【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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293 強い思い出!

 

 

トレローニーがアンブリッジの査察の結果、停職になった。

荷物を纏め玄関ホールまで追い詰められたトレローニーの嘆きと叫びはトレローニーの事が嫌いなハリーでも、流石に心を痛め可哀想に思うほどの痛々しさだった。

早くホグワーツから出て行けとニヤニヤと意地悪く笑い、楽しげにトレローニーに告げるアンブリッジだったが、それを止め拒否したのはダンブルドアであった。

たしかにアンブリッジは教師に停職処分を下す権利を持っている。しかし、このホグワーツ城から追い出す権限は校長のみが持ち、ダンブルドアはトレローニーがこの城で住み続ける事を望んだ。

 

トレローニーの後任となり占い学に就いたのは禁じられた森で暮らしていたケンタウルスのフィレンツェであり。半獣や獣全てが嫌いなアンブリッジは顔を赤黒く染め怒りに拳を震わせながら朗らかに微笑むダンブルドアを睨み続けていた。

 

 

トレローニーの停職処分よりも、ケンタウルスのフィレンツェが占い学を教えることの方が大部分のホグワーツ生にとっては衝撃的であり、占い学を受講している生徒は彼がどのような授業を行うのかと好奇心と少しの不安感を持ちながら心待ちにしていた。

 

ソフィアは魔法生物が好きであり、ケンタウルスの性質や彼らの生き様にも詳しい。だからこそケンタウルスが人と彼らの領分を超えて関わる事が信じられず驚き、占い学を受講しているハリーとロンを羨ましそうな目で見た。

ソフィアもまた、彼がどのような授業をするのかかなり気になっている生徒の一人だったのだ。

 

 

──しかし、ソフィアは占い学を受講していないし、今はそれよりも差し迫った問題があると言わざるを得ないだろう。

 

 

 

ソフィアはハリーとロンとハーマイオニーが自分の友人であるとは思い出したが、それも一年生終了時点の頃の記憶しか取り戻せていなかった。

ハーマイオニー達は嘆きのマートルがいるトイレ、暴れ柳のそば──本当は叫びの屋敷を見せたかったが、クルックシャンクスやティティに頼んでもうまく暴れ柳を大人しくするコブまで誘導することができず残念ながら不可能だった──を案内したが、ソフィアの記憶は戻る事は無かった。

 

日常生活を送る上で、記憶を失っていたとしてもそこまで困る事は無い。

ただ、ソフィアは5年生であり、将来へ繋がるとても大切な試験を控えている学生だ。

 

──そう。日常生活には困らないが、学生生活を送る上で今の知識量では不十分である。なにせ、2年生から5年生の今の授業内容を全て忘れているのだ。ソフィアは毎晩唸りながらハーマイオニーの力を借り、無理矢理頭に知識を詰め込んでいた。

 

 

「うぅ、宿題が終わらない…難しすぎるわ……ああ…なんで免除されないの…?」

「それは……休学しない限り、仕方がないわよ」

「ダメ…もうこれ以上詰め込めない……」

 

 

ある日の夜もまた、談話室でソフィアは沢山の教科書に囲まれ苦しげに呻いていた。

 

休学しなければ、たとえ記憶喪失であっても宿題は出される。勿論提出しなければ赤点であり──教師達は提出さえすればそれが教科書の丸写しでも良しとしようと密かに示し合わせていたが──ソフィアは自分には難しすぎる勉強と、多すぎる宿題の量に苦しんでいた。

授業に被りが無いとはいえ、ソフィアは占い学以外の全てを受講している。なんとかハーマイオニーの手を借り宿題をこなしているが、5年生の今、例年より膨大な量の宿題が出されている。

1年生の知識量しかなかったソフィアは、なんとか1週間程度で2年生の半ばほどの授業内容を理解した。それは間違いなく脅威的なスピードだが、毎日のように出される5年生の宿題に対して自信を持って取り掛かる事は到底不可能だ。

 

 

「何でこんなに沢山の科目があるのよ……」

「君が選んだんだぜ?よくやるよなぁ」

 

 

ソフィアが宿題が終わらないと追い詰められているのは3年生の時以来であり、少し懐かしく思いつつロンが呆れたような口調で言う。しかし、彼も宿題はまだ終わっていないため、今晩はソフィアと共に苦しむ事となるだろう。

 

 

ソフィアは大きなため息をつき、頭を掻くと必死に教科書に目を通しなんとか知識を頭に詰め込ませた。

ハーマイオニー達への友情を思い出したソフィアは、何としてでもホグワーツに残りたかった。このまま一人だけ途中から休学だなんて──そんな事考えられなかった。

だからこそ、ソフィアは必死になり毎日明け方近くまで猛勉強し、目の下に隈をつくっていたのだ。

 

 

「まぁまだ去年よりはマシよ。去年は本当沢山の授業が被ってて私とハーマイオニーは気が狂いそうだったわ、今年はマグル学と古代ルーン語が被ってるだけで──」

 

 

ソフィアはレポートを書いていた手をぴたりと止め、まだ途中までしか書かれていない空白の多い羊皮紙を見つめた。ぐっと押しつけられた羽ペンの先から黒いインクがじわじわと広がり、羊皮紙を汚していく。

 

何の前触れもなくホグワーツの3年生の時に受講科目が被っていた事を言い出したソフィアに、ハリーとロンは驚愕し息を飲み、ハーマイオニーは真剣な目で素早くハリーとロンを見ると「しーっ!」と人差し指を唇に当てた。

 

 

「そ、うよ……私…去年は……占い学もとっていた……リーマス先生が──叫びの屋敷で──ペティグリューが………母様…に、いさま……──っ!!」

「──ソフィア!?」

 

 

呟いていたソフィアは突然瞳を揺らせると苦悶の表情を浮かべ、頭を抱え体を縮こまらせた。

食いしばった歯からは呻き声が漏れ、次第に呼吸が荒くなっていく様子にハリー達は持っていた羽ペンや教科書を放り出しソフィアの元に駆け寄る。

 

 

「ソフィア?ソフィア!大丈夫?しっかりして!」

「はあっ…!は、っ…う…!お、思い出した、わ、私──なぜ、何故こんなことを──家族のことを、忘れ、て…っ!はぁっ、はっ…!」

 

 

ハーマイオニーに肩を支えられたソフィアは、ドクドクと嫌な音を立てる鼓動と流れる冷や汗、意に反して震える体を抱きしめながら呆然と呟いた。

大きく開かれた目には絶望と後悔、そして苦しみが宿り、呼吸は短く荒い。

ハーマイオニーは一気に家族のことを思い出した事でパニックになっているのだと判断すると、すぐにソフィアの頭を自分の胸に押し付け強く抱きしめた。

 

 

「落ち着いて、ソフィア。息を吸って、吐いて」

「っ……は、っ──」

 

 

ソフィアはハーマイオニーの柔らかい声と、耳から伝わる落ち着いた鼓動を聞き、少しずつ合わせるように呼吸を整える。

緊張して固まっていた肩の力をふっと抜いたソフィアは、自分を抱きしめるハーマイオニーの背中に手を回し強く抱きしめた。

 

 

「ソフィア、大丈夫?」

「う──…ええ──ハーマイオニー、ありがとう…」

「…何か、思い出したの?」

「ええ……」

 

 

ソフィアの声はここ数日の中で1番落ち着いていた。

ゆっくりと体を離したソフィアは、歓喜に震えるハーマイオニーの頬に親愛を込めて軽いキスを落とし、にっこりと微笑む。

 

 

「思い出したわ。──家族の事をね。……でも、うーん…不思議な感覚ね、一気に時を飛び越えたような…ホグワーツでの日々が物凄いスピードで頭を駆け巡ったというか……」

「ソフィア、いつまで思い出したの?去年、ってことは、四年生の頃?」

 

 

ハリーはつい急かしてしまい、焦ったそうにソフィアに聞いた。まだ、自分のことは友達だと思っているのかそれとももうすでに──愛情を持っているのか。

 

 

「んー…四年生になったばかりで、時間割をもらった時までね。あー…変な感じだわ、今は2月よね?9月──じゃないわ。この記憶は、過去ね」

 

 

ソフィアの言葉にハリーは僅かに落胆したが、記憶が少しずつ今に近づいている。このまま順調に記憶が戻れば、きっとすぐに自分との関係も思い出すだろうと思うとかなり嬉しかった。

 

 

「──だめ、頭がこんがらがってる……ちょっと、今日はもう寝るわ…」

 

 

ソフィアはふらりと立ち上がると散らばった教科書や羊皮紙に向かって杖を振り鞄の中に片付けた。よくソフィアがしていたその魔法をもう一度見ることが出来て、ハリーとロンとハーマイオニーは本当に記憶が戻っているのだと実感し、心の底から安堵した。

 

 

「この前記憶が戻った時は、あんまり混乱してなかったよな?」

 

 

ロンは女子寮に向かうソフィアを見ながら心配そうに小声で呟く。ハリーはそれもそうだと不思議そうに頷いたが、ハーマイオニーは呆れたような目で2人を見て大きくため息をついた。

 

 

「まぁ、一気にホグワーツで過ごした2年分と──家族のことを思い出したでしょ?ブラマンジェを食べた時も2年分の記憶を思い出していたけど……その時と、時間の流れは同じだけれど記憶の密度は異なるでしょう?ほんっとうに色々あったわけだし」

「ああ…なるほど」

 

 

ハリーとロンはハーマイオニーの言葉に納得し頷いた。たしかに、ソフィアにとって2年生と、とりわけ3年生の時の記憶は思い出も感情も濃厚なものだったのだろう。

ソフィアは一気に2年分思い出し、今が一体いつなのか、混乱しているのか。

 

 

「それにしても勉強のキツさで思い出すなんてなぁ。やばかったのはソフィアじゃなくて君だろハーマイオニー?」

 

 

目の下に隈をつくり必死になって宿題をこなしていた姿はあった。しかし、それでもソフィアはハーマイオニーのように苛つくこともヒステリックになる事もなく、上手く宿題と日々を過ごしているように見えたのだ。

 

 

「それは……あの時ソフィアは、実はかなり追い詰められていたってことね。…まあ、もう4年生になったって言ったわ!3月中には全て思い出せるかもしれない、やっぱり何かきっかけが──今に繋げる強い記憶のきっかけが必要なのかもしれないわ」

 

 

ハリーとロンとハーマイオニーは宿題の手を止め、ソフィアの全ての記憶を戻すためには何が必要なのだろうかと、時計の短針が12時を回る頃までずっと話し合っていた。

 

 

ーーー

 

 

 

DAが行われる日。ハリー達はいつものように注意しながら必要の部屋へと向かった。記憶を失ったソフィアは数回は彼らにとっての指導者にはなれなかったが、今メンバーに教えているのは守護霊魔法であり、使うことができるソフィアはハリーと共にまた皆の指導者となっていた。

メンバーは記憶を失い、一年と半年分ほど記憶が無いとは聞いていたがそれでも模擬戦では的確に相手を無力化し、有体の守護霊を自在に出せるソフィアをかなり尊敬していた。

 

 

前半に模擬戦を、後半に守護霊魔法の練習を始めて既に3度目だが、銀色の靄を出すことができても中々有体の守護霊を創り出す事は難しく苦戦している者が殆どだった。

そもそも、守護霊魔法は一人前の大人の魔法使いですら、うまく習得することが出来ないかなり難易度の高い魔法なのだ。

 

 

「でも、こんなに明るいところでなんの脅威も感じないままで練習して……意味があるのかな」

 

 

ハリーは部屋中に響く「エクスペクト・パトローナム」の声を聞きながら呟いた。隣にいたソフィアはルーナへの指導を終え、少し難しそうな表情をして「そうよね……吸魂鬼を連れてくるわけにもいかないし」と言う。

守護霊魔法の練習に取り掛かってから、ハリーは何度もメンバーに「こんな明るいところで出せたとしても、実際に追い詰められた時に創り出せるかどうかなんだ」と伝えたが、メンバーは楽観視しているのか、それほど深く考えていないようだった。

 

 

「どんな魔法も、使える事と、実戦で発現させる事は別だもの…だから、いま模擬戦をしてるわけだし……吸魂鬼……なんとかなるかもしれないわよ」

「えっ?……本気で連れてくるつもり?」

 

 

吸魂鬼の嫌な冷気を思い出したハリーは苦い顔をしたが、ソフィアは悪戯っぽく笑い「まぁ、試すにしてもみんなが──半数以上が有体を出せるようになってからね」と言った。ソフィアはハーマイオニーほどではないが、少々わかりにくい言い方をする事があり、ハリーが困惑し「何?何をするんだい?」と聞けばソフィアはこっそりと耳打ちをした。

 

 

「──なるほど、たしかに……それなら上手くいきそうだ!」

「でしょう?多分、できるはずよ。ここは必要の部屋だもの」

「君って、本当にすごいね。僕そんなこと思いつかなかった…」

「ふふ、ありがとう」

 

 

素直にソフィアを褒めれば、ソフィアは嬉しそうに頬を緩めて笑った。

 

 

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