【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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290 無邪気だからこそ!

 

 

ソフィアがハーマイオニーと共にグリフィンドール寮へ戻った時、沢山の寮生がソフィアを囲み口々に「大丈夫?」「うわー痛そうな怪我!」と叫ぶ。

特に自分のミスのせいだと思い詰めていたスローパーは──彼は散々フレッドとジョージにちくちくと「俺らなら見逃さないね」と嫌味を言われていた──心からソフィアに謝った。

 

 

「本当に、ごめん。僕がミスをしなければ…」

「大丈夫よ!痛みはほとんどないし、1週間クィディッチ禁止だけれど、まぁ、治るわ!──ところで、あなたは誰?」

 

 

ソフィアはにっこりと笑い首を傾げる。

スローパーは同じチームになって日が浅いとはいえ、昨日までは自分を認識していたはずだと訝しげな顔をした。

 

 

「実は──」

「私、記憶喪失みたいなの!よくわからないけど、いきなり五年生になっちゃったみたいね。だから自己紹介からお願いしていいかしら?」

 

 

ハーマイオニーが彼らに説明する前に、ソフィアははっきりとそう言った。

一瞬、談話室が静まり返ったが、次の瞬間には驚愕の叫びで溢れ、誰もが「俺のことも忘れたのかい?」「わ、私のことも?」と狼狽えた。

 

 

「ええ、ホグワーツで過ごした記憶は無いの。だからまた一から教えてね」

「ソフィア、ちょっと──」

「じゃあ、またね!」

 

 

ソフィアはハーマイオニーに手を引かれ、あんぐり口を開く寮生達の間を通り抜け、まるで通夜会場のような暗く陰鬱な雰囲気を漂わせるハリーがいる暖炉前へと向かった。

 

 

「さあ、まずは自己紹介よ」

 

 

ハーマイオニーはソフィアを自分の隣に座らせると、ハリーとロンに視線を向ける。

 

 

「えーと。僕はロナルド・ウィーズリー。君はロンって呼んでた。…僕は君の友達さ、一年生の時から僕らは4人で行動してた。──あー──よろしく」

「よろしくね、ロン!」

 

 

笑顔で手を差し出したソフィアに、ロンは本当に全て失っているのだと分かると悲しそうに笑い手を握る。

ソフィアはその後ハリーに目を向け、早く自己紹介してほしい、と言うように目を輝かせた。

 

 

「僕は……ハリー・ポッター、ソフィア、君の……恋人だ」

「えっ!?ハリー・ポッター?こ、恋人?私たちが?」

 

 

ソフィアは思っても見なかった言葉に顔を赤くし頬に手を当て、見るからに狼狽えた。

 

 

「そんな…ごめんなさい。私何にも覚えてないし──あなたのこと好きじゃないわ」

「──っ!」

 

 

申し訳なさそう、というよりも不安げに呟かれたソフィアの言葉に、ハリーは鈍器で殴られたような衝撃を感じここにいる事が耐えられず弾かれたように立ち上がるとそのまま男子寮へと疾走した。

 

 

「ハリー!──ソフィア!なんて事を言うんだ!」

 

 

ロンは非難めいた目でソフィアを見て叫ぶが、ソフィアにとってはハリーは知らない人だ。──いや、名前だけはヴォルデモートから生き延びた唯一の子どもだと言うこともあり、知っている。だがなんの思い出もないハリーと恋人だと言われたからといってすぐに受け入れる事はできない。ソフィアの中身は、今はまだ幼い9歳の少女なのだ。そんな少女にしてみれば、15歳の見知らぬ年上の青年と恋人だと言わたならこんな反応になってしまうだろう。

 

 

ロンは苛立ちを見せ、すぐにハリーを追いかけて男子寮へと向かった。

残されたソフィアは少し口を尖らせ「だって、本当だもの」と言い訳をするように呟いたがそれが聞こえたのはハーマイオニーだけだろう。

 

 

「ソフィア。昨日までのあなたはハリーを愛していたわ。ハリーも、あなたを愛していた──今でも愛しているの。もし、ソフィアがルイスから好きじゃないって言われたら、どう思う?記憶を失ったとしても、それは言って良いことかしら?」

 

 

ハーマイオニーは辛抱強く幼児に言い聞かせるようにソフィアに問いかけ、暫く黙っていたソフィアは眉を下げ項垂れながらぽつりと呟いた。

 

 

「…ダメだわ。すごく悲しいもの」

「そうよね?ハリーはすごく悲しかったと思うわ。ソフィアが大怪我をした時とっても心配していたの」

「……ハーマイオニー、私はホグワーツで何をして過ごしたの?何があったの?……その、教えてくれないかしら…?」

 

 

不安げなソフィアに、ハーマイオニーは優しく微笑みかけ頷いた。

 

 

「ええ、勿論。──ここは騒がしいから、別室へ移動しましょう。──ハリーとロンを呼んでくるわね」

「……私、ちゃんとごめんなさいを言うわ…」

 

 

眉を下げ申し訳なさそうにするソフィアに、ハーマイオニーは気遣うように肩をとんとんと叩き、近くで様子を伺っていたネビルにハリーとロンを連れてきてほしいと伝えた。

 

 

数分後にネビルからの言付けを聞いたハリーとロンが男子寮から降りてきたが、ハリーはこの世の終わりかというほどの暗く絶望した悲痛な表情を浮かべ、ロンは心配そうに力なく歩くハリーを支えていた。

 

 

「ソフィアに5年間何があったのか話しましょう。場所を移動するわよ」

「──えっと、ハリー?」

 

 

すぐに移動しようとするハーマイオニーの言葉を遮り、ソフィアは立ち上がりハリーに近づき暗い表情を覗き込んだ。

 

 

「ごめんなさい。私、あなたを傷つけたわ。覚えてないけれど……その、恋人だったのは本当みたいだし──信じられないけど──こんなに大人っぽい人と…付き合っていたなんて」

 

 

恥ずかしそうに目を伏せるソフィアに、ハリーはどうしようもなく胸が痛み、今すぐにソフィアを抱きしめ「嘘だと言って、思い出して」と縋りつきたかったがぐっと堪えて「大丈夫」と弱々しく呟いた。

しかし、その美しく無邪気なソフィアの緑の目を、ハリーはどうしても見る事ができなかった。

 

 

ソフィア達は場所を花束を持つ少女の部屋へと移し──ソフィアは初めて入った時のように凄いと何度も言い飛び跳ねた──自分達が経験し、共に乗り越えてきた数々の試練を説明した。ハリーとロンとハーマイオニーは過去の出来事を聞けばソフィアは思い出すのではないかと思ったが、残念ながらソフィアは少しも思い出すことはなかった。

 

 

ソフィアは3人から話を聞く内に、そんな試練ばかり毎年起こるなんて本当なのかと困惑していたが、3人の目に嘘はなく、話の筋も通っていた。

 

しかし、ハーマイオニーは故意的にソフィアの母と兄の事を話すのを避けた。ロンとハリーもそれに気付き──すぐにその意味を読み取り何も言わなかった。今の9歳の精神年齢であるソフィアには、きっと受け入れ難い事だろう。

 

 

「うわぁ……凄いわね、よく生きてるわね私たちって。トラブルに好かれているのかしら?」

「うん、僕も毎年そう思ったよ」

 

 

ソフィアの率直な感想に、ハリーが苦笑して答える。

ハリーとロンとハーマイオニーの話は何かの小説を読んでいるような不思議でスリリングなものだが、それが事実ならば自分達の絆はかなり強固なものだったに違いない。第三者からの話では、何故自分がハリーを好きになったのかよくわからなかったがとりあえずソフィアはその事を一旦考えないでいようと決めた。

 

ソフィアが恋や愛について、真に理解したのは15歳の時である。今のソフィアには、まだその心の揺れがいまいち理解出来なかった。

 

 

 

 

ソフィア・プリンスが頭部の怪我が原因で記憶喪失になり、ホグワーツで過ごした全てを忘れてしまった。

その事はソフィア達が夕食を食べに大広間に向かった時にはほとんど全校生徒が知っているようだった。

だれもがひそひそとソフィアを見て囁き、何人かが──特にDAメンバーが──これからどうするのかとソフィアを気づかいつつも不安げに聞いた。

 

幼くなってしまったソフィアは好奇の視線や囁きに敏感に反応し機嫌を損ね、誰彼構わず「言いたい事があるならはっきり言いなさいよ!記憶喪失よ?それがどうかしたの!?」と食ってかかり、その度に皆が本当にソフィアは記憶を失ったのだと理解し、ハリー達は慌ててソフィアを宥めた。

ハリーはまだソフィアと上手く話す事が何故か出来なかったが、とりあえずソフィアを見守ろうというハーマイオニーに頷く他無かったのだ。

 

 

夕食を食べ医務室に薬を飲みに行き──ソフィアは数分は飲みたくないと駄々をこねた──ハリー達はせっかくの日曜日なのにひどく疲れてしまったと思いながら談話室のソファに沈む。

ソフィアは大人しく2年生の教科書を読み耽っていたが、時計の針が9時を指したころ、眠そうに大きなあくびを漏らした。

 

 

「ああ、ソフィア。いつもこのくらいの時間に寝ているの?」

「ええ、そうなの……眠くて…」

「もう寝ましょうか。明日から授業があるし……寝室はこっちよ、案内するわ」

 

 

ハーマイオニーに促され、ソフィアは閉じかける目を擦りながら教科書を鞄の中に押し込むと、そのまま隣に座っていたハリーの肩に手を置き、自然な動作で頬にキスをした。

 

 

「──あれ?」

 

 

しかし、キスをした後ソフィアは不思議そうに体を離し、目を瞬かせ首を傾げる。

ハリーは頬に間違いなく触れたソフィアの唇に、ぽかんと口を開きソフィアを見つめた。

 

 

「…?……おやすみなさい、ハリー、ロン」

「あ、うん、おやすみ」

 

 

ロンは返事をしたが、ハリーは今ソフィアが行った事が信じられず呆然と見るだけで何も言えなかった。ハーマイオニーは言葉を出さぬまま口を「あとで」と動かし、ソフィアの手を引き女子寮へ向かう。

 

 

「…今の……えっ、ソフィア、記憶喪失なんだよね?」

「そうだよな?さっきのは…なんか、いつも通りで……普通に記憶があるみたいだった」

 

 

ハリーは頬に手を当て呆然と呟き、ロンは階段を見ながら真剣な顔をして頷く。

いても経っても居られず、ハリーは立ち上がるとソフィアのもとへ駆け出す。後ろからロンが焦った声で自分の名前を呼ぶ声が聞こえたが、ハリーは今すぐソフィアに先ほどの行動の意味を聞きたかった。

 

しかし、男子は女子寮へ入る事は出来ない。

それをうっかり失念していたハリーは階段が滑り台のように変わり入り口まで滑り戻され、強く打った腰を気にする事なく「くそっ!」と悪態をつくと床を叩いた。

 

 

女子寮へ向かう事を諦めたハリーは混乱と苛立ち、僅かな期待からそわそわと暖炉前を行ったり来たりする。ソフィアから貰った腕時計を見ながら「ハーマイオニーはまだ来ないかな」と5回ほど呟いた時、ようやくハーマイオニーが談話室へ戻ってきた。

 

ハリーはすぐにハーマイオニーの腕を引き、待ちきれないとばかりに肘掛け椅子に座らせると「さっきのは何?どういうこと?」と詰問した。

 

 

「ソフィアは、忘れているわ。でも全てがまっさらになったわけじゃないの。──多分、体に刻み込まれた記憶が残っているわ。

退院する時も無意識でグリフィンドール塔に向かっていたし。寝室にいたティティの事も忘れていたけど──無意識にティティが好きな喉元を撫でていたわ。さっきハリーにおやすみのキスをしたのも、無意識でしょうね」

「…じゃあ、思い出したわけではない…?」

「ええ、でも悪くない反応だわ。きっとホグワーツでいつも通り過ごしていけば記憶は戻る。──そう、私は信じているわ」

 

 

ハリーは肩にこもっていた力をふっと抜き、ソファに座り込むと真剣な目で自分の脚の上で握られた拳を見つめた。

 

良かった、全て忘れてしまったわけじゃないんだ。この5年間の全てが無駄だったんじゃない。ソフィアの心が僕を忘れてしまっても、体は僕が恋人だと覚えている。

 

そう、思うとハリーは幾分か気持ちが軽くなった。

 

 

 

 

 

月曜日。

ハリー達はソフィアが記憶を失った衝撃ですっかりホグズミードで何を行ったかを忘れていたが、大広間で数十匹のフクロウ便がハリーにインタビューの感想を送ってきた事により思い出した。

 

侮辱や疑い、病院に行ったほうがいいという感想も多かったが、中にはハリーの証言を信じてヴォルデモートの復活を認めると書かれたものもあり、興奮しながらハリーとロンとハーマイオニーが次々とインタビュー記事を読んだ者からの封筒を開ける中、ソフィアは少し引いた目で大群のフクロウを見ていた。

 

 

ハリーに沢山のフクロウが訪れるなど今までなかった事態にアンブリッジが気が付かないわけもなく、何があったのと怪訝な声で聞いたが──すぐにハリーはザ・クィブラーのインタビューに答えた事を伝え、届いた見本誌をアンブリッジに渡した。

 

受け取ったアンブリッジはすぐに記事を読み、わなわなと体を震わせる。

 

 

「ミスター・ポッター。あなたにはもう、ホグズミード行きはないものと思いなさい」

 

 

ハリーは然して気にしなかった。憎いアンブリッジの表情をこれほどまで歪める事ができた爽快感を得るためなら、きっと何度だって同じことをするだろう。

 

 

「どうして?どうしてハリーはホグズミードに行けなくなるんですか?インタビューに答えただけでしょう?」

 

 

ソフィアはトーストを食べながらよく通る声でアンブリッジに聞いた。ハリーを見下ろしていたアンブリッジは顔を赤紫色にしたまま、ソフィアを強い眼差しで射抜く。

 

 

「嘘をついたからです。何度も何度も、ポッターには嘘をつかぬよう──」

「何故それが嘘だとわかるんですか?公的な場で真実薬でも飲ませたのでしょうか?」

「それは──魔法省があの人の復活など荒唐無稽だと──」

「私、真実薬の入手できるルートを知っています。勿論私が所持するのは禁じられていますが、公的な場で全てを明らかにする事もなく、ハリーの言葉が嘘だと言っているのは、どうも私はおかしいと──」

「あなた──あなたにも、またわからせなければならないようですねミス・プリンス。罰則1週間、グリフィンドール20点の減点。ミスター・ポッター、あなたも罰則1週間とグリフィンドールに50点の減点です」

 

 

アンブリッジは怒りで震える声でそういうと、胸に雑誌を掻き抱き肩を怒らせて立ち去った。

 

 

「あら、私おかしいこと言ったかしら。変わった先生ね、あれは誰なの?」

「…アンブリッジよ、ソフィア」

「ああ、あの人がそうなの。変よね、真実を明らかにしたいのなら真実薬を飲めば済むのに」

 

 

ソフィアは軽く言いながらトーストを咀嚼し、かぼちゃジュースを飲む。

ハリーとロンとハーマイオニーは、これからのことを思うと一刻も早くソフィアの記憶を戻さなければならない、でなければ寮の得点はともかく、ソフィアは毎日罰則になってしまうだろう──そう思った。

 

 

 

実際、ソフィアはかなり酷かった。

予め教師達にはダンブルドアからソフィアは記憶喪失になり、精神年齢は9歳ほどである。イースター休暇が始まるまでに記憶が戻らなければ休学になるが、それまではなるべく刺激の多いホグワーツで過ごす、そのため今までのソフィアと同じだとは思わない方がいいと説明されていたが──。

授業についていけないのは仕方のない事とはいえ、感情を抑え込む事がまだ苦手なソフィアは、アンブリッジには反論し減点され、セブルスのグリフィンドール生への冷遇には食ってかかり減点され、ハグリッドの授業でアンブリッジがいる事に気付けば「まぁ五月蝿い人がいるわね!」と敵意を剥き出しにした。

 

1日の授業が終わる頃には、ザ・クィブラーとソフィアの対応とで、ハリーとロンとハーマイオニーは記事が皆の関心を得ている事は嬉しかったが、へとへとになり、疲れきった表情でソファへ座り込んでいた。

ただ一人ソフィアだけがアンブリッジに不満を漏らしつつ、──何のことかよくわかってないが──ハリーのインタビュー記事により苛立っているアンブリッジが愉快だと屈託のない笑顔で笑っていた。

 

 

 

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