【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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294 密告者は誰?

 

 

ザ・クィブラーのインタビューがハリーにもたらした幸福感は、日々強くなる不安にすっかりと消えていた。どんよりとした3月が終わり、いつの間にか風の激しい4月が訪れた。

ソフィアはあれから勉強の面ではもう必死になり唸る事もなくなり、少しの余裕が見える程度になっていたが、四年生からの記憶を思い出す事は無かった。

それでも焦りが見えないのは、各科目の教師に今の勉強の進み具合を伝えたところ、これならこのままOWL試験に臨んでも多少成績は下がるかもしれないが不可を取る事は無いだろうとお墨付きを貰ったからだ。ダンブルドアとセブルスからも休学することなくこのまま5年生を継続しても良しと判断されたソフィアは、たまに難解な宿題で眉を寄せる事はあれ、今までのように苦しむ事はなくなっていた。

 

一方ハリーはソフィアの記憶がなかなか戻らないことに焦り、ソフィアには言わないが不満と苛立ちが無いとは言い切れないだろう。記憶を失ったソフィアとハリーの関係はただの友人関係であり、そこに甘いものも特別な物も無い。

ハリーにとって恋人であるソフィアの存在が、今の不安と不満だらけのホグワーツで過ごす唯一の癒しだったのだ。……いや、今の友人関係でも、ソフィアの眼差しは柔らかくいつでも優しいが、どうしてもその先──例えばお休みの前のキスとか──を願ってしまうのは、仕方のない事だろう。

 

 

「…どうしたらソフィアは僕を恋人だって思い出してくれるんだろう」

 

 

夜の談話室で、ハリーは魔法薬学の宿題をしながらついに不満の一端をぽつりと呟いた。

ロンとハーマイオニーは宿題をしていた手を止め、ハーマイオニーに寄りかかるようにして眠ってしまっているソフィアをちらりと見る。

 

 

「うーん…去年の強い記憶は──沢山あるでしょうけど、全て三校対抗試合に関係しているものね、今ソフィアに見せる事は難しいわ」

 

 

ハーマイオニーはソフィアを起こさないよう小声で囁き難しそうな顔をする。ソフィアにとって去年の強い記憶は沢山あるだろう。しかしどれも今再現する事は難しく、それがわかっているからこそ今年起こったことで何か現在に強い思い出はないかと探し試したがなかなか良い結果には結びつかなかった。

 

 

「……寝ているお姫様を起こすのは、王子様のキスだって相場は決まっているんだけどね」

「…それで拒絶された僕は一生ソフィアと目を合わせられないよ」

 

 

少し悪戯っぽくハーマイオニーが言ったが、ハリーは口を尖らせ喉の奥でモゴモゴと拒否する。実際、ハリーはそれを考えた事もあった。しかしキスが出来るような雰囲気にもならず、そもそも今のソフィアにとってハリーはただの友人だ。ソフィアの記憶が戻らなければ最悪今の友人関係すら危うくなってしまう。

 

 

「えっハリーってソフィアとキスしたんだ?」

「う──うん、まぁ」

「おぉっ!」

 

 

ロンは喜びとも興奮ともつかぬ叫びを上げ、身を乗り出しハリーに「どうだった?」と聞く。ハリーは顔が赤くなるのを感じ、視線をうろつかせながら──ロンとハーマイオニーがいやらしくニヤニヤと笑っていることが凄く気になった──手は意味もなく羽根ペンを動かし羊皮紙にぐるぐるとした円を描いた。

 

 

「どうって、うーん。普通、だと思うけど。あー…冷たかったな…でも、ほら真冬で寒かったから──嬉しそうにはしてた──多分」

「へー何回くらいしたんだ?」

「……一回」

「へ?一回きり?」

 

 

ロンはつまらなさそうな声を上げ、ハーマイオニーも意外そうな目でハリーを見た。

居心地の悪さを感じたハリーは黒く塗りつぶされていく円を見て「だって、全然二人きりになれなかったし」と呟く。

 

 

「まあ、色々あったものね。DAとか閉心術とかクィディッチの練習とか。……その一回って、まさかソフィアの誕生日の時?」

「そう、だけど」

 

 

ハリーの言葉にハーマイオニーは真顔で考え込む。ハリーは何故自分とソフィアがキスをした事でこれほど真剣な顔をするのかわからず、苛々としながら「何だよ、悪い?」と怒ったように聞いた。

しかし、ハーマイオニーは何かを企むかのような不敵な笑みを見せる。

 

 

「誕生日に初めてのキスでしょ?ソフィアの強い思い出の可能性が高いわ」

「でも、だからって──」

「勿論ただのキスじゃなくて、その誕生日のシチュエーションを模倣しなくちゃならないわ。……ああ、でも……あの虫は冬に多いのよね…同じ状況をうまく作れるかしら…」

「無理なら──僕はしない。ソフィアに嫌われたくないんだ」

 

 

ハリーはきっぱりと首を横に振った。

あの素晴らしい幻想的な光景を再現するのは、やはり冬の澄み切った夜空と満点の星空、銀光玉虫の大群が必要だろう。どれかが欠けた状態でソフィアにキスをして、その目が喜びや愛情ではなく狼狽と嫌悪に染まっていたら──そう想像するだけでハリーは胃の奥がシクシクと痛んだ。

 

 

「あー…まぁ、そうね……うーん。良い案だと思うんだけど」

 

 

ハーマイオニーはそれ以上踏み込むことはなく、残念そうに肩を落としソフィアの綺麗な黒髪を撫でた。

小さな鼻にかかるような悩ましい呻き声を上げたソフィアは眉根をきゅっと寄せ、薄く目を開く。

 

 

「ぅん…?──ふぁあ……寝ちゃってたわ…」

 

 

ソフィアは目元を擦りながら体を起こしたが、まだ夢うつつであり思考がぼんやりとしているのだろう、すぐにハーマイオニーの肩に頭を乗せ目をゆっくりと瞬かせる。

 

ハリーはそんなソフィアと、まんざらでもない様子のハーマイオニーを見ながら、再び苛立ちが溢れてくるのを感じ、ぐしゃぐしゃと書き損じた羊皮紙を丸めた。

 

 

──あの場所は、僕の場所であるべきなんだ。

 

 

ハーマイオニーへの嫉妬に、ハリーは今すぐハーマイオニーを押し退けソフィアを奪いたい衝動を必死に抑えながら思い切り暖炉に丸めた羊皮紙を投げ入れた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

イースター休暇前の最後のDAの日。

ソフィアはダンブルドアに記憶の戻り具合の最後の報告に行かなければならず、会合には遅れて向かうとのことで、ハリーとロンとハーマイオニーの3人で必要の部屋へと向かっていた。

あれから何度か会合を行い、メンバーの半数以上が有体の守護霊を創り出すことに成功していた。

ハーマイオニーはカワウソ、ロンはジャック・ラッセル・テリア、ルーナはウサギ──他にも何人もがそれぞれが自分の守護霊を創り出し、誰もが特別なその存在をうっとりと見つめていたのだ。

 

 

会合の時間ギリギリになり、ハリーとロンとハーマイオニーが扉に入れば既に他のメンバーは──ソフィア以外が──集合し、早く守護霊魔法をもう一度やりたい、あの素晴らしい守護霊に会いたいと口々に興奮しながら話し合っていた。

 

 

「えーと。今回が休暇前の最後の会合になります。まず初めに……守護霊魔法の復習から──」

 

──ガタンッ!

 

 

ハリーが皆に言いかけた時、部屋の奥から異音が響き、皆が驚いて振り返った。

奥にはひっそりと古い箪笥があり、ガタガタと細かく揺れている。

 

 

「な、何──?」

「きゃああっ!」

 

 

小さく怯えた声を上げたのは誰だったのか、それをかき消すように何名かが悲鳴をあげ、集団が不安げに身を寄せ合う。

 

 

「な、なんで灯りが消えたの?」「イテッ!おい、誰だ足を踏んだやつは!」「押さないで!」──部屋を照らしていた灯りが風も無いのにフッと消えてしまい、それに驚き上がった悲鳴は皆の緊張と不安感を煽る。

 

ハーマイオニーは「ルーモス!」と唱えすぐに杖先に灯りをつけ、その灯りを見た者は慌てて杖を出し同じようにルーモスを唱えた。

 

 

「な、なに?」

「なんだ?おい、ハリー?」

「──さ、寒い…!ねぇ、なんだか、寒くない?」

「こ──これって、まさか」

 

 

恐怖に引き攣った声が響き、一瞬沈黙が落ちた。

この身体の芯から凍える冷気は、2年前のホグワーツ特急で体験したことがある。誰もがその最悪な記憶を覚えており、奥歯を震わせながらじりじりと後退した。パニックになったコリンがすぐに扉に飛びつき、必死にドアノブをガチャガチャと動かすが──何故か、扉は開かない。

 

 

「あ、開かない!な、なんで!?──アロホモラ!──だ、駄目だ、開かない!」

 

 

コリンの絶望感漂う声に、女生徒がわっと泣き出す。

ガタガタと音を立てていた棚がついに開き、中からすう、と滑るように黒く巨大なものが──吸魂鬼が現れた。いや、棚からだけではない。本棚の裏から、部屋の奥から、どこから現れたのか数体の吸魂鬼が現れ、恐怖に怯えるコリン達を囲むようにゆっくりと近づいてくる。

 

 

「──っ!みんな、幸せな記憶を思い出して!守護霊を創れる人は前に!出来ない人は後ろでルーモスを!灯りを絶やさないで!」

 

 

すぐにハーマイオニーが鋭い声で指令を出した。パニックになっていたメンバー達は震える手で杖をしっかりと握り、守護霊を創り出せる者が集団の前に立つ。

 

 

「エクスペクト・パトローナム!」

「エ、エクスペクト・パトローナム!!」

 

 

ハーマイオニーの杖先から銀色のカワウソが飛び出し、一体の吸魂鬼に飛びかかる。次にシェーマスの狐の守護霊がそばにいた吸魂鬼を押し退け、フレッドとジョージのジャーマン・ハンティング・テリア達が部屋中を駆け回った。

他にもまだ練習時には有体の守護霊を作り出せた者はいたが、パニックになり恐怖心が勝った今、うまく守護霊を創り出すこと出来ず銀色の靄と光の粒が部屋中に霧散していた。

 

 

吸魂鬼は守護霊達に追い払われ、嫌がるように部屋の奥へと移動すると、闇に紛れて──消えてしまった。

部屋を駆け回っていた守護霊も消え、銀色の光の粒が部屋中にキラキラと輝く。

 

 

 

暫くメンバー全員がその闇を恐々と見ていた。張り詰められた緊張感、誰も何も言うことが出来ず、いつでも魔法を出せるように杖を前に向ける中──消えていた部屋中の明かりが前触れなく点灯する。

暗闇に目が慣れていた皆は眩しそうに目を細め顔の前に腕を上げ、そして──その先に、ハリーが立っているのを見た。

 

 

「ハリー!?」

「逃げて!さっきまで吸魂鬼が──」

 

 

ロンとジニーが直ぐに叫んだが、ハリーは少し申し訳なさそうに彼らを視線を交わし、悪戯っぽく笑った。

 

 

「──ほらね。吸魂鬼を前にして有体の守護霊を創り出すのは難しいって言っただろう?」

「え?──ま、まさか」

「──ま、そんなことだろうと思ったわ。だって吸魂鬼は消えないもの」

 

 

ハーマイオニーは吸魂鬼が闇の中に消えてしまい、灯りが戻った後の隠れる場所がないこの室内に一体も居なかった事を確認し、それは一種のテストだったのだろう、と理解していた。

 

 

「ど、どう言う事だい?」

「つまり、ハリーは──多分、ソフィアと──私たちをテストしたのね」

「そうなんだ。ここは望んだものを用意する必要の部屋だ。僕とソフィアで数時間前に来て『守護霊魔法を練習するために最適な部屋』を願った。部屋に入ってみたら中央に写生魔法道具があって、それを使い吸魂鬼に変えて、この部屋のいろんな場所に隠して、ソフィアには扉を開けられないようにしてもらって、灯りを消して…あと冷気を出してもらって──」

 

 

ハリーは説明をしながら、部屋の隅でこっそりと待機していたソフィアを見た。

ソフィアはダンブルドアの元には向かっていない。その事も今回の作戦の一つであり、ソフィアは誰よりも先にこの部屋を訪れ認識阻害魔法を自分にかけて部屋の隅で待機していたのだ。ハリーはメンバー全員が棚の異音に意識を取られた隙に透明マントを被り、同じように部屋の隅で様子を見守っていた。

写生魔法道具は魔法生物のスケッチなどによく利用される安全なものであり、その物の性質までは写生しない。それ故に見た目は吸魂鬼であっても、ただのハリボテであり守護霊により撃退されたわけではなく、ただ押されて部屋の奥に向かい、使用時間が終了し、消えてしまっただけだ。

 

 

ハリーはこの種明かしを、ソフィアと共に行うはずだった。

しかし、ソフィアは部屋の隅でじっと立ちすくみ呆然とハリーを見つめているだけで、当初の予定とは少し違い、ハリーはどうしたのかと首を傾げる。

 

 

「──ソフィア?」

「──、……。……あっ、ううん、ごめんなさい。そうなの、ええっと……?」

 

 

ソフィアは目を覚ましたかのようにハッとすると慌ててハリーの隣に並び、まだよく理解できていないメンバー達を見回し少し困ったように首を傾げた。

 

 

「えっと、どこまで説明したかしら?」

「もう殆ど話したよ」

「そう。──えぇっと、そうね。有体守護霊を出せたのは、ハーマイオニー、シェーマス、フレッドとジョージの4人だったわね!ごめんなさい、騙すような真似をして。……でも、これでハリーの言っていた意味と、魔法を的確に使う難しさはわかったと思うの。守護霊は綺麗で素敵だけじゃ無いの。自分の身を守ってくれる大切で、大きな存在よ。だからこの後守護霊を創り出せなかった人は、もう一度チャレンジしてみてね」

 

 

ソフィアとハリーの言葉を聞いて呆然としていたメンバー達は、ようやく2人にしてやられたのだと分かると、「流石に不意打ちの吸魂鬼は駄目だろ!」と口々に不満を言い詰め寄ったが、それも少しの間だけで後は今まで通り守護霊の練習を始めた。

今までどこか神々しくて美しい守護霊を創り出す事だけを考えていたが、彼らはようやく、守護霊魔法と本気で向かいあった。

 

部屋に呪文が響く中、ハリーはこれで皆がこの魔法がどれだけ大切なものかと理解してくれるだろう、と胸を撫で下ろした。生半可な気持ちでは、殆どの者が実際吸魂鬼と遭遇した時にうまく出せないままだっただろう。

 

 

部屋の至る所に隠していた魔法道具を回収しながら、ハリーは今までとは違い真剣な目をして守護霊を創り出すメンバーを見て満足げに頷いた。

 

 

「うまくいって良かったね、とりあえずこれで──」

「ハリー」

「どうし──」

 

 

沢山の本棚の影にソフィアはハリーを引き込むと、そのまま背伸びをしてキスをした。

 

ハリーは目を見開いたままソフィアの顔を呆然と見ていたが、少ししてソフィアが恥ずかしそうに目を開き体を離した途端、血が沸騰したのかと思うほど体が一瞬にして熱くなった。喉の奥がカラカラに乾き、叫び、走り出したい程の衝動に、ハリーは手に持っていた魔法道具を放り出しソフィアを抱きしめた。

 

 

「ソフィア、まさか──」

「ええ……思い出したわ。あなたを愛しているって、さっきの守護霊魔法の銀色の残滓を見て……ほら、あの時の光景に似ていたでしょう?」

「──ッ!」

 

 

ソフィアは暗い部屋に輝く銀色の光の粒を見て、ハリーと恋人だったことを思い出した。いや、それだけではなく、それから今までの事も、全ての失っていた──忘れていた記憶を取り戻したのだ。

 

ハリーは喜びのあまり腕に力を込め、声なく叫びソフィアの肩口に額を押し付けた。ふわりとソフィアの甘い香りを感じ、身体の奥が多幸感にふわふわと浮き足立つ。

 

 

「本当に?嘘じゃないよね?」

「あら、友達の──唇に、キスをするような子に見える?」

「ううん、見えない。それは僕が身を持って理解してるからね」

 

 

ハリーの返答が面白く、ソフィアはくすくすと小さく笑う。

ハリーは顔を上げ、ソフィアの瞳を吐息が掛かるほどの近い距離で見つめた。美しい緑の瞳には、自分しか映っていない。それに、今までにない甘いような、優しい眼差しが──焦がれていた、切望していた愛情が含まれていた。

 

 

そのまま吸い寄せられるように、ソフィアの柔らかな唇にキスを落とせば、ソフィアは静かに目を閉じて受け入れた。初めてしたキスとは違い、温かなソフィアの唇に触れるたびに身体の奥が落ち着かなくなり、何も考えられずハリーは夢中で何度も唇を重ねた。

 

 

「ん──ハリー」

「──あ、ご、ごめん」

 

 

 

鼻にかかる甘い吐息に、「もっと」と今までの空白を埋めるように求めていたハリーだったが、ソフィアはやんわりとハリーの胸を押し恥ずかしそうに顔を赤くしたまま眉を下げた。

我に帰ったハリーはようやく自分達がどこで何をしていたのかを理解し、慌ててソフィアから体を離す。ソフィアの唇が少し濡れていて灯りに反射し艶やかに見え、ハリーは何やら見てはいけないものを見てしまったような気がして一気に顔を赤くした。

 

 

「…さ、片付けないと」

「──うん。そうだね」

 

 

とても残念だったが、ハリーはなんとかソフィアの唇から視線を外し落ちている魔法道具を拾い上げた。

 

──そうだ、今はDAの最中だ。休暇前の最後の練習になるんだし、ちゃんとしないと。

 

 

ハリーはそう思ったが、どうしても頬がにやけるのを抑えられず浮き足立ち軽い足取りでメンバーの元へと戻った。

 

ソフィアは嬉しそうなハリーの後ろ姿を見て、本棚に体を預けると小さくため息をつき唇をそっと指で撫でる。

 

 

「……閉心術が開始されたら…大変な事になるわ……」

 

 

この記憶は──ハリーと交わした熱い口づけの記憶は──出来るならセブルス(父親)には見せない方がいいだろう。と、流石のソフィアも理解していた。

 

 

 

それから時間ギリギリまで守護霊魔法の練習を行った。吸魂鬼を目の前にして本来の力を発揮出来なかった者は先ほどの光景を思い出し冷静になり守護霊を創り出す練習を行い。未だに有体を作り出すに至らないものはさらに真剣に練習に打ち込んだ。

 

そろそろ終了の時間だと言う時、突然必要の部屋の扉が開き、閉じる音がした。

皆が手を止め振り返り杖を構えたのは、まだ先ほどの光景が脳裏に刻まれていて神経を尖らせたからだろう。

今日は欠席しているメンバーが到着したのだろうか、とハリーは扉近くの生徒が魔法を出さず静まり返っているのを見て首を傾げる。

 

しかし、メンバーが扉の前から引き、現れたのはドビーだった。いつもよりも更に不安げに眉を寄せ、忙しなく手を動かしている。

 

 

「やあドビー、何しに──どうかしたのかい?」

 

 

ドビーはハリーの前まで近づくと、じっと彼を見上げる。小刻みに震えているドビーの目は恐怖に見開かれていた。

 

 

「ハリー・ポッターさま…ドビーめはご注進に参りました……でも、屋敷しもべ妖精というものは、喋ってはいけないと戒められてきました…」

 

 

この場にいることが恐怖だというように震えていたドビーは弾かれるように走り出し、自分を罰する為に壁に頭を打ち付けようとした。すぐにハリーが取り押さえようとしたがドビーの方が僅かに早く、壁に激突する──しかし、ハーマイオニーが編んだ大量の帽子がクッションになり、跳ね返ってひっくり返っただけだった。

ハウスエルフを初めて見た者も多く、その習性に同情と恐怖で悲鳴をあげる。

ハリーはドビーに駆け寄ると彼が自傷しないように取り押さえ、部屋の中央に引っ張り周りの危険そうなものから遠ざけた。

 

 

「ドビー、一体何があったの?」

「ハリー・ポッター……あの人が、あの女の人が……」

 

 

ソフィアはハウスエルフの特性をよく知っている。そして──ドビーというハウスエルフが他者とは違い、主人の命に背いた行動を行いハリーを助けた過去がある事も。

 

 

「ハリー、あなたに──いえ、皆に危険がある、そうねドビー?」

 

 

ドビーは恐怖に慄いた目でソフィアを見つめ、ゆっくりと頷いた。その細く小さな握り拳はあまりの強さで握られ真っ白になっている。

 

 

「あの女って、まさか──アンブリッジ?」

 

 

ドビーはハリーの言葉に小さく頷き、そしてハリーの膝に自分の額を打ち付けようとした。ハリーは混乱しながらも腕を限界まで伸ばし、ドビーを拘束しながら自分から引き剥がし、じっとその恐怖に染まる目を見る。

 

 

「アンブリッジがどうかしたの?ドビー──この事はあの人にはバレてないだろ?僕たちの事も、DAのことも──」

 

 

その答えは聞くまでもなかった。恐怖に打ちのめされたドビーの瞳が、何を言わずとも全て物語っていたのだ。ハリーは嫌な汗が流れるのを感じながら静かにドビーに「あの女が来るのか?」と聞いた。ドビーは大きく頷き「そうです、ハリー・ポッターさま!」と金切り声で叫ぶ。

 

 

「全員逃げなさい!今すぐ!まだ外出禁止の時間じゃ無いわ!何か聞かれたら私の記憶を探していたって言いなさい!──さあ、急いで!」

 

 

ソフィアはすぐに皆に指示を出す。ソフィアの真剣で緊張が孕んだ声に、全員が一斉に扉へ突進した。

 

 

「ハリー!ソフィア!急いで!」

 

 

扉の前で揉みあっている集団の中からハーマイオニーがもどかしげに叫んだ。ソフィアはすぐに扉へ向かったがハリーがついて来ていない事に気付くと振り返り、自傷しようもがくドビーを必死に押さえつけているハリーを見た。

 

 

「ハリー!早く!」

「先に行ってくれ!すぐに行く!」

 

 

このままドビーを置いて行く事はできず、ハリーは叫んだ。ソフィアはそれでも迷うように足を止めていたが、ロンとハーマイオニーに腕を引かれ、ハリーが必死にドビーに「ドビー、これは命令だ!厨房に戻って仲間と一緒にいるんだ──」と伝えているのを聞きながら扉をくぐった。

 

ソフィアとハーマイオニーとロンは扉を出て左へと走った。グリフィンドール寮へ直行するよりは少し遠回りをして、別の場所で今まで過ごしていたと装うのが1番だろう。ハーマイオニーはそう考え、一目散に寮へ戻ろうとしていたロンに「こっち!」と小声で言い、必要の部屋から離れた。

 

 

「──っ!!ルイス……」

 

 

階段を駆け下り、曲がり角を曲がった途端、少し先に杖を持ち待ち構えていたのはルイスだった。

ロンは硬い表情をしたが、ハーマイオニーとソフィアはほっと安堵の息を吐く。

 

 

「君たち、こんな時間に、こんな場所で何をしていたの?」

「私の記憶を戻す為に、ホグワーツ中を散策していたの。どこにきっかけがあるかわからないでしょう?夢中になってしまって、こんな時間になったのよ」

 

 

ソフィアはハーマイオニーとロンの前に出ると冷静にそう告げた。

ルイスは少し呆れたような顔をしたが、ちらりと背後に目を向け誰も近くにいないことを確認すると小声で囁く。

 

 

「すぐに降りた方がいい。あの人とドラコが近くにいるはずだから」

「ありがとう、そうするわ。もう減点と罰則は懲り懲りだもの。──行きましょう」

 

 

ソフィアは二人に促し、ハーマイオニーとロンは頷き足速にルイスの隣を通り過ぎる。

ルイスは静かに壁際まで下がり、3人が帰るのをじっと見ていた。

 

 

「──ルイス、私……()()()()()()

 

 

ルイスの隣を通り過ぎる時に、ソフィアはルイスにだけ聞こえるように囁いた。ルイスは少し目を見開いたがすぐに嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべると、何も言わず頷いた。

 

 

 

そのまま3人は無言でグリフィンドール寮へ戻り、同じ会合メンバーの不安げな顔に出迎えられた。

グリフィンドール寮のメンバーは全員欠けることなくここにいることを確認したソフィアはすぐに寝室に向かうように告げる。誰もが混乱し、なぜアンブリッジにバレたのかを聞きたがっていたが──今、ソフィアにはそれはわからないことだった。

 

 

ソフィアとハーマイオニーとロンはひっそりとした談話室の中、暖炉のそばのソファに座り緊張からか、力の入っていた肩をふっと落とした。

 

 

「……みんな、ちゃんと帰れてたらいいんだけど…」

「そうだな……でも、何でバレたんだ?」

 

 

ロンは不安げにちらちらと肖像画の扉を見る。この先からアンブリッジが現れるのでは無いかと、気が気ではなかったのだ。

 

ソフィアとハーマイオニーは深刻な表情で黙り込む。ハーマイオニーが用意したあの魔法契約により、誰が密告者なのかはすぐにわかる事だろう。しかし、そんな事よりも禁じられたにも関わらず何ヶ月も会合をおこなっていた事が知られてしまったのなら、おそらく、実質リーダーだったハリーとソフィアの2人の退校は免れないだろう。

なんとかして言い訳を考えなければならないが、アンブリッジが納得する言い訳など果たして存在するのだろうか。

 

 

「……なぁ、ハリー……遅くないか?」

 

 

黙り込んでしまったハーマイオニーとソフィアにロンは怖々と聞いた。これからのことを必死に考えていた2人はハッとして顔を上げ、「まさか」と呟く。

その表情を見たロンも、顔をみるみる内に青くすると居ても立っても居られず立ち上がった。

 

 

「駄目よ!もう9時をすぎたわ!ここにいないと、更に大変な事になる!」

「でも、ハリーが…!きっと、捕まったんだ、あのくそババアに!」

 

 

ハーマイオニーは慌ててロンを止めたが、それでもロンは座る事は無くもどかしげに扉を見る。

 

 

「その可能性は高いわ。透明マントを被っていたらいいけど…そんな余裕無かったかもしれないし……でも、私たちは地図も透明マントも持っていないわ。目眩し術だけで外を歩くのは……流石に、バレた時に言い訳ができないわ。今は──ハリーの帰りを待ちましょう」

 

 

ソフィアは重々しく呟くと、指を組み祈るように額に押し当てた。

ロンは暫く苛立ちと不安からうろうろとしていたが、ついにハーマイオニーの必死な視線に耐えられず、足を投げ出すようにしてソファにどかりと座り込んだ。

 

 

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