは羨ましくてたまらなかった。空を駆けることが出来るソフィアのことも、ソフィアと共にクィディッチの練習が出来るチームメンバー達も──ハリーは会合メンバーの出席を確認するフリをしてソフィアから視線を外した。
クリスマス休暇前の最後のDAは今までの復習を行った。ザカリアスは新しい魔法を学べない事に不服そうだったが、かと言って退室する事も無い。
妨害術、失神術、盾の呪文──など、今までの復習を1時間程度続け、ソフィアとハリーはいつものように生徒の間を周り見回った。
「やめ。──みんな、とっても良くなったよ!休暇から戻ったら、守護霊魔法と、模擬戦の練習を始められると思う」
ハリーが終了後、にっこり笑いながらいえば皆が興奮でざわつく。
守護霊魔法は高度な魔法であり、これを教わりたいがために会合に参加しているメンバーも多いだろう。
「模擬戦って──決闘みたいなものか?」
ザカリアスが少し不安そうな声を上げれば、ネビルやコリンは怯えたような目で辺りをきょろきょろと見回した。
「まぁ、そんなものね。勿論死ぬ事は無いけれど。──擦り傷くらいはあり得るかもしれないわ」
ソフィアはザカリアスの言葉に軽く答える。
今、皆が練習している魔法は直接的に相手を傷つけるものではない。敵を無効化し、自分を守る魔法ばかり練習しているが、模擬戦をした時咄嗟に練習した魔法だけではなく、切り裂き魔法や燃焼魔法を繰り出してしまう可能性は充分にある。
しかし、模擬戦というものはそういうものだ。多少の怪我は覚悟しなければ上達する事は無い。
「次までに回復薬は用意するし──とりあえずは──希望者だけ対人訓練を行うわ。内容は今まで覚えた全ての魔法を使って、相手を無効化する事。いくら強い魔法を知っていても、実際戦闘になった時に使えなければ意味がないし、どの魔法を選択するかの判断力を研ぎ澄ます為にはとっても有効的だと思うの」
ソフィアの説明に、何人かは不安そうな表情を拭い去ることができなかったが、殆どが好戦的な目で笑っていた。フレッドは「アンブリッジが練習台なら、最高なんだけどな」と大声で言い、何人かがそうだそうだと囃し立てる。
「多分、魔法使い同士の戦いなんて見たことがない人が殆どだと思うわ。私もそれ程多いわけでは無いもの。……だから、備えることが必要なのよ。──次から、頑張りましょうね」
ソフィアの言葉に皆が興奮し囁き合い、早くも次の会合を心待ちにしながらハリーとソフィアに「メリー・クリスマス!」と帰り際に挨拶をし部屋を出て行った。
ソフィア達は散らかったクッションを呼び寄せ、一箇所にまとめて積み上げ、部屋を元通り綺麗にしていく。
「今日も少し練習する?」
最後のクッションを綺麗に積み上げたソフィアはハリーとロンとハーマイオニーの方を振り返り首を傾げた。
今までは毎回30分程度残っていたが、明後日からはクリスマス休暇が始まる。ハーマイオニーは帰宅の準備を済ませているだろうが、きっとロンはまだ荷物をまとめていないだろう。──それなら、早めに戻った方がいいのかもしれない、とソフィアは思っていた。
「ソフィア、いつのまにシーカーになったの?」
私も全く知らなかったわ。とハーマイオニーが少し機嫌を損ねながら呟く。ハリーとロンも試験を受けるのなら教えてくれたら良かったのに、という顔をしてソフィアを見た。
「え?──えーっと、少し前にアンジェリーナからいい飛び手を知らないかって聞かれて、それで……今日が最終試験で、なんとかスニッチを掴むことができたの。アンブリッジの決定は不服だし、腹が立つわ!グリフィンドールチームが負けるなんて見たくなくて、私でも力になれたら──と、思ったの。内緒にしてたのは、その……受かる自信があまりなくて」
ソフィアは3人からのじとりとした視線に居心地が悪そうにもじもじと指先を動かしながら答えた。
ソフィアの飛行術はなかなかに上手いが、実際にクィディッチをプレイした事は無い。
箒に乗れる事と、クィディッチの選手に選ばれる事はまた別問題だと思っていたのだ。
「アンジェリーナはうまいって褒めてたよ」
「そうかしら?──うーん、そうならいいんだけど…」
ハリーはクィディッチが出来るソフィアに対し、胸がモヤモヤとするような嫉妬を感じていたが必死に押し殺してにこりと笑う。
ソフィアは自分がシーカーに決定した時、アンジェリーナはあまり嬉しく無さそうだった事を思い出して苦笑いをした。──ハリーに比べて自分がかなり劣っている事は理解している。
「ハリー。──その、もし嫌じゃなかったら…シーカーとしての動き方を教えてくれないかしら?」
「いいのかな?──ほら、僕は──」
「チームになってはいけないだけで、私の監督として教える事は禁じられていないわ、そうでしょう?ハリーは最高のシーカーだもの、ハリーに教えてほしいわ」
ソフィアの言葉に今まで競技場を目にすることすら辛かったハリーはほんの少しだけ心が軽くなり、こくりと頷いた。