【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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292 少しずつ戻る記憶!

 

 

1日の授業を終えた夕食時。ソフィアは昨日までの雰囲気の片鱗を漂わせるほど大人しくなっていた。

何かを深く考えこむような真剣な表情に、ハーマイオニー達は「本当に大丈夫?医務室に行く?」と何度か聞いたが、ソフィアはただ首を振った。

 

 

「私、全てを思い出したいの。ここで過ごした5年間の記憶を──なんで、私がルイスと離れたのか」

 

 

ソフィアはハッシュドポテトを食べながらぽつりと呟く。

 

 

「ええ…!私、明日から図書館に行って記憶を戻すためにいい方法が無いかを探すわ!」

 

 

ハーマイオニーは前向きなソフィアの言葉に微笑む。

心から喜びが溢れていないのは、記憶を思い出す目的が自分を思い出すためではなく、ルイスのためだからだ。今のソフィアは自分よりもルイスの方が大切だと頭では理解しているが、心ではどうしようもない不満がふつりと沸き起こり、ハーマイオニーの胸を刺した。

 

それでも思い出そうという明確な意志があるだけマシだ。すぐに自分のことも思い出すだろう、とハーマイオニーは自分に言い聞かせ無理に微笑んだ。

 

今のソフィアも、ハーマイオニーにとっては大切な親友である事に変わりはない。しかし──この5年間の全てを、今まで積み重ねたものを忘れてしまったのだと思うとやはり寂しかったし、悲しかった。

 

 

「早く、僕のことも思い出してね、ソフィア」

「うん、頑張るわ!──あーでも、恋人なのよね、私たちって……その、ちょっと思い出すのが恥ずかしいわ」

 

 

照れたように笑うソフィアの笑顔はハリーの記憶にある笑顔とかなり似ていて、ハリーは嬉しいような、胸が痛むような複雑な思いだった。少し違うと感じるのは、この笑顔の奥にあった愛情が欠落しているからだろうか。

 

 

「後で談話室で勉強も見てあげるわ、少しでも追いついた方がいいと思うし!早く食べて戻りましょう!」

 

 

ハーマイオニーが意気揚々と言った途端、机の上に並んでいた料理の皿が消え、大量のデザートが現れた。

 

 

「これ──」

 

 

ソフィアは銀色の大皿に乗せられた真っ赤なイチゴソースがかかる、滑らかな白色のブラマンジェを見下ろした。

 

 

「──ブラマンジェ…」

「あら、本当。珍しいわね、クリスマス・ディナーの時しか今まで出なかったのに」

 

 

不思議そうなハーマイオニーの声を、ソフィアはどこか遠くの事のように聞いた。

 

 

ブラマンジェを大きな取り分け用スプーンで掬い、自分の皿に移したソフィアは、デザートスプーンに持ち替え一口ぱくり、と食べた。

 

 

 

──この味、父様が作ってくれたブラマンジェと同じ。これは、私の大好きなデザートでそう、()()は誕生日だった。ルイスはプディングを作ってとお願いしていた──……。

 

 

その瞬間、ソフィアに今まで存在しなかった──忘れていた記憶が溢れた。

 

 

そうだった。これを食べたのは11歳の誕生日。ホグワーツへの入学の手紙が届いた日。あの日から私はソフィア・プリンスと名乗る事になったんだわ。

 

 

「…?…ソフィア、どうしたの?」

 

 

スプーンを咥えたまま黙り込んでしまったソフィアに、ハーマイオニーが「美味しくなかった?まぁ、好みは分かれる味よね」と言う。

 

ソフィアは一度ゆっくりと瞬きをし、もう一度ブラマンジェを掬って食べながら微笑む。

 

 

「ううん、とっても美味しいわ」

「そう?」

「ええ。──私これを食べたのは11歳の誕生日の日だった」

「へぇ、思い出の食べ物──」

 

 

さらりと言われたソフィアの言葉を、ハーマイオニーは聞き流しそうになったがすぐにスフレケーキを食べていた手を止めた。

ぽろりとフォークが指から滑り落ち床の上で跳ねる。

 

 

「ソフィア、あなた、それって──」

「思い出したわ。11歳になった日、これを食べて、そして──ホグワーツから手紙が届いたって」

 

 

ソフィアは柔らかい笑顔で微笑む。

あんぐりと口を開けたハーマイオニーは期待のこもった目で「その先は!?」と急いで聞いたが、ソフィアはブラマンジェを食べながら肩をすくめ「そこまでね」と軽く言った。

 

 

「そう……。でも、いい兆候よ!たった1日で2年分進んだのよ!きっとすぐ思い出すわ!」

「うーん、そうだといいわ」

 

 

どこか他人事なソフィアに、ハーマイオニーは他にも思い出の食べ物は無いのかと聞いたが、ソフィアははっきりと首を振った。

 

 

ソフィアは自分の目の前にあるブラマンジェが他のテーブルには無い事、そしてセブルスが作った味と全く同じだと気付き、幸せそうに大きなブラマンジェを一人で全て食べ切った。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

ソフィアが記憶を失ってからもうすぐ2週間が経とうとしていた。

怪我は1週間前には完治し包帯も取れ、クィディッチの練習の許可も下りていた。

 

11歳までは記憶が戻り、さらにふとした時に11歳の頃のソフィアは知らないはずの悪戯グッズの使い方を知っていたり、ティティが変身できることを当然のことのように話したり、魔法について理論を話したりした。まだ断片的であり、道具や魔法の使い方がわかったところで大きな進歩ではないが、経過は良好だと言えるだろう。

 

ハリー達やソフィアと仲が良かったジニーとフレッドとジョージは毎日のようにそれぞれ「これはどう?」とソフィアとの思い出の品を見せたが、断片的に思い出す事は稀であり、ほとんど分からずきょとんとして首を傾げていた。

 

 

本来ならハリーと共に受けていた閉心術の授業も、ソフィアは一時免除されることとなった。ハリーはかなり羨ましがっていたが、記憶と心があやふやになっているソフィアに開心術をかけ無理矢理過去を曝け出すのは良くないことだと、ハーマイオニーは眉を吊り上げて凹むハリーに説明した。

 

 

「何としてでも後1ヶ月少しでソフィアの記憶を元通りに──それが無理でも近い状態に──しなきゃ!」

「でも、どうやるんだい?色々見せたけど無理だったじゃないか」

 

 

先頭を切り廊下を突き進みながら言うハーマイオニーに、ロンが怪訝な声で尤もな事を言う。しかしハーマイオニーはくるりと振り返ると足を止め、生徒に説明する教師のように胸を張り「簡単なことよ」と瞭然と言った。

 

 

「今まで見た物はソフィアにとって強い思い出ではなかったんだわ。多分、あの時のブラマンジェはソフィアにとって特別だった。そうでしょう?」

「ええ、11歳の特別な誕生日に食べたものだもの」

「だから、ソフィアがこのホグワーツで経験した思い出の中で、かなり強い特別な物を見せないといけないわ」

 

 

ハリーとロンは11歳の誕生日というものはホグワーツからの手紙が届く日であり、確かになによりも記憶に残る特別な日だったと頷く。しかし、ソフィアは手紙が届いたことが特別だったのではなく、家族で過ごすことの出来た唯一の誕生日だったから、強く心に刻まれたのだ。

 

 

「あまり、いきなりに膨大な量の記憶を戻すと脳が混乱してしまうかもしれないわ。──取り敢えず、1年生の時にあった出来事で、強くソフィアの中にあるだろう記憶といえば──ここよ」

 

 

止まっていた足を動かし、ハーマイオニーはひとつの扉の前で止まると親指でくいっと閉められた扉を指差した。

 

 

「ここは…?」

 

 

ソフィアは不思議そうに指された古びた扉を見る。この先には物置きと化した空き教室が続く廊下があるだけで、生徒達がこの扉を開け足を踏み入れる事は殆ど無い。教師達がそれぞれ授業で使用する魔法具や山のような教材を取りに来る、ただそれだけの場所だ。

 

しかしハリーとロンはハーマイオニーが指差した扉を見てぎくりと表情をこわばらせた。ハリーとロンも、この先に足を踏み入れたのは4年前が最後であり、それ以来この扉を開く事はなかった。

 

 

「ここって…」

 

 

ロンが愕然とし信じ難い目でハーマイオニーを見たが、ハーマイオニーはすました表情をし全く気にする事は無い。「もうここは禁じられた廊下じゃないわ。今はね」と言うと扉の取手に手をかけ回す。鍵がかけられていないドアノブは抵抗なく回り、僅かに扉が開いた。

 

ハーマイオニーが視線でソフィアに入るように促し、ソフィアは首を傾げながら抵抗なくその先へ足を踏み入れた。

すぐにハーマイオニーもその後に続き、ロンとハリーは危険はないとはいえいい思い出の無い場所に踏み込むことに数秒躊躇していたが、恐々とその先へ向かった。

 

 

扉を開けた先には暗い廊下が続く。

あまり人が足を踏み入れない此処は、なぜか空気が停止し澱んでいるかのような重々しい雰囲気が漂っていた。

 

 

ソフィアは扉を過ぎたすぐ前に立ち、何もない上に()()()()()()()()()()視線を上げ、そしてすぐ下ろし床を食い入るように見た。

 

 

「ここは──ここ、は…」

 

 

震えるソフィアの小さな声に、ハーマイオニーとロンとハリーは後ろで見守りつつ視線を交わした。今まで思い出の品を見せていた時と明確に反応が異なる。

たしかに、ここは──この廊下は、ソフィア達が1年生の時、賢者の石を守るために踏み入れた禁じられた廊下だった場所であり、間違いなく思い出深いといえるだろう。

 

 

「……、……」

 

 

ソフィアは無言のままふらりと前に進み、一点に到着すると足を止め、床を見下ろす。

そこはちょうど、4年前に地下への隠し部屋があった場所だった。

 

 

「──っ…!」

「ソフィア!」

 

 

突如頭を押さえ体を曲げたソフィアに、ハーマイオニーは叫び駆け寄ると今にも倒れそうな体を支え、ハリーはソフィアの前に周り「ソフィア、大丈夫?」と不安げに彼女の閉じられた目を見て、ロンはそわそわと辺りを見回した。

 

 

ふっ、とソフィアは目を開けると肩を掴んでいたハーマイオニーの手に自分の手を重ね、ゆっくりと立ち上がる。それにつられて支えていたハーマイオニーと覗き込んでいたハリーも立ち上がった。

 

 

「──大丈夫よ、ハーマイオニー。ねぇ、今は…私は5年生なのよね?」

「え?え、ええ、そうよ」

 

 

ハーマイオニーは「まさか」と、期待を滲ませつつ強く頷く。

ゆっくりと目を瞬いたソフィアは、ハーマイオニーとハリーとロンを見ると心から嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「──わかった。思い出したわ、私には親友がいるって!」

「っ!──ソフィア!」

 

 

ハーマイオニーは感極まりソフィアに抱きつき、ソフィアも優しくハーマイオニーを抱きしめる。

 

 

「ごめんなさい。私、忘れるなんて本当にどうかしてたわ」

「ソフィア!ああ、いいのよ、思い出したのね?」

「ええ!──でも、5年生なのよね?私、思い出したけど……たしか…昨日、学年度末パーティがあって、グリフィンドールが寮対抗杯を獲得して、今からホグワーツ特急に乗るところで──」

 

 

ソフィアは体を離すと混乱したように言いながら辺りをキョロキョロと見回す。「どうして、またここにいるんだっけ…?」と呟くソフィアに、ハーマイオニーとロンとハリーは顔を見合わせ記憶が全て戻ったわけではないのだとわかった。

 

 

「なるほどね。やっぱり此処での記憶はソフィアの一年生の時の記憶と強く紐付けられているから、その先はまだ思い出せないんだわ。ソフィア、あなたは何故記憶を忘れたのか、それは忘れてない?」

「ええ……たしか、私は今──信じられないけど──5年生で、クィディッチの試合の怪我で記憶を失った…のよね?」

「そうよ。今日から夏休みじゃないわ」

「うーん……変な感じだわ」

「でも良かったな!」

 

 

ロンは喜びのあまりソフィアの背をばんばんと叩き、ソフィアは少し痛そうにしながらもにこにこと笑い大きく頷いた。

喜びを溢れさせるハーマイオニーとロンとソフィアを見たハリーは、自分がちゃんと笑えているかどうか自信がなかった。

今ソフィアの中にあるのは、友情だろう。愛情を持つのは一体いつになるのだろうか、それとも、2度と思い出さないのだろうか──。

嫌な想像を振り払うように、ハリーはわざとらしいほど「良かったね!」と高い声を上げた。

 

ハリーにとって、ホグワーツでの辛い日々を支えていたのは、紛れもなく()()()()()ソフィアの存在だったのだ。

 

 

 

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