何名かの心に変化をもたらした数日が過ぎ、学年度末のパーティが行われる日がやってきた。
翌日から2ヶ月間の夏休みが始まり、ハリーはまたダーズリー家で過ごさねばならない。
かなり気が重かったが、そうしなければならない重要性も理解している。それに、昨日──ようやく──シリウスと両面鏡で短い時間だったが話すことができ、1ヶ月経った後なんとか迎えに行くから。と言われその約束を支えになんとか過ごせる気がした。
それに、ソフィアと遊園地でのデートの約束もある。悪いことばかりではないな、とハリーはスリザリンカラーで彩られている大広間を見回しながらそう思った。
残念ながら今年の寮杯を獲得したのはスリザリンだったが、まぁそれでもこの幸福感と世界がヴォルデモートを認めた吉報に比べれば些細なことだろう。
ハリーはドラコが間違いなく毎日のように呪いをかけようとするだろうと思ったが、奇妙な程に彼は大人しくただすれ違う時に睨むだけだった。
ホグワーツ特急に乗車し、いつもの4人とジニーとネビルの6人で空いていたコンパートメントに入る。ハーマイオニーは日刊預言者新聞を難しい顔をしながら読み、ハリーは大鍋ケーキとかぼちゃパイを山ほど購入し、ソフィアは蛙チョコを人数分購入した。ジニーはザ・クィブラーのクイズに興じ、ネビルはミンビュラス・ミンブルトニアを摩っていた。一年でかなり大きくなったこの植物は、ネビルが撫でると美しい声で歌うような奇妙な鳴き声を出すまでに成長していた。
ハリーとロンとソフィアは列車での旅のほとんどをハーマイオニーが読み上げる記事の抜粋をBGMに魔法チェスをして過ごした。いつまで経ってもロンのチェスの腕は衰えず、むしろ強さを増していてソフィアとハリーは一度たりとも勝つことが出来なかった。
キングズ・クロス駅が近づき列車が速度を落とすと、ハリーは早くシリウスと会いたくなった。これから1ヶ月はダーズリー家に缶詰にならなければならない。それまでに一眼でも、ほんの僅かな時間でもシリウスと話したかったが暫く我慢する必要があるだろう。
最近は常にポケットに忍ばせている両面鏡だけは、何としてでもダーズリー家の3人から死守しなければならない、そう両面鏡を服の上から撫でながら思った。
大きな荷物を荷台から下ろし、車掌に合図されて9番線と10番線の間にある魔法の壁を通り抜ける。通り抜けた先でソフィア達は驚きその場に止まってしまい、後ろから来た生徒のカートで体をぶつけてしまった。
「ど、どうしたの?」
ハリーは痛む腰を撫でながら呆然と呟き目の前にいる人たちを見回した。
待ち受けていたのはダーズリー一家ではなかった。ムーディーが魔法の目を隠すために山高帽を目深に被り長い旅行用マントを羽織り不気味な雰囲気で立っていた。すぐ後ろにいるのは継ぎはぎだらけのジーンズに妖女シスターズの派手な紫色のシャツを着たトンクスであり、明るいピンク色の髪をガラス窓から差し込む光で輝かせている。
その隣には見窄らしいセーターとズボンを覆うような長いコートを着たリーマスが柔和な微笑みを浮かべている。集団の先頭には手持ちのマグルの服の中の一張羅を着込んだアーサーとモリーがいて、隣にはケバケバしい緑の鱗状の生地でできた新品のジャケットを着たフレッドとジョージ。ただ1人だけまともな白いシャツに黒いズボンを履いているジャック。そして──。
「──っ!」
尻尾をちぎれんばかりに振った大きく、真っ白な犬がいた。
ハリーは喜びのあまり「シリウス!」と、そう叫ぼうとして慌てて口を押さえながら自分を見上げる白い犬を感極まる目で見下ろした。
「パッドフット、だよね?」
「ああ、そうさ。どうしてもきみを迎えに来たいって聞かなかったからね。ダンブルドアに魔法をかけてもらって──少しの時間だけど白くなってもらったんだ」
「最高!」
アーサーとモリーがロンとジニーに駆け寄り熱い抱擁を交わす中、ハリーは自分の肩に前足を乗せるシリウスのふわふわとした毛並みが頬を撫で、くすぐったさから身を捩り笑っていた。
「ハリー。──本当に良くやった。きみの判断で良い方向に向かったのは間違いない。名付け親として、誇りに思う。──と言うのが言付けだよ」
リーマスは人の言葉が話せないシリウスの代わりにハリーに優しく告げ、シリウスは大きく頷き──犬にしては奇妙な動作だったが──「わん!」と大きく吠えた。
「それで、みんなどうしたの?まさかみんな来てるなんて思わなかった!」
「それはね、きみのおじさん、おばさんが君を家に連れて帰る前に、少し話をしようと思ってね」
「あんまりいい考えじゃないと思うけど」
リーマスは微笑んでいたが、ハリーは笑うことが出来ず即座に小声で言った。彼らと話をするだなんて、間違いなく嫌な気持ちになるだろう。
ハリーは心配していたが少しも気にすることなくリーマス達は離れたところにいるダーズリー一家へと近づく。ソフィアは後ろからペチュニアを見て、あの人が母様のお姉さんなのね、と思ったが声をかけることは無かった。
「ソフィア。ルイスはもう向こうで待ってるぜ」
「そうみたいね」
小声で話しかけたジャックと同じようにソフィアは小声で答え、離れた壁に背を預けカートの上に乗る鳥籠に収まるシェイドを撫でているルイスを見た。今年も、彼はこの集団の中に入ることは出来ないのだろう。
リーマス達がバーノンとペチュニアにもしハリーを虐めたらすぐに感知できる事や、三日間ハリーから便りがなければすぐに向かう事──シリウスはずっと威嚇するように唸っていた──など、散々脅した後でハリーと別れを告げる。
「ソフィア、すぐに手紙を送るからね」
「ええ、待ってるわ!──遊園地、楽しみね」
「うん!」
ハリーはみんなの前だったが気にすることなくソフィアを抱きしめ──トンクスがぴゅうと口笛を吹いた──頬にキスを送る。ソフィアも優しく抱きしめ返すと、背伸びをしてハリーの頬にキスをし、微笑んだ。
「本当は離れたくないけど──またね」
「また会いましょう」
ハリーは幸せな気持ちでみんなと別れを言い、ダーズリー一家を置いて太陽の輝く道へと先立って駅の出口に向かう。
ペチュニアが驚愕の目でソフィアを見つめ、一瞬動きを止めたがバーノンに急かされ慌ててハリーの後を追う。
「──さよなら、おば様」
ソフィアはペチュニアが振り返った時に唇だけを動かし声無く言う。ペチュニアは大きく目を見開き、何かに耐えるように唇を噛むと少し俯きながら走り去った。
「…さ、行こうか」
「そうね」
ジャックはソフィアの荷物を持ち、ルイスが待つ場所へ向かう。壁に背をつけていたルイスは2人の到着に少しだけ悲しげに微笑んだ。
──不死鳥の騎士団 終
不死鳥の騎士団終了しました。
いつも誤字報告、コメントありがとうございます!
書く気力になります、嬉しいです!