【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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304 秘められていた事実!

 

 

 

次の日の朝、ソフィア達はいつも通り朝食を取りに大広間へ向かった。

何人かの生徒がコソコソと話し合っていたかと思えば明るい表情で大広間に駆け出すのを不思議そうに見ながら二重扉をくぐる。

 

その途端、何故こうも生徒達が浮き足立っているのかがわかった。

 

 

「ダンブルドア先生!」

「お戻りになられたんだわ!」

 

 

校長が座る席には、アンブリッジではなくダンブルドアが微笑みをたたえて静かに腰掛けていた。何人もの生徒が嬉しそうにダンブルドアの帰還を喜び話しかける中、ダンブルドアも朗らかな笑みを浮かべうんうんと頷く。

ハリーは今すぐにでも昨夜神秘部で何があったのか、はたして全員無事なのか聞きたかったがこうも生徒が多いと近づくことは出来ず、ソフィアに手を引かれそわそわとした気持ちのままグリフィンドールの机に座った。

 

なんだか味の朧げなオートミールを食べていると、窓から沢山のフクロウが飛び込んでくる。いつものフクロウ便の時間だが、いつもよりも手紙や新聞を持っているフクロウが多いような気がした。

 

ハーマイオニーは購読している日刊預言者新聞を掴むとすぐにフクロウに金を払い、机の上に広げた。

 

 

「見て!」

 

 

興奮と緊張を孕むハーマイオニーの小さな叫びを聞き、ハリーとロンとソフィアは身を乗り出して大きな見出しを読んだ。

 

 

「名前を呼んではいけないあの人、復活する。──ついに認めたんだ!」

 

 

この1年間否定し続けていたファッジはようやく、ヴォルデモートの復活を認めた。

その明確な理由は新聞には書かれていない。記者はファッジが今までの言を翻した原因は、魔法省にヴォルデモートが侵入したのだろう、とあたりをつけていたが、間違いなくその通りに違いない。

 

おそらくファッジは神秘部でヴォルデモートを見てしまったのだろう。──いや、1人ではなく、きっと大勢の職員が目にしてしまい、それを隠すことが難しくなったのだ。

 

ヴォルデモートが復活した事。そしてアズカバンのディメンターが魔法省に雇用される事を忌避し職務を一斉放棄した事。その原因はヴォルデモートに命令されたからだと隠す事なく書かれていた。

 

魔法族は警戒を怠らぬよう何度も忠告する文が続き、ダンブルドアがホグワーツ魔法学校校長復職、国際魔法使い連盟会員資格復活、ウィゼンガモット最高裁主席魔法戦士として復帰した事や、ダンブルドアがこの1年間ヴォルデモートが復活したと告げていたことが正しかったのだと書かれていた。

そしてその次にハリーがザ・クィブラーにインタビューを受けた記事がそのまま載っていた。

記事はまだまだ続き、なぜこの1年間ダンブルドアとハリーの言葉に魔法省は耳を貸さなかったのかという事や職員のインタビューが載せられていたが、全てに目を通す前にハーマイオニーは勝ち誇ったような笑みを浮かべハリーを見た。

 

 

「これでもうあなたは世界から認められたのね、ハリー」

「今まで精神異常者扱いだったからね。──それよりも、負傷者の事とかは書いてないよね?シリ──みんな、大丈夫かな…」

「そうね……」

 

 

ハリーは不安そうにしながら椅子に座り直し近くにあったウィンナーにフォークを突き刺した。

朝目覚めてすぐ両面鏡に向かって「シリウス?」と話しかけてみたが、その先に昨夜のようにシリウスの顔は映らず、不安げな自分の顔が写っただけだった。シリウスは騎士団本部に居続けたのだろうか?それとも、騎士団の一勢力として動いたのか、それすらも分からずハリーはヴォルデモートが世界に認知されたことを喜ぶよりも、シリウスの無事が知りたくて不安だった。

 

 

新聞の記事を端から端の小さな記事まで見ていたハーマイオニーは小さなため息を吐き「騎士団の安否は書いてないわ。ダンブルドアが私設団体を作っていた、と書かれているだけよ」と呟き新聞を小さく降り畳む。

 

「もうテストは全て終わっている。このあと授業はないし、後でもう一度両面鏡に話しかけてみよう」というハリーの言葉にソフィア達は頷いた。

 

 

ダンブルドアの帰還を喜んでいた生徒も、親からの手紙や日刊預言者新聞を見て初めてヴォルデモートの復活を知り、ざわつき静かな波のように不安の声が囁かれる中、ソフィアはちらりとダンブルドアが座っているだろう場所を見た。

 

しかし、いつの間にかその席は空白になっていて誰もいない。

聞きたいことは沢山あるのだが、やはり直接話すのは難しいのか──ソフィアがそう思った時、穏やかな声が真後ろから響いた。

 

 

「おはよう。良い朝じゃな」

「っ──お、おはようございます」

「お、はようございます、ダンブルドア先生」

 

 

いきなり声をかけられたソフィアは肩を揺らし、ロンは飲んでいたかぼちゃジュースを吹き出し、ハーマイオニーは小さく叫び手に持っていたパンを握りつぶし、ハリーは跳び上がり上擦った声で答えた。

4人の反応を面白そうな目で見ていたダンブルドアは白く豊かな髭を撫でながらハリーを見て視線を止める。

 

 

「ハリー、少しわしに時間をくれんかの」

「はい──あ」

 

 

ハリーはすぐに食べかけのソーセージが刺さったままのフォークを乱雑に起き立ち上がったが、ふとソフィア達を見て言葉を止めた。

 

 

「あの──もし、僕の思い違いでないなら──昨夜の事を説明していただけるのなら──ソフィアとロンとハーマイオニーにも聞いてほしいんです」

「ほう?──どうしてかね?」

 

 

ハリーの言葉にダンブルドアは笑ったまま静かに問いかける。ハリーはごくり、と唾を飲み込み静かな目でダンブルドアを見つめた。

ダンブルドアと目を合わせて話すのは、かなり久しく不思議な気持ちがした。

アーサーが蛇に襲われた事を報告した時にわずかな時間視線を彼と交わした──その時はなぜかダンブルドアに対して強い憎しみと衝動が自分を襲ったが、今はそんな気持ちが全く浮かんでこない。

 

 

「僕が、今ここにいるのは3人のおかげです。ロンは僕を励ましてくれ、ハーマイオニーは閉心術の大切さを訴え、ソフィアは違和感に気づいてくれました。1人でも欠けていれば冷静に対処できずに、きっと僕は──神秘部に向かっていて、最悪なことになっていたと思います」

「ふむ」

 

 

キラキラとした青い目でハリーを見つめ話を聞いたダンブルドアは納得するように──嬉しそうに頷き、「勿論、そうするべきじゃ。さあ、3人とももしよければわしに時間をくれるかね?」と聞いた。

 

すぐにソフィアとロンとハーマイオニーは立ち上がり、「勿論です」と熱を込めた声で答える。

ダンブルドアとの会話を盗み聞きしていた周りの生徒はヒソヒソと囁きあっていたが、ハリー達は少しも気にする事なくゆっくりと大広間の扉へと向かうダンブルドアの後ろをついていった。

 

 

 

校長室にある歴代校長の肖像画達は肘掛け椅子の背や額縁に頭を預けすやすやと眠っていた。

夜でもないこんな時間に寝ているのは、おそらくダンブルドアが何か魔法をかけているのだろうとソフィアは思った。

 

繊細な銀細工の道具が幾つか並んでいる机に、フォークスの止まり木、静かな美しい部屋をソフィア達は見渡しつつ、促されるままにダンブルドアが出現させたソファに座った。

 

ダンブルドアはソフィア達の前に紅色の上品な肘掛け椅子を出すとそこにゆっくりと腰掛け、やや緊張した面持ちの4人を見た。

 

 

「さて、──昨夜何があったのか、それを説明せねばならんの。──ああ、先に言うておこう、昨夜の事件で騎士団員に大きな損傷を負った者はおらん。トンクスは聖マンゴに入院する事となったが数日もすれば問題なく退院できるじゃろうて。勿論、シリウスも無事じゃ」

 

 

ハリーはそれを聞いた途端肩に篭っていた力を抜き、心からの安堵のため息を吐いた。ハリーだけではなく、ソフィア達も嬉しそうに視線を合わせ頷き合う。

 

 

「昨夜、セブルスからわしと騎士団に連絡が行き、直ちにシリウスの安否を確認した上でどうするか対策を練った。ハリー、君が見ていたのは予想通りまやかしであり、神秘部へ誘い出すための罠だったのじゃ」

「何故、僕が…?」

「それはの、ヴォルデモートが何よりも望んでいたもの──予言の玉を手に入れるためじゃ。あれは予言に関わるものしか取る事が出来ぬ。何度も見たであろうが、あの白い球は過去の予言が込められておる。──そう、ハリー、君に関する予言じゃった」

 

 

「その予言は、あの時の乱闘で木っ端微塵に砕けてしもうたがのう」とダンブルドアは続け白い髭を撫でる。

あの白い玉は不思議な魔法が何かが封印されている途轍もない強力な武器なのだと思っていたハリー達は想像もしていなかった言葉に怪訝そうに眉を寄せた。

過去の予言、そんなものを何故ヴォルデモートは欲しがったのだろうか。

 

 

「その予言は…僕だけではなく、ヴォルデモートにも、関係する予言だったのでしょうか?」

「そうじゃ。その予言は──ハリー、君が生まれる少し前に告げられた本物の予言じゃった。あやつは予言の全貌は知らなかったが、予言がなされたことは知っていた。ヴォルデモートは赤子のうちにハリーを殺そうと謀った。そうする事で予言が全うされると信じたのじゃ。──しかしそれが誤算であったことをあやつは身をもって知る事となった。ハリーを殺そうとした時の呪いが跳ね返ったからじゃ。

そこで、自らの肉体に復活した時、そしてとくに昨年ハリーがあやつから驚くべき生還を果たして以来、あやつはその予言を全部聞こうと決意したのじゃ。復活以来、あやつが執拗に求めた武器というのは、どのようにしてハリーを滅ぼすかという知識なのじゃ」

「そうだったんですね……でも、予言は砕けてしまったんですよね?なら、その予言を知るものはもういなくなったという事ですか?」

?」

 

 

乱闘があり木っ端微塵に砕けたのなら、もうヴォルデモートはその武器を手に入れることが不可能になったというわけだ。どんな予言だったのだろうか。──そう、ソフィアは思ったが、ダンブルドアはゆっくり首を振った。

 

 

「砕けた予言は神秘部に保管してある予言の記録に過ぎない。予言はある人物に向けてなされたのじゃ。そして、その人物は予言を完全に思い出す術を持っている」

「誰なんですか?」

「わしじゃ」

 

 

ロンのおずおずとした問いかけにダンブルドアはあっさりと答える。

成程、確かにダンブルドアがその予言を聞いているのなら憂いの篩を使っていつでも正確な予言を反芻することが出来る。──だから、不死鳥の騎士団員達はその予言を隠す事も独占する事もなかったのか。ある意味、あの予言は騎士団にとっても目的の人物を誘き寄せる餌だったのだ。

 

 

「あの──でも、何故死喰い人はシリウスを拷問する場面を見せる事が出来たのですか?ハリーとシリウスの関係なんて……ハリーがシリウスを大切に思っている事なんて、知らなかったはずなのに……」

「おお、それはのう。悲しきことに、クリーチャーが少し前から二君に仕えておったからじゃ」

 

 

ダンブルドアはハーマイオニーの疑問に答え──ハーマイオニーはクリーチャーという言葉にハッと息を呑んだ──憂いを帯びた顔でクリーチャーはクリスマス休暇前にシリウスが「出て行け」と言った言葉を聞き、自分が尊敬できるブラック家につながりがあるルシウス・マルフォイの家へと向かった事を伝えた。

クリーチャーは秘密の守人ではないが、ハウスエルフとして呪縛されているため騎士団の情報を一つも伝える事が出来ず、完全に裏切る事も出来なかった。

どれだけシリウスの事を嫌悪し憎悪していても、主人を裏切る事は出来ない。──しかし、クリーチャーはシリウスが取るに足らない事だと他言を禁じられていなかったいくつかの事実を、許されることを全てナルシッサに伝えたのだ。

 

 

それはシリウスがこの世で最も1番大切に思っているのはハリーであり、ハリーもまたシリウスを兄や父のように大切に思っているという事実だった。

 

 

それは些細な事実だった。

しかし、ヴォルデモートはシリウスが捕らえられ拷問されていればきっとハリーは助けに来る、そう考えたのだ。

そして数ヶ月に及ぶ計画が始動したのだ。──その情報をヴォルデモートに伝えた、ルシウス・マルフォイが主となって。

 

 

「あの日、すぐにシリウスがクリーチャーを詰問し、クリーチャーはその呪縛ゆえ逆らう事が出来ず、クリスマス休暇から自分が何をしたのかを、何を言ったのかを全て包隠す事なく話したのじゃ。

その時本部にはアラスター・ムーディ、ニンファドーラ・トンクス、キングズリー・シャックルボルト、リーマス・ルーピン、そしてシリウス・ブラックが居た。後に合流したわしと共に──シリウスはクリーチャーを見張らねばならぬから本部で待機していたのじゃが──来る事のないハリーを待ち侘びている死喰い人が待つ神秘部へと向かったのじゃ。わしたちは戦い、何名かが負傷したが多くの死喰い人を捕らえることが出来た。──残念ながら、ヴォルデモートを捕まえる事は出来んかったがのう」

「ああ──なんて事なの…」

 

 

ハーマイオニーはクリーチャーが行った事に恐怖し、震える声で呟く。ハーマイオニーだけは今までハウスエルフの待遇改善を訴え、クリーチャーにも優しくしていた。勿論その善意をクリーチャーは歯牙にも掛けず、むしろ心から拒絶していたが。

 

 

「やっぱり、アイツはやばいって思ってたんだ!きっとまた目を盗んで裏切るぜ?」

「そんな事言わないでよロン!だって、クリーチャーは──酷い扱いを受けていたでしょう?不服だったんだわ!」

 

 

ロンの言葉にハーマイオニーは噛み付くように叫んだが、ロンの言葉は尤もだとハリーも思いハーマイオニーをじとりとした目で睨む。

 

 

「クリーチャーは、哀れな生き物なんじゃよ。彼の咎は咎として。わしは散々シリウスにクリーチャーを尊重し親切にせねばなるまいと警告したのじゃ。何故なら、クリーチャーは我々にとって危険なものになるやもしれん、と──しかし、シリウスはおそらく、クリーチャーが人間と同じように鋭い感情を持つ生き物だと思えず、疎かにしていたのじゃろう。流石にシリウスも、クリーチャーがナルシッサ・マルフォイの元へ行くとは思わず少々自分の振る舞いに思うところがあったようじゃが」

「ダンブルドア先生、クリーチャーはまさか剥製にされるんですか?」

 

 

ハーマイオニーは心配そうに聞いた。クリーチャーは役に立っているかどうかと言われると──全く役に立っていない。

職務は放棄し掃除や食事の準備も行わない。さらにナルシッサの元へと向かった事実により、これからもこちらに害がある可能性を秘めているとわかった今、クリーチャーを野放しにする事はないだろうと予想していた。

 

 

「剥製にはならんよ。じゃが──考えなければならない事は多くあるじゃろう」

「そう、ですか…」

 

 

ハーマイオニーもクリーチャーの危険性は理解しているため、それ以上何も言う事は無かった。

 

 

「──ハリー。わしは君に謝らねばならぬ事がある」

「えっ?」

 

 

クリーチャーがあの汚らしい巣穴に閉じ込められている様子を想像していたハリーはいきなりの言葉に目をぱちぱちと瞬き、何のことかわからず狼狽えた。

ダンブルドアはハリーの目を見つめ、少し唇を舌先で舐めて濡らすとゆっくりと口を開いた。

 

 

「何故、わしが閉心術を教えないのか。何故頑なに目を合わせようとしないのか。何故何も説明しないのか──不信感を持った事じゃろう。すまなかった」

「あ──いえ、大丈夫です」

 

 

ハリーはこの1年間ほぼ不満に思っていた事が当てられてしまい、何だか気まずさと居心地の悪さから落ち着きなく足の上で指を擦り合わせた。

そうだ、たしかに自分はその事をずっと気にしていた。今年は例年以上に説明も無く、目も合わず、心がちくちくと痛んでいたのだ。たしかにダンブルドアが言うように不信感が無いわけでは、なかった。

 

このタイミングで謝罪をするということは何か理由があったのだろう。それに──今、ダンブルドアは僕の目をしっかりと見て誠実さを見せてくれている。

 

 

「その──理由をお聞きしても…?」

「勿論だとも。──15年前、きみの額の傷痕を見たとき、わしはそれが何を意味するのか推測した。それが、きみとヴォルデモートとの間に結ばれた絆の印ではないかと推量し、そしてその考えは正しかった。ヴォルデモートがきみの近くにいるとき、または強い感情に駆られるときに傷痕がきみに警告を発する事が明らかになった。

そしてきみの能力が──ヴォルデモートの存在を、たとえどんな姿に身をやつしていても検知でき、その感情が高まるとその感情がどんな感情なのかを知る能力が、ヴォルデモートが肉体と全能力を取り戻したときから、ますます顕著になったのじゃ」

「はい、そうです……」

「ごく最近、ヴォルデモートがきみとの間に存在する絆に気づいたのではないかと、わしは心配になった。懸念した通り、きみがあやつの心と頭にあまりにも深く入り込んでしまいあやつがきみの存在に気づく時が来た。ウィーズリー氏が襲われたのをきみが目撃した晩のことじゃ。

わしは──時ならずして、ヴォルデモートがきみの心に入り込み、考えを操作したり捻じ曲げたりするだろうと思った。あやつがわしときみの関係が、ただの生徒と校長という以上に近いと知れば、きっとわしをスパイする手段としてきみを使う──それを恐れ、関わる事を控えたのじゃ。

わしを破滅させるのではなく、きみを破滅させる、そのために取り憑こうとするじゃろうと思ったわしの考えは──昨夜の事を考えると充分にあり得る事じゃったのは言うまでもない。ヴォルデモートに取り憑かれ、きみ自身の破滅を防ぐために、わしはきみからわしを遠ざけ護ろうとしたのじゃ。そして──スネイプ先生との閉心術を手配した」

「そうだったんですね…」

 

 

たしかに、アーサーが襲われた日の夜、ダンブルドアと目を合わせた時、眠っていた衝動が立ち上がり攻撃せんばかりになっていた。もし、何度かダンブルドアと目を合わせる事があったなら、自分は杖を出すか掴みかかっていただろう。

 

 

「スネイプ先生はハリー、きみが何度も神秘部の扉を夢に見ている事をわしに伝えてくれた。ヴォルデモートが何かを企んでいることは明確であり、すぐさま心を防御せねばならぬと考えておった。──最終的に、きみは閉心術を習得することはなかったが、しかしヴォルデモートの企みに気づく事が出来た。もし、気付かず誘われるままに神秘部に向かっておったなら──考えたくはないがきみの想像通り最悪な事態が訪れていたじゃろう」

「ソフィアが……何度もヴォルデモート本人が神秘部に向かう夢を見るのはおかしいって、きっと罠でいつか誘い出すだろうって伝えてくれたんです。だから、冷静になれました」

 

 

ハリーはソフィアを尊敬と愛情のこもった目で見つめた。気が付かなければ、本当に誘われるがままに魔法省の神秘部へ向かっていただろう。行き道は知っているのだ、迷う事なく一直線に敵の懐に入り込んでいただろう。

ソフィアは少し照れたように笑うと謙遜し首を振った。

 

 

「それにスネイプ先生が両面鏡のことを──かなり回りくどかったですけど──伝えてくれて、シリウスと話せたから……」

「ふむ。そうじゃの。スネイプ先生はソフィアの記憶を見て何かを受け取っていたことを知っておったようじゃからな」

「その──正直、驚いています。僕のこと嫌っていると思ってたので……」

 

 

小声でもごもごと呟くハリーにダンブルドアは半月メガネの奥の目をキラリと光らせ、ぐるりとソフィアたちを見た。

 

 

「スネイプ先生は、何度もきみたちの窮地を助けているのじゃが──」

「えっ!?そんな──」

「──アンブリッジ先生がハリーに無理矢理シリウスの居場所を吐かせようとした時に偽の真実薬を渡した。──そして、ソフィアへの開心術を通し、当時違法だった軍団がハリーを筆頭に組織されていることを知りながら黙認した。確かにスネイプ先生がハリーの父、ジェームズに対する感情を克服しておるとは言えんじゃろう。それでも、スネイプ先生は何度もきみたちの危機を救っていたのじゃよ」

 

 

ロンはまだ信じられないのか嫌そうな顔をしていたが、ハリーは動揺することなくその事を受け入れた。──おそらくスネイプは僕を心から護るつもりはないのだろう、けれど、生徒を護る教師として、最低限の安全は確保してくれていたのだ。

 

 

「そして、ハリー。きみはわしが思う以上に、勇敢であり、そして思慮深く冷静であった。愛を知り、その尊さの意味を深く理解し、護る強い意志を持った一人前の魔法使いになりつつある。今まで言えなかった──5年前に話すべきだったことをきみに話すときが、ついに来たのじゃろう」

 

 

ダンブルドアは深く肘掛け椅子に座ったまま、ぽつぽつと話し出した。それは5年前、本当ならハリーが魔法界に足を踏み入れたときに伝えなければならないことだった。

何故、ハリーは自分を虐げるマグルの家で育てられなければならなかったのか──その事を、数少ない人しか知らぬ真実を、いまダンブルドアはハリーたちに伝えた。

 

 

「わしはヴォルデモートが存命中の魔法使いの誰をも凌ぐ広範な魔法の知識を持っていると知っておった。わしがどのように複雑で強力な呪文で守ったとしても、あやつが全ての力を取り戻した時には破られてしまうじゃろうと解っていた。

しかし、わしはヴォルデモートの弱みも知っておった。そこでわしは決断したのじゃ。きみを護るのは古くからの魔法であろうと──」

 

 

リリー(母親)がハリーを護るために死んだ。

その強力な守護魔法はヴォルデモートを退けても持続的なものとして残り、ハリーを護っていた。そして、ダンブルドアはその護りをさらに確固たるものにするために魔法をかけたのだ。

 

 

「──今日まで、きみに流れる血の護りじゃ。それ故わしは、きみの母上の血を信頼した。わしは──わしは、きみの母上の血縁である姉御のところへ、君を届けたのじゃ」

「でも…おばさんは僕を愛してもないし、護ってくれてなんか──」

「しかし、おばさんはきみを引き取った。やむなくそうしたのかもしれんし、いやいやだったのかもしれん。しかし、引き取ったのじゃ。そうする事で、おばさんはわしがきみにかけた呪文を確固たるものにした。きみの母上の犠牲のおかげで、わしは血の絆をもっとも強い盾としてきみに与える事が出来たのじゃ。──きみが母上の血縁の住むところを自分の家と呼べる限り、ヴォルデモートはそこできみに手を出す事も傷つけることも出来ぬ」

「え──じゃあ、もしかして、おばさんじゃなくてソフィアでも……?」

「その通りじゃ」

 

 

ハリーはぱっと表情を明るくさせてソフィアを見た。母親の血縁がいる場所、そこにいる限り安全であるならばあんな嫌な人たち──15年間置いていてくれたとしてもだ──が暮らしている家よりも、ソフィアと共にいる方がいいに決まっている。

しかし、ソフィアは少し慌てたように視線を泳がせた。

 

 

「ハリー。勿論わしは15年前ソフィアとルイスの保護者にそれを頼もうとした。マグルの世界で生きるよりは、魔法界で生きた方がハリーのためになるかもしれぬ、そう思った。──しかし、きみが生き残った日は、ソフィアとルイスの母親と兄が亡くなった日でもあった。今にも崩れ壊れそうな人間に──それを頼むことは出来なかったのじゃ」

「でも──例えば、その、次の夏休み中は…?」

「ハリー、きみはソフィアの家を自分の家だと思えるか?ただの楽しいお泊まりではなく、自分が暮らしている家だと思えなければ、その護りは効かぬのじゃ」

 

 

真剣なダンブルドアの言葉に、暫くハリーは黙っていたが心から残念そうに「それは、無理です」と呟いた。

どう考えても──嫌なことだが──15年間暮らしていたあのダーズリー家が、自分の家だと思っている。今夏休みにソフィアの暮らしている家へ行ったとしても、きっとただの長期間のお泊まりとしか思えないだろう──前回の夏休みに不死鳥の騎士団本部で寝泊まりした時のように。

 

 

「──わしがかけた魔法はそれだけではない。わしは、ソフィアとルイスに対しても15年前、魔法をかけたのじゃ」

「わ、私に……?」

「そうじゃ。血の近い者への守護を増幅させる魔法じゃ。これはハリーだけが対象ではなく、2人の血を元にしたすべての血縁者に関係する。故に、ハリーがホグワーツで2人と出会いさえすえば、その守護をさらに強固にする。きみたちの保護者は、その魔法をかける許可を与えてくれた」

 

 

その保護者が誰を指しているのかわかっているソフィアは真剣な顔をして頷いた。

あの日、アリッサとリュカが死んだ日──それとも数日経っていたのか──ダンブルドアからハリーを護るためだけの魔法だったならば、セブルス()は許さなかっただろう。ソフィアとルイスが相互的に護り護られる。そんな魔法だったからこそ、セブルスは苦渋の思いだったかもしれないが、許可したのだ。

 

 

「わしは、きみがわしの前に現れ目を輝かせながらホグワーツの大広間に現れた時──わしが望んでいたような丸々とした子ではなかったが──それでも健康で、生きていた事が何より嬉しかった。ちやほやされる王子様ではなく、あのような状況でわしが望む限りの、まともな男の子だった。そして……覚えておると思うが、一年生の時に事件が起こり、まだ11歳の子どもが見事受けて立った。わしは誇らしかった、口では言えないほど、わしは誇らしかったのじゃ。その時に言うべきだったじゃろうか?いや、まだ11歳で幼い、今ではない──そう思い、わしは口を噤んだ。そして、12歳のとき、再びきみは満身創痍になり沢山の血を浴びながらも過去のヴォルデモートに打ち勝った」

 

 

ハリーはダンブルドアが何を言いたいのか分からず、困惑したまま曖昧に頷いた。

ダンブルドアはハリーの困惑を知っていたが言葉を続け、3年目にシリウスを救い出し真実を見つけた事、そして去年にはヴォルデモート本人と対峙し見事生き残った事を伝えた。

 

 

「わしは、ヴォルデモートが戻ってきた以上、すぐにでも話さねばならないと知りながらそれを話す事が出来なかった。これ以上、きみの重荷を増やす事が、どうしても出来なかったのじゃ。……何故だか、わかるかな、ハリー?」

「えっ…と……」

「きみを愛していたからじゃ」

 

 

ダンブルドアはさらりと答えた。

愛するが故に、これ以上の困難な目に遭ってほしくなかった。心を痛める負担をかけたくなかった。沢山の試練を乗り越えたがまだ15歳の幼き子どもなのだ、護らなければならないのだと自分に言い聞かせていたのだ。

ハリーはダンブルドアからの告白になんと答えていいかわからなかった。愛故に、黙っている。──たしかに、騎士団にいる大人たちも、自分を愛し心配しているからこそ、何も話さなかったのだろう。もし、自分が何か秘密を知ってしまい、それが愛するソフィアの重荷になる事を知っていれば、自分も黙って一人で何とかしようと思ったかもしれない。

 

 

「しかし、ハリー。きみは友人に恵まれ、恋人──ソフィアと愛を育み一人前の魔法使いとして心を成長させた。大切な者がいる強さ、そして弱さを──しっかりと理解しておるじゃろう。わしは、先程ハリーの目を見てついに今まで秘密にしていた事を告げる時が来たのだと確信したのじゃ。

──それは、予言に関する全てじゃ」

 

 

ダンブルドアは立ち上がり、ハリーたちのそばを通り過ぎてフォークスの止まり木の脇にある黒い戸棚へと歩いて行った。

屈んで留め金をずらし、中から憂いの篩を取り出すと慎重に運び机の上に置いた。

杖を出し自分のこめかみに当てると、そのままそっと杖を引き抜く。ふわりとした銀色の細い糸に似た物が取り出され、篩の中へと落ちていく。

机の向こうで椅子に寄りかかり、ダンブルドアは自分の想いが渦巻いているのを暫く見ていた。決意がこもった吐息を小さく吐くと、ダンブルドアは杖を上げ杖先で銀色の物質を突いた。

 

中から一つの姿が立ち上がった。ショールを何枚も巻きつけ、眼鏡の奥で拡大された巨大な目を持つその女性にソフィア達は見覚えがあった──若き、トレローニーだ。

 

トレローニーは篩に足を入れたままゆっくりと回転し、いつもの謎めいた声ではなく掠れた荒々しい声で話した。その声は、ハリーが過去一度だけ聞いた事があるものだった。

 

 

「闇の帝王を打ち破る力を持った者が近づいている……7つ目の月が死ぬとき、帝王に3度抗った者達に生まれる……そして闇の帝王は、その者を自分に比肩する者として印を残すであろう。しかし、彼は闇の帝王の知らぬ力を持つであろう……。一方が他方の手にかかって死なねばならぬ。なんとなれば、一方が生きる限り、他方は生きられぬ……闇の帝王を打ち破る力を持った者が、7つ目の月が死ぬときに生まれるであろう……」

 

 

ゆっくりと回転するトレローニーは、再び足元の銀色の物質に沈み、消えた。

重い沈黙が落ち、ダンブルドアも、ハリーも、ソフィア達も何も話す事が出来なかった。

 

 

「ダンブルドア先生?…この意味は……どういう意味ですか?」

 

 

 

ハリーはそっとダンブルドアに呼びかけた。

ダンブルドアは篩を見下ろし、深く想いに耽っているように見えたがふと顔をあげると、真剣な目でハリーを見つめた。

 

 

「この意味は、ヴォルデモート卿を永遠に克服する唯一の可能性を持った人物が、ほぼ16年前の7月の末に生まれたということじゃ。この男の子は、ヴォルデモートに3度抗った両親の元に生まれてくるはずじゃ」

「つまり──それが、ハリーだったんですね」

 

 

ソフィアの静かな言葉に、ハリーはずしりと胸の奥が重くなってくるのを感じた。

自分が──両親が狙われ殺されたのは偶然なんかではない、決められた事だったのだ。

しかしダンブルドアは深く息を吸うと不思議な感情を含む眼差しでゆっくりとソフィアを見て、そしてハリーに視線を移した。

 

 

「奇妙なことじゃが、ハリー。きみのことでは無かったかもしれんのじゃ。シビルの予言は、魔法界の2人の男の子に当てはまりうるものだった。2人とも7月の末に生まれた。2人とも、両親が不死鳥の騎士団に属していた。どちらの両親も辛くも3度、ヴォルデモートから逃れた。1人は勿論きみじゃ。もう1人は、ネビル・ロングボトム」

「ネビルが?」

 

 

ロンが思わず呟き、すぐに口を押さえて黙り込む。ダンブルドアはロンを見ることなくハリーの目を見つめ続けた。

 

 

「でも、それじゃ僕じゃないかもしれない…?」

「残念ながら、それがきみである事は疑いがないのじゃ」

「でも、先生は──ネビルも、その対象だと──」

「きみは予言の次の部分を忘れておる。ヴォルデモートを打ち破るであろうその男の子を見分ける最後の特徴を……。ヴォルデモート自身が、その者を自分に比肩する者として印すであろう。──そして、ヴォルデモートはそのとおりにした。あやつはきみを選んだ。ネビルではない、あやつはきみに傷を与えた。その傷は祝福でもあり、呪いでもあった」

「でも、間違って選んだかもしれない。──そうでしょう?」

「ヴォルデモートは自分にとって最も危険な存在になりうると思った男の子を選んだのじゃ。それに、ハリー、気づいておるかね?あやつが選んだのは純血ではなかった。あやつの信条からすれば、純血のみに魔法使いとして存在する価値があり認知するのじゃが。そうではなく、自分と同じ混血をえらんだ。

あやつはきみを見る前から、きみの中に自分自身を見ておったのじゃ。そしてきみにその印の傷をつけることで、きみを殺そうとしたあやつの意図に違いきみに力と、そして未来を与えたのじゃ。

そのおかげで、きみは一度ならず、これまで四度もあやつの手を逃れた──それはきみの両親も、ネビルの両親も成し遂げられなかったことじゃ」

「それじゃどうして、あいつは──そうか、予言の全てを、知らなかったから……」

 

 

ハリーはカラカラに乾いた喉を震わせ掠れ声で囁く。隣でハーマイオニーが息を飲み肩を震わせていたが、ハリーにはそれ気遣う余裕はなかった。

 

 

「そうじゃ。予言がなされた場所はホッグズ・ヘッドであり、盗み聞きしていた奴は予言が始まったばかりの時に追い出された。あやつが知ったのは予言の最初の部分──ヴォルデモートに3度抗った者の元に、7月に男の子が生まれるという件だけじゃった。盗聴した男はきみを襲う事がきみに力を移しヴォルデモートに比肩する者としての印を残してしまうのだという事を警告する事が出来なかった。あやつは、きみがヴォルデモートの知らぬ力を持つであろうことも、知らなかったのじゃ」

「だけど、僕──そんな力──」

「ハリー、きみは持っておる。亡き母上から、友人から、恋人から──それは、神秘部でも長年研究されている、死よりも不可思議で、同時に恐ろしい力。人の叡智よりも、自然よりも素晴らしく神秘的な力なのじゃ」

 

 

ハリーはダンブルドアが何を言いたいのかがわかった。ヴォルデモートが蔑ろにしていたその力。──しかし、わかったところでそれは自分のみが持つ力ではなく、誰もが持っているのではないか、と思ったがダンブルドアの目の力強さに言いたい事を飲み込んだ。

 

 

「ダンブルドア先生、つまり……最後には、2人のうちどちらかが、もう1人を殺さねばならない、ということですよね…?つまり──ハリーが、あの人を……」

「そうじゃ」

 

 

ソフィアの言葉にダンブルドアは静かに頷く。

予想もしていなかった予言の内容に、その、重さに誰も何も言えなかった。

 

 

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