差し迫った試験の重要性を強調するかのように、イースター休暇が終わる少し前に魔法界の職業を紹介する小冊子やチラシ、ビラなどがグリフィンドール寮の机に並べられるようになり、掲示板にはまた新しい知らせが張り出された。
『進路指導。
夏学期の最初の週に、五年生は全員寮監と短時間面会し、将来の職業について相談する事。個人面談の時間は左記リストの通り』
ハリー達五年生は休暇最後の週末の大部分を職業紹介資料を読んで過ごすこととなった。
「まぁね。癒者はやりたくないな」
休暇最後の夜、杖と骨が交差した紋章のパンフレットを読みながらロンが言った。
「こんな事が書いてあるよ。『NEWT試験の魔法薬学、薬草学、変身術、呪文術、闇の魔術に対する防衛術で少なくとも
「でもそれって、とっても責任のある仕事じゃない?」
舐めるようにマグル関係の仕事について書かれた小冊子を見ていたハーマイオニーが上の空で答えた。「マグルと連携していくには、あんまりいろいろな資格は必要ないみたい。要求されているのはマグル学のOLWだけよ。より大切なのは、あなたの熱意、忍耐、そして遊び心ですって!」と目を輝かせながら言葉を続けた。
しかしハリーはバーノンを思い出すと「僕のおじさんと関わるには、遊び心だけでは足りないよ」と暗い声を出した。
「むしろ、いつ身をかわすかの心だな。──これ聞いて。『やりがいのある職業を求めますか?旅行、冒険、危険が伴う宝探しと、相当額のボーナスはいかが?それならグリンゴッツ魔法銀行への就職を考えましょう。現在、呪い破りを募集中。海外でのぞくぞくするようなチャンスがあります』……でも、数占いが必要だ、ソフィアはたしか呪い破りを考えていなかった?」
ハリーは半分ほど読んだ魔法銀行の小冊子をソフィアに広げて見せた。ソフィアは小冊子を広げることもなく、机の上に散らばっていた色とりどりの紙を珍しげに見ていたが、ハリーから魔法銀行の小冊子を受け取るとにこりと笑う。
「ええ、卒業後は呪い破りを目指すつもりよ。ずっと働くつもりはなくて、2.3年働いてお金を貯めたら世界を回りたいの」
「世界?」
「ええ、私の夢は魔法生物学者になる事なの!だから、呪い破りだと旅の資金が貯められるし、いろんな世界を見て回れるでしょう?外国でいろんな魔法生物と会えるだろうし、いろんな人とコネクションを繋ぐ事だってできるわ!」
ソフィアはキラキラとした目で将来を楽しげに話す。ハーマイオニーは既に先のことを考えているソフィアを見て「凄いわ!」と感嘆し、ロンは「今度ビルに話を聞きにおいでよ!」と声を上げる。ただ、ハリーは少し浮かない顔をしていた。
ソフィアが世界中を回る──呪い破りの間も一箇所には留まらないだろうし、なかなか会えなくなってしまうのだろう。輝かしい夢を持つソフィアを応援したい気持ちと、「行かないで」という気持ちでハリーの心は複雑だった。
「やあ」
職業紹介資料を見ていたソフィア達の元にジョージとフレッドが現れ4人のそばにあるソファに座り机に足を投げ出した。
「ジニーが、君のことで相談に来た。ジニーが言ってたんだけど、シリウスと話したいんだって?」
「えっ!?」
フレッドの言葉に寝耳に水だったハーマイオニーは手に持っていたトロール調教師の書類を放り出し鋭い声を上げた。
「うん……まあ、そうできたらって──」
「馬鹿なこと言わないで。アンブリッジが暖炉を探り回っているし、フクロウは全部ボディチェックされているのに?」
ハーマイオニーが信じられないという目つきでハリーを見て、グリフィンドール寮にある暖炉を指差した。ハリーは喉の奥でもごもごと「わかってるよ」と呟き顔を顰めたが、ジョージとフレッドはニヤリと笑うと背筋を伸ばした。
「まあ、俺たちならそれも回避できると思うね」
「ちょっと騒ぎを起こせばいいのさ。さて、お気づきかとは思いますがね、俺たちはこのイースター休暇中、混乱戦線ではかなり大人しくしていただろ?」
「せっかくの休暇だ、それを混乱させる意味があるか?」
「俺たちは自問したよ。そして全く意味はないと自答したね。それに、もちろんみんなの学習を乱すことにもなりかねないし、そんな事は絶対俺たちはしたくないからさ」
フレッドはハーマイオニーに向かって神妙に少し頷いてみせた。まさか彼らがそんな思いやりを持っているとは思わずハーマイオニーは意外そうな顔で言いたかった言葉を飲み込み、ソフィアは彼らの優しさににっこりと笑った。
「しかし、明日からは平常営業だ。そして、せっかくちょいと騒ぎをやらかすなら、ハリーがシリウスと軽く話が出来るようにしてやってはどうだろう?」
「どうやるの?」
ソフィアは自信満々な彼らに期待を込め身を乗り出して聞いた。こんな表情を見せるくらいなのだ、きっと何か策があるのだろう。
「それは──」
「アンブリッジの部屋だ」
ハリーはフレッドとジョージが答える前に、静かに呟いた。この2週間ずっと考えていたが、それ以外の選択肢は思いつかなかったのだ。アンブリッジは全ての暖炉を見張っているが、自分の暖炉だけは見張られていないとそう、ハリーに伝えていた。
「部屋はどうやって入るの?私、一応アロホモラ・デュオも使えるけど……それで開くかしら?」
「シリウスのナイフ。一昨年のクリスマスにシリウスがどんな鍵でも開ける事ができるナイフをくれたんだ」
ハリーはアロホモラは使えるが、それより強い守りがかけられた扉を開けるアロホモラ・デュオを使う事はできない。だが、ハリーにはシリウスから貰った特別なナイフを持っていた。閉じられた扉を開ける答えも、しっかりとハリーは用意していたのだ。──つまり、ハリーは既にシリウスと話すための作戦の殆どをクリアしていた。
「そんなものがあるのね……なるほど、たしかに不可能では無さそうだわ」
「あなたはどう思うの?」
ソフィアは感心し頷いていたが、ハーマイオニーは焦ったそうにロンに意見を求めた。その表情と声音は、初めて騎士団本部で過ごした日にモリーがアーサーへ助けを求めた時のものによく似ていて、ハリーはふと、その時の日々がもう何年も昔の事のような不思議な気持ちになった。
「さあ。ハリーがそうしたければ、ハリーの問題だろ?」
ロンは意見を求められた事で少々驚いていたが、答えは決まっていた。いくら外野が何を言おうが、こうなったハリーは頑ななのだとロンは重々理解している。
「さすが真の友。そしてウィーズリー一族らしい答えだ」
「よーし。それじゃ僕たちは、明日、最後の授業の直後にやらかそうと思う。なにせ、みんなが廊下に出ている時こそ最高に効果が上がるからな。──ハリー、俺たちは東棟のどっかで仕掛けて、アンブリッジを部屋から引き離す。たぶん君に保証できる時間は、そうだな、20分はどうだ?」
「軽い軽い」
ジョージはフレッドの視線を受けニヤリと笑い余裕の表情を見せる。20分という時間、思ったよりも長い時間アンブリッジを引き離してくれるという言葉に、ハリーはクィディッチの試合の前のように鼓動がドキドキと高鳴るのを感じた。
「どんな騒ぎを起こすんだい?」
「弟よ、見てのお楽しみだ」
「明日の午後5時ごろ、『おべんちゃらのグレゴリー像』のある廊下のほうに歩いてくれば、どっちにしろ見えるさ」
フレッドとジョージは揃って腰を上げ、悪戯っぽく笑うと早速準備をしに自室に戻った。
「駄目よ。ぜーったい、駄目!」
彼らの姿が階段の向こうに消えた途端、ハーマイオニーは強くハリーに忠告したが、ハリーは後24時間も経たずにシリウスと会える。シリウスに、何があったのか、本当にジェームズは傲慢な性格で、リリーはジェームズを嫌っていたのか、なぜセブルスを虐めていたのか。なぜ、リリーはあんなにも嫌っていたジェームズと結婚することになったのかを聞く事ができる。その気持ちでいっぱいになり、手に持っていたキノコ栽培業のチラシを顔の近くに上げハーマイオニーの鋭い視線や言葉から隠れた。
次の日、ハリーは不安感から早々に目を覚ました。
昨日はアンブリッジを出し抜きシリウスと話をすることでいっぱいになっていたが、少し時間を置いて冷静になった今、果たしてフレッドとジョージはうまくアンブリッジを引きつけておくことが出来るのかかなり心配だった。
それにシリウスと話をして、自分が納得するような答えを教えてくれるだろうか。──だってあの場にはシリウスもいて、シリウスもスネイプを虐めていた。虐めている本人からの証言なんて、果たしてあてにできるのだろうか?だけど、どうしてもシリウスの口から真実を聞きたい。父さんの振る舞いの口実が、何でもいいから知りたい──。
その日は一日中ハーマイオニーが煩くハリーを忠告した。彼女はそんな愚かで危険な行為を許せず、何度も脅すように言ったがハリーは全て聞き流し、ロンもこの話題には口を突っ込まない判断をした。何度かハーマイオニーは焦ったようにソフィアを見たが、ソフィアはどうせ今日その機会が無かったとしても、ハリーはいつか不安と疑念が爆発しシリウスに手紙を送ったりこっそり談話室の暖炉から話しかけようとするだろう。そんな危険をいつか起こすのなら、まだフレッドとジョージが確約してくれた20分を信じた方が良いと思い、ソフィアも無言を貫いた。
その日、マクゴナガルとの進路指導を終えたハリーが戻ってきてもハーマイオニーだけは何度も小声で忠告し、闇の魔術に対する防衛術の授業の時はそれは哀願へと変わっていた。
「ダンブルドアは、あなたが学校に残れるように犠牲になったのよ、ハリー!もし今日放り出されたら、全て水の泡じゃない!ハリー、やらないで、お願いだから!」
「いいから、もうやめろよ。ハリーが自分で決める事だ」
ハーマイオニーの苦悶に満ちた声にハリーは答えられず、代わりにロンが低い声で呟いた。
「でも──ソフィア!」
「成功を祈りましょう」
ハーマイオニーはソフィアの言葉に愕然とし、蒼白な顔のまま黙り込み悲痛な表情で教科書の文字を睨んだ。
授業が終わり、教室を出る時ハリーの心臓は早鐘のようだった。何も知らない同級生達が一日の授業の終わりを噛み締め楽しげに夕食の事などを話しながら大広間へとゆっくりと歩いてる。
廊下に出て半分ほど過ぎた時、遠くの方で陽動作戦の音が炸裂するのが聞こえた。上の階から叫び声や悲鳴が響く中、周りの教室から出てきた生徒達は一斉に足を止め恐々天井を見上げる。
アンブリッジが教室を飛び出し、杖を懐から引っ張り出すと急いでハリー達がいる場所と反対方向にある階段へと走っていく。──やるなら、今だ。今しかない。
ハリーは中に入っている透明マントごと鞄を強く抱え、決意が篭った目でその姿を見送った。
「ハリー、成功を祈ってるわ」
隣にいたソフィアは真剣な表情で、ハリーにだけ聞こえるように呟く。ハーマイオニーはもう何も言わず、ただ心配そうな目でハリーを見つめる。ロンは親友の背中を、軽くポンと叩いた。
ハリーは3人に頷くと、東棟での騒ぎが一体何かとざわつき向かおうとする生徒の間を縫いアンブリッジの部屋へと駆け出した。
「ああ……ハリー…心配だわ……」
「ここまできたもの、後は祈るしかないわ……私たちも東棟に向かいましょう。ここで立ち止まってると怪しまれるもの」
「そうだな。フレッドとジョージは今度は何をしたんだろ」
生徒の波に逆らう事なくソフィア達は東塔へ向かう。叫び声と悲鳴は進むにつれ大きくなり、どこからともなく臭液の臭いが漂ってきている。
「うわあ」
ロンは感心したような呆れたような複雑な唸り声を上げた。
ソフィア達は騒ぎの中心である東棟の6階にある廊下まではたどり着くことが出来ず、階段を登り切ったところでその廊下が沼地になり、何人もの生徒が沼に足を取られ胸の半ばまでつかり半分溺れかけ、泥だらけになっている。底なし沼では無かったのはフレッドとジョージの優しさなのだろうか。
沼にはまっていない生徒も、臭液を被ったのか叫びながら必死にその臭いを落とそうとし、ある程度魔法に自信がある者は臭液を被った友人達にスコージファイをかけて強い臭いを清めていた。
「廊下を沼地に変えたのね!……うーん、どうやったのかしら多分ただの魔法では無いわ。いろんな薬草を混ぜて効果を底上げしているのね……」
「すげぇよな」
「感心してる場合じゃないわ!ほら、下級生を助けてあげないと!」
背の低い1年生は鼻から上だけを沼から出し必死に外へ行こうともがいている。
離れた場所から何かが爆発する音が聞こえてくる事から、おそらくアンブリッジはここは脅威では無いと決め、新しい騒ぎのする方へと向かったのか、アンブリッジはここにはいなかった。
監督生の本分を忘れないハーマイオニーはロンの手を引いて遠巻きに眺める生徒達の間を縫い、沼地の最前列へと飛び出し上手く沼から抜け出せない生徒に手を伸ばした。
ソフィアは鞄の中から新品の羊皮紙を取り出し、杖を振るい大きな鷲に変身させると今にも溺れそうな生徒を沼から引っ張り出し──下級生は大きな鷲に、このまま巣穴に連れて行かれ食べられるのでは無いかと恐々とした──安全な場所へと運んだ。
ソフィア達だけではなく、監督生や7年生は自分の得意な魔法を駆使し沼にはまった生徒を救出し、なんとか全員が安全地帯へ避難した頃、生徒を押し退けマクゴナガルが現れた。
「沼にはまった生徒がいると聞きましたが──全て救出されたようですね。誰に助けられましたか?」
泥だらけの生徒達はソフィアとハーマイオニーの杖先から出た水を頭から浴びながら口々に助けてくれた人の名を呼び、指差した。
マクゴナガルは口先だけで優しく微笑むと、ソフィアとハーマイオニー、ロンをはじめ救出していた生徒にそれぞれ10点を加点し、杖を一振りして汚れていた生徒を元通りきれいな姿に変えた。
「ここ以外でも騒ぎがあります。沼はここだけのようですが、また愉快な──いえ、危険な花火が幾つか上がっているようです。気をつけなさい」
わざとらしく言い直したマクゴナガルはこほんと一つ咳をこぼすと他の騒ぎの元へ向かった。
ソフィアとハーマイオニーとロンは目配せをして、ここでは無いところで一体どんな騒ぎが起こっているのだろうか──と、知りたいような知りたくないような気持ちになりつつ、騒ぎ声の大きな方へと向かった。
しかし、その途中で「ウィーズリーの双子が追いかけられてる!」「親衛隊だ!アイツら必死に追いかけてたぜ!」「下よ!下に向かってたわ!アンブリッジもいた!」という声を聞き、顔を見合わせすぐにフレッドとジョージが追いかけられているだろう玄関ホールへ向かった。
前回の花火の騒ぎはフレッドとジョージだという証拠はなかった。勿論殆どの生徒が彼らがやったのだと知っていたが証拠がなければ処罰することはできない。しかし、今回騒ぎを起こしたのが2人だとバレてしまっている。それに、最悪なことにアンブリッジや彼女の親衛隊も彼らを捕まえようとしていると言うのだ。
玄関ホールに向かうまでに幾つか花火が見えたがそれを気にする余裕もなく、ソフィアとロンとハーマイオニーが玄関ホールに着いた時、そこはちょうどトレローニーが解雇された夜と同じ光景が広がっていた。生徒や教師、ゴーストまでもが壁の周りに輪になって立ち、最前列にはアンブリッジと親衛隊が満足げな表情を浮かべ輪の中央にいるフレッドとジョージを見据えている。
親衛隊の頭上にはぷかぷかとピーブズが浮かびにやにやと笑いながら見物していた。
「どうしましょう!追い詰められてるわ!」
「ええ…でも、見て……2人の顔は、全然困ってないわ」
「……明日のママからの手紙が怖い……」
ハーマイオニーは悲鳴を上げたが、ソフィアは楽しさの中に少し寂しさを滲ませ、ロンは明日のことを考え少し遠い目をしていた。
事実、彼らは微塵も困っても焦ってもいない。寧ろたくさんの見物人がいる事に満足げな表情をしていた。
「さあ!──それじゃあ、貴方達は学校の廊下を沼地に変えたら面白いと思ったわけね?」
満足げだったのはフレッドとジョージだけではなく、ついに彼らを除伐し追い出す口実が出来たアンブリッジも同じだった。
「ああ、面白いね」
「相当面白いな」
2人は全く恐れることなく大理石の階段をゆっくりと降りてくるアンブリッジを見上げて言った。
フィルチが人混みを肘で押し分けて、幸せのあまり泣かんばかりの表情でアンブリッジに駆け寄り「校長先生、書類を持ってきました」と興奮しながら声を張り上げる。
「書類を持ってきました。それに、鞭も準備しております。……ああ!今すぐ執行させてください!」
鞭打ち許可証をひらひらと振るフィルチに、アンブリッジは甘い少女のような歪な笑みを向けほくそ笑む。
「いいでしょう、アーガス。──そこの2人。わたくしの学校で悪事を働けばどういう目に遭うかを、これから思い知らせてあげましょう」
「ところがどっこい、思い知らないね」
フレッドが双子の片割れを振り向き、肩に腕を乗せニヤリと悪戯っぽく笑う。
「ジョージ、どうやら俺たちは学生稼業を卒業しちまったな?」
「ああ、俺もずっとそんな気がしてたよ」
「俺たちの才能を世の中で試す時が来たな?」
「全くだ」
気軽に話す様子にアンブリッジが何も言えないうちに、2人は杖を振り上げて同時に唱えだ。
「アクシオ!箒よ、来い!」
どこか遠くでガチャンと大きな音がした。すぐに風を切る音と何かにぶつかる音が大きくなり、生徒達は振り向き──二本の箒が矢のようにこちらへ向かってくるのを見た。
一本にはアンブリッジが壁に縛り付けるために使っていた重い鎖と鉄の杭を引きずったまま2人の前に躍り出てぴたり、と止まった。
「またお会いすることもないでしょう」
フレッドがパッと足を上げて箒に跨りながらアンブリッジに言った。
「ああ、連絡もくださいますな」
ジョージもひらりと箒に跨る。
彼らは集まった生徒達を見回す、群衆は声も無く、2人を見つめていた。
「上の階で実演した携帯沼地をお買い求めになりたい方は、ダイアゴン横丁93番地までお越しください。
「我々の商品を、この老いぼれババアを追い出すために使うと誓っていただいたホグワーツ生には、特別割引をいたします!」
ジョージがアンブリッジを指差した途端、金縛りが解かれたように彼女「2人を止めなさい!」と金切り声を上げた。
しかし、尋問官親衛隊が包囲網を縮めた時にはすでに遅く、フレッドとジョージは床を蹴り5メートルの高さに飛び上がる。鉄製の杭が危険を孕んでぶらぶら揺れる中、フレッドはホールの反対側で群衆の頭上に自分達と同じ高さで浮かんでいるピーブズを見つけた。
「ピーブズ、俺たちに代わってあの女を手こずらせてやれよ」
ピーブズが生徒の命令を聞く場面など、誰も見たことは無かった。
そのピーブズが、鈴飾りのついた帽子をさっと脱ぎ敬礼の姿勢を取り真剣な顔で頷いたのだ。
眼下の生徒達の喝采を受ける中、フレッドとジョージはくるりと向きを変え、開け放たれた正面の扉を素早く通り抜け、輝かしい夕焼けの空へと吸い込まれていった。
「──2人には、自由が似合うわ」
ソフィアは群衆の喝采の声を聞きながらぽつりと呟く。
少し離れた親衛隊の後方では、ルイスもソフィアと同じような眩しそうな目をして、フレッドとジョージを見送り「行ってらっしゃい」と声を出さず、呟いた。